Spring Sky StarS! 作:笹ピー
元ネタの仕様だとかシステムの確認とかに1か月ぐらい掛かったのは内緒。間違いあってもあんま気にしないでねお願いしますホントに。書いてる奴の心の声が駄々洩れなのも気にしないでね
ヴェリタス組に票を入れてくれた人は大変お待たせしました。小話書き始めて約5か月経ってたとか時間の流れはアッという間だぜ! あな恐ろしや。
改めてゼロから話を作れる人達のスゴさに脱帽です。
え? 3万文字超えてる?
長い、読みづらい、前編・後編に分けろ??
そもそもヴェリタスあんま関係なくね???
(∩゚д゚)アーアーキコエナーイ
5-1
――どうして、こうなってしまったのだろう――
己が立たされている状況について、思わず少女――才羽ミドリは胸の中で独りごちた。
いつの間にかこのような状況に陥ったことに、彼女は嘆くばかり。
「ふふっ、次の相手はミドだね。モモよりは手応えありそう!」
「ちょっと! いくら何でも言っていいことと悪いことあるでしょ!?」
そして、こんな状況を招いた原因が自身の姉も関わっている、という事実が彼女のやるせなさに拍車をかける。衝動的に行動を起こしてしまうのが彼女の良い所でもあり悪いところでもあるのだが、今回は後者に働いた模様――というより悪い結果に結びつくのが大半だったり。
しかし、だがしかし。
これでもミドリ自身、ゲーマーの端くれ。虚しい敗北よりも、達成感に満ち溢れた勝利を望むのは当然の帰結。
何より、ここで負ければ彼女にとって受け入れがたい
それだけはどうしても避けなければならない。
気を引き締め直すと同時に、静かに闘志を燃やしコントローラーを握りこむミドリ。
彼女にとって負けられない戦いが、火蓋が切って落とされるのであった――
――事の発端は、今より1時間ほど前まで遡る。
「や! 遊びに来たよモモ、ミド!」
いつもと変わらぬ日常を各々過ごしていた、ゲーム開発部。
そんな彼女達の部室に突然訪れたのは、才羽姉妹の数少ない友人であり――ミレニアムのハッカー集団として名が高い”ヴェリタス”の1年部員――小塗マキであった。
明朗快活な彼女の来訪に少し驚きつつ、床に胡坐を掻きつつゲームを遊んでいたモモイが「あれ?」と首を傾げながら尋ねた。
「遊ぶ約束なんかしてたっけ?」
「ううん、ちょうど暇だったから来ただけだよ~」
あはは、と笑いながら、ただ単に暇つぶし目的で来ただけとあっけからんと明かすマキに対し、「なあんだ」とモモイはやや呆れたような反応を返す。
そんな最中、なんとなしに部室を見渡していたマキがあることに気が付き「あれ?」と今度は彼女が首を傾げた。
「珍しくカービィがいないね」
「カービィならユズちゃんと一緒に買い出しに出かけてるよ」
彼女の疑問にミドリが答える。
すると、その言葉に衝撃を受けたのか「え、ユズが!?」と驚愕の表情を浮かべるマキ。彼女の徹底的なインドア姿勢を知るマキにすれば、ピンクボールと一緒とは云え、陽の明るい時間に1人で外出する姿が想像つかなかったからだろう。
そんな反応を目の当たりにし「まあ、驚くのも無理は無いよね」と苦笑を浮かべたミドリが頷く一方で、「ユズは今、大きな試練に挑戦中です!」と何故か大げさな事を言い出したアリスが事の経緯を語りだす。
『い、いつもみんなに任せっきりなのも、悪いから……』
と、勇気を振り絞って、自ら率先しておやつの買い出しを申し出たユズ。
普通の人ならばどうということのない行動だが、人目に極力触れたくない彼女にとって、1人で出かけること自体ハードルが高い行為。ミレニアムプライスで特別賞を取ったおかげもあり、彼女を悪く言う声こそ減ったが、過去のトラウマというのは中々消えないモノである。
そんな彼女の過去を知るからこそ、その健気な姿勢に胸打たれるモモイ達――しかしいきなり1人で行かせるのはやはり心配の方が勝る。とはいえ、彼女達の内の1人が同行しては彼女の決意に水を差す。
そこで白羽の矢が立ったのが、ピンクの異星人ことカービィ。
言葉を喋れない故に安易に頼ることはできないが、そこにいるだけで不安を和らげる緩衝材的な存在――所謂ペットに同行してもらうような形である。
彼女が1人でも外出できるように慣れるまで、外出時は付き添わせようということになった。
勿論、本人の同意を得ることが前提ではあるが――事情を簡単に説明し終えると、相変わらずの反応で快諾したのは言うまでも無く。余談だが、流石に任せすぎるのも申し訳ないと考えたミドリが『食べたいお菓子買ってきてもいいから』と伝えると、跳び上がるほど喜んだとか。
――そんな経緯もあり、ミレニアムの校外へと買い出しに出かけた2人。
その話に耳を傾けていたマキが「へえ~」と感心した様に相槌を打つ。
「でもアリスはいいの? あの子、オトモ……なんじゃなかったっけ」
「ハイ、問題ありません。パーティーメンバーが困っているのならば手を差し伸べるのが勇者一行の使命ですから!」
ふと頭に過った疑問を尋ねるマキに対し、胸を張って心配も不安も感じさせない堂々とした態度を見せつけるアリス。その様子に「あはは、そっか」と笑い、寧ろオトモが頼られている事実こそ彼女にとって喜ばしいことなのかもしれない、と1人納得するのであった。
ともあれ、話は当初の目的である暇つぶしへと戻り――ソファの背もたれに寄りかかりつつ、なんとなしにモニターに映っているゲーム画面へと視線を向けたマキ。
その画面に映っていたモノを見て、彼女は思わず「あっ」と声を漏らした。
「モモたちもやってたんだ、”カシオペアの拳”」
「もっちろん! 話題作には常に目を光らせてるからねっ」
彼女が着目したゲーム――その名は、”カシオペアの拳 ~ウーパールーパー大列伝~”。
非常に不安定なゲームバランスや一回のミスで試合展開が一気にひっくり返される理不尽さなどが相まって、格闘ゲーム界隈に於いて異端児と呼ばれている作品。
しかしその極端なゲーム性が却ってウケたのか「1周回って神ゲー」と謳われるほどに一部ファンを初め、熱狂的な人気を得ているのも事実である。
決してクソゲーではないのだ。決して。
そうした理由もありゲーム開発部の面々も本作を試遊済みだったが、マキも既知していたことに「マキちゃんもやったことあるの?」と意外そうにミドリが問いかけると、「まぁね~」と彼女は相槌を返す。
「最近始めたばっかだけど先輩たちと対戦してるから、結構強いよ~?」
「ほほーう?」
何故か不敵な笑みを浮かべ、ある人物へと挑発的な視線を向けるマキ。
それに対し、視線を受けた張本人も同じようにニヤリと笑みを浮かべる。
それ以上の会話はもはや意味を成さず。
床に転がっていたもう1つのコントローラーを静かに手渡すモモイと、それを黙って受け取ったマキは、隣の相手と同じように胡坐を掻きつつコントローラーを持ち直す。
それを傍目で確認したモモイが、ふふんと自信たっぷりな表情を浮かべる。
「――このゲームをやり込んでいる私を挑発したこと……後悔しても遅いんだからね!」
意気揚々と上げた声に連なるかの如く、対戦画面が映し出される。
斯くして誇りを掛けた対決の、幕が開けたのであった――
ある少女達がしのぎを削っている一方で。
意外なことに、トラブル無く買い出しを終えたユズは、同行していたカービィを抱き抱えつつ帰路に就いていた。
懸念していたショッピングセンターでの買い物について、最初こそ買い物客の多さに怖気づくユズだったが、同行者の直感によるものなのか(或いは尽きることの無い食欲の為せる技なのか)迷いない先導により目当ての品物コーナーへと到着。
それからすぐに買う物を選んだ後、一直線にレジへと向かい、一目散に店から出てなんとか買い物を済ませたのであった。
ともあれ、無事に買い出しを終えたユズ。
まだ1人で出歩くことは難しいことを改めて自覚すると共に、一仕事終えた達成感にホッと安堵する――
そんな時、彼女が抱き抱えていたピンクボールが唐突にあらぬ方向へと身を乗り出す。
急な行動に驚きつつ、カレが身を乗り出した方向にユズも視線を向けた。
彼女達の視界の先にあるのは、クレープを販売しているキッチンカー。
傍に置いてある看板メニューにスイーツ系が多いことや、ポップ調で描かれていることから、若者層をターゲットにした店のようだ。実際、何人かの生徒が並んで、今や今やと順番待ちをしている。
どうやらこの食い意地の張った同行者は、キッチンカーから漏れだすクレープの匂いに反応した模様。その様子を踏まえて、彼女は思い悩む。
今回、自分の為に同行してくれたカレにお礼してあげたい気持ちは確かにある。しかし、人目に触れたくない――特に過去の自分の行いを知っているかもしれない生徒に出くわすリスクは極力避けたい――と二の足を踏むのも仕方ない話。とはいえ、これも自分が1人で行動できる為にも必要な経験とも捉えられる。
うう、と悩む少女。
それから少し時間を掛けて――彼女は決断する。
「――……うん。買っていこっか」
尻込みする心を抑えつつ、そう告げるユズ。
覚悟は決まった模様。
それが伝わるやいなや目を輝かせて”ワーイ”と純粋に喜ぶカービィに、微笑ましさを感じた彼女は頬を綻ばせる。なんだかんだカレの喜ぶ姿を見るのが好きな彼女にとって、それが見られただけでも勇気を振り絞った甲斐があったと己を納得させることにした。
そうと決まれば列の最後尾へと歩み出すユズ。
緊張こそあれ、抱き抱えている小さくも頼もしい同行人のおかげか、足取りはそこまで重いものではなかった。
そうして、1人の少女と異星人が親睦を深めていた一方で――
『――Winner is Maki!』
「うわあああんっ、また負けたぁ!!」
「あははっ! 勝ちすぎてごめんね~」
室内に勝者を告げる音声が響く。
同時に半べそ掻いた少女の泣き声と勝者の高笑いが木霊する。
あれから何度負けてはその都度再戦を申し込むモモイだったが、奮戦虚しくボッコボコに返り討ちにされる結末を繰り返すのみ。今も「もういっかい! もういっかい!!」となけなしの尊厳もかなぐり捨てて今日何度目かの泣きの1回を申し出る始末。
「す、すごいですモモイ。あれだけ負けてもへこたれないなんて、不屈の精神力です!」
「アレはただ単に自分の負けを認めたくないだけだよ、アリスちゃん」
その様子に妙な感心を抱くアリスの隣で、姉の無残な姿に頬を引き攣らせていたミドリが指摘する。もっとも、勝利を期待する激励を送るのではなく負けても挫けない点を称えている辺り、モモイが勝利する確率がほぼ皆無であることをアリス自身、無自覚に理解しているのかもしれない。
「やー、流石にこれ以上はかわいそうだし……ちょっと趣向を変えない?」
そう提案したのは、今まで何度も彼女の相手をしていたマキ。流石にちょっと同情し始めてきたのかもしれない。
その提案に「趣向?」と一同が訊き返すと、彼女は頷く。
「この際、ゲーム開発部とヴェリタスの部員同士で対抗戦をする、ってのはどう?」
「部員同士って……じゃあハレ先輩やコタマ先輩も参加するってこと?」
ミドリの疑問に「そゆことっ」とニッと笑いながらマキは肯定する。彼女曰く、両者とも暇を持て余しているから連絡すればすぐに応じてくれるはず、とのこと。
つまり、3対3の勝ち抜き戦。
個々の実力はどうあれ、数だけならば同じ。
彼女からの提案について、ううん、とミドリは少し難しい表情を浮かべる。
「こっちは1人分ハンデか……」
「厳しい戦いになりそうです……」
「な、ナチュラルにハンデ扱いされてる……!?」
自然な流れで妹と友人から戦力外告知されたハンデが衝撃を受ける――と思いきや気を取り直す様に何度か頭を振ったあとで「心配いらないって!」と2人を励ます様に答える。
「こっちにはユズがいるんだよ? 勝ったも同然じゃん!」
「何言ってるのお姉ちゃん。ユズちゃんは今出かけてるでしょ」
「カービィも一緒です」
2人の指摘に「あっ」と思い出したかの様に口を開けたままポカンとするモモイ。
部内で一番ゲームが得意である部長こと花岡ユズは現在外出中であったことをすっかり失念していた模様。
「ふふ、どうするモモ? 自信ないならやめてもいいけど?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら挑発するマキに対し、ぐぬぬと悔し気に顔を歪めるモモイ。その舐め切った態度は彼女の心に火を点けるには十分だったようで――
「――やってやろうじゃんか!」
売り言葉に買い言葉。
まんまと乗せられた彼女を「ちょ、ちょっとお姉ちゃん」と慌てながらミドリが宥めに入る。
「落ち着きなよ、あんなのわかりきった挑発でしょ?」
「このまま引っこみついたら、それこそゲーマーの名折れだよ!!」
プンスカと怒りを露わにするモモイに、彼女はダメだこりゃと頭を抱える。
こうなった姉を止めるのは中々に骨が折れることを重々理解しているが故の反応である。
(……まあ、それで気が済むならいっか)
特段こちら側に何か不都合を被るわけじゃないし、と自分を無理やり納得させたミドリが溜息を吐く。時には話の流れに身を任せ、どうかさせることも大事であると考えた模様。
その反応を肯定と解釈したマキが「じゃあ早速先輩たちにメッセ送っとくねー」とニッコリ笑いながらスマホを操作する。
――と、その際「あ、そうそう」と思い出したかのようにマキがスマホから顔を上げると、
「負けた方は
「――……はえ?」
軽い調子で発せられた発言に、素っ頓狂な声を漏らしたミドリ。
雲行きが怪しくなってました。
「ちょ、ちょっと! 後になってそれ言う!?」
「だーいじょうぶだって。そんな難しいことを要求しないよっ」
非難めいたモモイの文句に軽い調子で答えるマキ。実際、彼女が所属しているヴェリタス側にも同じ条件が付く以上、迂闊なことは言えないのは彼女も一緒。あくまでゲームを盛り上げるちょっとしたスパイスとのこと。
「内容は――”ここ1週間の出来事をみんなの前で発表する”ってのはどう?」
「う、うーん? まあそれぐらいなら」
「はい。アリスも1分1秒狂いなく、答えられます!」
思った以上にユルい内容にはたして罰ゲームの意味があるのか、という疑問を抱きつつ承諾するモモイと、寧ろ自身の記憶力を誇らしげに主張するアリス。どうやら2人からは反対意見はないようだ。
一方で。
何故か表情を固まらせたままの才羽ミドリはというと――
(――ま、マズイ……!)
声には出さなかったが、非常に焦っていた――その証拠に額から冷や汗がダラダラ。
彼女が焦る理由は、3日前のある出来事に起因する。
(せ、”
なんとこの娘――あろうことか大の大人を誘って一緒にお出かけしてやがっていたのである!
しかも『ちょ、ちょっとイラストの参考に展示会にいってこようっカナー、ヒトリデ』と姉のモモイ含め周囲に嘘を吐いてまで!
なお”先生”には『別の人からの意見も聞きたいので、一緒に来てもらってもいいでしょうか?』というそれっぽい理由で誘った模様。多分本人はデートだと思ってない。
とにかく、予想外の展開に内心焦りまくるミドリ。
しかしその瞬間、彼女の脳裏に電流が走る。
(……落ち着いて。別に”先生”と一緒だったことを言わなければ良いんだ!)
展示会に行ったことは嘘ではない。
あくまでも1人で行ったことにすればいい、と彼女は光明を得る。
これで万事OKだね、と彼女が安堵する――
間もなく。
「あ、ハレ先輩がついでに”ウソ看破機能”も試したいってさー」
(ウソでしょ)
届いたメッセージを読み上げたマキの言葉に、唖然とするミドリ。
どうやらマッチの灯程度の光明だった模様。
モモイの「そんな機能、いつ使うの?」という疑問も、「アテナ3号に相手の噓を見抜く学習アルゴリズムを覚えさせたいんだって」と答えるマキの会話など、今の彼女の耳に入らず。
誤魔化す手段が思いつかないミドリ。
今さら『その罰ゲーム、待った!』と訴えたところで却って怪しまれる可能性の方が高い。
かといって正直に事情を明かせば――
『私たちに内緒で”先生”とコッソリ会ってたの!? 卑しい……卑しい~!』
『さ、最近……”先生”に似たビジュアルのキャラ描いてるのって、そういう……?』
『アリス知ってます! これが”抜け駆け”というヤツですね!』
『Zzz』
と、周囲からなじられる未来を想像してしまう始末。
居た堪れなさと恥ずかしさと心弱さで恥ずか死ぬかもしれない。
――されど、天はミドリを見放しておらず。たった1つだけこの状況から逃れる手段が彼女には残されていた。
「――さ~て、先輩たちが来る前に……もう一度敗北の色に染めてあげるよ、モモ!」
「へっへーん! 負けられない戦いを前にした私を舐めないでよね!」
つまり、
ヴェリタスが罰ゲームを受ければ彼女の秘密は守られ、今夜もくつろいで眠れることだろう。
「――……お姉ちゃん、負けないでッ!」
だからこそ、これは彼女にとって今後を左右する外せない一戦である。
そもそも彼女自身、格闘ゲームは得意ではない。マキと対戦しても勝てるかどうか。故に貴重な一戦を担う自身の姉に、是が非でも勝って頂きたいと願うのも無理もない話である。
妹からの応援に一瞬目を丸くするモモイだったが、やがて得意気に笑いつつ自信満々な表情を浮かべた。
「まっかせてよ!
「……ちょっと、遅くなっちゃった、かな」
買い物袋と先程クレープ屋で購入した他の部員達の分が入れてあるテイクアウト用の袋、それぞれ片手に持ちながら部室に繋がる廊下を歩くユズ。気付けば出かけてから1時間半ほど過ぎていたことに彼女自身驚きを覚えたとか。
一方で荷物を運ぶ彼女を気遣ってだろうか。彼女と並んで歩いていたカービィは、それぞれトッピングが違うクレープを両手それぞれに持ち、味比べするかのように交互に齧り付いていた。
足元で幸せそうにクレープを頬張るカレの姿が視界の端に映ったユズは、その仕草にクスリと笑う。まだ外出するのに抵抗はあるが、こんな風に過ごせるなら悪くないかも、と考えるほどには少し余裕が生まれたようだ。
それから間もなくして、部室の前まで辿り着く2人。
「た、ただいま」と扉を開けるユズと、彼女に続くように”ハーイ”と元気よく声を掛けるカービィが部屋に入ると――
――なぜか消沈した表情を浮かべたまま(特に緑の子)正座する部員の姿が目に入ってきた。
「おかえり。買い出しは無事に終わった?」
予想外の状況に困惑を隠せないユズ。
そんな彼女に、三角座りのような姿勢で部室のソファに腰をかける少女――ヴェリタスの2年生”小鈎ハレ”が彼女の帰宅に気付くと問いかけてきた。
突然のことに思考が追い付かないユズが「え、あ、は、ハイ」と言葉に詰まりながらも答えると「そう、ならよかった」とハレは控えめながら笑みを浮かべる。
すると並んでソファに腰かけていた2人の少女――長く居座り続けているマキとヴェリタスの3年生”音瀬コタマ”の両名も立て続けに、
「おかえりっ! 無事に終わったみたいでよかったよ~」
「お疲れさまでした。少しお邪魔させていただいています……あとついでにカレのボイスサンプルを録らせていただけると――」
と、各々労いの言葉を送る。
1人、変な事を呟いていたがきっと気のせいである。
一方、想定外の人物達にますます混乱するユズ。なお彼女の足元にいるピンクボールは見知った顔とわかるや否や”ハーイ”と食べかけのクレープを手にしたまま暢気に挨拶をしている模様。
ともあれ事情を聴こう、と今も正座を継続中である3人へと視線を向けるとバツの悪そうな顔を浮かべたモモイが代表として、これまでの経緯についてもごもご話し始めた。
――マキの挑発に乗せられ、罰ゲームありきの格ゲー対決を行うこととなったゲーム開発部とヴェリタス。
まずはゲーム開発部側の先鋒・モモイがあっさり敗れ、中堅・ミドリがマキと対戦。
得意ではないジャンルのゲームにも拘わらず罰ゲームへの恐れからか、なんとマキを下したミドリ。火事場の何とかってやつである。
しかし、ここで合流を果たしたヴェリタス側の中堅・コタマがミドリを容易く破る。元々格ゲーが得意ではないこともあり、マキとの試合で集中力を大幅に消耗したのが運の尽きだった模様。
ゲーム開発部の(というよりミドリの)命運は大将・アリスに託される。
部員の中ではゲームに触れてから日が浅い彼女だが、反応速度や精密操作といった点についてはこの中では随一を誇る。事実、持ち前の性能を活かし辛勝ではあったが何とかコタマに勝利。勝敗は大将戦に持ち越された。
そして、満を持して大将戦――アリスとハレの対戦が始まる。
最初こそアリスの優勢で試合が進んでいくが、次第にハレに戦況が傾いていく。
経験を身体性能でカバーしていたアリスだがやはり動き自体にまだ未熟な点が多い。一方のハレはコタマとの対戦で彼女の動きをおよそ見抜いていたのか、彼女の動きに順応するのに時間は掛からなかった。
互いに1ラウンド取り、最終ラウンド――体力を5割ほど残し、ハレが雌雄を決した。
つまりそれは、ゲーム開発部側に罰ゲームが執行されることを意味することとなり――
――といった経緯を耳に入れつつ、いつの間にかマキが撮っていた対戦映像を眺めていたユズ。
とりあえず状況が整理できたのか、「えっと」と前置きしてから口を開くと、
「アリスちゃんは、ハレ先輩の動きの変化に対応しきれなかったのが敗因、かな。中盤からすかし行動を多用し始めてたからそれを意識すればなんとかなった、と思う」
「うぅ……まだまだ修行が足りていませんでした……」
「ミドリはガーキャンを多用してたからゲージが足りなくて超必が使えない状況が多かったかも……ゲージの残量を意識するともう少し色んな場面での選択肢が増えてくるよ」
「……ハイ……精進シマス……」
「モモイは、その……焦ったときにガチャ押しする癖を何とかしないと、あの……」
「あ、あの、ユズ? なんで私の時だけ口もごるの……!?」
と、試合の感想と改善策を部員達へ教示していくユズ。
その様子を眺めていたハレ達が各々感心するような反応を示す。
「あの内容だけでそこまでわかるんだ……噂通り、相当の実力者っていうのは本当みたいだね」
「はい。万が一彼女が参戦していたら私たちでは話にならなかったでしょう」
「いやー、流石の私もユズを相手に勝負は待ちかけないって~」
彼女の実力について話し込む3人。
趣味趣向こそ違うが、彼女達も自ら豪語するぐらいにはゲームを嗜む者達。そんな彼女達だからこそ、ユズの実力を重々理解しているのも当然の話と云えるだろう。
とはいえ、結果的に敗北したのはゲーム開発部の3名。
そして――いよいよその時を迎える。
「それじゃあそろそろ――罰ゲーム・タイムといこうか!」
意気揚々としたマキの発言に、ミドリの肩が跳ねる。
隣で「えーっと何してたっけ」とここ1週間のことを思い返そうとしている呑気な姉とは対照的に、冷や汗が止まらん模様。
逃げ場なし。助けなし。活路なし――ないない尽くしの窮地に立たされる少女。
今なら北斗七星の横に寄り添うように光る星すら見えそう、と現実逃避じみたことを考える始末。
もはやこれまで、と苦渋の表情を浮かべ腹を括るミドリ。
痛む胃を抑え、甘んじて罰を受けようと決意し、
『――いいえ。これで決着、というのは些か早計かと思いませんか?』
そんな彼女の決意に水を差す出来事が起こる。
突如、室内に響き渡る第三書の声。
ボイスチェンジャーを使っているためか、性別すら特定することは難しい。
予想だにしていない存在に一同は目を丸くする――しかし、声の出処はすぐに特定できた。
「わ、私のスマホから!?」
中でも一際驚愕の表情を浮かべていたマキは、自身のスマホを凝視した。
いつの間にか通話状態になっており、通話を切ろうしてもコチラからの操作を完全に受け付けないようにロックされているせいか、電源すら落とせない。
「……誰? そのスマホ、そう簡単にハッキングできるようにはなっていないはずだけど」
『ふふっ、そう険しい顔をしないでください。私はただ、今の試合内容に異議を申し上げたいだけですので』
マキ――すなわちヴェリタスの部員である彼女の私物に容易くハッキングできた事実に警戒心を露わにするハレ。それに対し、相手はその反応を楽しんでいるかのように悠然な態度で返す。
一方で、相手が口にした内容に怪訝な面持ちを浮かべる一同。
なぜこの人物がそんなことを気にするのか――という疑問を抱く中、相手が語りだす。
『彼女もまたゲーム開発部――それも部長の肩書を持つ者。部の対抗戦と銘打つのであれば、彼女の参戦は当然の権利かと思いますが』
「えっ? い、いやまあ……それはそうだけど……」
「……ですが、それだと人数に不公平が生じます。1人分の不利は看過できるモノではないかと」
相手の指摘に一理あると考えてしまったマキが口を濁らせていると、横からコタマがその指摘に毅然と意見を出す。彼女の言う通り、数がイーブンだからこそ成り立つ対抗戦。個々の実力はさておき、その前提が崩れては勝負が成り立たないのもある意味当然。
そういった意味合いを込めた彼女の発言に、『ええ、その通りですね』と意外にも相手はすんなりと理解を示す。
『なので、私含め
「ふ、2人?
「それだと今度は私たちの方が少ないんだけど……」
まさかのヴェリタス側の人数を増やすという解決策を提示してきたことに面食らいながらも、不可解な点について問いかけるモモイとミドリ。
彼女達の言う通り、それでは今度はゲーム開発側が1人分の不利を背負うこととなる。
その問いに、ふふ、と笑みを零しつつ『もう1人、いるではありませんか』とまるで分かり切った様子で――
『――先ほど、
と、相手は告げた。
意味ありげな発言に疑問符を浮かべる一同――だったが、すぐに誰を指しているのか察しある方へと視線を向ける。
彼女達の視線先――そこにいたのは、残り少なくなってきたクレープを食していた
『その子と彼女を参加させれば互いに数は同じ。これで問題はないかと』
「う、ううん、まあそうだけど――」
「やろうお姉ちゃん」
思わぬ提案に戸惑うモモイの言葉を、ミドリの迫真こもった声が遮った。
いつもと違う妹の雰囲気に驚く姉だが、当の本人はまったく気にせず話を続ける。
「ユズちゃんはゲーム開発部の部長。カービィはゲーム開発部の名誉マスコット。なら2人も参戦すべきだよ」
「ま、まあそうだけど」
「第一このまま負けを認めたらそれこそゲーム開発部の名折れだよねえそうでしょ?」
めがこわひ。
そんな感想を抱いたモモイは「アッハイ」と反射的に頷いてしまった。ユズとアリスもいつもと様子が違うミドリに不思議そうな表情を浮かべていたとか。
一方、勝者側であったヴェリタスはというと――
「……まあ、仕方ないかな」
「うええっ!? ハレ先輩ほんとにいいの!?」
溜息を漏らしつつ承諾の意を返すハレに、信じられないと云わんばかりに驚くマキ。
するとハレは窘めるように「マキ」と名前を呼びつつ、ヴェリタスの部員以外に聞こえないように小さな声で話し始めた。
「今ハッキングされてるのはマキのスマホ――つまり私たちの情報は向こうが握ってるも同然。この意味、わかってるよね」
「うぐ」
「下手に要求を拒絶すれば何をするかわからない……ここは従っておくのが無難、というわけですね」
コタマがハレの考えを代弁すると「そういうこと」と彼女は頷く。
相手が何を考えているのか見当がつかないが、今は大人しくした方が良いと判断したようだ。
とはいえこのまま手を拱いているつもりはない、と云わんばかりにハレは一案を講じる。
「私が対戦中、ウチが使ってるサーバーに不正アクセスしてる外部の割り出し……マキ、できるよね?」
「まっかせて先輩、誰にケンカ売ったのか後悔させちゃうからっ!」
試すような物言いに対し、気合十分な調子で返すマキ。
自分のスマホがハッキングされた以上、自分の手で取り戻そう、と躍起になっているようだ。
後輩の頼もしい返事に少し微笑んだハレは、ドローンのテスト用に持ってきていたノートPCをマキに手渡した。
「コタマ先輩はマキのサポートと……音声の解析をお願い。そっちの方が特定しやすいかも」
「わかりました、並行して作業を進めます」
合点したように頷くコタマ。
すぐさま持参していたノートPCを起動させると、さっそく作業に取り掛かり始めた。
一通り指示を出し終え、ふうと一息つくハレ。一先ず、最低限の対策を立てたようだ。
それと同じタイミングでゲーム開発部側でも話は纏まった模様。
斯くして――予想外の延長戦が始まるのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
5-2
大将から中堅へと役割を変えたハレ。引き続きの対戦である。
その後に控えるは、堂々とハッキングを仕掛けてきた謎の人物、約2名。
対するはキョトンとしたままコントローラーを握らされた副将・マスコットのカービィ。
カレの後に続くのは大将・ゲーム開発部部長の花岡ユズ。
(その手でコントローラーとか扱えるんだ……)
ちょこんと座るピンクボールを不思議そうに見つめるハレ。指がまったく確認できないというのになぜかくっつくようにコントローラーを両手で持つカービィが不思議で仕方がないようだ。はたしてボタンやスティックをどうやって操作するのやら。
相変わらず原理も法則も度外視してる子だな、と彼女が妙な関心を抱いている中――
いよいよ、両者の対戦が始まる。
「がんばってください、カービィ!」
「勝ったら私の分とお姉ちゃんの分のお菓子あげるからっ!!」
「み、ミドリさん!?」
友人達の応援を受け――特にお菓子の部分――やる気を上げるカービィ。
片やハレも、まず相手の動きを見極めようと――ついでに試合を長引かせ、相手を特定する時間を稼ぐつもりで――気を引き締める。
――その後、彼女は思い知らされることとなる。
――直感という、理不尽に。
『――Winner is Kirby!』
勝者を告げる音声が響くと同時に、”ワーイ”と喜ぶように小躍りするピンクボール。
そんなカレをやんややんやと褒め称えるアリス達。
片や、口をポカーンと開けたまま唖然とする小鈎ハレ。
その様子を見兼ねて、思わず作業を止めてしまったマキが「は、ハレ先輩?」と恐る恐る呼びかける――
と、敗北者は体育坐りのまま横に倒れた!
「ねる」
「だだだ、大丈夫だって先輩! アレは仕方ないって~!」
「マキ、止めましょう。アレは私でも凹む自信があります……」
必死に慰めるマキと、ハレの凹み様に思わず同情するコタマ。
それも仕方のない話で、彼女はストレート負け――1ラウンドも取れずに敗北した――だけでは飽き足らず、ピンクボールの体力を3割以上削ることすらできなかったのだから。
これでショックを受けるな、という方が無理な話である。
「そういえばこの子、アスナ先輩にも匹敵する直感の持ち主だった……忘れてた……」
すかし行動すら完璧に対策されたことを思い返したハレが虚ろな目で呟く。
すかし投げを垂直ジャンプで見事に躱された瞬間、彼女の思考が一瞬停止したとか。
その一方で「けど」と腑に落ちない様子でマキが疑問を呈した。
「なんていうか……特別上手いって感じじゃなかったけど……」
「超必も使う場面がありませんでしたね。難しいコマンドを使わなかった、というか」
2人が試合中に感じた疑問を口にしていると「まあ、そうだね」と姿勢を戻しながらハレは同意を表す。その上で、試合中でも感じていた憶測を口にする。
「多分だけど……複雑な操作ができないんじゃないかな」
「――……うん。ちゃんと相手もよく見てたし、技の選択もよかった。いい感じだったと思う」
先の試合を観戦していたユズが、試合内容に満足した様子で感想を述べる。
その賞賛を受け、テレテレと少し照れくさそうにカービィは頭(?)を掻いた。
その様子に和みながらも「でも意外だよね~」とモモイが口を開く。
「超必もできないのに、こんなに強いなんてさ」
「コンボも3つぐらいしか覚えてないもんね。しかも簡単なヤツ」
感心した様子で発したモモイの言葉に、ウンウンと頷くミドリ。
事実、カレは簡単なコマンド入力とこれまた簡単なコンボとしかできない状態であった。
かろうじて波動・昇竜・竜巻コマンドはできるがその程度。コンボもよくて5連続ヒットまでが関の山――体力を2割程削るのが精いっぱい。
ちなみにこのゲーム、基本コンボで5割ほど飛ぶのは日常風景である。頭おかしい。
総じて、高難易度かつ複雑な操作についてはもはや不可能とも云えるカービィ。
しかし、そんな欠点を補って余りあるモノが。
「ですがカービィの直感は理不尽を超えます。チビメイド先輩もフルボッコでした!」
「わたしも、カービィの守りを崩すのに苦労するから、ネル先輩の気持ちわかるかも……」
意気揚々とその光景を思い返したアリスに、その相手に同情するように苦笑を浮かべるユズ。
優れた直感。これこそカレの勝利を支える要点である。
とにかく相手への攻撃を確実に凌ぎ切り、隙を見逃さず反撃する、というのがカレのプレイスタイル。フェイントや裏読みすら見切ってしまうのは、未来予知に近いナニカである。
そんなカレの凄まじい直感力について、部内においてはもはや共通認識であった。
――その一方で、それだけじゃないとただ1人、ユズはある確信を抱く。
(直感が優れてるのも確かだけど……その対処が的確なのもスゴい)
いくら直感が優れているとはいえ、それだけで勝つことは難しい。その時々に準じた対応ができなければ意味がないも同然。こればかりは才能より、培ってきた経験がものを言う。
地上から攻める相手。空中から襲い掛かる相手。
それら全てを完全に予測するのは困難であり、必然的に全てに対応するのは不可能に近い。
(だからきっと……そういった相手に慣れてるんだ)
その経験をどんな場面でも活かすことができる柔軟性――それこそがカレの強み。
決してブレることなく自己を通す、一貫性。
(……案外、むずかしい操作を覚えないのも、そうなのかも)
操作を教えてもキョトンとした表情を浮かべていたことを思い出したユズ。
見た目によらず意外と頑固な性格かも、とこっそり笑みを零すのであった。
何はともあれヴェリタスの中堅・ハレを打倒し、これで数は互角。
いよいよハッキングを仕掛けてきた謎の人物、その1人が相手となる。
「そういえば、そっちのことなんて呼べばいいの?」
今更ながらの疑問を抱いたマキが、相手へと問いかける。
本名を教えてくれるとは思ってはいないが、呼び名が無いのも不便だと思ったのだろう。
その問いに対して、相手は『そうですねえ』と考え込む素振りを匂わせるように呟いた。
律儀に対応してくれるんだと各々が思う中、少し間を置いてから返事が戻ってきた。
『それでは、私のことは”超天才清楚系病弱美少女一流ゲーマー”とでも呼んで下さい』
「なんて???」
思わず聞き返してしまったモモイ。
今までの黒幕然とした動きを無に帰す名乗り上げである。
――そしてヴェリタスの3人にとって、馴染みのある名乗りだったようで。
(部長だ)
(部長ですね)
(部長じゃん)
これ以上ないほど毒気を抜かれたような顔を浮かべて、各々作業を止めた。
なんと謎の美少女ゲーマーの正体はヴェリタスの部長――明星ヒマリだった!
確かにヴェリタスの関係者ならば、彼女達が保有するサーバーに入り込むのも容易。
その上、彼女の腕前を持ってすればスマホのセキュリティの突破などお茶の子さいさい。自己賛美を主張する図太い性格ではあるが、”全知”の学位持ちは伊達じゃないのだ。
まさかの身内が犯人だった事実に、やるせない気持ちにさせられるヴェリタス一行。
そんな彼女達の心境などいざ知らず――
『ちなみに今から対戦する彼女については”チーちゃん”とお呼びください♪』
『ちょっ』
もう1人について楽し気に明かす、謎の美少女ゲーマー。
一瞬、抗議のような声が聞こえると同時に、向こうでミュートに設定したのか音が途絶えた。
「な、なんか思ってたのと違うような」
「むしろ今までのが演技だったんじゃない……?」
あまりの温度差に話がついていけないモモイとミドリ。
今までの黒幕然とした振舞いが水泡と帰すやり取りであった。
――そしてやっぱりヴェリタスの3人にとって馴染みのあるやり取りだったようで。
(副部長だ…………)
(……副部長ですね)
(副部長じゃん……)
これ以上ないぐらい腑抜けた面を晒し、各々機器を片付け始めた。
なんともう1人の正体はヴェリタスの副部長――各務チヒロだった!
ヒマリといえど、外部からヴェリタスが保有するサーバーに入り込めばサーバーを管理しているチヒロに気付かれ、彼女の方から先んじてハレ達に警告される恐れがある。ならば先に事情を明かした上で彼女を仲間に引き込んでおけばその点を解決できると見込んだのだろう。
まさか身内の共謀だった事実に脱力するヴェリタス一行。
ヒマリはともかく、まさか真面目一辺倒なチヒロまで参加していたとは予想外な様子。そもそも、こんな遊びにここまでして参加する理由がまったく思い浮かばず混乱するばかりである。
「……まあでも、ある意味本当の部活対抗戦にはなったね」
「確かに……こんな形ですが、部員全員が揃うとは思いませんでした」
乾いた笑みを浮かべたハレが冗談交じりに呟いた言葉に、少し感慨深そうに頷くコタマ。
ちょっとした暇つぶしのつもりが、こんな事になるとは思いもよらなかったのだろう。
「でも先輩、モモたちには伝えなくていいの? 思いっきり部室の回線に入り込んでるみたいだけど」
そう言いながらマキが指差した先で、対戦の申込が来たことを示す表示が画面に表れていた。本来ならば互いにフレンド登録した者同士でないと申し込めないはずの機能だが、既に手は回していた模様。
それを見たハレはううん、と少し考え――
「……今は伝えないでおこうか。わざわざ正体を隠してるのにもワケがあるかもしれないし」
と、この場は静観に徹することを推奨する。
悪戯好きな一面こそあれ、基本的には後輩想いな性格を知っているからこそ、誰かを貶める可能性は低いと考えるハレ。それに加えて、ある意味ストッパーであるチヒロも一緒ならば、決して悪い方向へは進まないだろう――と、2人を信頼してるからこその判断であった。
それは他の2人にとっても同じ認識だったのか異存はなく。
何はともあれ相手を警戒する必要がなくなり、気が楽になった彼女達も気を取り直して2人の対戦へ注目しようと――
『――Winner is Kirby!』
終わってた。
試合時間およそ1分の出来事である。
アッという間に終わっていた試合に、唖然とする3人。
それは、観戦していたモモイ達も同じである。
肝心の試合内容はというと、何故か棒立ちしている相手に容赦なくカービィが攻めに入って、そのままゲームセット。たまに虚空に向かって手刀を振っていたようだが当たるわけもなく。
呆気ない顛末に、なんとも言えぬ空気が流れる。
そんな中、『ええっと』と、バツが悪そうな声が響く。
『これ、防御するのってどのキーなの……?』
チーちゃん、ド初心者だったとさ。
思わぬボーナスゲームを制し、いよいよヴェリタス側の最後の1人――大将・謎の美少女ゲーマーへと番が回る。
一方、ゲーム開発部側はまだ2人残っている状況。しかも大将のユズは格闘ゲームにおいて比類なき実力の持ち主。例えカービィが負けたとしても、彼女の存在は相手にとって大きなプレッシャーとなる。
――否、下手すればこのままピンクボールが圧勝することも十分にあり得る。
「カービィ、あと1人です!」
「このまま押し切っちゃってー!」
アリス達の声援を受け、ムンッとやる気十分なカービィ。
対するヴェリタス側は不安げな様子。そんな3人の気持ちを代弁するかのように、マキがひそひそと2人に尋ねた。
「……ヒマリ先輩って、ゲームできるの?」
「少なくとも、私は見たことありませんね」
「というか、できたとしてもあの子は間違いなく強敵だよ」
正直ヒマリが勝つビジョンが思い浮かばない3人。ハッキングの腕前や頭の回転については文句なしの一流だが、それがゲームの腕前に繋がるわけでもなく。
そんな3人の懸念を余所に、いよいよ始まる両者の対決。
ラウンド開始、と同時に本日好調のカービィが果敢に攻めに入る。
――そしてこの時、思いもよらない結果になることを、
――カレ自身も含めて、誰も予想していなかった。
『――Winner is UNKNOWN!』
目をまあるく見開く、ピンクボール。
それはカレだけではなく一部始終を見届けた他の面子も同じで。
その理由は、すぐにゲーム側から告げられた。
『――
パーフェクト・ゲーム。すなわち、
あろうことか、未来予知じみた直感の持ち主であるカービィを相手に、謎の美少女ゲーマーはやり遂げてしまったのである。
「う、うっそー……」
「ま、まったく攻撃が通らなかった……」
信じられない光景を目の当たりにしたモモイとミドリが声を震わす。
普通に負けるのであればまだしも、攻撃がまったく通じない事実は2人にとっても衝撃的だったようだ。
「いくら
「ひ、ヒマリ先輩ってこんなに強かったの……!?」
「これは……予想外の展開ですね……」
それは相手側のヴェリタス――ハレ達も同じだったようで。
ヒマリの圧倒的な実力に、驚きを隠せない様子であった。
ガックリと肩(?)を落とすカービィに、励まそうとオロオロするアリス。
一方で、その姿を後ろから眺めつつ、先の試合から相手の動きを分析するユズ。
(……相手は、”キド”使い。このゲーム最強のキャラ……)
キド。
カシオペアの拳における、全てのキャラの頂点に君臨するキャラクター。
このゲームを
本来ならばワザの癖が強く、扱うのが難しい玄人向けのキャラ――という謳い文句のハズだったが、蓋を開けるとそんな言葉では許されないほどの超高性能キャラであることが発覚。
その常識を逸する性能に、一部の界隈では――
『存在がバグ』
『ゲームが始まったと思ったら終わってた』
『お前のような病人がいるか』
――などといった、怨嗟の声があがるほど。
特に今回の試合において多用された、発生1Fの当身技(特定の攻撃を無効化しつつ反撃する技)が、この結果を引き起こした要因である。
この技が真に恐ろしいのは、発生の早さもそうだが、そこから
つまり当身成功から7~10割ほど体力が消し飛ぶ。あたまおかしい。
もっとも全ての攻撃を無効化できるのではなく、それぞれの攻撃に対応した当身技を選択しなければならないため、一概に無敵とは言えない。むしろ相手の行動を読み切らなければイタズラに隙を晒すことにもなり得る。
それをこの試合において、全て成功させた――その事実が、彼女に疑念を抱かせる。
直感なら、C&Cの一ノ瀬アスナにも負けないカービィ。運や人読みだけでカレを倒せるならハレが惨敗するはずもない。
唯一、方法があるとすれば――
(……技の出だしを見てから、なら……)
このゲームの通常技の発生フレームは基本的に5F(約0.08秒)以上。
その出かかりを見極めれば理論上、対応は可能。
――当然だが、人間には限りなく不可能の領域である。
世間一般的に人間の反射速度の限界は約0.1秒(6F)と謳われている。
仮に反応できたとしても、そこから正確なコマンド入力が必要となることを踏まえると更に猶予は少ない。
結論から言って、人間業ではまず不可能。
しかし、現にコレを為し遂げている。それは覆しようのない事実。
それを踏まえて、彼女は結論付ける。
その不可能を解決する手段を――!
(マクロスクリプト――あるいはAIによる、
つまり、プログラムによる自動操作。
れっきとしたチート行為である。
例えばAのワザに対し、Aを当身するワザを発生させる、といった行動をするAIを組み込むことで、入力操作などのタイムラグを減らし反撃を可能とさせている、というカラクリ。
実際、先の試合でもユズの目から見て、カービィの攻撃とともに当身の構えをしていたように見えたのでほぼ間違いないと確信していた。
とはいえ、それを相手側から認めさせるのは難しい。
よくあるゲーム内部のパラメーター等を弄っているわけではなく、あくまでも操作側の細工。相手がシラをきれば――例えば優れた直感の持ち主、と云えば追及はそこまでとなる。
そういう意味では、ユズの考えもあくまでも数ある可能性に過ぎない。
しかし、
彼女にとってそんなことは、
『ふふっ。では最終戦と参りましょうか』
物腰柔らかそうな言葉遣いが響く中、彼女はある方へと視線を向ける。
彼女の目に映るのは、未だにガックリしている小さなトモダチの姿。
――――腹の底で、
「だいじょうぶだよ、カービィ」
そう言いつつ、励ますかのように――安心させるかのように、まあるい頭を撫でるユズ。
それに気づいてかモモイ達含め、カービィがユズの方へと視線を向ける。
その視線を受けてか、彼女は柔らかく微笑んだ。
「――あとは任せて」
彼女にしては珍しく、自信に溢れた言葉と表情。
そんな彼女につられてか、ガックリしていたカレは一転して笑みを浮かべ、今まで励ましていたアリスもそれを見てホッと安堵の表情を浮かべた。
その一方で。
この中で彼女との付き合いが長い2名に関しては、全く別の印象を抱いていた。
(め……目が笑ってない……!!)
(あ、アレは、”UZQueen・マジモード”だ……!!)
いつもと違う彼女に戦々恐々とした想いを抱くミドリとモモイ。
あの状態の彼女は普段より頭の回転が1.5倍以上、動体視力が2.8倍以上アップしてるとか。
なぜ彼女があそこまで心中穏やかではないのか、まったく見当が付かない2人はただただ震え慄くだけであった。
最終戦――各々の陣営の大将同士の対決。
ユズ本人は知り得ないことだが、何気に部長同士の対決でもある。
謎の美少女ゲーマーが選んだのは先ほどと同じキャラ――このゲームの色んな意味での象徴でもある最強キャラ”キド”。
対するユズが選んだキャラは――
ジョインジョインジョイン
「……え、”シャギ”?」
「あれ? ユズの持ちキャラって”レイクゥ”じゃなかったっけ?」
彼女が選択したキャラに目を丸くするハレと、いつもとは違うキャラに首を傾げるモモイ。
普段使っているキャラと違うことに疑問符を浮かべるモモイはともかく、ハレが戸惑う様子を見せたのは、とある理由からだった。
キドが強キャラなら、シャギはその逆。
つまりこのゲームにおける下位キャラ――弱キャラと分類される側であるが所以だった。
そんな周囲の反応に全く意に介さず、静かに対戦の時を待つユズ。
それから間もなくして、試合の開始を告げるラウンドコールが響き渡る。
それと同時に動き出し、先制を仕掛けるのはシャギ。少し間合いを詰めてから高く飛び上がると、空中から攻撃を仕掛ける――が。
『ゲキリュウヲセイスルハセイリュウ……』
「ああっ、またあの当身技です!」
「マズい……コンボが入る……!」
知ってた、と云わんばかりに返され、相手とは反対側に吹っ飛ばされるシャギ。
それを『ユクゾッ』と言いながら瞬間移動じみた移動技で追いかけるキドの姿にアリスとミドリが悲痛な声を漏らす。
吹っ飛ばされたシャギはステージの端まで飛ばされ、壁に叩きつけられる――と同時にキドが追いつく。冗談みたいな話だがここからコンボが始まってしまうまでがこのキャラのテンプレ。
先ほどのピンクボールの二の舞か。
誰もがそう思っていた――が。
なんと、キド側がコンボの途中でシャギを落とす!
相手のミスで何とか3割ほどの体力を失うだけで被害は収まった。これでも軽傷なのがこのゲームの恐ろしいところ。
しかし、そこから始まるキドの猛攻。一方のシャギはコレを防ぐ。
防戦一方な展開になってきたことに不安の色を隠せないゲーム開発部側――と思いきや、
『バカモノォ!』
「ガーキャン……!」
「なるほど、技の発生前なら当身は出せませんからね」
必殺技ゲージこそ必要なものの、ガード中のみ繰り出せるガードキャンセルにて反撃を繰り出すシャギ。
いくらキドでも技を繰り出す前なら当身は取れない。それを冷静に狙う判断力にハレとコタマは感心する。
なおタイミングを見誤るとガーキャンも当身で返される。くるってる。
なんとかキドを画面端まで吹き飛ばし、危機を脱したシャギ。
距離が離れたのを見計らい、どこからか取り出したジェリカンで『ニゲラレンゾ~! 』とガソリンを地面に撒いてから、『シニヤガレ~! 』とこれまたどこからか取り出したショットガンで牽制弾を放つ。
――ところでキドの当身について、普通に考えて打撃技のみ対応している、と考えるのが大部分だろう。
「いやいやいやオカシイでしょ!!」
「うーわ……そのまま跳ね返してるよ……」
なんと、飛び道具用も兼ね備えております。
ショットガンの弾をキレイそのままに跳ね返すステキ性能に我慢ならず憤慨するモモイ。いちおう味方側であるはずのマキもその光景に引き気味に反応した。
ついでに当身成立と同時に無敵が72F(1.2秒)付いてくる。いらない。
その後、すぐさま間合いを詰めようと急接近を仕掛けるキド。
対するシャギは反射された弾を冷静にガードしてから、火のついたマッチを少し前方――丁度、先ほど撒いたガソリンの上へと放り捨てる。
するとマッチの火がガソリンに引火し、巨大な火柱の如く燃え上がる!
流石にキドもガードでその場を凌ぐ。するとその隙にシャギはやはりどこからか取り出したドラム缶を置き始める。
――その時である。
――奇妙なことが起こった。
なぜかキドが当身の構えをし始めた。
シャギは特に攻撃をしているわけではない。近くにドラム缶を置いただけである。
その隙に再びシャギがマッチを放り投げると今度はドラム缶に引火。再び巨大な火柱が上がる。
当身は――発動せず、そのまま火に呑まれダウンするキド。シャギはそのスキに倒れてる相手の近くへ再びドラム缶を置く。
①.立ち上がるキド、当身の構え。
②.マッチ、ドラム缶着火、炎上(たまにカウンター判定)。
③.ダウン。
④.『ヌェヘヘヘ!』とドラム缶を置くシャギ様。
⑤.①に戻る。
珍妙な現象に呆然とするギャラリー。先ほどまで見せていた超絶プレイが噓のようである。
一方、『これは……!?』と驚愕した反応を見せる謎の美少女ゲーマー。彼女自身思いもよらない事態なのだろうか。
――そして、この異常事態を引き起こした張本人はというと、
(やっぱり……技に反応して、当身を取り続けている)
冷静に、自身の予想が的中していたことに確信を抱くユズ。
カービィとの対戦で相手が”特定条件において、反撃行動をとるAI”であると仮定したユズ。
そして”ある可能性”を確かめるため、開幕直後の空中からの差し込み。この時、彼女は少し高い位置から攻撃が当たるように位置を調整していた。
案の定、当身は発動しそこから相手のコンボが始まる――かと思いきや、途中のコンボミス。
そこから猛撃が始まるも、冷静にガーキャンで対処。
そこで、彼女の中の予想が確信へと変わる。
相手の正体――というよりも、相手のプレイスタイル。
(――――初心者)
高い位置に調整しただけでミスるコンボ。恐らくAIのアルゴリズムに組み込まれた入力を自動で行うようにしているのだろうが、位置関係によっては的確に技の選択を変えなければならないのが格闘ゲーム。コンボレシピだけ知っていればいい、という話ではない。
つまり、マクロスクリプトを組み込む頭脳や技量は有しているが、格闘ゲームに関しては素人同然。あくまで相手の攻め――攻撃技に万全に対応できるようにしているだけなのだと、彼女は想定した。
その対抗策として用意していたのが”ドラム缶ハメ”。
ドラム缶をただ置く行動も、シャギのリッパな技行動。それをAIが攻撃技と認識した結果、当身技を選択。しかし攻撃ではなくドラム缶を置くだけなので当身は成立せず、あとはご覧のあり様。
まさしく、AIの条件反射を逆に利用した戦術である。
人間相手ならまず成立しないハメだが、今回の相手なら話は別――彼女がシャギを選んだ理由の1つでもある。
なおやってることはドラム缶とマッチを出し続けているだけだが、一応コマンド技なのでミスると当身に通常技が入って死に直結する。世紀末において油断は死を意味するのである。
――もっとも、このハメ技すら準備でしかない。
そもそも、ユズ本人を除いて、この場にいる全員このゲームの神髄に気付いていない。
キャラ性能も大事だがそれだけでは猛者には届かない。全てを握るのは共通システムの方。
彼女が欲しかったのは2つの要素。
超必殺技を発動させるために必要な必殺ゲージ――その下に並列する、もう1つのゲージが十分に溜まっていること。
そして体力ゲージの下に隣接する――まるでカシオペア座を模しているような独特なゲージ。
その5つの内、相手側だけ2つ分黒く染まっていることを彼女は間違いなく確認した。
結局、あのまま
またの名を明星ヒマリ。
かなりお粗末なやられ方をしてしまった彼女だったが、その表情に焦りの色は無い――寧ろ、どことなく楽し気な様子さえ感じさせる。
「なるほど、コチラの戦術を読み解いた……と考えて、間違いないでしょうね」
ふふ、と笑みを零す彼女だが、すぐにホログラムで構築されたキーボードを表示させると淀みない手捌きでタイピングを始める。ピピピ、という電子音が彼女の指に合わせて忙しなく鳴り続けていたが、数十秒後にはそれも収まる。
「――では、これならいかがでしょう?」
不敵な笑みを浮かべるヒマリ。
今度はそちらが慌てふためく番だ、と云わんばかりに。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
5-3
2ラウンド目、開始。
大将戦と云えどルールに変更はなく、2ラウンド制した方が勝者となる。
現在1ラウンド先取したのはユズが操作するシャギ。片やもう後がない、ヒマリ(というよりもAI)が操作するキド。
それを知って知らずか――
『ユクゾッ』
(――攻めてきた……っ!)
開幕から、ナギッによる急接近。ユズの目が見開く。
互いの距離を一瞬で詰めるその光景は圧巻である。
しかし、シャギも冷静に防御を固める。
このぐらい対応できなければこのキャラとまともにやりあうことなどできない。
キドの猛攻が始まる――が、これは先ほども見た光景。
観戦している誰もが、先と同じようにガーキャンで切り返すだろうと考え――
『ユクゾッ、ユクゾッ、ユクゾッ』
「は?」
誰かが声を漏らしたかもしれないし、見てる全員が思わず呟いたのかもしれない。
兎にも角にも、あまりにも目を疑う光景が繰り広げられていた。
――攻撃をしていたキドが次の瞬間にはシャギの背後に回って攻撃をした、
――かと、思えばまた背後から攻撃を仕掛けていた。
通称ナギッ――技名は”カシオペア無双流舞”というらしい――という移動技。
瞬間移動と思わせるほど、移動技として破格の速さに目を奪われがちだが、この技こそこのキャラを象徴する要因の1つと言っても過言ではない。
この技は移動技であるが、あくまでも必殺技の類い――つまり通常技の発生後硬直を(流石に可能なタイミングは設けられているが)キャンセルが可能。
もっともこの仕様は他のキャラも可能、というより通常技を必殺技でキャンセルできること自体は他の格闘ゲームでも珍しいことではない。
問題は――
なんならナギッからキャンセルしてナギッが繋がる。永久機関か?
これを悪用した場合、どういう結果を招くかというと――
①.通常技を振る(
②.相手がガードした場合、技の硬直をナギッでキャンセル。
③A.ナギッの硬直を通常技でキャンセル。ガードされたら②に戻る。
③B.互いの位置関係やナギッの移動距離によって、相手の背後に回る(相手のレバー方向が逆になる=ガード方向が逆になる)。ガードされたら②に戻る。
④.ぶちころす
※この一連で防御側が動けるのはおよそ2F(約0.033秒)ほど(2D⇒ナギッから2Aまでの間)
※あくまで一例です
アホみたいな話だが、対キド戦においては日常茶飯事である。永久機関だコレ。
これに崩しの下段、空中からの差込み、投げなどを交えるとステキで愉快なことになる。
一応、猶予はあるにはあるので発生の早い技や無敵のある技で切り返せる――が、性質が悪いことに裏回りされた場合、攻撃を盛大にスカし隙を晒すことも多々ある。
更に言えば、相手に向かって瞬時に斜め上に飛び上がるナギッ(通称Aナギ)も搭載済み。攻撃をスカされた後、差込みの
では予め技を置いてナギッを牽制しておけばいい――という簡単な話でもない。
どういうわけか移動中、なぜか
このように、この技ひとつでありとあらゆる攻めが可能となる。
今、モモイ達が見ているのもその光景の1つに過ぎない。
――当然、こんなヤツを相手にさせられる側が納得いくわけもなく、
「は、反則だ! インチキだ! クソキャラだ!!」
「こ、こんなの勝てるわけないじゃん!!」
「あ、アリス知ってます! これはバランスブレイカーというヤツです!!」
”モグモグ”
今も『ユクゾッユクゾッ』と鬼畜な攻めを続けているキドを指差し、猛烈に抗議するゲーム開発部側の3人――”モモイの!”と書かれたスナック菓子の袋を手に持ち呑気に観戦しているのは1匹はさておき。
片や、非難の対象にされてしまったヴェリタス側であるマキ達。”なんで私たちが”と心の中でぼやきつつ、正直このキャラについて援護できる点が思いつかないのか、モモイ達の猛抗議に困り果てるのみ。
相手側だけに飽き足らず、味方側すら被害を与えるとは、なんと業の深いキャラなのだろうか。このキャラそんなのばっか。
にわかに外野が騒がしくなる、その一方。
こんな理不尽の極みに晒されている張本人である、花岡ユズは――
(――……だいじょうぶ、ありふれた攻めパターンしかやってきてない。表裏と下段の崩しだけ注意すればいい)
周りの喧騒とは裏腹に焦り顔ひとつせず、恐るべき動体視力と瞬時の判断力により攻撃を防ぎながらも、冷静に相手のパターンを見極めていた。
そもそも彼女は知っている――相手はあくまでも特定条件において与えられた命令文を実行するだけのAIでしかないことを。
1ラウンド目の敗北から瞬時に行動パターンを変更してきたのは確かに凄いが、やはりゲームへの理解が足りていない。この状況で投げを振らないのも、対戦において投げの重要度を知らないがゆえ――そもそも投げから即死できるというのに。
とはいえ、AIゆえにミスはない。
対人戦ならあり得るコマンドミスは、この場に限り期待できない。
何よりも、今だからこそまだ戦える。
相手がこのキャラの強みを真に理解してしまった場合、本当に手が付けられなくなる。特にキドの超必にまで目を付けた瞬間、敗北は確実。
――――ここで決める。
猛攻を何とか凌ぎ続けていたシャギ――だが、迂闊な反撃ができない状況は続く。
正面からと、思いきや背後から――と思えば、今度は空中からの差込み。
自由自在ともいえる攻めを繰り出すキドに対し、ユズが操作するシャギは的確に攻撃を防ぎ続けていた。
(チャンスは、次……!)
傍から見ればあまりにも苦しい展開が続く中、彼女は虎視眈々と機をうかがう。
AIだからこそ、ある意味で正確。
基本的に操作難易度が高いこのゲームにおいて、見事なまでにミスはない。
――同時に、何回も繰り返されたパターンを間違えないことも。
すぐさま、クソつよ判定の
『カシオペアラカンゲキ~ッ!』
それを待っていた、と云わんばかりにシャギが吼える。
しゃがみ小パンなど関係ない、と云わんばかりに素早い突きを繰り出し、このラウンド初めてキドにダメージを与えた!
弱キャラと謳われるシャギだが全てが弱い、というワケではない。
このゲームにおいて弱い、というだけで、数は少ないモノの優秀な技自体は持ち合わせている。
その1つがこの超必殺技――”カシオペア羅甘撃”。
火力こそ低いが入力成功から暗転0F、からの2F後に攻撃判定が発生――なおこのゲームにおいて最速発生。
更に暗転から発生後まで無敵が付くというステキなおまけ付き。必殺ゲージを1本分使うとはいえ、この地獄みたいな責苦においてシャギが対抗できる数少ない手段だった。
その瞬間を目の当たりにした一同(なぜかマキ達も)が思わず歓声を上げる。
いつだって、下馬評を覆す瞬間は誰もが心躍るものである。
7連続の突きが決まり、キドは画面端でダウン。吹き飛ばされたキドを追い、駆け出すシャギ。
1割程度の差だが体力はシャギ側が有利。誰もが希望を見出した瞬間であった。
(――そう。そこで攻めたいと考えてしまうのが人の性)
そんな場面に対し、予想の範囲内だと不敵な笑みを浮かべるヒマリ。
あんな怒涛の攻めを受けた以上、誰だってこの機を逃さず攻めてくるはずだ、と読んでいた彼女は、予めある細工を企てていた。
ダウン上がりにおける、起き攻め――それに対するカウンター。
起き上がりから1Fまでを様子見に徹しさせ、行動パターンを分岐させる。
例えば通常技を確認した場合、その技に対応した1F当身。先ほどのドラム缶のような必殺技ならリバーサル超必で反撃。様子見の棒立ちなら、こちらから通常技を振る、などなど。
そこからコンボを決めれば7割以上は簡単に削れるうえに、今度はコチラ側が起き攻めができる有利展開にまで持っていくことも可能。
先ほどの失敗を活かし、キドが攻めている間にそれぞれに対応できるパターンを作り出していたヒマリ。このゲームにおいて理解が足りていないことは彼女自身、百も承知。ならばその都度対応できる手段を増やせばよい、という結論に至った模様。
さあ、どう切り抜けるか――と、起き上がるキドに対するシャギの動きに着目するヒマリ。
片や、シャギ側の行動は――
――様子見の、棒立ち!
AIがすぐさま通常技を選択。
ほぼ隣接状態であることを踏まえ、キドが振る技は安心と信頼の発生5Fのしゃがみ小パン!
これが通れば、7割消し飛ぶ理不尽なコンボが始まってしまう――しかし、ガードしたとしてもあの攻めをいつまで耐えきるのは至難の業。いつかは攻撃が通り、あっという間に形勢は逆転するだろう。
『オイ』
『そこに座れ……』
圧の籠った一声が、響き渡る。
思わずヒマリは目を疑った。一瞬で切り替わった2人の姿に。
AIは間違いなくシャギの棒立ちを認識した筈。
しかし彼女の目に映ってきたのは、攻撃する筈だったキドがどこからか現れた地味目の椅子に座らされている姿と、その相手にショットガンを突き付けるシャギの姿。
わかりにくいが、シャギの
なぜか相手を座らせる投げである。投げなんだって。
一体何が、と困惑する彼女を余所に場面は進んでいく。
反応しないキド相手にやがて痺れを切らしたのか、シャギは突き付けたショットガンを発砲――
『なぁんだその目はァ!!』
なんてことはせず、上段から振り被った肘打ちをかます。撃たねえのかよ。
そのまま殴打を受けたキドが少し吹っ飛ぶ――もっとも既に画面端を背負っている為、少し浮き上がった、と云った方がいいか。それを見て少し冷静さを取り戻すと同時に、キーボードに指を走らせるヒマリ。
(――問題ありません。先ほどの行動に対するカウンター行動を組み込めば……)
シャギの弱い点としてよく挙げられるのが、基本コンボの火力が他キャラと比べ乏しい点。他が基本コンボで5割ほど削る中で、3割ほどしか削れないのはかなりの痛手。
それぐらいは知っていたからこそ、彼女は落ち着いてダウン後の行動パターンを修正しようと、
――そして”次など無かった”ということを、思い知らされる事となる。
空中に浮かぶキドに小突く様な肘打ち――からの浴びせ蹴りで追い打ちをかけるシャギ。
少しでもダメージを与える算段か――と思いきや、
『――メガイモウトニニテイル……ッ!』
「え、あ、あれ?」
「い、今明らかに挙動がおかしくなかった……?」
蹴りを当てた瞬間には妙なことを呟きながら攻撃に移っているシャギ。明らかに過程をすっ飛ばしたような動きにモモイとマキが疑問符を浮かべる――
間もなく。
『――バカメ!』
「ま、また……!?」
「あ、あの……ユズちゃん……?」
再び不自然なモーションのすっ飛ばし。何事もなかったかの様にシャギは横へ蹴りを放つ。
時が飛んだような奇妙な光景に戸惑うコタマと、アケコンを目にもとまらぬ手の動きで操作する本人へ思わずおそるおそると問いかけるミドリ。アリスとカービィに至っては何が起こっているのか判らずキョトンと画面を見つめているのみ。なお、ユズ本人からレスポンスはない。
不可思議な現象に一同が困惑する中。
ただ一人、この現象に心当たりがあったハレが戦慄した表情を浮かべた。
(――まさか、”ブーストキャンセル”……!?)
ブーストキャンセル――通称ブーキャン。
文字通りブーストによって、技の硬直を文字通りキャンセルする行動である。
そもそもブーストとは、ダッシュ移動よりも速く相手に接近・後退するこのゲーム特有のシステムの1つであり、奇襲を仕掛けたり逆に距離を離す――といったように、攻守どちらにも応用が利く画期的なシステムである。
発動には専用のゲージが一定以上溜まっていなければならないが、これによって戦略性や駆け引きに幅が広がり、周囲からは概ね良好であった――
問題なのが、このブーストにより
通常技はもちろん、必殺技や一部の投げ技もキャンセル可能――これにより本来繋がらないはずのコンボが繋がり、ゲージが続く限りコンボが続くといった珍事が起こる。
更にブースト中に別の行動をした際、その慣性がそのまま残るので一定距離まで地面を滑りながら攻撃するなんて芸当も可能。加速がかなり速いことも相まって、見えない下段が画面端から飛んできた、なんてことはよくある話。
とはいえ、これだけなら正直そこまで問題点には上がらない。
キャンセルにもゲージを消費するので、コンボが伸びると言ってもゲージが尽きればそれまで。3割減るコンボが、5割になる程度である。なんだたいしたことないじゃん!
――それに劇薬を与えてしまったのが、
「――あ」
全員が――操作中のユズは除く――が声を漏らした。
キドが蹴りを受けた瞬間、画面上部に苦悶に満ちたキドの顔が映ったカットインが差し込んできたのである。
自分達では発生させた事は数少ないモノの、コレの意味はこの場にいる誰もが知っている。
現にキド側の体力ゲージの下を見れば一目瞭然。
このゲームを異質たる存在にさせた元凶の1つ。
カシオペア座を模した――”五星ゲージ”。
それに寄り添うように、1つの星が眩く光り輝いていた。
五星ゲージとは、その名の通り5つの光り輝く星を並べたゲージのことを指す。
5つなのはカシオペア座の星の数に倣ってとか。
この星は試合開始の時点で互いに5つ存在しているが、特定の技をヒットさせたり必殺技をカウンターヒットさせることで相手側の星が減少。そして5つの星すべてが消失した状態でのみ、ゲージのすぐ下に新たな星が出現する。
それこそが”死兆星”。
見えると近々死が訪れると謂われる、紛うことなき凶兆の報せ。
それはこのゲームにおいても例に漏れず、”この星を相手側に光らせている状況下”にのみ、”一撃必殺奥義”を放つことができる――つまり相手は死ぬ。
とはいえ、特定の技を当てなければならなかったりとか、カウンター狙いで必殺技を当てなければならなかったりで、星を減らすこと自体はなかなか難しい。
その上、ラウンドを跨ぐことで互いに星が1つ回復するため、思った以上に5つ分減らすのは骨が折れる作業。そもそも肝心の一撃技は発生が遅かったりでコンボに組み込むのも一苦労。
いくら発動条件が難しいからとはいえ、安易に一撃技を組み込ませない、という開発側の配慮だろう。なんだちゃんとかんがえられてるじゃん!
――――ブーキャン使えば星取った上で一撃入るんじゃね?
①.ハメ技でカウンターヒットが2回=星2つ取る(ドラム缶は必殺技扱い)。残り3つ。
②.ラウンド跨いで1つ回復、その後
③.投げからの近A⇒近Dブーキャンからの
④.はいヒカった~^^
頭上で死兆星が輝くキド。
しかし、未だに少し地面から浮いた状態である。
一方、ブーキャンによりシャギは蹴りを当てた瞬間には既に肘打ちの動作が始まっている最中。
再び肘打ちから浴びせ蹴りのコンボをお見舞いする――その時。
『コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ……』
上段から振りかぶった拳打がヒットした瞬間、画面にシャギの顔を映したカットインが入る――と同時に、パイプがへし折れた高さ2mほどの燃料タンクがどこからともなくシャギの背後に出現。ちなみに暗転中の演出のため、キドはこの間ずっと宙に浮いたまんまである。
いつの間にか火を点けていたマッチを放り投げる、と同時にシャギは燃料タンクの天辺へと飛び上がる。マッチはそのまま地面の――へし折られたパイプから漏れ、そこら一帯に巻き散らかされたガソリンの上へと落ちる。
マッチの火がガソリンに引火。
画面いっぱいに炎が燃え盛ると共に、為す術なく豪快に焼かれるキド。
燃料タンクの上で『ドウダクヤシイカァ〜!』と指差した相手を煽りながら高笑いを決め込むシャギ。
やがて燃料タンクが限界を迎えたのか、画面全体に爆発が起こる――でもシャギ様は無事です。
爆発後の煙が晴れると同時に、姿を表す両者。
片や力尽きたかのように大地へ横たわるキド。片や毅然と大地に立つシャギ。
どちらが勝者なのかは、火を見るよりも明らかである。
『――Winner is Uz!』
『PERFECT!』
それを裏付けるかのように、勝者の名を告げる声が上がる。
先ほどの意趣返しと云わんばかりに、”パーフェクト”の言葉を添えて。
勝者が決まったというのに静まり返る室内。
ぶっちゃけ最後の方、何が起きていたのか理解できてないのが全員の本音。通常投げが決まってから約10秒ぐらいの出来事である。
そんな空気の中、ふうと一息ついてから、
「……こんなふうに、どんなキャラでも勝つことはできる、から」
と、慎ましく笑みを浮かべたユズが、試合を観戦していた一同へと言い放つ。
それがシャギを選んだ最大の理由――先の言葉に籠められていた、彼女が伝えたかった事。
”
彼女の勝利に純粋に喜ぶカービィと、今の言葉になるほどー、と目を輝かせるアリス。
その2人を除いた、各々が揃って同じことを考える。
――いや、
このゲームの世紀末っぷり――その事実をこれでもかと見せつけられた少女達。
そんな修羅の世界で生きている
『――……はい。セミナーの方にはセキュリティが正常に動作してるかのテストしてたとか、そんな理由で誤魔化しといたから』
やや疲れたような声色で相手先に報告しているのは、ヴェリタスの副部長――各務チヒロ。どうやら今回のイタズラにおける後処理をなんとか済ませたようだ。
マキのスマホはヴェリタスのサーバーを経由して通信を行っているが、ゲーム開発部のゲーム機に関してはミレニアム側のサーバーを経由しての通信。気付かれる可能性は低いとはいえ、万が一を考え、もっともらしい理由を用意していた模様。
そんな彼女と現在、連絡を取り合っているのは――ヴェリタスの部長、明星ヒマリ。
「ありがとうございます、チーちゃん」
『まったく、急に連絡してきて何かと思えば……これっきりにしてよね』
感謝の言葉を告げるヒマリに対して、呆れた様子でチヒロは返答する。
最終的には協力をした彼女ではあるが、実際の所あまり乗り気ではなかったのか、少し腑に落ちない様子。
そんな彼女に対し、「まあまあ」と宥めるヒマリ。
「いいではありませんか、良い息抜きにはなったでしょう?」
『私一方的にやられただけなんだけど???』
「まあまあ」
せめて操作方法ぐらい教えておけ、と文句の1つでも言い兼ねないチヒロに対し、どこ吹く風と云わんばかりな様子のヒマリ。そんな彼女ともなんだかんだ長い付き合いがゆえに、言うだけ無駄だと理解していたチヒロは文句の代わりに溜息を吐く。
――すると突然、やや疲れ気味だった表情を引き締め直すと、
『それで、ここまでする本当の目的はなんなの?』
ただ単に遊びに興じたかった、ってワケじゃないでしょ、と言葉を付け足しながら彼女は今回の目的について言及した。
ここまで準備した――特にミレニアム側へは正体を明かさないため、わざわざ外部サーバーからアクセスし、事を大きくしない為に自分まで引き込んだ――その手間を考慮すると、もっと別の狙いがあったのではないか、と考えたようだ。
その問いに「そうですね……」と少し考える素振りを見せた後、ヒマリは今回の目的を明らかにする。
「……あらためて確かめておきたかったのです。あの2人が一体どういう存在なのかを」
『あの2人……って?』
「もちろん、カービィとアリスのことですよ」
真剣な表情を浮かべ、立て続けにヒマリが答える。
彼女曰く、今一度2人の性格や精神性――善意の有無を確認する必要ができたと。
はたしてミレニアム――ひいては”キヴォトス”にとって災厄となり得るのか、と。
想像以上に重要な話が飛び出してきたことに、眉間を顰めるチヒロ。
不穏な気配が漂い始めてきたことに、気を引き締め――
「まあ、問題ありませんでしたが♪」
――だったが、あっけからんと態度を変えるヒマリに、呆気にとられたような表情を浮かべる。
それからイタズラが成功したようにクスクスと笑う彼女に、してやられた、と云わんばかりに今日何度目かの溜息を零す。
『……もう、驚かせないでよ』
「ふふっ、ごめんなさい」
口では窘めるような言いぐさをするチヒロだが、物騒な話にならなくてよかったと安堵しているのか、その表情は先程よりも柔らかい。対するヒマリも「元々、この澄み切った空のように広大な心の持ち主である私は心配していませんでしたので」と、あくまで確認に過ぎないことを強調する。
「――”彼女”は、そう考えてはいないみたいですが」
そんな中、思い出したかのように憂鬱そうな表情を浮かべたヒマリが呟いた。
『彼女……――ああ、成程。相変わらずみたいだね』
「ええ、ええ、まったく。どうしたらあんな下水道に流れる水のような性格になるのでしょう、全知にして聡明な私でも理解に苦しみます」
誰に対することなのか察しがついたチヒロに対して、火が付いたようにその人物へ向けて辛辣な言葉を述べていくヒマリ。この様子だと相当苦労しているようだ、と想像に難くないチヒロだが、このままでは話が進まないので『まあまあ』と今度は彼女が宥める。
その甲斐あって少し落ち着いたのか、こほんと咳払いを挟みつつヒマリは話を戻した。
「その証拠に先日、火薬研究部の開発した”ハイブリッド火薬”をセミナーが差押えました」
『ハイブリッド火薬って……確かミレニアムプライスに出展してた、アレのこと?』
チヒロの疑問に「その通りです」と彼女は頷く。
「表向きは”危険性を考慮して”とのことですが……本音は
『そんな事情で発明品を差押え……? 火薬研究部の子たちは納得したの?』
「今年度の部費を増額することで折り合いをつけたみたいですが、”させられた”と云った方が正しいでしょうね」
敢えて淡々と答えるヒマリの話に『信じられない』とこめかみを押さえるチヒロ。
発明品を押収されるということは、それまでの苦労や努力を取り上げられるのも同じ。そんな横暴が過ぎる行為に、流石の彼女も憤りを感じずにはいられなかったようだ。
その一方で、話の中で気になった点について彼女は尋ねる。
『そもそもあの子ってそんなに危険なの? C&Cのエージェントと戦えるのは聞いてたけど……』
「それについては、この天才美少女の私も計りかねています。なにしろ情報がまったく無いものですから」
――
数日前、思わぬところで知ったカレの正体。
ヒマリ本人としては非常に興味深い内容ではあったが、彼女の協力者曰く公にすると混乱を招く恐れがある、ということでカレの能力や正体について知る者達への情報規制が決まった。
なお、その場で正体を知ったセミナー部員はもとより、ゲーム開発部の4人にも当然口止めということで――
『いい? このことは絶対他の人には話しちゃダメよ。特にモモイ!』
『なんで私だけ名指しなのさ!?』
――なんてやり取りがあったりなかったり。
ともあれ、事情の知らないチヒロからすればあのピンクボールがそこまで危険なのか疑問を抱くのは当然の話。先の言葉通りヒマリ本人としては心配はないと考えてはいるが、情報が不確かなのも事実。ここは知らぬ存ぜぬで話を流すことに。
そんな彼女の返答に納得がいかないものの、なんとなく状況を察したチヒロが『……なんだか面倒なことが起こりそうだね』と難しい面持ちで不穏な事を呟く。
「杞憂で済めばいいのですけどね」
『それで済んでたら今までだって苦労してないでしょ』
やや棘のある返しに「そうでしたね」と苦笑を交えて頷くヒマリ。
「近いうちに、またお願いすることになるかもしれませんが……」
『いいよ。今日みたいなことじゃなければ、ね』
少し申し訳なさそうに協力のお願いをするヒマリに、肩を竦めながらも了承の意を返すチヒロ。
片や、あっさりと返答されたことに目を瞬かせるヒマリだったが、次第に柔らかく微笑むと「ありがとう、チーちゃん」と感謝の意を伝えた。
それから久しく顔を合わせていなかったこともあり、近況の報告も兼ねてしばしの談笑に興じる両者。
その際に、『そういえば』と少し非難めいた視線を送るチヒロが尋ねる。
『さっきの対戦だけど……ちょっとやりすぎだったんじゃない?』
「ふふふ、いいのです。アレは彼女たちへ私なりの”助言”でしたから」
悪びれる様子のないヒマリに対し、『助言?』と聞き返すチヒロ。
「完璧に思える相手でも、必ず弱点はある――それを理解して頂ければ十分でしたから」
(……その割には負けて落ち込んでたように見えたけど)
得意げに笑みを浮かべるヒマリに対して、敗北時の彼女の様子を思い返し微妙な表情を浮かべるチヒロだった。
「――あ、そうだ」
部活対抗戦も終え、罰ゲームを見事回避したゲーム開発部。
罰ゲームを回避したミドリが満面の笑みを浮かべたのは別の話。
なお、罰ゲームを受けたヴェリタスの3人はというと――
『ハッカー描写が気に入らない映画の制作会社のホームページをクラッキングした、かな』
『シャーレに盗聴器を仕掛けようと画策してました』
『グラフィティを描きに街中ウロウロしてたよ~』
と、ここ1週間の中で記憶に残っていたことを特段ためらうことなく答えた。色々と問題行為が混じってるがキヴォトスなら仕方ない。たぶん。
寧ろ”いやー今日いいモン観れたわー”とばかりに最後の対戦内容に満足してたとか。
一方、突如ハッキングしてきた謎の美少女ゲーマーは対戦が終わるやいなや通信が途絶えてしまい、結局モモイ達がその正体を知ることはできなかったとか。
ともあれ、対抗戦が終わりヴェリタスの3人が引き上げた後。部員達に落ち着きが見え始めた時を頃合いにユズが部屋の片隅に置いていた袋を持ってくる。
それをなんだなんだ、と疑問符を浮かべるモモイ達だが、袋の中身を覗きこんで目を輝かせた。
彼女達の目に映りこんだのは、それぞれ違うトッピングをした3つのクレープであった。
「帰り道の途中で買ってきたの。わたしとカービィだけ食べるのも気が引けたから……」
「ゆ、ユズ……!」
「ユズちゃん……!」
えへへ、と少し照れくさそうに笑うユズに対し、感極まったように声を漏らすモモイとミドリ。
一方、クレープの数に疑問を抱いたアリスが首を傾げる。
「3つでは、2人分足りないと思いますが……」
「だいじょうぶ、わたしとカービィはもう食べたから」
その疑問に答えるユズ。そういえば部室に帰ってきたときにカービィがクレープを食していたことを思い返し、なるほどとアリスは納得した。
――そんな時、物欲しそうにジッとクレープを見つめるオトモに気が付く。
2つも食べたというのに、まだ食べたいらしい。
そんな食いしん坊の様子にクスリと笑みを浮かべると、
「じゃあアリスの分を半分こしてあげます!」
と、アリスは手にしたクレープを半分にし、それをカービィに手渡す。
するとクレープを手渡されたカービィは表情を一転。目を輝かせ、嬉々とした表情を浮かべてはピョンピョンと跳ねてはしゃぐ。
そんなカレの喜び様に嬉しそうにするアリスに、「アリスちゃん、いいの?」とミドリが問いかけると彼女は「はいっ」と頷いた。
「ユズの護衛と対抗戦をこなしたオトモを労うのは、勇者として当然の役目ですから」
そう口にしつつ、得意げに胸を張るアリス。
そんな彼女を微笑ましく見るミドリ達。その一方で念の為、ということで苦笑いを浮かべたミドリが忠言する。
「あんまり甘やかしすぎないようにね、この子食べ物なら際限なく食べちゃう――」
から、とそう言いかけている時である。
彼女の脳裏に、ある記憶が蘇る。
それは、カービィとハレが対戦する直前――なんとしても勝利を欲していた彼女が発した言葉。
――勝ったら
イヤな予感を覚え、恐る恐る自身のお菓子を保管している棚へと視線を向けるミドリ。
ついでにその隣の
まさかたった一試合の観戦中にすべて平らげてしまうとは。あな恐ろしや、ピンクの異星人。
棚の方へ顔を向けたまま硬直した妹が気になったのか、「どったの?」と呑気に疑問符を浮かべたモモイもその方向に視線を向け――仰天した。
「な、ナンデ!? どーして?! ナゼ!!?」
半ば狂乱状態に陥るモモイ――だったが彼女にも心当たりが浮かんだのか、ハッ、と気が付くや否や食い尽くしたであろうピンクボールへと一度目を向けたのち、この事態を引き起こしたであろう
その視線から逃れるように、気まずそうに目を逸らす元凶。
それが却って、自ら罪を認めている行為と捉えたモモイが「ミドリィィ!!」と詰め寄った。
「ちょ、ちがっ、アレは全部って意味じゃ……!」
「だとしてもなんで私の分まで含まれてんのさ!?」
「い、いやあの、それだけじゃ足りないかなぁ、って……」
「なおさら自分の分で補ってよォ!!」
怒り心頭なモモイにたじたじなミドリ。
どの世界においても食い物の恨みは恐ろしいモノなのである。
「お、落ち着いて、モモイ……」
「な、仲間割れはいけません、全滅フラグが立ってしまいます!」
そんなモモイにオロオロしつつ、どうにか宥めようと試みるユズとアリス。しかし、そんな健闘空しく彼女の怒りは収まることなく――ついにはミドリの肩を掴んで身体をガクガク揺らし始めた!
「もおぉぉ!! どうしてくれんの私の愛すべきお菓子たち!!」
「そ、そんなこと言っても、もうカービィの胃の中だし……!」
「じゃあ今すぐ取りに行って来てッ!!」
「無理言わないで!?」
いよいよ荒唐無稽なことを言い出すモモイの拘束から一旦逃れようと、ミドリが腕を伸ばす。
しかし、身体が揺さぶられているせいか、彼女の手はあらぬ方へと伸びてしまう。
その時、ユズが持っていた袋にミドリの手が当たる。
その衝撃のせいか、クレープを固定するために厚紙で作られた容器が袋から飛び出す。
――――必然、まだ入っていた2つのクレープも飛び出す。
『あ』
4人の呆気にとられた声が、重なる。
宙を飛ぶ2つのクレープが向かう先は――
そんなオトモもこちらに飛んでくるクレープに気が付く。そこで2つともキャッチしモモイとミドリの分を死守する――なんて殊勝なことは考えていない。
落ちている食べ物を食しつつレースを繰り広げたり、1つのケーキのために宇宙の彼方まで追いかけるぐらいには、カレの食い物に対する執念は凄まじいのだ。
ニコニコと笑みを浮かべ、口をあーんと開けるピンクボール。
その口に吸い込まれる様に宙を舞うクレープ。
その光景を、まるでスローモーションに流れていく映像のように眺めるしかない双子の姉妹。
手を伸ばしても、もはや届かぬ理想ということに絶望の表情を浮かべ――
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
※中の人が感情そのままに書き綴ったのでめっちゃ多いです
【カシオペアの拳 ~ウーパールーパー大列伝~】
→なんでこのゲームをパロディ化したネクソン! 言え!
元ネタは稼働から20年近く経つのに未だ研究が進むあの格ゲー。時オカかな?
なおキャラクターはみんな女性です。筋肉モリモリマッチョマンの変態に見えても女性なんです。女性なんだってば。
【先生とデートしてたことがバレちゃう】
→かーっ! 見んねユウカ! 卑しか女ばい!
【キド】
→元ネタは格ゲー界隈に名を刻んだ病人。メイドの方ではない
本来は聖人然とした、高潔な人物のはずなのにこのゲームのせいで悪名の方が広まってしまった可哀そうな人。でも許さねえ
【発生1Fの当身技】
→神の当身。
高性能なのに後述の技のせいで意外にも技評価は控えめ、というかこの病人動き回っていた方が強いので……
【ジョインジョインジョイン】
→※赤い魔法戦士は隠しキャラです
【シャギ】
→元ネタは別の意味で愛されているあの方。俺の名を言ってみろォ!
1年前ぐらいにある条件下なら最弱じゃないと証明された。条件下ってなんだよ
【ドラム缶ハメ】
→ホントはコンボの〆にマッチ当てて炎上させた相手の火を利用してドラム缶を引火し続けるハメ技。こっちは逃げ方を知らないと対人でもハマる
【ナギッ】
→大体コイツのせい。
攻め、逃げ、フェイント等なんでもできる。ひどい。
欠点はコマンドミスや暴発がしやすい点。逆に言えばそんぐらいしか欠点ない
【ステキで愉快なこと】
→されてる側は不愉快
【クソキャラだ!!】
→せやで^^
【カシオペア羅甘撃】
→羅漢ではなく羅甘なのはシャギ様は女の子だからです。
ホントに早い発生の技、これなかったらガチで終わってたと言っても過言ではない。
【ブーストキャンセル】
→このゲームのコンボ火力が異常に高い原因の1つ。それ以外にも昇竜スカした後、逆側に逃げたりとにかく色んな場面に応用できて非常に便利。逆に使えない状況が続くとかなり苦しい。
そして
【五星ゲージ】
→光ると死ぬゲージ。元ネタより光りやすくなってんじゃねえかどうなってんだ
よく勘違いされやすいけど一撃技自体はガードは可能。でもこのゲーム一撃をコンボに仕込めちゃうのであんま関係ない(震え声
【コノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ…】
→イチゲキガァ!! ハイッテェ!!
【
→※嘘ではないです
【いやー今日いいモン観れたわー】
→KI(ノД`)「そっとしといてほしい……」
【例のアレ】
→バスケ。残念ながら今回は未遂。使い手じゃないのに成功率5%を簡単に決めさせてたまるかい使い手の人から総スカン食らうわ。このSS読んでるかは話は別
ある意味このゲームの最大の見所。私は初めて見たとき腹筋よじれた。
【胡坐ビーム】
→病人の一撃奥義技。暗転前20Fの暗転後発生5F。こちらも今回未遂、というか見せた時点でほぼコイツの勝ち確なので……。
胡坐を掻いてから画面端まで届くビームを左右に放ち、相手を「チニャ!!」させる。何故かダウン追い打ち可能なのでダウンしてても死ぬ。ばかもーん!
元ゲーやキャラについて詳しく知りたい人は某キャラ列伝、対戦動画ならベストバウント集や中野TRF「はじめてのおるすばんSP」とかがおすすめ。でも新規向けじゃない事だけは確かなので注意。ブルアカ×カービィなのになんでAC北斗の話をしてんだろ私
ともあれ次から2章を書いてきます。やっとだよやっと!
手加えるところは手加えるけど基本的にストーリーになぞって書くだけだから楽勝だなガハハ!
ん? なんだこのアンケートは(棒
お気に入り1,000件以上いったし、カービィチャンを他の学園と絡ませるべ^^ どれがいいかな? ※2章後予定です
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アビドス高等学校
-
ゲヘナ学園
-
トリニティ総合学園
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ん何でも描いてあげるよォォ~!!(全部)