Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 前回の()()()()のせいで、一部の方々に不安を感じさせてしまい申し訳ございません。



 お詫びに今話からぶち込ませていただきます^^
 我ながら誕生日前にする行為じゃねえ


006

6-1

 

 

 

 ミレニアム郊外の街中で、偶然にもアスナとカリンと鉢合わせた見習い勇者一行。

 その別れ際に――ネルが探している、という話をアリス達は耳にしてしまう。

 

 それをなんとか避けるべく、オトモを抱き抱えたまま脱兎の如く駆け出したアリス。その結果、3人はミレニアムのキャンパスへと出戻りする羽目に。

 先行く彼女に追い縋ろうと、全力で走りぬいた”先生”の表情から色素が抜け落ちているように見えるがきっと気のせいである。たぶん。

 

 ともあれ、ここまで離れれば大丈夫だろう、と。

 そう思い込むことで気を取り直したアリスは「それでは探索を続けましょう!」とグロッキー状態な”先生”と、その大人の肩をポンポンと叩いて調子を確かめていたオトモに呼び掛けた――その時だった。

 

「むむっ! そこにいるのはもしや――――」

 

 突然、ハツラツとした声がアリス達の背後から響き渡る。

 その際、ある人物を警戒していたアリスの肩が思わず跳ねてしまったのはご愛敬。

 

 さっきもこんなことがあったような、と今の状況に既視感を抱く”先生”も含め、声が聞こえた方へさっと3人は振り向く。

 

 そこで彼女達が目にしたのは、3人の少女。

 先ほど声を発したであろう張本人の豊見コトリ――そして彼女と同じ、エンジニア部のメンバーである白石ウタハと猫塚ヒビキがこちらを見つめていた。

 

 

 

「ああ、”先生”とアリス、それにカービィか」

「やほ」

 

 見知った相手だと判るや、小さく片手を上げながら声を掛けるウタハとヒビキ。

 片や、警戒していた相手ではなかったことにホッと一安心したアリスを筆頭に、一行はウタハ達の元へと歩み寄る。

 

 それから、にこやかな笑みを浮かべては「こんにちは!」と挨拶の言葉を口にするアリス。

 その足元ではいつもの様に、”ハァーイ”とカービィが元気よく手を上げる。

 

”こんにちは、エンジニア部がここいるのは珍しいね”

 

 2人に倣う形で挨拶を交わしつつ、普段は作業場に籠っている印象が強いせいかこうして外出している彼女達に”先生”は意外そうな反応を見せた。

 

 すると、その様子に自分達の活動に興味を持ってくれた、と解釈したコトリが「私たちのスケジュールにご興味があるんですね!」と目を輝かせ、ずずいっと”先生”の方へと詰め寄るとこれ幸いとばかりに――

 

「いいでしょう、私から説明しましょう! 私達エンジニア部は朝7時に起き――」

 

 誰も説明してくれと言っていないにも拘らず、意気揚々と言葉を紡いでいくコトリ。

 とはいえ、彼女の説明好きを知っているからこそ対面の”先生”は勿論、同じ部活動メンバーであるウタハ達も止めることはできず、困ったように笑みを浮かべるのみ。

 

 そうしてしばらく、彼女の独壇場は続くのであった。

 

 

 

 それから、数十分ほど経過し――――

 

「――……して、ここに至ったわけです!」

 

 そう締めくくりの言葉を口にし、長々と語られたコトリの説明は終わりを告げた。

 恐るべきというか驚くべきことに、彼女は一度も言葉に詰まることなくやり遂げた。

 

 ――足りない装備を補充するために外出してきた、というだけの話だが。

 

 それを懇切丁寧に聞かされていた”先生”はやや苦笑いを浮かべつつも理解を示し、その傍らで同じく耳を傾けていたアリスも「ふむふむ」と関心を示すように、しきりに頷いていた。

 

 そんな彼女の腕の中で、グースカお休み中のピンクボールはどうしたもんか。

 

「――う。や、やはりカービィは寝てしまいましたか……」

「記録は……1分31秒だね。最高記録の10分には届かず……」

「”あしがーるくん”の時、か。確かに最後まで起きていたね」

 

 今まで説明することに夢中だったせいか、眠りこけるカービィの姿をあらためて視野に入れては、しゅんと肩を落とすコトリ。

 その横で、なぜか眠るまでの時間を計測していたヒビキの言葉にウタハが反応すると、当時のことを思い返しながら呟いた。

 

 とはいえ、カレも最初から寝る気だったわけではなくちゃんと聞くつもりではあった。

 少なくとも説明が始まった時は、体を傾げながらもまだ話を聞いていた――この時は。

 

 それから凡そ30秒後。目が微睡んできた。

 そこから更に30秒後。舟を漕ぎ始めた。

 そして、その30秒後。アリスの足を枕に、ころんとおやすみなさい。

 

 それに気づいたアリスはすやすや眠るオトモをそっと起こさず抱き抱えると、再びコトリの話に耳を傾けたのだとか。

 

 その一方、ウタハ達のやり取りを耳にしたアリスがふと疑問を抱き、彼女もまた当時の状況を思い返しながら呟く。

 

「アレはお昼前で空腹状態だったため、起きていたのだと思いますが……」

「あ、アリスさんッ! その説明は私には残酷すぎてしまいますッ!!」

 

 事も無げに明かされた衝撃の事実に、コトリは思わず両耳を塞いでしまった。説明好きが説明を聞きたくないとは、これ如何に。

 まさか自分の説明を聞いていたのではなく、空腹のせいで起きていたという事実は彼女にとって衝撃的だった模様。珍しくちゃんと説明を聞いてくれたことに内心喜んでいた分、ショックが大きいようだ。

 

 ううう、と半べそを掻くコトリの落ち込み具合に、訳が分からず狼狽えるアリス。

 その様子に苦笑しつつ、”先生”がウタハ達へと話しかけた。

 

”色々あったみたいだね”

「ああ。私たちとしても2人には世話になっているからね」

 

 そう口にしたウタハは、隣の後輩にも話を振るように目配せを送ると、彼女の言葉に同意するようにヒビキが頷く。

 物置と化していた”光の剣”を取り扱ってくれる上に実践データを提供してくれるアリスや、未知なる要素の塊といっても過言ではないカービィの存在は、彼女達の制作意欲に良い刺激を与えているようだ。

 

 そんな中、「そういえば」と何か気になることが頭を過ったのか、ウタハがアリスに尋ねる。

 

「最近レールガン……いや、”光の剣”の調子はどうかな? 不調とかはない?」

「バッチリです! アリスにとって、光の剣は宝物で――そう、”勇者の象徴”ですから!」

 

 問い掛けに対し、大切に扱っていることを声を弾ませて主張するアリス。

 そんな微笑ましい発言に、小さく笑いながら「そうか」と、ウタハは呟いた。

 

「――大切にしてくれているのなら、私たちも嬉しい。これからもよろしく頼むよ、アリス」

「はい!」

 

 笑顔を浮かべてアリスが頷く――と、そこで何か思いついたかのようにハッとした表情を浮かべると、いそいそと片手を使って肩に掛けてたポストンバッグの中身をまさぐり始める。

 

 その挙動に――なんだかんだ立ち直ったコトリも含め、ウタハ達が疑問を抱いてから間もなく、彼女は目的の代物であったカメラを取り出した。

 

「では、冒険中の出会いを記念して写真を撮りましょう!」

 

 カメラを見せつけながら意気揚々と口にした提案に、3人は目を丸くする。

 提案の内容もそうだが、目の前にしたカメラが彼女達にとって身に覚えがあるモノだからこその反応。

 

「それはまさしく、”時よ永遠に君第1号”! その様子から見てかなり使い込んでいるようですね!」

「ううん……やっぱり、このデザインは捨てがたかったかも」

 

 自分達の発明品を久しく目にし、ちゃんと取り扱っていることにコトリが喜んでいる傍ら、最後まで機構を組み込めなかったことにヒビキが名残惜しそうな様子を窺わせていた。

 

 そんな中、一言断りを入れてからカメラを借りたウタハは、液晶画面に映し出された撮影写真を眺めていく。

 

「C&Cの2人に……――彼女は確か、トレーニング部の部長かな?」

「はい! お話の最中に一緒に撮ってもらいました!」

 

 液晶画面に映る写真を見ながら口にした、彼女の疑問に元気よく答えるアリス。

 各々浮かべる表情に違いはあれど、写真に写る誰しもが楽し気な様子を窺わせている。

 

 その中でも上手く空中でポーズを決めるオトモ(カービィ)と、満面の笑みを浮かべる見習い勇者(アリス)は特に際立っていた。

 

 改めて写真に目を落としながら「いい写真だね」と口にしたウタハに対し、にへらと笑うアリス。

 それからカメラを返して貰ったのち――改めて撮影の準備に取り掛かろうとしたアリスは、これまで熟睡していたピンクボールをゆさゆさ揺らして起こすことに。

 

 

 

 ――そんな、心から楽しそうな彼女の様子を眺めつつ。

 

(――……譲り渡して、正解だったかな)

 

 と、満足げに微笑むウタハであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

6-2

 

 

 

 写真撮影も終え、そして装備調達のためにその場を立ち去ったウタハ達。

 去っていく彼女達を見送ったアリス達も、あらためて当初の目的である、新作ゲームのアイデア探しに戻ることに。

 

 こうして再び、校内の探索を行う一同。

 今度はキャンパス内に留まらず、学内の施設の中にまで活動範囲を広げていく。

 

 すると、探索を続けていくうちに――

 

「あっ、アリスちゃんだ~」

「今日はどうしたの? 今日もカービィと一緒に武者修行?」

「武者修行ではなく、勇者修行です。今日は見習い勇者バージョンです!」

 

 通りすがりの生徒から気さくに声を掛けられたり。

 

「これ、講義室に持って行ってくれる? 報酬はこの、トリニティの有名スイーツ店で買ってきたモンブラン!」

「なにそれ、ずるい! じゃあ私はこのクエストを達成したら、チョコボールあげる!」

「はい! クエストはアリスたちの得意分野です! お任せください!」

 

 報酬と引き換えにクエストの頼み事、という建前でお菓子をプレゼントされたり。

 なお、食べ物が報酬と聞いてやる気に満ち溢れるオトモの姿がいたとかなんとか。

 

 その後も、色々な場所で交流を深めていくアリス。

 その姿に――最初の頃は機械的な受け答えしかできなかった少女が、ここまで交友を広めていたことに驚きを隠せない”先生”。どちらかといえば、小さな子供を可愛がるような対応がほとんどだが、それも彼女の純真な性格あってのことだろう。

 

 また、彼女と共に行動するカービィも、だいぶ周囲から慣れ親しんだ様子だった。

 ぬいぐるみ扱いなのはともかく、行く先々で話しかけられたり可愛がられたり――食べものに喜ぶ反応が印象に残ってしまったせいか、プレゼントの類がお菓子関係に偏りがちなのはさておき。

 

 ともあれ、新しい出来事を求め、3人は次なる場所へ。

 次は誰と出会えるだろう、と心躍らせるアリスはもはや恐れ知らず。

 

 

 

 そんな時である。

 

「――――見つけたぜ、チビ」

 

 

 

 とっても聞きたくない声が、背後から聞こえた。

 少なくとも、アリスにとっては恐怖を一気に思い出させる一言ではある。

 

 それでもなんとか勇気を振り絞り、恐る恐る声が聞こえた方へ振り返る。

 

 そんな彼女が振り返った先にいたのは、想像通りの人物――

 遭遇することを避けていた、C&Cのコールサイン・ダブルオー、美甘ネルだった!

 

「や、野生のチビメイド先輩が現れました!」

「誰が野生のチビだコラァ!」

 

 慌てふためきながら失礼な呼び方をするアリスに対し、顔を真っ赤にしたネルが怒声をあげる。

 その迫力に「ヒィ」と思わず小さな悲鳴を上げるや、一目散にオトモの後ろへと隠れるようにしゃがみこんでは身を縮こまらせるアリス――サイズ差が有りすぎるせいでまったく隠れることができてないけど。

 

 一方、壁にされたカービィは相も変わらず片手を上げ、”ハァーイ”と陽気に声を掛けた。

 対するネルも、慣れ親しんだ様子でニッと笑いかけては「おーう」と軽く手を上げ――その隣にいる人物に気が付くと、目を丸くする。

 

「んだよ、”先生”も一緒にいたのか」

”やあ、ネル。久しぶり”

 

 意外そうな反応を見せる彼女に対し、気さくに声を掛ける”先生”。

 アスナやカリンと同じく依頼を共にしたこともあって、お互い顔見知りであった。

 

 そんな”先生”をネルは物珍しそうに見つめ――「まあいいや」と呟くとカービィ、というより隠れた気になっているアリスの方へと、視線を戻す。

 

「丁度よかった、3人ともちょっと付き合ってくれ」

「ええっ!? あ、アリスはまだ冒険の途中で……」

 

 なんとかこの場から逃れようと言い訳じみた言葉を吐くアリスだったが、肝心の相手はイイ笑顔を浮かべては「ほら、さっさと行くぞ」と聞く耳持たず。ズンズンと近づいては、問答無用とばかりにアリスの腕を掴み、何処かへと連れて行こうとする。

 

「う、うわぁぁん! アリス、チビメイド先輩に捕獲されてしまいました! 助けてくださいカービィ!」

 

 そんな時、連れ去られようとしている本人が必死な様子でオトモに助けを求めた。

 すると、今まで2人のやり取りをぼ~っと眺めていたカービィはその声に釣られ駆け出すと、道を塞ぐようにネルの前に立つ。

 

 対するネルは、進行を阻む存在へと鋭い眼光を飛ばし――

 

 

 

「――道中でケーキ3つ買ってやるよ」

 

 イヤッホウ、とピンクボールは意気揚々と付いていくことになった。

 それを視認した彼女がフッ、と勝ち誇った表情を浮かべたのは、きっと気のせいではなく。

 

 そんな、あまりにも呆気ない掌返しを見せつけられたアリスは「うわぁぁん! カービィがチビメイド先輩に買収されました!!」と半泣きする始末。

 残念ながら余程の状況でもない限り、食べ物にあっさりと釣られてしまうのがこのピンクボール――ネルのことを”ともだち”と思っていることも理由の1つだが。

 

「ほら”先生”も早く来いよ。大事な用があんだからよ」

”あ、うん……”

 

 有無を言わせないネルの迫力を前に、思わず頷いてしまう”先生”。

 しかし、彼女の言う”大事な用”というのが気になるのも事実であり、とりあえず同行することに。

 

「……んなことより、チビメイドってなんだよ!」

「で、ではアリスは何と呼べばいいのですか……?」

「ネルでいいだろ、普通に。ほら、ネル先輩って呼べよ」

「……チビネル先輩?」

「チビを外せよッ!!」

 

 ――などと、傍からみれば漫才のような会話を繰り広げる2人の声を耳にしつつ。

 ネルの先導の元、一行はとある場所へと向かうのであった。

 

 

 

「――くっそ、また負けた! ぐああーっ! ムカつく!」

 

 頭を掻きむしりつつ、悔しさと怒りが入り混じった怒声を上げるネル。

 今にも眼前のミディタイプ筐体を台パン通り越して破壊しそうな雰囲気だが、まだ未遂で済んでいる模様。

 

 そんな彼女も含め一行が足を運んだのは――学園近くのゲームセンターであった。

 

 片や、今までネルと対戦していたのは、彼女と隣り合って操作していたアリス。

 格闘ゲームの対戦を申し込まれた彼女だったが、見事に返り討ちに成功したようだ。

 

 しかし、怒り心頭な敗者は対戦内容に納得がいかないのか、隣に座る勝者に詰め寄ると不満を口にしだした。

 

「んだよ、その技っ! ハメ技じゃねえか!」

「ゆ、ユズは相手の癖を読んで弱点を突くのが格ゲーでは大事だと言っていました! ハメ技もゲーム要素の――」

「あ? セコい手使ってんじゃねえよ!?」

「う、うわぁぁん!?」

 

 本人としては教えられた事を実践しているだけだというのに、逆上されてしまい半泣きするアリス。どっちが勝者かわかったもんではない。

 

 

 

 ――その様子を、休憩用に設けられたベンチに座りながら呆然と眺めていた”先生”。

 流石に今の状況を見兼ねてか、えっと、と少し言い淀んでからここまで連れてきた当人へ尋ねる。

 

”大事な用って……もしかして()()()?”

 

 その問いに「ああ? そりゃ当然だろ」と、何を今更と云わんばかりに怪訝な面持ちを浮かべたネルが立て続けに答える。

 

「今日こそ、このチビにリベンジするって決めてたからな。あたしが勝つまで逃がさねえ」

”そ、そうなんだ……”

 

 不敵に笑いながら闘志を燃やす彼女の宣言に、なんとも言えぬ”先生”が思わず半笑いを浮かべる。その口ぶりから日頃から何度も挑戦――というより、一緒に遊んでいるのが想像に難くないが、言わぬが花と思ったのかそれ以上は口を噤むことに。

 

「今日のあたしは一味違うぜ。コンボの練習をしたからな!」

「……アリス、ネル先輩のその言葉、()()も聞いた覚えが――」

「んだとゴルァ!!」

 

 自信ありげな発言に無粋な言葉を挟む相手に、ガーッと怒号を上げるネル。

 その迫力に圧倒され、先程の繰り返しのようにアリスは再び身を震わせてしまう。

 

 そんな彼女達の――ある意味じゃれ合いとも云える様子に苦笑しつつ、”いつもこうなの?”と、隣のピンクボールに話しかける”先生”。

 それに対し、3つ目のケーキを食べようとしたカレはコクコクと何度も頷き、楽し気に肯定を返すのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

6-3

 

 

 

 日も傾き始めた、夕暮れ時。

 夕日に照らされた茜空を、鳴き声と共に鴉が悠々と飛び立って行く。

 

 そんな夕焼け空を見上げ、ゲームセンターを出たばかりの一行はこれ以上の探索は厳しいと考え、今日は切り上げて学園に戻ることに。

 

 その一行の中に、この施設を訪れる切っ掛けとなった美甘ネルの姿は、()()()

 

”……た、大変だったね”

「うぅ……せっかく”先生”と冒険できる日だったのに……」

 

 今までネルの相手をしていたアリスに、労いの言葉を送る”先生”。

 一方の彼女としては、普段滅多にない”先生”と一緒に冒険できる時間が無くなってしまったことに肩を落としている様子。ネルを避けていたのも、それも理由だったのかもしれない。

 

 そんな彼女を慰めつつ、”先生”は先程までの出来事を思い返す。

 

 

 

 ――あれから、何度敗北を繰り返してもアリスへ挑戦し続けたネル。

 しかし”コンボを練習した”と豪語する割にミスを連発しては連敗を積み重ねていく始末。

 

 流石の彼女もこれでは勝てないと踏んだのか、リベンジ相手でもあるアリスにコツを指南してもらうことに。なお拒否権などあるわけもなく。

 こうして1台の筐体に向き合い、2人は隣り合って対戦を続けていくこととなる。

 

 その最中、ネルのコンボが繋がらないことに嘆くアリスにネルがキレそうになったり。

 

 最後の最後でコンボをミスしてしまい、敗北を喫したネルが筐体のコントロールパネルに突っ伏し――それを隣で見ていたアリスが気まずそうにおどおどしたり。

 

 腹いせにピンクボールに挑戦し、完敗を喫したネルがまた突っ伏し――そんなの関係ねえ、と云わんばかりに喜びの舞を踊るピンクボールにブチギレそうになったネルをアリスが必死に抑えたり。

 

 

 

 そんな騒がしくも賑やかな出来事を挟みつつ、時間が過ぎていく中。

 その時は、予兆もなく訪れた。

 

 

 

『どこでサボっているのかと思ったら……こんなところにいらっしゃったのですね、部長」

 

 

 

 にこやかな微笑みから想像できない威圧感。

 言葉遣いこそ丁寧だが背筋が凍るほどの圧が籠められた一声。

 

 つまり、()()()()怒ってるC&Cのコールサイン・ゼロスリー。

 室笠アカネが、忽然と姿を現した。

 

 思いもよらない人物の登場に驚愕するネル。

 そんな彼女の反応を余所に、アカネはにっこりと微笑みかける。

 

『私言いましたよね? 今日は会長から任務の通達があるから、準備をしておいてくださいと――』

『…………あ』

 

 彼女の問いにしばらく硬直した後、気の抜けた声を漏らしてしまったスカジャンメイド。

 それは”忘れていた”ということを示す、何よりの証拠であることは紛れもない事実であって。

 

 そうして間もなくして、駄々を捏ねる子供を引き連れたまま悠然と去っていくアカネ。

 それを呆然と見送るアリスと”先生”――そして、バイバイと云わんばかりに呑気に手を振るカービィの3人だけがその場に取り残されるのであった。

 

 

 

 何はともあれ、これ以上ゲームセンターに留まる理由が無くなった一行。

 とりあえず施設から出よう、と話は決まり――今に至る。

 

”――そういえばアリス”

「はい?」

 

 ミレニアムへと向かう帰路の途中、”先生”が思い出したかのようにアリスへ声を掛けた。

 それに首を傾げて反応する彼女へと視線を向けつつ、”先生”は尋ねる。

 

”アリスは、ネルを怖がっていたんじゃなかったの?”

 

 ”先生”が聞いた限り、ネルと一戦交えたことが――というより、完膚なきまで叩きのめされたことが原因で、一時期はメイド服すら直視できず恐れていたアリス。

 そんな彼女が、苦手意識こそ未だに拭えてはいないが、一緒にゲームをする関係にまで至っていることについて不思議に思っているようだ。

 

 その疑問に、少し思考を巡らせてからアリスは答える。

 

「たしかに一時は敵同士でしたが……今は味方。味方なら、恐れる必要はありませんから」

 

 粗暴な一面こそ目立つが、決して悪い人物ではないことは彼女も理解している。

 態々探してまで絡んできたのもアリスのことをいたく気に入っているからこそであり、強引な誘い方ではあったが、妙なところで素直になれないネルなりの、遊びの誘いだったのかもしれない。

 

 そんな彼女の本心はアリスにも伝わっていたのか――

 

「まだメイド服は怖いですが……それでも、ネル先輩は仲間です!」

 

 にこやかな笑顔を浮かべつつ、そう口にした。

 なんだかんだ一緒にゲームをしていくにつれ、親しくなっていったのは彼女も同じな様子。

 

 その様子から、まだ完全に克服こそできていないが、いつか平然と接することができるのも遠くない未来だと予期した”先生”は頬を綻ばせるのだった。

 

 

 

 そうして、2人が談笑を続けている――そんな時である。

 彼女達の前方で機嫌よくステップを踏んでいたカービィが、突然ピタッと立ち止まった。

 

 急な様子の変わり様を目の当たりにしたアリスと”先生”が疑問符を浮かべるが、そんな2人の反応を意にも介さずキョロキョロと何かを探す様な挙動を続け――

 

 やがて、ミレニアムとは()()()()()()()()()()

 

 急に明後日の方向へと駆け出したピンクボールに困惑する”先生”。一方で、驚きこそはしたものの、今の行動に心当たりがあるのかあまり動揺していないアリス。

 

 対照的な反応をみせる2人だったが、ともかく走り去っていったカレを追いかけようと頷き合うと、その場から駆け出すのであった。

 

 

 

 それから、然程時間を掛けずに追いついたアリス達。

 彼女達が辿り着いたのは先程の場所から少し離れた、街路樹が立ち並ぶやや広めの通り。

 

 そこで2人が目にしたのは、急に駆け出したピンクボールの姿――

 と、鼻を啜りあげながら涙を流す、犬の頭をした()()()()()であった。

 

 思いもよらぬ存在に目を丸くする2人。その一方でジッと子供の方を見つめていたカービィは、徐にチョンチョンとその相手へ軽く触れる。

 それに気づいた獣人の子は泣きじゃくったまま振り返り――「えっ」と目を丸くする。

 

「き、きみ、だれ?」

 

 まん丸いピンクの生物に戸惑いを隠せない様子に対し、当のピンクボールは”ハァイ!”と陽気に片手を上げるのみ。その無邪気というか呑気というべき反応から害意を感じなかったせいか、戸惑いこそあるが強張っていた表情が少し和らいだ模様。

 

「何かあったのですか?」

 

 それから話せないカービィに代わり、”先生”と共に歩み寄ってきていたアリスが泣いていた理由を尋ねる。片や、最初こそ見知らぬ相手へ話すことを躊躇うかのように顔を俯かせていたが、やがて決心がついたのか、ある方向へとおずおずと指差した。

 

 指差した方向へ視線を向けるカービィ達。

 そんな3人の視界に入ってきたのは、歩道際に植え付けられた3m程の高さを有する街路樹――その頂点辺りでゆらゆらと揺れている風船。よく見れば表面に何かのイラストが描かれていた。

 

「さっき転んじゃって……それでふうせん飛んでって、とれなくなっちゃって……」

 

 目元に涙を浮かばせ、たどたどしい口調ながら経緯を話す獣人の子。

 要約すると、何かのイベントで貰った風船を転んだ拍子に手放してしまい――運よく風船から伸びていた紐が木の枝か何かに引っかかったものの、今度は取れなくなってしまった、ということだった。

 

 しかし取りに行こうにも、木の頂点まで登るのは至難の業。

 そのうえ登る際に木を揺らしてしまった場合、枝に引っかかっている紐が外れてしまう恐れもありえる。

 

 それを理解していたのかさておき、結局どうすることもできず立ち往生していた、といったところだろうか。

 

 ともあれ、木に登らずに風船を取りに行ければいいだけの話。

 そして、この場にはそれを可能とする者が、()()()

 

()()()()!」

 

 事情を把握したアリスが期待するかのように目を輝かせ、その者を呼ぶ。

 その呼び掛けに、任せろ、と云わんばかりに自信たっぷりに胸(?)を叩いたカレにとって、空は決して手が届かぬ場所ではない。

 

 そうと決まれば、と大きく口を開けてからすぐに閉じ、頬をいっぱいに膨らませるカービィ。

 その様子にきょとんとする獣人の子――だったが次の瞬間、驚きの表情を目一杯に浮かべることとなる。

 

「――と、飛んだっ!」

 

 ふわふわと、少しずつ上昇していくその姿に目を輝かせ驚愕の声を上げる。

 それを横目に見ていたアリスが、何故かしたり顔を浮かべているのはご愛敬。

 

”ううん、やっぱり不思議だなぁ……”

 

 その横で、相変わらず不思議な特技を持つピンクの風船もどきを眺めつつ頭を捻る”先生”。

 空気を口の中に含んで飛ぶ、という方法を行える生物など、一体全体どれくらい存在するのだろう、と疑問を抱かずにはいられない模様。

 

 そんな不思議生物は程なくして、問題なく風船の元まで辿り着く。

 あとは、ゆらゆらと揺れ動く風船を手に取るだけ――

 

 と、その時。

 狙いすましたかのようなタイミングで強い風が吹く。

 

 急な横殴りの風に驚き、少し体勢を崩してしまうカービィ。

 しかしそれ以上に、風船や枝木が激しく揺らされたことが問題だった。

 

 

 

 つまり――今まで枝木に引っかかっていた紐が、外れてしまった!

 

 

 

 風に流されゆく風船を地上で目にしていた一同の表情に、焦りの色が浮かぶ。

 このままでは遥か彼方にまで飛んでいくことは、想像に難くない。

 

 それを予期したのか、風船の持ち主は再び泣き出しそうな表情を浮かべ――

 

 

 

 ――やらいでかっ、と咄嗟に口を開いた若者は前方を”すいこんだ”!

 

 

 

 強風より遥かに強力な吸い込みが飛び立とうとする風船を捉え、紐の先端――持ち手部分と思わしき所を口で挟むことに成功。

 その様相を見届けたアリス達は先程まで浮かべていた表情を一転させ、感嘆の声を上げる。

 

 幸いにも風船より重さが勝ったのか、口元を引っ張られながらもゆっくりと降下していき――やがて、ぽてっと小気味いい音を弾ませて着地するカービィ。

 

 そして手に持ち替えた風船を、笑顔を浮かべては持ち主に差し出すのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

AL-1S

 

 

 

 それから――感謝と共に風船を受け取るとすぐ、抑えきれない好奇心から、桃球生物について矢継ぎ早に問いかける獣人の子。それに対し答えられないカービィに代わって、アリス達が分かる範囲で教えてあげることとなった。

 

 そんな賑やかな時間も、長くは続かず。

 やがて、門限が近いことに気が付くや、名残惜しい気持ちを露わにしながらも獣人の子は急いで帰宅することに。

 

 その別れ際、返ってきた風船の紐を大事に握りつつ――

 

『――ありがとう! ”カービィ”!』

 

 そう一言言い残し、喜色満面の笑みを浮かべ去っていくのであった。

 

 

 

 足早に去っていく後ろ姿を”達者でくらせよ”と云わんばかりに片手を大きく振って見送るカービィ。その様子を少し後方からアリスと”先生”が見守っている中、徐に彼女が口を開いた。

 

「カービィは、困っている人を見つけるのが得意なんです」

 

 隣でぽつりと呟いた当人へ”先生”は視線を向ける。

 それに気付いてるかはさておき、そのままアリスは話を続けていく。

 

 この前は、財布を落としたおばあさんを。

 その前は、迷子になった子供を探す母親を。

 ある時は、ガラの悪い不良に絡まれた生徒を。

 

 並外れた直感によるものなのか、近くで困った人がいるとすぐそこへ向かうのが日常茶飯事だと、彼女は語る。

 

 ――そして、誰に頼まれるまでもなく手助けするのも、いつものことであった。

 

『本当に助かったよ。ありがとねぇ、まあるいぼうや』

 

『ああっ、ありがとうございます! おかげで助かりました!』

『ママー。このピンクのこ、かっていー?』

 

『あ、ありがとう……っていうか、その見た目で結構強いんだね。びっくりしちゃった』

 

 助けた人々の安堵に満ちた表情と、それに笑顔で応じるオトモの姿を思い返していたアリスが、未だに手を振り続けるカレの夕日に照らされた後ろ姿を見つめながら、柔らかく微笑む。

 

「きっと、カービィは困っている人を放っておけないのだと思います」

”困っている人を……?”

「はい。アリスたちも、そうでしたから」

 

 はっきりと言い切った彼女の脳裏に、そのときの記憶が過る。

 

 勇者の証である”光の剣”を手に入れるとき然り。

 ”G.Bible”を得る為に、廃墟へと足を運んだとき然り。

 ”鏡”を手にするために、襲撃作戦に参加したとき然り。

 

 今にしてみてもカレ自身がわざわざ危険を冒す必要は無く、ある意味、無欲とも云える純粋な正義感だけでアリス達に助力したカービィ。

 それを純然たる善意と呼ぶか、あるいは後先考えない短絡思考と呼ぶかは人それぞれだが――少なくとも、その精神性を彼女が好ましく思っているのは間違いなく。

 

”アリスは、カービィのことが()()なんだね”

 

 そんな心情を察した”先生”の何気ない一言に、きょとんとアリスは目を丸くした。

 一方、予想と異なる反応を見せたことに”あれ、違う?”と意外そうに”先生”は首を傾げる。

 

()()……とは、どのような条件をクリアすればなるのですか?」

 

 独特な言い回しではあるが、純粋に、疑問に思ったことを尋ねる彼女にえっ、と驚愕を顕わにする”先生”――だったがすぐに、それも当然かと思い直す。

 

 今でこそ純粋無垢な少女と言い表せるが、実際は自分のことを憶えていないアンドロイド。

 某迷作ゲームで思考回路に異常をきたしたのはさておき、ここ数ヶ月で様々な知識を身に着けたとはいえ、知らないことの方が多いのは仕方がない話であり――理屈が通じにくい感情面であれば、尚更。

 

 とはいえ、ある意味で難解な質問を投げかけられた大人はううむ、と頭を捻る。

 答えるのは簡単だが、人によって千差万別の答えがあると知っているがゆえに。

 

”人によって様々だけど……例えば、その人をもっと知りたいとか、一緒にいたいとか……そう想うこと、かな”

 

 我ながら曖昧な事を口にしているな、という自覚はありつつ、できるだけ伝わりやすいように言葉を選びながら答える”先生”。

 それに対し「もっと知りたい、一緒にいたい……」と先の言葉を復唱した後に、アリスは何か考え込むように瞼を閉じた。

 

 考え込んでしまった彼女の様子を見て、バツが悪そうな表情を浮かべた”先生”は上手く伝えられなかったかな、と思い至り、謝ろうと口を開き――

 

 

 

「――はい! アリスは、カービィが()()ですっ!」

 

 

 

 それを遮る様に高々と声を上げたアリスが頬を仄かに染めながら、はにかんだ笑顔を浮かべた。

 

 その勢いを前にして呆気にとられた”先生”を余所に、彼女は喜々とした表情のままカービィの元へと駆け出し――そして、そのままカレの身体を持ち上げた。

 

 急に持ち上げられたことに、目をまあるくするカービィ。

 そんなカレと見つめ合う形で、意気揚々と彼女は口を開く。 

 

「アリスはもっと知りたいです――もっと、一緒にいたいです!」

 

 自分自身に言い聞かせるように。

 流れ星に願い事を告げるように。

 

 只々、自分の想いを実直に伝えるアリスは、キョトンとしているカレへ問いかける。

 なぜか一度口に出すことを躊躇ってしまいながらも、それでも問いかける。

 

 

 

「――――カービィも、アリスのことが()()、ですか?」

 

 

 

 大きな期待と僅かな不安による胸の高鳴りを感じつつ、カレの返答を待つアリス。

 

 対するカービィは、微かに揺れる彼女の瞳をジッと見つめては――

 

 

 

 見つめては――――

 

 

 

 みつめては、

 

 

 

 みツメて、わ、

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、()()()()()

 

 

 

 膝を抱えて座り込んだままの姿勢で、つい最近の出来事を、まるで遠い昔の記憶の様に思い返していた少女はゆっくりと瞼を開け、虚ろ気な瞳を覗かせる。

 今となっては苦しくて、切ない記憶(おもいで)でしかないというのに。

 

 それでも未練がましく手放せないのは、それだけ彼女にとって幸せな一時だったゆえに――心の底から嬉しい出来事があったゆえに。

 

 

 

 だからこそ、あの日常がもう戻ってこない事実に、涙を浮かべる。

 ()()()()()()()()()()()()()に、そんな日々が来る筈などないことは、本人が解っていても。

 

 

 

 ――否、それ以前に。

 そもそも、それ以前に。

 

 

 

 カレはもう、勇者(アリス)のオトモではないのだから。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【イヤッホウ】
→ケツワープを編み出した人達には一体何が視えていたのだろうか……

【やらいでか】
→蝸牛「そんなにやりたければやればぁん?」

【達者でくらせよ】
→白き翼



 原作沿いとはいえ、はたしてこれは曇らせ案件なのだろうか……
 おしえて! ぎんがのはてのだいすいせい!


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