Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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 カービィちゃん誕生日おめでとう! 34周年迎えたんかワレ。
 これからもよろしくね。



 あ、今回出番ないです^^
 ほんま誕生日向けじゃねえこの作品


009

9-1

 

 

 

 シャーレの”先生”から送られてきた報告書に目を通した彼女が、胸中に湧き上がった感情。

 それは、予測できていた事態を未然に防ぐことができなかった、自責の念だった。

 

 ある日を境に、一か所に集うように進行を始めた謎のロボット群の動向を、()()()の助力もあってか早い段階で把握することに成功。それから、直属のC&Cや自身が開発した戦闘用ドローン”AMAS"を秘密裏に動員させ、彼女はミレニアム各所に潜むロボットの追跡と排除を行っていく。

 

 しかしその努力虚しく、監視の目を搔い潜った個体が、例の()()()()と接触してしまう。

 

 結果、暴走した監視対象による破壊行為でヴェリタスの部室は崩壊。不幸中の幸いにして、生徒達に目立った外傷を負うことはなかったものの、事態は急を要する事となる。

 

 その事実に、己の見通しが甘かったことを彼女は痛感する。

 結局、物量で押されればいつか対応が追いつかなくなることは、自明の理。今回は何とか収拾できたが、再び同じことが――或いは、それ以上の事が起こり得ないとは限らない。

 

 

 

 ゆえに、大元を断つ必要がある。

 たとえ、それが大勢から非難される方法だとしても――今度こそ、失敗は許されない。

 

 

 

 決意を新たに、彼女は予定していた計画を前倒しして決行することに。

 本音を言えば、もう少し情報を収集してから行動に移したかったようだが、こうなってしまった以上悠長に構えている場合ではないと、己が信条とする合理性に従い、決断してしまった。

 

 

 

 そんな彼女を止める者は、遂に現れず。

 彼女――調月リオは、アリス達の目の前に姿を現すのであった。

 

 

 

「か、会長……?」

「な、なんで会長がここに……」

 

 彼女達からすれば、雲の上の存在といっても過言ではない彼女の登場に、戸惑いを隠せないモモイとミドリ。ユズにいたっては相手が放つ物静かな圧のせいか、才羽姉妹の背後に隠れながら身をブルブルと震わせていた。

 

 その一方、直接対面することは初めてとはいえ、2人が呟いた言葉から先刻メールでやり取りしていた相手だと気が付いた”先生”は素性を確かめるように、”会長、ってことは……君が、リオ?”と、問いかける。

 

「直接会うのは初めてね、シャーレの”先生”。本来なら正式に挨拶を交わす席を設けたかったのだけれど……それはまた別の機会に」

”あ、うん、よろしく”

 

 問いに対し、年不相応とも云えるほど、畏まった態度で応じるリオ。

 それに少し気圧されながらも、”先生”も言葉を返す。本人としては、生徒からそういった対応をされることに、あまり慣れていない様子。

 

 片や、その様子を気にする素振りも見せず、「改めて自己紹介しておきましょう」と、前置きすると――

 

「私の名は、調月(つかつき)リオ。ミレニアムスクールの中枢――セミナーを率いる者であり、”千年難題”の解決を望み、星を追う者」

 

 と、自身の正体について淡々と明かしていくリオ。

 そして、簡素な紹介を終えた彼女が立て続けに、ある人物へと鋭い眼差しを向ける。

 

 視線の先では、今まで面識がない相手から冷淡な視線を向けられ、困惑するアリスの姿が。

 その姿を視界に捉えたまま、毅然とした佇まいでこの場に足を運んだ理由について、彼女は明かす。

 

 

 

「貴方達に――”真実”を教えにきたの」

 

 

 

 彼女が口にした言葉に、不安の色を強くしながら「しん、じつ……?」と、復唱するアリス。

 その返答に対し「ええ」と相槌を返したリオは、全員を一瞥しながら言葉を紡いでいく。

 

「貴方達は昨日の”事件”で1つの考えに到達したのではなくて? 今まで友人だと思っていた彼女が見せた――異なる姿。そして、同時に生じた破壊と混乱」

 

 どこか仰々しい言い回しに対し、実際にその光景を目撃した4人が思わず表情を硬くする。

 一方、身に覚えが全くないアリスだけ話に付いていけず、戸惑うばかり。

 

 その反応を余所に、リオは話を進めていく。

 

「そして、こうも思ったはず――”今まで友人だと思っていたものは、そうではないかもしれない”、と」

 

 「そうでしょう、シャーレの”先生”?」と、この場に於いて最も冷静な判断ができると見込んだ大人へ、彼女は同意を求める。

 しかし期待とは裏腹に、当の本人は相手の意図が読めず”一体何を……”と真意を問いながらも、困惑する様子を露わにしていた。

 

 そんな”先生”の心情を察したのか、或いは事実を告げた方が話が早い、と判断したのか。

 「単刀直入に言えば」と前置きしてから、彼女は静かに告げる。

 

 

 

「貴方達の後ろにいる少女の外見を備えた”ソレ”は……貴方達がアリスと名付けたソレは――」

 

 

 

 ――未知から侵略してくる”不可解な軍隊(Divi:Sion)”の指揮官であり、

 

 ――”名もなき神”を信仰する、”無名の司祭”が崇拝したオーパーツであり、

 

 ――古の民が残した遺産。

 

 

 

「その名も、『名もなき神々の女王』、”AL-1S”」

 

 

 

 最後に、彼女がそう告げた一言を皮切りに――長い沈黙が、この場に流れる。

 

 あまりにも突拍子の無い内容に、その場で呆然とする一同。

 想像を遥かに超える内容に理解が追いつかないのか、言葉が出ない状況が続く。

 

 そんな、重苦しい空気の中。

 ある意味、()()()()()()()()()()()が、躊躇いがちに口を開く。

 

「……アリスは……アリスには……理解、できません……」

 

 胸の中で段々と膨れ上がっていく不安を抑えながら、アリスが先の言葉を否定するかのように首を小さく横に振る――彼女自身、何を否定したいのか解らないまま。

 

「……い、いきなりなに言ってるのさ!? 一方的に脳内の独自設定を語らないでよ!」

「そ……そうです! 勝手に変な設定をアリスちゃんに付与しないでください、そういうのはお姉ちゃんだけで間に合ってます!」

「それは今言わなくてもいいよね!?」

 

 一方、急に荒唐無稽な話を聞かされた上、友人を危険物の様に例えられたことに怒りを露わにするモモイ。それに触発されたのか、呆気に取られていたミドリも姉に倣い、強気な態度で物申す――ひとこと多いのはさておき。

 

 すると、2人の憤りを目の当たりにした途端――

 

「……ごめんなさい、私の配慮が足りなかったわね」

 

 と、リオは先の発言について、意外なほどあっさりと非を認めた。

 片や、彼女のしおらしくも思える態度を目にした姉妹は、思わず目を丸くする。

 

 その実直な反応に、案外話せば解るのかもしれない――などと、2人が淡い期待を持つ間もなく。

 

「もっと理解しやすいよう、貴方達の好きな”ゲーム”に例えましょう」

 

 突如、この場においてあまりにも似つかわしくない単語を口にした相手に、唖然とする双子。

 確かに解り難かったことも事実だが、腹を立てた一番の理由はそこじゃない。

 

 そんな彼女達の反応を余所に、リオはアリスへと告げる。

 

「つまり、”アリス”。貴方はこの世界を滅ぼすために生まれた――――」

 

 彼女にとって、()()()()()を。

 

 

 

「”()()”なのよ」

 

 

 

 激しさを増す雨が降りしきる、真夜中かと見間違うほど暗い、夕暮れ時。

 どこか遠くの空で、雷鳴が轟いた。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

9-2

 

 

 

 魔王、とは。

 読んで字の如く、悪魔や魔物といった魔族に連なる者達の王として君臨する存在である。

 

 その印象から古今東西、多くの創作物において人間に害を為す勢力の頂点に立つ存在として描かれることも多く、世界を救う使命を抱える勇者にとって、因縁の相手と言っても過言ではない。

 

 つまるところ――勇者が世界にとっての()()()()()なら、魔王は()()()()()

 世界にとって、()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

「ま、おう……?」

 

 愕然とした表情のまま声を震わせ、先程リオが告げた言葉を復唱するアリス。

 そんな彼女を庇うように、ミドリが眉を顰めた面持ちで前に出る。

 

「またそんな設定を……どうしてそんな事を言うんですか!? いったい、何を企んでいるんですか!?」

 

 先程から無遠慮な物言いに不満を募らせる彼女とは対照的に、「企んでなどいないわ」とリオは落ち着き払った様子で否定しつつ、逆に問いかける。

 

「むしろ、貴方達は直接見たのではなくて? ”不可解な軍隊(Divi:Sion)”とアリスが接触した事で、何が起きたのかを」

”……それって、あのロボットのこと……?”

 

 今まで具体的な説明を挟まなかった”不可解な軍隊(Divi:Sion)”について”先生”が推測を交えつつ訊き返す。それに対し「その通り」と頷いたリオは、今まで一貫していた無表情な顔に、僅かながらも変化を生じさせた。

 

「本来、あんな事になる予定ではなかったのだけれど……完全にこちらのミスよ。C&CとAMASを通じて全部追跡したと思っていたのに……まさか、監視網を掻い潜った個体がいたなんて」

 

 突然、眉間に皺を寄せながら、過去の自分を責め立てるようにブツブツと呟きだした彼女に面食らう”先生”達――しかしそれから程なくして、更に驚くような事が。

 

 

 

「それは完全に私の不手際によるもの――謝罪を、ここに」

 

 そう口にしたのと同時に、リオは躊躇うことなく、頭を下げた。

 

 

 

 その姿を目にした”先生”は勿論、自身が在学する学園における、トップに立つ人物が頭を下げる瞬間を目の当たりにしたモモイ達の口から、驚愕と戸惑いの声が漏れる。

 当然の話だが、彼女はおいそれと頭を下げていい立場の人間ではない。

 

 兎も角、こういった行為をされることに慣れていないこともあって、少し落ち着かない様子で頭を上げるように促す”先生”。それを受け、感謝の言葉を述べてから、リオは頭を上げた。

 

 しかしそれから、恐るべき切り替えの早さで――

 

「……でも、そのお陰で私の仮説は証明された」

 

 と、再び冷静沈着な様子に戻った彼女は、話の続きを語りだす。

 それから、決して喜ばしい結果ではないにしても、皮肉にもそれが自身の仮説を裏付ける決定的な根拠となった、と語る。

 

 曰く、アリスを発見した廃墟地帯からぞろぞろと出現しては、ある場所へ目指すように進行を始めた”不可解な軍隊(Divi:Sion)”。

 その場所こそアリスが在学している、この”ミレニアムサイエンススクール”だった。至る場所で発見した機体も、学園に向かって進行する途中だったとのこと。

 

 つまるところ、アリスの存在が、あの機体を呼び寄せていた、とリオは断言する。

 

「今回は、運良く壊れかけの個体と接触するに留まったけれど……次はこんなものでは済まないでしょうね」

 

 万一に、大群で攻めてきていれば被害は更に広がり、事態は更に深刻化していた可能性は無きにしも非ず。その上、アレと接触した少女がどうなったのか――この場にいる者達にとって、語るまでもなく。

 

 

 

「…………教えて、ください」

 

 ただひとり。

 未だに、何も知らない少女を除いて。

 

「いったい、何が起きたのですか……? アリスは、何をしたのですか……? カービィは……どこにいるのですか……?」

 

 声を震わせながら、今まで誰一人明言しなかったことについてアリスは問いかける。

 しかし、湧き上がる不安と恐怖からか、顔色は決して良いとは言えない。

 

 今までの話の流れから、自身が何かしてしまったという、確信に近い予感を抱いたアリスだったが、肝心の何をしたのかを思い出すことができない。

 しかし周囲の反応や雰囲気から、決して善い話ではないことは、彼女も薄々感づいていた。

 

 それこそ、カレがここにいない理由だとしたら。

 そう思えば思うほど、嫌な想像が頭を過っては、彼女は背筋が凍るような感覚に陥る。

 

 そんなアリスを気遣いながらも、彼女が口にした事について表情を曇らせるモモイ達。

 一方、その様子に疑問を抱いたリオは訝しげに目を細めるが、すぐにある可能性が思い至ったのか、成程と頷いた。

 

「先程から妙な反応だとは思っていたけれど……その様子から見ると当時の記憶が無い、ということかしら」

「だ……だったら、何なの!? さっき起きたばっかなんだし、しょうがないじゃん!」

 

 彼女が呟いた推測に、モモイが噛みつくように声を荒げながら答える。

 先程からアリスを苦しめるような発言を繰り返すリオに対して心証が悪いのは、ある意味仕方のない反応ではある。

 

 それを気にする素振りもなく、「そう、なら仕方ないわね」と呟くリオ。

 すると、このまま時間を無駄にするべきではない、と考えたのか――

 

 

 

()()()()()()が”()()()()”と名乗る異種生命体を()()()――要約すると、そういう事になるかしら」

 

 

 

 一瞬、だった。

 

 無遠慮な物言いに、怒りを窺わせる表情も。

 少女を案ずる者達の心配も、抜け落ちた記憶に苦悩する姿も。

 

 たった一言。

 何てことないようにあっさりと告げられた一言で。

 

 全て、無に帰した。

 

 

 

「ウソ、です」

「紛れもない事実よ」

 

 

 

「だって、カービィは、アリスのオトモ、で」

「けれど、貴方が撃った事実に変わりはない」

 

 

 

「カービィは、どこ、ですか?」

「依然として意識不明のまま保健室で療養中、という報告があったわ」

 

 

 

「…………アリスが、げんいん……です、か?」

 

 

 

「違うッ!!」

 

 ふらふらと足元が覚束ないアリスの言葉に異を唱えたのは、淡々と答えていたリオ――ではなく。あまりにも友人の痛ましい様子に我慢できず、考えるより先に声を張り上げてしまったモモイであった。

 

 耳をつんざくような大声に驚愕した4人を余所に、彼女は湧き立つ感情そのままに声を上げる。

 

「あ、あの時のアリスはアリスじゃない、っていうかその……何かに操られてるみたいだったじゃん!!」

 

 言い回しはどうあれ、彼女は悪くない、という事をモモイは必死な表情で訴える。

 それは、今にも倒れそうなアリスへの励ましでもあり、冷酷なリオへの反発とも云える行為であった。

 

 そんな決死な訴えを前にしても、動じる様子の無いリオは相手の言い分について尋ねる。

 

「彼女が操られていた、という明確な根拠はあるのかしら」

「こ、コンキョもなにも……いつものアリスだったらあんなこと絶対するわけないっ!」

 

 対面する相手から放たれる、静かな迫力に内心怖気付きながらも、モモイは力強く言葉を返す。

 一方のリオは、子供じみた感情論とも云える主張について、冷静沈着に対応する。 

 

「つまり彼女自身の()()ではない……だから()()()()()()()と?」

「だからっ、そう言って――」

 

 要点を上げるリオに対し、アリスに悪意はなかった、という主張を曲げないモモイ。そんな彼女の言葉を、遮る様に――

 

 

 

「そのせいで()()()が傷ついたとしても仕方ない、と?」

 

 

 

 と、疑問を呈しながらも、容赦ない仮定を突きつけるリオ。

 その一言は、大事な妹や友人を抱えるモモイにとってすぐに答えられるモノではなく、愕然としてしまった彼女は、口を半開きにしたまま言葉を失ってしまう。

 

 やがて答えに窮する彼女を見兼ねたのか、「意地の悪い事を口にした自覚はあるわ」とリオは相手に向けていた視線を僅かに逸らしながら、呟く。

 

「けれど本意でなければ――()()()()()()()()()()()なんて、被害を受ける者にとって残酷な行為ではないかしら」

 

 そう口にしながら、リオは対面している相手へと鋭い視線を飛ばす。

 視線の先では、言いたいことは山ほどあるはずなのに、彼女の言い分に答えを返せず悔し気に表情を歪ませるモモイの姿があった。

 

 しかし、そんな彼女の悔しさすら一瞬にして吹き飛ぶ出来事が、ある一言を切っ掛けに起こる。

 

 

 

「――もっとも、彼女が”アレ”を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と考えざるを得ないけれど」

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

9-3

 

 

 

 さらっと呟いた彼女の言葉に、今日何度目かの衝撃を受ける一同。

 唖然とする5人の中で最初に言葉を発したのは、未だ理解が追いついていない”先生”だった。

 

”……どういう、意味……?”

「……”先生”の報告書に目を通した時、ある疑問を抱いたの。発射寸前にアレから()()()()()()のは、何故なのかと」

 

 戸惑いの色が強い”先生”の言葉に応じながらも、リオは視線をモモイの方へと向ける。

 片や、視線を向けられた当人は、不意に芽生えた不安からか身を震わす。

 

「貴方に放たれた銃撃を、あの異種生命体が庇った。その事実に相違はないかしら」

「そ……それが、なんなの……?」

「なら狙いを変えなかった場合、どうなっていたか想像したことは?」

 

 おそるおそる肯定を返すモモイへと、重ねて問い掛けるリオ。

 それに答えたのは問われた本人――ではなく、話の最中ある可能性に気が付いてしまったのか、顔を青ざめたユズだった。

 

「…………カービィなら、避けて……ううん、砲弾を吸い込め、た……?」

「え……?」

 

 彼女が小さく呟いた言葉を、隣で聞いたアリスがつい呆けた声を漏らす。

 そんなユズの答えを耳にしたリオも同意見だったのか、「ええ、その可能性は十分にあり得るわね」と頷き、更に話を進めていく。

 

「彼女もきっとそう考えたから、狙いを別にしたのでしょう――確実に、当てる為に」

「な、なに言ってんの……?」

「そ、そんなことしても……余計当たらないだけ――」

 

 そう言い掛けた、その瞬間。

 言っていることが矛盾している内容に戸惑うモモイとミドリの脳裏に、ある光景が浮かび上がる。

 

 

 

 C&Cの優れた狙撃手、カリンの狙撃から庇ったカレの姿。

 自分達の危機に気を取られた隙を突かれ、C&Cのアスナに捕まったカレの姿。

 

 高い戦闘力を有するカレが抱える、長所でもあり、数少ない弱点。

 それは()()()()()()()()()()()()()――純粋で、強い正義感。

 

 

 

「…………まさか、()()()()、なら――」

「――――()()()()()()()()、って分かっていた、から……?」

 

 ユズと同じく、ある可能性に思い至ったモモイとミドリが、震えた声で呟く。

 そんな彼女達の驚愕とは裏腹に、「その通り」とリオは達観した様子で肯定を示した。

 

「あの場に於いて”先生”、貴方は一番の脅威とは考えにくい。いくら指揮能力に優れているとはいえ、ゲーム開発部とヴェリタスだけであの時の彼女を抑えるのは、困難だったはず」

 

 リオの推察に、口を噤む”先生”。

 そもそも事態を把握できていない状態で、いきなりアリスと戦えと指示したところで、統率が取れるかどうか。あのままC&Cの救援が無ければ危険な状況だったことは、誰よりも”先生”が理解していた。

 

 故に、あの場で最も驚異の高いカービィの排除を優先するのは、当然ともいえる。

 彼女(AL-1S)にとっても未知の力を振るうカレの存在は、決して無視できる存在ではない。

 

 

 

 けれども直接狙うのは、効果的ではない。

 それは、彼女(アリス)の記憶から読み取った確かな情報。

 

 だからこそ、あの単純な性格を利用した。

 それも、彼女(アリス)の記憶から読み取った確かな情報。

 

 カレ以外なら誰を狙っても、間違いなく同じ行動をするだろうと予測しながらも、万が一を考慮し、庇ったことがあるモモイを狙えば、より確実だと踏んで狙いを彼女に。

 

 

 

 全ては、彼女(アリス)の記憶から導き出した――彼女(AL-1S)の狡猾な誘導だった。

 

 

 

「対象の力量と思考を考慮した上で、確実性の高い手段で仕留める……実に合理的ね」

 

 そう話を締めくくる様にリオが語った内容に、誰も口を出せなかった。

 彼女が提示した仮説に、微かでも信憑性を感じてしまったが故に。

 

 それは、ようやく真相に辿り着いた少女も、例外ではなく。

 

 大切な仲間を傷つけようとした挙句、カレの純粋な正義感を踏みにじってしまった事実。

 その上、心を寄せるカレを傷つけた上に、意識不明に陥れた事実。

 

 明かされた真実は、アリスにとって容認できる範疇を超えており。

 今まで不安定だった彼女の精神は――遂に、()()()()()()

 

「……あ、アリスちゃんっ!?」

 

 突然、膝から崩れ落ちたアリスに、今まで傍にいたユズが悲鳴のような声を上げる。

 その声と物音に気付くや否や、すぐ振り向いた先の光景にリオを除いた一同が、息を呑む。

 

 

 

 視界に入ったのは――打ちひしがれた顔を浮かべ、その場に力なくへたり込むアリスの姿、だった。

 

 

 

「アリスっ!!」

「アリスちゃん、しっかりしてっ!!」

 

 それを目にした途端、焦燥感に駆られたモモイとミドリが必死に声を掛けるが、答える気力すらないのか応答はなく、青ざめた顔を俯かせたまま。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから……っ!」

”アリス、落ち着いて……!”

 

 2人に倣う形でユズと”先生”も懸命に声を掛けるが、残念ながら効果があるとは言い難く。それほどまでに彼女の心は折れかけており、意識を保っていられるのがやっとだった。

 

 その最中、顔を俯かせていたアリスが「どう、して」と弱弱しく呟く。

 

「……アリスは……ただ……勇者に……みんなと一緒に……ゲームを……クエストを、したかった……それだけなのに……」

 

 誰かに向けたモノではなく、自身が胸に抱いていた理想を――純粋無垢な子供らしい夢を、うわ言の様に語るアリス。

 その姿は、普段の天真爛漫な性格を知っている4人が絶句するほど、悲嘆に満ちた姿だった。

 

 

 

「いいえ、それは叶わないわ」

 

 そんな淡い願いすら、不可能だと。

 断じるように冷徹な言葉を投げかけたのは、今まで静観に徹していたリオ。

 

「貴方は己を勇者と呼んでいるけれど……”勇者”とは、()()()()()()()()存在かしら?」

 

 今のアリスにとって、最も耳を塞ぎたいであろう事を訊いた上で、彼女は問い質す。

 

 

 

「むしろ、それは――”悪役(魔王)”の振舞いではなくて?」

 

 

 

 その言葉を突きつけられた瞬間、酷く心を抉られた感覚を覚えたアリスの双眸から、(冷却水)が零れ落ちる。だがその言葉に違う、と否定することが、今の彼女にはできなかった。

 

 勇者という存在に、憧れを抱いているアリスだからこそ。

 己自身が起こした災厄から目を背けて、自分は勇者である、などと口が裂けても言える筈がなかった。

 

「アリス! 聞かなくていいっ!!」

「生徒会長が変わり者だとは聞いていたけど……こんな人だとは思わなかった……!」

 

 そんな中、冷酷といっても過言ではないリオの発言に――何より友人が涙を流す姿に、いよいよ我慢の限界を迎えたモモイとミドリが、怒りと嫌悪を露わにしながら各々の愛銃をその相手へ向ける。

 一方、銃口を向けられた張本人は、いつ銃撃が始まってもおかしくない状況にも拘わらず、やはり毅然とした態度を崩さない。

 

”……リオ、やめて”

 

 その時、一触即発な空気に割って入る様に――けれども、これ以上見過ごせない、とばかりに。

 生徒達の前では滅多に見せないであろう、険しい表情を浮かべた”先生”が、リオの前に立つ。

 

 それに対し、「やめる? 何を?」と、彼女は本気で解りかねている反応を示す。

 

「事実から目を背けるのは思いやりではないわ、”先生”。それは単なる現実逃避――負うべき責任の放棄は、極めて非合理的な行動よ」

”合理、非合理の問題じゃないよ……”

 

 彼女の意見に、そうじゃない、と”先生”は首を横に振る。

 そして続けて、”事実を伝えるにしても、アリスの気持ちを汲み取ってあげるべきだよ”と、あくまで冷静な物腰を保ちながらリオを窘める。

 

 片や、アリスの感情を重んじる”先生”の対応が、リオにとって何か気に障ったのか、一瞬眉を顰めては「なら、シャーレの”先生”」と、鋭い視線と共に問い掛ける。

 

「情に絆されるがまま、様子見に徹しろと言うの? それともこの事態を解決できる手段が貴方に用意できる、と?」

”それは……”

 

 問い詰めるような彼女の指摘に、痛いところを突かれたように、苦悶の表情を浮かべる”先生”。

 そもそも、そんな手段を思いついているのであれば、”先生”が昨日から今に至るまで頭を悩ませてたりはしない。それは、報告書を確認した本人にも解っている筈だった。

 

「……既に賽は投げられたわ、”先生”。ここで()()()()()という選択は、有り得ない」

 

 そう呟いたリオに、一瞬だけ”先生”は違和感を感じる。

 今まで徹底的に感情を抑えていた時とは違う、彼女が纏う雰囲気の違い。

 

(”……これは、焦りと……()()?”)

 

 これまで色々な相手とやり取りしてきた経験上から、ある予感を抱いた”先生”は、その正体を探るため彼女に問い掛けようと――

 

 しかし、その行動はある人物によって遮られる形となる。

 

「それじゃあ、アリスは……アリスは、どうすればいいんですか……?」

 

 普段の明るさは完全に鳴りを潜め、怯え切った様子を露わにするアリスが、2人の会話に割って入るように問いかける。彼女自身、どうにかしたい一心であることは確かだが、どうしたらいいのか思い浮かばないことも、確かであった。

 

 それを受け、視線をアリスの方へと向けてから、リオは口を開く。

 

「結論から言えば、すべての元凶はアリス――貴方がここにいるから起きている」

 

 「ならば、あとは簡単でしょう?」と、彼女は言葉を付け加えながら、淡々と話を進めていく。

 その物々しい発言に、漠然とした不安を覚えた一同が固唾を呑む。

 

()()は――安全な場所で()()すればいいだけだもの」

「爆弾を……解体……?」

 

 敢えて、遠回しな言い方をするリオ。

 その言い回しに要領を得なかったアリスが、おそるおそる訊き返すと、「ああ……分かりづらかったかしら」と呟いた後、リオは相手に意味が伝わるように、言葉を選ぶ。

 

 

 

「つまり――貴方の”ヘイロー”を破壊すれば解決する、ということよ」

 

 

 

 ――決然と、彼女が口にした宣告に、誰もが言葉を失った。

 言い方はどうあれ、こう告げたのだから。

 

 

 

 『()()()()()()()()()()()』と。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【魔王】
→ドリャー

【賽は投げられた】
→cross the Rubicon

【調月リオ】
→正論パンチやめてクレメンス……



 次回、星の


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