Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 待たせたな!(cv.スネーク)
 さいしゅうへいき とりあつかいちゅうい。


022

22-1

 

 

 

 アリスが出かけてから、10分程経った頃。

 同居人がいなくなったことで手持ち無沙汰になったカービィは、待ち切れない様子で何度も壁に掛かっているデジタル時計を見返していた。

 

 眠気よりも空腹が勝っているのか、珍しく遅い時間まで起きているカービィ。

 

 ふと何か残ってないかと思い、冷蔵庫を開けることもあったが、都合よく食糧が増えることは無く。キッチン棚から塩や砂糖といった調味料は見つけたが、その程度ではカレの腹の足しにはなるわけもない。

 

 

 

 仕方なく座布団に座り込むカービィは、再び時計へと視線を向ける。

 早く帰ってこないかな、と思いながら足をゆらゆらさせ、空腹を紛らわすのであった。

 

 

 

 そうして腹ペコなカレが待ち侘びている最中、当の本人はと言うと――――

 

 

 

「この間は、ウチの連中が世話になったみてぇじゃねぇか」

「世話……?」

 

 ――ガラの悪い、メイド服の上にスカジャンを着込んだ少女に絡まれていた。

 

 不敵な笑みを見せる彼女の物言いに、キョトンと首を傾げるアリス。

 しかし、何かに気が付くとハッと目を見開き、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「アリス、このパターン知ってます。告白イベントですね」

「は?」

 

 突然、脈絡の無い発言を耳にして眉を顰めるネル。

 そんな彼女の反応を気に留めず、アリスは続ける。

 

()()()()()様はアリスに惚れていると――スチル獲得です」

 

 

 

 ――彼女に悪気は無かった。

 

 あくまで、彼女の見た目の第一印象から、呼び名を決めただけである。

 その呼び方が彼女の地雷を踏むとは、予想だにしていなかっただけである。

 

 

 

「――――ふ、ふっざけんなこの野郎ッ! 誰がチビメイドだ、ぶっ殺されてぇのか!?」

 

 顔色を憤怒の色に染めて、があーッと怒号を上げるネル。

 その迫力に気圧されたアリスが、思わず「ひっ」と短い悲鳴を上げる。

 

 憤慨する理由こそ可愛いものだが、その迫力は逆鱗に触れられた龍の如く。

 今にも両手に握る二挺の愛銃――”ツイン・ドラゴン”が火を噴きそうな雰囲気である。

 

 

 

 あまりの怒号にアリスが怯える一方、荒々しく肩で呼吸を繰り返すネル――だったが、しばらくして冷静さを取り戻すと、疲れたように溜息を吐いた。

 

「……誤解してるかもしれねぇから一応言っとくが、別に復讐しに来たってわけじゃねえ」

 

 この間の件については正当な依頼の中でのやり取りである、と律儀に伝えるネル。あくまでも、アリス達と対峙したのは偶然そうなったことだと、彼女は念を押す。

 

 ――その一方で、唐突に鋭い眼光を向けるネル。

 

「ただ、まぁ……興味が湧いてきてな」

 

 「興味?」と、首を傾げるアリス。

 そんな彼女を見据えて、ネルは告げた。

 

「悪ぃが、ちょっくら相手してもらおうか。勝てたらこのまま大人しく引き下がってやる」

 

 自分の得物を突き付けながら、白い歯を見せてニヤリと笑うネル。

 まるで挑戦状を叩きつけるが如く。

 

 

 

 そうして、彼女の挑戦を受けたアリスは考え込むように目を閉じ――やがて「わかりました」と頷く。

 

「一騎打ちのイベント戦闘……みたいなものですね。理解しました」

「イベ……なんつった?」

 

 彼女の独特な言い回しに、怪訝な表情を浮かべるネル。

 その反応に構わず、背負っていた”光の剣”を構えるアリスは、周囲の状況を確認する。

 

 

 

 以前と違い、広大な面積を有する空間。

 周りを巻き込む心配がいらない為、武器の性能を十全に発揮できる。

 

 対するネルは、噂に違わぬ実力を有する強敵。

 初手から、全力全開の一撃をぶつけるべきだろう。

 

 

 

 戦術が定まった彼女は、武器のエネルギーチャージを開始させる。

 急激に熱を発する銃砲を、続けてネルへと向ける。

 

「行きます、魔力充電100%……!」

 

 攻撃の予兆を感じたネルが「来るか……ッ!」と鋭い視線を向け、見構える。

 そして、発射の準備が整うと同時に――アリスはお決まりの詠唱を高々と告げる。

 

「光よ!!」

 

 その一声がトリガーとなるように、電気エネルギーによって超加速した弾丸が撃ち出される。

 

 音速に並ぶ速度を保ちながら、ネルへと迫る弾丸。

 直撃すれば無事では済まないことは、言うまでもなく。

 

 その威力のせいか、軌道上に砂埃を巻き上げる。

 必然的に、土煙が彼女の視界を一部遮る形となり、そのせいでネルの姿が見えなくなってしまった。

 

 アリスは、警戒しつつ煙が晴れるのを待ち――

 

 

 

 ――晴れる前に、弾幕が彼女を襲った!

 

 

 

「うぁっ!?」

 

 不意を突かれたアリスは、まともに銃弾を受けてしまうが、持ち前の耐久性の高さにより何とか持ち堪える。

 

 一方で、濛々と立ち込める土煙の中から一人の少女が姿を現す。

 無傷のまま、不敵な笑みを浮かべた美甘ネルである。

 

「――確かに、並大抵の火力じゃねぇが……それだけだ」

 

 無傷の彼女に目を見開くアリス。

 口振りから察するに回避されたと推測し、もう一度武器のチャージを開始する――が「遅ぇよ」と呟いたネルが彼女へ肉薄する。

 

 彼女の急接近に呆気にとられるアリスだったが、”光の剣”を盾のように構えることで追撃を防ぐ。しかし、そのせいで銃口が地面に向いてしまい、砲撃が使用できなくなる。

 

「てめぇの武器は確かに強い。だが引き金を引いてから発射までコンマ数秒はかかる上、強すぎる火力のせいで、ある程度まで近づいてきた相手を撃てねぇ――自分(てめぇ)まで巻き込まれるからな」

 

 二挺のサブマシンガンが絶えず火を吹く中、"光の剣"の弱点を指摘するネル。

 その証拠に、接近されたネルに対して反撃できないまま。

 

 更に畳み掛けるネルは、堂々と断言した。

 

 

 

「何より、この間合いであたしに勝てる奴なんざ……1人もいねえッ!」

 

 

 

 先程より苛烈さを増した攻撃に、苦悶の表情を浮かべるアリス。

 

 

 

 しかし、彼女もこのままを良しとはせず――

 なんと、周りを薙ぎ払うように、銃身を振り回した!

 

 

 

 予想外の反撃に面食らうネル。けれども「その銃身、振り回せんのかよ……!」と悪態を吐きつつ、咄嗟に距離を取ることで直撃を免れる。

 

 なんとか彼女の間合いから逃れることのできたアリスだが、あくまでも一時的に振り払えただけ。有効打が当たらなければ、この状況が繰り返されることは目に見えている。

 

 そんな彼女の心情を察したのか、ネルが口を開く。

 

「いいかげん、()()()を呼んだらどうだ?」

「お仲間……?」

「あの"カービィ"とかいう、ピンク玉のことだよ」

 

 「どっかにいんだろ?」と問う彼女に対して、難しい顔を覗かせるアリス。

 

 確かにネルから逃げつつ住処に向かえば、助力を求めることは可能である。

 二人で協力すれば、彼女を退けることも可能かもしれない。

 

 しかし、それはカレを危険な目に巻き込む事も同義。

 しかも相手はキヴォトス最強と謳われる実力者の1人、美甘ネル。

 

 その事実を考慮した上で、彼女は言葉を返す。

 

「――オトモは、アリスが護ります!」

 

 勇ましく啖呵を切るアリス。

 勇者を志す者として――何より、仲間を傷つかせないが故に。

 

 

 

 それに対し、ハッと好戦的な笑みを浮かべ――

 

「その威勢がどこまで続くか――見物だぜッ!」

 

 ミレニアム最強が、旋風の如く地を駆けるのだった。

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

22-2

 

 

 

 ――おなかが すいた。

 

 

 

 先程から考えていたのは、そんなことで。

 時計を見れば、彼女が外出してから既に1時間は経っていた。

 

 のんびり屋のカービィも、流石に焦りを見せる。

 このままでは、極度の空腹状態でどうにかなってしまう。

 

 まさか、迷子になっているのでは――

 

 そう考えたカービィは、すぐさま洋室の窓を開け放つと、飛び出すように外へ出る。

 あれこれ悩む前に、行動してしまうのがカレの持ち味である。

 

 

 

 ――そして、遠くの方で煙が上がっているのを、見つけたカービィ。

 

 

 

 いつになくマジな雰囲気。

 何より己の直感が、何かが起きていると訴えかけている。

 

 表情を引き締め、カービィはその方向へ駆け出していく。

 幸か不幸か、空腹はひとまず紛れた模様だった。

 

 

 

 ――戦闘が始まって、どのくらい経っただろうか。

 ノイズがチラつく視界の中、そんなことを思った。

 

 あれから猛攻をなんとか凌ぎ続け、反撃の機会を伺うアリス。

 しかし、縦横無尽に駆け巡るネルを捉えることはできず、徐々に形勢は不利になるばかり。

 

 銃身での振り払いも予備動作まで見切られたのか、逆に相手に隙を晒してしまう始末。

 

 ひたすら銃身を盾に構え、彼女の間合いから、自ら距離を置くように後退することを繰り返すしかできず――かといって、距離を離したとしても砲撃が命中するわけでも無く、その場凌ぎにしかならないのが現状だった。

 

「オイオイ、さっきまでの威勢はどうしたよ!?」

 

 片や、未だに傷一つ付いていないネルが、煽るかのように口を開く。

 

 その言葉に続くように、地を蹴り、急接近。

 またしても彼女が得意とする間合いまで、距離を詰める。

 

 

 

 その時、今まで追われる側だった少女の目が見開く。

 同時に下へ向けられた銃口に、光が収束する。

 

 

 

「――この距離なら……!」

 

 遠距離では、ネルに当たらない。

 近距離では、自分を巻き込む可能性がある。

 

 

 

 ――しかし、()()()()()()()()()も、可能である。

 

 

 

 自分ごと砲撃の爆圧に巻き込ませ、ダメージを与える。

 これが彼女に残された、最後の手段だった。

 

 接近するネルの攻撃を銃身で耐えつつ、チャージを完了させるアリス。

 一方で、先程と様子が違うことに違和感を感じたネルが眉を顰め――目を見開く。

 

「てめぇ、まさかあたしを巻き添えに――――!?」

「――――光よ!!」

 

 直前で目論見に気付いたネルだったが、もう遅い、と云わんばかりにトリガーである”Bボタン”を押すアリス。

 

 動作に狂いなく銃口から弾丸が撃ち出され――同時に大地へと着弾。

 その瞬間、彼女たち二人を中心に、ドーム状に爆風が生じた。

 

 

 

 ――そして、その衝撃をまともに受けたアリスは、地面に何度か打ち付けられながら吹き飛ばされ、爆発地点から数メートルほど離れたところでようやく止まる。

 

 今までのネルの猛攻と、砲撃によって生じた爆圧により満身創痍のアリス。

 頭の中で『肉体損傷率80%以上、活動限界です』という、警告が流れ続けていた。

 

 それでもなんとか上半身をぎこちなくも起こし、先程まで立っていた地点へと目を向ける。

 

 ノイズが酷い視界の先で、濛々と立ち込める煙が映る。

 その中から動く影も見えず、風の音だけが辺りの静寂を乱していた。

 

 

 

 状況を踏まえて――ネルを撃退した、と判断したアリス。

 しかし、それを喜ぶ様子を露わにすることは無く――

 

「……は、はやく。緊急クエストを、達成しない、と……」

 

 と、覚束ない足腰で起き上がる。

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、小さな同居人がお腹を空かせている姿。

 あれからかなり時間を待たせている、と気付いたアリスは、置いていった買い物袋を取りに行こうとする。

 

 現在、彼女がいるのは、屋外実験場の端に当たる地点――先程ウタハ達が新型火薬を運んで行った場所だった。それに対して袋は実験場の入り口。ここからだと、少し距離がある。

 

 それでもなんとか足を引き摺るように歩み出す――が、身体が言うことを聞かないせいか、数歩進んだだけでバランスを崩して、倒れてしまうアリス。

 立ち上がろうにも既に限界を迎え、起き上がる事すらできず。

 

 

 

 ――その時、彼女の視界の端に映る、ピンクの影。

 

 思わず、その方へ顔を向けた先にいたのは、カービィだった。

 

 

 

 ボロボロのアリスに驚いたカービィは、すぐさま彼女の元まで駆け出す。

 やがて、彼女の傍まで近づくと、その様相に心配そうな表情を浮かべた。

 

「……だ、だいじょうぶ、です。アリスは勇者、ですから……っ」

 

 カレを安心させるように、精一杯笑みを浮かべつつ起き上がろうとするアリス。

 しかし、やはり起き上がることはできず、再びその場に横たわるように崩れ落ちる。

 

 その様子に慌てたカービィは、なんとか家まで運ぼうとアリスの身体をグイグイ押したり、制服を引っ張ったりして――――

 

 

 

「――――ようやく、お出ましか?」

 

 

 

 ――声が聞こえた。

 ――彼女にとって、一番聞きたくなかった声が。

 

 その方へと顔だけ向けるアリス。

 先程まで立ち込めていた爆煙は、既に晴れつつある。

 

 

 

 淡い希望を粉砕するが如く。

 彼女の目に映る、メイド服の上にスカジャンを羽織った少女――

 

 ――美甘ネルが、その場で仁王立ちしていた。

 

 

 

 「ど、どうして……っ」と慄くように声を震わすアリスに対して、顰め面を浮かべたまま頭を掻くネル。よく見れば装いには所々汚れが目立つ。

 

「作戦は――まあ、色々言いたいことはあるんだが……不意を突くって意味じゃ、悪くは無かったぜ」

 

 どこか含みを持たせた言い方だったが、アリスの作戦について一応、賛辞を送るネル。

 その上で――彼女は告げる。

 

()()()()()()()()()()、間違いなくぶっ倒れてただろうよ」

 

 つまりは、そういうことだった。

 

 自爆覚悟の一撃に耐える、そのタフネス。アリスでさえボロボロになる一撃を受けてもなお、彼女を戦闘不能に至らしめることが出来なかった、という非情な現実。

 

 ”最強”の名を背負う者しての、格の違い。その事実に唖然とするアリス。

 

 

 

――そんな彼女の目の前に立つ、桃色の若者。

 

 彼女を守るように――カービィが勇ましく、ネルの前に立ち塞がる。

 

 

 

「だ、だめ、逃げてください、カービィ……!」

 

 懇願するように、悲痛な声をあげるアリス。

 

 一方で、聞く耳持たずと云わんばかりに、カレはその場から動かない。

 彼女を見捨てて置いていく選択肢など、そもそも持ち合わせてはいなかった。

 

 その勇気ある、なにより友を見捨てない行動が気に入ったのか「いいぜ、そういう奴はキライじゃねぇ」と、両手に握る得物を構えながら口角を上げるネル。

 

 

 

 しかし、アリスは気付いていた。

 

 ここには吸い込める物――カレの武器があまりにも少ない。

 カレの回避力と直感ならば、しばらくは彼女の攻撃を捌ききれるが、それも時間の問題である。

 

 唯一吸い込める物も――エンジニア部が運んでいた新型火薬の入った鉄箱。しかし、それも一発分のみ。

 何より、”光の剣”の砲撃を見切れるネルが”星型弾”を見切れないはずも無く――否、命中したところで、耐えられる可能性が高い。

 

 

 

 勝ち目が、無い。

 そう断じたアリスが、大切なオトモを止めようと手を伸ばすが、もはや身体は動かず。

 

『機体損傷が許容範囲を超えました。緊急事態につき、ナノマシンの修復活動を最優先と判断し、その他システムを一時休止状態に移行させます』

 

 頭の中で響く警告。それに続いて、自身の意識が遠のいていくのを感じたアリス。

 

 急速に暗くなっていく視界。

 それでもカレを護ろうと、目を向けた彼女が最後に見た景色は、

 

 

 

 彼女の想像通り、鉄箱を吸い込んだカービィが、

 

 

 

 ――それを、”飲み込み”、

 

 

 

 その身体を、光り輝かせた姿だった――――。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

22-3

 

 

 

 辺り一面真っ暗で、何もない空間。

 それが、たった今気が付いたアリスが、目に入ってきた光景に対する印象だった。

 

 一方で、視界に映る自分の身体はしっかり見えるという、なんとも説明しづらい状況。

 そもそも、どうしてこんなところにいるのかさえ、彼女は把握できていない。

 

 謎の現象に戸惑うばかりのアリス。

 そんな彼女に、何かが話しかけている声が、耳に入ってきた。

 

『――――……箱舟、そして――……』

『――――……の神秘を、……――――……』

『そして、――……我らの悲願を、――――……』

 

 ノイズ紛れに、途切れ途切れ聞こえてくる声。

 聞いたことの無い声――そのはずなのに、なぜか聞き覚えのある声。

 

 それと同時に彼女の胸の底から湧き上がってくる、不安。

 何か良くないモノが込み上げてくるような感覚を覚えたアリスは、無意識に胸を押さえてしまう。

 

 

 

『――――それが、お前の使()()なのだから』

 

 

 

 今までと違い、突如はっきりと聞こえた声に、反射的に耳を塞ぐアリス。

 温かみも、思いやりも無く――どこまでも冷たく、感情の籠っていない声色だった。

 

 それから壊れたラジオの様に、先の言葉が延々と繰り返される。

 目をギュッと閉じ、耳を塞いでも、聴こえてくる雑音に、得体の知れない恐怖を感じたアリスは身を縮こませる。

 

 

 

 まるで、自分が自分でなくなってしまいそうで――

 心が段々と、凍えていくような――

 

 

 

 そんな悪夢とも云える、気が狂いそうな時間が続く中――目尻に涙を浮かべた彼女が、弱弱しく呟いた。

 

 

 

「――――たすけて……っ」

 

 

 

 ――声が、ピタリと止んだ。

 恐る恐る目を開けると、頭上の方で、暖かな光が差し込んでいることに気が付く。

 

 思わず顔を上げると――きらきらと黄色く光る、五芒星の形をした星が見えた。

 

 

 

 くるくると回転しながら、ゆっくりと降りてくる星。

 やがて、彼女の目の前で降下が止まると、その場に留まるように浮遊を続ける。

 

 戸惑うアリス――しかし、その暖かい光に惹かれて、無意識に手を伸ばす。

 

 彼女の手が触れた、その時だった。

 

 

 星が輝きを増すと同時に、悪夢を吹き飛ばさんと強い風が吹く。

 春の陽気を含んだ、優しい風が吹く。

 

 

 

 冷たくなった彼女の心を暖めるような、はるかぜが吹いた――。

 

 

 

 ――徐ろに、意識を覚醒させたアリスは、瞼を開く。

 

 最初に彼女の視界に映ったのは、星が広がる満天の夜空。

 それから横へ視線を移すと、アリスが起きたことに嬉しそうに笑顔を見せる、カービィの姿が目に入った。

 

 いつもと変わらぬカレの姿に安堵し――突然、思い出したかのように目を見開く。

 

「ち、チビメイド様は……っ!?」

 

 慌てた様子で仰向けに寝ていた上半身を起こし、周りを見渡すアリス。

 しかし、彼女の焦りとは裏腹に、人影一つ無く、夜の静けさだけが残されていた。

 

 まるで夢だったのではないか、と思う状況に呆然とするアリスだが、視界の端でえへん、と誇らしげに胸(?)を張るカレの姿を捉える。

 

 その様子に、もしかして、と思いアリスは尋ねた。

 

 

 

「――カービィが、チビメイド様を追い払ったのですか……?」

 

 

 

 その言葉に、元気よく片手を上げて応答するカービィ。

 

 予想外の反応が返ってきたことに、彼女は驚いた。

 置いてあったはずの鉄箱が消えているので戦ったことには間違いないはずだが、一体どうやってネルを撃退したのか、想像できなかったアリス。

 

 

 

 彼女が思い出せたのは――鉄箱を吸い込んだ時、身体を光り輝かせたカレの姿。

 一方で、今のカレはいつもの様子だった。

 

 

 

 ――そう思い出しているうちに、肩を落としていくアリス。

 急に様子の変わった彼女に、目をパチクリさせてカービィは体を傾げる。

 

「…………また、アリスは護れませんでした」

 

 ポツリと呟いたその一言には、後悔の念が込められていた。

 

 勇者を志しながら、仲間を護ることができない有様。

 それどころか、その仲間に護られてしまう始末。

 

 相手が悪かった、といえばそれまでだが、己の未熟さを痛感した彼女はそれを良しとせず、沈んだ表情を浮かべたまま。

 

 

 

 落ち込む彼女に、困り顔を浮かべるカービィ――そんな時、思い出したように顔を輝かせると、先程()()()()()()()買い物袋をゴソゴソと探る。

 

 そんなカレの動作にすら気付かず、顔を俯かせるアリス。

 しかし、目の前で何か差し出されたことには、流石に気が付いた。

 

 

 

 彼女の目に映ったのは、ドーナツ。

 

 当然差し出してきた相手は、ニコニコと笑顔を浮かべるカービィ。

 

 

 

――カービィが自分の食べ物を差し出すときは、元気になってほしいと思っている時です――

 

 以前、モモイ達に言った自身の言葉を思い出すアリス。

 

 彼女が、それを知ったのは郊外の廃墟探索から帰ってきた時のこと。

 浮かない顔を浮かべ、思い悩むアリスを見兼ねて、食べようとしていたアイスを彼女に差し出したのがきっかけだった。

 

 

 

 だからこそ、カレが今思っていることが分かる。

 

 自分が元気になる方法で、相手を元気づけようとする。

 単純だけど――純粋な、思いやり。

 

 

 

 差し出された優しさに、胸の奥が暖かくなるアリス。

 それに応えるべくして、ドーナツを受け取る――

 

 ――と、それを半分こにした。

 

 彼女の行動にキョトンとするカービィに、えへへ、と笑みを零しつつ――

 

「こうすれば、一緒にHPが回復できます」

 

 そう言いながら、片方をカービィに差し出すアリス。そんな彼女のお返しに、カレは喜んで受け取った。

 

 それから、半分になったドーナツを並んで食べ始める二人。

 両手で持ちながらドーナツを少しづつ食していくアリス。対して大きく口を開いて、一口でドーナツを頬張るカービィ。

 

 奇遇にも、初めてカレと会った日に食べたアイスの時と似た様な構図だった。

 

 

 

 二人仲良く食べ終わり、一息吐いてから「そろそろホームポイントに帰還しましょう」とアリスは提案した。

 その言葉にカービィが頷くのを確認してから、買い物袋を肩に掛けつつ、いつものようにカレを抱きかかえてアリスは立ち上がる。幸いにも、損傷は殆ど修復したのか、動作に支障は無い様子。

 

 

 

 そうして帰路に就こうとしたアリスは、一度足を止めてから語り掛ける。

 

「――アリスは、まだレベルが足りていませんでした」

 

 突然、話し掛けてきた彼女の顔へ視線を向けるカービィ。

 そんなカレを視野に入れつつ、続ける。

 

「この間のレイドクエストで、たくさん経験値を獲得しました。でも、まだまだ見習い勇者のままでした」

 

 自身に言い聞かせるように、彼女は先ほどの自身の判断を反省する。

 

 格の違う強敵相手に、1人で挑むのがそもそも間違いだったと。

 仲間を護ることも大事だが、頼る事も大事なのだと、彼女は語る。

 

 その言葉に、口元に弧を描いてカレは頷く。

 そんなカレを見つめては、頬を綻ばせるアリス。

 

「明日からまた、1人前の勇者を目指してレベル上げの再開です!」

 

 意気揚々と告げるアリス。

 護られる側から、護る側になれるように。

 焦らず、少しづつ成長していこうと、彼女は心に決めた。

 

 

 

 そうすれば――あの時のカレの選択の意味がわかるはずだと、

 そう、信じて。

 

「――……なので、カービィ。これからもよろしくお願いします!」

 

 曇りない、満面の笑みを浮かべたアリス。

 彼女に応じるように、元気よく手を上げて応じるカービィは、いつもの元気いっぱいのアリスに安心した様子。

 

 

 

 その空気に水を差すが如く――腹の音が鳴り響いた。

 

 腹の虫を鳴らした犯人が、思い出したかのようにしおしおと途端に元気を失っていく。

 その様子に慌てたアリスは、急いで帰路に就くのであった。

 

 

 

 すぐこの場を離れた彼女は、夜の薄暗さも相まって、気が付かなかった。

 辺り一面の地面が――()()()()()()()ことに。

 

 

 

 

 

 

「それで」

「ん~?」

 

 寝そべったまま仏頂面を浮かべたネルが、傍らでしゃがみ込んでいるアスナに声を掛ける。

 その言葉を受け、彼女は間延びした返事で返す。

 

 のんびりとした彼女の様子に眉間に皺を寄せつつ、努めて冷静に尋ねるネル。

 

「持ち場を離れて、何してんだてめぇは」

 

 ジロリと半目で睨む彼女に、特に動揺することなく「うーん」と人差し指を頬に当てて考え込んだアスナは、少し間を置いた後――

 

「……なんとなく?」

 

 こてん、と可愛らしく首を傾げて言った。

 彼女の返答を聞いたネルが、疲れたように溜息を吐く。長い付き合いでもあり、彼女の突拍子な行動には諦めている――もとい、慣れているような反応であった。

 

『す、すみませんリーダー、気が付いたら忽然と消えてて……』

『……正直、全く気が付かなかった。ごめん』

 

 無線機の向こうで、頭を下げているであろうアカネとカリンの声がネルの耳に入る。それに対して、「別に気にしてねーよ」とあっけからんと答えたネルは、本当に気にしていない様子だった。

 

 

 

 ――そして、真剣な顔つきを浮かべた彼女は、3人に問う。

 

 

 

「――――()()()?」

 

 何を、とは誰も返さず。

 彼女の問い掛けに対して、各々肯定の返事を返した。

 

 

 

 鉄箱を吸い込み、飲み込んだと思えば姿を変えた――というよりも、眩い光を放つ鉄の冠のようなモノを被った姿へと、変身したカービィ。

 

 今まで見たことの無い姿に、面食らうネル。しかしそれ以上に、彼女の本能が叫んでいた。

 目の前の存在は、爆弾――否、それを遥かに超える程の危険な存在に変化した、と。

 

 どんな攻撃が来るのか、想像つかない彼女は攻撃よりも回避を優先させるべき、と判断。

 全神経を集中させ、カレの動きを注視する。

 

 一方、力を溜めるカービィがその身体を光り輝かせる――と同時に、溢れんばかりのエネルギーの影響か、カレの身体から稲妻が走る。

 

 

 

 この時、彼女は自身の判断を誤った、と理解した。

 ()()ではなく、()退()すべきだったと。

 

 

 

 一瞬辺りを照らす、マズルフラッシュのような閃光。

 それに間髪入れず、カレを中心に――

 

 全てを()()するかの如く、大爆発が起こった。

 

 

 

 気付けば、先程から何十メートルも離れたところで、地べたの上で彼女は大の字となっていた。どうやら、爆発の衝撃波によって吹き飛ばされた後、少し気を失っていたようだ。

 大きな外傷こそ無かったが、その代わり身体に力が入らず、ネルは身動きがしばらく取れない状態であった。

 

 それから、間もなくしてアスナが現れ――今に至る。

 

 

 

『まさか、あんな”能力”を隠し持っていたなんて……』

『……だとしても、少し腑に落ちない』

 

 アカネが慄くように呟く傍ら、カリンが疑問を呈する。

 

『なぜ、この間の襲撃には使わなかったんだ?』

 

 彼女の疑問に『それは……』と口を濁らせるアカネ。カレの性格を凡そ把握していたカリンが、あの場で能力を隠していたことが納得できない様子だった。

 

 彼女の疑問に答えたのは、ネルだった。

 

「……使わなかったんじゃねぇ。使()()()()()()んじゃねぇか?」

 

 今までの情報と、先程の状況。

 一番明確な違いは、吸い込んだモノを”吐き出す”のではなく、”飲み込んだ”こと。それがトリガーではないか、と彼女は指摘した。

 

 その発言に成程、とカリンは納得する。

 問題は、何を飲み込むことで、あの能力を発揮させたのか――あの鉄箱に何か秘密がありそうだと睨んだネルが「エンジニア部の連中を問い詰めっか」と呟く。

 

『わかりました、こちらの方で確認しておきましょう。それから――』

『……あの2人は、どうする? 今ならまだ、狙撃範囲だけど……』

 

 了承の意を返したアカネの言葉を引き継ぐように、カリンが問いかけた。事実、彼女のスコープ先では、アリス達の姿を捉えた状態である。

 

「……いや、いい。一通り暴れたら、すっきりしたしな」

 

 カリンの問いに対して、ネルは少し考え込んでから、言葉を返した。

 

 彼女の反応に『よろしいのですか?』と意外そうな様子を見せるアカネ。ネルの性格を良く知るアカネからして見れば、このまま大人しく引き下がること自体、珍しいことであった。

 

「目的は概ね達成した。()()があいつらに興味を持つ理由も分かったし、ここらが潮時だろ」

 

 と、どこか満足げな表情を浮かべながら立ち上がるネル。どうやら動けるぐらいには回復した模様。

 

 他のメンバーに撤収指示を送る折、「そういえば」と今まで疑問に思っていたことを思い出したのか、隣でボーッとしていたアスナに尋ねる。

 

「お前、ここに来る前にどっか行ってたか?」

「うん、行ってたよ?」

 

 と、あっさり答えるアスナに対して、目をパチクリさせるネル。

 

 そんな彼女の反応に構わず、ふふっ、と笑みを綻ばせたアスナが――

 

「だって、お腹空かせたままなんて、可哀そうでしょ?」

 

 彼女の脳裏に浮かんだ、先程の光景。

 買い物袋を届けた時の、目を輝かせたカレの表情を思い出したアスナは、楽し気に声を弾ませたのであった。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【その銃身、振り回せんのかよ……!】
→ミドリが言ったわけじゃねーから!

【――おなかが すいた。】
→( ´д`)「ポーン→  ポーン↗  ポーン↑」

クラッシュ
→DANGER! DANGER!



 アンケ100票以上集まっててビビりまくりです。本当にありがとうございます。
 そんで改めてメイド部の人気の高さがスゴイスゴイ。一先ず明日の正午で打ち切ります。もう書く順番ほぼ決めてるけど

 明日中に投稿できるかしら。ちょっと頑張る。できなかったらこの下にハピパ報告上げます


小話、どの部活動を先に書くべき?

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  • エンジニア部
  • ヴェリタス
  • メイド部(C&C)
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