Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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(会社の会議よりも投稿する方が心臓バクバクさせてんのどうなのわたし)

 今回も改変要素多めです。ご了承ください。


015

15-1

 

 

 

 ヴェリタス、エンジニア部、そしてゲーム開発部。三つの部活動が手を結び、セミナー襲撃作戦を計画した翌日の昼頃。

 ミレニアムの中心であるミレニアムタワーの内部で、ある騒動が発生していた。

 

 一人の少女がタワーを襲撃――最上階に侵入してきたのだ。

 

 本来、最上階へ向かうためには役員向けのエレベーターを利用しなければならず、エレベーターには生徒会の役員といった限られた人物しか利用できない”指紋認証システム”が備え付けられている――が、件の少女は無理やりエレベーターの扉を突き破るという暴挙に出た。

 

 しかしそんな事態に気付かないセミナーではない。

 すぐにエレベーター前をセミナー所属の生徒と警備ロボットが包囲。エレベーターの到着と同時に物量に任せた総攻撃が行われた。

 

 

 

 そうして努力虚しく、襲撃者――”ゲーム開発部”の部員であるアリスはなすすべ無く無力化されてしまったのだった。

 

「や、やられてしまいました……! ふ、ふっかつの、じゅもん……を……」

 

 などと呟きながら、地に倒れ伏すアリス。

 その様子を映した監視カメラからオペレーションルームのモニターで観ていた早瀬ユウカは、唖然とした様子で呟く。

 

「信じられない……どんな方法で来るのかと思ったら、よりによって強行突破だなんて……」

 

 その呆れ気味に呟くユウカに対して、その隣で同じく状況を観察していたC&Cの室笠アカネはモニターに映る少女に興味があるように目を輝かせる。

 

「この子がアリスちゃんですね。とても可愛らしい子ですねー、6番目のエージェントメイドとして育てたくなってしまいます」

 

 「お持ち帰りしてもいいですか?」と期待するかのように希望するアカネに、なんとも言えぬ表情を浮かべるユウカ。しかしすぐに「今は生徒会を襲撃した犯人の一人なんだからそれはダメ」と、ユウカは毅然とした態度を装いながらアカネを窘める。

 一先ず反省部屋に閉じ込めておく、とユウカは現地の役員に指示を出した後にアリスが破壊したエレベーターの被害状況を改めて確認する。

 

 モニターに映し出されたエレベーターは稼働こそできるものの、扉部分に至っては無残な姿を晒していた。

 

「確認しました、エレベーターのセキュリティロックをすぐに修復するのは難しそうです。対処としては、丸ごと取り替えるしか……」

「そう、じゃあ新しいのに交換するようにエンジニア部に……――」

 

 オペレーターの報告を聞いた上で依頼して、と言い切る前にユウカの口が突如止まる。

 それから「ちょっと待って」と告げると別のモニターに映るアリスの姿へと視線を飛ばし、思案するかのように映像を見つめる。

 

 そして、あることに気づいたかのように彼女は呟いた。

 

「多分だけど、アリスちゃんのあの意味分からないくらい巨大な武器……エンジニア部で作られたものに違いないわ」

 

 先程ユウカが目に付いたのはアリスの武器。

 その異様さからまず一般向けではないと予想し、出処をエンジニア部に当たりをつけた。

 

 その事を踏まえ、この件に関してエンジニア部も関わっていると推測するユウカ。ゲーム開発部、ヴェリタスでは勧誘は難しいだろうが、”先生”が顔繋ぎとして交渉していたら或いは――と考え、指示を変える。

 

「……一番強力そうなセキュリティを購入して急いで取り替えて。ただし、エンジニア部製じゃないもので」

 

 罠がある可能性を考慮しエンジニア部に依頼するのは危険だと判断するユウカ。ほんの僅かな可能性でも可能性の芽は摘んでいく――徹底的に万全を期することを怠らない、彼女らしい判断であった。

 

 

 

 そこに罠があるとは知らずに――――

 

 

 

「――エンジニア部から連絡が来てたよ、”トロイの木馬を侵入させることに成功した”……ってね」

「ひゅーっ、それは一安心。もし失敗してたら、アリスが意味もなく監禁されただけ……ってなるところだったからね」

 

 同時刻。

 連絡を受け取ったマキがその事を周知すると、モモイを筆頭に一同が安堵に胸を撫で下ろす。現在、ゲーム開発部とヴェリタスのメンバーはアリスの襲撃後の経過を共に確認し作戦の準備を滾々と進めていた。

 ユウカの懸念は正しく、アリスの襲撃はあくまでも本作戦の下準備に過ぎない――そういう意味で言えば今回の襲撃は()()()()といっても過言では無い。

 

 その事実を裏付けるかのように、ヴェリタスの部員――小鈎ハレは「とりあえず、一つ目の仕掛けは上手くいった感じかな」と、控えめに笑みを浮かべながら言う。

 

「――じゃあ、次のステップに移ろうか」

 

 彼女の言葉に頷く一同。

 こうして、襲撃作戦の開始は刻一刻と、着実に近づいていくのであった。

 

 

 

 

 ――それから時間が過ぎ、真夜中。

 

 日が落ちてから大分経っていることから既に大半の生徒は自分の寮へと戻り、人の気配が無くなったタワー周辺は暗闇と静寂が辺りを占めていた――昼の騒動がまるで嘘のようである。

 

 そんな暗闇の中、二つの影が動く。

 ゲーム開発部の部員――才羽姉妹の二人である。

 

「……さて。そろそろ、始めよっか」

「ヒビキとウタハ先輩は?」

 

 緊張を解すように息を長く吐いた後にゆっくりと呟くミドリと、各員の配置状況を確かめるモモイ。その言葉を無線越しで拾ったハレが『もう”お客さん”を出迎える準備は出来てるって』と言葉を返すと「いいね、さすが」と、モモイは満足げに頷く。

 

「マキとコトリの方は?」

『こっちも準備OK、待機中だよ~』

『お任せください! 私の理論上、この作戦が成功する確率は2%です!』

 

 続いて、無線越しにマキとコトリへ尋ねたモモイに二人が返答する。マキが特に気負う様子も無くいつもの調子で答える中、コトリが絶望的にも聞こえる言葉を意気揚々と口にした。

 その発言に「ほぼ間違いなく失敗じゃん!?」と衝撃を受けるモモイだったが、いたずらっぽく笑うコトリが「場を和ませる冗談ですよ! 逆です、98%成功するでしょう!」と先の発言を訂正する。何はともあれ、各自の準備は滞りなく済んだ。

 

 後は、開始の合図のみ。

 そう考えたモモイは膝を曲げ、これまで()()()()()()()()()()を地面へと丁寧に下ろした。

 

「それじゃ、準備はいい? ”二人”とも!」

「うん、私はいつでも」

 

 モモイの確認にミドリが肯定を返し、そしてたった今モモイが降ろした者――カービィへと二人が注目すると、それに応えるかのようにカレは自信たっぷりに頷く。

 

 それを見たモモイが満足げに笑うと自身の愛銃を構え――いよいよその時を告げる。

 

「よぉし、行っくぞー!」

 

 気合いの篭ったモモイの先駆けを機に、ミドリ、カービィも後に続いて駆け出す。

 目指すはミレニアムタワー最上階の差押保管所。

 

 

 

 かくして様々な想いが渦巻く中、襲撃作戦の幕が開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「――……来た」

 

 場所は移り――ミレニアムのオペレーションルーム。

 

 室内に備え付けられていた監視モニターが、ある人影を捉える。

 その相手を視認したユウカは、特段驚きもせず静かにその事実を受け入れた。

 

 映った人影は”二つ”。猫耳や猫のしっぽを連想させる特徴的なアクセサリーを身に着ける双子の姉妹――才羽モモイとその妹のミドリだった。

 

 映ったモニターに連動している監視カメラの配置箇所から、場所を特定したセミナー所属のオペレーターが周囲に報告する。

 

「1番ゲート、ポイントA1にターゲットを確認。まもなくポイントA2に進入します」

 

 進入されているというのに、二人の所在を淡々と報告するオペレーターも含めて各自に焦りの様子はない。

 それもそのはず、この状況は彼女たちにとっても想定の範囲内。寧ろ逃げられないように予め待機させていた包囲網を固め、彼女達を確実に捕らえる算段の様だ。

 

「そこまで入れば、もう脱出は不可能と見ていいのですよね? では、私が行きましょう」

 

 と、今まで静観していたアカネがゆったりとソファから立ち上がる。

 その発言に薄く笑みを浮かべ、冗談交じりに問いかけるユウカ。

 

「あら、だいぶ高くかっているみたいね。アカネがわざわざ行く必要、ある?」

「もちろんです」

 

 彼女の質問に対し、アカネは淑やかな笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。

 

 

 

「――お客様のお出迎えは、メイドとしての基本ですから」

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

15-2

 

 

 

 ――今回の襲撃作戦において、重要な点は3つ。

 

 第一に、目的地である差押品保管所はミレニアムタワーの最上階――セミナーが専用スペースとしているフロア内の東側に位置している。

 

 当然、そこを守るための警備は厳重な体制を敷いている。正面から攻めようものならば何百台の監視カメラを掻い潜り、何十体もの警備ロボを無力化させ――なおかつセミナー部員の迎撃をやり過ごす必要がある。

 

 また、最上階への進入方法としては役員向けのエレベーターで直接向かうか、別のフロアから避難階段を経由するか――その二通りとなる。尤も、避難階段内にも監視カメラが配置されており、廊下に出た先は警備室やオペレーションルームのすぐ近く、捕まる可能性が高い。その上、保管所から距離も離れている。

 そのことを踏まえ、ここを利用するのはあまり得策ではない――やはりフロア内の中央に位置しているエレベーターを利用することが最も現実的と云える。

 

 

 

 第二の点は、セキュリティについて。

 

 フロア内は各セクションごとにスライド式自動ドアを備えた強化ガラス製の仕切りで区切られている。そして、その傍には指紋認証を行う為の端末が備え付けてあり――通る為にはこの指紋認証を通す必要がある、ということになる。

 

 登録されている指紋さえ確認できれば通れる為、セミナー所属の生徒――或いはその関係者ならば問題は無い。しかし登録外の指紋を検知した場合、そのセクション内を封鎖するように両端に鉄製のシャッターが下りてくる仕組みとなっている。

 その上で認証に再び失敗――或いは降りてきたシャッターに衝撃を加えようものならば、更に頑丈な第二シャッターが下りてくるという徹底っぷり。無論、初っ端から仕切りを破壊しようとしてもシャッターは降りる。

 

 更に厄介な点は、役員向けのエレベーターにも指紋認証システムが組み込まれている為、部外者が強引に突破しようものならシステムが連動し、フロア内の全セッションに第一シャッターが下りてくるように設定されている。

 ネットワークを経由しデータを改竄しようにも、外部からのネットワークを切り離して使用している為、外部からの介入は基本的に不可能。正に外からの侵入を徹底的に阻む、鉄壁の守りと云っていいだろう。

 

 

 

 そして、最後に――”C&C"の存在。

 

 リーダーである”美甘ネル”が不在とはいえ、ミレニアム最強の武装集団の名に恥じない実力を持つ者が3人。まず対峙した時点で勝機は限りなく薄い。

 コールサイン・ゼロスリーの室笠アカネはセミナーの指示で臨機応変に動く遊撃者。

 その他の二人については各持ち場について侵入者の迎撃。この包囲を交わさなければ目的の達成は程遠い。更に言えば、警備担当のセミナー部員や警備ロボにも注意を惹かなければならない――個々の力量はC&Cより当然劣るが、数の暴力は案外侮れないものである。

 

 

 

 まとめると、”エレベーターを利用”した上、各セクションごとに設けている”セキュリティを突破”し、”C&Cとの対峙”を避けた上で、包囲網を突破する――ということになる。

 

 

 

 これを絶望的と見るか否か、人それぞれである。

 ただ一つ言えることは――この条件を乗り越えなければ『鏡』を手に入れる事すらできない。

 

 それだけの話である。

 

 

 

 ――そうして、下のフロアから避難階段を経由して上がってきた二つの影。

 

 ゆっくりと扉を少し開き、その隙間から廊下内の様子を伺うように覗き見た後に、慎重な様子で廊下へと足を踏み入れた。

 周りを警戒するように辺りを見回しながら歩を進めていく二人。その表情は暗闇に紛れている為か伺うことは難しい。

 

「えーっと、この辺で良いんだっけ?」

「はい、間違いありません!」

 

 確認するかのような問いかけを口にする少女に対して、別の少女の声がはっきりと肯定を返す。

 

 

 

 そのまま誰一人いない静寂と暗闇が占める廊下を進んでいた二人――だったが。

 

「――ええ、合っていますよ」

 

 と、不意に響き渡る第三者の声。

 その声に驚いたのか、反射的に物陰に隠れる2つの人影。そして先ほど声を発した少女がゆっくりと廊下の曲がり角から姿を現した。

 

「こんばんは、良い夜ですね。ここまでのお二人の行動は、監視カメラで全て見させていただきました」

 

 優雅に微笑みながら、暗に”ここまでの事は全て筒抜けだ”と伝える少女。すると、わざとらしくうっかりした様子で「ああ、申し遅れました」と前置きしながら言葉を重ねる。

 

「あらためまして、私はC&Cのコールサイン・ゼロスリー……本名は秘密なので、謎の美女メイドとでもお呼びください」

 

 と、茶目っ気を表すようにユーモラスな呼び名を自称する少女だったが。

 

「あ、”アカネ”先輩!」

「特技が”爆☆殺”で有名な、あのアカネ先輩?」

 

 2つの人影のうち1人がずばり名前を言い当てると、もう片方が自分の知っている情報と擦り合わせるかのように呟く。バレてた。

 一方、公的に秘密のエージェントにも拘らず名前はおろか、物騒な知られ方をされていることに苦笑いを浮かべた少女――室笠アカネは「正体を明かさない系ヒロインはもう時代遅れなのでしょうか……?」と、少々ズレた考察をする始末。

 

「色々知ってるよー。コタマ先輩によると、どうやら最近体重が……」

「ま、待ってください! その情報漏洩は流石に問題がありますよね!?」

 

 アカネの呟きに反応した人影の1人が本人にとって知られたくない情報を軽々しく暴露しようとするのを、必死に食い止めようとするアカネ――もっとも、その慌てっぷりは半ば認めているようなものだが。

 

 とはいえ彼女も世間話に来たわけではない。出鼻は挫かれたが気を取り直すようにコホン、と咳払いを挟み、未だ物陰に隠れている者へ毅然と言い放つ。

 

「その情報に関しては永久に黙っていただきます……! さあ、そろそろ姿をを見せていただきましょうか、モモイちゃん、ミドリちゃん!」

 

 

 

 高らかに発したその言葉を機に、辺りはしんと静まり返る。

 それから少し間を置き――ふふふ、という不敵な笑い声がその場に響き渡る。

 

「まだ気づいてない感じかな。失敗してるのは、そっちの計画の方だよ?」

「……はい? それは一体――」

『ちょ、ちょっと待ってアカネ!』

 

 揶揄うような相手の発言に、怪訝な顔を浮かべるアカネが問い質そうとする――同じタイミングで、彼女の無線機から今までモニタリングしていたユウカの焦燥感に駆られた声が発せられた。

 

 

 

 どうかしたのか、とアカネが返事を返そうと――する前にユウカが口を開いた。

 

『あなた――”どこで”その二人と話してるの!?』

「え……!?」

『カメラからの映像にあなたの姿が見えない……!』

 

 ユウカの言葉に、言葉を失うアカネ。

 どこからも何も、物陰越しに向かい合っているのだから。

 

 

 

 困惑したアカネの様相を見兼ね「そろそろいいかな」と悪戯が成功した子供のような調子で呟くと、いよいよ物陰に隠れていた姿を現す二人。

 

 

 

 そこにいたのはアカネ達の予想通り、モモイとミドリ――――ではない!

 

 

 

「ハ~イ、アカネ先輩! 家に戻ろうとしてたんだけど、道に迷っちゃってさ~」

 

 赤髪をお団子で纏めた少女が軽い調子で話しかけると共に、その隣にいる特徴的なメガネを掛けた少女がフフフと不敵に笑う。そんな二人の姿を見たアカネが目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。

 

「あ、あなたたちは!?」

「あなたたちは!? と聞かれたら説明するのが世の情け! どんな質問にも答えをご提供! エンジニア部の説明の化身、豊見コトリ!」

「芸術と科学のコンビネーション! ヴェリタスのデジタルアーティスト、マキだよ!」

 

 驚愕する彼女に対して、片やハツラツとした様子で――片や悪戯っぽく笑みを浮かべ、堂々と名乗り出るコトリとマキ。

 そんな二人と対照的に唖然とした様子のアカネだったが、すぐさま無線を繋げてユウカに確認を取る。

 

「ユウカ、何が起きているんですか!?」

『わからない……! こっちの監視カメラでは今も確かにモモイとミドリが映っているし、アカネの姿が見えな――……!』

 

 アカネの疑問に対して状況を説明している中、この奇怪な現象に思い当たる節が頭に浮かんだユウカが口を止めると、『カメラ設定を初期化して! クラウド接続を遮断してプライベート回線でもう一度繋ぎなおして!』とすぐさまオペレーターへと指示を飛ばす。

 

 指示を受けたオペレーターがすぐさま設定を変更すると、一瞬ブラックアウトした後にモニターは再び映像を映し出し――アカネ、マキ、コトリの三人が対峙している状況が映る。

 

『映像出ました! アカネ、マキとコトリの二名と対峙中です!』

「なら、先程まで私たちが見ていた映像は、まさか……!?」

 

 今度こそ正しい情報を映し出した映像に俄かに騒々しくなるオペレーションルーム。そこに響くオペレーターの声を拾ったアカネがある可能性を予想する――――その最中である。

 

 

 

<侵入者を発見。緊急事態につきセミナー専用フロアの各セクションを封鎖します>

 

 突如響く、アナウンスに彼女は反応する暇さえ与えられず。

 無情にも全セクション内を封鎖するシャッターが下りたのだった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

15-3

 

 

 

「――――上手くいったかな?」

『うん、コールサイン・ゼロスリーは閉じ込めたよ』

 

 少し落ち着かない様子で尋ねる少女――ミドリの言葉に対して、無線を通じてハレが肯定を伝える。

 その言葉に胸を撫で下ろすミドリに対して――モモイはふふん、と得意げに笑みを浮かべながら「まさかずっと偽の映像を見てた、なんて思いもしなかっただろうね!」と声を弾ませる。

 

 彼女の言う通り、ユウカやアカネが今まで見ていたのは、予め用意していた”録画映像”。それを全フロア内のカメラに細工を仕込んだおかげで、本物のモモイとミドリ、そしてカービィは堂々とカメラに姿を晒しながらも気付かれることなく潜入できたのだった。

 

 この細工は監視カメラのネットワークがクラウド経由――”外部ネットワークを利用している”が故にできたこと。ハッキング技術に長けたヴェリタスの独壇場でもあった。

 とはいえ、いずれ気付かれるのは当然の事。現に映像の矛盾が発覚した時点でこの細工は既に効力を失っているも同然。

 

 だからこそ、彼女たちは二つ目の策を講じる――否、既に講じたと云うべきか。

 

 彼女たちが今いるのは、最上階へ向かう役員向けのエレベーター。指紋認証による扉の開閉をEMP装置を使用することで誤作動を起こし、”無理やり”進入したモモイ達。

 当然、強引な手段を検知したセキュリティが連動したせいか最上階は現在、全セクションを鋼製シャッターで締め切られた状況である。それが作動したことで、アカネを閉じ込めることに成功した――ということだろう。

 

 とはいえシャッターが下りようとも端末による指紋認証さえクリアしてしまえば何の問題も無い。セミナーの役員は当然、その関係者であるC&Cのアカネも指紋の登録対象であることは言わずもがな。精々足止めが関の山だろう。

 

 寧ろ、突破が困難なのはモモイ達の方。

 外部ネットワークから介入できない以上、彼女たちが指紋認証を突破することは不可能である。

 

 

 

 ――――本来ならば。

 

「――フッフッフッ、ユウカめ。きっと慌てふためくだろうね!」

「まあ……さすがに想定できないと思うよ、”これ”は」

 

 意地の悪い笑みを浮かべるモモイに、少し同情するように苦笑いを浮かべるミドリ。そんな二人が、共にエレベーターの”扉”へと視線を向ける。

 

 アリスによって破壊され――”取り換えられた扉”へ。

 

 

 

 一方、マキとコトリの2名と共に閉じ込められたアカネ。

 思いもしなかった状況に少し溜息が漏れてしまった彼女に対して、この状況を楽しんでいるかのようにマキが気さくに話しかける。

 

「へへっ、仲良く閉じ込められちゃったね~?」

「……そんなことはありません、あなたたちと違って私は指紋登録されていますから」

 

 陽気なマキの発言に対して、態度を崩さずに言葉を返すアカネ。

 事実、彼女の言う通り指紋登録されているアカネはこの場から脱出でき、逆にマキとコトリはこの場に取り残される形になるだろう。

 

 「お会いできて光栄でしたが、私はこれで」と、にこやかに微笑みながら別れの言葉を告げるアカネ。そのまま彼女はマキ達とは反対側に進むと、シャッターの傍に備え付けられていた端末のパネルに自身の手を翳す。

 

 

 

 本来ならばこれでシャッターは上がり、この場を抜けられる――――はずだった。

 

 

 

<データ不一致。未登録の指紋です>

「えっ……!?」

<セカンドシャッター、作動します>

「そ、そんなっ!?」

 

 無機質かつ無慈悲にも。システム音声が告げたのは、認証ならず、という言葉。

 認証に失敗した為、制止の言葉も虚しく、彼女の目前で第二のシャッターが音を轟かせながら閉まる。

 

 この事態に思わず呆然とするアカネ。

 脱出するつもりが更に強固な壁に阻まれてしまった――そんな彼女の様子を後ろで眺めていたマキはニヤニヤと笑みを浮かべ、コトリは何故か誇らしげな表情を浮かべていた。

 

「あははっ、ますます閉じ込められちゃったね!」

「システムの動作に異常ありませんね! さすが我々エンジニア部が制作したシステムです!」

 

 その時、コトリの発言を聞き逃さなかったアカネが、咄嗟に彼女の方へと振り返る。

 

「エンジニア部が制作……? いえ確かアレはエンジニア部製ではないはず……!?」

 

 そう言い、状況を確認するためすぐさまユウカへ連絡を取るアカネ。一方、彼女達もシャッターの対応に追われているせいか無線機の向こうで忙しない様子が繰り広げられている。

 

「ユウカ、状況は!?」

『今、シャッターを開けるためにノアを向かわせてる! すぐにそこから――』

 

  出られるはず――と口にしようとしたユウカだったが、その言葉は直ぐ側でモニタリングをしていたオペレーターによって遮られてしまう。

 

『だ、ダメです、ノアから連絡! 彼女たちも閉じ込められました!』

『な、な、なんですって!?』

 

 まさかの事態に驚愕に充ちた声を発するユウカ。

 セミナー役員である”生塩ノア”でも開けられない――ということは実質セミナー役員でもシャッターの解除は不可能ということに他ならないだろう。

 

 このタイミングでまさか故障? と考えるユウカだが、先程のコトリの発言を思い返す。

 

 確かに彼女は罠を避けるため、性能こそ劣るものの、エンジニア部製ではない最新型の強力なセキュリティシステムを導入した。

 しかし、相手がそれさえも想定していたのなら――それを見込んだ上で細工を施していたのならば。

 

 

 

 そこで、ようやくユウカは気付く。

 アリスの襲撃――その本当の目的を。

 

『初めからこの状況を狙って、アリスちゃんに扉を壊させた……!?』

 

 慄くように呟いたユウカだが、今頃気付いたところで既に手遅れ。封鎖された中を脱出するためにはシャッターを破壊するか、扱いに慣れていないシステムを復旧させるしか手段はない。

 

 

 

 警戒したつもりが気付けば相手の作戦にまんまと乗せられ、襲撃者に対して完全に後手に回ったユウカ達だった。

 

 

 

『――第2シャッターの作動も確認したよ。これで生徒会もアカネもしばらく身動きできないはず』

「よしっ、指紋認証システムも”正常”に作動したね」

 

 エレベーターにより、最上階へ辿り着いたモモイ達。それと同じタイミングで入るハレの連絡にモモイが嬉々とした様子で呟く。彼女の発言は今の状況を見ると誤った表現とも聞こえるが、実際のところ的を射た表現だった。

 

 なぜなら、現在セキュリティシステムに登録されている指紋情報にセミナー及び、その関係者の情報は”登録されていない”のだから。

 

 昼頃、破壊された備品に代わりセミナーが導入したシステム――それこそが”エンジニア部”が昨日仕上げたセキュリティシステムだった。尤も、彼女たちが制作した既存品のモノをスペックダウンさせ、一目でわからないように外見を変えただけの代物の為、準備には時間も手間も掛からなかったとは本人達の談。

 

 後はヴェリタスの情報操作により製造元を偽った上で一時的にセミナーの目に付くようにするだけ。エンジニア部製の製品が取り寄せられないとなれば、なるべく一番高性能なシステムを選ぶのは自明の理。

 相手の心理を突いた見事な作戦と云うべきか――意外とセキュリティ意識が甘いユウカを知っているからこそ成り立つ作戦と云うべきかはまた別の話。

 

 何はともあれ、セミナーとアカネを一時的に無力化したことに加え、このフロア内を自由に行動できる権限を得たモモイ達――勿論、彼女達の指紋は登録されている。

 早速、封鎖したシャッターの傍に配置されている指紋認証用の端末へと近づき、パネルへと手を翳すモモイとミドリ。すると端末から機械音声が発せられ――

 

<才羽モモイ、才羽ミドリ、2名の承認が完了しました>

 

 と、告げると同時にシャッターが開かれ、仕切りガラスの扉が左右にスライドし完全に道が開かれる。正常に作動したことに喜ぶ二人だったが、ふとミドリが気になったことを呟いた。

 

「……やっぱりカービィって、センサーとかに反応しないのかな?」

 

 疑問を口にしたミドリに対して、あー、と得心が得たような反応を返すモモイ。事実、指紋認証をしたのはモモイとミドリだけだったにも拘らず扉は開かれた――そのことからカービィは認識していないと考えたようだ。

 

 昨日の作戦会議、セキュリティの仕組みについてエンジニア部が説明中の時。

 セクション間にはセンサーが設けられてあり、通る人物は必ず全員認証を受けなければならない、ということを理解してもらう為、ヒビキが持ってきていた疑似的なセンサー装置で実証を行うことになった――その際、アリスがいつもの癖でカービィを抱き抱えたままセンサーに近づいた時だった。

 

 センサーはアリスを認識していたにも拘らず、なぜかカービィに対して認識はおろか、反応すら見せなかったのだ。

 

 この事態に説明を突然中断し、原因についてエンジニア部の三人が熱い議論を始めやがったので大いに一同は困った。

 その際モモイが「動物扱いだからじゃないの?」と軽い気持ちで口を出したが、「動物扱いにしろ、物扱いにしろ。認識は必ずするはず」と”素人は黙っとれ――”と云わんばかりにウタハ達が口を揃えて豪語した。

 

 とはいえ、監視カメラや録音機対しては映ったり声を拾ったりするため、あくまでも”機械側のセンサーによる認識”が上手くいかない、という結論でその場は落ち着いたのだった――ウタハ達三人は明確な根拠を証明できず、不承不承な様子だったが。

 

 相変わらず謎の存在であることに拍車をかけるカービィ――尤も、この状況下でセンサーに引っかからないことは利点と云ってもいいだろう。

 

 そのことを踏まえて、モモイが「まあでも」と、肩を竦めながら言葉を紡ぐ。

 

「カービィだからー、……って理由で納得しちゃうんだよね、私」

「あ、それわかるかも」

 

 少し冗談めかして呟くモモイに、クスリと笑みを浮かべながらミドリが同意する。

 

 理由はどうあれ、二人にとっては大した問題ではないと考えている様子。この数日間ですいこみやホバリングなどの奇抜な技を見せられたせいか、今更カレの特殊性が分かったところで気にならない、というのが二人の本音だった。

 

 

 

 なによりも――少し先で二人を急かす様に笑みを浮かべながら両手を振っている本人が、恐らく一番気にしていないのだろうから。

 

 

 

 その仕草に互いに顔見合わせて笑みを浮かべる才羽姉妹。この状況においても相変わらずのマイペースっぷりだが、今の二人にとって何故か頼もしく見えた。

 

「――よぉし、それじゃ行こっか!」

「うん!」

 

 モモイの気合の入った声に釣られるように、ミドリも大きく返事を返す。そして二人と一匹は再び目的地を目指し、長い通路を駆け出した。

 

 目指すは勿論、『鏡』が眠る差押保管所、ただ一つ。

 

 

 

 夜の帳が下りる中、少女達の躍動はまだまだ続く――

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【や、やられてしまいました……! ふ、ふっかつの、じゅもん……を……】
→ふるいけや かわずとびこむ
 みずのおと ばしや

【6番目のエージェントメイドとして育てたくなってしまいます】
→5番目は一体誰なんやろなあ(すっとぼけ

【最上階への進入方法としては役員向けのエレベーターで直接向かうか、別のフロアから避難階段を経由するか】
→原文ではエレベーターのみしか入れないという設定(多分説明してないだけで他にもあるんだろうけど)。でもそうなるとマキとコトリが進入する方法とか実は二人は最上階じゃなくて一個下の階にいたとかでもそうなると最上階にしかシャッター下りないって言ってたハレの説明が矛盾してワケワカメって私の脳みそがヒギィっちゃうので建物に避難階段を勝手に追加しましたあ。こんなクソ高い建物に避難階段もないとかおかしいだろうし

【爆☆殺】
→ドゥヒン☆

【あなたたちは!? と聞かれたら説明するのが世の情け!】
→あの口上聞かなくなってから2年近く経ってたとか嘘だろニャース

【生塩ノア】
→(あちきがブルアカを始めるきっかけなのは黙っとこっと)

【”エンジニア部”が昨日仕上げたセキュリティシステム】
→エンジニア部が一晩でやってくれました

【意外とセキュリティ意識は甘いユウカ】
→だから100kgと云われちゃうのよ

【素人は黙っとれ――】
→城島リーダーが言ったわけじゃないから!

【カービィだからー、……って理由で納得しちゃうんだよね、私】
→わかる


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