Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 パヴァーヌ1章編があと数話の予定なのですが、今後の方針として第二章との間に小話を挟むつもりです。いわゆる日常会。
 基本ゲーム開発部の子達と絡ませるつもりだけど、何話かミレニアムの生徒と絡ませようかなーと画策中。書けるかどうかは別として
 アンケでも作って優先順でも作るかどうかはちょっと考え中。作るとしたら次の話からかも。


020

20-1

 

 

 

 ミレニアムタワーの襲撃作戦から夜が明けた、次の日の朝。

 ミレニアムの校舎廊下――そこでメイド服を身に纏った4人の少女達が集っていた。

 

 1人はコールサイン・ゼロスリー、室笠アカネ。

 1人はコールサイン・ゼロツー、角楯カリン。

 1人はコールサイン・ゼロワン、一之瀬アスナ。

 

 そして、その3人が神妙な面持ちで見つめた先――コールサイン・ダブルオー、美甘ネルが「なるほどな」と溜息を吐くと、

 

「ゲーム開発部、か。知らねぇ部活だったが……そいつらにしてやられた、ってことだな?」

 

 と、3人を見渡しながら言う。

 その言葉を受けたアカネが「申し訳ありません」と頭を下げてから、その言葉通りの表情を浮かべながら口を開く。

 

「この依頼を受諾して、作戦を準備したのは私です。メイド部の名に、傷をつけてしまい――」

「んなこたぁどうでもいい」

 

 責任を感じていたアカネの謝罪をまったく気にしていない様子で、一蹴するネル。

 彼女の返答に呆気にとられたアカネを余所に、ネルは話し始める。

 

「あたしがここに戻ってきた時にリオから連絡が来た」

「セミナーの……ミレニアムの”生徒会長”から?」

 

 ミレニアムサイエンススクールの最高責任者である、生徒会長――”調月リオ”。

 その本人からの連絡――という話にカリンが少し驚きつつ尋ねると「ああ」と頷いてから、ネルはその内容について伝える。

 

「――依頼は撤回。無かったことに、だとよ」

 

 その一言にカリンとアカネは目を見開く――アスナはぼ~っとしていた。

 唐突な撤回指示に戸惑いを見せるアカネが「それは、いったいなぜ……?」と聞き返す。それに対してネルは頭を掻きながら「あたしの知ったことかよ」と顔を顰め――「けど」と前置きして、自身が思い浮かぶ推測をアカネ達に明かす。

 

「多分、リオもヒマリも確かめてみたかったんじゃねえのか?」

「確かめる……私たちの力を、ですか?」

 

 首を傾げるアカネの言葉に「逆だ」と断言したネルは、目を鋭く光らせ――

 

「あの、アリスとかいう奴と……”カービィ”ていう奴のことだろ」

 

 と、確信を持って告げた。

 その言葉に、ボーッとしていたアスナがピクッと反応する。

 

 一方で、ネルが口にした両名に心当たりがあるアカネとカリンは二人揃って渋い顔を浮かべる。二人にとって忘れられない存在であることなのは確かなようだ。

 

 そんな彼女達を見遣り、それからヘッと笑みを浮かべたネルは「ま、その辺の事情は知ったこっちゃねえ」と言い捨てると、続いてアカネへと視線を向ける。

 

「依頼とは関係なくなったが……アカネ、調べておいてくれ」

「――はい? 何をですか?」

「”ゲーム開発部”だ、関係者もまとめてな」

 

 急な申し出に戸惑うアカネは「何故ですか?」と尋ねる。そんな彼女の疑問に「まぁちっと興味があってな」と不敵な笑みを浮かべては答えるネル。

 

「一通り情報が洗えたら、”その2人”のところに行くぞ」

「――はい、望むところです。今頃あの子たちは、メイド部に一泡吹かせたと喜んでいるはずです」

 

 ネルの言葉に意気込みを見せるアカネ。

 先日の出来事は、彼女にとっても遺憾な結果だっただけにかなりやる気の様子。それは彼女だけではなく、隣で静かに闘志を燃やすカリンも同じであった。

 

 「ふふっ、次にお会いする時はどんな表情を見せてくれるのか……楽しみですね」と妙に迫力を感じさせる微笑みを覗かせるアカネ――そんな彼女に対して、「あー」と言いづらそうに言葉を濁してから、ネルは言う。

 

 

 

「――いや、面合わせんのはあたしだけだ」

 

 

 

 ざっくばらんに言い放った彼女の一言に、呆気にとられるアカネとカリン。

 それから少し間をおいて、我に返ったアカネが動揺を抑えつつ理由を聞く。

 

「ど、どうしてですか? 確かにあの2人はかなりの力を持っていますが、だからこそ私たち全員で――」

「あれがあいつらの全力って、本気で思ってんのか?」

 

 アカネの言葉を遮る、ネルの淡々とした一声。

 その言葉で、彼女は気が付く。

 

 ネルの言う通り、自分達はその一端を見たに過ぎない。

 もしかしたらまだ内に秘める潜在能力を持っていることも十分にあり得る。

 

 

 

 その力が自分達を遥かに上回っていた場合、

 自分達が全滅する恐れも――

 

 

 

 その可能性を見落とす程に冷静さを失っていたことに自覚し、自身を恥じるアカネ。

 一転してしおらしい態度になったアカネを見兼ねてか、「別に着いてくるな、なんて言わねーよ」と気を遣るネル。

 

「まぁ、あたしの杞憂で済めばいいって話だ。お前らは遠くから待機しときな」

 

 その言葉に、重々理解したアカネとカリンは頷く――すなわち、彼女達に与えられた役割は万が一に備えてのバックアップ。

 いざという時に備え、準備は万全にしておこうと二人は心に決めたのだった。

 

 

 

 ――その一方で。

 

「――え~、私もあの子(カービィ)ともう一度遊びたい!」

 

 と、今まで静観に徹していたアスナが口にしたのはそんな言葉で。

 相変わらずのマイペースっぷりに溜息を吐いたネルが「あのなぁ」と彼女へ向き合う。

 

「一応、仕事だっつうの。遊びじゃねえんだぞ」

「でもリーダーはその子と遊ぶんでしょ?」

「だから遊びじゃねえ!」

 

 があーっと吠えるネルに対して、頬を膨らませて不満をアピールするアスナ――言っていることはネルの方が正しい筈なのに身長差のせいでワガママを言っているように見えるのはご愛敬。

 そんな二人をまあまあとアカネとカリンが宥める。この光景もC&Cではよくある事なので二人の対応は手慣れたものであった。

 

 その一方で、アカネが物珍しそうにアスナへ尋ねる。

 

「けど、アスナ先輩がそこまで言うなんて……余程あの子に興味があるみたいですね」

「うん! あの子、”普通”じゃないから!」

「普通じゃないのは、まあ見た目通りだと思うけど……」

 

 声を弾ませたアスナの発言に、カリンは疑問符を浮かべる。

 それに対して「違うよ~、あの子はなんていうか、そうじゃなくてー……」と上手く言葉にできずに呟いた後――人差し指を口の端に付け、何か考えるかのように目線を上に向けるアスナ。

 

 うーん、と考え込むアスナを3人が見つめるだけの時間が過ぎていき――やがてピンとくる言葉が思い浮かんだ彼女は両手を合わせ、晴れ晴れとした表情で口にする。

 

「――――”お星さま”!」

 

 

 

 メイド部の4人がそんな事を目論んでるとは露知らず――”ゲーム開発部”。

 先日の作戦が成功し、『鏡』の入手――ひいては”G.Bible”の封印を解いたモモイ達。

 

 彼女達にとって、希望とも云えるアイテムを手にしたことで、これから光に満ち溢れる日常を過ごせる、と信じ――――

 

 

 

「あ、あの、モモイ……?」

「ふふっ、ふへへへへへ、全部終わった!! おしまいだあっ!!」

 

 1人の少女は嗤い――、

 

「み、ミドリ? その、大丈夫ですか?」

「アリスちゃん、ごめん……今は何も話したくない気分なの……」

 

 1人の少女は夢を見て――、

 

「えっと、ユズ――」

「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱……世界は今、破滅に向かって……」

 

 そして、1人の少女は詩を詠うのであった。

 

 

 

 どう見てもバッドエンドです。

 本当に、本当にありがとうございました。

 

 

 

 失意に暮れる3人の姿に、アリスとカービィが困ったようにお互いに見つめ合う。

 

 

 

 なぜこうなったのか――昨晩から今までの事を2人は思い返すことに。

 

 

 

 昨晩――カービィと無事に合流を果たしたモモイ達は、ヴェリタスに”G.Bible”を任せて帰路に就くと、部室でささやかな祝勝会――深夜なので途中買ってきたコンビニ弁当やお菓子で――を開き、喜びを分かち合っていた。

 

 余談だが、お腹ペコペコのピンクボール用に廃棄寸前の弁当をたくさん買ったモモイは間違いなく頭が切れていたとかなんとか。

 

 そうして時間が経つにつれ、溜まってた疲労がピークを迎えたのか、5人はそのまま部室で寝落ち――そのまま次の日の昼前まで熟睡するのであった。

 

 

 

 そんな一同の眠りから呼び起こしたのは、ある人物からのモモトークの通知音――約1匹寝入ってたのはご愛敬。

 

 寝ぼけた状態で相手を確認すると――送信者は”ヴェリタス”の1年生、小塗マキ。

 ヴェリタスからの連絡、という話に一気に眠気が吹き飛んだモモイ達は早速彼女からのメッセージを確認した。

 

【おまたせ~! 今からそっちに向かってもいい?】

 

 そんな内容のメッセージを目に通した彼女達は、すぐに快諾の返事を送る。今更何の件――等と野暮なことを聞くことはせず、今か今かとマキの到着を彼女達は心待ちした。

 

 

 

 それからマキが部室に訪れたのは、返信を返してから10分ほど経ってからであった。

 

「ハ~イ、ゲーム開発部のちびっ子たち! マキちゃんからプレゼントのお届けだよ!」

 

 室内に入るなり、陽気な挨拶を言い放つマキに、「遂に!」と待ち切れない様子を隠せないモモイが声を弾ませる。

 そんな彼女の期待に応えるが如く、マキは「ジャジャーン!」とモモイから借りていたゲームガールズアドバンスSPの画面を見せ付けるように突き出した。

 

『G.Bible.exe……実行準備完了』

 

 画面には、何時でも実行できるという意味を示す内容のメッセージ。

 

 それを見たミドリは本当に”G.Bible”を手に入れた実感が湧き上がってきたのか「ようやく、”G.Bible”が私たちの手に……!」と感極まった声で呟く。

 勿論ミドリだけではなく、感動のあまり言葉が出ないのか画面を食い入るように見つめているユズや、最難関クエストをこなしたことに喜びを示すかのように、アリスはピンクのぬいぐるみ擬きを上げたり下げたりを繰り返し、高い高いしていた。

 されてる本人は、皆が嬉しそうなのでいつもより楽し気なご様子。

 

「遅れてごめんねー。『鏡』をセミナーに返すことになって、その件でちょっとバタバタしちゃって」

「ええっ、『鏡』返しちゃったの!?」

 

 そんな中、軽い調子で口にしたマキの言葉にモモイが目を見開く。あれだけ苦労して手に入れたモノをあっさり返してしまったことに驚きを隠せないようだ。

 そんな彼女の反応に対して、「実はヒマリ先輩は全部知ってたみたい。それくらいあげてもいいから、これからはあまり無理しないでって」とマキは少しバツが悪そうな笑みを浮かべ答える。

 

 すると突然「あ、それでね」と思い出したかのようにモモイ達に問い掛ける。

 

「”G.Bible”を開いた時に、このフォルダを見つけたんだけど……」

 

 そう言いながらゲーム機を操作するマキは、あるフォルダを画面に表示させモモイ達へと見せつける。

 

 画面へ注目した彼女達の目に映ったのは、<Key>という名称のフォルダ。

 見覚えの無いデータに、モモイが首を傾げる。

 

「何これ……”ケイ”、って読むのかな?」

「……”ケイ”?」

「”キー”でしょ! お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」

 

 モモイの呟きにこてんと首を傾げるアリスの傍ら、姉の間違いを愕然としながら指摘するミドリ。彼女の指摘に「そ、そうだっけ」と気恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻くモモイを脇目に、マキが改めて<Key>について解説する。

 

 マキ曰く、ファイル自体は壊れてはいないが自分達の知っている機械語じゃ解読できない程、難解な構成をしているとのこと。

“G.Bible”の方は開くことはできたが、こちらの方は何一つ分からないのが現状だとか。

 

 その事を伝えた上で、彼女は改めてモモイ達へ問いかける。

 

「この<Key>のこと、何か知ってたりする?」

「いや、私たちも全然……」

 

 心当たりが浮かばないモモイが困り顔を浮かべて答える――その一方で、ある出来事が頭の片隅で引っ掛かっていたミドリが「もしかして」と小さく呟く。

 

 

 

 ――あなたはAL-1Sですか?――

 

 

 

 廃墟の工場で稼働していた、アリスのことを知っていた端末。

 元々”G.Bible”もあの端末から送られてきたデータである。

 

「まさか、あの時の……?」

 

 ならこの<Key>というデータも、その時に一緒に送られてきたデータではないか、とミドリは勘繰る。

 

 難しい顔で考え込む彼女の様子を気にした――と思いきや「ま、でもとりあえず今は”G.Bible”の方でしょ」とあっけからんと話を変えるマキ。

 

「<Key>についてはまた今度ね。時間があったら頑張って分析してみるよ」

 

 そう言いながら、ゲーム機を元の持ち主であるモモイへと手渡すマキ。

 そして一仕事終えたような晴々とした表情を浮かべ、彼女は踵を返した。

 

「じゃ、間違いなく渡したから。またね!」

「マキちゃん、ありがとね!」

「今度会う時は、秘書を通して連絡してね! なにせ私たちは、『TSC2』で大ヒットする予定だから!」

 

 ミドリがお礼を述べる傍ら、モモイの調子の良い発言に「あははっ、楽しみにしてるよ!」とゲーム開発部を応援する言葉を贈りつつ、マキは部室を後にするのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

20-2

 

 

 

「みんな、集まって!」

 

 マキが部室を去ってから間もなく。

 全体に聞こえる様に、モモイが高らかに声を発すると、それにつられ彼女の元へと近寄る一同。そうして全員を見渡した後――苦労を重ね、ようやく手に入れた”G.Bible”について、改めてモモイは語り始める。

 

「みんな知ってる通り、この中についてはほとんど誰も知らない――ただ最後に見たと噂される、カリスマ開発者によると”ゲーム開発における秘技”が書いてある……って言われてる」

 

 皆が知っているようで、誰も知らなかった奇跡。

 そんな曰くが付いている――とモモイは語る。

 

「私は、それが知りたい」

「うん……最高のゲームを作るために」

 

  モモイの言葉に同調するように、ミドリは頷く。彼女の言う通り、あくまでも”G.Bible”は最高のゲームを作るノウハウが書かれている――というだけで、実際にゲームを作るのはここにいるゲーム開発部のメンバーである。

 

 だからこそ、彼女達にとってここからが本番。

 今日までの事は全て、最高のゲームを作りこの部を継続させる為の準備段階――とも云える。

 

 万が一に実績を――ミレニアム・プライスに受賞できなければ、ゲーム開発部は廃部。

 自室替わりにこの部屋を利用しているユズは、必然的に寮へ戻らざるを得ない。

 

 そして、部員であるモモイ達も解散――今までのようにこの場所で集まることはできなくなる。

 場所さえあればいい――というワケでは無く、同じ夢と目標を目指す仲間と一緒にいられる場が必要であるということは、ここにいる全員の願いであった。

 

 

 

 そのことを重々理解した一同は気を引き締め直す。

 今はこの”G.Bible”に目を通すことが最も重要であることは、言うまでも無く。

 

 

 

 一度深呼吸を挟んでから――準備できたかのように「よしっ」とモモイが気合を入れる。

 

「始めよう、アリス!」

 

 彼女の言葉を受けたアリスがしっかりと頷くと、抱いていたカービィを肩に乗せゲーム機のボタンへとまっすぐ手を伸ばす。

 

 そして、高らかに告げる。

 

「”G.Bible”――……起動!」

 

 アリスの意気揚々とした発言と同時に、ボタンは押され――”G.Bible”の起動と共に画面一杯にメッセージウィンドウが展開される。

 

 それから間もなくして、ある一文が表示された。

 

【G.Bibleの世界にようこそ】

「は、始まった!」

 

 メッセージが表示されるや否や、興奮した様子で声をあげるモモイ。そんな彼女の反応に構わず、メッセージは立て続けに表示されていく。

 

【最高のゲームとは何か……この問題に対して、世界中で様々を答えが模索され続けてきました】

【作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など】

【そういったものが最高のゲームの「条件」として挙げられることは多いですが、それらは全て「真理」の枝葉に過ぎません】

 

 如何にもらしいゲーム作りとは何たるかを追求した、哲学的な話が繰り広げられる。

 その一方で、これだけ御大層な前置きをするのだからさぞかし素晴らしい技法が書かれているのだろう、と彼女達の期待は高まるばかり。

 

 そうして新たなメッセージが画面上に表示されると――

 

【最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです】

【そしてこのG.Bibleには、その真理が秘められています】

 

 その一文が表示されたと同時に、一同――約1匹はキョトンとしているが――は目を輝かせる。いよいよ彼女達が待ち望んでいた秘技について話は移る。

 

「い、いよいよ!」

「何だかすごそう……」

 

 もはや高揚を抑えきれないモモイが声を弾ませ、その隣でミドリが湧き上がる緊張からか息を呑む。

 

 

 

 そして――――待ち望んでいた時は来る。

 

 

 

【最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法……】

【それを今こそお教えしましょう】

 

 

 

 望んでいたモノが目の前にある事を悟ったモモイ達の心音が早まる。気分は複雑に入り組んだダンジョンの行き止まりで隠し宝箱を見つけた時のそれに近いか。

 

「来ます……っ!」

 

 アリスの一言につられるように、画面が切り替わる。

 今まで表示されていた文章が一度リセットされると、そこに新たな一文が浮き上がる。

 

 

 

 思わず食い入るように画面に顔を近づけるモモイ達。

 彼女達が目にしたのは――――!

 

 

 

【…… ゲームを愛しなさい】

 

 

 

「おお……オープニング、みたいな感じかな。それっぽい!」

「そ、そう?」

 

 話の切り出し方に感心するモモイ。

 一方でこの良さが伝わっていないのか微妙な顔を浮かべるミドリ。

 

 そんな対照的な二人の反応を余所に、再び一文が追加される。

 

 

 

【ゲームを愛しなさい】

 

 

 

「……まさか、これで終わり……じゃ、ないよね?」

「な、何かバグってるんじゃない?」

「ちょっと待って! ええっと設定変更はどこから……」

 

 同じ内容が繰り返されたことに、不安を覚えるユズ。そんな不安を誤魔化すかのようにミドリが何か原因があるのでは、と訴える。

 その言葉に触発され、不穏な空気を感じたモモイがゲーム機を取り上げると、手あたり次第いろいろなボタンを押し始める。

 

 そんな彼女の努力が実を結んだのか――

 

【――あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題かエラーが生じたのでは……と疑っている状況なのでしょう】

「あっ、やっぱり! このまま終わるはずがないよね!」

 

 こちらの行動を見透かしているような一文が表示されたことに、喜ぶモモイ。それに倣うかのように胸を撫で下ろすミドリとユズ。

 

 

 

 ――しかし、次の瞬間。

 彼女達にとって目を疑う事態が起こった!

 

 

 

【しかし、これはエラーではありません。残念ですが、これが結論です】

 

 

 

【――――ゲームを愛しなさい!】

 

 

 

 その一文を最後に。

 

 画面は、うんともすんとも反応しなくなった。

 

 

 

 沈黙が流れる――主に3人の少女の間で。

 一方で、事態を呑み込めていないアリスとカービィはキョトンと3人を見つめる。

 

 

 

 ――――やがて、モモイが口を開く。

 

「カービィ。私のほっぺた、つねってくれる?」

 

 急な申し出に体を傾げるカービィ――とはいえ向こうからのお願いを無下にできないので、彼女の要望通りモチモチのほっぺたをつねってあげることにした。

 器用にモモイの肩に乗っかるとえいっ、と勢いよく引っ張り――「痛い痛い痛い!!」とすぐに彼女から音を上げた声が発せられる。

 

 手加減を知らないカービィに文句を言おうとして――――痛みによって夢ではないことを文字通り痛感したモモイが唖然とした。

 

「お、お姉ちゃん……私たち、何か悪い夢でも見て……」

 

 声を震わせるミドリが目の前の現実を否定しようとするが、残念ながらそのお姉ちゃんが先程夢ではないことを確かめたばかりである。

 その隣で目を虚ろにさせ乾いた笑みを浮かべるユズ。とうとう絶望と仲良くなってしまった。

 

 

 

 ――そして、湧き上がる感情に我慢できなくなったモモイは、

 

 

 

「――――終わりだああぁぁぁああ!!!」

 

 部室の天井へ向かって、慟哭するのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

20-3

 

 

 

 ――そして、時は現在に戻る。

 

 思い返しても3人がなぜこうなってしまったのかわからないアリスとカービィ。

 ”G.Bible”のせいということは理解しているが、何がダメだったのか把握できてないアリスがおずおずと尋ねた。

 

「えっと、”G.Bible”は、嘘は言ってないと思いますが――」

「そ う い う 問 題 じ ゃ な い っ ! !」

 

 アリスの発言に、怒号とも云える程の勢いで反応したモモイ。今まで見せたことのない彼女の怒り様にたじろぐアリスに構わず、モモイは続ける。

 

「いっそのこと嘘って言ってくれたほうがまだマシ! うわああああん、終わった! 私たちはもう廃部なんだ! ふえぇぇぇぇぇん!」

 

 怒ったと思えば今度は泣き出す始末。

 完全に精神的に参ってるのか、情緒が不安定なモモイにますます困り顔を浮かべるアリス。

 

 一方で虚ろな目で部屋の片隅を眺めているミドリをチョンチョンと手でつつくカービィ。いつもだったら、しっかりと応答してくれる彼女もそんな余裕が無いのか、普段の姿は見る影もなく。

 

「ごめんね、カービィ……知ってたけど、現実って元々こういうものなの……そう、つまりこれがトゥルーエンド……ハッピーエンドとはまた別の到達点……」

 

 などと、憂い顔を浮かべてはよくわからないことをブツブツと呟くばかり。

 

 ミドリも再起不能に陥っていることに更に困ってしまったアリスとカービィ――と、そこでアリスがこの場に1人足りないことに気が付く。

 

「ゆ、ユズは……ユズはどこに?」

 

 彼女の言葉を受け、カービィもキョロキョロと室内を見渡す――と、そこでロッカーが時たま震えていることに気が付く2人。

 一先ず近づいて中を確かめようとして――『や、やめて』と、突如暗く沈んだ声が目の前の鉄箱から響く。

 

『……ごめんね、2人とも……今は、そっとしておいて、ほしい…………』

 

 か細い声でありながら、底から響くような声に、何とも言えぬ2人。

 やがてそんな3人を見兼ねて、アリスが呟く。

 

「今のみんなの姿は……まるで、正気がログアウトしたみたいです」

 

 独特な言い回しだが、これ以上ない程に的を得た指摘でもあった。

 それに同調するように、彼女の足元で何度も頷くカービィ。

 

 一方そんな2人の反応に対して、胸に抱えていた不満を爆発させるかのように「仕方ないじゃん!」とモモイが声を荒げる。

 

「最後の手段だったのに! それが、あんな誰でも知ってる文章が入ってるだけだなんて! 釣りにもほどがある!」

 

 納得できない、と云わんばかりに怒号を上げるモモイ。

 そのうち感情が高ぶるにつれて、彼女の目尻から涙が浮かび上がる。

 

「知ってた! 世界にはそんな、それ一つで全部が変わって上手く行くような、便利な方法なんか無いって! でも期待ぐらいしたっていいじゃん!」

 

 そこまで言い切ると、再び「うああぁぁぁんっ!」とぽろぽろと泣き出すモモイ。そんな姉の姿を傍目に、申し訳なさそうな表情を浮かべたミドリが、アリスに謝る。

 

「――ごめんね、アリスちゃん……私たちは……”G.Bible”無しじゃ、良いゲームは作れない……」

 

 

 

 それが、彼女達の現実。

 だからこそ、伝説に縋ろうとした彼女達の――――現実だった。

 

 

 

「――――いいえ、否定します」

 

 それをアリスは否定した。

 迷いなく、はっきりと――力強く否定した。

 

 雰囲気の変わった彼女の一言に、思わず顔を上げるモモイとミドリ。

 二人の反応に構わず、彼女は語り始めた。

 

「アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います――あのゲームは面白いです」

 

 思いもよらない発言に、「え?」と目を丸くする双子。

 そんな二人に、やはり構わず言葉を重ねるアリス。

 

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……このゲームをどれだけ愛しているのかを」

 

 

 

 目を閉じながら、思い返すアリス。

 

 お世辞にも、良い出来とは言えないのは事実。

 それでもプレイを続けていく内に伝わってくる、彼女達の想い。

 

 好きだからこそ、好きになって欲しいという想い。

 色々なゲームをプレイしたアリスだからこそ――この想いは本物だと、改めて感じることができた。

 

 

 

「そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると……胸が、高鳴ります」

 

 心の底からの気持ちを口にしたアリスは、しみじみと語り続ける。

 

「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は――――夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました」

 

 「だから、待望のエンディングに近づくほど思ってしまうのです」と、一旦言葉を区切ると彼女はモモイとミドリ、ユズ――そしてカービィの方へと視線を向けてから、はにかむように笑う。

 

 

 

――――この夢が、覚めなければいいのに……と――――

 

 

 

「――――アリスは、そう思うのです」

 

 ニッコリと笑う彼女につられ、笑顔を浮かべるカービィ。

 今まで静かに聴いていたモモイとミドリに至っては、口を開くことさえ忘れアリスに目を向けたままだった。

 

 

 

「――――……作ろう」

 

 そんな中、1人の少女がはっきりと呟く。

 いつの間にかロッカーから出てきていたユズだった。

 

 知らず知らずのうちに出てきていたことに驚きを見せるモモイとミドリだったが、それに構わず自分が抱えていた想いを語りだすユズ。心なしか、目元が赤かった。

 

「わたしの夢は……わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって、言ってもらうことだから」

 

 

 

  6ヶ月前の話である。

 ゲームをこよなく愛する少女がいた。

 

 ある日、彼女は自分の好きな趣味を誰かに共感して欲しいと、今まで経験のないゲーム制作へと着手した。その頃はまだ極度の人見知りでもなかったし、まだ前向きな性格だったとか。

 

 部活動を立ち上げ、そうして1人で作り上げたのが『テイルズ・サガ・クロニクル』の前身――プロトタイプといえる作品だった。

 

 作品を投稿した少女は、期待に胸を弾ませる。数は求めてない――といえば嘘になるが、この作品を遊んでくれた人にとって面白いと思ってくれることを夢に見て。

 

 

 

【これがゲーム?】

【これを作った人の頭の中、逆に気になる……】

【ゲームのことをよく知らない人が作ってない?】

【身の程をわきまえよ】

 

 

 

 現実は非情であった。

 彼女の期待とはまったく逆の光景が、繰り広げられていることに言葉を失う。

 

 そうして、茫然自失と作品レビューを眺めていた少女が目にしたのは――。

 

【これはゲームなんかじゃない、ゲームによく似たゴミだよ】

 

 それが彼女の限界だった。

 無意識にノートパソコンの電源を切ると、ソファにうつ伏すように倒れ込む。

 色々な感情が廻りまわって、体が落ち続けているような錯覚すら覚える始末。

 

 それから――啜り泣くような声が、しばらく続いたのだった。

 

 

 

 それに追い打ちをかけるかの如く、彼女にとって地獄のような日々が始まった。

 投稿の際、規定人数に必要な部員募集も兼ねて自らの部活動を明かしていたことが裏目となり、周囲の生徒にも知られてしまったのが不味かった。

 

 時たま聴こえてくる、嘲笑と軽蔑。

 寮に戻っても――自室に戻っても、休まる暇はなく精神を疲弊していく毎日。

 

 そんな彼女にとって最後の拠り所は、自分で立ち上げた部活の部室だった。

 周囲に貶されると知りながら寮に戻る度胸など今の彼女には無く、部室の中で怯えながら過ごす日々が続く。

 

 

 

 このまま、この場所と運命を共にするのだろうか。

 そう考え続けていた日々も――――ある日を境に終わりを迎える。

 

 突如、乱暴にノックされる部室の扉。

 その音に少女は肩を跳ねる。

 

『すいませ~ん! ここって『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを作った、ゲーム開発部で合ってますか?』

 

 扉の向こうから聞こえてくる声に、いよいよここにまで乗り込んできたのか、と恐れ慄く少女。

 恐怖に負けて、つい反射的に謝罪の言葉を口にしてしまう。

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……! もう二度とゲームは作りません、だから許して……!」

 

 ここ最近何度も繰り返された、少女の処世術。

 なんとか怒りを収めてもらおうと、彼女は必死に頭を下げる。

 

 

 

 そんな彼女の謝罪に――

 

『――えぇっ!? 何言ってるんですか、こんなに面白いのに! プロトタイプだけ作ってやめちゃうなんて!』

 

 想像とは違う言葉が飛んできたことに、少女は呆気にとられる。

 

『続き、すごい気になってるんですよ!? ここまでワクワクさせておいて、そんなの無しでしょ!?』

 

 かつて、彼女が欲していた言葉のはずなのに、まるで違う世界の言語のようで。

 

 

 

『――”テイルズ・サガ・クロニクル”、すっごく面白かったです!』

 

 

 

 少女の目頭が熱くなる。

 数日前と同じように――けれども全く違う理由であった。

 扉の向こうで2人組が何やら言い争っているようだったが、彼女の耳には入らず。

 

 

 

 その内、辛抱ならんとばかりに、勢いよく扉が開かれる。

 数日間、()()()開けられることの無かった扉が開いた。

 

「――――あなたがU()Z()様!?」

 

 少女――――花岡ユズの目に映ってきたのは、才羽モモイと、その妹の才羽ミドリであった。

 

 

 

「……それで、2人が来てくれた。一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させてくれた」

 

 「今年のクソゲーランキング一位になっちゃったけど」と少し困ったように笑みを浮かべるユズに対して、申し訳なさそうにモモイとミドリが肩を落とす。

 

「その後、アリスちゃんとカービィが訪ねてきてくれて……アリスちゃんが面白いって、言ってくれた」

 

 ――それで、私の夢は叶ったの。

 そう言いながら、心の底からアリスへ感謝の想いを伝えるユズ。

 

「心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が」

 

 半年ほど遅れて、彼女が欲しかった願いは叶った。

 だからこそ、彼女はその先を望んだ。

 

「叶うなら――わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい」

 

 

 

 ユズの本心を耳にしたモモイとミドリ。その強い思いの前に2人は口を開けないでいた。

 そんな2人の足元で、彼女達へ()()()()()を差し出す存在が。

 

「え……?」

「カービィ……?」

 

 2人が目線を下げると、ピンクのまあるいやつが目に映る。

 唐突な行動に戸惑う2人に対して、「アリスはわかります」と得意げにカレの行動を解説するアリス。

 

「カービィが自分の食べ物を差し出すときは、元気になって欲しい――と思っているからです」

 

 彼女の言葉を受けたモモイとミドリが目を丸くすると、改めてカレへと視線を向ける。2人の目の先では笑みを浮かべてお菓子を差し出すカービィの姿が目に入る。

 

 カレにとって、食べ物を食べることこそ元気(バイタリティ)の源。

 だからこそ、元気の無い2人もおいしいものを食べれば元気になる、と考えたのだろう。

 

「カービィ……」

「……うん、ありがとうね」

 

 純粋すぎるカービィの行動に、胸が温かくなる才羽姉妹。

 そんなカレの好意を無下にできず、しゃがみ込んでお菓子の袋を受け取るモモイとミドリ。

 

 

 

 何のお菓子かと、袋の表面を見るとマジックで”モモイ”と――――

 

「――――って、私のじゃん!!」

 

 モモイが勢いよく叫んだ。

 よく見るとミドリが持っている方にも”モモイ”と書かれていた。

 

 カービィがあれぇ? とキョトンと体を傾げた。

 なんとこのピンクボール、部室のお菓子を自分の物だと思い込んでいる節があることが発覚した。これにはミドリとユズも苦笑い。

 

 

 

 折角の感動を返せと云わんばかりに、ぐぬぬと睨むモモイ――だったが、能天気なカレに何を言っても意味がないと理解しているがゆえに、溜息一つで許してやることに。

 

 寧ろ、先程より幾分余裕が出てきたのか、いつもの調子で「よし!」と声を上げる。

 

「――ねえ、今からミレニアムプライスまで、時間どれくらい残ってる?」

「お姉ちゃん……!」

「6日と4時間38分です」

 

 モモイの一言にミドリが感嘆する傍らで、アリスが分単位までの制限時間を即答する。

 既に一週間を切っている――しかし、逆に言えばまだ6日間程の猶予はある。

 

 「それだけあれば十分」と己を奮い立たせるようにモモイが呟く。

 そして、他の面々を見渡しながら高々と告げた。

 

 

 

「さあ、ゲーム開発部一同――『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発、始めよう!!」

 

 

 

 その一言に、他のメンバーが意気揚々と手を突き上げる。

 思い描く夢を叶えるため――再び歩みだす、彼女達であった。

 

 

 

 なお、その日からピンクボール用のお菓子棚が作られたのは、また別の話。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【本当に、本当にありがとうございました】
→抗え、最後まで。どうあがいても絶望

【絶望と仲良くなってしまった】
→動く、動く

【そっとしておいて、ほしい】
→>そっとしておこう

【身の程をわきまえよ】
→やあ、(´・ω・`)ようこそ、しっこくハウスへ。

 次の更新は土曜予定。
 がんばるZOY!


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