Spring Sky StarS!   作:笹ピー

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「ねんどろアリスちゃんが発売される」
「発売されるとどうなるの?」

「知らんのか」

「ねんどろカービィちゃんも買いたくなる」

■これで4体目――――――――☆

 長くなりもうしたので、泣く泣く2話に分けるのだ。
 どこぞの北斗回とは同じ轍を踏まないのだ1万字ほどで収められない私を許しておくれなのだ。


010

10-1

 

 

 

 窓の外から止まない雨音だけが静かに鳴り響く、ミレニアムの保健室。

 その一室で1人の少女が、ふと微睡みから目を覚ました。

 

 ベットの傍らに設置していたパイプ椅子に腰かけたまま、ゆっくりと瞼を開く少女。それから靄がかかった意識の中、呆けた表情を浮かべながらここに至るまでの経緯を思い出そうとする。

 

 しかし、寝起きのせいなのか――あるいは()()()()からなのか。

 何も頭に浮かばないまま、ただ虚ろな目でぼうっとするだけの時間が過ぎていくのみ。

 

 そんな彼女が理由なくある方へと視線を向けた、その時。

 ベッドで眠り続ける、ピンクボールらしき生物の姿が偶然目に入る。

 

 目に留まったソレを、なんとなく惹かれては食い入るように見続ける少女。

 すると、ぼやけていた意識と感覚が急激に研ぎ澄まされていくのを感じ――

 

(――……そういえば、お見舞いに来たんだっけ)

 

 と、これまでの経緯をなんとか思い出せた、一ノ瀬アスナであった。

 

 

 

 数時間ほど前、退出したモモイ達とは行き違う形で保健室に足を運んだアスナ。

 それからベット傍に置いてあった椅子に腰掛けては、昨日からこの部屋で眠り続けているカービィの様子をまじまじと見つめるだけの時を過ごしていた。

 

 しかし流石にそれ以外何もしない、という時間が長すぎたせいか。

 襲い来る睡魔に耐え切れず、つい居眠りをしてしまい――ちょうど今、目が覚めたといったところだろうか。

 

 

 

 腑に落ちた様子で状況を把握したアスナは、ここへ訪れる理由であるピンクボールの様子をあらためて窺う。しかし彼女の期待とは裏腹に、訪れた時と同じ様子で眠り続けたまま。

 

 それを目にしたアスナは、解りやすいぐらいに溜息を零しては肩を落とす。

 なんとなく今じゃない、という事は彼女も予感していたが、カレならばソレさえも裏切ってくれるのではないか、と密かに期待していたのもあって落胆も大きい様子。

 

 ともあれ気を取り直した彼女は、時刻を確認しようとスマホを取り出したところで、画面に着信通知が表示されていることに気が付く。

 その表示を目にし、誰からだろう、と疑問を抱くのと同時に、保健室の出入り口が静かに開かれ――その際、驚いた拍子でつい口に出てしまったであろう「あっ」という声が、アスナの耳に入る。

 

「アスナ先輩、コチラにいらっしゃったのですね」

「連絡が付かないから探してた。……まあ、いつものことだけど」

 

 そう言いながら室内に入室してきたのは、彼女と同じC&C所属のアカネとカリン。

 今の言葉から推測すると、着信は彼女達からの連絡だった模様。

 

 一方、自身を探していたような言動をする2人に目を向けたアスナは「あれ?」と、小首を傾げながら尋ねる。

 

「どうしたの? 何か急ぎの用事?」

「リオ会長から緊急の依頼。昨日の残党が潜伏していないか学園内とその周辺を巡回しろ、って」

「部長は予め会長から指示を受けていたみたいで、既に行動しているようです」

 

 問いに答えるカリンとアカネの話を耳に入れた彼女は、ふうんと相槌を打つ。

 些か急な話に疑問は残るが、万が一の可能性を考慮すれば当然ともいえる措置ではある、と彼女は一応納得した模様。

 

 それから段取りについての話に耳を傾けていたアスナは、ここへ来てから座り続けていたパイプ椅子から腰を上げる。その際、今も眠り続けているカービィの姿を目にしたカリンが、悲し気に眉を顰めた。

 

「……まだ、起きてないんだな」

「流石に昨日の今日ですから――とはいえ、やはり心配ですね……」

 

 心配の声に応じながら、憂いを帯びた表情で浮かべるアカネ。

 普段の天真爛漫な姿を知る彼女達からすれば、今の寝たきりの状態が痛ましく思えてしまうのも無理のない話であった。

 

 そんな中、浮かない表情を浮かべた2人を励ますかのように「大丈夫だよ」と微笑みつつ――

 

「この子ならきっと、元気な姿で戻ってくるから!」

 

 と、まっすぐな信頼を示しながら断言するアスナ。

 その様相に目を丸くするアカネとカリンを余所に「先に行ってるね〜」と、足元まで長い髪を靡かせながら彼女は保健室を後にするのであった。

 

 その後ろ姿を見遣りつつ、複雑な気持ちを抱いた2人は互いに顔を見合わせる。

 

「前向きですね、アスナ先輩……」

「本当は、自分が一番心配しているだろうに……」

 

 先の言葉が決して気休めから出たものではないと、アカネ達も理解している。

 紛れもないアスナ自身の本心であり、カレが目覚めることを信じて疑わないからこその発言であることは間違いないだろう。

 

 故に、どこか自分自身に言い聞かせているように聞こえるのも、気のせいではなく。

 こんな時間まで、この場に居座り続けていたのが、何よりの証拠だった。

 

 彼女の心情を汲み取った2人の間に、意図せずしんみりとした空気が流れ始める――が、今は請け負った依頼に集中すべきだと、カリンとアカネは気を引き締め直す。昨日の悲劇を思い返せば、彼女達にとって他人事ではないからこそ。

 

 そうして、先行くアスナの背中を追うように、彼女達もその場を後にする。

 未だ眠り続ける若者を、残して。

 

 

 

 ――そして、彼女達に依頼を要請した張本人はというと。

 

 

 

「……ああでも、貴方のソレは本当にヘイローなのかしら」

 

 アリスの命を犠牲にすれば全てが解決すると、リオが言い放った後。

 口にした当人を除いた一同が残酷な宣告に言葉を失っている中、誰に向けたものではなく、彼女は脳裏に浮かんだ疑問を独り言のように呟き始める。

 

「生徒ではない、ただの機械である貴方がどうしてヘイローを持っているのか……理由は分からないけれど、狂気に包まれたあのAIと同じ……ええ、なおさら貴方を放ってなど――」

()()

 

 おけない、と言い切ろうとしたリオの言葉は、突如耳に入った低い声によって妨げられる。

 それから彼女は、今の声を発したであろう人物――”先生”の方へと静かに目線を向けた。

 

”それ以上の言葉は、許せないよ”

 

 努めて冷静に対応しようとしたのか、声を荒げることはせず。

 しかし、湧き上がる感情を抑えきれなかったのか、”先生”は剣呑な目つきをリオの方へと向けてしまう。

 

 それに対し、表情にこそ変化はないが「……私の言動が不愉快だと感じたのなら、謝罪するわ」とポツリと呟いた彼女は、僅かに目元を伏せる。

 

「昔から私の事が嫌いな人間は多かったもの――それは、私に問題があるという事でしょうから」

 

 冷静に振舞いながらも寂しげに、どこか諦観した言葉を吐くリオ。

 一方の”先生”は、今までの彼女から想像できない言動を前にして、内心動揺してしまう。

 

 そんな中、彼女は再び”先生”へと目線を戻す。

 

「それでも――理解されなくても構わないわ。私は、皆を守りたいだけ」

 

 落ち着いた口ぶりでありながら、強い覚悟を抱く彼女に、”先生”はつい息を呑む。

 理解されようとされまいと、その目的はあくまでもミレニアム――ひいてはキヴォトスの安寧を守るためであり、彼女もそれに基づいて行動している他ならない。

 

 そのために、例え非情な手段であろうとも選択できてしまうのが、調月リオという人物だった。

 その結果、周りから非難の目を向けられる形になろうとも。

 

「……さあ、貴方の出番よ」

 

 そう呟いた途端、こちらへ徐々に近づいてくる足音が玄関の方から響く。

 微かながらでもイヤでも耳に入ってくることに、”先生”達が緊張感を募らせていく中、音を発していたであろう人物が、姿を現す。

 

「…………え?」

「な……なんで、ここに……!?」

 

 その瞬間、つい声を漏らしたユズとモモイを筆頭に、リオを除いた一同が驚愕に目を見開く。

 そんな彼女達の反応を余所に、呼び出したであろう張本人がその名を呼んだ。

 

 

 

「――――()()()()

 

 

 

 リオが口にした、その名の通り。

 一同の視界に映ったのは、難しい表情を浮かべるC&Cの部長――ネルの姿だった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

10-2

 

 

 

「ネル……先輩……」

 

 突如として姿を見せた人物を前に、恐れ戦くように呟くミドリ。

 そんな彼女の反応は、他の4人の心境を表しているといっても、過言ではない。

 

 この状況下で現れた、ミレニアム最強の人物。

 普段ならばこれ以上ないぐらい頼もしい存在ではあるが、今の状況において手放しで喜べるほど彼女達は楽観的になれなかった。

 

 現に、その予感を裏付けるように、普段の調子がまるで嘘のようにだんまりを決め込むネル。

 その様子を傍目に、「あまり彼女を悪く思わないで頂戴」とリオが告げる。

 

「元々、C&Cはセミナー……正確には、私直属のエージェントなの」

 

 彼女曰く、表向きはセミナー直属と銘打っているが、実質は彼女個人の懐刀的存在であり、命令に私情を持ち込まず粛々と従うことを第一とする武力集団。当然、リーダーであり部長でもあるネルも、例に漏れず。

 

「ネル相手では、いくら”先生”でもゲーム開発部だけでは抵抗できないでしょう?」

 

 相手の心情を把握しきっているようなリオの指摘に、”先生”は苦々しい表情を見せる。

 それは、彼女の言葉を肯定しているも同然の反応だった。

 

 モモイとミドリ、ユズの力量が劣っているというわけではないが、流石に分が悪すぎる。

 アリスに至っては、現状まともに戦える精神状態ではない。

 

 唯一、ネルを退けたという話を聞く()()は――ここには、いない。

 

 厳しい状況だと悟りつつ、なんとかこの場を切り抜ける方法を頭の中で模索する”先生”。

 しかし、万が一の可能性すら見逃すつもりはないのか、

 

「たとえ外部に助けを求めたとしても――」

 

 と、手に携えていたタブレットを淀みない手つきで操作し始めるリオ。

 すると程なくして、先程の足音とは程違い、複数台の車両が走っているような走行音が再び玄関の方から鳴り響く。

 

 そうして姿を現したのは、彼女自身が開発した戦闘用ドローン――AMAS。

 十数体にも及ぶ機体が屋内になだれ込むや否や、一糸乱れぬ動きであっという間に”先生”達を取り囲んでしまった。

 

「この周囲は既に、AMASが掌握しているわ。救援が間に合う事はない」

 

 一瞬にして包囲されたことに動揺する面々を一瞥しながら、静かに告げるリオ。

 その瞬間、今まで大きな思い違いをしていたことに気付いた”先生”は己の考えが甘かったことを痛感した。

 

 調月リオという天才が、手筈を完全に整えたであろう状態でこの場に赴いた。

 その時点で、既に手遅れだったのだと。

 

「さあ、仕事の時間よネル。アリスを回収してくれるかしら?」

 

 淡々と指示を出すリオに対し、相変わらず沈黙を貫いていたネルは、愛銃である2丁のサブマシンガンを構えることで反応を返す。

 それを目にしたモモイとミドリ、ユズの3人が、咄嗟にアリスを庇うように各々が所持する銃器を構える――が、圧倒的実力者と対峙する恐怖のせいか、威勢は決して良いとは言えず。

 

「ネル、せんぱい……」

 

 そんな中、悲し気な目を向けていたアリスが、相手の名を弱弱しく呼ぶ。

 立ち上がる気力さえ残っておらず、未だその場に力無くへたり込んだまま。

 

 その悲嘆に暮れている姿を前にして、顔を歪めるネル。

 やがて、アリスと過ごした日々や今に至るまでの経緯を思い返しては、沸々と怒りと不満を募らせていく。

 

 

 

 ――そもそも、あのチビピンクの様子を見に行こうとしたタイミングで連絡よこしやがって。

 

 ――しかも「付いてきて頂戴」の一言でこんな場所まで来させやがって。あたしはタクシーか?

 

 ――第一、あのチビが世界を滅ぼす魔王だとかワザとチビピンクをぶっ飛ばしただとかヘイローを破壊するだの、あたしにすら話してないことを突拍子もなく言い出しやがってマジでその性格直せやコンチクショウ。チビも言われっぱなしじゃなくてなんか言い返せやコラ。

 

 

 

 ――――挙句の果てに。

 

 ――――あたしにあのチビを誘拐しろ、だぁ?

 

 

 

 その瞬間。

 彼女の頭の中で、何かが()()()

 

 

 

「……ふっ」

 

 突然、鼻で笑いだしたネルの異様な雰囲気に、他の面々が思わず怪訝な反応を示す。

 それから周囲の反応などお構いなしとばかりに、彼女は手に握っていた短機関銃をユラリと突きつけた。

 

 ただし、銃口が向いた先は彼女の正面に位置していたアリス、ではない。

 寧ろその真逆と云うべきか、背後に位置していた――

 

 

 

「――――やってられっかよッ!!」

 

 本人なりに頑張って抑え込んでいた不満を爆発させるかのが如く、荒々しい怒号と共に引き金を引くネル。

 火を噴くかの如く放たれた銃弾が向かう先は――彼女の雇い主であったはずの、調月リオ!

 

 

 

 突如として反意を翻したネルの行動に、理解が追いつかず目を疑うモモイ達。

 片やその切っ掛けを生んだ当人は、装填された弾丸を使い切る勢いで銃撃を続ける。

 

 やがて弾丸を使い切り、けたたましく銃声が鳴り響いていた時と一転して、沈黙が流れる中。

 苛烈な銃撃をその身に受けたであろう当人はというと――

 

「ネル……一体何のつもり?」

 

 裏切りと云える行為について問い掛けながらも、依然として冷静な態度を崩さないリオ。

 あれだけの銃撃に晒されてなお平然としているのは、彼女の両脇に控えていた2体のAMASが咄嗟に盾になったおかげ――尤もその代償に、両方とも物言わぬ鉄屑と化してしまったが。

 

 それを視認したネルが舌打ちした後、苛立ちを隠さず疑問に答える。

 

「今までだって依頼内容を気に入ったことはあんま無かったけどよぉ……同じ学園の生徒を――それも、なんもわかってねぇヤツを誘拐しろってか?」

 

 「んな依頼やってられっかよ」と、空となった弾倉と共に吐き捨てるように呟いた彼女は、続けざまに鋭い眼光をリオへと向ける。

 

「もう、てめぇに付き合う義理はねぇよ――リオ!」

”ネル……!”

 

 新たな弾倉を装填しながら、啖呵を切るように離反を告げるネル。

 そんな彼女の心意気に胸を打たれた”先生”を筆頭に、モモイ達に歓喜の表情が浮かぶ。先程まで恐ろしい存在であった彼女が心強い味方になってくれたのだから、無理もない話ではある。

 

「ネル先輩……」

 

 一方、彼女達とは裏腹にどこか複雑な心境を露わにするアリス。

 味方になってくれたネルに対する喜びと、巻き込んでしまった罪悪感に心が揺れているようだった。

 

 そして、面として離反を告げられたリオは、その相手を薄目で見つめながら尋ねる。

 

「ネル……ここで裏切るつもり?」

「裏切る? ハッ、てめぇの指示が気に入らねぇだけだ」

 

 嘲笑うかの如く鼻で笑うネルの返答に、動じる気配もなく「そう。そういうことなのね」と静かに言葉を返したリオは小さな溜息を吐く。

 

「ネル、貴方はいつもそう。気分次第で命令を違反するその姿――いつ爆発するかわからない癇癪玉のような側面があなたの長所であり……一番厄介だった」

 

 まるで問題児への苦言を漏らすリオに対し、癇癪玉という部分が気に入らなかったのかピキピキと青筋を立てるネル。その後ろで「さっき私の命令に粛々と従う、って言ってなかったっけ……?」とモモイがぼそぼそと疑問を口にしていたようだが、ぐうぜん聞こえなかったのかスルーされた模様。

 

 一方、ミレニアム最強が裏切ったというのに、依然として冷静沈着なリオに”先生”が腑に落ちない様子を示す。アリスを除いた今の面子でも、包囲を突破することは難しい話ではない、ということは彼女も理解しているはずだと思うからこそ、その態度を訝しんでいた。

 

 すると、その懸念に答えるかのように――

 

「……だから、この状況もすべて想定していたのだけれど」

「あぁ? んだって?」

 

 リオの発言に怪訝な表情を浮かべるネル――だったがその瞬間、ある事に気が付く。

 

 

 

 取り囲んでいたAMASが、いつの間にか距離を置いた場所で待機している。

 まるで、その場から離れろ、と云わんばかりに。

 

 

 

「――――トキ、貴方の出番よ」

 

 

 

 リオがそう呟いたのを皮切りに、彼女の頭上を越えて飛来する投擲物。

 それの正体に――そして、相手の意図にいち早く気付いたネルがすぐさま「伏せろッ!!」と、振り返るや否や、モモイ達へ叫ぶ。

 

 そんな怒鳴り声が功を奏したのか、彼女達が反射的に床に伏せる――と、同時に。

 轟音を伴い、頭上から熱と衝撃が同時に襲いかかるのであった。

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

 

 

10-3

 

 

 

 唐突に投げ込まれた投擲物――手榴弾の爆発で、一瞬にして騒然とした空気に包まれる室内。

 そんな中、冷たい表情を浮かべたリオが、濛々と立ち込める爆煙を静かに見つめていた。

 

 それは勝利を確信したことによる、慢心から出た行動では断じてなく。

 寧ろ、これぐらいならば耐えると確信しているからこその、警戒。

 

 そして、その予感を裏切ることなく――この場に於いて最も警戒するべき相手が、晴れていく煙の中から姿を覗かせる。

 

「――……やってくれるじゃねぇか……!」

 

 所々焦げ跡が目立つネルが、不快感が籠った言葉を吐きつつ、憤怒の表情を向ける。

 しかし、その感情の矛先はリオだけではない。

 

 

 

 ――いつの間にか彼女のやや後ろで佇む、メイド服を身に纏う少女にも向けられていた。

 

 

 

「誰だ、てめぇは」

「はじめまして、先輩――そして、”先生”」

 

 突然、姿を現した初対面の相手を睨みつけながら、問い質すネル。

 対する少女は一歩前に出てから、落ち着き払った表情で挨拶をする――ネルの背後でよろよろと起き上がる”先生”達にも意識を向けつつ。

 

「C&C所属”コールサイン・()()()()()”、飛鳥馬トキ。ご挨拶を申し上げます」

 

 丁寧なお辞儀と共に、自身について明かすトキ。

 一方、彼女が発言した内容に疑問を抱いたミドリが、戸惑いながらも尋ねる。

 

「け、けど……コールサインを持つエージェントは4人までじゃ……」

「彼女は私専属のボディーガード。C&Cに所属しているとはいえ、その存在を認知している子は多くはないでしょう」

 

 彼女の疑問に、リオは軽く説明を交えて答える。

 つまるところ、裏で活動することが多い彼女の護衛役を任された生徒が、飛鳥馬トキという少女だった、といったところだろうか。

 

 そんな中「んなこたぁどうでもいい」と、話の流れをぶった切るかの如く――

 

「不意打ちたぁ、舐めた真似してくれやがって……覚悟はできてんだろうなぁ!?」

 

 先の奇襲が相当腹に据えかねているのか、今にも跳びかかりそうな勢いで怒号を飛ばすネル。

 しかし、その背後で顔を青くしていたユズが「で、でも、先輩……っ!」と、彼女へ制止の言葉を掛ける。

 

「さ、さっきの爆発から、わたしたちを庇って……っ!」

 

 罪悪感から声を震わせつつ、指摘するユズ。

 現に、ネルのトレードマークとも云えるスカジャンの背面部――金色の竜の意匠を周りごと切り抜くように、ぽっかりと穴ができているのが彼女の視界に映っていた。

 

 

 

 その穴から覗き見える――決して軽くない火傷を負った、彼女の地肌も。

 

 

 

”ネル……っ!”

「……さすがはネル。あの爆発だけでは倒せないとは思っていたけれど、まさか立ち上がれるなんて……少し予想外ね」 

「……てめぇ、アレはウチで流通してるヤツじゃねえだろ」

 

 痛ましい姿に悲痛な声を漏らす”先生”や、その驚異的な丈夫さを称賛するリオの言葉を聞き流しつつ、ネルは先程の手榴弾について尋ねる。

 

 ユズの言葉通り、床に伏せた彼女達に覆いかぶさる形で、背中を盾に爆発をその身で受けたネル。その際、一般的に出回っている物と比べ火力が高かったことについて、彼女は疑問を抱いた模様。

 

 それに応じるが如く、「その通り」と頷いたリオは立て続けに、

 

「押収した開発品を模して作った火薬――それを組み込んだ、MK2(マークツー)手榴弾よ。範囲は狭いけれど従来製よりも威力は向上しているわ」

 

 と、事も無げに疑問に答えた。

 その時、彼女の言葉に誰よりも反応したのは――押収した開発品を模して作った、という部分に憤りを覚えたモモイ。

 

「押収した上に模して作った、って……ただの盗作じゃん!!」

「……それは、今この場で議論する必要があるのかしら」

 

 唐突な指摘に意図が読めず、内心戸惑いながらも問いかけるリオ。

 片や、本気で分かっていないような反応を目にし、「だって!」と、ますます頭に血が上ったモモイが声を荒げる。

 

「部のみんなで一生懸命考えて、苦労して作り上げたのがそれなんだよ!? それをなんで、押収するとか真似して作るとか……そんな酷いことできるのさ!!」

 

 

 

 彼女にとって部活動で作り上げた作品は、仲間達と共に積み重ねていった苦労と努力の結晶。

 だからこそクソゲーと評されて悔しい想いをすることもあれば、特別賞と褒められ喜ぶことだってある。

 

 しかし、目の前の人物――あろうことか自身が所属する学園の生徒会長が、その想いを蔑ろにするような行為を平然としている事実に、彼女は我慢ならなかった。

 

 

 

「……そこまでにしとけ、チビ。今のコイツにはわかんねぇよ」

 

 そんなモモイをぶっきらぼうに、けれども気遣うように窘めるネル。

 それに対し、「でも」と言い返そうとするモモイだったが、突き刺す様な眼差しを前に渋々口を閉ざすしかなかった。

 

 それから「下がってろ」とモモイ達へ端的に注意を促したネルは、今まで会話に混じらず静聴に徹していたトキへと改めて向き合う。

 

「待たせたな――命乞いは済んだか?」

「いえ、必要ありませんので――それより、その状態で戦えるのですか?」

 

 獰猛な笑みを浮かべては、相手を挑発するかのように軽口をたたくネル。

 一方のトキは無表情を一貫しながらも、彼女の状態について小首を傾げる。

 

 実際、先の爆発をもろに受けたネルは、万全から程遠いのは確かである。

 

「ね、ネル先輩! 私たちも……!」

「いらねえ」

 

 それを見兼ねたミドリを初めとする一同が加勢を申し出るが、当の本人からすげなく断られてしまう始末。すると、顔だけ振り向いたネルが「それより」と、背後にいる面々へと視線を向けつつ口を開く。

 

「そのチビ見とけ。暴れてる最中に連れていかれでもしたら、それこそシャレになんねぇ」

 

 そう告げながら、アリスの方へ視線を飛ばすネル。

 しかし微かな期待とは裏腹に、いまだに立ち直っていない姿を目にした彼女はやりきれない想いを抱く。

 

 しかしすぐに気を取り直し――打倒すべき相手へと意識を向けながら、彼女は告げる。

 

「……そういやさっき、おもしれぇこと言ってたよなぁ?」

 

 

 

『――その状態で戦えるのですか?』

 

 

 

 言葉だけ捉えれば、ネルを戦えないと見做しているとも取れる発言。

 その見下しているとも云える態度に、当人が腹を立てない訳がなく。

 

「――――試してみなッ!!」

 

 高らかに吼えると同時に、負傷を感じさせないほどの勢いで駆け出すネル。

 対するトキも向かってくる相手に対処すべく、愛銃であるアサルトライフルを構えだす。

 

 程なくして、室内に銃声が絶え間なく響き渡るのであった。

 

 

 

  【 つ づ く 】

 

 

 




●タメになる☆TIPS集



【別の理由】
→お色気担当だと思ってたらガチで重い症状患わってて純粋に見れなくなったのが私なんだよね

【飛鳥馬トキ】
トキ、病んでさせいれば……
 ピースピースのイメージ強いけど初登場時はこんな感じですよ

【MK2手榴弾】
→別名パイナップル。キヴォトスだとコンビニ感覚で買えるらしい。
 スネークのNB。ポイポイ出しやがって



 後半に続く。(cv:キートン氏)


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