Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 まだまだ続くよ襲撃編。


016

16-1

 

 

 

 巧妙な罠によって足止めを余儀なくされたC&Cの室笠アカネ。

 彼女は現在、陽動役として行動していたヴェリタス所属の小塗マキと、エンジニア部所属の豊見コトリの二名と共に、シャッターによって封鎖された通路で仲良く閉じ込められていた。

 

「ふふ、確かにさっきの合金製とはレベルが違う感じだね。さて、どうしよっか?」

「ではアカネ先輩、こうして仲良く閉じ込められたのも何かの縁ですし、楽しい相対性理論の講義でも始めましょうか?」

 

 閉じ込められたという状況にも拘らず、世間話でもするかのように話し掛けてくるマキと、時間潰しも兼ねて自身の趣味である説明を披露しようと目を輝かせるコトリ――暗に”すぐに出られない”とアカネに示唆している様に聞こえるのはきっと気のせいではなく。

 

 対して、アカネは二人の言葉を無視し耳元のインカムを通じて何処かと連絡を取ろうと試みていた。

 

「……こちら、コールサイン・ゼロスリー! A-11セクションにて閉じ込められました、”コールサイン・ゼロワン”、応答をお願いします!」

 

 切羽詰まった様子で状況を報告しようと通信を繋げようとしたアカネ――だったが、なんと相手先からの応答は無し。それどころか<相手がオフライン状態です>というシステム音声が空しく彼女の耳元で響くのみ。

 それに対して「もう!」と、彼女は思わず不満げに声を荒らげた。

 

「”アスナ”先輩、いったいどこにいるんですかっ! せめて電源くらい点けておいてくださいよ……!」

 

 この場にいない人物に対して怒り半分、呆れ半分といった具合に愚痴を零してしまうアカネ。連絡が取れない相手に対して心配ではなく不満が先に出る辺り、普段から苦労させられているご様子である。

 

 立て続けに状況が悪化していくアカネ。

 そんな彼女を見兼ねたように、彼女の携帯端末からメッセージの受信音が発せられる。

 

 それに気付くと、すかさず携帯を取り出しメッセージの中身を確認するアカネ――だったが、目に入ったメッセージの内容に表情を明るくする。

 

 送信者は彼女と同じC&Cの部員――――”コールサイン・ゼロツー”。

 メッセージにはこう記述されている。

 

【アスナ先輩の居場所はわからないけど……安心して、アカネ。】

 

 

 

 ――ゲーム開発部はもう、私の射程範囲内だ――

 

 

 

 不穏な一言を最後に、メッセージは締めくくられていたのだった。

 

 

 

 その一方、順調に歩みを進めていくモモイ達はフロア内の一番西側――窓際の通路を進んでいた。目的の差押保管所は今いる所からちょうど北方向に位置している為、この通路を北上していくのが最短経路となる。

 道中、配備されたガードロボットの妨害こそ受けたが大して苦労を掛けずに難なく突破した三人。特に飛行型ドローンをすいこみによって無力化できるカービィの存在は、才羽姉妹にとって渡りに船だった。

 

 順風満帆に事が進んでいることに気を良くしたモモイが鼻歌交じりに口を開く。

 

「ふっふーん、今やこのフロアは私の思うがまま〜♪」

「油断しないでお姉ちゃん。まだアカネ先輩を閉じ込めただけなんだから」

 

 調子に乗るモモイを窘めるミドリ。彼女の言う通りC&Cのエージェントはまだ二人残っている。このフロア内の何処かで閉じ込められている可能性も考えられるが、それは希望的観測と云うべきだろう。

 そんな彼女の指摘に対して「わかってるわかってる」と軽薄な調子で返すモモイに、不安からか溜息を吐くミドリ。

 

 

 

 ――すると、二人の後を追うように付いてきていたカービィが突然立ち止まる。

 体を傾げながら不思議そうに窓の外のある一点へと視線を向け、そのままその場を動かない。

 

 続いて、カービィが付いてきていないことに気付いたモモイとミドリが振り返り、カレの様子に疑問符を浮かべながら尋ねる。

 

「どしたの、カービィ?」

「外に何かいるの?」

 

 カレの様子に二人が尋ねるが、当の本人は反応を見せない。

 ますます首を傾げたモモイが痺れを切らしたのか近づこうと歩み寄る。

 

 

 

 ――すると突然、慌てたように目をまるくしたカービィは、モモイの方へと駆け出しその勢いのまま彼女の胸元へ飛び込んだ!

 

 思いがけない行動に対応が遅れたモモイはその勢いを止める事が出来ず、押し倒される形で後ろへ飛ばされ、尻もちついて倒れてしまった――その時である。

 

 

 

 突如、天井まで覆う通路の窓ガラスに穴が空き、それと全く同時に鈍い激突音を響かせながら反対側の壁にも同じような穴が空く――僅かコンマ1秒間の出来事である。

 

 窓ガラスと壁の穴の位置関係を見るに、先程モモイの立っていた位置を容赦なく撃ち抜く射線だったのは、きっと気のせいではなく。

 

 

 

 仰向けに倒れたまま目を剥かせて栗みたいな口をあんぐりしながら壁の穴を見つめるモモイは心なしか顔が青い。

 それを離れて見ていたミドリは、何が起こったのか理解が追い付かず唖然としていたがすぐに我に返ると、慌ててモモイと彼女の胸元に倒れ込んでいるカービィの元へ駆け寄る。

 

「ふ、二人とも大丈夫!? ケガはない!?」

「な、何なのいったい!? 今すごい速さで弾丸が目の前を通り過ぎてったんだけど、ってか壁に穴空いてるし!?」

 

 焦りながら無事を確認するミドリに対し、相当ビビったのか涙目で口走るモモイ。一方のカービィは、ふう、と一安心してからなんでもなかったように起き上がる。

 

 一先ずケガが無いことに胸を撫で下ろしたミドリは、改めて穴を中心に円網状に亀裂が走った窓ガラスへと視線を向ける。

 

「……長距離からの狙撃に、対物狙撃用の13.97㎜弾……これってもしかして」

『うん、間違いない』

 

 息を呑んだミドリの予想に、モニタリングしていたハレが冷や汗をかきつつ肯定する。

 そして――この事態を引き起こした人物について、語る。

 

 

 

『――C&Cの狙撃手……コールサイン・ゼロツー”角楯カリン”によるものだね』

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

16-2

 

 

 

 ミレニアムタワーから西側に、距離を置いて位置する高層ビル。

 月明かりが仄かに照らすその屋上に、彼女はいた。

 

 彼女が握る愛銃であるボーイズ対戦車ライフル――”ホークアイ”の銃口からは熱と硝煙が漂っており、今まさに狙撃を行った直後である。

 目標までの距離もさることながら、風向きは少し横流れ気味。

 そんな状況下においてもほぼ狙い通りの箇所へと狙撃を行った彼女の腕前は、疑う余地なく一流と云えるだろう。

 

 

 

 そんな確かな腕を持つ、黒髪を膝下まで伸ばした褐色肌の少女――角楯カリンは、その結果とは裏腹に眉間に皺を寄せ、険しい表情を覗かせていた。

 

「……まさか、撃つ前からこっちの場所を把握してくるなんて」

 

 淡々とした声色で呟くカリン。しかし、それはあくまでも動揺を抑えてこんでいるだけであり、内心でははかなり動揺していた。

 

 

 

 狙撃を行う前にスコープ越しにモモイ達の位置と動きを観察していたカリン。狙撃手にとって対象の動きや動作の癖、それを知っているのと知らないのでは命中精度に大きく影響する。

 

 そのことを重々理解しているカリンがカービィへと視線を移したとき――彼女にとって戦慄する事態が起きた。

 

 

 

 偶然なのか、はたまた感知したのか――スコープ越しに相手と()()()()()しまった。

 

 

 

 狙撃手にとって行動を起こす前から場所を知られるのは紛れもなく痛手。何しろ姿を把握されていないからこそ真価を発揮するのであって、位置を把握された時点でその優位性はほぼ失われたも同然。

 尤も、カービィ本人は具体的な場所まで把握しておらず、”なんとなくの勘”を頼りにその方向へ目を向けただけだが、そんな事情を彼女が知る由も無い。

 

 とにかく動揺を抑えつつ、無警戒にカレへとゆったり近づくモモイへと狙いを定めたカリン。

 今なら確実に当てられる――と確信し引き金を引いたカリンだったが、そこで彼女にとって更に驚愕する出来事が。

 

 自分の場所を見抜いたピンクボールが、今度はモモイを狙ったことを気付くと、彼女を庇ったのだ。

 

 一度ならず二度までも行動を看破されたことに、息を呑むカリン。

 最初こそその見た目に「ちょっと可愛いな」等と思ってしまった彼女だったが自分に油断があったことを反省し、今一度気を引き締め直す。

 

(……あの子は多分、アスナ先輩と同じ”直感型”。危険を察知して、自分の勘を頼りに動くタイプ)

 

 先の動き方に僅かな既視感を感じたカリンは、身近な人物の中から近しい行動パターンを推測する。事実、カービィの行動の殆どが己の感性に素直に従ったものであり、この推察は意外と的を得ている。

 それ故に、直感で動く相手への対処の厳しさは経験上理解しているカリン。なんせ動きを読んだとしても最後の最後に未来予知染みた勘で避けやがるものだから、彼女のような狙撃を得意とする者からしたら堪ったもんじゃない。

 

 

 

 ――とはいえ、当てられない相手ではない。

 

 そう考える彼女の脳裏に、先程モモイを庇ったカービィの姿が浮かぶ。

 見た目とは裏腹に戦闘慣れしていることは彼女にとって驚くに値するが、一方で”性格”に関してはその見た目通りわかりやすいもの。

 

 そしてその”性格”は――今の彼女にとって明確な”隙”となる。

 

 次弾の装填を済ませた彼女は再び狙撃体勢へと移りながら、静かに――けれども絶対の自信を以って、自分に言い聞かせるように告げる。

 

「次は――――100%命中させる」

 

 

 

「――――いや、私の計算結果は少し違う」

 

 突如、背後から耳に届いた言葉に目を見開き、思わずスコープから目を離すカリン。

 そんな彼女の動揺など気にもせず、彼女の背後で語り手は言葉を続ける。

 

「君の弾丸があの子たちに当たる確率は――0%だ」

 

 その言葉を皮切りに「誰だ!?」と鋭い声をあげて振り返ったカリンの視線が捉えたのは――淡紅藤色の髪と制服の上から羽織った白衣を靡かせる少女。

 

 

 

 そして、2門の小型ガトリング砲にカバーを被せることでホースライティングチェアを連想させる頭部と、キャタピラを内蔵した二つの脚部を持つ――奇怪な置物だった。

 

 その造形に、”意味不明”の文字が頭に浮かんだ彼女の心境などお構いなしに――砲台は銃身を回転させそのまま銃撃を開始。

 それと同時に我に返ったのか、カリンはすぐその場から飛び出す様に離れ、なんとか銃撃に巻き込まれるのを回避する。

 

「なっ、何だそれは!?」

「紹介しよう。これぞエンジニア部の新作、全ての天候に対応可能な二足歩行型戦闘用の”椅子”――”雷の玉座”さ」

 

 すぐに体勢を立て直しながら物騒な置物について困惑しながらも問い質すカリンに対して、自慢の作品について目を輝かせる少女――白石ウタハは何処か誇らしげに語りだす。

 しかし、そんな彼女の説明に対して「なんで椅子を歩かせて……」と理解に苦しむ様子を覗かせるカリンを見て、再び理解者を得られなかったことについて残念そうに肩を落とすウタハ。

 

「この”雷ちゃん”の魅力を理解してもらえないとは、残念だね……」

「……理解はできないけど、およそ把握はできた」

 

 そう呟いたカリンは――先程までとは一変。

 険しい表情を浮かべつつ自身の得物であるライフルを構え直す。

 

「ずっと、気になってはいたんだ。どうしてゲーム開発部がセミナーのセキュリティを突破してここまで来ることが出来たのか」

 

 確信を持って告げるカリン。彼女の言う通り今回の作戦において、ゲーム開発部は元より、ヴェリタスでさえも介入できない要素がある。

 それはセキュリティシステム。外部ネットワークに繋がっていない以上、ヴェリタスではここを突破することは不可能。突破するには、内部のシステムを熟知している――それこそセキュリティを組み込んだ者でなければ不可能に近いだろう。

 

 そんな彼女の言葉に、ウタハは薄く笑みを浮かべる。

 その態度に、カリンの中の可能性が確信に変わる。

 

「……あなたたちが、あの”先生”に協力していたのか」

 

 シャーレの”先生”がゲーム開発部の廃部を阻止する為に動いていることはカリンも当然把握している。だからこそ今回の作戦にも一枚嚙んでいると彼女は考えた。

 事実、この作戦において何の益にもならないエンジニア部がゲーム開発部に協力する意味はほぼ皆無――しかし、”先生”からの頼みならばあり得ない話ではない、という見解に基づいての発言だった。

 未だ姿を見せていない点は気になりはするものの、遠方で指示を出していると考えればおかしくは無い、と考えたのか、その点について気にしていないようだ。

 

 

 

 確信を持つカリン――だったが、一方で彼女にはどうしても気にかかる事があった。

 

(なら、ヒマリの情報は私たちを混乱させるための罠だった……?)

 

 ヴェリタスの部長でありながら、彼女達に不利となるであろう襲撃作戦についてリークした張本人。しかし彼女が齎した情報にはエンジニア部について一切触れられていなかった。

 

 はたして一体どちらの味方なのか、と思案しかけるカリンだったが、今は目の前の相手に集中することが大事だと思い直すと、いつでも動けるように戦闘態勢に移る。

 

「――だけど、私を本気で止めるつもりなら、奇襲で来るべきだった。その”椅子”があるとはいえ、正面から挑んでくるなんて……」

 

 「それは計算ミスだろう、ウタハ」と、相手の判断を非難するように指摘するカリン。マイスターとしての腕は確かなウタハだが、それが実戦において十全に活かされるわけではない。

 何より彼女が今対峙しているのはミレニアムにおいて屈指の武闘派集団――その中でも指折りに入る実力者。両者における実力差は言うに及ばず。

 

「遮るものも無いこんな広い屋上で、私に正攻法で勝てるとでも思ったのか?」

 

 呆れたように問いかけるカリンに対して、ウタハは特に反応を見せずにただ沈黙するだけ。その態度に怪訝な表情を浮かべるカリン。

 

 そして少し間を置いた後、肩を竦めつつ彼女は口を開く。

 

「君の言う通りだ、ここには遮るものは何もない……」

 

 と、おもむろに顔を上げ、空を見上げるウタハ。

 そのままの恰好で言葉を重ねる。

 

 

 

「――――そう、天井すらね」

 

 彼女の言葉と行動に訝しむカリン――すると、微かな風切り音が彼女の耳へと伝わる。

 初めは特に気にするものでは無かったが徐々に近づいて来る音に不自然さを感じ、空を見上げ――――目を見開く。

 

 

 

 それもそのはず。

 彼女の視線の先に、こちらを目掛けて飛来する5つの砲弾が目に映ったのだから――!

 

 

 

 視認するや否や、転がるようにその場から離れるカリン。彼女がその場から離れると同時に、砲弾は5つ続けさまに地面へと着弾――そして、爆発。

 先程まで彼女がいた場所を、爆風が呑み込んだ。

 

 先程まで静寂に包まれていた空間が一変。

 硝煙の匂いが立ち込め、爆発音が鳴り響く危険地帯へと一転した。

 

 それでもなんとか砲弾の爆発範囲から逃れることに成功したカリン――狙撃手として培われてきた視力のおかげとも云える。

 とは言え浮かべた表情は安堵とは程遠く、目の前で起きたことに動揺を隠せないようだ。

 

「まさか、曲射砲!? 一体どこから!?」

「うちのヒビキがミレニアムタワーの反対側から、ね。君がヒビキを狙撃するためには幾つもの壁や天井を貫通……あるいは彼女と同じように曲射させなきゃいけない」

 

 爆風により羽織った白衣を靡かせつつ、涼しい顔で無理難題な解決策を提示するウタハ。その意図はカリンにも伝わったのか、眉間に皺を寄せウタハを睨む。

 それに対し相変わらず飄々とした態度を見せつけるウタハが「さて」と呟く。その言葉と同時に、彼女の隣に座していた”雷ちゃん”の銃身がローター音を唸らせつつ再び回転し始める。

 

「ヒビキの援護射撃を掻い潜りながら私を倒すか、”雷ちゃん”の掃射をかわしながら彼女への狙撃を成功させるか――君にそのどちらかが出来るかな?」

「くっ……!」

 

 試すような彼女の挑発に、歯噛みするカリン。

 その様子に少し満足げに口端を寄せながら、「もう一度言ってあげようか?」とウタハは静かに告げた。

 

 

 

「――――計算通りだ」

 

 その言葉が言い終わると同時に、空からは砲撃。地上からは機関銃の弾幕。

 非情なまでの猛攻が、カリンを襲った。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

16-3

 

 

 

「――……狙撃が止んだ。向こうのビルで爆発してたのってやっぱり……!」

「ウタハ先輩とヒビキちゃんだ! カリン先輩の相手をしてくれてる間に急ごう!」

 

 ウタハとカリンが対峙している一方。窓側から離れ壁に背を預けた状態で、狙撃が始まる前カービィが見ていた方角を注視していたモモイ達。それからしばらくして、彼女たちの視線の先に映るビル屋上にて爆発が起きたことに気付く。

 狙撃の危険性が無くなった今がチャンスだ、と云わんばかりにミドリが先を急ぐことを促すと、モモイとカービィも頷く。

 

 再び通路を駆け出す一同――だったが突然、地鳴りのような振動と、遠くから鈍く響き渡る爆音に驚き、思わず足を止めてしまう。

 

「えええっ! なに、地震?」 

 

 慌てた様子で辺りをキョロキョロと見渡すモモイ。

 それに対しミドリは「爆発、みたいだけど……」と呟いてから、ある予感に思い当たると同時にハッ、と顔を上げる。

 

「まさか――アカネ先輩!?」

 

 

 

 そのまさか――ミドリの懸念は的中していた。

 

 所持していた身の丈程のサイズを誇るケースからアカネはいくつか爆弾を取り出し、チタン製の第二シャッターを爆破――なお取り出してから仕掛けるまでの動きが見えなかったと、後にマキとコトリの二人は語る。

 

 生じた爆煙を身近で受けていたにも拘らず、姿を現したアカネは慣れたように毅然とした態度のまま。逆に一番離れていた筈の2人は爆風による熱と衝撃、そして爆音によってグロッキー状態であった。

 

「ぐぅっ……講義はまだ、終わって……!」

「ひーっ、死ぬかと思った! 一体どこにそんな大量の爆弾を隠してたのさ……!」

 

 息も絶え絶えなコトリとマキの言葉に対して、別の事を気にしていたのか二人の言葉に特に反応を示さず、「あまり学校の施設を壊したくないのですが……」とアカネは溜息混じりに呟く――が、すぐに表情を引き締め直すとユウカへと連絡を取る。

 

「ユウカ、申し訳ないですがシャッターは無理やり破壊しました。ゲーム開発部の現在位置は?」

『さっきまでカリンが足止めしてたけど、見失ったわ。けど……どこに向かっているのかは分かる』

 

 見失った状況にも拘らず、冷静なユウカの対応に「『鏡』がある、生徒会の差押品保管所の方ですね」とアカネは答える。

 ゲーム開発部の狙いは差押品保管所に保管された『鏡』――ならばそこへ向かって動くはず、と考えるのはごく自然な事である。

 

 そのことを確認したアカネは、すぐさまモモイ達を追おうと行動しようと足を踏み出す―――はずだったが。

 

 

 

 突如、通路を仄かに照らしていた照明が一斉に消える。

 それと同時にブツッ、という音を発した後アカネの無線通信機が沈黙した。

 

 

 

「どうしました、ユウカ? ユウカ!?」

 

 言葉をかけ続けるアカネに対し、通信機からは何も応答は返さない。

 状況を踏まえ、現在起こっている事態を推察するアカネ。

 

「まさか、電力を遮断……!? くっ、ここまでするとは……!!」

 

 相手の抜かりない工作にいよいよ焦りを隠せないアカネ――しかし、敢えて彼女はその場を動かない。なぜなら主要電力を遮断したとしても予備電力に切り替わり、すぐに復旧することを知っているからである。

 

 彼女の予想通り、すぐに通路の照明は点灯。

 それだけなら大した工作ではない様にも思えるが、今までの経緯から嫌な予感が拭えないアカネはすぐにユウカへと通信を繋ぐ。

 

 

 

「聞こえますか、ユウカ? 先程、電力の遮断が起きたようですが――」

『やられた……っ!』

 

 一体何が起きたのか、とアカネが問いかけようとした言葉はユウカの一言によって遮られる。

 苦々しい様子で呟く彼女に少し驚きつつもアカネは気を取り直し、状況の説明を求める。

 

「何があったんですか? 電力は復帰したように思いますが……」

『……問題は電力が遮断されたこと。その間だけ緊急用にネットワークは()()へと通じるわ』

 

 アカネの疑問に答えるユウカ。それに対して、それの何が問題なのか、と訊き返そうとしたアカネだったが、その危険性について口を開く直前で気が付く。

 

 フロア内のセキュリティや防犯システムのほとんどは内部ネットワークで管理されている。故に外部からの介入を受け付かないからこその鉄壁の守り。

 

 

 

 しかし、もしも一瞬だけでも、()()()()()()()()()ができてしまったのなら――?

 

 

 

『だ、ダメです! フロア内のガードロボット全機、機能停止しました!』

『監視カメラも、完全に機能していません!!』

 

 アカネの予想を裏切らず、セキュリティルームに響き渡るセミナー役員の慌ただしい声に彼女は頭を抱えそうになる。

 信じ難いことに停電が起きてから復旧するまでの約6秒間――その僅かな時間でシステムのハッキングを完遂させた。その結果、セミナーが管理するガードロボット、監視カメラやセキュリティシステムの機能停止。

 

 恐るべきはその数秒間でハッキングを完遂させる”ヴェリタス”の腕前と云うべきか。

 情報戦において右に出る者はいないと評されるのも納得である。

 

 

 

『――差し押さえ品のロボットを全部出して!』

 

 だからと言って、黙って手をこまぬくユウカではなかった。

 すぐにセミナーが管理している機体ではなく、外部から持ち込んだ機体を使用することを断ずる。確かに規格や通信回線などの違いにより今のハッキングから難は逃れている――が圧倒的に個体数は少ない――それでも何もしないよりかはマシと考えたのだろう。

 本来ならば塗装した上でお掃除ロボットとして活躍してもらおうと考えていたようだが、背に腹は代えられない。ユウカの指示によって、混乱は一時的に収まり、すぐに役員たちは行動に移る。

 

『アカネ、メイド部の命令を聞くようにプログラムするから――』

 

 少し待ってて、と言おうとしたユウカの言葉を――「いいえ」と、今度はアカネが遮る。

 

 

 

「私は先に行って、邪魔となるシャッターを”お掃除”しておきましょう」

『えっ』

 

 

 

 彼女の言葉に、思わず間の抜けた返事を返してしまうユウカ。そんな彼女の様子に気付かなかったのか、アカネは話を続ける。

 

「システムがハッキングされた以上、そちらでシャッターを開ける方法はないのでしょう? なら予め”お掃除”しておいた方がよろしいかと」

『あ、うん、そうね、そうよね、うん』

 

 彼女の説明に、あやふやに同意するユウカ。

 そんな彼女の態度にまったく気に掛けず、にこやかに微笑みながらアカネは答える。

 

「心配いりません。アレぐらいの強度なら爆弾の数は十分足りますから」

『あ、ハイ』

 

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 果たしてアカネは知っているのだろうか。彼女がまとめて”掃除”するであろう第一シャッターと第二シャッター、仕切りガラス――その他部品に掛かる材料費や修理費がいくら掛かるのか。

 そして道すがら、何枚のシャッター1式を消し飛ばす必要があるのか。

 そのお金で一体あなたの爆弾が何百個買えるのか。

 

 

 

 ざっと頭の中で見積った金額に胃が痛くなるユウカ。

 しかしアカネの言葉は今の状況において全くの正論かつ合理的である。

 現実問題、今のユウカたちにシャッターをどうにかする手段はない。消し飛ばす以外の手段は無い。

 

 

 

 ゆえに、致し方の無いことなのである。

 背に腹は代えられないのである。

 

 

 

『じゃあ、その、おねがいシマス』

 

 

 

 ――――背に腹は代えられなかったのである!

 

 

 

 そんなユウカが明日からの財政事情に頭を抱えている一方。

 ミレニアムタワーの最上階――とは真逆に位置する地下フロア。主に配電設備等が設置されたフロア内で一人の少女が潜伏していた。尤も、彼女の仕事はつい先ほど果たされたばかりであり、微かに震えている声で無線先の相手へ恐る恐る状況を伺う。

 

「う、上手く、いきました、か?」

『大丈夫、セミナーのシステムは一時的に掌握したよ』

『見事なスニーキングでした。まさかあそこまで気配を消して移動できるとは……いいセンスです』

 

 不安げに尋ねる少女――花岡ユズの言葉に対しハレの満足げな言葉と、ユズのオペレートを担当していた人物――音瀬コタマの称賛の言葉が返ってくる。その言葉にようやく安心したのか緊張を解す様に息を深く吐くユズ。

 

 この作戦においてユズはモモイ達とは別行動――電力の遮断を行う役割を宛がわれた。

 

 無論地下にも監視カメラや警備用のロボットは配置されている為、一筋縄ではいかない。しかし人の目を気にして生活をしているユズはその経験(?)を活かし――ついでにそこら辺に落ちていた段ボール箱を使って――気配を消しつつ、進入することに成功。ソナーセンサーを駆使し、相手の位置を逐次伝達したコタマのサポートも上手く彼女の助けになったようだ。

 

 こうして気付かれずにメイン配電設備の元まで辿り着いたユズは、ハレの合図と共に電力を遮断。そして、復旧するまでの約6秒間、外部ネットワークに一時的に切り替わる瞬間を狙ったハレは見事にハッキングを成功させ――今に至る。

 

 

 

 ここまでの戦況を顧みると、形勢はゲーム開発部側が圧倒的に有利。

 現状セミナー役員の殆どが身動きが取れず、自慢のセキュリティはもはや体を成さず。

 頼りのC&Cもコールサイン・ゼロスリーのアカネはシャッターによる足止め、コールサイン・ゼロツーのカリンはエンジニア部の二人による足止め――と、すぐには追い付けない状況であった。

 

 それに対して、モモイ達は差押品保管所が控えているセクション内へといよいよ足を踏み入れようとしている状況。道を塞いでいるシャッターさえ開ければ目的地はすぐ先である。

 

 ここまで来れば、もはや作戦は大成功と云ってもいいだろう。

 後はモモイ達が『鏡』を奪取するのみ。

 

 

 

 ――――誰もがそう思っていた。その時である。

 

『――――……え、ちょっと、ウソでしょ?』

 

 疲弊していた心身を休ませていたユズの耳に入ってきた、ハレの動揺した声。

 いつも冷静沈着な彼女にしては珍しく動揺を露わにした様子に不安を抱いたユズが尋ねる。

 

「あ、あの……どうかしましたか?」

 

 ユズの不安げな言葉に『あー……、うん、そうだね』と煮え切らない様子で返事を返すハレ。

 その態度にますます不安になるユズ――そんな彼女の不安を察したのか、ハレは先程判明した事態について口を開く。

 

 

 

『今、モモイ達が通ろうとしている通路で”待ち伏せ”されてる。しかも、その人物は……――』

 

 

 

「――ここさえ抜ければ……」

「うん、もうすぐ生徒会の差押品保管所のはず!」

 

 そして、最後のセクションを遮るシャッターを開けようと指紋認証用のパネルへと手を翳すミドリとモモイ。今日何度目かの例に漏れず認証は通り、重厚な鉄の壁は重々しい音を奏でながらゆっくりと上がっていく。

 ついに待ちに待った目的地が近いことも相まって、逸る気持ちを抑えられない双子は期待に胸を膨らませる様子を隠しきれない模様。

 

「あとちょっとだよ、カービィ!」

「もう少しだけ、頑張ろうね」

 

 モモイの活気の良い言葉とミドリの励ましの声に対して、片手をあげながらカービィは元気よく返事を返す。今回もひょんなところで活躍してくれたカレに対して二人は深く感謝していた。

 

 この作戦が終わったら少し豪華なものを――量を弁えて――ご馳走してあげようと二人が考えている間に、いよいよ最後の通路への路が開く。

 

 

 

 そして、”誰もいない”はずの通路を駆け抜けようとした――――その時。

 

 

 

「――――お、やっと来たね!」

 

 静寂な空間に響き渡る、やけに弾んだ声色を発した”第三者”の声に肩が跳ね上がるモモイとミドリ。

 そんな二人の動揺を余所に――支柱の影から”メイド服”を模した軽装を身に包み、足元まで付きそうなブロンドのロングヘア―を揺らす少女が「遅かったねー、だいぶ待ってたよ~」と気さくな態度で姿を見せる。

 

「ようこそ、ゲーム開発部! それと~……うーんと、その子は何て名前?」

 

 楽し気にモモイとミドリを歓迎する一方、身に覚えのないピンクボールにこてんと首を傾げる少女。

 それに対し、才羽姉妹と違い物怖じしてなかったピンクボールは、いつぞやの時と同じように”カービィ!”と元気よく名乗る。

 その素直さに気を良くしたのか、少女も人懐っこい笑みを浮かべては「カービィっていうんだ~! よろしくね!」と声を掛ける。

 

 カービィと少女が呑気なやり取りをしている一方、相手の正体に唖然としていたモモイとミドリ――――二人にとって、この場で最も当たりたくない人物であることに違いないのだから。

 

 我に返ったミドリが声を震わせながら問いかける。

 

「……あ、”アスナ”先輩!? どうしてここに!?」

 

 ミドリがアスナ先輩と呼んだ少女――”一ノ瀬アスナ”はミドリの問いに対してうーん、とすこし考えを巡らせた後、答えた。

 

「どうしてって言われても~……なんとなく? 予感とか直感とか、そういうのってあるでしょ? ここで待ってたら、あなたたちに会えるんじゃないかなーって」

 

 「そんな予感がしたから!」と、自信満々に曖昧な根拠を言い放つアスナに、頬を引き攣らせるミドリ。果たして彼女の様に直感や予感だけで大事を成せる人物がどれだけいるのだろうか、とミドリは思い馳せる。

 

(――……いや、案外いるかも)

 

 足元の未確認生命体を見てちょっと考え改めるミドリ。

 さっきのカリンの狙撃を見抜いたことと云い、初対面でアスナと波長が合っているといい、カレも同じタイプだと悟ったのだった。

 

 

 

 そんなことを考えているとは露知らず「さてっ」と、気を取り直すかのような振る舞いを見せると、アスナはミドリ達に向かって口を開く。

 

「じゃあ、始めよっか?」

「え、えっと」

「念の為聞くのですが、何を……?」

 

 にこやかに笑みを浮かべるアスナに対して、嫌な予感が拭えないモモイ。

 一応、もしかしたら予想とは違う言葉が返ってくるのではないかという微塵の期待を込め訊き返すミドリ。

 

 それに対して、楽しそうに、嬉しそうに、はしゃいでいるとも云える様子を見せつつ――物騒極まりないことを言い出すアスナ。

 

「”戦闘”を! 私、戦うのが大好きなの!」

 

 そう言い放つと、手に持っていた愛銃のFA-MAS――”サプライズ・パーティー”を構えるアスナ。すると、「あ、自己紹介がまだだったね!」とうっかりした様子で呟くと自身について簡素に語る。

 

「C&Cの”コールサイン・ゼロワン”、アスナ――」

 

 ”コールサイン・ゼロワン”。

 その名が意味するのはC&Cにおいて二番目の実力を有する人物――つまり、”美甘ネル”に続く実力者の一人である。

 

 

 

「――――いくよっ!」

「や、やっぱりぃ!?」

 

 先手と云わんばかりに意気揚々と駆けるアスナの一声と、悲鳴じみたモモイの叫び。

 それが開戦の合図となるのであった。

 

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【角楯カリン】
→先生褐色美人好きすぎへん?

【なんとなくの勘】
→気が付いたら大ボスのねぐらに殴りこんでるしこの原住民 直感:A

【違う、そうじゃない】
→もう普通に聴けなくなっちまったよふええ

【いいセンスです】
→この世界の段ボールは有能すぎる……

【一ノ瀬アスナ】
→ブルアカ知らん人でもこの子知ってる人多そう


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