Spring Sky StarS! 作:笹ピー
13-1
「――依頼された”データ”について、結果が出たよ」
今までキーボードのタイピングを行っていた少女が手を止めたと同時に、部室に訪れた一行に聞こえる様に告げる。
それに対して物々しい雰囲気を察知したのか、固唾を呑む訪問者一行。
「知っての通り私たち――”ヴェリタス”は、キヴォトス最高のハッカー集団だと自負してる」
敢えて少女は、自分の所属について説明する。
言葉の端々には確固たる自信を示しながら。
事実、彼女達は各地における企業などのシステム管理やデータ復旧について、数多く解決してきた実績を持つ。エンジニア部のように表立つことは多くはないが、その存在を知る者達において、彼女達の実力を疑う者はいない。
「その上で、単刀直入に言うね」
そのことを強調し、白髪のポニーテールが特徴的な少女――2年生の”小鈎ハレ”は告げる。
同時に、緊張の色を濃くする一同。
それから全員を一通り見渡した後、訪問者の1人を見つめたまま――ハレは口を開いた。
「――――モモイ、あなたのセーブデータを復活させるのは無理」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん! もう駄目だ、おしまいだ――――っ!」
発言を聞いた訪問者の1人――才羽モモイは地に打っ伏すように、泣き崩れるのであった。
念願の”G.Bible”を手に入れ廃墟から帰還した後、その足で早速”ヴェリタス”に向かったゲーム開発部。データの中身について解析を依頼したのが昨日の事であった。ちなみに、アリスが抱き抱えている生物については、多少の事実をぼかしながらもその時に説明済み。
そして、その次の日。
ヴェリタス所属の部員に呼び出されたこともあり、逸る気持ちを抑えきれずに朝早く部室に訪れ――今に至る。なお、”先生”は用事を片付けてから合流するとのことで、まだこの場にはいなかった。
”ヴェリタス”。
以前からモモイが色々と依頼を頼み込んでいる部活であり、事の発端でもある”G.Bible”の所在を突き止めたことを初めとして、アリスの学生証を捏造したのも彼女達の助力あってのものである。
なおヴェリタスは正式にミレニアムの生徒会――”セミナー”に認可された部活ではない。
つまり、非公認の部活動である。
その理由には部の創立者の思惑が絡んでいるのだが、それはまた別の話。
ともあれデータの解析ついでに、消えてしまったセーブデータの復旧を頼みこんだモモイだったが、結果は御覧の有様。
「うへへ……所詮この世は胡蝶の夢……。しょせんぬばたまのゆめのあと……」とボソボソと泣き笑いの面持ちで呟いている姿は、様子のおかしい人である。2日前、同じようなことを呟いた記憶があったユズは気まずそうに目を逸らしたとかなんとか。
そんな姉のあんまりな姿に頬を引き攣らせていたミドリ――だったが、本題を思い出すや否や、ハッとした表情を浮かべる。
「……って、それはいいから! ”G.Bible”のパスワードの解除はどうなったの!?」
そう口にしながら、焦る気持ちを抑えきれない様子のミドリが、ハレに詰め寄る――足元で「よくないよっ!?」と涙声で訴える声は聞かなかったことにした模様。
すると、近くで作業をしていたヴェリタスの部員――ブロンドのロングヘアーが特徴である3年生の”音瀬コタマ”が、ハレの代わりに答える。
「それならマキが作業中ですよ」
「マキちゃんが?」
コタマの言葉にミドリが聞き返す――と同時に、部室の自動ドアが開かれる。
そして、ドアの先にいた人物がミドリ達の姿を確認した途端、頬を綻ばせながら近づいてきた。
「おはよう、ミド! 来てくれたんだね、ありがと」
快活にミドリに声を掛けてきたのは、ハレ、コタマと同じくヴェリタス所属――赤い髪にお団子ヘアーが特徴的な1年生の”小塗マキ”。
学年も一緒な事も相まって、問題児と揶揄される才羽姉妹にとって数少ない友人であり、今朝モモイ達を呼び出した張本人でもあった。
そんな彼女へミドリも挨拶を返す中、ピンクボールにツンツンされながら、地べたに這い蹲って涙を流すモモイの姿を視界に捉えたマキが、思わず目を白黒させる。
「えっと、モモはどうしてそんなに泣いてるの?」
「気にしないで。大したことじゃないから」
マキの疑問を軽く流したミドリは――足元で「大したことだよっ!?」と泣き叫ぶ声は知らんぷりを決め込んだ――「それより、”G.Bible”はどうだった?」と、ここへ訪れた理由でもあることについて尋ねる。
「うん、ちゃんと解析できたよ。ファイルの作成日やファイル形式、作業者のIPの一致とかを鑑みるに――アレは伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル……オリジナルの”G.Bible”で間違いないね」
「や、やっぱりそうなんだ!」
マキの答えに、声を弾ませるミドリ。同じく、後ろで控えていたユズも歓喜に満ち溢れんばかりに目を輝かせ、アリスはミッションを達成したことに満足そうに頬を綻ばせる。
事態をよくわかってないカービィも、皆が喜んでいる姿を見て嬉しそうに小躍りしていた。
ともあれ、本物という確証を得たことに喜々として感情を露わにする一同。
その一方、少し困り顔を浮かべたマキが口を開いた。
「――でも、問題があって……ファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの」
「えっ、じゃあ結局見られないってことじゃん! ガッカリだよ!」
打ちひしがれながらも、なんだかんだ話に耳を傾けていたモモイが顔を上げては、率直すぎる指摘を突き付ける。それに対してマキは痛いところを突かれたかのように、「うっ」と声を漏らした。
それから、「だってあたしはあくまでクラッカーであって、ホワイトクラッカーじゃないし……」と口を尖らせては、もごもごと呟くマキ――だったが、やや強引に話を切り出すかのように「とにかくっ」と声を上げる。
「方法が無いってわけじゃない。あのファイルのパスワードを直接解析するのはほぼ不可能――でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするって手段なら、きっと出来るはず……」
彼女の述べる解決策に対して「そうなの?」と頸を傾げるモモイ。
それに頷いたのち、マキはその方法についてより詳しく説明する。
「そのためには”Optimus Mirror System”……通称『鏡』って呼ばれるツールが必要なの」
「ぜ、全然話についていけない……」
「つまり……”G.Bible”を見るためには、その『鏡』っていうプログラムが必要だってことだよね? それはどこにあるの?」
説明に理解が追い付かないモモイに代わり、話を掻い摘んで把握したミドリが『鏡』の場所について問いかける。何はともあれ、それが無いと話にならないと考えたがゆえに。
その問いに対し、何故か眉を顰めたマキが口を開く。
「あたしたち、ヴェリタスが持って……た」
「なーんだ、それなら今すぐ……って、待って? 過去形!?」
「……そう、今は持ってない。生徒会に押収されちゃったの、もうっ!」
思わず聞き返すモモイへ事情を簡潔に伝えるマキ。その時のことを思い出したのか、プンプンと腹を立てた様子であった。
「この間、急にユウカが押し入ってきて「不法な用途の機器の所持は禁止」って」
「『鏡』以外にも、色々と持って行かれてしまいましたね……私の盗聴器とかも」
マキの話に耳を傾けていたコタマも、当時の状況を思い返しながらどことなく気落ちした様子で呟く――盗聴器云々の話はさておき。
そんな会話の中、不法な用途というワードが気になったミドリが浮かんだ疑問を口にする。
「その『鏡』って……そんなに危険なものなの?」
「そんなことは無いよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ」
疑問に答える様にツールについて簡単に説明するハレ。
一方で、危険性は薄いにも関わらず押収された心当たりがあるのか、「ただ」と、話を続ける。
「アレは私たちの部長が直々に製作した、世界に一つしかないハッキングツールで」
「部長っていうと……ヒマリ先輩?」
ミドリの言葉にハレが頷く一方、突然出てきた聞き覚えの無い名称に疑問符を浮かべるアリスとカービィ。
その反応に気が付いたミドリが「アリスちゃんとカービィはまだ会ったことないよね」とヒマリという人物について、掻い摘んで説明することに。
”明星ヒマリ”。
ミレニアム・サイエンススクールの3年生であり、ヴェリタスの部長かつ創設者。
少々体が不自由な体質なのか、車椅子に乗って行動している姿が露見されているとか。
その存在はミレニアム内の者ならば知らないものはいない。
何せミレニアム史上、たったの3名しか貰えていない学位――”全知”を有している1人なのだから。
その功績に違わぬ頭脳の持ち主であり、まさしく天才と名乗るに相応しい人物といっても過言ではない。。
ちょっと変わってる――という噂もあるようだがそれはまた別の話、である。
ミドリの説明に成程、と理解を示すアリス。
片や、よくわかっていないカービィは”なんだかすごい人”と思うことにした。
そうしてヒマリという人物について説明を終えたのを機に、モモイがあらためて『鏡』について話を戻す。
「けど、せっかく作った道具をどうして取られちゃったの?」
「……明確な理由は不明です。私はただ、”先生”のスマホのメッセージを確認するために『鏡』が必要だったので……不純な意図は全くなかったのですが」
「私には不純な意図しか感じられないんだけど……?」
名残惜しそうなコタマの呟きにミドリが頬を引き攣らせる。
今の話を”先生”が聞いていたら、『鏡』を没収していたかもしれないと予期したが故に。
その時、事情説明も頃合いと見計らったハレが、「とにかく」と前置きして、モモイ達へ語り掛ける。
「……整理すると、私たちも『鏡』を取り戻したい。そして、”G.Bible”のパスワードを解くために、あなたたちにとっても『鏡』は必要」
なにはともあれ、今この場に『鏡』は無く、セミナーが保管している状況。
そして、『鏡』が無ければ”G.Bible”は開けない――という事実に変わりはない。
そのことを踏まえ、「そうでしょ?」とゲーム開発部に問いかけるハレ。
その瞬間、彼女の言いたいことをなんとなく察したモモイが「なるほどね」と、不敵な笑みを浮かべた。
「呼び出された時点で何かあるのかなって、思っていたけど……大体わかったよ」
「――え、も、もしかして……?」
「ふふ、さすがモモ。話が早いね」
彼女の不穏な態度に、なんだか嫌な予感がしてきたミドリ。
それとは対照的に、マキがニッと笑みを浮かべる。
そんなミドリの予感を裏付ける様に、モモイが冗談めかして言う。
「目的地が一緒なんだし、旅は道連れってね」
「共にレイドバトルを始めるのであれば、わたしたちはパーティーメンバーです」
モモイの言葉に前向きな姿勢を見せるアリス――彼女の中で次のクエストが決まった模様。
一方で「え、え、え、え」と首をしきりに振り困惑の様相を見せるユズと、やっぱりよくわかっていないピンクボールがキョトンとした表情を覗かせる。
そして、自身の懸念を確かめようと――外れて欲しいという願いも込めて――「あの、お姉ちゃん。もしかしてだけど」と、ミドリがおそるおそる尋ねた。
「まさか”ヴェリタス”と組んで――――生徒会を襲撃するつもりじゃ……!?」
そんな妹の言葉を、数日前のいつぞやの時の様に。
彼女の姉は、否定しなかった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
13-2
「――……そのまさかよ」
ミレニアムサイエンススクールの学区内中心部に存在する超高層ビル”ミレニアムタワー”。
その屋上。
屋上でありながら広い敷地を有するこの場に、2人の少女が向かい合っていた。
片や、ミレニアムの生徒会――”セミナー”の部員である早瀬ユウカ。
つい数日前ゲーム開発部に廃部通告を言い渡した当人でもある。
もう一方は、ゆったりとしたメイド服を着こなす、眼鏡をかけた物腰の柔らかそうな少女。
そんな彼女はユウカの呟きに対して成程、と頷いてから、手元のタブレットに映し出された”生徒の情報”を眺めながら口を開く。
表示されていた情報は――”ゲーム開発部の部員”。
「ゲーム開発部について私も知らないわけではありませんが……セミナーを襲撃しようだなんて、人は見かけによりませんね?」
「純粋な子達よ。だからこそ、時にはとんでもない悪戯をしたりもする」
――モモイとか、モモイとか、モモイとか。
そんな言葉が喉から出かかったもののなんとか言葉には出さず、ユウカは何食わぬ顔で話を続ける。
「……それに今回は”ヴェリタス”も絡んでいるの」
「ヴェリタス……ハッキングに特化したクラッカー集団ですよね?」
少女の確認に「ええ、そうよ」と肯定したユウカ。
そして、2つの部が襲撃してくる理由について、詳しく説明した。
両者の目的はセミナーが押収した『鏡』。
それを入手するために今回の襲撃に手を組んだ――ユウカ曰く、大事な物の為に手段を選ばない、という点はゲーム開発部もヴェリタスもよく似ている、とのこと。
そんな彼女の説明にふと疑問に思う少女だったが、その話は一先ず置いておき、「まあ何であれ”依頼”である以上、私たちは受けるつもりでいますが」と前置きをしてから――
「ただ……1つだけ、ちょっとした問題があります」
と、口にした。
その言葉に、ユウカは首を傾げ――――
「問題?」
ヴェリタスの部室。
襲撃宣言を聞いたミドリを何とか宥め、襲撃作戦について詳しく話を聞くことになった際、マキが発した”問題”について、モモイが訊き返した。
「『鏡』は生徒会の差押品保管所で管理されているんだけど、そこを守っているのが、実は…………」
話の途中で、マキは頬を掻きながら言いづらそうに言葉を濁す。
その様子に、首を傾げるモモイ達。
それから少し、間を置いてから。
そして、少し、目を逸らしながら。
最後に、深刻さを誤魔化す様に笑みを浮かべながら――
「――――”メイド部”、なんだよねー」
マキからすれば、軽い調子のつもりで呟いた言葉。
しかし彼女の本意に反して、その言葉はイヤに室内に響き渡った。
それから、しばらく思考停止していたミドリが、再確認するかのように訊き返す。
「……え? メイド部、ってもしかして……」
「あー、”C&C"のことだよね? ミレニアムの”武力集団”で、メイド服で優雅に相手を”清掃”しちゃう事で有名なー……」
次第に顔を青くするミドリとは裏腹にモモイが世間話でもしているような気軽さで、解説でもするようにマキに確認する。
それに合わせるかのように、マキもにこやかに応答する。
「そうそう! まあ、些細な問題なんだけどさ~」
「そっか~! そうだねー、うーんなーるほど~……」
HAHAHA、と軽い調子で笑い合う2人。
――――だったが。
「――――諦めよう!! ゲーム開発部、回れ右! 前進っ!!」
どんなに誤魔化そうとも現実は非情である。
無理だと悟ると否や、とっとと結論を言い渡し撤収しようとするモモイをマキが逃さんとばかりに制服の裾を掴み、無理やりこの場に留まらせた。
「待って待って待って! 諦めちゃダメだよモモ! ”G.Bible”が欲しいんでしょ!?」
「そりゃ欲しいよ! でもだからって、メイド部と戦うなんて冗談じゃない! そんなの走ってる列車に乗り込めとか、燃え盛る火山に飛び込めって言われた方がまだマシ!」
決死に宥めようとするマキに対し、さっきまでの啖呵は何処へやらと云わんばかりに、及び腰のモモイ。
一方、「HA☆NA☆SHI☆TE」と出口に向かおうとするモモイと、それを必死に食い止めるマキのやり取りを傍目に、唯一この中でメイド部――及び”C&C”について知り得なかったアリスが、背後で青くなっているユズへ尋ねる。
「……”C&C"?」
「え、あ、えっと、つまりね……――」
メイド部、またの名をC&C――正式名称は”Cleaning & Clearing”。
その実態は、ミレニアム生徒会直属のエージェント集団――詰まるところセミナーの懐刀である。
他の部活と違う点について、所属の生徒はミレニアムの制服ではなくメイド部の名に相応しく、”メイド服”に見立てた服装を着用し、任務遂行を行う点。
そしてもう1つは――”ミレニアム最強の武力集団”の肩書に違わぬ、戦闘技術に秀でた部員によって構成されていることである。
特に”コールサイン”の肩書を持つ”4人の生徒”は部内でも特に秀でた能力の持ち主であり、まず普通の生徒では太刀打ちできないのが現実である。
その武力を以って過激団体や、武装サークル等を淘汰した後で最後に拠点などの痕跡すら残さず、キレイに”掃除”してしまうのだとか――”Cleaning &Clearing”という名はここから来ていると云ってもいい。そのため、ミレニアム内では多くの者から畏怖の念を抱く始末である。
尤も、基本的に彼女たちはセミナーからの依頼を主に取り扱っている為、あまり表立って動くような部ではない――にも拘わらずこうして一般生徒にまで知れ渡っている現状を見る限り、それだけの実力を有している証だろう。
詰まるところ、相手にすればタダでは済まされない。
それどころか、壊滅された後お掃除されるのがオチ。モモイの反応は誇張でも大げさなものではなく、至極当然の反応なのであった。
ユズの説明に耳を傾けていたアリスが息を呑む。
一方で、彼女が抱き抱えているぬいぐるみ擬きは相変わらずきょとん、と疑問符を浮かべていたが、とりあえず”なんだかすごい人たち”と思うことにした模様。
そんなユズの説明が終わると同時に、マキとモモイの漫才染みたやり取りも終える。
それから疲労によって少し頭が冷えたモモイが改めてマキと向き合うと、本心を吐露する。
「……そりゃ廃部は嫌だし、部活は守りたいけど、ミドリやユズ、アリスやカービィの方が圧倒的に大事! いくらなんでも危険すぎる!」
モモイが廃部を阻止したい理由は、友人のユズ――そして自分たちの居場所を守る為。
その為に多少のリスクは已む無しと、本人も考えてはいた。
しかし彼女にもリスクの限度は存在し、今回のC&Cとの直接対決は流石に度が過ぎていた模様。
自分だけならまだしも、ミドリ達を限りなく危険性が高い作戦に巻き込むことは、許容できるモノでは無かったようだ。
それに対し、「待って待って」と、相手を落ちつかせるようにマキが慌てた様子で口を開く。
「C&Cが危険なのはわかってるって! だから何も真正面から喧嘩しようってわけじゃないよっ」
順序だてて説明するマキ曰く、自分たちの目標は”メイド部を倒すこと”ではなく、”差押品保管所がら『鏡』を取ってくること”――すなわち、撃破ではなく奪取が目的だと語る。
一方、「そんなに変わらないじゃん!」と、危険であることに変わりはない説明に捲し立てるモモイ。ただ撃破が奪取に変わっただけであり、メイド部と対峙する可能性は十分に高いと理解しているからこそ。
「……でも、可能性のない話じゃない」
それを見兼ねたハレが、2人の間に割って入るかのように告げる。
言外に、決して絶望的な状況ではないと、伝えながら。
一方、彼女の言葉に、どうしてそう言い切れるのか、と怪訝な表情を浮かべるモモイだったが、その疑問について先に答えたのはコタマだった。
「私の盗ちょ……いえ、情報によると、現在のメイド部は完全な状態ではありません」
C&Cが”最強”と謡われ、多くの生徒から恐れられる理由。
それは一人一人が熟練されたエージェントが揃っている、という理由も勿論そうだが、もう1つ大きな理由があった。
それが”コールサイン・ダブルオー”、C&Cの”部長”――”美甘ネル”の存在である。
キヴォトスにおいて最高峰の実力者の1人。
その実力は”ゲヘナの風紀委員長”や”トリニティの正義実現委員長”と云った他校の最高実力者達にも匹敵するほど。
故に、ミレニアムにおいて”最強”。
それだけに、彼女の存在が脅威的であることは言うまでもなく。対峙するのはもはや自滅行為となんら変わらない。
そんな彼女は、現在――――
「――――ね、ネル先輩がいない!?」
メイド服の少女が語った問題について、ユウカが驚愕の声を上げる。
それに対し、「はい」と返事を返した少女は、ユウカとは対照的に落ち着いた物腰でその理由について語る。
「ミレニアムの外郭に個人的な用事があるそうでして」
その理由に唖然とするユウカ。何かしらの任務かと思いきやまさかのプライベート。
とはいえ、すぐに呼び出せるほど彼女とネルは気安い関係でもない。
思わず頭を抱えたくなってきたユウカだったが、そんな彼女を安堵させるかのように、「ですが、ご心配なく」と悠然とした態度のまま、少女は告げる。
「もちろん、リーダーがいる時のC&Cが一番強い……というのは紛れもない事実ですが、”守ること”に関しては……もしかしたら私たちだけの方が良いかもしれません」
「わたしたちのリーダーは”守る事”より”壊すこと”に特化した人ですから」と少し茶目っ気を醸し出して微笑む少女。
それに対して、ユウカは遠い目をして「ああ、そうね」とげっそりとした声で頷いた。
任務の達成率、ほぼ100%のC&C。そんな優秀な彼女達が抱える、唯一の問題点。
それは、任務遂行の際に巻き添えとなる建造物や機械等と云った弁償費が、シャレにならない点であった。
その都度ユウカは弁償代を巡って部長のネルと口論するが、結局、有耶無耶のまま話が終わってしまうことが度々。ちなみにユウカの目の前にいる少女もその元凶の1人だったりする。おのれ。
「……ではあらためまして、依頼をお受けします」
そんな彼女の心情など知る由もない少女――C&Cの”コールサイン・ゼロスリー”の肩書を持つ、”室笠アカネ”は優雅にお辞儀をした後、微笑みながら告げる。
「約束の時間まで、ゲーム開発部を差押保管室に近づけないこと……お約束いたしましょう」
その言葉と同時に――彼女の眼鏡がキラリと光を放つのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
13-3
ハレ達の話を聞き、現在C&Cには部長のネルがいないことを知ったモモイ達。
それならば確かに可能性は無きにしも非ず、かもしれない、と一同は一考する。
しかし、あくまでも0に等しい可能性がほんの僅かに上昇しただけ。
ネルが不在だとしても、コールサインを担っている生徒があと3人残っている。ネル程では無いにしても、彼女達も並外れた実力者なのは事実。
とはいえ、何時までも手をこまねいてはいられない。
ネルが戻ってきてしまえば、その時点で作戦の成功は潰えるも同然。
――故に、今この時こそが最大のチャンスでもあり、最後のチャンスでもあった。
「正面衝突を避けて、『鏡』だけを奪って逃げる……」
先程のマキの話を思い返しながら、ううん、と難しい顔を浮かべるモモイ。
成功確率が低いのも理由の1つだが、やはりミドリたちが危険な目に遭う可能性を考えるとなかなか踏ん切りがつかないようだった。
そんな姉の様子を横目に沈黙していたミドリだったが、すこし逡巡するかのように目を伏せ――やがて、顔を上げて口を開く。
「――――やってみよう、お姉ちゃん」
「え、ええっ!? でもネル先輩がいないからって、相手はあのメイド部だよ!?」
その言葉に、モモイは目を丸くし驚愕する。
つい先ほどまでセミナーに襲撃することに難色を示していた時とは真逆な発言だったからこその反応である。
そんな彼女の反応に「わかってる」と頷きながら、ミドリは言葉を紡ぐ。
「……ボロボロだし、狭いし、たまに雨漏りもするようなするような部室だけど……もう今は、私たちがただゲームをするだけの場所じゃない――みんなで一緒にいるための、大切な場所だから」
だから、少しでも可能性があるなら、私はやってみたい――
そう、自分の想いを精一杯込めた言葉を、彼女は自分の姉へと向けた。
その言葉に触発されるように「わ、わたしも」と、おずおずと身を乗り出したユズも口を開く。
「例えどんなに危険でも……守りたいの。私だけの為じゃなくて……私たちみんなの為に……」
声を震わせながらも、自身が抱えていた想いを彼女は告げる。
もはや自分だけの居場所ではないからこそ、本気で守りたいのだと。
そんな2人の覚悟を前に、言葉を失うモモイ。
ミドリもユズも、どちらかといえば危険は避けたいと考える性格。だからこそ、2人が今告げた言葉が生半可な気持ちで口にしたものではないことを、この場にいる誰よりも理解していた。
そして、同じく2人の表明を耳にしたアリスが「私たちならできます」と、告げる。
3人を勇気づけるように、勇ましく微笑みながら。
「アリスは計45個のRPGをやって……勇者たちが魔王を倒すために必要な、一番強力な力を知りました」
そう前置きをし、彼女はモモイとミドリ、ユズの方をそれぞれ見渡し――最後に胸元のカービィへと見つめながら、
「一緒にいる、仲間です」
と、満面の笑みを浮かべながら告げる。
そのことを、心の底から信じ切っているように。
その言葉に、カービィもその通りだと云わんばかりに、笑顔を浮かべながら頷く。
カレ自身、”仲間”や”フレンズ”、”バディ”の存在はとても大切だと理解しているがゆえに。
「アリス、ミドリ、ユズ…………」
3人の言葉に胸を打たれたモモイが、それぞれの名を呟く。
同時に、覚悟が決まっていなかったのは自分の方だったことに、気付かされる。
それから、何か考え込むかのように顔を伏せた彼女――だったが、何かを決心したのか徐に顔を上げると、この中で唯一喋らなかった――否、”喋れない”者へと問いかける。
「……ねえ、カービィ。ここから先は、本当に大変なことが待ち受けてると思うの」
今まで、なんとなく付いてきた未確認生命体。
あの日、アリスと一緒に部に迎え入れてからなんだかんだ部の存続を手伝ってもらい――今に至る。
良く言えば、お人好しな性格。悪く言えば、後先考えない性格。
そんなカレの性格にモモイはどちらかと言えば好感が持てるが、同時に不安を抱いていた。
――はたしてこのまま、自分たちの都合の為に連れ回していいのだろうか。
彼女にとって考えたくもないことだが――もしも部が無くなったとしても、アリスは勿論、それこそ”先生”のいる”シャーレ”など、カレを引き取ってくれる場所はあるだろう。そういう意味では、モモイ達の目的のために、カレが危険を冒す必要性はほぼ無いと云える。
危険が付き纏う可能性があるということは、昨日ミドリが伝えた通り。
しかし、今回は昨日の比では無いぐらいに、危険度が高い――少なくともモモイはそう確信している。
だからこそ、再度。
最後の最後にカレの意思を確かめたいと、モモイは考えた。
「ケガする可能性は高いし、失敗する可能性もあるし……実際、リスクの方が高い、と思う」
と、一度言葉を区切った後、躊躇いがちに――
「……正直、カービィが危険を冒してまでする必要はない、と、思う」
と、モモイは自分の本心を漏らした。
それはカレを騙す様なことはしたくない――という気持ちの表れであった。
静かに耳を傾けるカービィに対して、目を伏せるモモイ――だったが、唐突に顔を上げては、告げる。
「けど少しでも……ほんの少しでも可能性があるなら……――私たちの場所を守れるなら、私はやっぱり、諦めたくない!」
可能性は低い――しかし、失敗は許されない。
ならば持てる手段は全て使ってやると彼女は決断する。
元より、大事な物を守るためには手段を選ばない、というのが才羽モモイという人物だった。
だからこそ、誠心誠意の気持ちで頼み込む。
己の都合に――我が儘に協力してもらう以上、当然の義務と理解しているが故の行為。
「だから……――お願い、カービィ! 私たちに力を貸してっ!」
熱の入った言葉を口にしたモモイは、そのままカレを見つめる。
決して目を逸らさず、精一杯の気持ちと誠意を込めて――カレの澄んだ目を見つめた。
そして、モモイの懇願に機に、静まる室内。
気まずい空気が流れる中、モモイは固唾を呑んで相手の反応を待つばかり。周りも、ただ静かに成り行きを見守るだけだった。
尤も、カレが返す答えなど、最初から決まっている。
困っている”トモダチ”を見過ごすことなど、カレの選択肢にはないのだから。
笑みを浮かべると、元気よく片手をあげるカービィ。
モモイ達も見慣れた、カレなりの肯定を示す反応だった。
一方、その反応を目にしたモモイは、緊張で張り詰めていた表情をつい破顔させてしまう。
ついでに感極まったのか、瞳を潤ませる始末。
けれども、カービィのどこから出てきているのかわからない前向きさが、今のモモイには何より頼もしく見えた。
「――――あとで”後悔”しても、遅いんだからね!」
ちょっと熱い目頭を制服の裾で拭いながらも、モモイが晴れ晴れとした笑顔で告げる。
それを目にした他の3人も、安心と喜びの感情を滲ませた笑みを浮かべていた。
それからすぐに、今までのやり取りを見守っていたハレに尋ねるモモイ。
「ハレ先輩! 何か良い計画とか無い!?」
「任せて」
活気づくモモイの言葉を待っていたかのように、ハレが自信満々に言葉を返す。
「計画の実行にはいくつかの準備か必要だけど、まずはやっぱり……”仲間”、かな」
その呟きに、疑問符を浮かべる一同。
一方、その反応も織り込み済みだったの、彼女は含みを持たせた笑みを浮かべる。
「恐らく”彼女たち”の力無しに、この作戦は成立しないからね」
こうして、ゲーム開発部とヴェリタス。
両者、まったく別の活動を掲げている2つの部活動は、手を組むこととなった。
ただひとつ、『鏡』を求めて――――
「――――あ、1つだけ質問したいのですが」
依頼を承諾したアカネが今後の段取りについて軽く打合せをした後、この場を引き上げようとしていた際に、ふと思い出したことについて、ユウカに問い掛ける。
「ゲーム開発部とヴェリタスが生徒会を襲撃する……そのことを、あなたたちはどこから知ったのですか?」
依頼内容についてアカネがずっと不思議に思っていたこと。
それはユウカ――というより、セミナー側が今回の襲撃について情報を掴んでいる点だった。
襲撃とは、前提として何時襲ってくるか分からないからこそ効果を生む。
そういった意味では襲撃する面子が割れていることや、目的を把握されている現段階においてモモイ達は圧倒的に不利な状況とも云えるだろう。
故に、敵に情報を漏らさないことは絶対条件。
”情報を制する者、戦いを制する”という格言は誇張でも何でもない、至極当然の事実である。
「情報戦に関して、ミレニアムでヴェリタスを超える集団はいないと思っていましたが……」
「……その通りよ」
アカネの言葉に、あっさりと肯定を返したユウカはそのまま言葉を重ねる。
「だから、”ヴェリタス”が教えてくれた――それだけの話」
頓智のような彼女の回答に理解できず「はい?」と、思わず聞き返してしまったアカネだがそれも当然。今回の襲撃者こそ”ヴェリタス”なのだから。
困惑するアカネを見兼ねて、ユウカは言った。
「私たちに、ヴェリタスとゲーム開発部がやって来ることを教えてくれたのは……――」
――ヴェリタスの”部長”、ヒマリだもの。
当人たちの知らぬところで密かに――しかし、着実に。
舞台は、整えられていくのであった。
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【ヴェリタス】
→有能すぎすぎ集団
【もう駄目だ、おしまいだ――――っ!】
→カワイイ!
【様子のおかしい人】
→スロー スロー クイッククイック スロー
【明星ヒマリ】
→とりま編成に入れておけば困らない人
【――……そのまさかよ】
→ヌッ♡
【燃え盛る火山に飛び込めって言われた方がまだマシ!】
→桃球「いけるいける^^」
配管工「よゆうよゆう^^」
英傑「おクスリかお洋服ください^^」
電気鼠「ピーカア、ピィカァアーwwww^^」
【HA☆NA☆SHI☆TE】
→ド ン☆
【美甘ネル】
→スカジャンロリヤンキー泣き黒子メイド……だと……!? 許せるッ!
【”仲間”や”フレンズ”、”バディ”の存在】
→たまに雑な扱いしてるのはご愛敬
【才羽モモイ】
→ゲームオタクって自称するけど行動力が半端なさすぎる……
【困っている『ともだち』を見過ごすことなど、カレの選択肢にはないのだ】
「ホーント、お人よしダヨネェ」
【あとで”後悔”しても、遅いんだからね!】
→もはや説明不要
こうかいしませんね?