Spring Sky StarS! 作:笹ピー
12-1
ミレニアム郊外の廃墟。
その立入禁止区域内では変わらず、オートマタが徘徊を続けていた。
ソレに自己意志は存在せず、唯々与えられた指示をこなすだけの存在。来る日も来る日も――日が昇り、月が沈もうとも変わらないルーティン。
その任を果たす為であれば一切の躊躇も加減もしない。異端となる存在を見つけ次第、即座に排除行動に移るだろう。
何も疑問を持たず。
何も、恐れずに。
――その時。一帯にアラーム音が突如鳴り響く。
徘徊するオートマタの足音やドローンの飛行の際に発する音を除けば、銃声一発で区域の全域にまで響き渡るこの区域に於いて、その音は清々しいまでにけたたましく廃墟内に響いた。
無論、機械兵にとっても聞き慣れない異音。信号のやり取りでも無いし、合図の知らせでもない。
故に、其処に異常がある――と断ずるのは早かった。
異常を感知したオートマタはすぐさま、発信源へと向かう。幸か不幸か未だアラーム音は鳴り響いたままであり、特定には然したる時間を要さないだろう。
重要拠点を警護していた編隊も、出入口周辺に3編成残し、残りは遊撃に出る。
つい最近侵入されたことも相まってなのか、大多数が向かう――徹底的に、確実に排除すると云わんばかりにアラーム音の発信源である、工場跡地から約1Km程離れた廃ビルへと。
やはり、何の疑いもせずに。
異常を確認してから、ものの数分で廃ビルの包囲が完了したオートマタの大群。アラーム音は既に鳴り止んだようだが些細な問題である。
何せ最後に鳴りやんだ場所は、現在包囲している廃ビル――その屋上なのだから。
万が一でも逃げられないように、内部に突入する編隊以外のオートマタは出入口を重点的に周囲を囲む。ドローンは索敵要因として建物周辺を徘徊させる算段のようだ。
正に、これ以上ない布陣。この中を正面突破するのは余程の実力者でもなければ不可能に近い。
準備は整った。後は内部へ突入し、侵入者を排除するのみ。
合図は無く、数十機のオートマタが駆け足で侵入を始める。当然、疲労など感じる機能など無いため一糸乱れず内部を駆け回る。
一階上がるたびにそのフロア内を徹底的に捜索。異常が無ければ再び階段を駆け上がり、またフロア内の探索――その繰り返しを続ける。
常人なら痺れも切らすような虱潰しな作業を淡々と――しかし迅速にこなしていく。
そうして、屋内全体を調べ――いよいよ本命の屋上へと足を踏み入れた。
姿を確認次第、攻撃を開始する――そう云わんばかりに臨戦態勢で突撃し――
踏み込んだ屋上には、誰もおらず。
カレらに感情があれば、困惑の表情を浮かべていただろう――確かに音の発信源はここからなのだから。
ならば逃げたのか。しかし、既に入口は包囲済み。
現時点で待機中の機体から連絡はない。屋内も徹底的に調べ、隠れられる場所は無いはずである。
唯一、逃げられる場所を挙げるとすれば。
そう思考回路を廻す――――次の瞬間である。
廃ビルの下層目掛けて、極光が突き抜ける――!
入口に待機させていたロボットごと巻き込んだ一撃。しかしそれはあくまでも本懐を遂げるために生じた副産物に過ぎない。
その一撃は高層ビルにとっての生命線を的確に撃ち抜いた。
上層を支える――支柱である。
元々老朽化していた建物。それでもビルとしての形を何とか保っていたのは、劣化が目立っても支え続けていた支柱によるもの。それを踏まえれば、この廃墟も元々は高い技術力に基づいて作られた都市だったのだと推測できるかもしれない。
故にそれを潰せば、崩れるのは当然。
呆気なく倒壊する建造物。
包囲の為、周辺に待機していたオートマタは倒壊する建物に巻き込まれ――内部へと突入した編隊は建物ごと落下。空中へと投げ出され、身動きの取れないまま、大地へと叩きつけられるのを待つのみ。
一体何が起きたのかもわからず。物言わぬスクラップと成るのを待つだけのオートマタ達。
――そんな中、空中に投げ出された一体のロボットが青い空の中、何かを見つけた。
侵入者、と断定するも手元にあった銃器は既に投げ出されてしまい攻撃は不可能。近づこうにも宙を舞っているこの状況下では接近する手段は無く、そもそも距離はかなり開いている。
唯一できる行動は、その姿を見送ることだけだった。
風船のような、桃色の生物が――フワフワと呑気に飛んでいく姿を。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
12-2
今回、ユズが提案した作戦は云ってしまえば陽動作戦であった。
以前モモイとミドリ、そして”先生”が探索した際運悪く(というより注意不足で)オートマタに追われた状況を聞いていた彼女は、何かで奴らを誘導できるのでは、と考えた。
異常さえ検知できれば何でもいい――例えばスマホのアラームでも。
そうして思い付いたのが――アラーム音で工場周囲を巡回する敵機を誘導し、手薄になった入り口を叩く。ざっくり言えばそういう作戦である。
当然、話を聞いていたモモイ達から意見が挙がる。
例えばどこへ誘導するのか――
戻ってきたオートマタをどうするのか――
今のこの時代でスマホを失うのは痛すぎる――等々。
――そこで、カービィの出番だった。
ユズのスマホを持って、建物の屋上へ移動。そこで音を鳴らすことで敵を誘き出し、その前に空へ脱出――正にカレにしかできない特技を用いた作戦だった。
実際、スマホを持たせたままでも、モモイの時とは違いホバリングには支障はなかった。
そして、戻ってくるオートマタについては、そもそも戻ってこさせない――というのがこの作戦の肝である。誘導地点まで誘き出した後、遠方からアリスの”光の剣”を以って建物の支柱を狙い倒壊させる。その倒壊に大多数を巻き込んで一網打尽――という計画であった。
無論、懸念点も存在する。
陽動役のカービィにはどうしても接敵という危険が付き纏う。また、敵の編成には空中を滞空できるドローンの存在もある。空中も必ずしも安全とは言えないのではないか。
その問いに答えたのは、意外にも”先生”だった。
”前者はともかく……少なくとも、あのドローンは高いところまでは飛んでこないと思うよ”
その根拠は先程の屋上からの視察、それと前回の敵の布陣からだった。
恐らく視察用の軽量型のドローンは存在せず、あくまでも戦闘用に調整された重装備型のドローンしかいないのではないか、と”先生”は推測した。その説明に、以前廃墟に訪れたモモイとミドリもそういえば、と思い返し、確かに低空を飛ぶ機体しか存在していなかったと思い出す。
ならばその問題も高い高層ビルを誘導地点に選べば解決できるだろう。
あとは、危険の有無に関してだが――
――少し逡巡した後、アリスは首を縦に振った。
『カービィはパーティメンバーの一人です。だから……アリスはカービィを信じます』
恐らく、この中で最もカレの身を案じているのは彼女であり――そして、最もカレを信頼しているのも彼女だった。そんな彼女の心配とは裏腹に、当の本人はやる気に満ち溢れた表情で頷いた。相変わらずの反応に一同は顔を見合わせて、困ったように笑みを零すのであったとか。
そして、アリス達が陽動している間に手薄となった警護をモモイとミドリ、そしてユズが”先生”の指揮下で撃破――その後アリス達と合流し、工場内へ侵入。
後は目的の”G.Bible”を入手する。これがユズが考えた作戦内容だった。
後は、作戦通り。
着信音をアラームに設定、それから音量を最大にしてからカービィにスマホを持たせ、誘導地点に移動したことをGPS機能で確認。その後ミドリの携帯から電話することでアラームを鳴らし、敵に気付かせることに成功した。
そしてカービィはオートマタが集まってきた頃合いを見て屋上から脱出し、その後アリスが建物の支柱を破壊。誘導に引っかかったオートマタ達を倒壊に巻き込ませ、見事に一網打尽にしたのだった。
そして、アリス達と別行動を取っていた、ユズ達も――
”――ユズ、今だよ!”
「は、ハイ……っ!」
”先生”の指示を受け、ユズは自身の愛銃でもあるグレネードランチャー”にゃん’s ダッシュ”のトリガーを引く。それと同時に放たれる擲弾――ではなくミサイルに類似した弾が残存勢力へと向かうと、着弾と同時に爆発――広範囲に拡散した衝撃と熱が敵を襲う。
彼女の振り絞った勇気が功を成したのか、運よく爆発に巻き込まれたオートマタは耐久限界を迎え、そのまま沈黙。範囲から逃れた敵もモモイとミドリが畳み掛けるように追い討ちを掛け、無力化させる。
気付けば残りあと5体。終わりが見えてきたことも相まって意気揚々と残る兵力へ突撃する一同。
――そんなときこそ、好機なのだろう。
伏兵、という存在にとって――――
”――――ユズ、左ッ!”
最初に気付いたのは”先生”。後方にて支援する役割故にその存在にいち早く気づけたが、残念ながら一歩及ばなかった。
後方で火力支援を行っていたユズに注意を飛ばした”先生”だが、彼女がその言葉に気付くのと同時に遮蔽物からアサルトライフルを構えた一機のオートマタが飛び出す。
既に攻撃態勢が整った相手とは対照的に、奇襲により完全に無防備状態を晒すユズ。前衛を担当していたモモイ達がそれに気付き、急いで相手を狙うもこちらも一歩及ばず。
ヒッ、と短い悲鳴を漏らし、これから襲い掛かる銃弾に対し身を縮め目をギュッと瞑るユズ。”ヘイロー”を有している”生徒”には多少の銃撃など致命傷には成り得ないが、痛みに対する恐怖感による条件反射だろう。痛いものは痛い。
目を瞑ったユズは、当然目の前の光景がわからない。
しかし、これから来るだろう痛みによる恐怖から目を開けられない。
そんな状況が数秒程続き――――流石にその状況に疑問が浮かぶ。
すぐに来ると思っていた攻撃が、何時まで経っても来ない。
何が起こっているのだろうか。
それを確かめようと恐る恐る少しづつ瞼を開き――目に映る光景に、思わず目を見開いた。
――なんと、襲撃してきたオートマタに黄色に光る星がめり込んでいた!
機体を大きく凹ませたオートマタはそのまま後ろへと倒れ、動かなくなった。
突如として起こった摩訶不思議な光景に混乱するユズ。兎に角、何が起こったのかを把握しようと周囲を見渡し――つい先程までこの場にいなかった仲間の姿を発見する。
そこには、大きく口を開いたままのカービィを前方に突き出しているアリスの姿が!
「――アリスパーティー、依頼クエストをクリアし合流しました!」
「カービィ!」
「アリスちゃん!」
自慢げに笑みを浮かべて、誇らしげに告げるアリス。それに便乗する形でカービィも大きく開いた口をいつもの大きさに戻し、笑みを浮かべて小さな片手を元気いっぱいに挙げる。
それに気付いたモモイとミドリが驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべると、それぞれの名を声を弾ませて呼ぶ。
一方でまだ呆然としていたユズ。その間に後方へと下がったモモイとミドリが彼女の元へ辿り着くと彼女へ話し掛ける。
「ユズ、大丈夫だった!?」
「……ごめん、ユズちゃん。前に出すぎだったね」
慌てた様子でユズの身を心配するモモイと、危険な目に遭わせたことへの謝罪と自分の行動への反省を口にするミドリ。
そんな二人に「ううん、大丈夫」と安心させるように微笑み、そして改めてアリスの――というよりカービィの方へとチラッと視線を向けたユズが「それより……」と、二人に尋ねる。
「話には聞いてたけど……あれが、カービィの?」
「うん、あれがカービィの能力……というか攻撃手段っていうか……」
「ドローンとか吸い込んで、吐き出すと何故か星になって飛んでいくの。しかもケッコー強力!」
二人の話を聞き、「そうみたいだね」と、今度は仰向けに倒れたロボットへとユズは視線を向ける。先程まで星の形を保っていたが、気付けば変わる前だったと思われるドローンの残骸へと元に戻っていた。加えて一撃で行動停止に至らしめる分を見ると、威力も備わっているのだろう、と彼女は分析する。
大まかな経緯として、モモイ達と合流しようとしたアリスとカービィが潜伏する伏兵を発見。
すぐにアリスが”スーパーノヴァ”にて砲撃を行おうとするも、弾を撃ち出すためにはチャージが必要な為、直ぐには撃ち出すことができない。強力な一撃と引き換えに、即効性に欠けるのが彼女の武器の弱点とも云えるだろう。
そんなこと当然知る由もない伏兵がユズへ襲撃を仕掛けようとする――そんな時、すぐ近くにドローンの残骸が落ちていることに気付いたカービィが、咄嗟にそれを吸い込む。
突然の行動に驚くアリスだったが、すぐにその行動の意図を理解。手に持っていた”光の剣”を背負い直し、頬張り状態のカレの体を持ち上げる。
そして伏兵に狙いを定め――命中させた、といったところだろう。
そういった経緯を、ユズ達の元に駆け寄ってきたアリスが何故か自慢げに一同に説明していた。何はともあれ、彼女が抱き抱えている桃球生物の機転のおかげで、ユズは無事に済んだということに間違いは無い。
「……うん、そっか。ほんとにありがとう、カービィ、アリスちゃん」
そのことを改めて認識したユズが、頬を緩ませながら二人に心からの感謝の意を伝える。その言葉にアリスとカービィはニコニコと笑みを浮かべて応えた。
思わず和やかな雰囲気となる一同――だったが、”コホン”と少しわざとらしい咳払いが一同へと伝わる。
”まだ敵は残っているよ。油断せずに行こう!”
”先生”の言葉に、気を引き締めなおす一同。カービィも周りの様子に合わせて、キリッと目尻を上げる。残る数は前方の5機だが、先程のように伏兵が潜んでいるのかもしれない。その可能性を考慮しつつ、陣形を整えるアリス達。
――それから2分と待たずに、全員無事に工場跡地へと侵入を果たしたのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
12-3
”G.Bible”のデータがあると思われる建物の内部にいよいよ進入できたモモイ達。
今まで戦闘続きの上、緊張感が続く状況の中。周囲の安全を確認した上で一度息を整えるために、入り口から内部を少し進んだところで一同は立ち止まった。
「な、なんとか内部に侵入できたね」
「進入成功。ミッションをクリアしました」
少し息を切らせながら額の汗を腕で拭うミドリの一言に、アリスは喜びの感情が籠った言葉を口にする。その言葉に触発されたように気を良くした様子のモモイが周りに話しかける。
「ねえねえ、私たちってもしかして実はすごく強いんじゃない? C&Cとか、他の学校の戦闘集団と戦っても勝てちゃうかも!」
「少なくともC&Cは絶対に無理だと思うけど……確かに自分でもちょっとびっくり」
先程の戦闘の健闘を思い返し、調子に乗るモモイの言葉に難色を示すものの自分自身ここまで動けたことに驚く様子のミドリ。
――実際のところ、モモイが調子に乗るのも無理も無い。
モモイやミドリ、ユズの三人は戦闘技術に秀でているわけではなく個々の実力については一般の”生徒”と大差はない。その事実は本人たちが一番わかっていた。
だからこそ、理解しているのだろう。彼女たちが此処まで来れた要因の一つとして――
「――きっと”先生”の指揮のおかげですね」
「わたしも、そう思う……”先生”がいると、安心感が違う……」
ミドリが尊敬の眼差しを向けて呟けば、それに同意する形で頷くユズ。事実、”先生”の指揮が無ければ突破にもう少し時間を掛けていただろう。戦闘経験が浅い彼女たちにとって、的確な指示を出す司令塔の存在は何よりも有難い存在である。
周りから尊敬の眼差しを受ける”先生”だったが、柔らかく微笑みながら”そんなことはないよ”と、頭を小さく横に振る。
”ここまで来れたのは皆の協力があってこそだよ”
そう言った後に続くように”それと”と呟きながら、視線をある少女の方へと向ける。少女も視線を向けられていると気付き、キョトンとした様子で見つめ返す。
その様子に”先生”が小さく笑うと、先の言葉を紡ぐ。
”――作戦が良かったからね!”
”先生”が明るくそう告げると、今度はある少女へと視線が集まる。その一方、突如視線を集めることになった少女――花岡ユズが慌てた様子で小さく両手を上げ、首を横に何度も振る。
「わ、私はただ、思いつきを言っただけで……それに、一番頑張ってくれたのは――」
謙遜するように否定の言葉を口にしたユズが顔を向けた先は――今回の作戦に置いて肝心の陽動役を務めたカービィだった。
包囲された地上からの脱出が難しいと判断したが故に抜擢されたが、ユズ本人もその役割についてかなり不安と心配を抱えていた。
”先生”の言葉もあり空中は比較的安全と判断したが、絶対とは言えない。何より、誘導場所に向かう途中で敵と接敵し、危険な目に遭う可能性も考えられるのだ。
だからこそ最初話すことをユズは思いとどまり、そして”思い付き”と周りに何度も念を押した。ただの参考程度――もしくは与太話にでもなればいい、と。
その事実に改めて申し訳なさが湧き上がってきたユズに対して、カービィはハッと思い出すように顔を上げ、自身を抱き抱えているアリスの腕を片手でポンポンと軽く叩く。
その行動に首を傾げキョトンとするアリスだったが、やがて彼女も「あ、そうでした」と思い出し――制服の上着ポケットからあるものを取り出す。
「ユズ、これをお返しします」
「え……?」
そう言いながらアリスが手渡したのは――ユズのスマホだった。今回、誘導の際に必要になるから、と言って彼女がカービィに預けたものだ。
尤も、壊れても――或いは無くしてもいいと考えていた彼女は、まさか返ってくるとは思っていなかったのか、少し驚いた表情を浮かべる。
それを見たアリスがニッコリと笑みを浮かべて答える。
「合流したとき、カービィはそれを大事に持っていました。きっとユズの必須アイテムだとわかっていたのだと思います」
アリスの言葉に、ユズの脳裏にある会話が思い浮かぶ。
それは誰のスマホを使うか、という話の中で「自分のモノを使う」と彼女が答えた時である。
『――ユズ、ほんとにいいの? もしもスマホ無くしたら不便になるんじゃない?』
『それに最近の機種って結構高いんじゃ……』
心配そうに尋ねるモモイとミドリ。一時的に預けるとはいえ、作戦上紛失や破損する可能性が極めて高い。まず戻ってくることはないだろう、と考えた二人なりの気遣いだった。
その言葉に”なら私のを使って”と、自分のスマホを取り出そうとした”先生”――しかしそれはユズによって、止められた。
『い、いいんです、これぐらい当たり前……ううん、寧ろ足りないぐらい、ですから』
控えめに笑みを浮かべていた彼女だったが、最後まで自分のスマホを使うことについて譲らなかった。
それは彼女なりの今できる誠意の表れだったのかもしれない。
そんな会話を聞いていたカービィは、渡されたモノがユズにとって貴重なモノと認識したようだ。ならばと思い、無くしたりぶつけたりしない様にカレなりに丁重に扱うように心がけたのだろう。
改めて、ユズが返ってきたスマホに目をやると、渡したときと変わらぬ状態の姿がそこにあった。
それを横から見ていたモモイが感心した様子で「へーやるじゃん、カービィ!」とカレの頭を撫で、撫でられている本人はえへん、と得意げに頬を綻ばせた。
その様子を見たユズは改めてカービィを見つめる。
今も尚、アリスに抱き抱えられるほどの、ぬいぐるみと形容されてもおかしくはない小さな体。キヴォトスに住む住人でカレより小さい者は滅多に存在しないだろう。
にも拘わらず、目の前の危険に堂々と立ち向かえる勇気。
自分の決断を信じてやまない自信。
そして、仲間を思い遣る優しさ。
自分より小さな体でありながら、自分より強い心を持つカレに対してユズは素直に、スゴイ、と思った。
今は無理でも――カレのような――勇気と信念を持てる自分に。
――――周りに”部長”と言い張れるような存在に。
そんな、憧れを抱くぐらいには。
ユズがカレへの羨望の眼差しを向けているその一方、ふと気になったことがあったのか「ところで」と、ミドリが周囲に問いかける。
「みんな残弾数は大丈夫そう?」
「アリスは問題ありません。MPはまだ60%以上残っています」
「わたしも全然よゆーだよ! ユズはどう?」
「あ……うん。少し消費したくらいで、支障は無いかな」
問いかけに対しての返答は、全員問題なし、との答え。
その言葉に「そっか」と、ミドリが安堵した表情を浮かべる。これも最初に敵を多く無力化した成果だろう。
そんな会話に耳を傾けていた”先生”が一つ提案を口にする。
”それなら進路の妨げになる敵は撃破して進もうか。あまり時間を掛けるのも良くないし”
”勿論、周囲を警戒しながらね”と言葉を継ぎ足しながら”先生”は言う。
弾数に余裕がある今、現時点での懸念すべきことは時間を掛け過ぎたことによる残存兵力の襲撃。そもそもあのオートマタ達が何処からやってきているのかさえも判らないことを踏まえ、あまり悠長に構えるのは得策ではない。
それならば少し強引でも出来るだけ早く目的の”G.Bible”を見つけ、直ぐに撤収すべきだろう――という判断によるものだった。
”先生”の話に異論はなかったモモイ達が頷き、休憩もそこそこに内部探索を始めようと歩みだす――その時、ふと足を止めた者がいた。
急に足を止めた人物――アリスへと不思議そうな表情を浮かべるカービィ。そのことに気付いていないのか、モモイ達が進んでいる方向とは違う方へと目を向けるアリス。
すると、アリスが付いて来てないことに気付いたモモイがきょとんと首を傾げ、尋ねる。
「アリス、どうしたの?」
モモイの問いかけに対し、アリスは「分かりません」と答えた後、すぐに「ですが……」と言葉を紡ぐ。相変わらず視線は別の方へと向けられたままである。
「どこか見慣れた景色です。こちらの方に行かないといけません」
そう答えると、相手の返事も待たずに視線の先の方へ歩みだすアリス。彼女の行動に戸惑うモモイ達だが、足を止める気の無い彼女の後を一先ず追う。
まるでこの建物の構造を熟知しているかのように進んでいくアリスは自分自身、疑問を抱いていた。
記憶には無いが、知っている。
そんな、矛盾した感覚に戸惑いながらもアリスは進んでいく――まるで誘われているかのように。
そうして、進み始めてしばらくして――あるモノを見つける。
「あっ、あそこにコンピューターが……あれ?」
モニターとキーボードが組み込まれた筐体を指差すミドリだったが、ふと疑問に思い首を傾げる。彼女の言葉に耳を傾けていたモモイも視線を向けると、すぐに違和感に気づいた。
「あのコンピューター、電源が点いてる……?」
その言葉を裏付けるように、画面は暗転した状態であったものの、モニターにはバックライトが仄かに点灯した状態だった。明かりに気づけたのは施設内が薄暗かったことが要因だろう。
――――すると突然、
[――――……”Divi:Sion System”へ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]
と、一文が画面に表示された。
その一行程空白を空けて、文字入力を促す様にテキストカーソルが続け様に表示される。
「お、まさかの親切設計。”G.Bible”について検索してみよっか?」
「いや、ちょっと怪しすぎない? それより”ディビジョンシステム”っていうのが、この工場の名前……?」
思わぬところで情報が得られることに喜ぶモモイとは一先ず対照的に、目の前の端末に対して懐疑的なミドリ。
そんな二人の反応を余所に、端末に備え付けてあったキーボードを確認したアリスが、端末へとゆっくりと近付く。
「”G.Bible”、と入力してみます」
「き、気を付けてね……アリスちゃん」
抱き抱えていたカービィを右肩に寄りかからせるように移し、アリスはキーボードへと手を伸ばす。そんな彼女にユズが不安げに後ろから声を掛ける。
周りの視線を受けながらタイピングを始めるアリス――尤も、検索する単語は十文字にも満たない為、すぐに打ち終わった。
すると、入力した文字の一行下に新たな一文が表示される。
[――#$’$$%#%^*&(#@]
「こ、壊れた!? アリス、一体何を入力したの!?」
「い、いえ……まだエンターは押していないはずですが……」
表示された支離滅裂な一文に壊れたと思い込んだモモイは焦りを見せる。一方、あくまで”G.Bible”という単語を打ち込んだに過ぎないアリスは戸惑うばかりである。
そのまま、応答を見せずに沈黙する端末――だったが、あまり間を置かず、画面に新たな一文が表示される。
[――――あなたは”AL-1S"ですか?]
端末に表示された一文を認識したモモイとミドリ、そして”先生”は思わず息を呑んだ。
3人がその名を知ったのはついこの間の事。
そしてなにより、その名を元々有していたのは――
「いえ、アリスはアリスで――」
「ま、まって! なにかおかしい……!」
自分の事を聞いているのだと思ったアリスが答えようとしたところを、ミドリが反射的に遮った。元々、この端末に薄気味悪さを感じていた彼女だったが、いよいよコレに対して得体の知れない恐怖感を抱いたのかもしれない。
「とりあえず今は何も入力しない方が……」と、アリスに警戒を促すミドリだったが――時既に遅かったと云わんばかりに再び、画面に変化が訪れる。
[音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、”AL-1S"]
「お、音声認識機能付き!?」と、驚愕するミドリ。既に放置された廃墟とはいえ、未だに稼働することも踏まえやはり備え付けられている機能も高性能のようだ。
そんな中、いまいち話が見えていなかったユズが、「えっと」と、おずおずとミドリに尋ねる。
「”AL-1S"っていうのは、アリスちゃんのことなの?」
「あ……、ごめん。そういえばユズちゃんに説明してなかったかも」
ユズの問いに、ばつが悪そうな表情を浮かべ答えるミドリ。それから改めて、”AL-1S”はアリスを見つけた時、彼女が近くに刻まれていた言葉であることを説明した――尤も、本当にアリスの名称なのか彼女自身記憶を失っている為、定かではなかったのだが。
ミドリの説明にユズが納得している中、その話に耳を傾けていたアリスは改めて自分自身の存在について思慮を巡らせる。
「……アリスの、本当の名前……本当の、私……」
”AL-1S”。
記憶の無い彼女にとっての唯一の手掛かり。この名が一体何を指し示しているのか、彼女自身も未だわからないままである。
しかし今、目の前にソレを知る存在がいる。それを眼前にしたアリスは逸るように口を開く。
「あなたは――”AL-1S"について知っているのですか?」
期待と不安を胸に抱えてアリスは問いかける。それから先と同じように一同は画面を注視し、応答を待つ――が、
「……反応が遅い?」
「何か画面もぼんやりしてきたけど、処理に詰まってるのかな?」
今までよりも反応が遅いことにミドリとモモイが怪訝な顔を浮かべる。
その懸念を裏付けるかのごとく――
[そうで……@!#%#@!$%@!!!!]
「え、え、何これ、どういう意味!?」
挙動の怪しい反応に、慌てふためくミドリ。その後、ピピピッという電子音が鳴り始めると同時に、画面に[緊急事態発生]と表示される。
[電力限界に達しました。電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]
「ええっ!? だ、ダメ! せめて”G.Bible”のことを教えてからにして!」
唐突に告げられる制限時間に焦りを見せるモモイは一抹の希望をかけて、自分達の探し物について尋ねた。
ある意味やぶれかぶれの気持ちで口にした言葉であった――が、相手は思いもよらない反応を返した。
[――あなたが求めているのは、”G.Bible”ですか?]
その一文が表示されるのと同時に、一行下に<YES/NO>という二択の選択肢が表示された。
まさかの応答に一瞬面食らうモモイに変わり、隣のミドリが食い付くように「YES!」と、反射的に答える。
すると関連する用語、分類を検索しているのか、次々に単語が羅列していき、やがて”廃棄対象データ1号”という言葉を最後に検索を終了した。
そして、思いがけない提案が相手側から提唱された。
[提案。”G.Bible”が欲しいのであれば、データを転送するための保存媒体を接続してください]
「えっ……? ”G.Bible”の在り処を知ってるの?」
向こうからの提案にモモイが思わず問いかけると、[正確には、私の中に”G.Bible”があります]と、答えた。それから、その回答に続くように一文が追加される。
[現在私は消失寸前。データが欲しいのであれば新しい保存媒体への移行を希望します。残り時間35秒]
ある意味、脅しの様にも聞こえ無くもない提案。言葉尻に付け加えた残り時間が何となく嫌らしい。しかし迷っている時間はもはや無いに等しく、この機会を逃せば今後入手できるかも怪しい。
ならば一抹の希望に賭けるしかない。そう考えたモモイだが、生憎、肝心の保存媒体にあたりがつかない――――と思いきや、あるモノが頭に浮かび、それを取り出しながら尋ねる。
「”ゲームガールズアドバンスSP”のメモリーカードでも大丈夫?」
ゲーム機を取り出しながら問うモモイに対して、沈黙する端末。
そして、時間が無いってのに約3秒程時間を掛けて応答した。
[……………………まあ、可能、ではあります]
「な、何だかすごく嫌がってる感じがするんだけど……気のせい?」
明らかに不服そうな言い回しに困惑するモモイだったが、一応承諾を得ることに成功。すぐさまユズが通信用のケーブルを端末とゲーム機に接続を終えることによって、転送の準備が整う。
そして、いよいよ限界に近づいてきたのか、端末の画面にノイズがチラつかせながらも転送が開始される。
すると、ある一文が追加される。
ゲーム機の持ち主にとって、恐ろしい一文が――!
[……保存領域が不足。既存データを
「――えっ、嘘っ!? もしかして私のセーブデータ消してない!? ねえっ!?」
[容量が不足しているため、確保します]
「だ、ダメ! お願いだからセーブデータは残して! そこまで装備揃えるのすごく大変だっ――」
まさかのセーブデータ削除宣告。
血も涙もない行為を食い止めようと、必死に頼み込むモモイ。彼女にとって寝る間も惜しんで積み上げた努力の結晶。それが水泡に帰すと知れば黙ってられないのは当然の帰結である。
果たして、彼女の祈りは――
[残念、削除]
――おきのどくですが モモイのセーブデータは きえてしまいました。
鬼の所業にモモイが「ちょっとおおぉぉおおっ!?」と慟哭しながら膝から崩れ落ちた。
その悲壮感溢れる姿に流石に可哀そうだと思い、同情するミドリとユズ、そして”先生”。
一方アリスはよくわかってないのか不思議そうな表情で首を傾げ、カービィはなぜか『0%_0%_0%』という謎のワードが頭を過り、身に覚えのない記憶に身体を傾げた。
「わたしのゲームガールズアドバンスのデータがあぁぁっ!」と、激情に駆られ地面をのたうち回るモモイだが、そのとき彼女のゲーム機の画面に、ある表示が浮かび上がる。
『新しいデータを受信しました。<G.Bible.exe>』
その知らせに、一同は目を見開く。ゴロンゴロンしていたモモイもピタッと動きを止め、画面を注視する。大きな代償(本人談)は支払ったものの、確かにソレは彼女たちが探して止まないモノだった。
「こ、これって!?」
「こ、これ今すぐ実行しよう! 本物なのか確認しなくっちゃ!」
驚愕の声をあげるユズと、すぐさま立ち上がりゲーム機を操作するモモイ。念願のアイテムを目の前にし、期待が高ぶる一同はゲーム機の画面に注目する。
そして、いよいよ”G.Bible”のファイルを立ち上げたモモイ。胸の高ぶりを感じながらファイルの実行を待つ――――が、
『パスワードを入力してください』
「――ってパスワードが必要!? 何それ、どうすればいいのさ!?」
ポップアップが出てきたと思いきや、ロックを解除するためのパスワード要求。肩透かしを受けたモモイが思わず憤慨するが、ミドリが逸る気持ちを抑えつつも「大丈夫」と、姉を落ち着かせる。
「普通のパスワードくらいなら、”ヴェリタス”が解除できるはず……!」
ミドリの言葉にユズが目を輝かせながら何度も頷く。普段はおとなしい彼女も、念願のモノを手に入れたせいか気を急く様子を露わにする。
その言葉を聞いたモモイが、「そ、そうだね」と一先ず気を落ち着かせた。
何はともあれ、目的の物は手に入れた。
後はここから脱出し、そして――
「これがあれば、本当に面白いゲームが……”テイルズ・サガ・クロニクル2”が……!」
「……うん、作れるはず!」
期待に声を震わすミドリに同意するように、意気揚々と答えたモモイ。もはや彼女たちにとってハッピーエンドの条件は満たしたと云っても過言では無い。逸る気持ちを胸に抱え込みながら、すぐさま彼女たちは帰路を急ぐことにした。
「――――待っててねミレニアムプライス……いや、キヴォトスゲーム大賞! 今度こそキヴォトスのゲーム界に良い意味での衝撃を与えてやるんだから!!」
そんなモモイの決意に満ちた言葉を後に、一同はその場を駆け出したのだった。
ただ1人――アリスを除いて。
先程まで動いていたが、いつの間にか電源が落ちていた端末に尾を引くように視線を向けるアリス。その表情は何か考え込むかのように浮かない表情だった。
そんな彼女を気にしてか、先程からずっと彼女の右肩に寄りかかっていたカービィがポンポンと軽く肩を叩き、様子を伺った。
そのことに気付いたアリスはカレへと視線を向けるものの、やはり表情は優れない――が、少し困ったように笑みを浮かべて、口を開く。
「……ごめんなさい、まだ潜入ミッションの途中でした。ホームに帰るまでがミッション、ですね」
そう答えながら謝る彼女は、肩に寄りかからせていたカービィを再び腕で抱き抱えた。その言葉にカレは笑みを浮かべて頷くと、その仕草に少し表情を和らげるアリス。
すると、少し距離を離したところでモモイがアリス達を呼んでいた。気づいたアリスは駆け足でモモイ達の元へと急ぐ。
それからすぐに合流を果たしたアリスは、一同と帰路につきながら考えていた。
――”AL-1S”。
彼女にとって、唯一自分に繋がる手がかり。端末のAIは彼女に対し、確かにそう呼んだ。
結局、”AL-1S”について有耶無耶になるような形で、情報を得られなかったアリス。その事実に彼女自身、落胆してるような――安心しているような、言葉に言い表せない複雑な心境を抱いていた。
(何を、知っていたのでしょう)
電源が落ちる前、AIは”消失寸前”と言っていたことから、例え電源を復旧してもあの端末にはもう何も情報は残されていないと考えるべきだろう。つまるところ、手がかりは無くなったと云っても過言ではない。
とは言え、明確に自分の存在を知るものがいた。それはこの世界に存在していた、という証拠ともいえるだろう。
それ自体がある意味手がかりとも云える、かもしれない。
――そう考えた一方で、胸元の存在に視線を落としたアリスは、ふと疑問に思う。
(――……カービィのことは、知っていたのでしょうか)
キヴォトスにおける、一般向けの開示情報に全く情報の無い生物。
モモイ達はキヴォトスの”外”からやって来た存在、と見做しているようだが、それに対しアリスは何処か違和感を感じていた。
”外”について情報が少ないことは確かではある。
しかし、全く情報が無いわけではない。寧ろ”外”からの文化や知識を取り入れたケースも存在する。何より、カレのような奇抜な存在がまったく話に上がらないのは、今のご時世的にあり得ない話に近い。
つまり、モモイ達に見つけられるまでカレについて、誰も知り得なかった状況だった――と云ってもいい。
あのAIは知っていたのだろうか、と考えるアリスだったが、それを確かめる機会は既に失ってしまった。
唯一、カレから知った”カービィ”という名前。
果たして、それは本当に”カレ”の名前なのだろうか――?
無意識にアリスは、”カレ”に視線を向ける。
前を向いている”カレ”は、当然気が付かない。
”カレ”について何もわかっていないことに気付いたアリスは――なぜか、ほんの少しだけ寂しさを覚える。
その感覚を誤魔化す様に。
カレに悟られない様に。
ほんの少しだけ強く――――大事に、抱きしめた。
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【彼女の振り絞った勇気が功を成したのか、運よく爆発に巻き込まれたオートマタは耐久限界を迎え、そのまま沈黙】
→ユズパチ成功です
【襲撃してきたオートマタに黄色に光る星がめり込んでいた!】
→バイオレンスをファンシーで誤魔化すのがカービィ流よ
【おきのどくですが モモイのセーブデータは きえてしまいました。】
→デレデレデレデレデ~レッ♪ じゃねえよ
【0%_0%_0%】
→ピコーンッテロテロテロテロタタッタッターンタタッタッタターン♪
ド ン ☆ じゃねえよ
【それは本当に”カレ”の名前なのだろうか】
→もしかしたらポポポかもね