魔都精兵と狐面(二代目)   作:北斗七星

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 感想の返信は基本的に次話投稿した時にしようと思ってます


 話が、話が進まない・・・・・・!


新生活R(六番組):お仕事

「えぇ~、いきなりな話になるが浮野が高校(うち)を中退して就職することになった」

 

 放課後SHR、担任が唐突に落とした爆弾に教室内が一瞬鎮まり、蜂の巣をつついたように騒然となる。

 

「昨日、説明があってな。先方の強い要望ですぐに、それこそ明日からでもウチで働いて欲しいと……俺としては卒業まで待ってもらったほうがいいんじゃないかと思うんだが、向こうの熱量が凄いのなんのって」

 

 俺どころか校長まで言い包められちまった、と頭をバリバリと掻く。余りに急な話に皆がざわつく中、渦中の人間であるはずの詠龍は澄ました顔をしていた。

 

「まぁ、弱みを握られて無理矢理働かせられる訳じゃないみたいだし、何より浮野本人も納得済みの話だ。外野はごちゃごちゃ言わないで、少しばかり早く社会の荒波に揉まれることになる友人を見送ってやるとしよう。浮野、お前から何かあるか?」

 

 向けられるクラスメイト達の視線。教室内全員の注目を独り占めしながら詠龍はゆっくりと立ち上がる。そしていつの間に用意していたのか、ごついサングラスをかけて一言。

 

「I`ll be back」

 

「いや、戻って来ちゃ駄目だろ」

 

 ご尤もで。

 

 

 

 

 昇降口へと向かう詠龍を三人の男子が追いかけてきた。友人の兵頭、松多、本浜だ。

 

「詠龍、マジでやめちまうのか?」

 

「ん、あぁ。伊達や酔狂で高校中退なんかしないよ」

 

 足を止め、三人を振り返る。それぞれ本気で詠龍のことを心配してくれているのが分かる表情をしていた。嬉しいような恥ずかしいような感覚に思わず鼻の頭を掻く。

 

「いや、幾ら何でも急すぎるだろ。高校卒業まで待ってもらえなかったのか? 二年生に上がったばっかなのに」

 

「言いにくいけどさ、このご時世に高校中退の中卒が最終学歴、それも男がって色々きつすぎないか」

 

「まぁ、何とかなるだろ。一応、高卒認定はとってあるし」

 

「「「何でそんなもんとってんだよ?」」」

 

 驚く友人達にどう説明したものか。頬をかきかき、四人で昇降口に向かう道すがら詠龍は訳を話した。

 

「そもそもの理由は現保護者との関係にあってな……オブラートに包まないで言うと俺達の仲って最悪も最悪でさ。何せ、弱み握って学費出させてっから」

 

 余りにも衝撃的な語り出しに三人は絶句する。それが当然の反応だよな、と乾いた笑みを浮かべて詠龍は続けた。

 

「魔都災害で家族が行方不明になったのは話してるよな? その後色々あって現保護者に引き取られた訳だが、扱いは酷くて酷くて。今考えれば児相なりに連絡すれば良かったと思わないでもないが、それはいいや」

 

 劣悪な環境から脱するべく現保護者の弱みを掴んで脅し、真っ当な生活を送れるように交渉。ついでに今までのお返しとばかりに高校までの学費を出させることにした。

 

「ただ、向こうがばらすなり何なり好きにしろとか開き直って学費止められたら高校生活終わりだろ? そうなった時のこと考えて高卒認定とった、って感じよ」

 

「何て言えばいいんだろう、苦労してるな、お前」

 

 そんなこんな話している内に四人は昇降口を通って校門前まで移動していた。

 

「ってか、その就職先って大丈夫なのか? 現役高校生を中退させてまで働かせようとしてるとか碌な所じゃないと思うぞ」

 

 天涯孤独の少年を高校という社会的枠組みから切り離し労働に就かせようとする。これだけ見ると確かに不信感しか抱けない。詐欺、もしくは何かしらの犯罪に巻き込まれようとしていると考えるのが普通だ。

 

「モーマンタイ。社会的にも有名なちゃんとしたとこだから」

 

「社会的にも有名って、任○堂か? それともソニ○、いやカ○コン?」

 

 何故にゲーム会社限定なのか? 鞄の中をゴソゴソしながら詠龍は簡潔に答えた。

 

「魔防隊」

 

 訪れる沈黙。言葉は無く下校していく生徒たちの声、走る車の音が流れた。

 

「麻婆隊?」

 

「食べ物の方じゃねぇ。ま・ぼ・う・た・い。魔都と醜鬼から人々を守ってくれてる天下の魔防隊よ」

 

 詠龍の返答に三人は胡乱なものを見た表情を浮かべる。それも当然、魔防隊は魔都の桃の力を得た女性のみで構成された戦闘集団。男である詠龍などお呼びでなく、入り込む余地などないはずだ。

 

「お前やっぱ騙されてるって。何で魔防隊が男のお前をスカウトするんだよ? この前ニュースになってた狐ならともかく」

 

「それ俺」

 

「「「はぁ?」」」

 

「だからその狐が俺なんだって」

 

 目的の物、ブーストバックルを取り出す。何言ってるんだお前、と頭の心配をしてくる友人達の前でブーストライカーを呼び出した。閃光と共に現れる朱色のバイクに三人は目を見開く。

 

「え、どっから出てきたこのバイク……ってか、これってあの狐が乗ってたのと同じじゃ」

 

「ってことは……マジでお前があの狐なのか!?」

 

「マジだよ」

 

 割って入ってくる心地良い声。同時に空間が歪み、にょんと一人の女性が詠龍の隣に姿を現す。

 

「天花さん」

 

「や、詠龍君」

 

 互いをファーストネームで呼び合う気さくなやり取り。オマケに女性が浮かべる好意に満ちた微笑み。無関係の第三者でも一目で二人が良好な関係を築いていると察せた。

 

「迎えに来てくれたんですか? そこまでしていただかなくても」

 

「そうはいかないよ、こっちが無理言って中退してもらったんだから。迎えの一つや二つ当然さ(私が早く詠龍君に会いたかっただけだけど)」

 

「そうですか……あ、そういえば先生が凄い熱量で説得されたって言ってましたけどどんなこと話したんです?」

 

「ん~、別にそこまで大したことはしてないよ? (私にとって)詠龍君がどんなに必要な存在かを二、三時間(すこし)(口も挟ませないマシンガントークで)話しただけだし」

 

 人はそれを洗脳と呼ぶ。

 

「ところで詠龍君、こっちの今にも顎が外れそうになっている三人はお友達?」

 

「はい。兵頭、松多、本浜です。お前等、この人は俺の、上司? でいいのか? にあたる人で」

 

「出雲、天花……」

 

「え、何で知ってんだ?」

 

 自身が紹介をするよりも先に兵頭が天花の名を呟いたことに詠龍は目を丸くする。もしかして過去に何かしらの縁が? と天花を見た。目線だけで詠龍の言いたいことを大方察した天花は首を振り、顎に軽く人差し指を当てた。

 

「私って島根県(じもと)のPR動画に出てるし他の子に比べてメディアへの露出が多いからそのお蔭かな? それにSNSもやってるからね」

 

「そうなんですか、全然知らんかった」

 

 SNS等に関心が余り無いためその手の知識が同年代に比べて不足している詠龍。天花さんって有名人なんだなぁ~としみじみと思いながら呟く。

 

「こんだけ綺麗な人ならそりゃPRに出すか」

 

「うふふ、ありがとう♪」

 

 詠龍の何気ない呟きを聞き逃さず天花は上機嫌に微笑む。表には余り出さないが内心はテンション爆上がりだ。

 

 下心なく、本心から天花を綺麗といった詠龍に友人達はまたかこいつと呆れの視線を送っていた。いつもそう、誰に対しても褒め言葉をどストレートに口にする。そのお蔭でクラスの女子達がどれだけ振り回されたか。

 

(魔防隊の人に対してもあんな調子なのか、あいつ?)

 

(そりゃそうだろ。相手が誰でも、言葉使いこそ変えても態度は死んでも変わらない奴だぞ)

 

(その内本当に刺されそうだな……いや、刺されるだけで済むのか? 戦闘のエキスパートである魔防隊相手に)

 

 仮に詠龍が死ぬとしたら、それは痴情の縺れから来るものだというのが三人の共通認識だった。

 

 詠龍が将来的に迎えるだろう命の危機についてはさて置き、兵頭が軽く咳払いしてからおずおずと天花に話しかけた。

 

「あの、すみません。出雲さん」

 

「兵頭君だっけ? 何か聞きたいことがあるのかな?」

 

「はい。貴方が、魔防隊の人が迎えに来たってことは、詠龍の奴が魔防隊で働くって話は本当のことなんですか?」

 

「うん、本当だよ。正確には私からの依頼で一緒に戦ってもらうことになってる。正式に魔防隊に入ってもらう訳ではないから、扱いは外部協力者って形になるけどね」

 

 ごくりと誰かの喉が鳴る音。

 

「魔防隊に入れないのは切り捨て易くするためですか?」

 

 嫌な、ひりついた沈黙が落ちてきた。詠龍は友人の口から出た物騒な言葉に驚き、天花は柔和な表情を鋭いものに変える。

 

 何故そんな質問を? とは聞き返さなかった。このご時世、女と男の力関係は崩壊し天秤は女性側へと大きく傾いている。時と場合によっては理不尽と言わざるを得ないほどに。まして力を持った女性の集まった組織、魔防隊ではその空気がより顕著だろう。そんな中に男一人放り込んだらどうなるか?

 

 襤褸雑巾のようになるまで奴隷扱いされた挙句、最後は昔のやくざ映画よろしく鉄砲玉として使い捨てられる。そんな未来が待っているかもしれない。そうなるようであるならば友人として助けたいと思う。例え、何か出来ることが無いとしても。

 

「まず最初にこれだけは約束する。君が恐れているような事態は私が絶対に起こさせない」

 

 そう出来るだけの力と立場はあると自負しているので天花はきっぱりと言い切った。

 

「確かに魔防隊の全員が詠龍君、狐を共に戦う存在として受け入れようとしている訳じゃ無い」

 

 詠龍と出会った次の日、天花は魔防隊各組長に詠龍、狐と遭遇し対話、その結果自分のところ(六番組)に迎え入れて共闘体制を敷く旨を伝えた。それに対し好意的な反応を見せたのは元々協力関係を結ぶつもりだった総組長と他少数。ほとんどの組長が詠龍に対して否定的、とまではいかないが懐疑的な姿勢を見せていた。

 

 共闘するに足るかどうか、そもそも男が戦いなど出来るのか。命を懸けて戦う彼女達が疑問を抱くのは当然であり、詠龍が認められるためにも解決しなければならないポイントだ。

 

「でも、大丈夫。詠龍君の実力を自分の目で確かめれば皆認めるよ」

 

 はっきりと断言する。天花は確信していた。浮野詠龍、仮面ライダーギーツの活躍を見れば組長達が抱える共闘への疑問など消し飛ぶと。

 

「男ってだけで実力ある者を迫害するほど魔防隊だってバカじゃない。心配しないでも大丈夫。もし仮に、絶対ないと思うけどそんなバカが現れたら私が全力で叩き潰すから」

 

 いや、詠龍君と一緒にやることになるかな、と天花は小さく笑った。

 

 今の返答、加えて先ほど現れた時の詠龍へと向けていた笑顔を思い出す。嘘をついているようには見えない、それに詠龍に対する好意も本物だろう。この人が一緒であれば友人が無碍な扱いをされることも無いはず。そう判断するには十分だった。

 

「詠龍のこと、よろしくお願いします。平気な顔でとんでもない無茶する奴なんで」

 

「勿論、安心して任せて。お早うからお休みまで一瞬一瞬を余さず見守ってるから」

 

 どういう立ち位置で会話しているんだこの二人? 目の前で交わされる保護者と教育者(にしては大分倫理に反することを言っている気もするが)のようなやり取りに詠龍はただただ首を傾げた。

 

「じゃあ、詠龍君。そろそろ行こうか。他の生徒さん達の邪魔になりそうだし」

 

 言われてみれば確かに詠龍達を複数の生徒が遠巻きに眺めて何やら話をしていた。正確には魔防隊隊員である天花を見て興奮している様子(特に女子勢が)。生徒の人だかりは徐々に増えているし、これ以上留まっていたら騒ぎになりかねない。

 

「ですね。兵頭、松多、本浜、またな。諸々落ち着いたら連絡する」

 

 ブーストライカーに出してもらったヘルメットを被ろうとし、

 

「ってか、天花さんがいるんだから一緒に連れてってもらえばいいじゃん。そういう訳でお願いしてもいいですか」

 

 天花を振り返った。彼女の能力『天御鳥命(アメノミトリ)』は空間を操作する。自身や他者を任意の場所にテレポートさせることは勿論、敵を空間ごと捩じり裂いて攻撃することが可能。自分以外の誰かを移動させるには触れてなければならない、能力を攻撃に使う時は手印を結ぶ等と細かな弱点(になっているかは疑問だが)はあるが非常に強力かつ汎用性のある能力だ。

 

 天御鳥命(アメノミトリ)を使えば魔都に行くのもお茶の子さいさいのさいってなものである。が、天花は能力を使ってくれる気配は微塵も無い。何やら物凄く真剣な表情で思案している。かと思えばわざとらしく両手で頭を抱えた。

 

「うわ~、私としたことが今日は能力を使い過ぎちゃってもう移動出来ないな~。これじゃ魔都に戻れないよ~、どうしよう~」

 

 凄く、凄く棒読みだった。百人聞けば百人が絶対嘘だと判断するだろう。しかし、

 

「そうなんですか? じゃあ、俺と一緒に行きましょうか」

 

 あっさりと天花の大根演技を信じる鈍感少年、詠龍。いや、彼自身、何でこんなわざとらしく言うんだ? と内心で疑問を抱いているが、天花さんがこんな嘘つく必要もないし本当のことなんだろ、と勝手に自分を納得させていた。

 

 いやどう見ても嘘だろ、ちょっとは疑え。思わず突っ込もうとする友人三人だったが、

 

「しーっ」

 

 もう一人分のヘルメットを用意している詠龍からは見えない角度で唇に指を当てる天花に押し黙らされた。言葉は無くとも柔らかな相貌が雄弁に語っている。

 

 余計なこと言ったら酷いよ?

 

 命あっての物種、雉も鳴かずば撃たれまい。己の身を優先した三人は何も言わず、口にチャックをした。

 

「はい、天花さんどうぞ……どしたお前等、そんな蛇に睨まれた蛙みたいに固まって?」

 

 蛇なんて可愛いものじゃない、龍だ。とは言わなかった。誰だって命は惜しい。

 

 曖昧な笑みを浮かべる友人`sに首を傾げるも、それ以上は言及せず詠龍はブーストライカーに跨った。その後ろに天花が乗る、というか背中に抱き付く。

 

「……やっぱり詠龍君て見た目よりもずっと逞しいよね。引き締まってる、というか引き絞られてるって感じ」

 

「まぁ日々、鍛えてますから……あの、天花さんくすぐったいです」

 

 一切の遠慮なく詠龍の体を滑りなぞって堪能する十の指先。その動きはもうどうにも止まらない、という歌詞を連想させた。人目が無かったら服の中に突っ込んでるな、と周りにいた誰かが言ったとか言わなかったとか。

 

 流石に公共の場でこれ以上はよろしくないと自制したようで、数秒ほどで天花は詠龍を愉しむのを止めて腰に両腕を回した。伝わる熱が無性に心地良い。ヘルメット越しにも関わらず鼻腔に届く匂い、常人なら感じるはずのない微かなそれが堪らなく香り立つ。

 

「ん……凄いなぁ、これ。癖になりそう」

 

 静かな衣擦れのように囁き、深く長い呼吸に没頭する。詠龍の匂いが肺に満ちるのを感じ、高揚する体が微かに震えた。速く強くなっていく鼓動が熱へと変わっていく。

 

「どうかしました?」

 

「ううん、何でも無い……私も時間停止使えれば良かった」

 

 時よ止まれ、お前は美しい。悪魔に魂を差し出す契約をすることになったとしても、この瞬間を永遠に出来るのならそれもいいかもしれない。

 

(いやよくない、よくない。私の心も体も魂も詠龍君の物だし。ごめんね、悪魔さん)

 

 勝手に契約を持ちかけられ勝手に断られる。哀れなり悪魔。余計なことを考えるのは止め、天花は詠龍とのタンデムを楽しむことにした。ヘルメットの中で頬を薄紅に染めて大きな背中へと体を預ける。永遠は要らないけど少しでも長くこうしていたいというのは彼女の紛れも無い本音だった。

 

「じゃあ、六番組寮まで跳び(ジャンプし)ますね」

 

「ストップ、詠龍君」

 

 至福の時間を秒で終わらせる絶望の言葉へ即座に待ったをかける。そうだった、この子も次元跳躍とかいうとんでも移動手段を持っていたんだ。ブーストライカーのタンクについているレーダー、ジャンプのバックルを起動させようとしていた詠龍の手が止まる。

 

「え?」

 

「よく考えてみて。誰もいない深夜ならともかく、周りに人もいる天下の往来で次元跳躍(ジャンプ)はまずいよ」

 

「でも天花さん忙しいですよね? すぐにでも戻ったほうがいいんじゃないですか」

 

「うん、私のことを気遣ってくれてありがとう。確かに私は魔防隊六番組組長として多忙な身ではあるけど時間に追われるような仕事はしてないよ。ちょっと嫌味な言い方になっちゃうかもしれないけど私って要領良く業務をこなしてるからむしろ時間的な余裕は他の組長達(みんな)と比べてもかなりある方だし仮に近々逼迫の仕事があったとしてもすぐに終わらせられるからはっきり言っちゃうと詠龍君といられる時間を潰してまで優先しなきゃいけないものは今も昔もこれからも無いんだよね。急がば回れ、って言葉もあるでしょ? 確かに時間をかけずに目的地へと辿り着くことは大事なことだと思う。時は金なりって言葉もあるくらいだから。でも人間、急ぎ過ぎると前だけしか見れなくなって色んなものを取りこぼしてしまうんだ。楽しい思い出、美しい風景、そして愛する人との出逢い。それは勿体ないと思わない? 自論だけど人生はいかに楽しむか、だと思ってるから。長々と語らせてもらったけど私が言いたいのは普通にバイクで行こ、ってこと。それ以前に詠龍君は女の人がこんなに体をくっ付けられてるんだからもう少し恥ずかしがったり鼻の下を伸ばしたり年頃の男子らしい反応をするべきだと思うんだ。発情期のお猿さんみたいに盛って欲しい、とまでは言わないけど背中に当たってる胸の感触に集中したり……というか詠龍君、よくよく見たら何て格好してるの? ワイシャツ第二ボタンまで外しちゃうなんてエッチ過ぎそんな歩くハニートラップみたいな姿で道行く女の人全員を虜にするつもりなのダメダメそういうのは心に決めた人(わたし)と二人きりの時だけにしなきゃ」

 

 一息に一方的に語られるそれっぽいこじつけ(ワンブレスマシンガントーク)。前半はともかく後半は最早何のこっちゃ理解不能だったが普通にバイクで走って帰ろうと言っていることだけは分かった。

 

「魔防隊管理下に魔都と現世を繋ぐ門があるんだ。常時開いた状態で固定されているから」

 

「成程、そこを通れば魔都に戻れるって訳ですね」

 

「そゆこと」

 

「じゃあ、行きましょう。どんくらいかかりそうですか?」

 

「そうだね……道の混み具合にもよるけど、大体一時間くらいかな」

 

 結構かかるな、とぼやきながらブーストライカーに火を入れる。轟くエンジン音、ヘルメットのシールドを下ろして生暖かい目をしている三人に軽く手を上げて見せた。

 

「今度こそまたな」

 

 返事を待たず発進。後ろに乗る天花が軽く手を振って別れの挨拶をしていた。小さくなっていく二人の後ろ姿に友人トリオは

 

「「「オタッシャデー」」」

 

 見えなくなるまで手を振り、ぼそりと一言。

 

「とんでもない女に目ぇ付けられたなあいつ」

 

 戦いの世界に身を投じることになる友人の幸せを願わずにはいられなかった。

 

 ちなみに詠龍と天花は何回か寄り道(全て天花提案)をしたので魔都に戻ったのは二時間経ってからだった。

 

 

 

 

 浮野詠龍、仮面ライダーギーツ。魔防隊(今のところ六番組限定だが)の協力者となった彼の主な仕事は四つ。内一つはバックル技術の提供。より強力な武装で魔防隊の戦力を底上げしようというわけだ。しかし、提供と簡単に言ってもバックルは一つ作るのにもそれなり以上の時間を要する。まして自分以外の誰かに使わせるための装備など詠龍にとっても未知の領域、手探り状態だ。作製にどれだけの時を費やすか分かったものではない。魔防隊隊員全員分を用意するのは現実的ではないという結論に落ち着き、今は天花個人に合わせたバックル、一番分かり易く強力なブーストバックルを作ることになっていた。

 

 二つ目は隊員の訓練相手、それも極めて強力な醜鬼を想定した仮想敵として。物凄く乱暴な言い方をするとポ○モンと一緒だ。より強い者と戦うことで経験値を大量獲得し、レベルもガンガン上げられるという訳だ。と言っても現状、訓練相手は六番組の天花、八千穂、サハラの三人しかいないが。

 

 

 

 

「ぜっ、ぜっ、えるちん、強過ぎ……」

 

 六番組寮前、大粒の汗を垂らしながらサハラは地面に力なく座り込んだ。息も絶え絶え、肩を大きく上下させる姿は正に疲労困憊というに相応しかった。

 

「何じゃその体たらくは。あんな洟垂れに一撃も入れられぬとは情けない」

 

 野次るのはサハラの横で大の字で寝そべっている八千穂だ。休んでいる訳ではない。指先一つもピクリと動かせないでいるのだ。

 

「開始五秒で吹っ飛ばされてそれからずっとヘソ天してたやっちには言われたくないかな」

 

「お前があの洟垂れをキッチリと抑えておればこんな無様晒しておらぬわ……!」

 

 二人がこんな姿を晒している理由は詠龍との訓練にある。二体一での模擬戦、二人は変身すらしていない詠龍に手も足も出ずに敗北した。

 

 パワータイプの能力持ちであるサハラが前に出て、八千穂が後ろから遠距離攻撃で援護する。単純で効果的な連携だが、詠龍との圧倒的な実力差を前には無意味だった。サハラの初撃であるパンチはあっさりといなされそのままぶん投げられた。前衛を失って無防備になった八千穂はマグナムを十字架状に撃ち込まれそのままダウン。能力『怒れる羊(クレイジーシープ)』で自身を強化したサハラが単身挑むも繰り出す攻撃は全て捌かれ、動けなくなるまで只管投げ飛ばされ今に至る。

 

「一分だったのに、全然通用しないんだもん」

 

 サハラの能力は予め決めておいた分数の間、自身を強化するというもの。設定した時間が短ければ短いほど強化幅は上昇する。一分という時間設定は彼女にとっての最大強化だがそれでも目の前の少年(イレギュラー)には及ばなかった。

 

 詠龍が六番組と合流して早数日、その間に行われた模擬戦は三回。いずれもサハラ、八千穂は二人掛で詠龍に挑んだが結果は三回とも(過程はそれぞれで異なるが)惨敗を喫していた。そしてその結果はサハラが詠龍に対して抱いていた認識を変えることになる。

 

「仮面ライダーになれるから強いんじゃなくて、元々強いえるちんが仮面ライダーになるからとんでもない強さを発揮するんだね~」

 

「こっちは動けんというのに涼しい顔をしおってからに……憎たらしい化け物狐、もとい憎たら化け狐め」

 

 起きれるまで回復した八千穂が忌々しげにねめつける先、息を切らすどころか汗一つかいていない詠龍が次の相手と向かい合っていた。

 

「今回は勝たせてもらうよ、詠龍君」

 

 ぐっ、ぐっ、とストレッチしながら気合十分な様子の天花。 

 

「何言ってるんですか、前回俺に勝ったじゃないですか」

 

 腹部にドライバーを呼び出す。右手にマグナムバックルを握り、詠龍は軽く息を吐いて意識を切り替えた。失礼な言い方になるが八千穂、サハラペアの時と同じ心持で臨んだら間違いなく勝てない戦いが始まる。

 

「あれは個人的に気に入らないからノーカン。詠龍君には納得出来る勝ち方したいからさ」

 

 両者の戦績、二回の模擬戦を経て互いに一勝一敗。一回目はギーツがマグナムの圧倒的物量の弾幕で天花を圧倒、能力を使う余裕を与えず正面から打ち破った。二回目は開始と同時に天花がギーツ諸共に遥か上空へと転移、落下しながらの激闘を制して勝ち数をイーブンにする。もっとも、天花はこの勝ち方に大いに不満を残しているようだが。

 

「あんなのただ不意を突いただけの初見殺しだからね。二度目は通用しないでしょ?」

 

 確かに銃撃の反動で空中を移動したり、そもそも上に転移されないようにすればいいだけの話だ。が、詠龍はゆっくり首を振る。

 

「負けは負けですよ。そもそも、初見殺しだろうが何だろうが引っ掛かる方が悪い」

 

 どれだけ悪辣卑劣な策を取られても突破出来ずに嵌る方に非がある。ルールが定められたスポーツならとかく、戦いは勝った者が正義だ。

 

「負けっ放しは悔しいんで、勝たせてもらいます」

 

『SET』

 

 銃撃のバックルを装填されたドライバーから流れる起動音。右手で作る狐の影絵に一礼、銃の形へ変える何時もの仕草。銃撃音が鳴り響き、白い鎧が上半身を覆う。

 

MAGNUM

 

「いや。格好いいところ見せたいから私が勝つよ」

 

 現れた狐尾のマフラーを靡かせ、銃を握る白鎧の仮面戦士に宣言。一瞬の睨み合い、響くマシンボイスが開始を告げる。

 

『READY FIGHT』

 

 初撃は天花の蹴りだった。即座に能力でギーツの背後へと回り、鞭の如くしなる一発を側頭部に放つ。ゴッ、と硬い感触が伝わってきた。振り返りすらせずに持ち上げられた装甲を纏う腕が天花の一打を防いでいる。

 

(そりゃ簡単には当てさせてくれないよね)

 

 見向きもせず、肩越しに的確に自身へ向けられる銃口から逃れるべく上に転移。二度、三度と能力を駆使し、一瞬前まで自分がいた空間を通り過ぎていく弾丸に肝を冷やしながら地上へと戻ってギーツ目がけて走り出す。

 

 小刻みなステップで狙いを絞らせずに肉薄、地面を沈ませるほどの踏み込みからギーツの腹部に拳を叩き込むが容易く掌に受け止められた。引き戻される前に拳をガッチリと握り、天花の動きを制限しマグナムを突きつける。

 

 即座にギーツを振り解けないと判断した天花は拘束から逃れようとせず、逆により密着することで射線を切った。ギーツを転移に巻き込もうとするが、目的に気付かれ強引に片腕だけで投げ飛ばされた。

 

 強烈な浮遊感と暴れ狂う視界が平衡感覚を失わせる。しかし天花は焦ることなく、着地の姿勢すらも取らず能力を発動させた。転移先はギーツの頭上、投げの勢いをそのまま乗せた踵落としを放つ。

 

 頭上に発生した黒い歪みとそこから現れる鉞の振り下ろしを連想される強烈な一撃。まともに喰らえば如何に狐面に守られていようと無事では済まない強打をマグナムの銃身で防ぐ。

 

 全身の上から下まで走る鋭い衝撃に負けず腕を大きく振り払い天花を弾いた。空中でトンボを切り、危なげなく着地する天花。素早い駆け出しで再びギーツに肉薄する。銃口が天花を捉えるよりも彼女の接近の方が早い。放たれる天花の蹴りをギーツは同じ様に蹴りで迎え撃った。

 

 繰り広げられる肉弾戦。拳打を防ぎ、蹴撃をかわし、互いに一歩も引くことなく激しい攻防が続く。鳴り止まない打撃音が魔都に響き続けた。目の前で展開される、自分達では割って入ることすら出来ない激戦を八千穂とサハラは食い入るように見詰めていた。

 

 状況が動いたのはおよそ一分後、徐々に天花が押され始めた。かけ離れてはいないが小さくないギーツとの技量差が、純粋な近接武器として振るわれるマグナムがもたらす鈍痛が彼女を追い詰めていく。

 

 疲労からか天花の体勢、そして意識が僅かにぶれた。その隙を逃さず防御を掻い潜った掌で肩を押し出しバランスを崩させ、更に足を払うことで後ろへの転倒を狙う。意図通り背後に傾いていく天花をマグナムの銃口が捉える。やば、と反射的に呟く唇、冷や汗が頬を伝い落ちるのが見えた。

 

 しかし彼女も幾多の修羅場を潜り抜けた魔防隊組長。自ら上体を仰け反らせて直撃を避けて見せた。撃ち出された弾丸が肩を掠める。走る衝撃と痛みを無視して後ろに回した腕を支えに体を持ち上げ、揃えた両脚をギーツの腹部へと勢い良く突き刺した。

 

 吹き飛んでいく仮面の戦士、だがすぐに空中で体勢を整え何事も無く着地する。天花自身、会心と思える一撃を喰らわせたのだが堪えている様子は欠片も無い。余りのダメージの無さに内心でげんなりしながら天花は立ち上がりギーツと再び向かい合う。お互いすぐに仕掛けようとはせずに睨み合い、仕切り直しだ。

 

(跳ね上がる基礎スペックに出鱈目な性能してるバックルの拡張武装。変身した詠龍君の戦闘力って文字通りぶっ飛んでるけど、一番凄いのって防御面だよね)

 

 痺れと痛みの残る肩を軽く回しながらギーツを、正確には渾身の蹴りを打ち込んだ腹部を見やる。装甲の無い、黒いスーツが剥き出しの箇所を狙ったのだが、

 

(効いてない、訳じゃ無いんだろうけどダメージが薄い。最低でも同じ所に五発は入れないと意味無いか)

 

 それも普通の醜鬼なら完全にノックアウト出来るレベルの一撃を。そんな攻撃を何度も仕掛けるのはしんどい、加えてギーツほどの実力者に当てようとするのは現実的ではない。

 

(少なくとも今の私じゃ打撃で倒すのは難しいね)

 

 天御鳥命(アメノミトリ)、能力で空間諸共に捩じ切れば防御関係なくダメージを与えられるだろうが、それは模擬戦の範疇を明らかに超えている。ギーツがブーストバックルを使わないのも同様の理由だ。あれは生身の人間相手(いくら魔防隊隊員として鍛えていても)に使うには出力が高過ぎる。

 

(となると、関節技かな)

 

 すぐさま思考を纏め、行動に移す。ギーツの周囲に黒い歪みをいくつも出現させた。両手両指でも数え切れぬ量の歪みの一つへと飛び込む。移動先はギーツの右斜め上辺り。

 

 鈍く光る銃口が瞬きの間もせずに向けられる。だが、そこに天花の姿は無かった。彼女の気配は真後ろ、左斜め前、頭上と感じる方向が目まぐるしく変わっていく。能力を用いた連続転移による高速移動。目にも止まらぬ速さという表現がピッタリの攪乱だ。実際、観戦している八千穂とサハラは天花の動きに目が追いつかず完全に置いてきぼりにされている。

 

「速いな」

 

 小さく称賛を呟きながらもギーツは天花の動きをしっかりと捕捉していた。四方八方、ありとあらゆる角度から攻撃が飛んでくるかもしれない状況の中、変身によって強化された『耳』を頼りに天花の居場所を正確に追い続ける。

 

 にょん。戦いの場にはそぐわない、身構えていても思わず気の抜けてしまいそうになる音。天花が能力で移動する際に発生するそれを捉えることで彼女の位置を把握していた。どの方向から攻められてとしても即座に反応、迎撃に移れる。それは天花も分かっているらしく、攻勢に入ろうとはせずギーツの周りを転移し(とび)続けていた。

 

 ちなみに連続で能力を発動しているため、

 

 にょにょにょにょにょにょにょにょにょにょん。

 

 と発生する音がかなり愉快なことになっていたが気にせずギーツは警戒を続ける。

 

(しかし厄介だな。どこに出てきたかは分かるが、どこから出てこようとしているかまでは分からねぇ)

 

 見てから、もとい聞いてから反応することは可能だが、マグナムを向けた時に天花は既に別の場所へと移動している。転移した瞬間を狙い撃つならともかく、二十以上ある歪みのどれから天花が出てくるかを予測するまでは出来なかった。

 

(英寿さんなら予測、どころか誘導したところを撃ち落すとかするんだろうけど、俺にやれるか?)

 

 今、取り得る手段で一番確実なのは全ての出入り口に銃弾を置いて(・・・)おくことだが、それをやるとなると決して小さくない隙を晒す。そして天花はその一瞬を逃さないだろう。不用意に手を出せず、ギーツは攻めあぐねていた。

 

(参ったな、本当にちょっとした隙の一つも見当たらない)

 

 一方で天花もまた攻め手が見つからず転移での攪乱をし続けていた。連続転移を始めてからその場から一歩も動かずにいるギーツ。焦る様子のない自然体は一切の油断を感じさせず、攻撃が通るイメージを僅かも湧かせない。仮に無策で攻め込めば一瞬で切って捨てられる、もとい撃って捨てられるだろう。

 

(だからってこの状況を続けてもじり貧になるのは私の方)

 

 天花が連続で瞬間移動を出来る回数は六百六十六回。今の段階でまだ四百以上の使用回数を残している。しかし、このままその全てを使い切ったところでギーツを攻略出来るとは思えない。

 

(前に言ってた私が能力で移動する時に鳴るっていう特徴的な音。それを追って詠龍君は私の位置を正確に把握している。なら)

 

 にょにょにゅにゃにょにゅにゅにゃにょにゅん。

 

「にゅ、にゃん?」

 

 天花の移動音に微かな変化が生じ、耳を澄ましていたギーツは少々面喰った様子で周囲に視線を走らせる。相変わらず連続転移を繰り返す天花、だけじゃない。小さいがはっきりと視認できる何かが複数、天花に混じって宙を舞っていた。

 

「石、か」

 

 異音の正体は拳大の石、掌に収まるサイズの土くれだった。それらが歪みから飛び出し、ノイズを発生させている。視覚だけでなく、聴覚にまで仕掛けられる攪乱に対しギーツは動かない。歪みを通るものの大きさが違うからか音の違いがはっきりと出ている。狐耳(ギーツイヤー)は地獄耳、この程度で相手を見失いはしない。

 

(天花さんの動きも大体分かってきた。そろそろ合わせられる)

 

 決めるなら今。ギーツが勝負に出ようとしているのを察知したのか天花の動きも変わる。今まで移動のみに使っていた能力を初めて攻撃手段として用いた。但しギーツに対してではなく、地面に対して。

 

 手印を作った右手をギーツの前の地面へと向ける。歪み抉れる地面が砂塵を噴き上げ視界を遮った。

 

(今更、目くらましなんて!)

 

 周囲を覆う砂煙を無視して聴覚に一点集中。研ぎ澄まされた感覚が天花の移動先を告げる。

 

 にょにょにゅにゃにゅにょにょにゅにゃにゃにょにゃにゅにゅにょん。

 

「そこ!」

 

 左斜め後ろ。マグナムを右から左に投げ移し、体を半ば翻しながら引き金を絞る。放たれた弾丸が歪みから飛び出したものに過たず直撃した。狐耳が捉えた何か硬いものが砕け散る音にギーツは一瞬硬直する。

 

(違う、天花さんじゃない!)

 

 クルクル回りながら地面に落ちて粉々になったそれは人間大、天花の背丈とほぼ同じサイズの岩だった。

 

(さっきのあれは目くらましじゃなくてこれを作るための……!)

 

 背後から急接近する気配。右前腕のアーマードガンを起動、乱射して近寄ろうとする者を牽制しようとするも組み付かれる方が速かった。

 

「つかまえ、たっ!」

 

 砂煙が晴れる。現れるのは両腕両脚をギーツの右腕に絡ませて取り付いた天花だった。大樹に巻き付き食い込む蔓のような四肢は彼女を容易に振り解けないことを物語っている。

 

「おぉっ!」

 

「やったれー、組長! そのままブチ折っちまうんじゃ!!」

 

「私の勝ちだよ詠龍君、いや、仮面ライダーギーツ!」

 

 急激な重心移動、下へと向かう動きで一気にギーツを引き倒しそのまま関節を極めようと、

 

『REVOLVE ON』

 

 唐突な浮遊感。自分の意思とは関係なく視界が上下反転していく。理解も思考も追いつかないが、今まで積み重ねてきた経験がそのまま地面に叩き付けられる事態を防いだ。押さえ込むはずだったギーツから飛び離れる。転がることで衝撃を逃し、跳ね起きようとしたところで天花の動きは止まった。

 

「これは、流石に予想外過ぎだね」

 

 眼前に突き付けられたマグナム。膝を突いたままゆっくりと両腕を上げ、天花は上半身に装備していた筈の装甲を下半身に纏ったギーツに降参の意を示した。

 

 

 

 

「まさか操作一つで装備を上下入れ替えることが出来るなんて……見抜けなかった」

 

 膝に付いた土汚れを払いながら天花は目の前で変身解除する詠龍を見詰める。完璧に極めたと思っていた。勝利を確信していたが、文字通り想像だにしなかった方法で勝負を引っくり返された衝撃は大きかった。

 

「これで気分だけじゃなくて数字でも負け越しか。悔しいなぁ」

 

「まぁ、あんなの予想するってのが無理な話ですから。天花さんも言ってた不意を突いただけの初見殺しってやつです」

 

「初見殺しだろうが何だろうが引っ掛かる方が悪いって言ってたのはどのお口だったかな~?」

 

「しゅ、しゅみましぇん」

 

 みにょ~ん、と詠龍の頬を左右に伸ばす。そのままムニムニして感触を楽しんでいると八千穂とサハラが歩み寄ってきた。

 

「組長もえるちんもお疲れ様~。今回は組長が勝ったと思ったけど」

 

「あれはほぼ勝ちじゃろ。あんな隠し玉があるなんて誰も想像出来ぬわ。というか何時まで洟垂れの頬をムニっとるんじゃ、組長!」

 

「いや、これ止められないって。中毒性半端ないよ、詠龍君の頬っぺた」

 

 困り顔の詠龍の頬を只管ムニり続ける天花。全神経を指先に集中して感触を楽しんでいるが、頭の中では今後について考えていた。

 

(八千穂とサハラは詠龍君をギーツに変身させること、私はブーストバックルを使わせることを目標にしようと思ってたけどそれ以前の問題だね。今の段階だと実力差が大きい)

 

 自慢の部下達はもとより、自分ですらここまで差があるとは思っていなかった。本当の意味で仮面ライダーと肩を並べて戦うのは中々に困難なようだ。もっと強くならねばと決意を新たにし、天花は部下二人が止めに入るまで詠龍の頬をムニり続けた。

 




 ちなみに本作でのリボルブオンはバックルの機能と装甲を反転させるだけである。これは欠陥では無く、本家の人体構造を完全無視した動きを詠龍が本気で怖がって死ぬ気で自身のデザイアドライバーを改造して頭の位置が入れ替わる機能をオミットしたのだ。

「いや、どう考えてもあれはおかしいだろ。頭が背中を通って股まで移動して手足も反転して上下が引っくり返るとか……」

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