Spring Sky StarS! 作:笹ピー
ココではそういう”選択”をしたってことで許してヒヤシンス……
14-1
「――なるほど、それは確かに的確な判断だ」
ヴェリタスと共闘関係を結んだゲーム開発部。
そのヴェリタスの部員――小鈎ハレから計画に必要な準備について聞かされたモモイ達は、早速行動に移ることに。
ハレから頼まれたのは、ある部活動の勧誘。その為にモモイ達はその勧誘相手――三日前に訪れたばかりである”エンジニア部”へと再び足を運んだのだった。
とはいえ実績の持たないゲーム開発部や、そこまで親しい仲でもないヴェリタスではすぐに勧誘に応じることは難しい。そう見越したハレは、ある人物に仲介役を頼むことに。
その人物とは――
”いきなりで申し訳ないんだけど……”
「いや、むしろその方法なら私たちじゃないと難しいだろうね」
エンジニア部の部長であるウタハは、申し訳なさそうに頭を掻く大人――”先生”に対して気にしなくていい、と云わんばかりに表情を緩めながら言う。
二つの部活動が手を組んでそう時間を置かず、用事を済ませモモイ達と合流した際ハレから”エンジニア部との仲介役”を依頼された”先生”。
どういうことなの、ということで周りから説明してもらった”先生”は――セミナーを襲撃すると聞いた時は目を点にしたが――彼女達の要望を承諾。それからモモイ達と共にエンジニア部へ赴き、事情を説明し、今に至る。
ともかく、まずウタハ達の協力が無ければ今回の作戦が成り立たないというのがハレの談。
初手から重要な役目を言い渡されたこともあり、緊張した顔持で相手の出方を伺うモモイ達――――だったが、
「うん、わかった。協力しよう」
と、ウタハはにこやかに、あっさり承諾した。
まさかの即決に「判断が早い!?」と驚愕するモモイ。ミドリもあまりの呆気なさに肩透かしを食らい呆然とするが、すぐに素に戻っては「ほ、本当にいいんですか?」と、彼女の意向を改めて確かめる。
「エンジニア部は実績もたくさんありますし、こんな危ない橋を渡る必要は……」
「そうだね、そうかもしれない」
彼女の疑問にウタハがあっさり認めると、それを聞いたミドリは益々困惑する。
そもそも、この計画においてエンジニア部が得られるモノはほぼ無いと云ってもいい――身も蓋も無いことを言えば実質タダ働きである。
にも拘わらず、メイド部と戦う計画に協力すると豪語したウタハ。どうして、とそのワケをミドリが尋ねるとウタハ――よりも先に、彼女の横で話を聞いていたヒビキとコトリが答えた。
「……その方が面白そうだから、かな」
「そうです! それに、私たちももっと”先生”と仲良くなりたいですから!」
控えめに笑みを浮かべるヒビキと、対照的に快活な笑顔を浮かべるコトリ。その二人に同意するように、頷いたウタハが、
「……そうだね。それと――」
と、言いながら視線をアリスの方へ向け――次に目線を少し落とし、彼女が抱き抱えている”存在”を見つめる。
「――”その子”も参加するようだね」
その言葉に驚くミドリたち。確かにゲーム開発部とヴェリタスが手を組んだ話こそしたが、カービィを頭数に入れているとは一言も言ってなかったからだ。
一方でウタハの言葉に返事するかのように、カービィは”ハーイ”と笑みを浮かべて片手をあげ、応じる。その仕草に少し頬を緩ませたウタハは、再びミドリの方へ視線を移す。
「まあ、今はいいさ。とにかく、よろしくたのむよ」
「あ、はいっ。こちらこそよろしくお願いします……!」
少しはぐらされた感もあるが、ウタハが差し出してきた手に少し慌てながらもミドリが握手で応じる。何はともあれ、上手く協力を結びつけることができ、安心したように表情を和らげるミドリ。
それから今後の動きについて軽く打合せをした後、モモイ達はエンジニア部を後にするのだった。
「――思ったより、すんなりいってよかったね!」
「うん、もしかしたら断られるかも、って思ってたけど……」
エンジニア部を後にしたモモイ達が、報告にヴェリタスの部室に戻る道すがら。先の交渉が上手くいったことに喜ぶモモイの隣でユズが微笑みながら同意する。
実際のところ、ユズの言う通り断られる可能性は十分にあり得る話だった。だからこそ”先生”を通し、少しでも協力してもらえるように仲介を頼んだのだ。
”私、あんまり必要なかったね”と、苦笑いを浮かべながら言う”先生”だったが、その言葉に「そ、そんなことありませんっ」とミドリが食いつくように反応した。
「すぐにウタハ先輩に取り次いでくれたおかげで、話がスムーズにいきましたし……それに準備や修理の費用を負担する、って交渉してくれたから……」
ウタハと”先生”のやり取りを思い返しながらミドリは言う。
実際ミドリの言うように、仲介役を引き受けた”先生”はすぐにエンジニア部へと話し合いの場を設けてくれるよう連絡を入れ、作戦遂行において発生する負担費用を代替えすると提言したのだ。
最初はその提案を断ろうとしたウタハ達だったが、”先生”の頑なに引かない姿勢に根負けしたのか、困ったように笑みを浮かべながら承諾したのはまた別の話。
とはいえエンジニア部が協力しやすいように便宜を図ったことは事実。そのことについてミドリが「ありがとうございます、”先生”」と、やわらかく笑みを浮かべながら感謝を伝えると、それに便乗するかのように――
「流石”大人”って感じだよね!」
と、モモイが囃し立てるとその言葉にユズも肯定するかのように頷く。
うら若い彼女達からすれば、行動力と対応力を兼ね備える”大人”には一種の憧れのようなものを抱いているようだ。
一方で賞賛を受けた本人は”そんな大したことじゃないよ”と、謙遜にも見える態度で受け答えする。”生徒”を支える”先生”として――”大人”として当然の事である、と付け加えながら。
その大人びた返答にますます尊敬の念を集める――隣に並んで歩いていたミドリからは特に――”先生”だった。
すると、そんな空気に水を差すかの如く、廊下内に腹の虫が響く。
思わず発生源へ一同が視線を向けた先は、アリス――が抱きかかえているピンクボール。
「カービィが空腹のバステ状態になりました」
「あ、やっぱりカービィからだったんだ……」
アリスがそう伝えると、ユズが少し驚いたように呟く。一方、音の発生源である本人は、ちょっと照れを誤魔化すように笑みを浮かべて、頭を短い手で搔いていた。
その微笑ましい仕草にくすりと笑う一同。そんな中、ミドリが時刻を確認するとちょうど昼時。食いしん坊のカレがこの時間にお腹を空かせるのは無理もないだろう。
「ハレ先輩に報告したら、お昼にしよっか」
「はい、ステータスは常に万全を期しておくのが鉄則です!」
「それじゃ早く済ませちゃおっか!」
ミドリの言葉に同意するアリス達。特に昼ごはんと聞いたカービィは目を輝かせ、待ち遠しい様子。
そうして、一同はあらためてヴェリタスの部室に向かうのだった。
――そんな折、ふと目に映った”先生”に違和感を覚えるミドリ。
「……”先生”?」
思わず呼びかけてしまった彼女に対し、”先生”は焦る様子も見せず”どうかした?”と、普段の調子で返事を返す。
あまりにも普段の様子と変わらないものだったのか「あ、いえ、なんでもないです」と思わず頭を振るミドリ。その反応に対して”先生”も特に気にせず、”そっか”と頷くだけだった。
その様子を見て、気のせいだったのかな、と思うミドリ――だが、何か引っ掛かりを感じているのも事実。とはいえ、再び聞き返すのも変な子と思われるかもしれない――あまり変な印象を与えたくなかった彼女は言及することを止めた。
そもそも、自分も”先生”について詳しく知っているわけでは無い。まだ数日の付き合い程度の関係。きっと、何か事情があるのだろう――と、思い込むミドリ。
――あんなに悩んでる顔、初めて見たから――
一抹の疑問を抱えながらも、先を行くモモイ達の後を追うミドリだった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
14-2
ヴェリタスにエンジニア部と協力関係を築くことに成功した旨を報告したゲーム開発部。その後、桃色腹ペコ生物ご所望の昼食を取り、ちょうど全員が食べ終わった頃と同時にハレから通達が届いた。
内容は、エンジニア部を交えての具体的な作戦説明――ひいては、作戦に必要となる下準備の用意。
その連絡を受け取ったモモイ達は再びヴェリタスへと足を運ぶと、エンジニア部とヴェリタス――二つの部活動が既に顔合わせを済ませていた。それから3つの部活動を含めた襲撃作戦の会議が行われ、作戦内容と必要な準備について議論を重ねていく彼女たち。
それから数時間後――
ひと通り作戦についての内容が纏まった頃には、外は既に夕焼け色に染まりつつあった。
「――じゃあ、私たちは明日の準備に向けて戻るとするよ」
「皆さん、明日はよろしくお願いしますね!」
「……また、明日」
三者三様の言葉を去り際に言い残し、エンジニア部の三人は部室へと戻っていった。ウタハも言ったように明日の準備に早速取り掛かるつもりなのだろう。
そんな三人を見送った後、ゲーム開発部と”先生”もヴェリタスの部室を後にしようと――その時、部室の出入り口の前でアリスがふと立ち止まったことに首を傾げるモモイ。
「どうしたの? アリス」
「あ、えっと、明日のクエストについて再確認しておこうと……」
彼女に尋ねられたアリスは少したどたどしくもあったが、その理由に納得したモモイは特に疑問を思わなかったようだ。なら少し待とうか、と言うモモイ達に対して「長くなるかもしれないので、先に戻っていても大丈夫です」と彼女は戻ってていいという旨を伝える。
そういうことなら、ということでアリスと抱きかかえられたまま熟睡中のカービィをその場に残し、部室に戻るモモイ達。
その道中、”先生”もシャーレに戻ることを伝え、途中でゲーム開発部と別れることになった。
「じゃあ”先生”、また明日!」
「明日は、よろしくお願いします」
「お、お疲れさま、です」
手を振るモモイ達に対し”うん、また明日”と微笑みながら”先生”は挨拶を返す。
モモイ達に見送られる”先生”。そうしてモモイ達の姿が見えなくなるのと同時に――”先生”の表情に陰りが浮かぶ。
――はたして、これで良いのだろうか。
”先生”が今日一日抱えていた疑問。その原因は言うまでもなく、明日のセミナー襲撃についてである。
襲撃の理由は理解している。この作戦の成功にゲーム開発部の存続が掛かっていることも”先生”は重々理解している。
あくまでも彼女達が必要なのは、『鏡』という道具。それを差押えている以上、セミナーとの衝突は避けられない運命にあるのだろう。
どちらが悪い、という話なら間違いなくゲーム開発部側に軍配があがる。確かにセミナーが『鏡』を押収した件についてはやや強引ともいえるが、それでも襲撃を行う理由として認められるものではない。それを阻むセミナーの対応は当然の措置である。
尤も、”先生”はその点に関してはあまり重く受け止めてなかったりする。
そもそもセミナーに押収品を返してくれと頼んだところで恐らく返してくれないだろうし、第一に生徒同士や部活動同士での対立において、乱戦・襲撃はこのキヴォトスにおいて珍しい話ではない――ゲヘナとか、ゲヘナとか、ゲヘナとか。
ならば、”先生”が今思い悩んでいるのは――――
「――……”先生”?」
突然、声を掛けられた”先生”は思わずその方へと顔を向ける。そして、相手の姿を確認すると否や驚愕に目を見開いた。
そこにいたのは、まさしく今悩んでいた件に関係する者。
――セミナーの所属部員、早瀬ユウカだった。
”コーヒーでよかった?”
「あ、はい。ありがとうございます……」
それから。
ミレニアムタワーから少し離れた場所――ちょうど休憩所のような場所のベンチに腰掛ける”先生”とユウカ。
微糖の缶コーヒーを”先生”から受け取り、戸惑う様子で礼を述べるユウカ。
――そして、そのまま二人の間に沈黙が流れる。
”先生”は困窮していた。
思わずユウカに声を掛けられた衝撃が大きかったのか、何も考え無しに”ちょっと話さない?”などとナンパの常套句みたいな言葉を掛けてしまいこの有様である――なんだかんだ言いながら付いてくる相手も相手だが。
二人並んでベンチに座り込んだのはいいが、どう話を切り出すのか思いつかない始末。これはひどい。
一方で、ユウカの方も混乱中だった。
ユウカが外に出ていたのは私用――つまり偶然であり、そもそも”先生”の姿を見かけた時点で声を掛けるつもりではなかった――というよりも、襲撃相手(予定)と素面で話し合えるほど彼女の面の皮は厚くない。
故に、気付かれないようにしようと――数秒程、声を掛けるべきかどうかを悩んだ後――相手の視界に映らないように心掛けていたが、あまり見たことのない”先生”の思い悩んでいる表情が心配になってしまい、つい声を掛けてしまったのだった。
その後は”先生”のお誘いについ乗ってしまったユウカ。「し、仕方ありませんね、少しだけですよっ」と文句垂ながらも付いてくる彼女だったが、いざ二人きりになると何を話すべきかで、口を濁らせてしまう羽目になってしまった。だめだこれ。
そんなわけで、二人の間に気まずい沈黙が続く――とはいえ、二人ともここを離れないことを顧みるに、両者共々話がしたいということなのかもしれない。
やがてそんな時間も長くは続かず「あ、あのっ」と、意を決してユウカが話の口火を切る。
「さ、最近は忙しそうですけど、ちゃんと体は休めてますか?」
第一声がまさかの相手を慮る発言であることに思わず戦慄しながらも、彼女の問いに対して”まあ、うん、ぼちぼちかな”と、煮え切らない返事をしてしまう”先生”。
そんな返事に対し落ち着かない様子から一変、怪しむように”先生”を見つめるユウカ。
「……なんですかその反応。まさかまた仕事を溜めこんでるんじゃ……」
”いやいやいや、寧ろ最近は計画的にやってる方だから!”
彼女の追求に対し、”先生”は必死に取り繕う。その必死さにますます怪しむユウカだったが、この場では追求することは控えることに。
彼女自身、”先生”がこういう性分であることを理解しているが故の対応である――時間に余裕ができればシャーレに尋ねることを密かに決断したのは別の話。
”そういうユウカも忙しそうだけど、大丈夫?”
「……まあ、忙しいのは確かですけど、心配されるほどじゃ――」
”この間、予算がどうとか費用がどうとか言ってたような――”
「やめましょうその話題は!」
胃に穴が開きかねない表情でストップを掛けるユウカに免じて、キュッと口を閉ざすことにした”先生”。相変わらずミレニアムの資産管理に四苦八苦しているようで、つい先日エンジニア部の部室の天井に穴が空いたことも関係しているのだろう。
心当たりがありまくる”先生”は知らんぷりを決め込んだ。
「そ、そういう”先生”はどうなんですか? また変な物にお金を使ってないですよね?」
”変な物じゃないよ! この間発売されたコトブキヤの『セイレーン・デバイス』はディティールが精巧に作られててファン感涙の再現度を――”
「”せ~ん~せ~い~”??」
”ひぇっ”
にこやかに頬を引き攣らせるユウカに対して、あざやかに顔を青くする”先生”。またしばらく財布の紐を握られる生活が始まることを予期したとかなんとか。
そんな風に続いていく会話に、最初の気まずさは徐々に薄らいでいき――普段の二人のやり取りに戻りつつあった。
片方が怒ると、もう片方は宥める様に返し、
片方が子供じみたことを言うと、片方は呆れながらも笑みを浮かべ、
そんな風に、話の主導権が入れ替わりながらも、談笑が続いていく。
”先生”と、早瀬ユウカ。
その付き合いは、”先生”がこのキヴォトスを訪れた時から続いていると云ってもいい。
たまたまその場に居合わせたことがきっかけで、ある騒動に強引に巻き込まれたユウカ。その時、彼女の指揮を執ったのが当時キヴォトスに来たばかりの”先生”だった。
その騒動の鎮圧後、作戦行動に掛かった費用についてシャーレを尋ねた際、偶然”先生”が普段費やしている日用品――もとい嗜好品の金額を知って唖然。食費を削ってまでも自分の趣味嗜好を最優先させる”ダメな大人”というイメージが植えつけられてしまったのだった――”先生”は寧ろ開き直っていたが。
それからというものの、”先生”として相応しい大人になってほしい――という名目で何かと世話を焼くようになったユウカ。特に金銭面の扱いはかなり厳重に見てくるので、”先生”も毎月のやりくりに一苦労である。
とは言え、”先生”にとって劣悪な関係とは決して思わなかった。
なんだかんだ世話を焼いてくれる彼女に”先生”は感謝こそあれ恨むことなど有り得ない。何より小言こそ言うが、彼女は決して見放すことはしなかった。それは彼女の面倒見のいい性格を示すものであり――同時に優しさを示すものでもあった。
何はともあれ――経緯こそあれだが――少なくとも”先生”にとって数少ない、気兼ねなく接しやすい”生徒”であることは確かである。
――故に、敢えて二人は未だ触れずにいる。
明日から
”……ユウカは、ゲーム開発部のこと……どう思ってるの?”
だからこそ、自分から切り出すべきだと”先生”は決断する。
先にユウカから話し掛けてくれたのだから。
何より、自分は”生徒”の見本でもある”先生”なのだから。
その言葉を受けたユウカは、先程まで浮かべていた笑みを消し、変わりに真剣な表情を浮かべる。
「……問題児です。誰がどう言おうが、あの子たちは今までも問題行動をしてきましたから」
と、淡々と言い放つユウカ。
その言葉に対し”先生”は肯定も否定もしない。現にモモイ達が問題行動を行った事実は変えようは無いし、実際にそれを見てきたセミナーの部員が言うのであれば嘘偽りはないのだろう。
その事実を踏まえて答えたユウカ――だったが、「でも」と、少し顔を伏せながら言葉を紡ぐ。
「決して、悪い子たちじゃありません。ただ、まっすぐで、友達想いの子たち――だと思います」
その言葉に”そっか”と安心するように微笑む”先生”。
モモイはユウカが廃部を言い渡した張本人――と云い張っていたが、”先生”からして見ればユウカは十分すぎる程、ゲーム開発部に便宜を図ってくれていたように思えた。
そもそも、実績も無く部員も足りていないという、すぐに廃部にしてもおかしくない状況だったにも拘わらず、猶予を与えた事実――そのことが彼女がモモイ達に悪印象だけを抱いているわけではないことを証明している。
その事実に少し安堵する”先生”に対し――
「……それでも、もし仮に、セミナーを”襲撃”するようなら容赦はしません」
と、あくまでも仮に、ということを強調して断言するユウカ。
その発言に少し驚く一方で、やはりと思う”先生”。
恐らく、セミナーは今回の襲撃のことを知っている――
襲撃作戦について説明を受けていた”先生”はある疑問を抱いていた。あまりにも、相手側の用意が周到すぎる、と。
『鏡』が保管されている差押品保管所を”C&C”が警護している――それだけ聞くと何もおかしくはない様にも聞こえるが、問題は”C&C”が警護の担当である点である。何故、”セミナーの部員”でも、”ガードロボット”でもないのか。
C&Cの実力について”先生”も噂には聞いていた。それゆえに彼女たちの実力については疑う余地はない。しかしそれでも、本来の彼女達の主な立ち回りは危険な武装集団の殲滅――つまり守衛よりも攻撃に廻るべき集団なのだ。
つまり、通常の警護体制に対しC&Cは余りにも過剰戦力、と言わざるを得ないということになる。まるで、このタイミングに襲撃を掛けることを知っているかのように――
とはいえ、先程編み出した作戦の詳細までは、流石のユウカも知り得ないと予測する”先生”――寧ろ知られていた時点で、モモイ達の作戦は破綻すると云っても過言ではない。
何よりも、敢えて彼女がわざわざそのことを遠回しに伝える事。そのことこそが重要な事だと”先生”は考える。
「それが例え――”先生”があの子たちに力を貸していたとしても」
”ユウカ……”
「これだけは譲れません。だって、私は――」
――”セミナー”の、早瀬ユウカですから。
夕焼け色に染まるミレニアムの校庭内に一陣の風が吹いた。
まるで、彼女の決意を後押しするかの如く――
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
14-3
”先生”とユウカが校庭で話し合っている時と同じくして。モモイ達を見送ったアリスは、ヴェリタスに残っていた――当然、すっかり寝入っているカービィを抱きかかえながら。
「それで、私に何か相談かな?」
そんなアリスが向かい合うのは、ヴェリタスの2年生――小鈎ハレ。
今回の作戦におけるブレーン担当でもあり、その役割に恥じない優秀な頭脳の持ち主である。また、AIやドローンの開発に注力している為かその分野にも精通している。
――そして、”ハッカー”技術に長けた人物でもある。
「モモイが言っていました。ヴェリタスはミレニアムのことなら何でも知っている、情報屋のエキスパート、と」
「情報屋……? まあ、少し語弊はあるけど大抵のことなら調べられるよ」
アリスの言い回しに少し不思議そうな顔を浮かべながらも肯定するハレ。控えめながらも己の腕前には自信があるようだ。
ハレの返答を聞いたアリスは一度頷いてから「調べてほしいことがあります」と、頼み込む。それに対して、ハレは特に驚きもせず――
「いいよ、何について調べればいい?」
と、あっさりと快諾する。その反応にアリスは少し驚くものの、気を取り直し抱きかかえていた存在を起こさないように、ゆっくりとハレに突き出した。
「……この子について、です」
「この子って……”カービィ”のこと?」
ハレの疑問に「はい」と答えたアリスは、あらためてハレにこれまでの経緯を説明する。
曰く、一般向けに公開された情報からカレに関する情報が一切載っていないこと。
そのことからモモイ達はキヴォトスの外から来た生物と言うが、アリスとしてはいまいち納得がいかないこと。
その事実を踏まえ、もしかしたら表向きに公開されていない情報の中に眠っているのではないかとアリスは考えた。しかし、公衆向けに開示された情報なら閲覧は可能だが、隠匿されているデータに関しては流石の彼女もどうすることも出来ない。
そこで情報収集能力に一日の長があるヴェリタスの力を借りようと、依頼を頼むことに至ったのだった。
彼女の説明に成程と、頷いてからハレはカービィの方へ視線を向ける。
「……実を言うと、私も気になっていた。その子について」
と、言いながら興味津々な様子を覗かせるハレ。元々昨日の段階で興味はあったのだろう。
その言葉に、今まで聞き手側だったマキとコタマも会話に混ざる。
「モモはぬいぐるみ、って言ってたけど、調べてもどこのメーカーなのかも分からなかったんだよね~」
「カレの発声も実に希少です。言葉を交わせないのが実に残念です」
二人の言葉は内容こそ違いはあるものの、意味合いは似たようなもの。いずれもカレへの興味を示すものだった。そして、依頼を受けた本人であるハレは依頼内容について少し考えた後に、アリスへ返答する。
「――うん、分かった。どこまで調べられるかは保証できないけど……やってみるね」
そう微笑みながら承諾を受けるハレに、喜色満面を浮かべるアリス。その一方で、気になっていることがあるのか、「けど」とハレはアリスに問いかける。
「どうしてその子について、そこまで知りたいの?」
あくまでも、純粋な疑問――しかし彼女の疑問はもっともであった。確かに気になる存在に変わりないが、アリスの抱く感情は垂たちが抱く興味のそれとは違う。
興味というよりも、願望。
その問いにアリスは胸元で眠っているカービィを撫でながら考え込み、少し間を置いてから答える。
「……カービィは、アリスのパーティーメンバーになってくれました。でも……アリスはカービィのことを、何も知りません」
ポツポツと呟くアリス。
そんな彼女の表情は、何処か寂しそうにも見えた。
「パーティーの仲間は苦難をともに乗り越えていくもの――互いのことをよく知ることが大事だと……アリスは知りました」
だから――と、アリスは言葉を重ねる。
「――アリスは、”知りたい”です。カレがどこで生まれて、どんな場所で暮らしてたのか」
例えば彼女と同じパーティーメンバーであるモモイやミドリ、ユズは言葉を交わし、会話することによりお互いの事をより深く知ることが出来るだろう。
しかし、カービィに限ってはそれが出来ない。意思の疎通こそできるが、言葉を交わすことの出来ない存在。そのことがアリスにとって、歯痒く感じてしまう。
”知らない”から、”知りたい”。
彼女は、はっきりとそう口にした
今までアリスの言葉を静かに聞いていたハレは、優しい眼差しでアリスを見つめる。
「――アリスにとって、その子は大事な仲間なんだね」
彼女の言葉に目を瞬かせるアリスだったが、すぐに表情を和らげると「はいっ」と、一切の躊躇いも無く頷き――
「アリスの”オトモ”、ですから!」
と、眠っている本人にも聞こえる様に、胸を張って告げたのだった。
――ミレニアム校庭内。
本校のミレニアムタワーから離れた場所で、ベンチに背もたれながら茜色に染まった空を見上げている大人――”先生”がいた。
本来ならシャーレに戻って彼女も危惧していた溜め込んだ仕事を片付けなければいけないというのに、唯々、時間も気にせずぼんやりと空を眺めていた。
先程まで隣にいた少女――早瀬ユウカは、既に立ち去っている。
――そろそろ業務に戻ります。”先生”もあまり根を詰めすぎないようにして下さいね!――
そう言いながら――最後の最後までおせっかいを焼いて、立ち去る背中を見送った”先生”は何故かその姿が目に焼き付いて離れなかった。
凛とした態度だった。
しっかり胸を張って歩き去っていったはず。
――けれど、何故か後ろ姿が寂しそうで。
それがずっと頭から離れなかった。
あらためて、”先生”は両者の立場を考える。
ゲーム開発部は、たった一つの自分たちの居場所を守る為――その唯一の手段を手に入れるために危険を承知で襲撃作戦を決意した。廃部を言い渡された彼女たちにとって今回の作戦は、まさしく最後のチャンスだろう。
一方でセミナーは襲撃者に対し容赦しない姿勢を貫いている。当然の対応とも言えるが、そもそも学園の代表が容易に襲撃を許すようなものなら周囲の信用を落とすも同然である。例えそれが廃部を間近にし、追い詰められている生徒が相手でも容赦しない――と敢えて彼女は断言したのだろう。
モモイ達の頑張りは”先生”も理解している。決して悪意を以っての行動ではなく、あくまでも仲間の――友達の為の行動。それは”先生”としても応援したいというのが本音である。
では、セミナーの”生徒”は。
ユウカは、頑張っていないのか。
それに対して”先生”は否、と答える。寧ろユウカは嫌な役割を自ら請け負って、その責務を果たそうとしている節があった――本人の性格上、蔑ろにしたくないという気持ちもあるのだろうが。
それでも、周りに疎まれることも覚悟の上で彼女は職務を全うしようとするのだろう。
それが彼女なりの――セミナーの一員としての矜持と責任を背負う者として当然の事として。
唯一彼女にとって救いなのは、周りに理解してくれる者が多いことだろう。それはある意味、彼女のおせっかい焼きな性格の賜物とも言える。
詰まるところ――両方とも譲れないものがあり、決して境遇や立場に腐ることはなかった。
故にこの対決は、それぞれの意志のぶつかり合い。
ならば”生徒”を、”子供”を支える存在である”先生”が――否、”大人”がその間に割って入ることが、果たして正しいと云えるのだろうか。
”……なら、私のすべきことは――”
実のところ、”先生”の中で答えは出ていた。
ただ、それを実行することに躊躇っていた――否、恐れていたとも云える。
それはモモイ達に対する”裏切り”とも云える行為。彼女達にとって、僅かな望みの可能性を減らす行為に他ならない。
もし仮に。
あの場でユウカに出会わなければ。
疑念を抱きつつも、モモイ達に協力していたのかもしれない。
――”セミナー”の、早瀬ユウカですから――
あの時の彼女の言葉が脳裏に過った”先生”。
そこで”知ってしまった”、彼女の決意と覚悟。
それを見て見ぬ振りを決め込むことは、”先生”にはできなかった。
”……皆に、謝らないといけないかな”
そう呟きながらも、自分の携帯を手に取る”先生”。
これからする話と、これから飛んでくるだろう罵倒に覚悟を決めながらも、ある連絡先に電話を掛ける。
――――”先生”にとって、今日一番の大仕事だった。
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【隣に並んで歩いていたミドリからは特に】
→そうさ、意味なんてない。
俺達はミドリを卑しく描写することを……
強 い ら れ て い る ん だ !
【乱戦・襲撃はこのキヴォトスにおいて珍しい話ではない】
→そもこの世界ではこういうことが日常茶飯事、ってことを認識してないとこういう話展開できないよね
【「し、仕方ありませんね、少しだけですよっ」と文句垂ながらも付いてくる彼女】
→チョロイン
【コトブキヤの『セイレーン・デバイス』】
→サーペントくんは見習ってね^^何度もビームぶっぱなしやがって
【”先生”と、早瀬ユウカ】
→アプリの看板の子よりも先にメモロビを解放してくるのは流石に笑った
【”知らない”から、”知りたい”】
→今作のテーマに噛んでる、やも
【大人”がその間に割って入ることが、果たして正しいと云えるのだろうか】
→Vol2で一番気になったこと。人命とか世界の危険が危ないとかの状況じゃない”生徒”同士の対決に、はたして”先生”が一方に肩入れしてもいいのかという疑問(メタ的なこと言うとプレイヤーがいないとストーリー介入できないってこともあるんだろうけど)
そのままストーリー通り進めてもいいんだけどもやもやしそうだったので思い切ってこういう展開にしましたです。どうせピンクボールいるし。見守ることも大事だと思うます!