Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 なげーよホセ。いやほんとになげえわ、スマヌ……スマヌ……。
 この回でセミナー襲撃編は終わりです。パヴァーヌ1章もあと4話ぐらいで終わりかなー?
 原作との展開の改変点が多々ありますのでご了承お願い申し上げます。


019

19-1

 

 

 

「あ、あのっ!」

 

 突如として、差押品保管所に木霊する少女の声。か細い声ながらも、きっと勇気を振り絞って発したであろう声量はこの場にいる誰もが聞き逃すことは無かった。

 

「あん?」

 

 その声につられ、ミレニアム最強を謡う”コールサイン・ダブルオー”こと、美甘ネルが怪訝な表情を浮かべつつ振り返る。そして、聞き覚えのある声に視線を向けたモモイ達がその人物の容姿を確かめるや否や、目を丸くし驚愕する。

 

 その少女は、ゲーム開発部の部長――――”花岡ユズ”だったのだから。

 

「ね、ネル先輩! 大変です!」

「あんたは……?」

「せ、”セミナー所属”の”ユズキ”です。今、”戦闘ロボットが暴走”したせいで、あちこちがめちゃくちゃなんです! アカネ先輩とカリン先輩が、制圧を試みてますが……」

 

 まさかの人物の登場に困惑するモモイ達を余所に、自身の身分と名前を偽ったユズが怯えた様子ながらも、切羽詰まった風を装いながらネルへと語り掛ける。

 それを無線越しに聞いていたハレが「あっ」と何かに気付くと、何か細工をするようにすぐさまタイピングを行う。

 

 ユズの話は――当然でっち上げ。

 建物内に配置されている戦闘ロボットは暴走どころか、沈黙したままである。

 

 しかしヴェリタスが警備システムを掌握している現状――それを”事実”にするのは容易い。

 

 その言葉を裏付ける様に建物内が俄かに騒がしくなる――ハレが遠隔でロボットのAIの挙動を暴走させたのだ。騒動に気付いたネルは、動揺することなく寧ろ呆れたように呟く。

 

「なんだよ、アレを差し押さえたのは随分前だろうに、まだ整備が終わってねえのか」

「じょ、状況的に、助けが必要かと思い……それで、ここにいらっしゃると聞いたので……」

 

 しどろもどろになりながらも、なんとかネルへと事態解決への協力を申し出るユズの様子を視界に入れつつ、考え込むネル。

 

 途中、物音がした方へ目線だけチラリと向ける――が、そのうち視界から外すと、面倒くさげに溜息を吐いた後「仕方ねぇな」と呟きながら、部屋の入口の方へと歩み始める。

 

「わ、私はここの整理をします。そ、その、戦闘は怖くて……経験も、あまり無いですし……」

 

 ネルが横を通り過ぎる際、萎縮しながらここへ残ることを伝えるユズ。

 そんな彼女の態度に思うところがあったのか――「んなことはどうでもいいけど、それよりあんた」と、足を止めて彼女の方へと向き直るネル。急に呼び掛けられたことに身を縮こませたユズへ「覚えときな」と前置きしてからネルは語り掛ける。

 

「戦闘で一番大事なのは武器でも経験でもねぇ――度胸だ。その点であんたに素質が無いとは思わねぇ」

「は、はい……?」

 

 ネルの言葉にいまいち要領を得ないユズが、おずおずと訊き返す。彼女自身、度胸は無い方だと自認しているが為、なおさら困惑している様子。

 

「自分がどう思われてるかくらい、あたしにも分かってる。あんたが結構ビビりなのも、まあ見れば分かる――それなのに、初対面のあたしに声を掛けるなんてのは、それなりに度胸がないとできないことだろうからな」

 

 困惑しているユズを余所に、感心したように笑みを浮かべつつ彼女の行動を褒め称えるネル。

 その一方、褒め慣れてない上に、ユズにとって目上の存在でもあるネルの称賛はあまりにも衝撃的であり、褒められて嬉しいやら嘘ついて申し訳ないやら自分より背低いのにカッコいいやらで感情が一杯一杯だった。心が三つある。

 

「じゃあな、また会おうぜ」

 

 そう言い残しニッと笑いながら立ち去るネルの後ろ姿を、呆然としながら見送るユズ。

 やがてその姿も見えなくなると、緊張から解放された反動によるものか、壁に寄りかかりながらその場に力が抜けたようにへたり込む。

 

「……し、死んじゃうかと思った――」

「ユズううぅぅーーーーッ!」

 

 と、顔を青くした彼女に目掛けて机の下から少女――モモイが飛びついてきた。それを筆頭に机の下から姿を見せた一同がユズの元へ駆け寄る。

 半べそ掻きながら抱き着いてくるモモイに困ったように笑みを浮かべるユズへと、感極まったようにミドリが感謝の意を伝える。

 

「ユズちゃんすごい! おかげで命拾いしたよ!」

 

 ミドリの言葉に同意するようにアリスとカービィが満面の笑みで何度も頷く。その様子を見たユズが「力になれて良かった」と疲れた様子を見せながらも頬を綻ばせたのであった。

 

 それから、彼女がここまで来た経緯についてモモイ達は知る。

 

 主要電力の遮断役として役割を宛がわれたユズは、その役目を終えた後、ヴェリタスからモモイ達がアスナと鉢合わせることを知り――居ても立っても居られなかったのか、大して応援にならないと自覚していながらも最上階へと彼女は向かった。

 

 結果的にアスナ達との対決には間に合わなかったが、彼女をオペレートしていたコタマから”ネルが差押品保管所に向かっている”と聞かされた彼女は、モモイ達を救う為に一芝居を打つことに――今まで部長会議と云った全体の顔合わせに出ていなかったことが、彼女の容姿や身元を秘匿することに繋がり、ネルに対し身分を偽ることを可能とした。

 

 彼女の友達や仲間を大切に想う気持ち。

 それがこの場にいる者達を救う結果となるのであった。

 

 

 

 そうして一通り説明を終えたユズ、だったが「それよりも」と話題を変えると、逸る気持ちを抑えつつアリスが手に持っているUSBへと目を向ける。

 

「アリスちゃんが今持っているのが……」

「はいっ、これが人類と世界を救う、私たちの新たな武器――『鏡』です!」

 

 USBを見せつける様に腕を突き出しながら自信満々に答えるアリスの言葉に「や、やっと……!」と嬉々したように声を震わせながら呟くユズ。これを手にするためにここまでやって来たのだから感動もひとしおだろう。

 

 『鏡』は手にした。

 最大の危機であった、ネルとの遭遇もやり過ごした。

 

 

 

 ここまでの困難を乗り越えた以上、もう何も怖くはない――!

 

 

 

『――――ごめん、喜んでるところに水を差すようだけど……』

 

 ――そう思った矢先、ハレから気まずそうな声が彼女達へと伝わる。

 彼女の言葉に一同が疑問を抱く間もなく、ハレは二の句を告げる。

 

『……ユウカが今このフロアに戻って来てる。幸い一人みたいだけど……』

「うええっ!? なんで? 早くないっ!?」

 

 まさかまさかのユウカのお戻りに、これでもか、と焦りを見せるモモイ。

 ハレ曰く――最初こそゲーム開発部の部室に向かっていたが、途中何か考える様に立ち止まるや否や徐に引き返したユウカ。

 この場に居続ければ、鉢合わせることはまず間違いないだろう。

 

 それを聞いた一同がすぐに脱出しようとエレベーターの方へ向かおうとするが、それに対して今度はコタマが待ったを掛ける。

 

『下の階のエレベーター前には既にセミナー役員を配置しています……エレベーターを使うのは却って危険です』

「そ、そんな……!」

 

 コタマの警告に愕然とした様子で声を漏らすミドリ。

 エレベーターが使えないなら、残る脱出経路は避難階段からのルートだが、現在ユウカがそれを使ってこのフロアへ向かって来ている。悟られずに逃げるのはほぼ不可能。

 

 そうなれば残された手段はただ一つ。

 

「強行突破しかありません」

「や、やっぱりそうなるよね……!」

 

 アリスの発言に、半ば諦め気味に覚悟を決めたように呟くモモイ。

 どう足掻いても見つかるのが必然ならば、強引に押し通すしか道は無い。

 

 しかし下手に騒ぎを起こせば、せっかくやり過ごせたネルに気付かれる恐れもある。そうなれば今度こそ一巻の終わりである。

 

 その事実に顔を顰めるモモイ達――――しかし、一人の少女がそれに対して首を横に振った。

 

 

 

「――ううん。もう、セミナーの人たちは私たちを”捕まえられない”、と思う」

 

 その言葉にこの場の誰もが耳を疑い、言葉を発した人物へと目を向ける。

 視線の先にいた人物――ユズは確固たる自信を持って告げた。

 

「ユウカはもちろん、C&Cの人たちも私たちを捕まえられない、はず」

「ゆ、ユズちゃん……?」

「捕まえられないって……どうして?」

 

 何時になく自信のある彼女の言葉に戸惑うミドリと、その理由を尋ねるモモイ。アリスも首を傾げながらも先を促す様に沈黙を保つ。カービィはそもそもよくわかってない。

 

 そんな周りの疑問に応えるか如く、今回の作戦が始まる直前”ある人物”から伝えられていたことを彼女は伝える。

 今まで秘密にしていたのは――その人物曰く、早い段階で手札を使えば、()()はすぐにその弱点を突いてくる可能性が高いからとのこと。

 

 ユズの説明が一通り済むと、それまで静かに聞いていた一同が驚きのあまり言葉を見失う――が、やがて考えが落ち着いてきたハレが溜息を吐いた後ポツリと呟く。

 

『……ここまでお見通しだった、ってことかな』

『ええ、ますます興味が尽きませんね』

 

 感心通り越して呆れ気味な彼女の呟きに対して、落ち着いた口ぶりながら言葉通り興味深々に声を弾ませるコタマ。

 

 その一方、あまりのことに思考が追い付くのに精いっぱいだったモモイが「え、えっと、つまり」と必死に頭を唸らせながら、説明内容を纏める。

 

「私たちの誰かが『鏡』を”持ってない”上で……ええっと」

「……『鏡』を”どこかに”持ちだせれば、問題ない――ってこと?」

 

 言葉に詰まったモモイの後を引き継いで尋ねるミドリの言葉に、ユズは頷く。その補足をするように、先程の一芝居を打った理由を説明する。

 

「……”権限”を持っていても、あくまで『鏡』はセミナーが――”ミレニアム”が内部で押収したものだから……誰かに見つかった時点で返却しなくちゃいけなかったの」

「そ、それにネル先輩とかが持ったまんまだったら、私たちじゃ手の出しようがない……!」

「どっちにしろ、かなり危ない状況だったんだ……」

 

 彼女の説明に、改めて冷や汗を掻くモモイとミドリ。もしあの場で見つかったとしても”ある理由”から捕まることは避けられても、盗んだ『鏡』はその場で返却しなければならなかった。

 その上、ミレニアム最強のネルの手に渡れば、彼女からの奪取はほぼ不可能。そういう意味ではユズの行動は正に起死回生の一手であった。

 

 ともあれ――先程の話に戻す様にアリスが疑問を投げかける。

 

「それなら、『鏡』をこのフロアのどこかに隠す、ということでしょうか?」

 

 話を要約したアリスが首を傾げながら問いかけると、「そう、なんだけど」と肯定しながらも歯切れ悪そうに呟くユズ。

 

「このフロア内のどこかに隠したとしても、またここに戻って来れる保証は無い、と思う……」

『……そうだね、こんな侵入が二度通じるとは流石に思えない』

『セミナーも今回の騒動を踏まえ、更に厳重な警備にするでしょう。そうなれば、1週間以内で忍び込める――というのは、現実的ではありません』

 

 ユズの懸念にハレとコタマが頷く。

 今回はセキュリティや警備体制の隙を付いたことで成り立った作戦であり、事をスムーズに進められたのは事前に情報を持っていたからに他ならない。当然体制やシステムが変わればそれに適応した手段を求められる以上、どうしても時間は掛かる。

 

 一週間後にはゲームを完成させた状態でなければならないユズ達にとっては、あまりにも時間が足りない。故にこのフロア内に隠す案は自らの首を絞めかねない、とユズは伝える。

 

「だったら、別のフロアに隠せば――」

「ユウカがこっちに向かって来てなかったらできたかもね……」

 

 その事実を踏まえモモイが別案を提唱するが、ミドリが苦々しい表情を浮かべつつ指摘する。今の状況ではエレベーターも階段も使えない以上、このフロアからは抜け出すことは難しい。

 

 

 

 つまりこの袋小路の状態の中で、どうにかして『鏡』を隠し通さなければならない――ということになる。

 その指摘にうぐぐぐ、と苦悶の声を漏らした後「おのれユウカめ」と頭を抱えながら恨めし気に呟くモモイ。ミドリ達も、その手段について誰も思い浮かばない様子。

 

 

 

 そして、その鬱憤を晴らさんとばかりに、半ばヤケクソ気味に――

 

 

 

「――ああ、もうっ! いっそのこと窓から放り投げる!?」

 

 と、声を荒げながら言い放つモモイ。

 その言葉――というよりヤケクソな案に頬を引き攣らせたミドリが「イヤイヤイヤ」と落ち着かせるように声を掛ける。

 

「”飛べもしない”のに、こんな高いところから落としたら『鏡』も無事じゃすまな――――」

 

 

 

 ――その時、何かに気付いたように4人が目を丸くして顔を見合わせる。

 

 

 

 そして続けざまに、()()()()へと一斉に目を向けた。

 対してカレは、一同の視線を向けられていることにキョトンと体を傾げるのみ。

 

「――階段もダメ、エレベーターもダメ……、だけど……!」

「窓から――ううん、”空”からなら……!?」

「それに、小さくて軽いものなら、手に持って”飛ぶ”ことは、できる……!」

 

 そんな”カレ”の仕草を余所に、ミドリ、モモイ、ユズが表情を輝かせながら各々漏らした言葉を引き継ぐかのように呟く。

 彼女達の脳裏に浮かんだのは、3日前の出来事。そこで披露されたカレの”特技”。

 

 本来ならば、誰にもできない――”生徒”だけならまずできない逃走ルート。

 しかしカレならばできる――否、むしろカレにしかできない芸当。

 

 その事実を、この場にいる4人は知っていた。

 

 

 

 それを理解したアリスが、未だ不思議そうにしているカレを持ち上げ、「()()()()!」とこの作戦の”最後のカギ”を握る者の名を呼ぶ。

 

「――――本日最後の”最重要緊急クエスト”を委託しますっ!」

 

 声を弾ませた彼女の言葉に対して、カレは目をパチクリさせているのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

19-2

 

 

 

 早瀬ユウカが違和感に気付いたのは、最上階からおよそ10階分を降りた時だった。

 

 彼女が最も得意とする特技は暗算である。すなわち、紙やペンが無くとも頭の中で数式を組み立て、解を得られるというもの。セミナーの会計役としての役割を宛がわれたのもその技能を評価されたことが大きいだろう。

 だからこそ、彼女は疑問を抱いた。アリスが差押品保管所で『鏡』を探し出してからモモイ達の救援に向かうまでの”時間”――彼女の計算では、少し計算が合わない。

 

 アリスの救援。停電のタイミング。”反省部屋”と”差押品保管所”までの順路と距離。

 計算上の結果に対して――実際に救援に来た時間が()()()()のだ。

 

 無論、彼女の行動が尋常無いほど早かった――或いは運よく探し物をすぐに見つけることが出来た、と云った不確定要素も存在するだろう。そういう意味では疑惑を抱くにしては少し根拠が薄い、と言わざるを得ない。

 

 しかし、早瀬ユウカと”ゲーム開発部”は、なんだかんだ付き合いとしてはソコソコある。

 それ故に彼女達の性格について、彼女は大方把握していた。

 

 ――が、ガラクタとか言わないで……!――

 ――か、カービィはアリスのパーティーメンバーですっ、パーティ勧誘はお断りです!――

 

 合理性よりも、感情を優先させる――良くも悪くも子供らしい性格。

 ある意味、合理性を重要とする”ミレニアムの生徒”らしかぬ考え――今回の騒動の切欠こそ、それを表していると云えるだろう。

 

 そんな彼女達が、危機に瀕した友達や仲間を放っておくだろうか――ユウカはそう考えた。

 事実、差押品保管所を通り過ぎ、そのまま救援に向かったケースを想定した場合の方が差異が少ない、といったことも根拠の一つでもある。

 

 とはいえ確証が無いのも事実。だからこそユウカは1人で差押品保管所に向かうことにしたのだった。

 ゲーム開発部の部室へはC&Cの室笠アカネや他の役員が向かっている。ユウカ1人抜けたところで、戦力に大きく影響は出ない、と考えたゆえの判断である。

 

 

 

 彼女達が”部活動”を守りたい気持ちは、ユウカにも理解できる――しかし何事にも限度はある。

 何より――彼女達”だけ”という特例にも似た前例を作るわけにはいかない。

 

 その決意と覚悟を胸に、差押品保管所へとひた走るユウカだった。

 

 

 

 ――10階分一気に駆け上がるのは、太ももに酷であったことはナイショである。

 

 

 

 モモイ達が差押品保管所でネルをやり過ごしてから、数十分程が経った。

 先程までハレが暴走させていた戦闘ロボットは物の見事にスクラップと化し――恐らくネルの仕業だろう――夜中の静寂さも相まってか、フロア内は不気味なほどに静まり返っていた。

 

 その中を慎重な足取りで歩を進める影が”4つ”。

 先頭の黒髪を長く伸ばした少女が辺りを確認し、誰もいないことを確認すると後ろを振り返りつつ後に続く3人へ目配せを送る。それを確認した3人の少女が頷くと、今度は4人一斉に駆け出す。

 

 彼女達が向かう先は、各フロア内に必ず設けられている、避難用の階段。

 それこそが彼女達に残された、唯一の脱出経路。

 

 幸いにして誰とも遭遇せず、階段に繋がる扉の前まで辿り着いた4人は一先ず胸を撫で下ろす。後はここを下っていけば、逃げ果せると言っても良いだろう。

 

 逸る気持ちを抑えつつ、先頭の少女がドアノブに手を掛ける。

 そのまま、ノブを捻り扉を開けようと――

 

 

 

「どこへ行くのかしら?」

 

 突如通路内に響くその声に、4人の肩が跳ねる。そしてすぐに声が聞こえた方へと体を向け、警戒するように身構える。

 それとほぼ同じタイミングで、曲がり角からヌッと姿を現したのは――

 

「ユウカ……!」

「また会ったわね、モモイ」

 

 姿を現した人物の名を怨くように呟いたモモイに対して、険しい表情を露わにするユウカ――今日だけで色々な被害を被ったのだから当然である。

 

 両者互いに睨み合いが続く――そんな中、ふと怪訝な表情を浮かべたモモイが尋ねる。

 

「……なんでそんなに汗かいてるの? 髪も乱れてるし」

「……う、うるさいっ」

 

 モモイの指摘に気丈に振る舞うユウカだったが、本人も気にしていたのかすぐにスマホを取り出すと鏡代わりに使い、気恥ずかしそうに少し身なりを整え出す。

 それを見ていたミドリが「走って駆け上がって来たんだね」と隣のユズに耳打ちしたり「結構キツイもんね」とユズが同情したり「アリスは平気でしたが」とアリスがキョトンとする声が聞こえたが、努めてユウカは知らんぷりした。

 

 乱れていた身なりを整え終わると否や、気を取り直してモモイ達へ告げる。

 

「今度こそ逃げ場は無いわ。大人しく観念なさい」

「……そっちこそ、1人で来るなんてちょっと無謀じゃない?」

 

 ユウカの毅然とした態度に対し、少し挑発気味にミドリが言葉を返す。

 事実C&Cのメンバーならいざ知らず、ユウカ一人でアリスを含めたゲーム開発部を相手にするのは彼女の言葉通り無謀と云っても良い。捕まえるどころか、足止めでさえ厳しいだろう。

 

 そういった意味合いを込めたミドリの言葉に「そうかもね」と、意外と素直に認めるユウカ。しかし、彼女の表情は寧ろ勝ち誇ったような得意げなものであった。

 

「けど私一人を退けたとしても、他の生徒たちから逃げられるかしら?」

 

 今度はユウカが挑発気味に問いかけると、痛いところを突かれたようにミドリは言葉を詰まらせる。彼女の言う通り、ここを切り抜けたとて追手がいなくなるわけでは無い。

 

 その事実に歯噛みするミドリを傍目に、ユウカがモモイへと鋭い視線を向けつつ尋ねる。

 

「――これが最後のチャンスよ。今ここで『鏡』を返すのなら、停学は考えてあげてもいいわ」

 

 正面を据えて、モモイを見つめるユウカ――この期に及んでも尚、彼女はモモイ達に譲歩を図ろうとしていた。

 

 今回セミナー側が被った損害は、とてもじゃないが無視できる範囲を明らかに超えている。騒動が終わった後もしばらくは頭を悩ますことになるだろう――そういう意味ではモモイ達の行動は間違いなく問題行動と云っても過言ではない。

 

 その一方で、ゲーム開発部をここまで焚きつけてしまった己の行動にも非が無いわけではない、という生真面目な彼女らしい責任感を感じていた。

 そもそも彼女達を焚きつけるような態度を見せていたのは、作品制作に意欲的になって欲しい――という狙いもあったが、まさかこんなことまで仕出かすとは流石に予想外だったようだ。

 

 そういった事情も踏まえ、モモイ達に最後の機会を与えようとするユウカ。

 それに対してモモイはユウカを見つめ返しながら、口を開く。

 

 

 

「……わたしさ。最初この作戦を聞いた時、『ぜったい無理だ―』って思ってたの。実際、さっきもほとんど諦めかけてたし」

 

 突然、脈絡無く語り始めるモモイに対し、ユウカは疑問符を浮かべる。

 そんな彼女の反応に気にせず、「でも」と彼女は語り続ける。

 

「いつも引っ込み思案なミドリが”諦めたくない”って頑張って、ユズも”みんなの場所を守りたい”って勇気出してくれてさ」

「お姉ちゃん……」

「モモイ……」

 

 彼女の言葉にミドリとユズが感慨深く呟く。

 

「アリスは、”仲間”の私たちを助けに来てくれたし」

「当然ですっ」

 

 彼女の言葉にアリスはえへん、と胸を張る。

 

 

 

 まるで独白の様な話を語り続けていたモモイだったが、「だから」と前置きしてから、ユウカを見据えて言い放った。

 

「――私だって諦めない! 皆の頑張りを無駄にするもんか!」

 

 モモイの意気込む姿勢に、目を丸くするユウカ。

 今まで問題行動ばかり起こしてきた少女が、今までにない程に真摯な態度を見せたことに思うところがあったのだろうか。

 

 

 

 ――だからと言って、ユウカがその感情を表に出すことはしない。寧ろ踏ん切りがついた、というべきか。

 

「――……そう、なら交渉は決裂ね」

 

 そこまで覚悟を決めているのであれば、彼女も容赦することは無いと思うのも当然だった。

 ユウカ自身、覚悟を決めたように銃を構えつつ宣言する。

 

「もう遠慮はしないわ。貴方たち4人は1週間、反省部屋に入ってもらいます!」

 

 既に他のセミナー役員達には連絡は入れている。彼女の言う通り、4人が捕まるのは時間の問題だろう――そう確信を持った上での発言である。

 先のダメージも回復しきっていない自分一人でも、せめて彼女達の足止めぐらい果たせれば御の字――そう考えていたユウカだった。

 

 

 

 ――――しかし。

 

 

 

「――――それはどうかな?」

 

 ユウカの言葉に対して、モモイが不敵な笑みを浮かべて呟く。その一方で、モモイの後ろでミドリがスマホを操作し始める。

 その態度に怪訝な表情を浮かべるユウカを余所に、モモイが尋ねる。

 

「ユウカ、今日の昼前に申請書類があったでしょ」

「え? なんでそれを……まあ、確かにあったけど……」

「どんな内容だった?」

 

 質問を重ねていくモモイの態度にどこか不自然さを抱きながらも、彼女の問いかけに「どんなって」と戸惑いながら、午前中の業務を思い返すユウカ。

 

「ええっと、”部費の値上要求”に、”備品の申請”……それから……――」

 

 ぽつぽつと呟いていたユウカだったが、何かに気が付いた様に目を見開くと同時に口が止まる。そんな彼女を見兼ね、モモイが逆に問いかける。

 

 

 

「――――”シャーレの当番申請”は無かった?」

 

 その一言で、ユウカは悟った。

 彼女が見せた余裕な態度――その根拠に。

 

 それと同時に、彼女のスマホから通知音が発せられる。キヴォトスの住人ならば誰もが扱っているであろう、チャット機能がついたトークアプリ――”モモトーク”の通知音である。

 すぐにスマホを取り出し送信者を確認すると、その相手は今向かい合っている”才羽ミドリ”から。そして彼女から送られてきたのは”1枚の画像データ”だけ。

 

 そこには、モモイが言っていた”シャーレの当番・日直申請書”が映っていた。

 

 書類には、『本日より1週間の間、下記該当者をシャーレの活動に於ける日直として申請する』という旨が記載されている他に、今対峙しているゲーム開発部の4人の名が該当者として載っていた。

 

 

 

 ――勿論、それを承認したことを示す、”ミレニアム生徒会”の捺印も。

 

「”シャーレ”は超法規的機関で、その活動において校区内での法や規則に縛られない!」

「それは、”シャーレの当番”として活動する”生徒”も例外じゃない……!」

 

 モモイの意気揚々と発した発言を、引き継ぐようにミドリが毅然とした態度で答える。

 これこそがユズが仄めかしていた、”ゲーム開発部が捕まらない”理由だった。

 

 彼女達はゲーム開発部であると同時に、今日から一週間の間”シャーレの部員”でもあった。

 当然、部員に指名された以上シャーレの活動に協力することは必要義務である――逆に言えば、その活動中はどのような経歴があったとしても、一時的にシャーレの管理下に置かれる。その時点で所属する部員にも同様の”権限”を与えられることが許される。

 

 つまり――その期間中は、生徒会であろうと()()()()()()()に対して手出しできなくなってしまうこととなる。

 

 

 

 皮肉にもそれを一番に理解していたのは――――”シャーレの当番”を数多く担当したことのある、早瀬ユウカ、本人だった。

 その上、”セミナーの生徒会長”が不在時の代理としてこの申請書に捺印をしてしまったのも、また彼女本人である。

 

 

 

 予想だにしなかった事態に言葉を失うユウカに対して、ミドリが徐に目を伏せつつ呟く。

 

「……”先生”は、この作戦に関して、指示は出してないよ」

 

 その言葉に「え……?」と思わず聞き返したユウカに構わず、何処となく寂しそうな様子を匂わせながら彼女は話を続ける。

 

「……ユウカの――セミナーの生徒たちの頑張りや覚悟に対して、大人が首を突っ込むのはお門違いだから、って」

「じゃ、じゃあ……最初から”先生”は……」

「昨日の作戦会議は意見とか出してくれたけど……今日の作戦には加わってないよ」

 

 そう話を締めくくるミドリには、僅かばかりユウカへの羨望を募らせていた。彼女が憧れる”大人”に想われていること自体、才羽ミドリという少女にとっては羨ましいことなのだから。

 

 そんな彼女の心情を知って知らずか、”先生”を擁護するように「で、でも」とユズが口を出す。

 

「せ、”先生”はもしもの為に――私たちの作戦が失敗しても、部活動ができるように”保険”を用意してくれたんです……」

「はい! それがこの”チートアイテム”です!」

 

 ユズの説明に併せるかのように、アリスが自信満々に肯定する。

 作戦に参加はせずとも、モモイ達へのリスクを減らす為――”先生”は出来る限りの準備を整えていた。

 

 しかしユズの言う通り、あくまでも”モモイ達”への保険。

 なにより、シャーレの権限で全てなんとかなる――と言えるほど都合の良いものではない。

 

 それを裏付けるかのように、動揺する頭をなんとか落ち着かせたユウカが「……そうね」と口を開く。

 

「確かに、シャーレの部員として活動する貴方たちを捕まえることはできない……――けど、”ミレニアムから盗んだモノ”は別よ」

 

 彼女達の絶対権限の”穴”を指摘するユウカ。

 

 モモイ達の言う通り、シャーレの部員として扱われるモモイ達に対してミレニアムの権限を行使することは不可能。しかし”ミレニアム”が管轄している施設や管理品はまた別の話である。

 

 権限はあくまでも”当番となった生徒”に対してのみであり、盗んだ物については当然返却を求めることが出来る。

 ユウカ側がモモイ達を捕まえることはできない。しかし彼女達が『鏡』の返却を拒んだ場合、ユウカ側は実力行使を行うことも出来る――これは”シャーレの部員でもあるモモイ達の逮捕”では無く、”ミレニアムが保管していた『鏡』の奪還”という名目上、ミレニアム側の権限を扱うことが出来るためである。

 

「言い方を変えるわ。痛い目にあいたくなければ、今すぐ『鏡』を返しなさい!」

 

 故に、彼女達へ『鏡』の返却を強いるユウカ。一杯食わされたせいか、先程よりも過激さを増した言い方であった。

 

 どちらにせよ、『鏡』を渡せばそれでよし。

 拒否したならアカネ達を呼んで実力行使。

 

 その二択を突き付けたユウカに、モモイは――――

 

 

 

「持ってないよ?」

「――――は……?」

 

 きょとん、と首を傾げてそう答えるモモイ。

 その発言に唖然としながら訊き返すユウカに対し、呑気に周りへと尋ねるモモイ。

 

「ミドリ、持ってる?」

「さあ? ユズちゃんは?」

「う、ううん。アリスちゃんじゃなかったっけ……」

「アリスのどうぐにはありません。モモイが持っていると思っていましたが……」

 

 白々しく自分は所持していないと、疑問符を浮かべてとぼけるモモイ達。

 そんな彼女達の反応に、苛立ちと動揺を隠せないユウカが感情そのままに声を荒げる。

 

「う、ウソ言わないでっ! じゃあ”誰が”持って――――」

 

 

 

 ――そこで、ユウカは初めて気づいた。

 

 ”今まで”の彼女達なら、違和感は感じなかった。

 つい”最近”までの彼女達なら、違和感が、ある。

 

 ()()()()()()

 

 その違和感を探ろうと、ユウカはアリスを見張る。

 彼女は、()()()()()()()()()()

 

 続いて、モモイ達の足元へ視線を送る。

 何も、()()()

 

 

 

 ユウカの違和感が確信に変わる。

 それに気付くと同時に、「も、モモイ!」と言及するユウカ。

 

 

 

「あのピンクのぬいぐるみ――――”カービィ”って呼んでた子はどこっ!?」

 

 

 

 ユウカの声が通路内に響き渡り――そして少し間を置いた後、フフンと笑うモモイ。

 

「ようやく、気が付いたようだね。いつ気が付くのかとヒヤヒヤしちゃった!」

「まあ、気付いたところでどうしようもないけどね」

 

 悪戯っぽく笑うモモイに並んで、勝ち誇ったように笑みを浮かべるミドリ。それはユウカの確信を確証付けていると云ってもいいだろう。

 

 

 

 すなわち『鏡』を所持しているのはこの場にいるモモイ達――では無く、この場に姿を見せないカービィ。

 四人がユウカをこの場に留まらせていたのは、カレの逃走をより長引かせる為の時間稼ぎであった。

 

 

 

 その反応を見て、してやられた、と顔を歪めつつ、すぐにフロア内を探そうと踵を返そうとするユウカ――だったが。

 

「こ、このフロアに、カービィはいません」

「それどころか、この建物内にすでにいません!」

 

 彼女の考えを先取りした様に呟くユズと、はっきりと告げるアリスの言葉を受け――ユウカは立ち止まらざるを得なかった。

 そして、困惑しながらも当然の疑問を口にする。

 

「そんなはず、ないでしょ? 避難階段以外にここから脱出するならエレベーターしか――」

「”窓”からは?」

 

 自分の言葉を遮るように呟いたモモイの言葉の意味が理解できず、ユウカが唖然とする。

 

 そんな彼女を見兼ねたのか、無線機に「もういいかな」と通信相手へと確認した後に、モモイは種明かしする。

 

「ユウカは知らないはずだよね――――カービィが飛べるってことを!」

「スマホぐらいなら、持ちながら飛ぶことはできます。それより小さい『鏡』も問題、ありません……!」

 

 モモイの言葉に補足するように、ユズが言葉を継ぎ足す――それは”G.Bible”を見つけた時の廃墟探索にて実証済みである。

 

 まさかあんなピンクボールが飛べるなどと夢にも思わなかったユウカが、頭を抱えたくなる衝動に駆られる――がそれを何とか抑えつつ、何処かへ飛んで行った未確認生命体を探そうとオペレーションルームへと連絡を取ろうとする。

 

「カービィはセンサーに反応しません。それはアリスたちが確認しています!」

「エンジニア部の作ったセンサーにも反応しなかったし、見つけるなら学区内に設置されたカメラから探し出すしかないと思うよ」

 

 彼女の行動を見通したアリスとミドリの指摘に、またしても行動を遮られてしまったユウカ。

 そして彼女の脳内はカービィに対しての疑問に覆いつくされる羽目になる。

 

 ――吸い込んで、吐き出したものが星になるって、どういう原理?

 ――飛べるって、どうやって飛ぶの?

 ――センサーに反応しないって、どんな生き物なの?

 ――なんであんなに愛くるしい見た目で、アスナ先輩と渡り合えるの?

 

 ――そもそも、何処で見つけてきたの???

 

 思わず眩暈を感じるユウカ。変数が苦手な彼女にとって、カレの存在はもはや法則性が一切無いランダム係数と云っても過言では無かった。

 

 そんな思案に暮れるユウカの隙を見逃さず、モモイが目配せを送ると3人が同時に頷く。そして避難階段に繋がる扉をモモイが勢いよく開けば、それに続くようにミドリ達が階段へと駆け出した。

 

 彼女たちの行動にユウカがハッと我に返るとすぐに追いかけようと――その時、思い出したかのようにモモイが「あ、ユウカ!」と、声を掛けてきたことにより反射的に足を止めてしまう。

 

 

 

「――来週のミレニアムプライス、楽しみにしててよ! アッと驚く”神ゲー”を作ってやるんだから!」

 

 快活に――眩しいぐらいに笑みを浮かべながら言い切るモモイの言葉に、呆気にとられたユウカ。そんな彼女の様子に目も暮れず「さらだばー!」と言い残し、モモイも3人の後を追う。

 

 

 

 ただ1人――呆然としたままのユウカだけがその場に取り残されるのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

19-3

 

 

 

 モモイ達がユウカから逃れた、その一方。

 彼女達に促され、1人だけミレニアムタワーの窓から脱出したカービィ。その手には『鏡』とスマホが入れてある、小さな袋を持たされていた。

 

 得意のホバリングでふわふわと飛ぶカービィは教えられた目的地へと向かいながらも、ふと遠目に映っていたミレニアムの高層ビルを視界に入れる。

 

 夜中でも建物から漏れだす照明によって煌びやかに光り輝く様は、カービィにとって好奇心をくすぐられるもの。

 そもそもカレが暮らしていた場所では、こういった建物は多くは無いことも理由の一つだろう。

 

 高層ビルの景観に目を輝かせて眺めつつ、目的地へと飛び続けるカービィ。

 すると、小袋の中に入れていたスマホから少女――ハレの声が発せられた。

 

『――うん、いい調子だね。もうすぐ私たちがいる場所に着くよ』

 

 ハレの声に頷くような素振りを見せたカービィ――ホバリング中は口を開けると落下してしまうので返事ができない――は、そのまま真っすぐ飛んでいく。

 

 カレに持たせたスマホは、以前の様にユズの私物。先程ユウカに突き付けたようにセンサーに反応しないカービィを追う手段としてスマホのGPS機能を利用することで、現在位置を把握することを可能にする為である。

 そのうえ、通話状態にしておけばモニタリングしているハレやコタマが遠隔で指示を出せるため、サポートも可能――ということで『鏡』と一緒に小袋を入れ、持たせたという経緯であった。

 

 それからハレの指示を聞きつつ、夜空をのんびり飛ぶカービィ。一応見つかったら危険な状況なのだが本人は特に気にする様子は無く。

 しばらく遊覧飛行を楽しみながら飛び続け――すると『ちょっとストップ』と、急にハレからの通信が入る。

 

『下の方に青い壁のプレハブ小屋が見える? そこが私たちの隠れ家』

 

 その言葉を受け、その場で滞空したままキョロキョロと下の方へと視線を向けるカービィ。

 そして彼女の言葉通り青い壁の一戸建ての建物――プレハブ小屋を見つけると、そこの入り口らしき扉を目指してゆっくりと降下していく。万一にセミナーがヴェリタスの部室へと押し入ってくる可能性を考慮して、ハレとコタマは予め拠点を移していたようだ。

 

 無事に地面に降りたったカービィは、玄関と思われる戸をトントンと叩く。

 それから『ちょっと待ってて』という声がプレハブ小屋から聞こえてからパタパタと物音が続き、少し遅れて戸が開かれると、先程までカービィやゲーム開発部をサポートしていたハレが姿を見せる。

 

 彼女の姿を確認したカービィは”ハーイ!”と元気よく声を掛ける。

 そんなカレの愛らしい反応にハレが微笑みつつ、目線を合わせるためしゃがみこみながら――

 

「お疲れ様。モモイ達もこっちに向かってきてるから、それまでゆっくりしてて」

 

 と、カレのまあるい頭を撫でつつ労いの言葉を贈る。

 

 そんな彼女の言葉に喜ぶと、早速室内へと足を踏み入れるカービィ――すると、何やら考え事をしながらこちらを興味深く視線を向けていたコタマと目が合う。

 「返事ぐらいならできる……ならば”歌う”ことも可能なのでは……試してみる価値はありそうですね」と、ブツブツと独り言を呟くコタマの様子に体を傾げるカービィだったが、その内興味が薄れたのか室内に置かれていたソファを見つけてはすぐに飛び込んだ。

 

 ソファに飛び込んだカービィは、ハレのお言葉に甘えてゆっくりすることに。

 気付けば時刻は日を跨ぐか跨がないかの時間帯。

 作戦前に夕飯は既に済ましていたが、色々動き回ったせいかお腹は空いていた――が、もう少しだけ我慢することにするカービィ。

 

 

 

 きっと みんなで食べるゴハンは とてもおいしいはずだ。

 そう想いながら、ソファに身を預けてウトウトするのであった。

 

 

 

 

 

 

 ミレニアムタワーの屋上。

 夜もすっかり更け誰もいないはずのこの場所に、鉄柵に寄りかかりながら佇む少女が一人。

 物憂いな表情を浮かべては思い出したかのように溜息を吐く少女――そんな彼女にスマホの着信音が耳に入る。相手先が予想できたのか少しげんなりとした顔を浮かべつつも、スマホを耳に当て「……もしもし」と応答する。

 

『お疲れ様です。たった今破損した備品の確認が終わったんですが……』

 

 『どうしましょう』と指示を伺ってくる相手の報告に、少し考えてから少女は指示を出す。

 

「……ありがとう、とりあえずそのデータを送って頂戴。あとは私が対応しておくから、今日はもう解散しなさい」

 

 少女の指示に『わかりました』と返事を返し、言葉尻にお疲れ様でした、と付け加えてから通話先からの電話は切れる。それから通話の切れたスマホをジッと見つめてから、再び少女は溜息つきながら物思いにふける。

 

 少女――――早瀬ユウカは改めて先程のことを思い返す。

 

 モモイ達を取り逃がしてしまった彼女だったが、結局のところ彼女達を捕まえることが出来ない為これ以上の追跡は無意味と判断。

 モモイ達を追えば『鏡』を取り返せる機会はあるかもしれないが、肝心の物はピンクの未確認生物が先に持って行ってしまった為、既に使われている――或いはもう用済みかもしれない。なんなら次の日には喜色満面でユウカに返しに来るモモイの姿が目に浮かぶ程である。

 

 その後、彼女はすぐ全体宛てに引き上げる様に伝えると共に騒動の簡単な後処理を指示した。唯でさえ遅い時間なのに、これ以上部員達に負担を掛けさせられない、というのも理由の一つである。

 

 そう思い返していた彼女のスマホに、メールが届く。

 送信者は先程電話の相手だったセミナーの役員。そして先程やり取りしていた備品の一覧表が添付されていた。

 

 すごく嫌そうな顔をしつつ、数秒程手を止めてから――意を固めて、添付ファイルを開くユウカ。

 

 

 

 彼女の目に映る、シャッターやガラス、警備ロボットや扉やらの資材名の羅列。

 その横の欄には破損状況を簡単に表す言葉がズラーッと並ぶ。

 

 ――大半が”全壊”とか”行方不明(ほしになった)”とか書いてあったが。

 

 それを理解したユウカががっくりと項垂れる。想像通りと言えば想像通りではあったが、外れていて欲しいと願うのは仕方ないこと。

 これも全てゲーム開発部って奴の仕業なんだ、と豪語できればまだ怒りの矛先を向けられたものの――仕方なかったとは言え”C&C”のメンバーによる被害も混ざっている。そして彼女達に依頼したのも、破壊を許可したのもユウカ本人なので怒るに怒れない状況。

 

 どんよりとした気分を抱え、明日からの財政事情に頭を悩ませているユウカ――そこで、背後から「ユウカちゃん」と呼び掛ける声に気付き、振り返る。

 彼女の視界に入った人物は、同じ学年かつセミナーの役員――書記担当の”生塩ノア”だった。

 

「一応確認しましたが……彼女たちはまだ、部室に戻っていないみたいです」

「……ヴェリタスの部室は?」

「そちらも同じですね。やはり誰もいません」

 

 ノアの報告に「そう……」と納得するユウカ。その報告を踏まえて、彼女達が何処かに拠点を構えていると予想するユウカだが、肝心の場所を特定する手段が無い。情報戦では一足も二足も先を行くヴェリタス相手では、場所を特定するのも一苦労なのは言うまでも無く。

 どうにもならない、そう考えたユウカが今日何度目かの溜息を吐くと、その様子を見兼ねたノアが彼女の隣に並びながら気遣うように言葉を掛ける。

 

「大丈夫、ユウカちゃん? 相当お疲れの様ですが……」

「……ううん、平気よ。そもそも、私の見通しが甘かったのが原因だから」

 

 心配させまいと、笑みを浮かべて気丈に振る舞うユウカ。

 一方、疲れた笑みを浮かべる親友の姿に、ノアは益々心配な様子を覗かせる。

 

 それから二人の間で会話が止まり、気まずい空気が流れ始める――と思いきや「あっ、そういえば」とうっかりした様子で手の平を合わせてノアが口を開く。

 

「ユウカちゃんに”お客様”が訪ねてきてましたよ」

「お客様……? こんな時間に?」

 

 どうしたってこの時間に訪ねてくる者など普通の相手ではない。そう考えたユウカが彼女の発言に対して怪訝な表情を浮かべる。

 

 そんなユウカの疑問を余所に、何故か楽し気な様子で「ほら」と言いながらノアは振り返る。

 そんな彼女につられ、ユウカも振り返り――――目を見開く。

 

 

 

”――――ごめん、取り込み中だったかな?”

 

 彼女の視界に入ってきたのは、シャーレの”先生”であった。

 

 

 

 ”先生”の登場に驚愕を隠せず、思わずノアに言及しようとしたユウカ――だったが、それを読んでいたか如く先んじて「それでは私は失礼いたします♪」と一言述べてから、ノアは風のようにこの場を去っていってしまった。

 

 言葉の行き場を失ったユウカが口をパクパクさせている一方、”先生”はゆっくりと歩み寄って行っては彼女の隣に並ぶ。

 それから、動揺を隠しきれていない彼女が落ち着くまで静かに待つ”先生”。流石のユウカも気遣われていると察し、数回深呼吸をしてなんとか無理やり冷静さを取り戻す。

 

「……な、なにかご用ですか」

 

 幾分か落ち着いたユウカが口にしたのは、そんな言葉。少しつっけんどんな言い方になってしまったのは、彼女自身の中で様々な感情で気持ちに整理ができていないからである。

 

 ”ユウカが心配になって来たんだ”

 

 そんな彼女の問いに、正直に答えた大人の発言に「はいッ!?」と顔を赤くして顔を勢いよく向けるユウカ。そんな真っ赤っかな彼女とは真逆に、”先生”は落ち着き払った様子。

 その態度が癪に障ったのか――はたまた先の言葉に対しての照れ隠しなのか「い、意味が分かりませんっ」と口にしてから、沸き上がった疑問そのままに彼女は問いかける。

 

「”先生”はあの子たちの味方のはずでしょう!? なのに私を心配する必要なんて――」

 

 

 

”――――私は”生徒”みんなの味方だよ”

 

 

 

 彼女の言葉を遮ってまで、”先生”はその言葉を言い放った。

 淡々としながらも。断固たる決意を持って言ったであろうその言葉に、ユウカは思わず二の句が継げなかった。

 

 

 

 お互い口を開かず、沈黙が流れる――がそれから少し間を置いてから先にその沈黙を破ったのは、苦笑いを浮かべた”先生”だった。

 ”そう言えれば良かったんだけどね”と、呟きながら頭を掻く”先生”に目をパチクリさせるユウカ。そんな彼女に対して、”先生”は自嘲気味に口を開く。

 

”……どんな理由であろうとも、私がモモイ達を裏切ったことには変わりないよ”

 

 己を責める様な言い方に何とも言えぬ表情を浮かべたユウカだったが、ふと疑問に思ったことを口にしてしまった。

 

「……なんて言って、あの子たちを納得させたんですか?」

 

 正直、ゲーム開発部――特にモモイを説得できる光景が思い浮かばなかったユウカが問いかけると一瞬渋い顔を浮かべては、”あーいや、その”と微妙な顔を浮かべては言葉を濁す”先生。

 その態度に疑問符を浮かべた彼女の様子を脇目に、”先生”は観念したかのようにその時のことを語り始める。

 

 

 

 昨日の夕方、モモイ達へ今回の作戦に参加できない旨を連絡した”先生”。

 その話を聞いたゲーム開発部――というよりユウカの想像通り、電話先の相手でもあるモモイが納得できないと云わんばかりに理由を聞いてきた。

 

 それに対し、頭の中では色々な理由や言葉が思い浮かんでは――そうじゃないと頭を振る”先生”。必要なのは”彼女達を納得させる”言葉――ではなく、”自身の本心”なのだと。

 

 ”先生”は意を決して、モモイへと伝える。

 

”――ユウカの敵にはなれない”

 

 ――キヴォトスに来てから、彼女には色々とお世話になっているから。

 ――彼女の頑張りを無碍にしたくないから。

 

 等々――そう伝えながら、いつの間にか言葉に熱が入っていることに気付かず本心を吐露した”先生”。

 

 

 

 そんな”先生”の言葉に、モモイは――

 

『……え? 私、今ユウカへの”プロポーズ”聞かされてる???』

 

 顔を赤らめてすっごく混乱した。

 

 誤解した彼女に違う違う、と慌てて否定する”先生”。本人的には自身の正直な想いを伝えたつもりだったのだが、却ってそれが盛大に誤解を生む羽目になったとか。ちなみに隣で聞いていた彼女の妹がスゴイ表情だったのは余談である。

 

 それからなんとか誤解が解けたのを境に、ううんと悩んでいたモモイが『ちょっと待ってて』と一言断りを入れるとしばらく無言の時が流れる。

 

 静寂な時間が続く状況に”先生”の気持ちが張り詰めていく中、しばらくしてから再び彼女が語り掛けてきた。

 

『――うん、”先生”の気持ちはわかった。今回は大目に見てあげよう!』

 

 と、いつもの彼女らしい快活な様子を覗かせつつ、大人の我儘を認めた。

 彼女の発言に目を瞬かせる”先生”――糾弾される覚悟こそあったが、まさかあっさり認めてくれるとは予想だにしていなかったのだから。

 

 そんな”先生”の反応など電話越しで知る由も無いモモイが『ただし』と言ったのを機に、”先生”は改めて気を引き締めなおす――が、次の彼女の言葉は、またしても”先生”の予想を裏切る。

 

『代わりに、私たち全員にゲーム一本ずつ買うこと! いいよね!』

 

 またしても、言葉を失う”先生”。

 一方で相手から反応が無かったことに『あ、あれ? 流石にマズかった?』と焦るモモイ。そんな彼女の様子に我に返った”先生”がすぐ応答しなかったことに一言詫びてから、彼女へ聞き返す。

 

”……本当にそれで、いいの?”

『うん、さっき皆とも話して決めたことだしっ」

 

 交換条件としてはあまりにも易しい内容。そのことを踏まえ確認をとる”先生”に、モモイが肯定すると彼女は続けざまに言葉を重ねる。

 

『私たちが自分のワガママで始めたことなのに、”先生”の理由を否定するのは違うんじゃないかな――って』

 

 『私だってカービィとか巻き込んでるし』と言葉尻に付け加えながら苦笑するモモイに、”先生”は肩の力が抜けるような感覚を覚え――思わず、笑みを零した。

 

 

”――……モモイはすごいね”

『えっ? なになにいきなりどしたの”先生”!?』

 

 大人でもなかなかできないことを難なくやり遂げた少女へと、心の底からの賞賛を贈る。

 一方、賞賛の言葉に慣れていないのか慌てふためく少女。

 その様子に、つい可笑しくなってまた笑う”先生”であった。

 

 

 

”――――って経緯なんだけど……”

 

 一通り話し終えた”先生”が気恥ずかしさを誤魔化すように笑う。我ながら自身の醜態を晒している気が拭えないが、これも自分の至らなさが招いた結果だと受け入れていた。

 

 一方、今まで話を聞かされていたユウカが目をグルングルンさせながら顔を赤くしていた。

 

(い、いやいやいやいや、聞いたのは確かに私だけどそこまで言わなくてもいいでしょ!?)

 

 予想を超える情報量に、様々な感情が頭の中で錯綜するユウカは混乱の極みにいた。”先生”にそこまで想われていたことに喜びを憶える一方、それをモモイに知られてしまった羞恥心や器の広さを見せつけたモモイに心打たれたりとかでもう胸がいっぱいいっぱいだった。心が三つある。

 

 そんなユウカに気付かずか、”先生”は語り続ける。

 

”……一応『鏡』が手に入っても入らなくてもゲーム作りができるように、手は回してたんだけどね”

 

 その言葉に、ユウカがハッと我に返ると、そのことについて何か物申したかったのかジト目で”先生”の方へ視線を向ける。先程彼女が一杯食わされた”シャーレ部員”権限についてである。

 

「……停学中でもゲーム制作はできるようにするつもりでしたケド」

”えっ、そうなの!?”

 

 まさかの事実に驚く”先生”に「当然ですっ」と口を尖らせるユウカ。ゲーム開発部を焚きつけた本人として、彼女達をそのまま何もさせないつもりは無かったのか、反省部屋でもゲーム制作はできるように便宜は図るつもりだったとか。

 停学は”校区外への外出”と”学業、及び部活動ができない”という制約であるが、ゲーム制作ができないわけではない。期間を1週間と言ったが実際は”ミレニアムプライス”の提出前には部活動を再開できる――つまりその時点でゲームさえ完成させていればそのまま提出できるように調整していた――とユウカは語る。

 

 彼女のかんぺき~な計画に気付けなかった”先生”はバツの悪そうな表情を浮かべるが、「まあ、言ってなかった私にも落ち度がありますし」と溜息を吐くユウカ。

 

 

 

 すると――それが彼女の緊張を解すきっかけになったのか兎も角――不意に響く腹の虫。

 発信源は、少なくとも”先生”ではない。

 その証拠に目の前に映る少女が顔を赤らめてプルプルと震え出した。

 

 

 

 その姿に微笑ましさを感じた”先生”が、”コンビニで何か買って来てあげるね”と彼女へ提案する。

 

「こ、こんな時間にですか? その、カロリーとか……」

”なんとかが減っては戦はできない、っていうでしょ? 頑張ったユウカへのご褒美ということで”

 

 ゴハンと聞くと目を輝かせる桃色のカレを思い出しながら――冗談めかして言う”先生”の言葉に根負けしたユウカは「……じゃあ、エンジェルチキンで」と恥ずかしそうにポツリと呟いた。

 

 その言葉に満足げに頷いてから、早速コンビニ向かおうとする”先生”――その背中に向かって「私も一緒にいきます」と呼び止めるユウカ。

 

 

”別に私一人でも……”

「まだ話したい事いっぱいあるんですから、そのついでですっ」

 

 そう言いながらプイっと気恥ずかしさを誤魔化すように顔を逸らすユウカに、微笑む”先生”。

 ならそのついでに彼女の仕事を手伝っても許されるだろう、と考えながら二人で夜食を買いに行くこととなった。

 

 

 

 二人で食べたホットスナックが、今までで一番記憶に残る味だったのは、また別の話。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【心が三つある】
→ウサギの声優さんを知った時の衝撃よ。

【もう何も怖くはない――!】
→当時めちゃくちゃ某掲示板が阿鼻叫喚で溢れてたわ。

【10階分一気に駆け上がる】
→5階でもキツイぞ。ソースは私

【それはどうかな?】
→カン☆コーン

【シャーレの当番】
→うちでの設定ではこんな感じ。スゲー権利だけど期限付きだよってことで。今後使うことあんまないかもしんないけど

【さらだばー!】
→タイカイナノニー! タイカイナノニー!

【ホバリングでふわふわと飛ぶカービィ】
→飛んで終わる、っていうのがカービィのお約束かなって

【ならば”歌う”ことも可能なのでは】
→\(^o^)/

【これも全てゲーム開発部って奴の仕業なんだ】
→なんだって! それは本当かい!?

【ユウカへの”プロポーズ”聞かされてる???】
→公式チャンネルでよく見るよく見る。ユウカ、俺たち結婚しよう

【スゴイ表情】
→( ◠‿◠ )

 それから、次の話がまだ半分もできてないので明日は投稿できない、かも。
 くやしいなぁ、くやしいなぁ。


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