Spring Sky StarS! 作:笹ピー
エ ア ラ イ ダ ー と か 聞 い て な い ん で す け ど ! !
気になる君は4月2日のニンダイを確かみてみろ!
10-1
エンジニア部からアリスの武器調達に成功したゲーム開発部。
それすなわち、アリスが”生徒”として認められる最低条件を満たした、とも言える。
これにより兼ねてより議題だった部活の規定人数を満たし――少なくとも、規定違反による廃部は阻止できた、といっても過言ではないだろう。
何はともあれ、自分たちの部を守ることができたモモイ達。
仲間も増え、ようやく平穏な日常が訪れる――と喜びを噛み締め、これからの日々に心弾ませるのだった。
――――1人の少女が訪れるまでは……。
「――じゃあ、廃部の心配も無くなったことだし……今日からゲーム三昧といこっか!」
翌日――アリスとカービィを迎えた、3日目の昼頃。
昨晩、思わぬ出費にひんし状態だったモモイだがいつもの様子に戻った――或いははすべて悪い夢だったと思い込むことにしたのかもしれない――のか、意気揚々と今日の予定を告げる。
その言葉にゲームができることに目を輝かせ、意気込むアリス。
片や、困惑した様子で眉を顰めるミドリ。
そして部長のユズは、何故か朝からロッカーに籠りっぱなしだった。なおピンクの生命体はお昼寝タイムなのか、座布団を枕にぐっすり熟睡中。
そんな中、ミドリがいやいやいや、と楽韓的な姉の発言に頭を振る。
「廃部が免れたからっていくらなんでも気を緩めすぎじゃ……第一、新入部員の申請はもう済んだの?」
「もっちろん、昨日の内に済ませたって! ”資格審査”があるって言ってたけど問題ないしー」
問いかけに対して軽い調子で返すモモイに対し、不吉な発言を聞き逃さなかったミドリが「し、資格審査っ?!」と、動揺を露わにしながらモモイに詰め寄る。
「なにそれ聞いてないんだけど!? ち、ちなみに何時?」
「今日の午後だけど」
お前は何を言っているんだ。
そんな言葉が口に出そうになるのと、眼前の能天気を張り倒したくなる衝動をなんとか抑え込んだ彼女は、緊張感が微塵もない姉に対して、焦燥感を露わにしながら再度詰め寄る。
「な、尚更ゲームやってる場合じゃないでしょ! 大丈夫なの?!」
「もー心配しすぎだって、アリスの準備は完璧だし!」
焦りを見せるミドリとは裏腹に、妙に自信満々な様子を見せつけるモモイ。
その言葉に「準備?」と、怪訝な顔を浮かべるミドリを余所に、「アリス、自己紹介を!」とモモイが当人を呼び出す。
それに対し、落ち着いた様子のアリスが自信満々に頷くと、口を開く。
「――私の名前はアリス・ザ・ブルーアイ、ドワーフ族の槍騎士。使用武器はガンランス【火竜の牙】、出身地は鋼鉄山脈。幼い頃、魔族の襲撃により家族を失って――」
「いやゲームのアバターのプロフィールじゃなくて、アリス自身の!」
とんでもない経歴を述べる発言に、思わず指摘するモモイ。
一方、その指摘を受けたアリスは「あ、理解しました」再び頷く。
気を取り直す様にコホンと可愛らしい咳払いを挟みつつ――予め用意していた自己紹介を、アリスは口にしだした。
「――私の名前はアリス。ミレニアムサイエンススクールの1年生。最近転校してきたばかりで受講申請のタイミングを逃してしまったため、まだ授業の登録ができていない状態なのですが来月から正式に授業に参加する予定です。授業にまだ参加できなくとも、部活動には参加可能とのことでしたので、ゲーム開発部に入部しました」
つらつらと流れるように語るアリスの言葉に「あ、結構それっぽい」とミドリが感心する――少し台本の朗読じみて聞こえるのは、御愛嬌。
意外にもちゃんと準備ができている事実に、一抹の希望を見出すミドリ。
その反応に気を良くしたのか、モモイはふふん、と得意げに笑みを浮かべる。
そんな2人の反応を脇目に、アリスの自己紹介は続く。
「ゲーム開発部で担っている役割はタンク兼光属性アタッカー……」
「違う違う、役割はプログラマー!」
「ぷ、プログラマーですっ! 生まれた時から母語よりも先にJaba言語を使っていまして……!」
湧いた希望が一瞬で地平の彼方までぶっ飛んでった。
ミドリが頭を悩ませる。
確かに、最初の頃に見受けられた定型文での応答では無くなったが、それと引き換えにゲーム用語やゲーム内の台詞でのやり取りがインプットされてしまった模様。
今のような言い間違いを資格審査の時にやらかせば、不審に思われるだろう。
彼女の不安と心配を察したのか、「だ、大丈夫だって、問題ないって!」と務めて自信満々に告げるモモイ。その様子に、さっきまでの余裕はどうしたの、と心の中で独り言ちるミドリ。
「い、いざってときはこの子を使って、良心をチクチクすれば良いし!」
そう言いながら未だ熟睡中のカービィを突き出すモモイ。
ミドリが頭を抱えた。
以前も思ったことだが、情に訴えてなんとかなるなら廃部を言い渡されたりはしない。
というか部が無くなるのとカービィが路頭に迷うのはイコールにはならないでしょ、と心の中でぼやくミドリ。
姉の案を訊けば聞くほど不安を募らせるミドリが、ふと何かに気が付くと、早朝からロッカーに籠ってるユズへと問いかける。
「……ユズちゃん、この話聞いたの何時?」
『きょ、今日の朝……』
身を震わせながら呟いたであろう彼女の声に、なるほどね、と合点のいったミドリが頬を引き攣らせる。
部長とは言え自分たちと同じ1年生であり、加えて人見知りのきらいがある彼女。
心の準備もできてない状態で上級生でもありミレニアムのトップでもあるセミナーの生徒が来ると聞いたら、己の絶対領域に逃げ込んでしまうのも仕方ない話である。
先行きにミドリが不安を覚えていた――そんな時であった。
突然、部室のドアが開かれた。
反射的に、その方へと振り返るモモイ達。
その瞳が捉えたのは――群青色の髪を腰まで伸ばし、ツーサイドアップの髪型が印象的な少女が立ち尽くす姿。
「――……あり得ないわ」
片や、アリスの方へと視線を飛ばし、言葉通り信じられないと云わんばかりの表情を浮かべては呟く、少女。
部室に、突然入ってきた少女にモモイとミドリが慄き――
声だけは拾えたであろうユズが、籠っているロッカーからガタン、と音が響かせる。
少々大げさにも見える彼女たちの反応だが、無理も無い。
何せ彼女こそ――
「ゲーム開発部に新入部員が入ったなんて、あり得ない……っ!」
ゲーム開発部の廃部を言い渡した張本人。
”セミナー”の一員、”早瀬ユウカ”なのだから――!
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
10-2
早瀬ユウカ。
”ミレニアムサイエンススクール”の生徒会――”セミナー”の一員であり、会計担当。
その担当ゆえに、各部活の部費は勿論のことミレニアム内での資金関係について主に彼女が管理を一任されている。その管理体制は彼女自身の優秀さと真面目な性格も相まって、厳格かつ公正的。
それ故に、一般の生徒からは”冷酷な算術使い”と、恐れられているほどでもあり――これは彼女の権限で部活動の予算の増減が決められてしまうことが所以である。
部活動の生命線である部費を削減できる彼女は、確かに方々から恐れられても無理は無い。
そんな人物の登場に狼狽えてしまったモモイ――だったが、気を取り直すように頭を振るとアリスの両肩に手を置き、見せつけるように突き出す。
「残念だけど事実だよ! これで部の継続はオッケーでしょ!?」
強気な発言をするモモイに反して、件の重要人物でもあるアリスはキョトンとした表情を浮かべるのみ。
そんな二人と対面する形となったユウカ。
最初こそ動揺を見せていたが、やがて気を取り直したのか、落ち着き払った表情を見せる。
「……そうね、その子が”本当”に自分の意思で入部した生徒なら、規定の人数を満たしたことになるわね」
一部分をわざわざ強調するようにモモイの言葉を肯定するユウカに、見透かされているような感覚を覚えたモモイの心臓がドキリと跳ねあがる。
そんなモモイの反応を余所に、「それにしても……」と呟きながらアリスの容姿を彼女は注意深く観察する。
「ミレニアムの生徒ならほぼ全員把握してると思ってたけど……こんな可愛い子、私が知らなかったなんてちょっと信じられないわね」
呟きながら、訝しむ様にアリスを見詰めるユウカ。
それに対し、何かに気付いた様にハッと目を見開いたアリスが慄くように呟く。
「――よ、妖怪が現れました……!」
「よ、妖怪!? 今この子私のこと妖怪って言ったわよね!?」
「か、勘違いだよ! ”妖精”って言ったのを聞き間違えたんでしょ、もーユウカってばー!」
聞き捨てならぬ発言に何故かアリスではなく、モモイに捲し立てるユウカ。
一方のモモイは冷や汗を盛大に掻きつつ、聞き違いだと諭し――昨日、ユウカを妖怪と教えてしまいやがった過去の自分をはたき倒したくなったとか。
役職故に周りからマイナスな印象を受けていると自覚していたユウカだったが、まさか初対面の相手からそう認識されていたことに内心ショックを受ける――が、気を取り直す様にンンッと咳払いをした後、本題の審査について説明する。
「――本来は部員の加入を申告すれば、それだけで良かったのだけれど……”最近”は部活の運営規則も少し変わって、もう少し厳しく確認する必要が出てきたの」
「だから」と、語気を少し強めながらアリスの方へと鋭い視線を飛ばすユウカ。
その迫力に気圧されたのか、アリスが少し狼狽える。
「これからアリスちゃんには簡単な取調べ――あら、思っても無い言葉が……――もとい、いくつかの質問をさせていただきます」
「思いっきり本音が出てた気がする……!」
あからさまな言い間違いをモモイが指摘するが、当の本人は知らんぷり。
それから、安心させるためなのか――或いは圧を掛けるためなのか――にこやかに笑みを浮かべたユウカに、事の重大さを薄々感じとったアリスが、恐る恐る彼女に問いかける。
「せ、選択肢によっては、バッドエンドになることもありますか?」
「バッドエンド……まあ、そういうこともあるかもね」
問いに対して、不敵な笑みを浮かべ肯定の意を返すユウカ。
その不穏な発言に不安が芽生えたアリスは、ユウカが部室に訪れた時から抱き抱えていたカービィを無意識にギュッと抱き込む。
一方、その光景を目にしたユウカが、不思議そうに首を傾げた。
「……そういえばその子なんなの?」
「あ、あー、えっとその、この子は最近出たばっかの高性能自立起動型のぬいぐるみで――」
「ア、アリスちゃんお気に入りのぬいぐるみですっ」
疑問を口にするユウカに、モモイとミドリが予め決めておいた”設定”を口々に説明する。
ここでカービィにまで疑いの目を向けられれば、益々アリスの正体がバレる恐れがある。なんとしてもぬいぐるみとしてこの場をやり過ごさなければならない――と大いに焦る才羽姉妹。
そうして、姉妹の説明を聞かされたユウカは納得する――どころか、先程のアリスの様に訝しむようにカービィを見詰める。
そんな彼女の視線の先では、お構いなしにアリスの腕の中でグースカお昼寝を堪能しているピンクのぬいぐるみもどき。
「……高性能ぬいぐるみって、昼寝をするものなの?」
「……ややややだなー! 今のぬいぐるみはこんなの、あああ当たり前じゃーん!」
「ひ、人の生活に馴染みやすいようにそういう行動がプログラムされてるって書いてあったナー! スゴイナー!」
怪訝な表情でモモイ達に問いかけるユウカをなんとか納得させようと、頬を引き攣らせながら必死に言葉を紡ぐ双子。そんな二人が必死に誤魔化そうとしている傍ら、呑気に居眠りをかますぬいぐるみ擬き。
苦し紛れな二人の態度に訝しむように目を向けるユウカだったが、「まあ、いいわ」とそれ以上の追求を止めることに。
一先ず危機を乗り切ったことに胸を撫で下ろすモモイとミドリ――だったが、「それじゃあ、アリスちゃん」とユウカが改めてアリスと向き合いながら告げる。
「――質問を、始めるわ」
一難去ってまた一難。
胃がきりきりと痛みだすのを感じる姉妹。
そんな二人の様子を全く意に返さず、ユウカの尋問は始まった。
「アリスちゃん、あなたがゲーム開発部に来たきっかけは何?」
取調べ――もとい質問を始めたユウカがまず最初に尋ねたのは、入部の動機。相手がどのような理由でゲーム開発部に入部したのかを確かめるための確認、といったところだろうか。
ありふれた質問だが、だからこそ曖昧な返答には、きっちりと目を光らせてくるだろう。
「気が付いた時にはすでにここに――」
モモイ の にらみつける !
「――で、ではなく! えっと、『魔王城ドラキュラ』がやりたくて……それで、ゲーム開発部の存在を知って……」
「ふーん、そうなの……ところで、モモイは何でそんなにアリスちゃんを睨んでるわけ?」
「に、睨んでないし」
何処となくたどたどしく答えるアリスだが、ユウカはその様子をあまり気にせず相槌を打つ。
緊張によるものと判断したようだ。
なんとか乗り切ったアリスに心の中で称賛を贈るミドリ。この調子なら姉のガンつけを注意されるだけでなんとかなると、僅かながら希望を見出した模様。
「でもここはレトロゲーム部じゃなくて、あくまでゲーム開発部――つまり、あなたもゲーム作りに参加するということよね。何を担当するの?」
続いてのユウカの質問は、部内での役割について。
先の質問でゲームがやりたくてこの部活に来たと答えたアリス。しかし彼女の言うようにわざわざこの部を選んだ理由として、ゲーム作りに興味があると想定したユウカは開発の何を担当しているのかを尋ねた。
ゲーム開発について知識があるか、もしくは興味を持っているだけなのかを判断するためでもあるだろう。
その質問に対し、先ほどと打って変わってアリスが自信満々の表情を浮かべる。
先のモモイとの打合せで回答テンプレートは準備済みである。
「タンク兼光属性アタッカー……」
「え?」
モモイ の にらみつける !!
「――じゃなくて、え、えっと、ぷぷぷ……プログラマラスです!」
「……はい? プログラマー、じゃなくて?」
「あ、はい、そうです、その通りです。間違いなく私は完璧なプログラマーです」
マズイ。
此処に来て――というかまだ二つ目だが――痛恨の言い間違い。
モモイ達に緊張が走る。
「プログラマーね……すごく難しい役割だと聞くけれど」
――が、意外にもユウカこれを見逃すッ!
緊張による言い間違いと判断した様である。
そして、三つ目の質問は先程答えたプログラマーについて。
その役割について、どれだけ把握しているかを確認するためとも云える。
話の流れ的によくある世間話にも聞こえるが、ここでしっかりと答えられなければプログラマーの仕事について把握していないことの証左にもなり得る。
そうなれば部員になりたい、という発言に疑いが掛かる可能性もあり得る。
ユウカの質問に困ったように視線を彷徨わせながらも、アリスは答える。
「はい、そ、そうです。ぷ、プログラマーは大変です。たまに過労で、意識を失ったりもします」
「な、なんですって!?」
ユウカ は モモイ に にらみつける こうげき !!!
モモイ は してないしてない と あたまをふる !!!
労働基準なんぞクソくらえ、と言わんばかりの労働を強いられていると勘違いしたユウカがモモイを鋭い目で睨みつける。
それに対して誤解だ、と云わんばかりにブンブンと首を勢いよく横に振りモモイは必死に冤罪を訴えた。
それを見て、慌てたアリスは咄嗟に口を挟む。
「そ、それでも大丈夫です!」
「いや、大丈夫じゃないでしょ……ちゃんと寝なさいよ……」
咄嗟に出たアリスの発言に対し、心配そうにやんわりとユウカは窘める。
基本的にこの少女は相手を慮ることが出来る、優しい子である。
そんな彼女の気持ちなど知る由もなく、アリスが自信満々に口を開く。
「宿屋で寝るか、聖堂にお金を払えば、仲間と一緒に復活できます!」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
ヤバイ。
演技が保てなくなってきた。
素がでてきたアリスの様子を見て非常にまずい流れだと確信したモモイ達だが、肝心のアリスは気付いていない。ユウカからは気付かれないように決死の目配せを送るも、残念ながら徒労に終わるのみ。
そんなモモイ達の焦りなど露知らず、ユウカの言葉についてアリスはキョトンと小さく首を傾げる。
「そんなわけない、ですか……? 常識のはずですが……――もしかして、『英雄神話』や『聖槍伝説』をご存じないのですか? 」
アカン。
お願いします神様すでに手遅れだと思うけどどうかこの状況を逆転して、と心の中で必死に天に縋る才羽姉妹。
そんな二人の祈りは――果たして。
「――『神ゲー』ですよ?」
――
膝から崩れ落ちそうな感覚を覚える双子とは対照的に、眩いほどの満面の笑みを浮かべたアリス。
抱き抱えられたまま結局一度も起きなかったカービィ。
そして――
『……ふ、ふふ……この世はすべて胡蝶の夢……しょせん、うばたまのゆめのあと……』
ロッカーの中で死んだ魚の眼をしながら泣き笑いのような顔を浮かべてブツブツと呟くユズであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
10-3
「――……ありがとう、アリスちゃん。あなたのことについては概ね理解できたわ」
アリスの神ゲー発言を聞いた後、何か逡巡するように沈黙していたユウカが感謝の意を伝えた。
どうやらこれ以上の質問は必要ない、と判断した模様。
同時にこれから飛んでくるであろう言葉に、モモイとミドリが耳を塞ぎたい衝動に駆られる。
2人からしてアリスの言動には怪しさが目立ってしまった。
ましてや、相手は予算や経費について厳しく管理する、あの早瀬ユウカ。疑われた時点で入部は困難だといっても過言ではない。
双子がもう駄目だ、と顔を俯かせ気落ちしている傍ら、アリスは緊張した面持ちでユウカの判断を待つ。
「――ちょっと怪しいところはあるけれど……ゲームが好きだってことは十分伝わったわ」
そんな3人に対して――微笑むユウカ。
意外にも好感触な彼女の反応に、目と耳を疑う才羽姉妹。
確かに事情を知るモモイ達の視点から見れば、アリスの言動は怪しく感じざるを得ないだろう。
しかし、それはあくまで彼女達の視点であってユウカの視点では無い。
実際に怪しい点こそあれど、今までの言動や無垢な対応。
それらを吟味した上で少なくともゲームが好きということは本当だろうと、ユウカは結論付けた。
故に――
「そんなあなたがゲーム開発部の部員だということは何も不思議な事じゃないわ」
要約すれば、この部活に入部したことに関してはおかしい点は無い、とのこと。
彼女の発言に耳を疑うモモイ達の反応を尻目に、よって、とユウカは言葉を継ぎ足す。
「規定人数を満たしているので、ゲーム開発部を改めて正式な部活として認定――――部としての存続を承認します」
一言一句、間違いなく告げた言葉を数秒程かけて理解したモモイ達に――喜々とした感情が表情が浮かびあがる。
「ぃやったあ!!」
「よかったぁ!」
歓喜を抑えきれず、各々喜びの声をあげながら左右それぞれアリスに抱き着くモモイとミドリ。2人の行動に一瞬驚くアリスだったが、嬉しそうな彼女達につられ、アリスも次第に頬を綻ばせた。
先程のお通夜みたいな雰囲気とは一転、和気藹々とはしゃぐモモイ達。
それから再確認と言った具合で、モモイがユウカへと尋ねる。
「ってことは部費も貰えるし、このまま部室を使ってもいいんだよねっ!?」
興奮冷めやらぬ表情を浮かべるモモイの発言に対して「ええ、もちろんよ」と、ユウカはにこやかな笑みを浮かべながら頷いた。
「――――”今学期”までは……ね」
――その発言に、ピタリと静まり返るモモイ達。
誰かが、えっ? と言い漏らしたかもしれないが、些細な事である。
「――……な、な、なんで!?」
我に返ったミドリが納得できないと云わんばかりにユウカへと詰め寄るが、彼女は特段驚く様子を見せず「あら、知らなかったのね」と、淡々と事情を説明する。
「今は部活の規定人数を満たすだけじゃなく、同時に部としての成果を証明しないといけないの。勿論、最近変わった要件だから猶予はあるけれど、その期限は来月末まで――それまでに成果を出せない部活は、たとえ4人いても400人いても、廃部になるのよ」
即ち、それまでに成果を見出せない限り、結局ゲーム開発部の廃部は免れない――ということで。
「う、嘘だ、あり得ない!」
「あり得るの! この間、全体の部長会議で説明した内容なんだから!」
当然、事実を認められないモモイが往生際悪く反発するも、ユウカはピシャリと撥ね退ける。
一方、話の中で聞き覚えの無い言葉を耳にしたミドリが「ぶ、部長会議……?」と震える声で反芻し――「まあ、貴方達の部長は参加してなかったけどね」とユウカが指摘したその言葉に反応したのか、ロッカーからガタン、と音が鳴り響く。
その際、ミドリは視線をユズが籠っているロッカー、ではなく隣にいる姉の方に向ける。
彼女の目に映るモモイは心なしか冷や汗を流し、視線をせわしなく泳がせていた。
その振舞いに、猛烈に嫌な予感を感じつつ、ミドリは尋ねる。
「……こういう場合って、お姉ちゃんが代わりに参加するんじゃなかった……?」
「…………あ、あの日はちょうど、アイテムドロップ確率2倍イベントがあって……わははのは」
「笑えないんだけどッ!?」
頬を引き攣らせてほざきやがるモモイに、至極当然の怒りをぶちまけるミドリ。
よりにもよって部活の規定変更に関する重大な会議をサボってしまったのだから当然の帰結である。普段は大人しいミドリがここまで声を荒げるところを見ると、相当お冠の模様。
妹に胸倉を摑まれ「ぐええ」と呻くモモイを視野に入れつつ、「まさかそんな理由だったとは……」と額に手を当て溜息を吐きながら、呆れ果てるユウカ。
とはいえ、仮にモモイが会議に出ていたとしても規定を満たす成果が無いのだから、遅かれ早かれこのような事態になっていた、とも言えるが。
何はともあれ。
脱線しかけている話を戻さんと、ユウカが口を開く。
「……正直なところ、アリスちゃんの正体も怪しいし、本当ならすぐに退去を要請しようかとも思っていたのだけれど――正体はさておき、ゲームが好きだっていうのは分かったわ」
「だから、チャンスを与えます」と、ミドリから解放されたモモイへ鋭い視線を向けるユウカ。
「――モモイ、あなた言ったわよね? 『ミレニアムプライスで、びっくりするぐらいの結果を出して見せる』って」
ユウカの凛とした言葉に、うぐ、と声を漏らすモモイ。
それは2日前――ゲーム開発部から依頼を受けた”先生”が部室でモモイ達から説明を受けていた時のこと。廃部について再通告しに部室に訪れたユウカに、モモイが言い放った発言である。
ユウカの売り言葉に買い言葉での発言であったが、あの時点で廃部を免れるための手段がそれしかなかったのも事実。
その為に最高のゲームを創れるノウハウが書き写されている、と謡われている”G.Bible”を求め、廃墟へと向かい――アリスとカービィを見つけたのだから。
最終的にアリスを部員として入部させることで廃部を免れようとした。
それはモモイ自身、ミレニアムプライスに入賞することの厳しさを理解しているからである。
ユウカ曰く『高校球児がいきなりメジャーリーグに出るみたいな雲を掴むような話』とのことだが、その例えは誇張ではなく的を得ていると言っていい。
何せ入賞を狙うのなら当然、同じく入賞を目指す”数ある実績と実力を誇る部活”を上回る作品を創らなければならない。しかし、評価に値する成果を有していないゲーム開発部が入賞する可能性は極めて低い、と言わざるを得ないだろう。
だからこそ、まだ可能性が高い――偶然と不正による結果ではあるが――部員を増やし廃部を免れようとする方針に切り替えたモモイの判断は、正しいと言えるだろう。
――故に、改めて入賞を目指すということの厳しさを痛感したモモイは、尻込みするかのように口籠らせる。
「そ、それはそうだけど……」
「新しいメンバーも増えたことだし、前よりもちゃんと面白いゲームが作れるんでしょうね?」
畳みかけるかのように言葉を重ねるユウカに、うぐぐぐ、とたじろぐモモイ。
しかし悲しいかな、今のモモイにその挑発を撥ね退ける余裕も余力も根拠もない。ないない尽くしである。
そんな彼女の反応に、今までの問題行動について溜飲が若干下がったのか、晴れやかな表情を浮かべるユウカ。
「――それじゃあ、期待してるわよ~」
と、話は終わりと云わんばかりに、彼女は手をひらひら振りながら部室を出ようとする。
その姿にモモイは悔しさからか、それとも何か別の感情によるものなのか、顔を伏せる。
――と、思いきや。
急に顔を上げたモモイは、話に着いていけてなかったアリスからピンクのぬいぐるみ擬きをふんだくりながら、叫んだ!
「ゆ、ユウカッ!」
急に大声で呼び掛けられたユウカが驚きに体を跳ねながらも、モモイの方へ振り返る。
片や、突然の奇行に思い当たる節がありまくるミドリが、これから起こる事に眩暈を覚える。
怪訝な表情を浮かべるユウカに対して、モモイはカービィを突き出して――叫んだ!
「――――こ、この子が路頭に迷ってもいいのッ!?」
モモイの悲痛な訴えを皮切りに、静まり返る部室。
やってしまった、と顔を手で覆うミドリ。
キョトンと首を傾げるアリス。
あわわと、ロッカーの隙間から成り行きを見守るユズ。
グースカ眠っているピンクボール。
そして、強張った表情でユウカを見詰めるモモイ。
そんな決死の訴えに対し、ユウカは――――
「――……いや、あなたが面倒見ればいいじゃない」
「えっ」
呆れたように、至極真っ当なことを口にするユウカ。
そんな返事を予想していなかったのか、モモイの口から間の抜けた声が漏れる。
「それとも、自分たちじゃ面倒見切れないってことなの?」
「え、いや、そ、そのようなアレじゃなくて」
それどころか若干窘めるような言い方にしどろもどろになるモモイ。ここで「イイエ」と言うのは簡単だが、言ってしまえばこの作戦は失敗に終わってしまう為、煮え切らない答えになってしまったのだろう――昨晩の事を考えると面倒を見切れるか怪しいかもしれないが。
そんな彼女の思惑をユウカは当然知り得ない――何か目論んでいることには気が付いてはいるが。
そんな煮え切らないモモイの態度にユウカがため息を吐くと、ヒョイっとモモイからカービィを取り上げ――その行動に思わず「あっ」とモモイが声を上げるも意に返さず、カレを抱き抱える。
「――なら、私がこの子の面倒を見ます。それなら路頭に迷う必要もないでしょう?」
「ちょ、ちょっと、それって拉致じゃん! 告白、告白します!」
「アナタが面倒見切れないから預かるだけよ。……あと、それを言うなら告発でしょう」
ユウカの発言に慌てながらも噛みつくモモイだったが、それに対しユウカの態度は悠然としたもの。その態度にぐぬぬ、と歯噛みするモモイに対して、勝ち誇るようにユウカは笑みを浮かべる。
そんな2人のやり取りを観ていたミドリがはあ、と疲れたように溜息を吐き出す。
どう見ても作戦は失敗。
そもそも、モモイがユウカ相手に舌戦に勝つことは”格ゲーでユズに勝つこと”と同義であり、このままいけばカービィの所有権(?)を剥奪されそうな状況である。
流石にそれは許容できない為、諦めの悪い姉を説得しようとミドリが動き出す――
その瞬間だった。
――今まで静観に徹していたアリスが突然駆け出し、モモイにされたようにユウカからカービィをふんだくった。
突然の出来事にユウカは勿論のこと、モモイ達も目を丸くする。
そんな周りの反応に意を介さず、アリスはキッとユウカの方へ睨みつけた。
「――――か、カービィはアリスのパーティーメンバーです! パーティ勧誘はお断りです!」
腕に抱き込んだカービィをしっかりと抱き抱えながら、アリスは戒める様に声をあげた。
彼女らしい独特な言い回しだったが、要は”カービィを連れて行くな”と云ったところだろうか。
実際に面倒を見ている――というより一緒に暮らしていると言った方がいいか――のはモモイではなくアリス。ならば、彼女の承諾無しに話が進むのは納得がいかないのも当然である。
それにしても、とミドリはチラリとアリスの様子を見る。
あの必死ぶりを見るに、アリスは余程カービィと離れたくない様子。今も渡すものなるかと云わんばかりに、うううう、と可愛く唸り声を挙げ、ユウカを威嚇している。
そんなアリスの反応に流石のユウカも困惑の表情を浮かべる。
彼女としても半ば冗談の行動だったのだが、まさかここまで敵意を剝きだされるとは思ってもいなかったのだろう。
――そんな状況の中。件のぬいぐるみもどきが目を覚ます。
大きなあくびをひとつ吐き、それから寝ぼけ目を手で擦りながら――目の前の人物の顔を見て体を傾げる。カレの覚えている限り今まで会ったことのない人物だったからである。
とはいえ、まずは挨拶――と云わんばかりに”ハーイ!”といつもの様に笑顔を浮かべながら片手を挙げ、元気に声を掛ける。
片や、思いがけず愛くるしい仕草に面食らうユウカ――心なしか、若干頬が緩んでいるようにも見える。
そんな彼女の反応を見たミドリが、半目になりながらポツリと呟く。
「ときめいたんでしょ」
「そそ、そんなわけないでしょう!?」
直球な指摘に、大げさに否定するユウカ。
図星である。
若干の気まずさと気恥ずかしさを覚えたユウカは「と、ともかくっ」と、話を無理やり切り替えるかの如く声をあげる。
「その子の面倒はアリスちゃんが見るということは――路頭に迷うことは有り得ないってことでいいのよね?」
「い、いやそれは――」
「ハイ! アリスが面倒を見ますっ」
ユウカの結論に対し往生際悪く口を出そうとしたモモイだったが、その前にアリスが口を挟んだことにより遂に目論見は破綻した。
その言葉を待っていた、と云わんばかりにユウカがにこやかに笑みを浮かべながら、改めてモモイに向き合う。
「――と、いうことだからモモイ? ミレニアムプライスを楽しみにしてるわよ~」
そう言いながら、今度こそユウカは部室を後にしたのだった。
結果的に、依然として廃部の危機を抱えたままのゲーム開発部。
ミレニアムプライスまで、あと10日――
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【ユウカちゃん出ましたねあああ太ももがムチムチで可愛いよユウカユウカユウカユウカああああああ!!!!】
→ハイ
【お前は何を言っているんだ】
→ダメだこいつ早く何とかしないと
【タンク兼光属性アタッカー】
→闇属性が備わると最強になりそう
【Jaba言語】
→Flash時代が懐かしいのう……
【だ、大丈夫だって、問題ないって!】
→あぁ今回もダメだったよ
【冷酷な算術使い】
→[かんぺき~]/〔これは……すっごいプラスになるやつだ!]/〔悲しみも怒りもすべて因数分解してやるわ!]
【スゴイナー!】
→あこがれちゃうなー
【一難去ってまた一難】
→ぶっちゃけありえない
【モモイ の にらみつける !】
→LV.51
【間違いなく私は完璧なプログラマーです】
→君は完璧で究極のナントカ
【ごっど・いず・でっど!】
→GASCOIGNE!
【そのようなアレじゃなくて】
→と、とりあえず異議を申し立てる!