Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 カービィチャンならモモイだって助けるよね^^


007

7-1

 

 

 

 ”始まり”は、いつだって唐突なものである。

 

 ある日、昼寝をしていた”若者”が何処とも知れない世界に迷い込むことも。

 ある日、眠り続けていた”少女”が自分が何者なのか解らず目覚めることも。

 

 誰の都合も関係なく、誰の事情も意に介さず――その時は突然起こりうる。

 それを運命の悪戯と呼ぶか、神の気まぐれと呼ぶかは、定かではない。

 

 

 

 ――そしてそれは、いつか来る”終わり”にも、当て嵌まる事であった。

 

 

 

 あの冒険の日から2日ほど経った、ある日の昼下がり。

 シャーレの地下室で事務作業をこなしていた”先生”の元に、ある1通の連絡が入る――尤も、緊急時用の端末からではなく”先生”個人の端末からではあったが。

 

 それに気が付き、誰からだろう、と思いながら目を落とした端末の液晶画面には、”ヴェリタス”という表記が。それを見た”先生”は首を傾げつつひとまず応答する。

 

『――あ、”先生”! 今だいじょうぶかなっ?』

 

 連絡が繋がるや否や、明朗快活な声がスピーカーを通して”先生”の耳に伝わる。

 声の雰囲気からみて、相手はミレニアムのハッカー集団であるヴェリタスの1年生――小塗マキだろうと”先生”は当たりを付ける。

 

”急にどうしたの?”

『聞いて聞いて! 『世紀の大発見』があって!!』

 

 突然の連絡に疑問を抱く”先生”に対し、興奮を抑えられないように捲し立てるマキ。

 そんな彼女が口にした『世紀の大発見』という言葉に”先生”が目を白黒させている中、立て続けに彼女は話を続けていく。

 

『それがすっごくてさ……!! キヴォトス史に残るような歴史的な発見かもしれないの!!』

 

 恐らく目を輝かせているであろう彼女が、熱が入ったように大々的に告げる。

 その一方、”歴史的……?”と彼女の話に耳を傾けていた”先生”が抽象的な説明のせいか、ますます戸惑いの色を深める始末。

 

 とにかくスゴイ物を発見したと、はじゃぐマキ。

 そんな彼女とは裏腹に――

 

『マキ、いくらなんでもそれは大げさすぎ』

『ハレの言う通りです。変わったものを発見したのは事実ですが……』

 

 落ち着いた――というよりあまり期待していない様子で通話に参加したのは、マキと同じヴェリタスの2年生である小鈎ハレと、3年生の音瀬コタマ。

 

 それから期待していない根拠を述べたコタマ曰く、普段ミレニアムで見つかる物の大半がガラクタと呼べる代物であり、今までの統計的に見れば今回の発見物もそれに該当する可能性が高い、とのことだった。

 

 そんな夢もへったくれもないことを告げられたマキが「も~!」と口を尖らせては、物申すように先輩2人に向かって意見しだす。

 

『2人ともちょっとくらいはロマンを持った方がいいんじゃない? 色んな人に聞いても”見たことない”って言ってたじゃん!』

『まあ、そうだね……』

『マキの言い分にも一理ありますが……』

 

 彼女の言い分に頷きながらも、やはり煮え切らない態度を覗かせるハレとコタマ。

 それを見兼ねてか、”いったい何を見つけたの?”と彼女達が発見した物について”先生”が尋ねるが、今度は3人共ううん、と言葉を濁らせる。

 

『……ちょっと言葉だと説明しづらい』

『マキの言う通り、今まで見たことがないような物体で……私たちでは判断が難しいため、”先生”に直接お越し願おうかと』

 

 そこでようやく、彼女達が連絡してきた理由を”先生”は察する。

 彼女達が知り得ないモノでも、ミレニアムだけではなく他の学園に赴くことが多い”先生”なら何か知っている――或いは類似した存在を見たことがあるのでは――という考えの元、連絡したというところだろう。

 

『そういう訳なんだけど……”先生”、時間大丈夫?』

”大丈夫だよ”

 

 ハレの確認を問うような言葉に、”先生”は快く頷く。

 幸いなことに今抱えている業務は急ぎでもない上に、大事な生徒達の頼みならば断わる是非もなし。すぐに向かうことを伝えると、『じゃあ、ヴェリタスの部室で持ってるね』とハレが小さく笑みを浮かべながら応じた。

 

『やったー! ”先生”来るならパーティーしよ!』

『はい。ピザを注文するとしましょう』

『いや、大げさすぎ……』

 

 通話を切る寸前、微かに聞こえてきた彼女達の会話に、思わず”先生”はクスリと笑みを零す。

 それから、待たせすぎるのも悪いと思い、すぐに外出の準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 そうして、あまり時間を掛けずに準備を終えた”先生”。

 近くのバス停に向かうためビルのエントランスを抜け、外に出た――その瞬間、あることに気が付くと顔を上げ、空を仰ぎ見る。

 

”一雨、降りそうかな……”

 

 ポツリと呟いた”先生”の視界に広がる、曇天。

 早朝から地下室で業務を行っていたせいか、天気の変わり様に気付けなかったようだ。

 

 今にも雨が降り出しそうな天候を前に、傘を用意した方がいいかな、と思案する”先生”。

 とはいえ今から取りに戻ろうとすれば、乗ろうとしていたバスに間に合わなくなる可能性が脳裏にチラつく。大した時間ではないとはいえ、ハレ達を待たせてしまう羽目にもなりかねないだろう。

 

 数秒ほど考えた末――降ったら降ったで考えればいいか、と思い至りその足で向かう事に。案外こういう天気ほど降らない場合が多い、という楽観的な思考に基づいた行動であることは、さておき。

 

 そんな”先生”の勘は当たっていたのか――

 ミレニアムに辿り着いてからも、雨が降ることは無かった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

7-2

 

 

 

 ヴェリタスの部室は、キャンパス内の一角――ミレニアムサイエンススクールの敷地でも目立たない場所に存在している。

 

 それは、非公認の部活ゆえに援助を受けられない関係上、立地条件などを考えた結果そうせざるを得なかったのか――或いは反セミナーという立場上、セミナーの本拠地であるミレニアムタワーからできるだけ距離を置きたかったのか。

 今となっては、()()()()()()のみぞ知る。

 

 そういった経緯もあってか、周辺の施設に比べてややこじんまりした建物(とはいえ流石に設備は最新式)に辿り着いた”先生”。以前訪れた際の記憶が役に立ったせいか、予定よりも少し早めに着くことができたことに一息つく。

 

 ともあれ、さっそく建物に入ろうと――

 

「――あっ! やせいの”先生”を発見しました!」

 

 ――する前に、背後から聞こえてきた喜々とした声に思わず足を止めた。

 その声と言い回しに聞き覚え――というより()()()に聴いたばかりであった”先生”が、確信に近い予想を立てながら振り返る。

 

 そこにいたのは”先生”の想像通り――ゲーム開発部のアリスと、いつものように彼女に抱きかかえられたまま陽気に手を振っているカービィ。

 

 そして、そんな彼女と同じ部活動メンバーである――

 

「……あれ?」

「こ、こんにちは……」

「やっほー”先生”!」

 

 思い掛けない人物を目の当たりにし、三者三様な反応を見せるミドリとユズ、モモイの3人の姿を目にするのであった。

 

 

 

 こうして、ばったり出くわしたゲーム開発部の面々と共に、施設に足を踏み入れた”先生”。

 それからヴェリタスの部室に繋がる通路を歩いている最中、”先生”がこの場所にいたことに疑問を抱いたモモイが「どうしてここに?」と本人へ問いかける。

 

”ヴェリタスに呼ばれてね。ゲーム開発部も?”

「うん! マキが面白いもの見つけたらしくて!」

「もしかしたら、何かインスピレーションをもらえるんじゃないかと思って」

 

 モモイが期待に目を輝かせている傍らで、彼女の言葉にミドリが補足を付け加える。

 興味を惹かれた一面もあるが、これも彼女達なりのゲーム制作活動の一環とのこと。

 

「重要なイベントが発生するかもしれないので、今日はユズもいます!」

「はい、いいアイデアに繋がるなら……ここまで来るのは、ちょっと大変だったけど……」

 

 アリスに促される形で答えたユズが苦笑いを浮かべつつ、少し気疲れした様子を覗かせた。人一倍に周囲の目を気にする彼女にとって、外出することに神経を使うのも仕方のない話ではある。

 とはいえ最近はピンクボールの付き添いの元、外出する機会が増えたことで多少の耐性は身に着けてきているようだが。

 

「あとちょっとだよ、ユズ!」

「うん、頑張ろう」

 

 そんなユズを、鼓舞するかのように声を掛けるモモイとミドリ。それに倣ってか「ユズが倒れないよう、アリスが支えます!」とむんすと意気込みを見せるアリス。

 一方、3人の思いやりに胸を打たれたユズは「み、みんな、ありがとう」と、はにかんだ笑みを浮かべては感謝を伝えるのだった。

 

 ――そんな和やかな雰囲気に水を差すかの如く、不意に響く()()()

 

 いつの日かこんなことがあったような、とその音に一同が既視感を覚えつつ、恐らく腹の音を鳴らしたであろう()()へと迷うことなく視線を向ける。

 

「カービィが空腹状態になりました」

「も~、せっかくいい雰囲気だったのにー」

 

 アリスの言葉を裏付けるように、視線の先で照れくさそうに頭(?)を掻くピンクボールに肩を竦めるモモイ。その様子を見た”先生”が”お昼食べてないの?”と少し驚いた様子で尋ねる。

 

「いちおう、食べてはいるんですが……」

「ちょっと急いでたから、いつもより少なかったのかもね」

 

 困ったように笑うユズとミドリが言うには、昼食時にマキから連絡が入り、食事もそこそこに早々に出掛けざるを得なかったとのこと。

 そのため普段は2~3回のおかわりが当たり前なカービィも、今日に限っては1回もできていないままであり、カレにとっては流石に少なすぎる量だった模様。

 

「じゃあ、あとでアリスが特製スペシャルカレーを作ってあげます!」

 

 そんな腹ペコのカレに対して、アリスが打って付けな提案を口にする。

 その瞬間、これ以上なく目を輝かせては口元をだらしなく緩ませるピンクボール。片や、分かりやすいぐらいにまで喜ぶカレの姿に、アリスも嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 ある意味日常的なやり取りを繰り広げる2人に和みつつ、見守るモモイ達――そんな中で、いつもとは少し違う雰囲気をなんとなく感じたミドリが、他の3人へと耳打ちする。

 

「なんかアリスちゃん、普段よりカービィに()()じゃない?」

「うん? そう? いつもとおんなじだと思うけど……」

「あ、でも……ますます仲が良くなった、っていう気はした、かも」

 

 彼女の問いに対し、特に気にしてない様子のモモイとは裏腹に、思い当たる節があるのか小さく頷いたユズ。それは2日前――アイデア探しから帰ってきたアリス達を見た時からだと、彼女は語る。

 

「”先生”は何かご存じですか?」

 

 ユズの話を聞いて、出かけている時に何かあったと予想したミドリが、その時一緒に行動していたであろう人物へ尋ねる。

 すると、当の本人は”えっ”と間が抜けたような声を漏らした後、口元を引き攣らせた。

 

”い、いやあ……ちょっと思い当たらない、かなぁ”

 

 頬を掻きつつ、露骨に答えをはぐらかす”先生”。

 実のところ、アリスの変化に関して心当たりはあるにはあるのだが――

 

 

 

『はい! アリスはカービィが好きですっ!』

 

『カービィも、アリスのことが好き、ですか?』

 

 

 

 恐らく”そういう”意味合いではなく、あくまでも友好的な意味合いで告げた言葉――だとわかっていても、可能性が全く無いとも言い切れないのも事実。

 何より、あの時の彼女が見せた真摯な態度を思うと本人に断りもなしに口外するのもどうか、と考慮し、この話について知らぬ存ぜぬで通すことに。

 

 そんなあからさまとも云える”先生”の態度に、疑問符を浮かべるミドリ。

 とはいえ本人が知らないと言っている以上、言及するのに気が引けることも確か。

 

「あとでアリスに直接聴けばいいんじゃない?」

「うーん……そうだね。そうする」

 

 それを見兼ねたのか、ある意味ごもっともなモモイの指摘に思考を巡らせた後、ミドリは素直に頷いた。そもそも2人が仲良くなることに彼女自身に異論は無く、あくまでも少し気になった程度の話のようだ。

 

 斯くして話は纏まり――なんとか誤魔化すことに成功した”先生”が内心胸を撫で下ろす。

 一方、後ろでごにょごにょしていた4人に、きょとんと仲良く疑問符を浮かべる、アリスとカービィだった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

7-3

 

 

 

 その後も他愛ない雑談を交わしつつ――目的地である、ヴェリタスの部室前に辿り着く一同。

 さっそく扉を3回ノックした”先生”が、向こうの応答を待つ。

 

 それから、まもなくして――

 

『はーい! どうぞー!』

 

 と、室内から発したであろう一声が、扉越しに耳に伝わる。

 元気のいい声の雰囲気から、一同はマキの声だと予想がついた。

 

 ともあれ、入室する許可を得た一同。

 そうと決まれば、と云わんばかりに「やっほー! お邪魔します!」と快活に扉を開けたモモイを先頭に、他の面々も順々に入室していく。

 

「途中で合流したパーティーメンバー、”先生”も一緒です」

「ちょうど間に合ったみたいだね」

 

 アリスの言葉に促される形で前に出た”先生”が”やっほ~”と気さくに声を掛ける。

 それに気付いたハレが今まで進めていた作業の手を止めると、微笑みながら出迎える。

 

 そんな彼女に倣い、片や「やっほ~! 久しぶりだねっ」とにこやかに声を掛けるマキと、片や落ち着いた様子でぺこりと礼儀正しく頭を下げるコタマ。

 しばらく顔を合わせなかったこともあり、互いに歩み寄っては一同はしばしの談笑に興じる。

 

 そして、それも落ち着いた頃合いを見計らったモモイが――

 

「それで、ハレ先輩。”例のブツ”って?」

 

 と、逸る気持ちを覗かせつつ本題に入る。

 それを受け、「ああ、それなら」と呟いたハレが部室の奥側に配置されたテーブル――その上に無造作に置かれていたモノへと視線を移す。

 

 

 

 彼女の視線の先にあったのは、球状のボディを有する奇妙なロボット。

 

 電源が入っていないのか――或いは故障しているのか、ボディ中央に備え付けられたアイカメラと思わしき箇所に光が灯っておらず。

 それを裏付けるかのように、左右に3本ずつ伸びるクラゲの様な触手と、触手を一回り分厚くした2本の触腕が机から力なく垂れ下がったまま。

 

 そんなロボットが、よく見れば同じ状態で室内に点在しており――合計で5体分は存在していた。

 

 

 

”これは……どこにあったの?”

 

 特徴的な見た目に戸惑いつつ、発見場所についてヴェリタスの3人に問い掛ける”先生”。

 それについて最初に答えたのは、コタマであった。

 

「すべてミレニアム学区の郊外で発見されたものです」

「これで全部じゃなくて、少なくともあと20体ぐらいはあったよ!」

 

 コタマの説明について、最初に発見したマキが補足を付け加える。

 その説明を耳にしつつ、奇怪な外見に違和感を感じた”先生”が”なんだか外見が……”と正直な感想を呟いた。

 

「まあ、ロボットではあると思うんだけど……」

 

 ”先生”の発言に共感を抱きつつ、眉間に皺を寄せるハレ。

 彼女自身、奇怪な生物を連想させる外見にどこか薄気味悪さを感じている模様。

 

 ちなみにコレと類似した物がないか、今まで情報収集を行っていたハレ達だったが、結果は振るわず――結局、現時点でも製造元は不明のままだった。

 

「び、びっくりしたー! なんか想像してたのと全然違うんだけど!」

 

 そんな中、ホラーチックな見た目に今まで固まっていたモモイが、冷や汗を掻きながら口を開く――彼女曰く”コメディー映画だと思ったら急にホラーになった気分”とかなんとか。

 

「これって、本当にミレニアムで作られたロボット……なのかな?」

「ハレ先輩、これって起動させたりはできないんですか?」

 

 一方、ロボットを観察していたユズが疑問を抱く傍ら、動かせないのかをミドリが尋ねる。

 それに対し「私たちでも一通り調べてみたんだけど」とハレが答えると、彼女の言葉を引き継ぐ形でコタマが結論を述べる。

 

「調べた結果、電源ボタンはおろか接続ポート……継ぎ目さえ見つかりませんでした」

「開けることすらできないから起動しない理由がハードなのかソフトなのか――そもそも、本当に故障なのかも分からなくて……」

「だから”先生”を呼んだんだ。もし危険物だったら私らも対応を考えなくちゃだし」

 

 先輩2人の話を締めくくる様に発言したマキの言葉を皮切りに、なるほどと相槌を打つ”先生”。

 呼ばれた理由について、連絡を受けた際に大方予想は付いてはいたのだが、思った以上に不可解な存在を目の当たりにし、難しい表情を浮かべる。

 

「そういう意味だと、ゲーム開発部を呼んだのはちょっと違う気がするけどね」

「あははっ、まあついでに、ってことで!」

 

 肩を竦めたハレの指摘に対し、「こういうのはみんなで見た方が面白いし」と言葉を付け加えながらマキが陽気に笑う。どうやらモモイ達は彼女の気まぐれで呼ばれただけの様子。

 

 

 

 ――そんな中。

 ロボットを目にしてからその場から動かず、呆然と静観に徹していた少女が1人。

 

 しかし突然、何かに引き寄せられるかのように少女――()()()は、その方向へゆっくりと歩き始めた。

 

 その様子に違和感を感じたカービィが、キョトンと身体を傾げる。

 一方、他の面々は例のロボットに関心が向いているせいか、彼女の様子に気が付かず。

 

「どう、”先生”? 何か分かったりする?」

”……うーん、分からないかも”

 

 ――周囲の会話を聞き流しつつ、アリスは足を止めない。

 

「やっぱダメかぁ。”先生”ならもしかしたらって思ったんだけど……いっそ部長に聞いてみる? もしくは副部長とか!」

「今ここにいない人の事を話しても仕方ないですよ」

「ここにいないっていうか、部長はそもそも全然来てないし……まあこの間、妙なことはしてたけど」

 

 ――誰かに操作されているかのように、彼女は足を進めていく。

 

 やがて、手が届く距離にまでロボットに近づいたアリス。

 その時、ようやく閉じられていた口元から「……あ」と呆けたような声を漏らす。

 

 それに気が付いたモモイが「どしたの? 何かあった?」と問いかけ――程なくして、彼女が口を開いた。

 

 

 

「――――アリス……見たことあります」

 

 

 

 ぽつりと呟いた一言に、ヴェリタスの3人が驚愕を露わにしながら、彼女の方へと視線を向ける。まさかこんなところに、自分達以外の目撃者がいるとは思いもよらなかった故の反応である。

 

 一方、どこかぼんやりとしている彼女の様子にユズが「アリスちゃん……?」と不安げに呼ぶ。

 それに対して当の本人は全く意に介さず――どこか遠くを見つめているように、視線をロボットに向けたまま。

 

 

 

 その時だった。

 今まで何の反応を示さなかったロボットのアイカメラに突如、紅紫色の光が宿ったのは。

 

 

 

 急に電源が入ったような挙動を見せる機体に、動揺を隠せない一同。

 思わぬ事態に各々がざわつき始める――そんな時、何処からか鳴りだした異音に気が付いたミドリが、その場所を指差す。

 

「お、お姉ちゃん。なんかゲーム機から音出てない……?」

「え……?」

 

 おそるおそる自分の姉を指差しながら問いかける妹の言葉に、モモイは目を丸くする。

 それから急いで自分のゲーム機を取り出すと、確かに異音を発しながら液晶画面が点灯していた。

 

「ほ、ほんとだ。今まで起動しなかったのに……どうして――」

「ま、待って……! アリスちゃんの様子が、おかしい……っ!」

 

 戸惑うモモイの言葉を遮るように声を上げたのは、今までアリスの様子を気にしていたユズ。

 焦燥感に満ちた彼女の言葉につられ、他の面々もアリスへと再び視線を戻し――思わず絶句する。

 

 

 

 向けられた視線の先には――目を見開いたままその場にへたり込んでは、ブツブツと意味不明な単語を囁き続けるアリスの姿が。

 

 

 

 そんな彼女の周囲を回っては、身体の至る所を手でポンポンと叩いて反応を確かめているカービィ。流石のカレも今の彼女は普通ではないと判断し、なんとか正気に戻そうと試しているところだった。

 

「あ、アリスちゃん……!?」

”アリス……!”

 

 見るからに尋常じゃない様子に、ミドリと”先生”が思わず彼女の名を呼ぶ。

 それでもやはり、彼女は反応を示さない――と、思った矢先である。

 

 呪文のように言葉を長々と囁いていた彼女の声が、ピタリと止まる。

 それと同時に、見開かれていた瞼がゆっくりと閉じられた。

 

 一転して、眠るように目を閉じ黙り込んでしまったアリス。

 その様子に、何が起こっているのか知る由もない一同は、不安を抱えたまま彼女の様子を窺うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 ――ダレかの声が聞こえた。

 

≪私の………………≫

 

 

 

 ――シラナイ筈の声なのに、ナゼか懐かしい気がした。

 

≪私の大切な…………≫

 

 

 

 ――だけど、私にはソレが、

 

≪私の大切な…………よ≫

 

 

 

 それが、とても恐ろしいモノだと、カンじてしまった。

 

 

 

 

 

 

 それほど間を置かず――へたり込んでいたアリスが、突如としてゆったりと立ち上がる。

 その様子に不穏な雰囲気を感じた一同が息を呑む中、唯一カービィだけは、いつもの表情で彼女の顔をジッと見つめていた。

 

 それから何かを待つかのように微動だにせず、ただその場で立ち尽くすアリス。

 依然として、眠りについているように瞼は閉じられたまま。

 

「アリス……?」

 

 やがて重々しい空気に耐え切れなくなったのか、恐る恐るモモイが声を掛けた。

 それに反応したのか、只の偶然かはともかくとして――徐に、少女の口が開く。

 

 

 

「…………()()()()

 

 

 

 長い沈黙を得てようやく発せられた声は、普段の彼女からすれば真逆といえるほど、暗く沈んだ声――そしてその一言を皮切りに、部室に点在していた5体のロボットが一斉に動き始める。

 

「わわっ! なんで急に動き出すの!?」

「……気を付けて! 何か様子がおかしい!」

 

 浮遊しだしたロボットにマキが泡食ったように驚く一方で、ハレが周囲へ警戒を呼び掛ける。

 しかし予想に反して彼女達に目もくれず、5体のロボットはこの事態を引き起こしたであろう少女の元へと集まった。

 

”一体、これは……”

 

 立て続けに起こる異常事態に、焦りを見せる”先生”。

 気が付けばまるで対峙するような形で、彼女と向き合っていた。

 

 随伴するように、触手を不気味に揺らめかせながら少女の周りを漂う5体のロボット。

 そして、深い眠りから目覚めるかのように――彼女は閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 

 

 

 そこから覗かせるのは、普段の蒼く透き通った瞳――ではなく。

 蒼からほど遠い、()()()()()()()()()

 

 

 

「――……コードネーム【AL-1S】起動完了」

 

 静かにそう告げながら、背負っていた”光の剣”を構えた少女が続けて告げる。

 抑揚のない声色で、機械的に、告げる。

 

 

 

「――――プロトコル”ATRAHASIS”を実行します」

 

 

 

 そう呟くや否や、表情一つ変えずレールガンのエネルギー充填を開始する少女。

 片や、突き付けられた銃口を目の当たりにし――本気だと悟った一同に、切迫感が募る。

 

 

 

 ――そんな中。

 

 ただひとり、勇ましい表情を浮かべていたカレが、彼女の前に毅然と立ち塞がる。それに伴い、レールガンの銃口も必然的にカレの方へと向けられた。

 

 流石のカレも仲間と戦うことへ躊躇う気持ちを抱く――なんてことはない。そもそもカレにとって、操られた”なかま”と戦うのはこれが()()()()()()()

 

 やれ自称大王様やら、やれ孤高の騎士やら、やれ絵描きの女の子やら――

 とにかく沢山、覚えがあった。

 

 何より、今の彼女を放っておくほうが危ない、と己の直感が告げている。

 空腹で万全の状態とはいえないが、終わればきっとまたみんなとゴハンが食べられるはずだと信じて、がんばることに。

 

 狙うは、自分に向けられたレールガンの砲弾を吸い込んで吐き出す、星形弾によるカウンター。

 今の彼女なら、これでも十分な一撃となる。

 

 そんなカレの背後から、危険だと身を案じる焦りや不安の声が次々とあがるが、当の本人はその場から動かず、機を窺うことにだけ集中していた。

 

 

 

 そして、砲弾が発射される――その、()()

 突然、カレの直感が()()を鳴らす。

 

 それは自分に向けられたものではなく、()()()()()()()()を示唆する報せ。

 その直感を疑うことなく、カレはある方へと視線を向ける。

 

 

 

 視線の先にいたのは――ゲーム開発部のシナリオライターでもある、才羽モモイ。

 彼女が立っている場所だった。

 

 そして、その直感を根拠づけるように。

 発射の直前、少女は()()を――――()()()の方へと向けた。

 

 

 

 彼女が狙われていることにいち早く気付いたカレは、すぐさま全力で駆け出す。

 音速に並ぶ速さで弾が飛ぶ以上、狙いがカレ自身でもない限りすいこみでの妨害はほぼ不可能。

 

 そして――カレが駆け出したのと、僅かに遅れる形でモモイの方へと発射される砲弾。

 しかし先に動けたことが功を奏して、紙一重で間に合った。

 

 勢いそのままに全身を使った体当たりで、カレはモモイをその場から突き飛ばす。

 少なくともこれで彼女への直撃は、なんとか免れた。

 

 

 

 ――そして、代わりに()()()()()()()ことも。

 

 

 

 得意のすいこみはおろか、回避も防御も間に合わず。

 強力な一撃をその身で受けたカレが、最後に見た景色は――――

 

 

 

「――――……え?」

 

 茫然とした表情で、目を見開いたまま見つめているモモイの姿だった。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【特製スペシャルカレー】
→※カワサキホットスペシャルのことではない
 やっとカービィが感じてくれたね~

【操られた”なかま”】
→デデの旦那はマジでお祓いしてもらった方がいい



 おわりのはじまり。


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