Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 アリスちゃんの誕生日に間に合わなかった奴がいるっておwwwwwww



 そうだよ私だよ。

 アリスちゃんハピパ! アリスちゃん、ほんとにおめでとうー!
 ディスカバ4周年おめっとー! カービィちゃん、ほんとにありがとうー!
 話の展開的にまったくめでたい雰囲気じゃないのがアレだが。


008

8-1

 

 

 

『――…………ビィ』

 

 

 

 誰かの声が聞こえる。

 しかし当の本人はそれに気付いていないのか、そのまま構わずお昼寝タイムを続ける。

 

 

 

『…………カービィ』

 

 

 

 今度は呼び掛けと共に身体を揺らされる。何故だか懐かしいような、そうでもないような。

 それでも睡魔が勝っているのか、やはり本人に起きる様子は無く。

 

 

 

「カービィっ!」

 

 遂には、大きめな声で呼び起こされる。

 流石のカレも大声で呼ばれては無視するわけもいかず、薄らと瞼を開け、起きることに。

 

 そうして誰かの呼びかけによって、のんびりと起き上がるカービィ。

 それから、いつものように大きな欠伸をして――――見渡した景色に、思わず目をまあるくした。

 

 

 

 そこは自然豊かな、きせきの星。

 その星に存在する、呆れかえるほど平和な国。

 

 

 

 カレが見慣れた、プププランドの景色そのものであった。

 

 

 

「フフッ! やっと目が覚めたんだねっ、カービィ!」

 

 緑溢れる光景に呆然としていたカービィの後ろから、突如として喜々とした声が聞こえた。

 それに気が付いたカレがすぐさま振り返ると、そこにいたのは――

 

 

 

 数々の冒険を共にした、頭に巻いたバンダナがチャームポイントの子。

 

 その隣にはある異世界で出会った、翼のように大きな耳が特徴の神秘的な子。

 

 

 

 ――カレにとって掛けがえのない、2人のトモダチだった。

 

 

 

「来るのがおそいから もしかして……と思ったけど やっぱり ヒルネしてたんだね」

「大王たちも すっかりまちくたびれちゃってるよ。ボクたちも はやく行こうよ!」

 

 相も変わらないカレのマイペースっぷりにバンダナの子がやや呆れている傍ら、これから向かう場所に興味津々なのか、大きな耳の子は意気揚々とした様子を露わにする。

 

 その一方、2人の会話内容について、はて、と云わんばかりに疑問符を浮かべるカービィ。

 そんなカレの淡白な反応を目にした2人が「ええっ」と驚くと、バンダナを付けた子が問いかける。

 

「忘れちゃったの? 今日はみんなで 洞窟探検にいこう、って 約束してたでしょ?」

 

 経緯を説明されても、やはり憶えがないのかカービィはキョトンとするばかり。

 その様子を眺めていた耳の大きい子は「まだちょっと ねぼけているのかもね」とクスクス笑いながら呟く。

 

「う~ん、しょうがないなぁ」

「とにかくいこうよっ、カービィ!」

 

 カレらの到着を今か今かと待ちわびる者達をこれ以上待たせるわけにもいかず、先へ急ぐ2人。

 事情が把握できていないカレも、とりあえず着いていこうと後を追う――その瞬間だった。

 

 

 

『――……ビィ! ……――――』

 

 

 

 ふと、誰かの声が微かに聞こえた。

 その声に思わず足を止めたカレは声の聞こえた方へと振り返ってみるが、誰もいない。

 

 目をパチクリさせた後、気のせいかな、と身体を傾げるカービィ。

 けれども、何かひっかかるような違和感が拭い切れていないのも事実。

 

 

 

 ――そういえば さっきまで どんなユメをみてたんだっけ――

 

 

 

「カービィ~! はやくおいでよ~っ」

 

 遠くから聞こえてくるトモダチの呼び声によって、その場でぼ~っとしていたカレは我に返る。

 そして、これ以上2人を待たせるのも悪いと思い、急いでその場をあとにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 ――――あの日から、丸一日が経過した。

 

 昨日の騒動がまるで嘘かのように、穏やかに過ぎていく正午過ぎ。

 そんな中、今朝届いたメールに書かれていたある依頼について、”先生”は頭を悩ませていた。

 

 内容は――アリスの暴走時について、そこに至るまでの経緯と状況を纏めた報告書の作成。

 その依頼者は、ミレニアムの生徒会長、調月リオ。

 

 面識のない相手からの依頼に対し、アリスの事を考えると正直気が進まなかった”先生”。

 とはいえ自治区で発生した事態について、代表者たる生徒会長が説明を求めるのは当然の権利である以上、無下にはできない。

 

 何より大事な生徒からの頼みである以上、”()()”が断るわけにもいかず。

 

 そういった経緯もあり、依頼を引き受けた今日の午前中から作業を行っていた”先生”だったが、その進捗はお世辞にも順調とは言えず。そもそも先日の出来事について色々と思い浮かんでは考え込んでしまい、目の前の仕事に集中しきれていないことが原因だった。

 

 

 

 なぜ、アリスはあの様な状態になってしまったのか。

 あのロボットとの関係は一体。

 

 あの時、彼女は――何をしようとしていたのか。

 

 

 

 様々な疑問を思い浮かべては思案するが、答えなど当然出るわけもなく。

 ただ一つ、アリスの変容が発端である、という点は紛れもない事実。

 

 彼女を取り巻く環境が急激に変化していく状況に、言い表せない不安を募らせる”先生”。

 思わず額に手を当て、険しい顔を浮かべてしまう――そんな時であった。

 

『”先生”……あの……だいじょうぶ、ですか?』

 

 卓上スタンドに立て掛けられているタブレット端末――”シッテムの箱”から少女の声が発せられる。端末の液晶画面には、心配げに眉を八の字にする少女――アロナの姿が映し出されていた。

 

 珍しく歯切れの悪い彼女の声に気付いた”先生”がハッとした表情を浮かべる。

 それから一度、自身の目頭をギュッと押さえてから端末へ向き合うと、画面に映る彼女へ微笑んだ。

 

”ごめんね、アロナ。私は大丈夫だよ”

 

 相手を心配させまいと、努めて明るく振舞う”先生”。

 それに対し、何か言いたげな表情を浮かべるアロナだったが、結局言葉には出さず『そう、ですか』と浮かない顔を浮かべながら頷く。

 

 ――と、思いきや。

 

『……わかりました! けどダメだと思ったらすぐ言ってくださいね。このスーパー秘書のアロナちゃんが”先生”のサポートをカンペキにこなしてみせますから!』

 

 『本当ですよ!』と一言加えつつ、一転して明るい表情を浮かべながら茶目っ気を利かせた言葉を口にするアロナ。そんな彼女の急な態度の変化に、”先生”も思わず目を白黒させてしまった。

 

 しかし、それが彼女なりの励まし方なのだと気付いた”先生”は困ったように笑うと――

 

”……うん。ありがとうね、アロナ”

『えへへ……はい! お任せください!』

 

 今度こそ表情が和らいだ”先生”の感謝に、はにかんで応じるアロナ。

 どうやらスーパー秘書の彼女からすれば、無理をしていることなどお見通しだった模様。

 

 それから”先生”は気合を入れ直し、あらためて報告者の作成に取り掛かる。

 気が進まないのは相変わらずだが、だからこそキチンと今の状況を把握するためだと、気を引き締め直してからパソコンに向き合う。

 

 

 

 そう意気込みながら、当時の状況を――ひとつひとつ思い返すのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

8-2

 

 

 

 突如として起こった、ゲーム開発部の部員――アリスの暴走。

 

 まるで別人とも云えるほど急変した彼女が放った一撃によって室内の機材はおろか、壁や支柱までも破壊し尽くし、ヴェリタスの部室を崩壊させてしまう事態にまで至った。

 ただ運が良い云うべきか、その二次災害による負傷者は奇跡的に皆無であった。

 

 しかし、危険な状況は依然として続く。

 

「……有機体の生存反応を確認。プロトコルを再実行します」

 

 濛々と立ち込めた土煙から、姿を現すアリス。

 しかしその瞳は依然として、普段の彼女とは違う輝きを放ったまま。

 

 姿を見せると同時に、彼女は一切の感情の色を浮かべず、淡々と武装のリロードを行う。

 その光景に、誰もが絶体絶命の危機に陥る――その時だった。

 

 

 

「――――おい、チビ。そこまでだ」

 

 

 

 いつの間にか接近していた背後の存在に思わず振り向く――その前に、相手が放った手刀によって為す術もなくアリスは意識を落とした。

 そのまま崩れ落ちる彼女の身体を咄嗟に支えたのは、他でもない意識を奪った張本人――

 

「大人しく寝てろ」

”ネル……!”

 

 エージェント集団、”Cleaning&Clearing”のコールサイン・ダブルオー。

 そして、ミレニアム最強の実力者と謳われる人物である、美甘ネルだった。

 

 彼女の登場に目を見開く”先生”。

 一方の彼女はそれに応じず、睨み付けるかのように目を細めては、ある方へと視線を向ける。

 

「……こいつら、ここにもいやがったのか」

 

 独り言のように呟いた彼女の目に映る、奇怪な生物のようなロボット。

 既にアリスの意識が途切れているにも拘らず、活動を停止する兆しも見せず、浮遊したままその場に漂っていた。

 

 不気味に浮遊し続ける5体のロボットを一瞥したネルが面倒くさそうに頭を掻いては、溜息を吐く。

 そして、『おい、行くぞ』と徐に彼女が声を掛けると――

 

「――うん、部長」

「支援する」

「ええ、後方はお任せください」

 

 号令とも取れる言葉に反応したのは、彼女と同じC&Cのメンバー。

 

 コールサイン・ゼロワン、一之瀬アスナ。

 コールサイン・ゼロツー、角楯カリン。

 コールサイン・ゼロサリー、室笠アカネ。

 

 集うようにネルの横に立ち並んだ彼女達が、ミレニアム最強の戦闘集団に相応しい風格を漂わせながら戦闘態勢に移る。

 

 

 

 その後の戦闘について、語ることは殆ど無い。

 強いて言うならば、まさしく”お掃除”と云っても過言ではないほど、呆気ない終幕であった。

 

 

 そうして数分と掛けずに、無事戦闘を終えたC&C。

 結果として、この場にいる生徒達に大きな怪我もなく、事態は収拾した。

 

 そう――()()は。

 

 

 

「”カービィ”!! どこっ!?」

 

 戦闘が終了したのを機に、今にも泣きだしそうな表情を浮かべたモモイが、あらん限りの声量で呼ぶ。そんな彼女の横では、不安に駆られた様子でミドリとユズが辺り一面を懸命に見渡してはピンクの影らしきモノを探す。

 

 しかし、その声に応じる者はいないまま、静寂だけが虚しく返ってくるのみ。

 どれだけ辺りを見渡しても、ピンクの影らしき存在は見当たらず。

 

 まさか、瓦礫に埋もれているのでは――

 

 その可能性に思い至ったモモイ達が顔をサッと青ざめると、元々は壁やら機材だったであろう瓦礫を掻き分けてはカレの姿を探す。破片で手が傷付こうとも構わず続けていく3人だったが、努力の甲斐もなく求めた姿は見当たらないまま、時間だけが過ぎていった。

 

 漠然とした焦りだけを募らせながらも、手を止めないモモイ達。

 そんな彼女達を止めたのは、ある人物の一言。

 

「……ううん。そこにはいないと思う」

 

 背後から耳に入ってきた言葉に思わず手を止めた彼女達は、声が聞こえてきた方へ振り返る。

 そこにいたのは、いつもの人懐っこい笑顔を潜ませ、何時になく真剣な面持ちを浮かべていたアスナだった。

 

 普段とはまるで雰囲気が違う様子に一瞬戸惑うモモイ達だったが、「多分、こっち」と呟いては迷いない足取りで先に行く彼女の後を、一先ず追い掛ける。

 

 そうして彼女を先頭に、今や見る影もないが元々壁があったであろう場所にまで移動する4人。

 そこで、ジッと足元を見つめたままアスナはその場で佇む。

 

 すると突然身を屈めては、足元に積まれていた瓦礫を手で掻き払い始めた。

 

 アスナの急な行動に目を見張るモモイ達だったが、すぐにその行動の意図を察しては彼女達も行動に移す。ここ最近、直感というモノは存外馬鹿にできない、ということを実感させられているが故に。

 

 

 

 その甲斐あってか、間もなくして――

 

「――カービィっ!!」

 

 瓦礫を掻きわけていたモモイが、隙間から覗かせたまあるい赤い足を見つけるや否や、衝動的に叫んだ。

 

 

 

 その叫び声に気付いた3人も、彼女と共に邪魔となる瓦礫を除けていき――ついに彼女達は探していたカレを見つけ出す。身体にはレールガンの直撃による煤けた跡が残っていたが、少なくとも五体満足な状態であることに彼女達は心の底から安堵する。

 

 しかし、ソレも束の間。

 

 姿を見せてからも呼吸もせず、目を閉じたままピクリとも動かないカービィ。

 そんなカレの様子に、先程まで感極まって抱き着いていたモモイが不安を覚えては「カービィ……?」とおそるおそる呼びかける。

 

 それに対し、呼びかけられた本人は全く応じない。

 

「ちょ、ちょっと……こんなとこでお昼寝してる場合じゃない、ってば~……っ」

 

 胸に芽生えた不安を誤魔化す様に、ワザとらしい言葉を掛けつつカレの身体をゆさゆさと揺さぶるモモイ。

 

 しかし、やはり応答は、ない。

 

 その不穏な様相に”最悪の事態”を予期した彼女は、いよいよなりふり構わず大声で呼びかける。

 それは慟哭とも云えるほど切羽詰まった呼び掛けだったが、無情にもその場に響き渡るだけ。

 

「う、ウソ……でしょ……っ?」

「あ……あ、あぁ……っ!!」

 

 そんな最悪の結末が頭を過ったのか――茫然と立ち尽くすミドリは信じられないかのように声を震わせ、その傍らで顔を真っ青に染めたユズが口元を手で覆いながら嗚咽を漏らす。

 

 彼女達の尋常ではない様子に他の面々が遅れて駆けつけたが、状況は変わらず。

 結局、カレが目覚めることはないまま、無意味に時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 悲惨な状況に誰しもが言葉を失っていた――そんな中、「大丈夫」と口にした人物がひとり。

 

 

 

「その子、眠っているだけ――だと、思う」

 

 その言葉に反応した一同が、声を発したであろう人物へと意識を向ける。

 そこにいたのは、難しい顔でカレをジッと見つめていたアスナだった。

 

 普段の彼女らしい、根拠も理由も度外視した話ではあるが、少なくとも彼女の答えは”最悪の事態ではない”とのこと。それを口にしたのが他の人物ならただの気休め程度にしかならないが、カレに負けないほど直感に優れた彼女の言葉なら、話は別。

 

 

 

 それを理解しているからこそ、誰よりもアスナの言葉に反応を示したのは。

 不安げに瞳を揺らしながら彼女に詰め寄る、ゲーム開発部の3人。

 

「ほ、ほんとに……っ? カービィ、()んで、ない……?」

 

 その内の1人であるモモイが、不安と期待が綯い交ぜになった表情を浮かべたまま、縋る様にアスナに尋ねる。普段の彼女から予想できないほどその声は弱弱しく、今にも不安に押し潰されそうな雰囲気を漂わせていた。

 

 そんな彼女達を安心させるように、柔らかく微笑んだアスナは「うん、それは絶対」と頷く。

 

 

 

「だから、大丈夫だよ」

 

 カレは()()()()()()と、確信を以って告げるアスナ。

 決して、仲間を庇って命を落とした――なんてことはあり得ないと、彼女は確かに口にした。

 

 

 

 その一言で、今度こそ伝わったのか。

 モモイとミドリ、ユズの3人は、力が抜けたようにその場にへたり込んでは――

 

 

 

 ――…………よかったぁ……っ――

 

 

 

 その言葉を皮切りに、涙腺が崩壊したかの如くポロポロと泣きじゃくる3人。

 周りからの視線や反応に構わず、うわ言の様に”よかった”と連呼しながら、抑えきれなくなった感情を吐き出していく。

 

 大事な仲間が急変した挙句、大切なトモダチを手に掛けた。

 

 そんな悪夢としか言いようがない瞬間を、間近で見せつけられた彼女達の精神はこれ以上無いほど消耗しており、特に庇われた本人であるモモイに至っては、既に限界に近かった。

 だからこそカレが生きている可能性に望みを抱き、気が抜けてしまうのも仕方のない話だった。

 

 そうして脇目も降らず泣き続ける3人を、ヴェリタスのハレやマキ、コタマが各々優しく慰める。

 特にモモイ達と一番長い付き合いであるマキは彼女達に感情移入してたせいか、瞳に涙を溜めては共に喜ぶ姿さえ見せていた。

 

 

 

 ――その一方、”先生”や他のC&Cのメンバーと共に彼女達を見守っていたネルが口を尖らせながら、アスナを肘で軽く小突いていた。

 

「……お前、もうちっと早く教えろよ」

「ん~……そうなんだけど、ね」

 

 小突いた相手へ不平を口にするネルに対し、アスナは煮え切らない反応を露わにする。

 その様子に怪訝な顔を浮かべたネルを傍目に、「えっとね」と思考を巡らせつつ彼女は語る。

 

「さっきまで、すっごくモヤモヤした感じだったの。生きてるけど、そうじゃない、みたいな?」

「……なら、今は違うのか?」

 

 彼女の言葉に耳を傾けていたカリンが尋ねると、うん、とアスナは頷く。

 するとその反応について思い当たる節があったのか、アカネが腑に落ちたような表情を見せる。

 

「だからアスナ先輩、先程まで浮かない様子だったのですね」

「あははっ、バレてた?」

 

 彼女の指摘に、アスナは笑いながらも照れくさそうに頬を掻く。彼女としても類に見ない経験だったのか、本人からみれば強張った表情が出てしまっていた模様。

 

 一方、その態度に呆れたように溜息を吐いたネルが「それだけじゃねえだろ」と呟き、

 

 

 

「それだけ、あのチビピンクが心配だったんじゃねーのか」

 

 と事も無げに、彼女の心情を解りきっているような言葉を口にした。

 

 

 

 そんな彼女が発した言葉に対し、図星を突かれたように目を丸くするアスナだったが、やがて少し困ったように笑みを浮かべつつ、呟く。

 

()()、したからね」

 

 

 

『――今度一緒に冒険しようね!』

 

 

 

 ついこの間――2日前に約束を交わした時の記憶が、彼女の脳裏に浮かぶ。

 時々、意識や記憶が途切れ途切れとなる彼女だが、その約束はまだ、鮮明に思い出せていた。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

8-3

 

 

 

 ともかく、カービィが生きている可能性があることに一縷の望みを持つ一同。

 とはいえカレの状態が気掛かりであることに間違いはなく、モモイ達が落ち着くのを見計らってからミレニアムの保健室へと急ぐことに。

 

 それから目的地に辿り着いて早々、未だ眠り続けるカービィをベッドに寝かせる。

 微動だにしない様子から、本当に生きているのか不安こそあったが、検査しようにもカレに対してセンサー類が反応しないため、検査器具の悉くが意味をなさず、どうすることもできない。

 

 あとはカレの回復を信じ、待つしか他はない。

 そう話が纏まったのを頃合いと見計らったネルが、一息ついてから口を開く。

 

「んで、何があったんだ」

 

 事情を尋ねる彼女の視線の先では、”先生”に負ぶられたまま眠り続けるアリスの姿が。

 一方、結果的にネルと見合わせる形となった”先生”が今までの経緯について、彼女も含めたC&Cのメンバーへと説明する。

 

 

 

 ヴェリタスが拾ってきた、製造元不明のロボット。

 ソレを目にしたアリスに起こった異常行動。そして、別人とも云える程の急変。

 そして急変した彼女の、襲撃――その際、モモイを庇ったカービィの負傷。

 

 

 

 そうして、簡潔ながら要点を抑えた説明を終えた”先生”。

 その説明に今まで相槌を打っていたネルが「なるほどな」と、一先ず理解を得られたのか溜息交じりに呟いた。

 

 そのあと各々が話し合った末、今日の所は一旦解散することに話が纏まる。

 

 ここで話し合っても結論は出ない上、当事者であるアリスの目が覚まさないことには話は進まず。

 何よりC&Cのメンバーは兎も角、不測の事態が立て続けに起こったことにより、心身共に疲弊しているゲーム開発部やヴェリタスの部員達には休息が必要であった。

 

 そうと決まれば、アリスを彼女の自室まで運ぼうとする”先生”。

 その際、「あの、”先生”」とミドリが声を潜めながら呼びかける。

 

「アリスちゃんは、あの時のこと……憶えているんでしょうか……?」

”それは…………”

 

 不安げな様子の彼女が口にした言葉に、思わず”先生”は言葉に詰まる。

 それは、憶えているか憶えていないか――で終わるだけの話ではなく、いずれにしてもその後、どう対応すれば良いのか判断し兼ねているからこその沈黙であった。

 

 

 

 仮に憶えていたとして、目を覚ました時、アリスは平常でいられるだろうか。

 本意ではないとは云え、自身の手で大切なオトモを傷つけた事実に。

 

 逆に憶えていなかった場合、彼女にどう説明すべきか。

 真実を告げるべきか、或いはあえて黙っておくべきか。

 

 

 

 現時点でその答えが見出せない”先生”は、思わず険しい表情を浮かべてしまい――それに気が付いたミドリは慌てた様子で「ご、ごめんなさいっ」と口にするのと同時に、頭を下げる。

 

「と、とにかく今はアリスちゃんを休ませましょうっ」

”……う、うん。そうだね”

 

 無理やり話を切り上げるように発した彼女の言葉に、気遣わせてしまったことに内心申し訳なく思いつつ、”先生”は頷く。今はアリスを休ませることを優先すべきだと、気持ちを切り替えた模様。

 それから疲れ切っていながらも、”アリスが心配”と主張を曲げないゲーム開発部の3人を伴いながら、足早に彼女の自室へと向かうのだった。

 

 

 

 結局そのまま、先の答えは出ないまま――今に至るのであった。

 

 

 

 今まで、忙しなくキーボード上で動かしていた手を止めた”先生”。

 張っていた気を解きほぐすかのように深く息をついた目の前には、最初こそ空白部分が目立っていた報告書が一通り文字で埋め尽くされた状態で、画面に映し出されていた。

 

 なんとか報告書を仕上げた”先生”が、横目で時間を確認する。

 時刻は、ちょうど昼の1時を指し示している。

 

 依頼の連絡が朝の8時頃だったことを踏まえると、報告書の作成に5時間ほど費やしていたその事実に、流石に時間を掛けすぎたかもと反省しつつ、”先生”は急ぎリオへの返信メールを作成することに。

 

 それから数分と掛からず、少し提出が遅くなったことへの謝罪文も交えたメールが完成する。

 それを早速送ろうとする”先生”――だったが、その直前、ふと懸念が過る。

 

 この報告書を目に通したセミナーの会長は、アリスのことをどう思うのだろうか、と。

 

 現時点で不確かな点が多いとはいえ、客観的な視点で見れば彼女が原因だと考えるのは間違いない。そうなれば、当人に対し不信感を抱くことは想像に難くない。

 

 

 

『”未知の存在”の捉え方は人それぞれです。興味、期待、不安、恐怖、危険性の有無、実益性の有無……良い方に捉える方もいればその真逆もあり得るでしょう』

 

『危険性を重視する者が、総合的に危険性が高いと見做した場合は――』

 

 

 

 何時の日か耳にした、()()()()の言葉が脳裏に過る。

 今にして思えば、彼女はこのことを示唆していたかもしれない。

 

 そう思い至った”先生”は一旦送信するのを止め、再び報告書のファイルを開くと、最後の方に新たな文書を付け加え始めた。

 

 その内容は、普段のアリスの日常や周囲との触れ合いについて事細かに説明したもの。

 決して彼女は、悪意を持って人を傷つける存在ではない――そのことが少しでも伝われば、と。

 

 判断材料としては気休め程度にもならないと解っていながらも、それでも彼女の善性を無下にしたくない一心で文書を完成させた”先生”は今度こそメールを送信。間もなくして、送信が無事に済んだことを報せる通知を目にしたことで、ようやく肩の荷が1つ下りたように、一息つく。

 

 しかし休憩もそこそこに、すぐさま外出の準備をし始める”先生”。

 向かう先は、当然――ミレニアムサイエンススクール。

 

 今朝届いたモモイ達の連絡によれば、カービィもアリスも未だ目を覚ましていないとのこと。2人の様子が気掛かりなのは”先生”も同じであり、見舞いもかねて様子を窺うことに。

 

 そうして出発の準備が整った”先生”がオフィスを出ようとした、その時。

 シッテムの箱からアロナが慌てた様子で声を掛ける。

 

『”先生”っ、外は大雨ですよ! 傘を持っていきましょう!』

”え……あ、本当だ”

 

 彼女の指摘に目を丸くした”先生”が少し呆けたような声を漏らし、続けて視線を窓の方へと向ける。確かに彼女の言う通り、窓の向こうでは騒々しく打ち鳴らしながら雨が降り注いでいる光景が目に入ってきた。

 

 昨日から引き続いて雲行きの怪しい空模様だった憶えはある”先生”だが、何時から降りだしたのか記憶に全くなかったせいか、思わず首を傾げる。

 

”さっきまで、降ってなかったのに……”

『つい30分ぐらい前から、降り始めたんです』

 

 それに答えつつ、『それに気づかないぐらいお仕事に集中していたんですねっ』と、大人の集中力にアロナが目を輝かせて感心している――その一方、周りの状況に全く気付かないのもどうなんだ、と思っているのか、微妙な反応を示す”先生”。

 

 何はともあれ、流石に傘無しで出かける天候ではない。

 そう考えた”先生”はやや大きめの長傘を手に持つと、今度こそオフィスを後にするのであった。

 

 

 

 それから、少し時間が経過した、夕方頃。

 外では相変わらず大雨が降りしきる、そんな時だった。

 

「――――……あ、れ?」

 

 1人の少女が予兆もなく、瞼をパッチリと開いて意識を覚醒させる。

 もっとも彼女の場合”再起動した”と、言い表す方が正しいのかもしれないが。

 

 そんな彼女の目に入ってきたのは、見覚えのある天井。

 

 そのことから、自室のベットで仰向けになって寝ている状態だと把握するが、なぜこんなところで眠っているのだろうと、ここに至るまでの記憶が全く思い出せないことに疑問を抱く。まるで、その部分だけ記憶がごっそり抜け落ちているように。

 

 ともかく一旦、ベッドから降りようと身体を起こし――

 

 

 

()()()!? 目が覚めたの!?」

 

 すぐ隣の部屋にいたのか、物音に気が付いたモモイが戸惑いと喜びが混じった表情を浮かべては駆けつける。その後ろにはミドリとユズ、そして数時間ほど前にミレニアムに到着していた”先生”が心配げな表情を浮かべては様子を窺っている。

 

 その一方、落ち着きがない彼女達とは裏腹に、先程まで眠っていた少女――アリスがきょとんと可愛らしく首を傾げた。

 

「アリスちゃん、その、大丈夫……?」

「あ、あれから丸一日眠ってたから……わたしたち、心配で……」

 

 身を案じるかのようなミドリとユズの発言に対し、当の本人は疑問符を浮かべるばかり。

 そもそも今の彼女からしてみれば、丸一日眠っていた自覚すらない。

 

 とはいえ今の状態に問題ないと自覚していたアリスは、「はいっ」とベッドから元気よく降りては――

 

「アリスは大丈夫です! HPもMPも全快しています!」

 

 そう口にしながら、周囲を安心させるようにアリスは朗らかに微笑んだ。

 

 そんな彼女の応答に、いつもの状態だと確信を得た4人は今度こそ胸を撫で下ろす。

 一方、彼女達の中に見慣れた存在がいないことに気付いたアリスは、キョロキョロと室内を見渡しては――

 

 

 

「えっと、()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 なんとなしに呟いた、彼女の一言に。

 安堵の表情を浮かべていた4人の表情が、一瞬にして凍りついた。

 

 

 

 あれから、カービィは未だに目を覚ましていない。

 

 ”先生”がミレニアムに到着してからすぐモモイ達と合流した後、保健室へと様子を窺いに向かったが、容態は変わらず。声を掛けても身体を揺さぶっても、カレが目を覚ますことはなかった。

 昨日の去り際にヴェリタスが設置してくれた盗撮用――もとい監視用カメラによれば、僅かにだが時折口元が動いている様子があるため生きている可能性は高い、とのことだが、眠り続ける原因は未だに不明のまま。

 

 それからしばらくカレの様子を窺っていたモモイ達だったが、やがてアリスの容態も気になる、ということで、後ろ髪を引かれる思いのまま保健室を後にしたのだった。

 

 

 

 そしてこの瞬間、4人の予感が確信へと変わる。

 アリスは()()()()()()()を、憶えていない。

 

「あ、いや……か、カービィは、えっと」

「な、なんていうか、それは…………」

 

 彼女の言葉に答えようとするモモイとミドリだが、上手く言葉が出ないせいか口籠るばかり。

 そんな挙動不審な2人の様子に当然とも云える疑問を抱いたアリスは、気まずそうに目を伏せていたユズへと尋ねる。

 

「2人は、どうかしたのですか?」

「え……、あ、あ、あのっ……その……っ」

 

 急に話を振られ、目を泳がせながら狼狽えるユズ。

 その表情は今にも泣きだしそうな雰囲気を醸し出していた。

 

 その様子を見て、アリスに不安の色が浮かび始める。

 ただ純粋にオトモの所在について尋ねただけなのに、それに対する3人の反応はオカシイと、まだ感情の機微に疎い彼女も薄々何かを感じ取ったようだ。

 

「”先生”……?」

 

 不安げに問いかけるアリスの言葉に、”先生”は思わず表情を硬くする。

 つい彼女から目を逸らしたくなる衝動が湧いたものの、辛うじて堪える。

 

 

 

 真実を告げるのは、簡単である。

 それこそ、報告書に記述した内容をそのまま伝えればいい。

 

 しかし彼女の心が、その事実に耐えられるだろうか。

 カレに対し絶対の信頼を寄せている彼女が、自身の意思ではないにしろ、その手で傷つけたなど。

 

 だからといって、このまま誤魔化すことは、彼女の為になるのだろうか。

 何より仲間を庇って傷を負ったカレに対し、非礼な仕打ちではないのか。

 

 

 

 色々な考えが頭を過っては、心の中で葛藤を繰り広げる”先生”。

 とはいえ、今この場で決断しなければならない――告げるべきか、そうではないか。

 

 それから数秒ほど間を置いてから、気を落ち着かせるために”先生”は大きく息を吐く。

 そして、不安げな表情を浮かべるアリスを見つめ返しながら”あのね、アリス”と、まるで割れ物に触るかのような口ぶりで、彼女へと語りかける。

 

”今からする話を、落ち着いて聞いて――――”

 

 

 

「いいえ、それには及ばないわ」

 

 

 

 ”先生”の言葉を遮るかのように、突如室内に響きわたる、凛とした声。

 決して大声で張り上げたモノではないにも拘わらず、この場にいる全員の耳にはっきりと伝わる声であった。

 

 思わず、声が聞こえてきた方へと全員が振り返る。

 聞こえてきたのは、玄関へと続く廊下の方。

 

 そこで彼女達が目にしたのは――黒が象徴的とも云えるほど、黒を基調としたスーツを身に纏い、膝元まで靡かせるほど長い黒髪が目立つ、1人の少女。

 

 

 

「やはり――危惧していた通りになってしまったようね」

 

 

 

 ミレニアム・サイエンススクール生徒会――セミナーの会長、調()()()()

 そんな彼女の冷淡な瞳は、思い掛けない人物に困惑するアリスの姿を映していた。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【Q.カービィ世界から来ないっていたじゃないですかー! やだー!】
→来てはないよ^^

【Q.なんでこの2人?】
→このSSの1話投稿日。
 バンダナの台詞はバトデラとディスカバ基準。

【それには及ばないわ】
→手で髪を靡かせるまでがセットウェヒヒヒ



 正念場でござあい。


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