Spring Sky StarS! 作:笹ピー
18-1
電力遮断によって生じたシステムのハッキング。それがアリスに予め与えられていた2つ目の作戦の開始を知らせる合図でもあった。
ハッキングにより電子ロック式の扉は侵入者を閉じ込めておく役割を失い、アリスが近づくと何も疑うことなく自動的に開かれた。
そうして呆気なく”反省部屋”から脱出を果たしたアリスは、目的地である”差押品保管所”へとひた走る。モモイ達が派手に動いてくれたせいか、保管所に繋がる別ルートには人の気配無く、唯一配置されていた警備ロボットもシステムとの接続が切れているせいか、物言わぬ置物と化していた。
さしたる苦労も無く目的地に近づいていくアリスだったが、そんな彼女には一抹の疑念を抱いていた。これでいいのだろうか、と。
作戦自体に問題がある――というワケではなく、このまま自分一人で目的を果たし脱出することに対する疑問。確かに何人捕まろうと、一人でも『鏡』を奪いそれをヴェリタスに渡せばその時点でゲーム開発部の本懐は遂げられるだろう。アリス自身、そのことは理屈では理解している。
それでも、彼女にはその行為が”仲間を見捨てる行為”に思えてならなかった――考えすぎ、と言われればそれまでだが、ある疑問が彼女の思考回路の片隅に残り続ける。
――勇者を目指す者が、仲間を見捨てて良いのだろうか?
尽きない疑問に気を取られていたせいか、気付けば目的地である”差押品保管所”は目前である。電子制御にて管理されている扉は既に掌握した為、鍵をこじ開ける必要など無くただ扉の前に立てば勝手に開くだろう。
浮かない顔を浮かべながらも中に入ろうとするアリス――だったが、ふと彼女の足が止まる。
微かに彼女の耳に入ってきた、掃除機が”吸い込む”ような音。
ここ最近、彼女にとって聞き慣れた音――しかしここまで長く続くほどのことは彼女の記憶には無かった。
ただならぬ様子にアリスは振り返ると、迷わず駆け出す。
背中に担いでいた”光の剣”を手に待ちながら、音の出所へと急ぐ。
きっとそこに彼女の”オトモ”と”仲間”がいるはずだと、信じて。
気を取られた隙を突かれ、アスナに捕まってしまったカービィ。短い手足では二進も三進もいかない状況ではあるが、それでもなんとかしようと体全体を使ってもがき回る。
しかしそんな懸命な努力も空しく、抜け出すことは叶わず。
アスナ自身も優れた直感の持ち主故に、カレが抜け出そうとするタイミングを察知しているのか、抜け出すのは困難を極める。
早くモモイ達を助けないと――と慌てるカービィだったが、気が付けば人やらロボットがゾロゾロと増えている。
1人はこの間部室に来た少女――回転寿司屋でモモイが”フトモモ妖怪”と例えていた少女。
もう1人は知らない顔――ではなく昨日の打合せで顔写真を見せてもらった”なんかすごい人たち”の1人。後は馴染みの無いロボット数十体――吸い込むには少し大きいうえに重そうだ。
いつになくマジな雰囲気の中、徐々に追い詰められていくモモイとミドリ。それをなんとか助けようともがき続けるカービィだが、結果は振るわず。
そうしている内に、いよいよ打つ手が無くなってしまった二人。そして瞳を潤ませつつ、鼻声混じりにモモイがカービィへ謝ってきた。
――私たちのこと色々助けてくれたのに、私たちの力不足で……わたしたちのせいで…………!!
悲壮感に満ちた声を発しながらモモイとミドリが悲しみに暮れるように、抑えきれなくなった涙を流す。カレをここまで連れてきたことに加え危険な目に遭わせてしまった上に、全て無駄にさせてしまったことへの謝罪だったのだろう。
もはやどうすることも出来ないと、二人の心は既に折れかけていたのだった。
それを見たカービィは、これではいけない! と強く思った。
二人が悲しい気持ちのままでは、おいしいゴハンも美味しく無くなってしまう。
二人が悲しいままだと、たのしいおひるねタイムも楽しく無くなってしまう。
――――なによりも、”ともだち”を このままにしておけない!
持ち前の正義感が、なんとかしないと、と自分自身に訴えかけてくるカービィ。
しかし、今の状態ではどうすることもできないのはカレ自身重々理解している。この状況を打破できるのであれば、既に行っているのだから。
――それなら もうひとりの”ともだち”の チカラをかりよう!
そう判断したカービィはすぐさま行動に移す――即断決行はカレの持ち味である。
今回の奪還作戦の全容をまったく理解していなかったが、今なら”彼女”がこの近くにいることは幸いなんとか把握していたカービィ。
できるだけ、すぐに気付いてもらえるように。
どこにいるのか、わかりやすいように。
――――カレは得意技である、”すいこみ”を行った!
「わ、わわっと!」
急な行動に驚くアスナだが、手放さなかったのは流石と言うべきか。
前方へそのまま突き出したままではアカネ達に危害が及ぶと察したのか、咄嗟に腕を天井の方へと上げ、カレを頭上へと持ち上げる。開いた口は天井の方へと向けられたまま。
急なカレの行動に驚いたのはユウカとアカネも同じ。一瞬とはいえ竜巻とも云える強力な吸引力を肌に感じた二人は、あらためてカレの技に目を見張る。
「ヒマリ先輩から話は聞いてたけど、本当に吸い込むのが攻撃手段なのね……」
「ええ。ですがあの状態なら、問題ないようですね」
信じられない、と云わんばかりに息を呑むユウカに対し、アカネは状況を冷静に分析する。彼女の言う通り、天井に向けられてしまえば”すいこみ”の影響を受ける者は誰一人としていなくなる。驚異的ではあるが、今の状況では大した脅威とならない――ホントの最後の抵抗と彼女達は見做したようだ。
一方、先程まで半べそをかいていたモモイとミドリもカービィの急な行動に涙は引っ込み、今もなお頭上で吸引音を発しながらすいこみを続けるカレに戸惑うばかり。持ち上げているアスナに至っては「掃除機みたい!」と興味を示すようにキャッキャッとはしゃいでいた。
そんな周りの反応などお構いなしに、カレはすいこみを続ける。
今まで数多くの冒険をこなしてきたカービィ。
そんなカレの窮地を救ってくれたのは、共に旅をする仲間の存在だった。
人騒がせな騒動で皆を困らせることもあるが、困ってるときはなんだかんだ手を貸してくれる自称大王様。
行く先々で決闘を申し込まれることもあれば、いざというときは力になってくれる仮面の剣士。
バンダナがチャームポイントの、色々な冒険を共にした頑張り屋さんで頼もしいパートナー。
その他にも色々な仲間が、友達が助けてくれたり、時には助けたり。
そうして様々な困難を乗り越えてきたカービィだからこそ、仲間の絆を重んじる。
”フレンズ”の絆は、奇跡を起こす。
きっと彼女なら助けに来てくれる――そう信じて。
――――ターゲットを確認。
そして、そのねがいは。
――――魔力充電、100%……
”ともだち”である、彼女に確かに届いた。
カービィ達がいるであろう通路を隔てるシャッターの前に辿り着いたアリスは自身に搭載されていた機能を駆使し、壁越しでありながら生体反応を探ることで状況を把握した。
C&C部員とセミナー役員、戦闘ロボットの位置。モモイとミドリ――そしてカービィの位置。
彼女のセンサーでもカレの反応を特定できなかったが、音を発し続けているお陰で位置の特定は容易だった。
位置は確認できた。
後は引き金を引き――シャッター越しから相手を撃ち抜くのみ。
”光の剣”を構えながら、狙い撃つ対象へ標準を定めつつ味方に攻撃を巻き込ませないよう出力を調整する。
砲口に光が収束し、準備が整う。
彼女に迷いはなかった。
仲間を助ける為、彼女は高々と告げる。
「――――光よ!!」
――その一言を皮切りに、極光が突き抜けた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
18-2
――何が起こった?
突如、閃光と共に彼女達を襲った熱と衝撃。
直撃こそしなかったものの、その衝撃に身を打ち付けられたユウカが混乱する意識の中、濛々と立ち込めた煙が少しづつ晴れていき――視界に捉えた光景に唖然とする。
先程までモモイ達を取り囲んでいたロボットの半数は砲撃に巻き込まれたのか、半壊。
そして、直撃を受けたであろうC&Cのコールサイン・ゼロワンは――
「あ、アスナ先輩!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないよー! あははっ、思いっきり当たっちゃった! 何これめっちゃ痛い、頭のてっぺんからつま先まで今1ミリも動かしたくない!」
心配するアカネの言葉に通路の床に大の字で寝そべったアスナが何故か楽し気に笑いながら答える。気を失ってもおかしくない一撃を受けたにも拘らず、意識を保っていられたことは流石と言うべきか――もっとも、すぐには動けない様子。
そんな彼女の様子に「……大丈夫そうですね」と安心すべきなのか――呆れるべきなのか、複雑な表情を浮かべるアカネ。
「た、たった一発でアスナ先輩と半数近くのロボットを行動不能にするなんて……!?」
一方で、今の一撃によりアスナと多数の戦闘ロボットを行動不能にされた事実に戦慄するユウカ。一転して絶対的優位が失われてしまったのだから、驚くなと言う方が土台無理な話である。
そんな中、幸い――或いは意図的なのか――砲撃の範囲から免れていたカービィはアスナから放り出され、そのまま宙高く投げ出されていた。
急な出来事に驚いたのか、目を丸くし手足をバタバタさせていたカレはそのまま地面へ落下――する前に、誰かがカレを優しく受け止める。
腕の中に納まったカレが顔を見上げると――――ここ最近見慣れた少女の顔が目に入った。
「――――大丈夫ですか、カービィ!?」
カレを心配そうに見詰める少女――アリスが声を掛ける。
その様子に対して、安心させるように”ハァイ!”と元気よく声を返し、助けてくれたことへの感謝を示すように満面の笑みで彼女の頬に擦り付くようにじゃれつくカービィ。そんなカレの様子に安堵し、じゃれつくカレをくすぐったそうに笑みを浮かべて受け入れるアリス。
そんな彼女の登場を予期していなかったミドリとモモイが、驚いた表情を隠そうともせず駆け寄る。
「アリスちゃん!?」
「どうしてここに!?」
近づいてきた二人に気が付いたのか、ピンクボールとのじゃれつき合いを止め、モモイ達に向き合ったアリスは「差押品保管所に向かう途中で、考えていました」と静かに語り始める。
「『ファイナルファンタジア』、『ドラゴンテスト』、『トールズ・オブ・フェイト』、『龍騎伝統』、『英雄神話』、『アイズエターナル』……そして『テイルズ・サガ・クロニクル』――どんなゲームの中でも、主人公たちは決して仲間のことを諦めたりしませんでした」
今までプレイしてきたゲームを一つ一つ思い返しながら語るアリスは続けさまに、「なので、アリスもそうします」と言いながら、憂いない自信に満ちた言葉を口にする。
「――試練は、共に突破しなくては!」
迷いなく堂々と言い放つ彼女の言葉に、モモイとミドリが呆気にとられながらも胸に込み上げてくるように目を潤ませる。事実、アリスが来なければ今頃二人は成すすべなく捕まっていたのだから二人にとって彼女は正に救世主であった。
そんな彼女達の勝手を、当然ユウカとアカネが許すはずなく――
「そうはさせないわ……!」
「これ以上好きにはさせません……ッ!」
と、自身の武器を構えつつアリス達を睨む。
主戦力とも云えるアスナは戦闘不能、連れてきた戦闘ロボットの半数は数を減らしたものの、数だけならユウカ達がまだ有利。ここで逃がすわけにはいかないと、周囲が臨戦態勢へと移行する。
ユウカ達が銃器を構える姿ににモモイとミドリがたじろぐように怯み、アリスが表情を引き締め”光の剣”を再び構えなおそうと――――その前に、彼女が抱きかかえていたカービィが、腕から抜け出し高く跳び上がる。
高く跳び上がったカレの予想外の行動に、ユウカ達やアリス達が目を見開く。
一方、カレはユウカ達の後ろ――既にガラクタとなったロボット達の残骸に目を光らせる。
――あれなら、
先程までは重量やサイズから吸い込むのは難しそうだったが、今は砲撃によって所々パーツが外れていることもあり、問題なく吸い込めると判断したカービィ。ならばカレがやることは、ただ一つ。
アリスは、自分達を助けに来てくれた。
なら今度は自分が助ける番だ――と云わんばかりに、
先程とは違い自由の身となったカービィの吸い込みが今度こそユウカとアカネを襲う。
驚異的な吸引力により姿勢を崩しかける二人だったが、なんとか姿勢を低くとることによりその場で耐え凌いでいる。その代わり身動きも取れなくなってしまったが。
いくらカービィでも体格差のある二人を吸い込む事は難しい。なんとかここを凌いで反撃しようと考え――ロボットの残骸がカレの口へと吸い込まれる様子を見て、ユウカはハッと気付く。
彼女に情報を提供した”明星ヒマリ”によれば、カレの攻撃手段は”すいこみ”と吸い込んだ物を吐き出して飛ばす”星型弾”。星型弾はアリスの砲撃よりは劣るが強力な攻撃手段である、という情報を事前に把握していたユウカ。
それゆえに、相手の次の手を読み切る。
「――アカネ! 次に来るあの子の攻撃に気を付けて! 弾速は早いけど、直線状で弾もそんな大きくないはずだから見切れるはず!」
「了解しました、それを回避してから反撃に移りましょう!」
注意を促すユウカにアカネは頷き、反撃の機会を伺う。事実、直線状で飛ぶ星型弾はC&Cの実力者であるアカネには効果が薄いだろう。
そんな二人を横切るように通り過ぎていく、ロボットの残骸。
未だ吸い込みを続けるカレの口に抵抗することなく吸い込まれていく様子を目に入れ、ふと疑惑が芽生えたユウカ。
――いつまで、吸い込み続けるの……!?
そんな疑惑が浮かぶ中、先程まで彼女の横を通り過ぎていった残骸が姿を見せなくなったことに違和感を覚え思わず後ろに振り返る――すると、半壊していたロボットの残骸が綺麗さっぱり片付いていた。
――つまり、”機能停止した機体すべて”を、カービィは吸い込んだことになる。
そのことに嫌な予感を抱きながらも、先程まで続いていた吸い込みが止んだと同時にカレの方へ視線を飛ばすユウカとアカネ――そして、明らかな変化に彼女達は絶句する。
なぜなら、精々彼女達の膝下ぐらいまでの大きさだったカービィが、凡そ1mほどまで大きくなっていた――正確には目や口、手足などはそのままのサイズで、口から下にかけての胴体(?)が凭れるように肥大化していたのだった。
そんな彼女達の動揺など意に返さず、目を顰めたカービィは宙に浮かんだまま”吸い込んだもの”を勢いよく吐き出す。
情報通り、”星の形をした弾”がユウカとアカネに襲い掛かる。
ただし、その大きさは先程までのカレと同じ1m程!
その上、大きさもさることながら弾速も向上しているせいか、もはや
「――きゃあっ!」
「ぐうっ……!?」
予想を上回る攻撃に一瞬反応が遅れたユウカとアカネ。直撃こそなんとか免れたものの、その大きさと弾速ゆえに完全に回避できず、弾き飛ばされながら地面へと倒れ伏す。
勢いそのままに虹色の光を放つ巨大な星型弾は後方に控えていた残りの戦闘ロボットを突き進むがまま全て蹴散らし、遂には壁をも
その一部始終を呆気にとられた様子で眺めていたモモイ達だったが、宙へ浮いていたカービィが地面へ着地するのと同時に、ハッと我に返ったミドリが口を開く。
「お姉ちゃん、今のうちに!」
その言葉にモモイも我に返る。
意識こそ失わずに済んだものの、ダメージの影響のせいか立ち上がることができずユウカとアカネは未だ倒れ伏せたまま。
戦闘ロボットは稼働できる機体は全ていなくなった為、完全に無力化した。
今が最大の好機。
彼女達に与えられた、最後のチャンス。
それを理解したモモイが深く頷くと、声高々に告げる。
「――――行こう、”ゲーム開発部”!」
彼女の言葉に力強く頷く3人。すぐさま駆け寄ってきたカービィをアリスが抱き抱えると、彼女達は目的地へとひた走る。
その後ろ姿を歯噛みしつつも、睨むことしかできないユウカの傍で、アカネが急ぎ様に通信を飛ばす。
「――か、カリン! 彼女たちが逃げます、足止めを――…………カリンっ!?」
焦るアカネが繰り返し呼び掛けるが通信相手の応答は、無い。
生真面目なカリンがどこぞの先輩のように通信を遮断しているとは考えていないアカネは、彼女が”応答できない状況”に置かれたと察する。今にしてみれば、アリスの砲撃から今まで何の反応も起こさなかった時点で疑問に思うべきだったのだ。
結局のところ、今この場に於いてモモイ達を阻止できる者はおらず、ただ小さくなっていく彼女達の後ろ姿を見送るしかできなかった。
通信機が呼びかけを知らせている一方、ソレに構っている余裕が無いと云わんばかりの様子でカリンは目元を手で覆っていた。狙撃手にとって標的から完全に目を離す、という行為は最も愚策であることは彼女も当然理解している。
しかし、いくら彼女でも――間髪入れず降ってくる閃光弾が放つ、閃光の中で目を開け続けろというのは流石に酷だろう。
「くっ、目が……! 閃光弾だと!?」
「君の言う通り私の後輩は、大事な先輩に爆撃を当てたりしない優しい後輩……で、合っているとも」
カリンが動揺を露わにする傍ら、未だ横倒れになったままのウタハが目を瞑ったまま涼しい表情を浮かべ語り始める。
「――それでいて、ものすごく賢い。この状況を予測し、そこで的確な選択ができるくらいにはね」
誇らしげに、そして自慢げに自分の後輩を褒め称えるウタハ。
ウタハが捕まったと理解したヒビキは、カリンの行動を予測。彼女ならウタハを盾にすると予想し、すぐに迫撃砲の弾を榴弾から、閃光弾へと変更した。
これならば大切な先輩を傷つけることなく、カリンの妨害を果たせる――正に最善かつ的確な一手だった。
「どうしてここまで……!」
「どうして……? それは、部活を守りたいからに決まっているだろう?」
苦悶の表情を浮かべながらもウタハ達の行動に理解できない、と云わんばかりの言葉を口にするカリンに、何を言っているんだ、と心底不思議そうに首を傾げるウタハ。
彼女にとって”部活動”とは自分と同じ趣味を、志を持つ者が集まる場所であり己にとって掛け替えの無い”居場所”である。
それを失うと知れば、誰だってそれを阻止する為に必死にもなるだろう。
暗にそう伝えるウタハに対して、少し躊躇いがちにカリンが口を開く。
「……噂に疎い私でも、聞いたことはある。あのゲーム開発部は、ちゃんとした部活動とは言い難い」
彼女の呟きに、ウタハはそうだね、と困ったように笑みを浮かべつつあっさりと認める。確かにカリンの言葉には一理ある。
――ギャンブル大会を開催するために、勝手に校内にカジノを建設。
――レトロゲームを探す為に、古代史研究会を襲撃。
――何より、歴然とした実績を有していない。
それだけ知っていれば、確かにゲーム開発部はちゃんとした部活動とは言えないのかもしれない――その点に関しては彼女もカリンの発言には同感だった。
そんな彼女の様子に、益々理解できないと云った様子であらためてカリンは問いただす。
「――あんな自己中な問題児たちを、なぜ助ける……!?」
カリンの疑問に対して、すぐには答えず少し考え込むウタハ――だったが、考えが纏まったのか、口を開く。
「ただの自己中じゃないから、かな。あの子たちは友人のために、一生懸命頑張っている」
「……別に部活動じゃなくても、ゲームは作れるだろう」
怪訝な表情を浮かべ、指摘するカリン。
それに対し「それは君の言う通りだ」と、同意を示すウタハ。
しかし、嗜めるように「けれどね」と真剣な表情を露わにしながら、彼女は語気を強める。
冷静な彼女にしては珍しく感情的な態度だが、それ程までに”その一言”は彼女にとって、看過できるものではなかった。
「同じ部活の仲間というのは、お互いに強く結びつけてくれるものだ。あの子たちも一緒にやりたいんだ、という気持ちがあるから……こんなにも、必死に頑張っているんだろう」
君もそうじゃないのかい、とカリンへ尋ね返すウタハ。
まるで自分の事を語るような口ぶりだが、そこには自身の部活動への想い――そして、活動を共にする後輩達への信頼が込められていた。彼女にとって部活動とは、ただ趣味趣向が同じ生徒の集まりではない、という気持ちの表れでもあるのだった。
それに対して、彼女の言葉に思うところがあったのか――或いは彼女の静かな気迫に気圧されたのか、カリンは思わず口を噤んでしまう。
それでも、ここまでの騒動を起こすこと必要はあるのか、と口を開こうとするが、飛来してきた閃光弾によって彼女は二の句を継げず。
再び辺りを強烈に照らす光に、目を焼かれるカリン。
苦しそうに目を押さえる彼女に対し、目を閉じたまま笑みを零すウタハ。
――計算通り、ではないけれど……面白くなってきたね。
決着は近い。
そう確信するウタハはまだ頑張り続けている少女達へ、心の中で小さくエールを贈るのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
18-3
ウタハとヒビキがカリンの妨害を行っている一方。
ユウカ達から逃げ出すことに成功したモモイ達は――ついに念願の目的地、”差押品保管所”への進入を果たしていた。
室内に入り自動扉が閉まったことを確認するや否や、モモイとミドリが壁に背を預けたままずり落ちる様に床にへたり込む。全力疾走してきたせいか二人の呼吸は荒い。
「に、逃げ切れた……!?」
「た、多分……!」
声も絶え絶えなモモイの言葉に、肩で呼吸しながらミドリが答える。
そんな二人の会話を無線機から拾ったハレがこのフロア内のカメラ映像を確認した後に呟く。
『……うん、大丈夫。他のセミナー役員も”部室の方に逃げた”と思い込んでるみたい』
『みんなお疲れ様』と労いの言葉を掛ける彼女の一声で、ようやく胸を撫で下ろすモモイ達。少し呼吸が落ち着いてきたモモイが、してやったりと悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「思った通り、ユウカはアリスがさっきの時点で『鏡』を持ってると勘違いしてるみたいだねっ」
「まさか保管所にいるなんて、思いもしないだろうしね」
モモイの言葉に嬉々として頷くミドリ。
実際、アリスは”差押品保管所”には入らず、そのままモモイ達のいるところまで駆けつけたのだが、それを事情の知らない者から見れば”保管所から『鏡』を手に入れてから彼女達の救出に向かった”――と考えるのが合理的だろう。
結果的に見れば、突発的だったアリスの行動はユウカ達への攪乱へと繋がったのだった。
そんな知らず知らずにファインプレーを起こした本人はというと――
「カービィ、さっきのはどうやったんですか? もしかして新しいワザを覚えたんですか!?」
と、腕に抱いているピンクボールへと興味津々に目を輝かせつつ問い掛けていた。
そんな彼女にキョトンと体を傾げるカービィに対して、モモイとミドリもアリスの疑問に同感を表すかのように、ウンウンと何度も頷く。
「今までで一番大きかったし、速かったよね!」
「しかもあのユウカやアカネ先輩を吹き飛ばしてたし……かなりの威力だったんじゃない?」
気付けばワイワイと3人は先程のカービィの一撃について話題が移る。今までで一番強力な攻撃であった為か、アリスに負けず劣らずモモイとミドリも興味津々といった様子を露わにする。
そんな和気藹々とした中、話に混ざらず静観していたハレが『ちょっと確認したいんだけど』と、話に割って入るような形でモモイ達へ尋ねる。
『その子の攻撃方法って、吸い込んで吐き出す、ってことでいいんだよね』
「え? う、うん。そうだと思うけど……」
ハレの問いに少し自信なさげに肯定するモモイ。カービィについて未だ謎めいた要素が多い為、このような反応になってしまうのも無理も無いことだった。
それに対してふむ、と納得してから考え込んだハレが、『それなら』と浮かんだ推察をモモイ達へ伝える。
『吸い込む物が多かったり、大きかったりする場合、それに”比例”して吐き出す物も”大きくなる”――って考えられないかな』
その一言に先程のカレの行動を思い返した3人は「あっ」と声を漏らすと互いに顔を突き合わす。
ドローン一機を吸い込んで吐き出していた今までと違い、今回は機能停止した機体を全て吸い込んでから吐き出していた。その事実に則るのならハレの言う通り、”吸い込んだ数”によって星型弾は”より強力”になる、ということになるだろう。
それこそ、より強力で高い貫通力を増した――――”貫通星型弾”と言えるほどに。
「さすが、アリスの”オトモ”です!」
ハレの推察に納得しているモモイとミドリの傍らで、嬉々とした表情を浮かべながらカービィを撫でるアリス。一方、撫でられている本人はイマイチ状況を理解していないのだが、褒められて悪い気はしないのか嬉しそうに頬を綻ばせる。
そんな様子に和みながらも、気を取り直すようにモモイが「よしっ」と気の入った掛け声を発すると、本命である『鏡』を探そう、と一同に促す。カメラを通じて既にフロア内には誰もいないとハレが確認していたが、早くこの場から立ち去ったほうが良いのは、言うまでも無く。
そんなモモイの言葉に異存は無く、早速室内の捜索に移る一同。当然カービィも捜索に協力しているのだが、明らかに無いであろう机の下まで探しているのはご愛敬。
「――……もしかして、これ?」
そして、然程時間を費やさず――戸棚を物色していたミドリが付箋が貼られたUSBメモリを見つける。付箋には”ヴェリタス 押収物”という文字と、押収したであろう日付等が記述されていた。
彼女の呟きにつられ、集まるモモイ達。そして、ミドリの手に持っている物を確認したハレが肯定するのと同時に、モモイが目を輝かせ「やった!」と歓喜の声をあげる。
「後はこれをヴェリタスにまで持っていけばなんとかなるはず……!」
「うん……!」
モモイの言葉に同意するようにミドリも笑みを浮かべつつ頷く。
ここに来るまでの苦労も相まってか、逸る気持ちを抑えきれない様子の二人がすぐにでも撤収しようとして――何か気付いたアリスが唐突に言葉を発する。
「静かに、ミュートでお願いします」
その言葉にアリスの方へ注目するモモイ達。
言葉通り一同が口を閉じた中、彼女は搭載されている機能を駆使し、微かに聞こえてくる音を聞き分けると、捉えた音についてモモイ達へと報告する。
「……誰かがこちらに向かって来ています。足音から考えて、1人」
1人、と聞いたモモイとミドリは胸を撫で下ろす――てっきりユウカとアカネがもう戻って来たかと勘繰ったのだろう。ともあれ、相手が1人と分かったモモイがうーん、と少し悩んだのち、提案する。
「ここに居られたまま、ユウカとかメイド部とか戻ってきたら困るし、1人くらいなら無理やり突破しちゃおっか」
強硬手段とも云える策ではあるが、悪くはない考えであった。
今頃ユウカ達はゲーム開発部の部室へ向かっているだろうが、そこに本人達がいないと判ればこのフロアに戻ってくる可能性は十分あり得る。『鏡』を手に入れたとはいえ、モモイ達が捕まってしまえば意味が無くなってしまう――そういう意味では、まだ彼女達の作戦は成功していないと言えるだろう。
悠長に時間を掛けるのは得策では無い。戦闘能力の高いアリスやカービィがいる現状”多少の相手”なら難なくと突破できるのなら、多少の無理をしてでもこの場から早急に去るべき、とモモイは考えた。
その案に同意しようと頷くアリス達――――その前に、待ったを掛けた人物がいた。
『――――ちょっと待ってなんでこんなところに……!?』
無線機から通じる、ハレの動揺に満ちた呟き。
何時も落ち着いた印象の強い彼女が取り乱す様子に首を傾げたモモイとミドリが尋ねようと――する前に、ハレから警告が発せられる。
『今すぐ逃げて――、いや、隠れて! 見つかったらマズイッ!』
「え、え、何? どしたの?」
「いつも冷静なハレ先輩がどうしたんだろ」
切羽詰まったような声をあげるハレに困惑する二人。
その理由は意外なところから――今までずっと廊下に隣接する壁の向こうへと視線を向けていたアリスが答えた。
「接近対象を確認――容姿は身長146cm、ダブルSMGを所持、服装は”メイド服”の上から龍柄のスカジャン……」
――――え?
アリスの呟きに、呆けた声を漏らす才羽姉妹。彼女が伝えた僅かな情報から、ある人物の存在が二人の脳裏に過る。そして、冷静なハレが声を荒げる理由を痛感する。
徐々に顔を青褪めていく二人とは対照的に、淡々とアリスは容姿に該当する人物を――記憶情報に保存してあるミレニアムの生徒名簿から探していき、ある人物であることを突き止める。
「――――接近対象、”美甘ネル”と断定、またの名を”コールサイン・ダブルオー”――」
「隠れてっっ!!」
アリスが対象の名を告げるのと同時に、彼女を机の下へ連れ込むように手を引っ張るミドリ――ちなみにモモイは既に机の下でブルブル震えながら隠れていた。
その様子にキョトンとしていたカービィも、彼女達に倣い机の下に隠れる――ただしモモイ達が隠れている所はスペースに余裕が無い為、少し離れたところで隠れることに。
そうして一同が身を隠すと同時に――――保管所の扉がその表面を大きく凹ませ、鈍い音を響かせながら室内へとぶっ倒れる。
思わぬ惨事に悲鳴をあげそうになるモモイとミドリだが、辛うじて我慢することに成功した。
そして、アリスが先程呟いた情報と似通った容姿をした少女――”美甘ネル”が、特に気にした様子無く、先程まで扉があったであろう場所に突っ立っていた。
「……ふーん、流石にもういないか」
室内を見渡し、誰もいないことを確認したネルがつまらなそうに鼻息を鳴らす。その言葉が誰に向けて呟いたものなのかは不明だが、ひっそり聞いていたモモイ達を指していることはほぼ明白だった。
(ね、ね、ね、ネル先輩だ!!)
(な、ナンデ!? どうしてここに!?)
思わぬ人物の登場に半ば錯乱状態になりかける才羽姉妹――それでも声をあげずに済んだのは、見つかればギッタンギッタンにされると本能が警報を発しているおかげか。
そんな二人の動揺など露知らず室内へ足を踏み込んだネルだった――が、何か違和感に気付いた様に、とある方向へくるりと首を回し睨みつけるように目を細める。
「――――なんか、気配がすんな」
その一声に、心臓を鷲掴みにされた感覚を覚えるモモイ達。
気配ってナニ、そんなのゲームや漫画の強敵が言うセリフじゃん、ぅゎょぅι゛ょっょぃ――等と現実逃避じみた俗語が脳裏に浮かぶが、残念ながらネルが見詰めている先は正にモモイ達が隠れている机の方であることには変わらず。室内が暗いせいも相まって、今は気がする程度の認識だが、それも時間の問題だった。
怪訝な表情を浮かべながらも足音を鳴らしつつゆっくりと近づいてくるネルに対し、心臓の鼓動が五月蠅く鳴るのを否が応にも感じつつある才羽姉妹。
そして、その横でネルの動向を観察していたアリスが緊張した表情を浮かべたまま息を呑む。
(――この人、何かが違います……!)
小さな体躯にも拘らず、今まで対峙してきた者とは異なる迫力を放つネルに気圧されるアリス。
それは彼女が今まで感じたことの無かった”恐怖”とも云える感情――今ここで戦闘すればほぼ勝ち目が無い、と予期できてしまう程。
気付けば互いの距離は凡そ1メートルほど。しかし机の下に隠れたおかげで、まだ3人の姿は確認されていない。しゃがみこまれて、机の下を覗かれでもしたらすれば即バレるのは言うまでもないが。
(ど、どうしよう……どうしよう!?)
(こ、今度こそ終わり……!?)
(すぐ目の前……もう、覗き込まれたら……!)
何か策は無いかと焦るモモイに、どうしようもないと半ば諦めかけているミドリ。そして、後が無いことに表情を硬くするアリス。
そんな彼女達の焦り等関係なしに、ネルが所持していた二丁のサブマシンガンを構えつつ、腰を下ろそうと――
――その時、別の場所からガタンという音が室内に響き渡る。
「――あん?」
その音に気付いたネルが、すぐさま物音が生じたその方へ振り返る。思わぬところで一時的に危機を脱したモモイ達もその方向へ視線を飛ばすと――先程一人だけ別の所へ隠れたカービィの方だった。
モモイ達への気を逸らす為隠れていた机を揺らし、注意を引こうとしたのだろう。
(か……カービィ~っ!)
(わ、私たちは助かった、けど……!)
結果的に見ればモモイ達から気を逸らすことには成功した。
しかし、その代わりに今度はカービィが隠れている方へと注意を向けるネル。そのまま警戒しながらゆっくりと近づいていくネルに対して、隠れながらも臆せず身構えるカービィ。
(……残り魔力を、全て放出すれば……!)
一方でアリスは不意打ちからの強力な一撃でネルを戦闘不能にするための手段を思案する。
注意が逸れた今が倒せる好機だと考え――何よりもオトモであるカービィを助けなければ、という想いからである。幸い、”光の剣”のバッテリーには十分に余裕はある。
しかし、彼女が行動を起こそうとする――その直前だった。
「――――あ、あのっ!」
緊迫に満ちたこの空間に似つかしくない――少女の声が、突如木霊したのであった。
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【フレンズの絆】
→未練たらたらタランザやスージーはともかくマホロアや⑨を仲間にしてくれるカービィチャンは懐が深すぎるよぉ……文庫版? 何のことだか
【貫通星型弾】
→貫通弾だったり星型貫通弾だったり公式でコロコロ名称変わるイメージ。今回は吸い込み大作戦から。
【美甘ネル】
→最強なのに周りから親しみ持ちやすいの反則でしょさすがダブルオーだぜ!
【な、ナンデ!?】
→アイエエエ!
【ぅゎょぅι゛ょっょぃ】
→なお学年
【Q.今後コピー能力出てくるの?】
→あるさ