Spring Sky StarS! 作:笹ピー
「小話だからすぐに書けるだろフヒヒ、などとその気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ」
「そうぞうりょくが たりないよ」
「アンケの小話をあと3話も私は残している……その意味がわかるな?」
「キャラ実装が……キャラ実装が多い……!」
「オデノザイフハスガスガダァ!」
大体そんな感じ。
2-1
「――……そんで?」
「うん?」
C&Cの部長、美甘ネルは努めて冷静に、目の前の相手に問い掛けた。
対して問いかけられた当人である、一之瀬アスナは彼女の態度など全く気にしていない様子で、何のことだか、と云わんばかりに首を傾げた。
いつものネルだったら溜息交じりで窘めるだけで済んでいた――が、今回は少し事情が違う。
明らかにいつもと違う要素が、
顰め面を浮かべながら、「なんで
その言葉でようやく合点がいったアスナは、見せびらかすように抱きかかえていた
突き出されたカレは楽し気に”ハーイ”と手を上げて呑気に挨拶。
突き出した彼女もはにかみながら、呑気に答える。
「連れてきちゃった!」
「元の場所に戻してこいッ!」
呑気者2人の相手に、流石に我慢の限界だったのか。
メイド部の部室に、怒鳴り声を響かせるのであった――
ネルがアリス達に襲撃をかけた日から、既に2週間ほど経過した。
あの1件以来、アリスとカービィにますます興味が湧いた彼女はというと、出合い頭に2人に絡むようになった。
とはいえ、絡むといっても危害を与えるようなものではなく、精々話し掛けるぐらいのもの。
戦闘能力云々関係なしに、2人の事を相当気に入っているようだ。
その甲斐あってか、アリスからは未だに恐怖の存在として認識されているが、一緒にゲームをするぐらいには打ち解けた間柄にはなった模様。なお、現実では最強と謳われるネルだったが、ゲームの腕前はアリスに遠く及ばなかったりとか。
そんなこともあって、元々彼女に恐怖心を微塵も抱いていないカービィに関しても、それなりに親しくはなったのだが――流石に、C&Cの活動にまで関与することまでは許容しておらず。
そういった意味合いも込めて、元の場所へ返してこいと物申したネル。
その反面、「えー」と不満げに声を漏らすアスナが離れたくないと云わんばかりに、カレをギュッと抱き込む。
「……第一、連れてきたってなんだよ。あのチビはいなかったのか?」
「アリスちゃん? ううん、いたよ?」
疑問に答えたアスナの言葉に、訳が分からん、とネルは怪訝な表情を浮かべる。
そんな彼女に説明するように、ええと、と先程のことを思い返すアスナ。
彼女、曰く――
『あれ、アリスちゃんとカービィだ! やっほー、こんにちは~!』
『あ、遭遇イベント発生、アスナ先輩に出会いました。こんにちは!』
『何してるの? わあ、カービィ今日もモチモチだね~!』
『あっ、だ、ダメです! 今スリープモードなので……』
『あ、そういえば部長から招集されてたんだっけ』
『え、あの』
『じゃあアリスちゃん、また会おうね~! バイバーイ!』
『か、カービィーーーー!』
「――で、気付いたら一緒だったの! 驚いちゃった!」
「思いっきり拉致ってんじゃねぇか……」
恐ろしく早い拉致。アスナじゃなきゃ成功しないね。
本人としては、まったく意図して起こした行動ではないのがまた恐ろしい点である。
自由奔放な彼女の行動に疲れたように溜息を零すネルに対し、「ところで用って何?」と首を傾げながら、呼ばれた理由についてアスナは尋ねる。
そんな彼女の問いに応えたのは、2人のやり取りを今まで苦笑しながら見守っていた――同じC&Cの室笠アカネと角楯カリンであった。
「この間引き受けた、”メイドカフェ”の件なんですが……」
「事前に予習しておいた方がいいんじゃないか、って」
C&Cのエージェントであり、メイド部の部員である彼女達――だが、実のところアカネを除いて、メイドとしての経験はほぼ無いに等しい。
そもそも彼女達が身に纏うメイド服は、周囲に対して自身の正体を隠すためのカモフラージュ。また、”ミレニアムへの奉仕”といった意味合いを込められているとか。
メイド部、という名もその見た目になぞらえて付けられた、謂わば通り名的な意味合いが強い。逆に、メイド服を身に纏わない姿が却って潜伏活動に向くといったことも。
つまり、彼女達はメイド服を身に纏っているが、メイドではない。
各々の家事能力こそ高いが、メイドとしての役職に就いているわけではなく――あくまでも彼女達の本職は、受けた依頼をこなすエージェントなのである。
そんな彼女達に、先日セミナーの
曰く、近日開催されるミレニアム区内のお祭りに
潜入任務でメイドとして店内に紛れることもあったが、業務まで行ったわけではなく。
当然、4人ともメイドカフェでの仕事など、経験はない。
性格上、部長のネルが居れば間違いなく引き受けないであろう仕事だったが、運が悪いことにその時、彼女はその場におらず。
その場合、次席のコールサイン・ゼロワンのアスナが彼女の代理を務めることとなり――面白そう、という理由で彼女は快諾してしまったのであった。
乗り気ではないネルであったが、契約してしまった以上取り下げることもできず――仕方なしに引き受けることに。今日は、来客への接客対応について知見を深める予定であった。
改めて仕事の内容を思い返したネルが「ったく、めんどくせぇ」とぼやきながら、頭を掻く。
――そんな中、「ところで、アスナ先輩」と話を切り替えるようにカリンが尋ねた。
「その子、ちょっと困ってるように見えるけど……」
そう指摘した彼女の視線の先では、アスナに抱きかかえられているカービィの姿が。
確かに彼女の言う通り、困った表情を浮かべていた。
カレの様子に怪訝な顔を浮かべたネルだったが――すぐに原因が判明した。
抱きかかえる、ということは必然的に胸の下――腹の辺りにカレを抱えることとなる。
従って――いつも抱きかかえているアリスにはない――アスナのたわわな
流石のカレも、頭にソレが乗っているとなれば、困り顔にもなるだろう。
尤も、頭が重いという理由であるが。
「……アスナ。とりあえずそのチビピンク、放してやれ」
「え~……」
こっそりアリスに同情の念を抱くネルの指示に、頬を膨らませて不満を露わにするアスナだったが、実際カービィが困っているのは事実だったので渋々放してあげることに。
それとは裏腹に、机の上に降ろしてもらったカービィは、
何はともあれ、色々と話が脱線したものの、拉致ってしまったカービィへと話は戻る。
とにかくアリスに連絡してカレを引き取って貰おう、と考えたネルが口を開こうとした――その時である。
「――いい機会かもしれませんね」
と、徐にアカネが呟いた言葉に、疑問符を浮かべる3人。
そんな3人とは対照的に、不敵な笑みを浮かべるアカネであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
2-2
メイド部の部室、中央。
そこに配置された、円形のダイニングテーブルに、セットになるように備え付けられたダイニングチェアが2脚。
――その片方の椅子に、座らせられたカービィはキョトンと周りを見渡していた。
そんなカレの様子を満足げに見つめるアカネと、少し緊張しているのか落ち着かない様子のカリン。そして、楽し気に表情を輝かせるアスナと、若干気乗りしない様子を見せるネル。
各々、異なる感情を抱えながら、カレに注目するのであった。
そもそもなぜ、このようなことになったのか――
それは、先程のアカネの一言が切っ掛けである。
曰く、”カレを来客に見立てて、各々”おもてなし”を試してみては”――とのこと。
彼女の提案に『こんなボールみたいな客はいねぇだろ』と、至極真っ当な指摘をするネルに対し、『だからこそ、どんなお客様に対応できるように、万一に備えておくべきだと思いますよ?』と、茶目っ気のある表情で返すアカネ。
確かに仮面をつけた1頭身が甘味を求めて来店する可能性も、無きにしも非ず。
可能性がある以上、完全に否定しきれないネルが、『どうするよ』とやや眉を顰めながら、会話に耳を傾けていたカリンとアスナに問い掛ける。
アカネの提案に対して面白そう、と意気揚々と同意したアスナ。カリンの方も、メイドとして活動できることを密かに楽しみにしていたのか、意外と乗り気であった。
二人の反応を見て、自分だけ異を唱えるのも大人げないと思ったネルが溜息を吐く。
結局、折れるような形で渋々と提案を了承。
こうして――カービィを来客に見立てた、”おもてなし”を行うこととなったのであった。
【コールサイン・ゼロスリー:室笠アカネの場合】
「――では、まず私の番からですね」
ふふっ、と優雅に笑いつつアカネがカービィの傍へと近づいた。コールサインの番号に倣い、昇順の順番で行っていくようだ。
近づいてきた彼女へ、視線を向けるカービィ。
よく見ると、トレイを手の上に乗せていたことに気付く。
そんなカレの視線を微笑んで返しつつ、アカネは流れるような手つきでトレイの上の料理をカレの目の前に差し出す様に、静かに机の上に置く。
目の前に差し出された料理は――オムライス。
それを目にしたカービィの目が輝き、喜々とした表情を露わにしていく。
一方で、アカネの一糸乱れぬ振舞いに「おお」と素直に感心するカリンとネル。生まれた時からメイドとしての心構えを備わっていたが故の慣れた身のこなし、といえるだろう。
早速、カービィは傍に置いてあるスプーンを片手にオムライスをいただこうと――その前に
「では、ご主人様」とアカネが口を挟むと、
「――恐れながら、料理をおいしくする
――おまじない?
にこやかな表情のまま、カレの食事を遮ったアカネの言葉に、疑問符を浮かべる一同。
そんな彼女の手には、いつの間にかケチャップが握られていた。
逆に、カービィのオムライスにはケチャップがかかっていない状態である。
おまじないとは、ケチャップをかけることなのだろうか。
そう考えるカリンとネルの心境など知る由も無く、キョトンとするカービィの横からオムライスにケチャップをかけていくアカネ――その時である。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌え――」
「ちょっと待て」
耳に入った言葉にネルが思わず口を挟む。
それに対して、「はい?」と可愛らしくコテンと首を傾げるアカネ。
「なんだ今の
「
嚙み合っているようで噛み合っていない問答に、頭が痛くなるような気がしたネル。
そんな彼女を見兼ねて、戸惑いながらも今度はカリンが尋ねる。
「そ、それは必ずしないといけないのか……?」
「
何を今更、と云わんばかりのアカネの返答に、何も言えなくなってしまったカリン。
まるで恥ずかしがっている自分がおかしいのか、と思えてしまうほど、堂々とした返しである。
(い、いやしかしっ、いくら何でも……ううぅ……)
(リクエストしたやつ全員ぶっ殺す)
先程のおまじないを口にする己の姿を想像し――カリンが恥ずかしさから頬を紅潮させる傍らで、あまりに似合わない自分の姿を思い浮かんだのか、接待業として問題ありまくりな考えを抱くネル。
そしてお預けを食らっていたピンクボールは、目の前のご馳走を我慢できなくなったのか――
ケチャップで可愛く描かれたネコの顔にスプーンを突き刺し、食にありつくのであった。
【コールサイン・ゼロツー:角楯カリンの場合】
「え、えっと。これから、マッサージを行う――行い、ます」
緊張からか、或いは照れによるものなのか。
普段の冷静さは鳴りを潜め、どことなく落ち着かない様子を露呈させるカリン。
一方で、彼女の言葉に疑問を抱いたネルがアカネへ尋ねる。
「マッサージって……確かお触りって禁止じゃなかったか?」
「お客様からメイドへのタッチは厳禁ですが……、肩もみぐらいなら注文できるお店はあるみたいですね」
「もちろん、メイド側の了承を得てですが」と付け加えながら答えたアカネの言葉に「ふーん」と納得したように相槌を打つネル。
そんな2人のやり取りを余所に、カービィへと視線を向けたままカリンは対応を続けていく。
「じゃあ、これからご主人様の肩を揉ませて……――」
――肩、どこだ。
まあるい身体に、まあるい手と足。
1頭身サイズであるカレの肩を見抜くのは、流石のカリンにも不可能であった。
思わぬ弊害が生じてしまったことにカリンは「え、ええっと」と、困ったように言い淀む。
そんな彼女に助け舟を出すかの如く、アスナが思ったことを口にする。
「別に肩じゃなくてもいいんじゃない?」
「え、でも肩以外はメニューには載ってないと思うんだが……」
「あくまでも、こういう客の時だけ対応変えればいいって話だろ」
「臨機応変に対処しろ、ってことだ」と話を要約したネルの言葉に、成程と納得したカリンは「じゃ、じゃあうつ伏せになって」とカービィへとお願いする。
その言葉に笑みを浮かべて頷くと、カービィは椅子の上でうつ伏せになる。
カレの場合、顔が前へ向くので、うつ伏せというより腹ばいであったが。
何はともあれ、ようやくマッサージを始められるカリン。
恐らく腰だろう、と思われる部位へ恐る恐る手を伸ばし、いよいよ直に触れる。
そして、手に力を入れ揉み始めた――瞬間、彼女の目が見開かれる。
(な、なんだこの弾力性は……!?)
始めはあっさり指が沈んだ、と思いきや、ある程度の深さまでいくと反発するように指が押し戻され――まるで低反発の枕を触っているような感覚を覚えるカリン。
しかし、いま彼女が触っているのは枕ではなく、一応生物に該当する存在。
こんな生物が存在するのか、と内心驚愕しながらもカリンは揉み続ける。
(そ、そうか。この弾力性なら銃弾の衝撃も緩和できるし……角度を考慮すれば捌くこともできなくはないのか)
以前、アスナと対峙していたカレの防御を思い返していたカリンは、その防御性能の根拠に納得する。寧ろ大きい衝撃ほど、軽い体重も相まって自分から吹き飛ばされることで受けるダメージをより大きく緩和できるだろう、と推測しながらもカリンは更に揉み続ける。
(……な、なんていうか、アリスやアスナ先輩がこの子を抱きかかえたい気持ちがわかる気が、する)
とにかく触り心地が良いカレの身体を、カリンは夢中で揉み続ける。
心なしか、目が輝いてきているのはきっと気のせいではない。
「お前が夢中になってどうすんだよ……」
「――え、……あっ、いや、あの」
ネルの呆れた声により我に返ったカリンは、咄嗟に手を止めて狼狽える。
そんな彼女の反応にアカネは苦笑いを浮かべ、アスナは「モチモチで触り心地いいよねー」と同感するようにうんうんと頷いていた。
そんな周りの生暖かい視線に耐えきれず、カリンは恥ずかしさに顔を俯かせてしまうのであった。
一方、カリンのマッサージが心地よかったのか、規則正しい寝息を立ててうたた寝をするピンクボールだったとか。
【コールサイン・ゼロワン:一之瀬アスナの場合】
「うーん、どうしよっかなぁ」
右手の人差し指を頬にあてて、悩む様子を窺わせるアスナ。
意外なことに、おもてなしの内容を決めかねているようである。
彼女のことだからすぐにじゃれつく、と考えていたアカネとカリンが、思い悩む彼女を目にして意外そうにする。
「てっきり、いつものようにスキンシップを行うと思いましたが……」
「というより、先輩が悩むこと自体が珍しいな……」
各々、思い浮かんだ考えを口にする2人。それに対して「だからだろ」と、この中で唯一動じる反応を見せなかったネルが口を挟む。
「いつもと違う状況だから、いつもと違うことをしようと考えてんだよ」
この中で、アスナと一番長い付き合いであるネルが事も無げに断言する。
色々と気苦労が掛かる相手ではあるが、彼女の考えを察せることができるあたり、なんだかんだ信頼における相手なのだろう。
そんなネルの言葉通り、考え続けるアスナ――と思いきや、妙案が浮かんだのか目を輝かせると、自身のスマホを取り出してカービィに近づく。
体を傾げるカービィに対して「ここ見ててね!」と、彼女はスマホのフロントカメラへ指差す。
そして、カレの頬に密着するほど自身の顔を近づけさせ、カメラに2人の顔がちゃんと写る様にスマホを少し上へ持ち上げる。
それから間もなく良いポジションが決まったのか、その位置でスマホを維持しながら彼女は「撮るよ~!」と、楽しそうに笑みを浮かべながら告げる。
そんな無邪気な笑みにつられ、カービィも楽しげに笑顔を浮かべて、カメラを見つめる――と同時に、スマホからシャッター音が発せられた。
写真が撮れたことを確認し、スマホの画面に表示された写真を満足げに見つめるアスナが、今度は文字や絵を描くように人差し指で画面をなぞっていく。
その様子を眺めていたアカネがああ、と納得するように頷く。
「"チェキ"、ですね」
「チェキ?」
「本来ならお客様の撮影は厳禁ですが、ああやってメイド自身に撮ってもらえるようにお願いできるサービスのことを指しますね」
聞き慣れない単語を訊き返すネルに、すらすらと説明するアカネ。曰く、あるインスタントカメラの通称から準えたサービスであり、本来はそのカメラを使うのだとか。
そんな博識な彼女に「こいつ徹底して調べてきてんな」と、ネルが内心舌を巻いたとか。
それから写真のデコレーションが仕上がったのか、続けて写真を送ろうとして――
「あれ?」と声を漏らしたアスナが、
「この子、モモトーク使えたっけ?」
と、ふと湧いた疑問を口にしながら首を傾げた。どうやらモモトーク経由で写真を送ろうとしたようだ。
「そもそも、スマホ持ってないんじゃ」と疑問にカリンが答えると、アスナは目を丸くして驚く。その可能性を想定していなかった模様である。
少し困り顔を浮かばせて、再びううんと悩ましげな声を漏らすアスナ――だったが、
そして、一通り操作し終わったのか、嬉々とした面持ちで、
「後で、
と、カービィへ告げた。
この時点で、彼女の言葉の意味が分からずじまいだった一同だったが――この後、イヤでも知る事となることになるとは、知る由もなかった。
【コールサイン・ダブルオー:美甘ネルの場合】
「いや、なんも思いついてねぇんだが」
いよいよ番が回ってきてしまったネルの、開幕一言目がそれであった。
正直、飲食店の接客対応ぐらいのつもりで考えていた彼女だったが、まさかメイドカフェでの接待が別物だとは予想外だったようだ。
当初から面子の中で1番乗り気じゃなかったのも、理由の1つであるのだが。
とはいえ他のメンバーがやった手前、自分だけ何もしないというのは自身のポリシーに反するのか、アカネから手渡されたメニュー表を難しい面持ちで眺めていくネル。
別に他の面々と同じ事をしてはいけない、という取り決めはないが、それも面白くない、という理由からか何か別のサービスを探している様子。なお
そうして、メニュー表を眺めていたネルだったが、ある項目を見つけると目を丸くする。
それから続けて、すっかり説明役として立ち位置が定着したアカネへ問いかけた。
「この"ゲーム"、ってなにすんだ?」
「このお店では特に”これをしろ”、という制限を設けてはいないようですが……」
基本的にお客様と共に遊ぶこと自体がサービスの一環となる、と彼女が暗に伝えた途端「そうか」と呟きながら、ニヤリと笑うネル。
そして、カービィの方へと向き合うと――
「そういや、てめぇも一応
と、確認するかのように問いかけた。
その言葉にもちろん、と云わんばかりにカレが頷くのを確かめたネルは、今度はアカネへと目配せを送る。
その視線の意味を汲み取った彼女が肩を竦めてから、
その姿を見届けてから、改めてカービィに向き合いながらネルは口角を上げる。
「
挑発的な彼女の言葉に対し、カレは凛々しい面持ちで返すのであった。
――そして、数十分後。
【がっこうへ かえるんだな。おまえにも ゆうじんがいるだろう……】
「――だああぁぁッ! なんで今の反撃できんだよ!?」
アカネが用意したモニターには、ネルが操作していたキャラクターがボコボコにされた姿が!
先程は自信たっぷりな態度を見せつけていた彼女だったが、今ではゲームコントローラーを投げつけかねない勢いで怒号を上げる始末。
一方、ネルが提示した格闘ゲームに勝利したカービィは”ワーイ”と両手を上げて喜びの表情を浮かべる。
その姿に和みながら、他の3人が勝者を褒め称える。
「ふふっ、これで5連勝ですね」
「的確なガードの上に、反撃のタイミングを見逃してない……流石というか」
「あはっ! 部長ぼっこぼこだ~!」
「う、うるせぇ!」
周りの言葉――というよりアスナの言葉に、思わず顔を赤くしてムキになるネル。
まさかこのピンク玉が、アリスと同等の腕前を持っているとは思いもよらなかったようだ。
しかしそれも当然――カレの同居人こそアリスなのだから。
彼女のゲームプレイに付き合う以上、腕前が上達していくのは必然だったともいえる。
特にカレの場合、難しいコマンド技こそ使用しない代わりに、直感と相手の癖を見抜く能力に優れているおかげか、ガードからの反撃技や対空といった迎撃技の選択が的確であった。
ネルからしたら、下手すればアリス以上にやり難い相手と云えるのかもしれない。
かくして、5連敗を喫してしまった美甘ネル。
しかし、その結果に納得する彼女ではなく――
「――もう1戦だ! あたしが勝つまでやんぞ!」
当初の目的でもある”おもてなし”なんぞ、彼女の頭からとっくに抜け落ちている模様。
結局、
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
2-3
なにはともあれ――”おもてなし”を行い終えたC&Cの4人。
しかし、
「やはりいつもと勝手が違うと、いまいち手応えを感じませんね……」
「少し、不安が残るな……」
「……そもそもこれで、ほんとに客は喜ぶのか?」
アカネとカリンがやや自信なさげな言葉を口にする傍ら、眉間を寄せたネルが浮かんだ疑問を口にする。経験がないがために、これで相手を満足させられるのか――という疑惑が付き纏う以上、不安を抱えるのも無理も無い話であった。
そんな3人を不思議そうに見つめるのは――唯一、いつもと変わらない様子を見せていたアスナであった。
「――なら、実際に”おもてなし”を受けた相手に聞けばいいんじゃない?」
首を傾げた彼女がそう言うと、椅子の上でのんびりしていたカービィへと視線を向ける。
そして、「カービィ、私たちの”おもてなし”どうだった?」と、はにかみながら問いかけた。
彼女の問いかけに気付くと、カレはアスナへと視線を向け――それから、先程の”おもてなし”を思い返す。
アカネの おまじないは よくわからなかったけど オムライスはおいしかった。
カリンの マッサージは きもちよかった。
アスナとの しゃしんは いいおもいでになった。
ネルとの ゲームは たのしかった。
その事実を踏まえ――とても満足したことをニコニコと笑みを浮かべながら大きく両手を振って伝えるカービィ。
「――とっても満足したって!」
そんなカレのご機嫌な様子に満足げに頷いてから、嬉しそうに周囲に伝えるアスナの言葉と、今もなお喜々とした反応を体現するカレに目を丸くするネル達。
その内、無垢な笑みを浮かべる呑気な2人の様子に気が抜けたのか――互いに目を見合わせ、肩を竦めたカリンが口を開いた。
「……まあ、客を満足させる、という目的は果たしたんじゃないか?」
「そうですね。当日までまだ時間はありますし……焦らず準備を重ねていきましょう」
その言葉に、柔らかく頬を綻ばせるアカネが頷く。
今不安がっていても仕方のない事だとして、割り切ることにしたようだった。
そして、ここまで口を開かなかったネルは、「しょーがねぇな」と呟いてから――
「――ま、客に対戦申し込めると思えばまだ楽しめそうか」
と、今までよりも幾分かやる気を出した様子で、笑みを浮かべた。
彼女の方がカモにされる可能性が高いのはさておき。
何はともあれ、カービィを来客に見立てた予行練習は成功したようだ。
意図せず、いい立ち上がりが作れた彼女達は、当日に向けて早速打合せを始めようと――
――その時、アカネのスマホが震えた。
それが着信を知らせる知らせだと気付いた彼女が、スマホを取り出す。
相手先は、セミナーの早瀬ユウカ。
「はい、どうしました?」
特に気負う様子もなく、素直に電話に応答するアカネ。
一方、自分から電話をかけてきたにもかかわらず『ええっと、その』と、ユウカは煮え切らない態度を窺わせていた。
いつもと違う彼女の様子に、疑問符を浮かべるアカネ。
それから間もなくして、意を決したようにユウカが――
『――今、アスナ先輩と……カービィって近くにいる?』
と、問いかけた。
彼女の問いに「ええ、いますよ?」と至って普通に答えるアカネ。それを聞いたユウカが若干言いづらそうに話しかける。
『その……さっきモモイ達から連絡が来たんだけど――』
彼女、曰く――
①カービィが連れ去られたと、部室に戻ったアリスが慌ててモモイ達に知らせる。
②神出鬼没なアスナの場所が分からないと、頭を悩ませるモモイ達。
③突如、最近支給してもらったアリスのスマホに、アスナからモモトークが送られる。
④何故かアリスが「オトモが寝取られました」と大声でわんわんと泣き出す。
⑤困り果てたモモイ達が”困ったときのユウカ”とばかりに彼女へと連絡。
⑥今ここ。
――話を最後まで聞いたアカネが、予想の範疇を超える内容に唖然とした。
後ほど折り返すことを約束してから「少しお待ちいただけますか」とアカネは通話を一旦切ると、アスナへと視線を向けつつ恐る恐る尋ねた。
「あの、先輩。先程写真を送った相手というのは……」
「うん? アリスちゃんだよー?」
「いつも一緒にいるから、いつでも見られると思って!」と無邪気に笑うアスナ。
なるほど確かにアリスに写真を送れば、必然的に一緒にいるカービィも写真を見られるだろう。そういう意味では彼女の考えは妙案であった。
ならば、問題は――彼女が送った写真。
「どんな写真か、見せてもらってもいいでしょうか」と嫌な予感を抱きつつアカネが断りを入れると、アスナは素直に応じ、自身のスマホを見せつける。
画面に表示された写真には、笑顔を浮かべたアスナとカービィの顔。
――そんな2人を囲むように描かれたハートマーク。
――そもそも、頬と頬がくっつくほどの距離感。
――そして、その下に書かれた、ズッ友宣言。
拉致られた上に、こんな写真を送られてきた
そもそも寝取られる、なんて言葉を何処で知ったのか――などなど、現実逃避じみた事を考えるアカネ。
「どうかしたのか?」
「んだよ、顔色変えて」
そんな彼女の落ち着かない様子に気付いたカリンとネルが首を傾げつつ尋ねる。
それに対して、困ったような表情を浮かべながら――
「――……とりあえず、謝罪の準備をしましょうか」
と、疑問符を浮かべる2人の反応を余所に、疲れたように溜息を零すのアカネであった。
それから、数十分後。
アカネ経由でユウカから話を聞いたアリスは、すぐさまC&Cの部室へと足を運んでいた。
「………………カービィは、アリスのオトモ、です」
「わ、悪かったって。ちょっと連絡すんの忘れてたんだよ」
珍しく――本当に珍しいことに。ネル相手にいつもの怯える様子を見せず、寧ろ頬を膨らませてしかめっ面を浮かべるアリス。
逆に、そんな彼女にちょっと気圧されながら、宥めるように謝るネル。それほどまでに、アリスはお冠であった。
現に――今度は拉致られてたまるものか、と云わんばかりに、キョトンとしている呑気なオトモをがっちり抱きかかえているのが何よりの証拠である。
それから今までの経緯を聴いたアリスは、渋々ながらもネル達の謝罪を受け入れることに。
一先ず、オトモが取られたという誤解は解けたうえに、連れ去られた当の本人がまったく気にしていないことから、これ以上気にしても仕方ないと判断したようだ。
ただし、次からはちゃんと自分に断りを入れてほしい、と釘を刺すのを忘れないあたり、やはりまだ引きずっている様子ではあった。
「…………次からは、アリスの許可が、必要です」
「うん、分かった! 次からはちゃんと許可を取るね!」
ムスッとしたアリスに対し、素直に頷くアスナ。
これでも自分の行動に非があったと認めているせいか、反省しているようだ。
何はともあれ、これにて一件落着。
ようやくアリスも、胸を撫で下ろし――
「――じゃあ、明日も一緒に遊んでもいい?」
「ダメです!!」
――それはそれとして、自分の気持ちに正直すぎるアスナであった。
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【恐ろしく早い拉致。アスナじゃなきゃ成功しないね】
→手刀を見逃さなかったのは監視カメラ君なのでは?
【たわわなソレ】
→何とはいわんが。何とは。オッパイパイ!!
【確かに仮面をつけた1頭身が甘味を求めて来店する可能性】
→これも宿命だ(キリッ
【がっこうへ かえるんだな。おまえにも ゆうじんがいるだろう……】
→別に画面端でしゃがみ込んでいるキャラを使っているわけではない。
ソニックブーム
次はセミナー編。