Spring Sky StarS! 作:笹ピー
8-1
”――第四波目の迎撃完了、皆、あと少しだよ!”
”先生”からの通信を受け取ったゲーム開発部の一同。その顔には、疲労の色こそあれど安堵と歓喜が混じった表情を各々浮かばせていた。
第二波を迎撃してからその後、彼女たちは第三波、第四波を難なく撃退していた。ここまで快進撃を続けられた理由としては偏に”先生”の精密かつ的確な指揮のおかげでもあったが、それぞれに与えられた役割を十二分に発揮できたが故にだろう。
前衛で敵の注意を集め、相手を牽制するモモイ。
隙を見て相手の懐に潜り、攪乱と撃破を担当するカービィ。
前衛の二人に気を取られた相手を、的確に狙い撃つミドリ。
そして、大火力にて敵陣営に壊滅的な一撃を与えるアリス。
防御面こそが手薄な編成だが、その反面流れを掴んだ際の火力面は絶大――実際にこの連携によって相手はほぼ壊滅状態に陥っている。互いが互いの弱点を補うような戦法が功を奏したのだろう。
――しかし、次の相手は一筋縄ではいかないと誰もが予想する。
「……いよいよウタハ先輩達が相手だね」
緊張と不安を孕んだ声でミドリが呟くと、モモイとアリスも頷く。終わりが近い――ということは必然的に最後の関門であるエンジニア部との衝突も近い、ということでもある。現にまだ遠目ではあるが、準備を整えて待ち構える彼女達3人の姿が見えていた。
カービィもその方向に目を向けると、気合を入れる様に表情を引き締めるのであった。
「――……コトリ、ヒビキ。準備はいいかい?」
「ハイ! 準備バッチリです!」
「こっちも大丈夫……いつでもいけるよ」
武装の状態を確認し終えたウタハが二人に問いかけると、コトリはマシンガンを両手に持ちながら、ヒビキは迫撃砲を背に担ぎながら、各々が肯定の言葉を返す。
返事を受けたウタハが満足そうに頷くと、こちらへ向かってくるモモイ達へと視線を飛ばす。
「少々想定外の事もあったが……概ね、計算通りだ」
そう呟くウタハに焦りは無く、寧ろアリス達が来ることを楽しんでいる様子さえ見せる。実際のところ、彼女たちがここまで来ることは見越していたのだろう。
そんな彼女の隣には、二足のキャタピラと上部に備え付けられた二門の小型ガトリング砲、それをカバーで覆いかぶせたような特徴的な――まるでホースロッキングチェアを模したかのようなフォルムを有する機体が、その存在感を堂々と露呈している。
「さて、調整したばかりの”この子”の試運転にはうってつけの機会だ」
今までの落ち着いた様子とは違い不敵な笑みを浮かべるウタハ。
そして彼女が”この子”と例えた機体を撫でながら、静かに呟く。
「――行こうか”雷ちゃん”」
――その言葉に呼応するかのように、珍妙な置物は駆動音を静かに響かせた。
「な、何あれ!?」
「せ、”セントリーガン”……?」
いよいよウタハ達の元へとたどり着いたモモイ達が迎えたのは、異彩を放つ特徴的なフォルムを見せつける無人兵器。その存在感にモモイが思わず驚き、類似している物を思い浮かべたミドリが戸惑いながら呟いた。
それに対して機体に寄りかかるような姿勢でモモイ達の様子を伺っていたウタハが誇らしげな笑みを浮かべ、説明し始める。
「これぞ、ミレニアムの英知が生み出した、全ての天候に対応可能な二足歩行型戦闘用の椅子――”雷の玉座”さ」
いつもの様に落ち着いた様子にも見えるが、実際は少しばかり熱が入っているのか饒舌に語るウタハ。しかし彼女の語った内容に疑問が尽きないモモイ達が怪訝な表情を浮かべるのみ。
「な、なんで椅子?」
「ていうか、椅子にしても座りづらそう……」
モモイとミドリが思い思いに気になる疑問点を挙げていくが、それに対し聞こえてるんだか聞こえてないんだがウタハは得意げな表情を浮かべたまま口を開く。
「”なぜ椅子なのか?” は重要ではないよ。”椅子だからこそ”――ということが重要なんだ。わかるかい?」
「いや、さっぱりわかんないよ!」
ウタハの斜め上の持論に対して頭を抱えるモモイ。ミドリも言葉こそ出さなかったが心情を表すかのように頬を引き攣らせていた。アリスとカービィに至っては不思議そうにキョトンとしているだけである。
そんな4人の反応に、「この雷ちゃんの魅力を理解してもらえないとは」と落胆したかのように呟き、少し肩を落とす様子を見せるウタハ――だったが。
「――さて、戯れもここまでにして……では始めようか」
先程の様相とは一転、不敵な笑みを浮かべたウタハ。
急に雰囲気が変わった彼女に驚くモモイ達。まるで今までのが演技とも云える程の切り替わりっぷりだった。
そして彼女は自身の自信作である雷の玉座――通称”雷ちゃん”に寄りかかるのを止め、右手をゆっくりと上げる。
その動作に猛烈に嫌な予感がしたモモイ達もすぐに動けるように、彼女の一挙一動から目を離さないまま身構える。
やがて、右手が彼女の頭部の少し上ぐらいまで上がると、その場で停止――そして。
「――――さあ、暴れろ!」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
8-2
持ち上げた片腕を胸のあたりまで振り下ろすと同時に、声高々に告げるウタハ。
その一連の動作がトリガーとなったのか、機体はキャタピラを回転させ彼女の前方へと移動。
そして、彼女の前に移動した”雷の玉座”は上部に備え付けられた二門のガトリング砲を回転し始める。
”遮蔽物に身を隠して!”
”先生”の指示が鼓膜を叩くと否や、すぐさま近くの遮蔽物へと身を隠す4人。
全員が身を隠すと同時に”雷ちゃん”から開戦を告げるかの如く、銃撃が開始された。
放たれる銃弾は豪雨の如く。僅かな隙を与えるものかと云わんばかりの激しい銃撃が、壁となる遮蔽物を襲う。
なんとか凌ぎきれているが、何か削れていくような不吉な音が鳴り止まない事実が、彼女達に焦りを積もらせていく。
「こ、このままじゃ不味いよ!?」
”落ち着いてモモイ。必ず攻撃の手を止めるタイミングは来るよ”
そんな状況下で焦燥感を露わにするモモイの言葉に対して、”先生”の宥めるかのように声が響く。
今でこそ休む間もなく銃撃を続けているが、永久に続くことはあり得ない。玉切れ、銃身の放熱処理など、理由はどうあれ遅かれ早かれ必ず動作を停止するタイミング――隙ができるはず、と”先生”は諭すかのように説明する。
「その瞬間が、反撃のタイミング……ですね」
「了解しました。アリス、武装のチャージを行いつつ反撃の機を伺います!」
”先生”の意図を理解したミドリとアリス、そして先程より幾分か落ち着いたモモイはいつでも動けるように、自前の武器を構えその時を耐え待つ。流石のカービィも常に飛び交う銃弾の中では吸い込みを行う隙が無いと判断したのか、彼女達と同じようにいつでも飛び出していけるように準備する。
そして彼女達の期待通り――鼓膜を震わしていた衝撃が途切れたのは、その数十秒後。絶え間ない連続射撃に過熱を起こした銃身が停止を余儀なくされたのだろう。
それと同時に、ボロボロとなった遮蔽物から身を表す4人。銃身の冷却には時間が掛かると踏んで、一気に畳みかけようという算段である。
絶好の好機のはず――――だった。
「――――ふっふっふっ……そう来ると思っていましたよ」
身を出した4人の視界に入ってきたのは、急速冷却中の”雷ちゃん”の前でマシンガンを構え不敵な笑みを浮かべながら聳え立つ少女、豊見コトリだった。
思わぬ人物に一瞬、呆けにとられるモモイ達だが、手に持っている武器を見て彼女の次の行動が嫌でも予想できてしまった。
その予想を裏付けるかのように――彼女が持つマシンガンが回転し始める。
「一台では攻撃し続けられない――なら【二人交互に攻撃すれば間を挟まなくてもいいじゃない】作戦です!」
「容赦無さすぎじゃない!?」
コトリの自信満々な説明に対してモモイの悲鳴じみた訴え。そんな彼女の言葉を無視するかの如くマシンガンから間髪入れずの第二波攻撃がモモイ達に襲い掛かる。
思わぬ攻撃に反撃の機会を失う4人。しかも先程まで弾避けに使っていた遮蔽物は、既に半壊しかけている。壁の役目を果たせないのであれば相手から見ればただの良い的である。
一旦、距離を離すしかないと後方に下がる一同――と思いきや徐にアリスが体を振り返えつつ銃口をコトリの方へ向ける。
「――せめてどちらかを倒せれば……!」
本来ならば、”雷ちゃん”へと放つはずだった砲撃。武器のチャージは済んでいた為、発射は可能である。
コトリか”雷ちゃん”のどちらかを撃破すれば、作戦が成り立たなくなると判断したが故の行動。当然、コトリが放った銃撃がアリスを襲うが実弾ではなくゴム弾であることが功を奏したのか、耐えられないほどではないと判断――身体を撃ちつける銃撃をなんとか堪えつつすぐさま発射体勢を取る。
「光よ――!」
すっかり馴染みとなった詠唱と共に、砲撃は放たれる――しかしコトリの表情に焦りは見受けられない。その破壊力は余波だけでも十分に驚異的であることは、開発者の一人である本人が最も知っているにも拘わらず。
そして、次に視界に入った光景にアリスは目を見開く。
なんと”雷ちゃん”がキャタピラを回転させ――――盾になるかの如くコトリの前へと移動した!
特徴的なフォルムをしている機体だが、大きさ的には約100㎝程の高さを有する。確かに姿勢を低く取れば人一人くらい遮蔽物にも活用することはできるだろう。
しかしアリスの砲撃は威力もさながら貫通性も非常に高く、機体が耐え切れなかった場合には背後のコトリにも直撃する危険性が有り得る。彼女がそのことを理解していないとはやはり考えにくい。
放たれた光の砲撃が向かう先は、”雷ちゃん”。このままいけば間違いなく着弾するのは必然。
――予想通り、着弾。
同時に着弾の余波によって”雷ちゃん”とコトリを包み込むように土埃が舞い上がる。
その光景を目に入れたモモイが「やったか!?」と思わず叫び、隣で旗を立てた不届き物を小突くミドリ――そんな二人のやり取りを隣でカービィが不思議そうに眺めていた。
固唾を吞んで、警戒を解かずに見守るアリスは、ジッと煙が晴れるのを待つ。
「――どうやら、計算通りだね」
”雷ちゃん”より後方に控えていたウタハが静かに告げると同時に、土煙が晴れる。
視界の先には――――変わらず聳え立つ、雷の玉座。
白石のように眩い光沢を放つボディには、損傷は見受けられなかった。
「確かにスーパーノヴァの一撃は驚異的と言っても過言ではありませんが必ずとは言い切れません! ウタハ先輩が開発した雷の玉座はどの環境下でも100%のパフォーマンスを発揮できるように耐熱・防弾・耐衝撃・耐水・耐電性を兼ね備えた装甲により、あらゆる場面でも戦う椅子として活躍できることを目指したのです!」
椅子の後ろで得意気な表情を浮かべてペラペラと説明するコトリ。
しかしその解説に嘘偽りがないことは、目の前の現実が語る。
これまで敵を一撃で蹴散らしてきた”光の剣”の砲撃――それに耐えうる防御力に、唖然とするアリス。
――それと同時に。
『銃身 オーバーヒート状態 回復。殲滅 再開』
武装した椅子から発せられる無機質な音声が、無慈悲な宣言を告げる。
その言葉の意味を理解するや否や、咄嗟にモモイが叫んだ。
「い、一時撤退――――ッ!」
ヤケクソじみた悲鳴につられるように、本日二回目となる”雷ちゃん”の無遠慮な放射が始まる。
「――――カービィッ!」
構えを解いたアリスはすぐさまカービィを抱き抱えながら、弾けるように走り出す。
幸い、背に担いだ”光の剣”は砲身のサイズに加えかなり頑丈に作られているせいか、背後からの攻撃に対し、
「いたたたたた! ゴム弾でもやっぱり痛いじゃんっ!」
「そ、それより攻撃が届かないところまで……っ!」
一方で背後から銃撃を受け痛みに涙目になっているモモイとミドリは、相手の射撃範囲から逃れようと促す。周りに遮蔽物が無い状況、距離を取って態勢を整えなければならないという判断に基づいた上での行動だった。
兎にも角にも距離を離そうと、無我夢中で後退する一同。
”――――皆、止まって! 砲弾が降ってくる!”
そんなモモイ達の足を――突然何か気付いたかのように焦りを見せた”先生”の通信が、止める。
そしてその次の瞬間には言葉通り――――五つの砲弾が彼女達の頭上を飛び越し、このまま後退を続けていれば間違いなく直撃していたであろう地点へと着弾。
それと同時に彼女達の眼前にて起こる、爆風と衝撃。その衝撃に思わず4人は目を瞑ってしまう。
一連の出来事に一体何が、と事態が呑み込めないモモイ達の動揺などお見通しと云わんばかりに、”雷ちゃん”を伴ってゆっくりと近付いてきていたウタハが口を開く。
「後方に下がれば、必然的に私達との距離も離れる――だから、味方を巻き込む必要が無くなる……というわけさ」
遠回しな言い方をするウタハ。
一方、今の説明と今起こった出来事に関連することに思い当たることがあったのか、顔を上げてハッと気が付くミドリ。
そして苦々しい表情を浮かべつつ脳裏に浮かんだ予想を口にする。
「……ヒビキちゃんの迫撃砲……!」
ミドリの返答に「その通り」とニヤリと笑みを浮かべ肯定するウタハ。
その言葉を裏付けるかの如く、彼女たちから離れたところで、ヒビキが次の迫撃砲の弾を装填していた。
距離を詰めれば、回転銃の餌食。
とは言え、距離を離せば迫撃砲の餌食。
正に、前進も後退も許さない布陣。
これがミレニアム随一とも謡われる技術者集団、エンジニア部の頭脳が編み出した戦略と云ったところだろうか。
――そして、追い込まれたアリスに対してウタハは試すかのように問いかける。
「さて、アリス。君はこの状況を覆せることはできるかな?」
その言葉に、アリスは表情を曇らせる。
事実この状況を覆せる手段を彼女は持ち合わせていない。
なにより、このまま続けても自分の為に参加してくれたモモイ達をただ苦しめるだけ。
彼女がそう考えてしまうのも、無理のないことだった。
アリスの中に芽生える、罪悪感。
それが無意識に彼女に諦めの感情さえも芽生えさせる。
――そもそもこの試練をクリアできないならば……
――アリスに、”光の剣”を手にする資格は……
――――”勇者”の資格、は……――
――諦めかけていたそのとき、彼女の胸元を何かが叩く。
アリスが思わず視線を落とすと、抱き抱えていたカービィと目が合う。
いつもののんびりとした顔付きではなく、強い眼差しでアリスをしっかりと見詰めて。
まだ、”つづける”。
まるでそう言っているみたいに。
”――――アリス”
ふと彼女を優しく呼ぶ声が耳に入る。
勿論、その相手は”先生”からである。
”皆はまだ、諦めていないよ”
その言葉にアリスは目を見開くと、モモイ達の方へと振り返る。
彼女からの視線を受けた双子は強く頷いて、応える。二人ともここまで積み重なった疲労こそ隠せてはいないものの、浮かべた表情は諦めとはかけ離れたものだった。
そんな二人の姿を見て、なにか胸の奥から込み上げる感覚に戸惑うアリス。
自分の我が儘に付き合っているというのにも拘らず、彼女達から不満や怒りが感じられないことがアリスにとって驚きに他ならない。
だからこそ、彼女達の信頼に応えたい――と、
その時、この状況を覆す方法が彼女の頭によぎる。
今までの情報を踏まえ、それを活用すればエンジニア部の意表を突き、鉄壁の布陣の要である”玉座”を破ることができるかもしれない。
しかし失敗すれば、本当の意味で手詰まり。その時点で勝算はほぼ無いといえるだろう。
なにより、今抱き抱えている”カレ”に最も危険な役目を押し付けてしまう――
そんな不安を胸中に抱えたアリスは、再びカービィの方へ視線を向ける。
対するカレの表情は先程と変わらず。
「――……カービィ」
そんなカレに対して、アリスは意を決して伝える。
そんな彼女の言葉を目を逸らさず静かに待つカービィ。
「アリスを……信じてくれますか?」
多大な不安と、ほんの僅かな期待を込めた言葉に、”カレ”は。
――頼もしい笑みを浮かべて、迷いなくしっかりと頷く。
その応答にアリスは嬉しそうに頬を緩ませ――先程とは一転、自信に満ちた表情でウタハを見つめ返す。
「――……どうやら、リタイアはしないようだね」
その様子を黙って見守っていたウタハが、口端を緩ませる。彼女としてもこのまま終わってしまうのは本意ではなかったのだろう。
とはいえ状況が変わったわけではない。どんな美しき友情劇を繰り広げようともウタハは勿論、コトリもヒビキも手加減をするつもりは無く、この鉄壁の布陣を攻略させる気は無かった。
それを裏付けるかのように”雷の玉座”が再び、唸り声の様な駆動音を響かせる。
さあどうするか、と密かな期待を抱きながらアリス達の行動に着目するウタハ――――だったが次の瞬間、目を疑うことになる。
ウタハ達に対してアリスは背を向けると、そのまま走り出した!
この行動にウタハは勿論、傍にいたコトリ、そして彼女の味方であるモモイとミドリ――そして”先生”すら呆気に取られる。
唯一、抱き抱えられているカービィだけが、彼女の行動に動揺していなかった。
そんな唖然としたモモイとミドリに対し、すれ違う前に「モモイ、ミドリ!」と、アリスが呼びかけた。
「――――アリスを、信じてくださいっ!」
あまりにも短絡的すぎる言葉。脈絡が無いにも程がある言葉。
しかし、二人が戸惑う時間は一瞬。二人が見つめ合うと同時に頷くと、アリスの後を追うように走りだし――結果的に3人ともウタハ達から離れる手段を取ったことになる。
「――え、ええ!? そんなことをしたら……!」
「……そう、ヒビキの迫撃砲の餌食だ」
思わぬ行動に驚愕するコトリに、ウタハは冷静にこの後に起こる展開を淡々と告げる。
まさか、無理やりにでも突っ切ろうとしているのか? と、疑問に思うウタハだが、ならばその考えはあまりにも短慮的だ。と断じる。
ヒビキの迫撃砲の命中精度は彼女たちが一番理解している。弾道軌道に、弾道速度、砲弾の爆発範囲に加え、相手の行動を分析した彼女の包囲を搔い潜るのは至難の業である。
”運が良ければ外れるかも”ではなく、”運が良ければ耐えられる”というのが彼女の攻撃である。
或いは、距離を離すのはフェイクで何か別の狙いがあるのか――と疑問が付きないウタハだが、何もしないわけにはいかないと、すぐさまヒビキに通達し、こちらは”雷ちゃん”による掃射を開始する。
彼女たちが各々疑問を抱える中でヒビキの迫撃砲が撃ち出され、今も尚走り続けるアリス達を目掛けて放物線を描きながら飛んでいく。このまま走り続けていればまず直撃は免れない。
その状況を、当然”先生”も把握している。
”――砲弾、来るよ!”
しかし、先程と違いただの砲弾が来ることを喚起するのみ。
”先生”も信じることにしたからこそアリス達の行動を止めない。それ故に今自分のできる最大限のサポートに徹することを決めたのだろう。
その言葉を受けてか――アリスが足を止め、振り返る。その行動に釣られるかの如くモモイとミドリも足を止める。
――それと同時に、腕を広げ、抱き抱えていたカレを
「――――カービィ!」
彼女が肩に担いだ”光の剣”を構えながら、カレの名を呼ぶ。
一方、自由となったカレが、上空より向かってくる砲弾へと目を向ける。
そんなカレへと、アリスは告げ――
――――そして、上空から降ってきた砲弾が地上へと着弾。
アリス達がいた場所は爆風に飲み込まれたのだった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
8-3
ウタハ達は、呆然と眼の前の光景を眺めていた。
何か策があるのでは、と注意深くアリス達の行動に目を離さなかったのだが、何も起こさぬまま迫撃砲の攻撃に巻き込まれ、その姿は爆煙の中へと消えた。
傍から見れば、彼女たちは自ら爆心地へと歩を進めたことになる。
少し思考を巡らせたウタハがヒビキに連絡する。
「……ヒビキ、上空のドローンから様子は見えるかい?」
『……ちょっと、厳しいかも。煙で様子が確認できない……』
彼女からの返答を聞き「そうか……」と溜息交じりに答えるウタハ。
そんな中、コトリが躊躇いがちに口を開く。
「え、えっと……これは私たちの勝利……ということでいいのでしょうか……?」
ハキハキと喋るのがモットーな彼女にしては珍しく、何処かハッキリしない言い草に対しウタハは何も答えない――というよりも答えられないと言った方が正しいか。
何の為の行動だったのか。何が狙いだったのか。
それがわからない以上、勝利の実感がこの場にいる3人に湧かないのも無理もない話だった。
誰もが口を開かない気まずい空気の中『ちょっといい?』と、ヒビキが控えめながらに語りかける。
『……さっきの爆発、少し気になったことがある』
「気になったこと、ですか?」
ヒビキの言葉にコトリが首を傾げると、『うん』とヒビキが頷く。
そして続けざまに彼女が抱いた疑問を口に出した。
『いつもより……
その言葉を遮るように。
ウタハ達に向けて銃弾が飛来した!
予想だにしなかった奇襲に面食らう3人。瞬時に動けなかった為、数発命中してしまったもののウタハは後方へ下がることで、コトリは”雷ちゃん”を盾にすることでそれ以上の被弾を避ける。
誰が撃ったか、なんてことは3人はとっくにわかり切っていた。問題は別にある。
――まさか、あの砲撃を受けて平気だったのか?
その事実に信じられない、と云わんばかりに驚愕の表情を浮かべるウタハ――その時である。
”駄目だよウタハ。相手がまだ降参していないのに油断したら”
彼女を咎めるような、しかし冗談めかすような声が不意を突くかのように彼女の耳に入る。
一瞬呆気に取られる彼女だったが、すぐに相手の素性を把握した。
「……”先生”」
”敗北条件は、『モモイ達が戦闘不能、或いはソレに近い状態と私が判断した』場合……だったよね?”
”先生”の言葉にウタハは苦笑する。まさか自分で決めたルールに足元を掬われるとは思いもよらなかったのだろう。
そしてあの視界が悪い中、正確に自分たちを狙えたのは”先生”の的確な指揮によるものだと納得するウタハ。その指揮能力の高さに彼女は内心舌を巻く。
とはいえ、彼女たちが爆撃から行動できた手段については未だ不明。そのことに頭を悩ますウタハに気付いてか、続けて”先生”が語りかける。
”多分、その謎は――
その言葉に疑問符を浮かべたウタハは、”先生”の言葉につられる形で煙が晴れつつある爆心地へと視線を移す。
そして、そこに晒された光景に彼女は驚愕する。
――表面がやや煤けた”光の剣”を持ち上げながら支えるアリスの姿。
――そして、その下でしゃがみ込みながら、それぞれの銃器を構えるモモイとミドリの姿。
「――――アレを、”盾”にしたのか……!?」
”光の剣”を上へと掲げることで上空から降ってくる砲弾の直撃を避け、その下の仲間を守る。
その際に生じる熱と衝撃は完全に防ぎきれないとはいえ、直撃よりも遥かに損傷を抑えられる。
砲身を盾に扱うという、奇抜すぎる発想――だが、現に防いだことを目の前に映る光景が証明している。尤も、盾役を担う人物が降り注ぐ衝撃と熱波に耐えられるかが、問題に挙がるが。
驚愕に目を見開くウタハを余所に、アリスが上に掲げた銃身を降ろしながら銃口を再び”雷ちゃん”の方へと向ける。
その行動に気付いたウタハは、すぐさまコトリへと警戒を飛ばす。
「――コトリ! 砲撃が来るッ!」
「ハ、ハイっ! 先程の出力ぐらいなら、間違いなく――」
耐えられる――と、コトリが言いかけた時である。
ソレを待ってました、と云わんばかりに、アリス、モモイ、ミドリが同時に不敵な笑みを浮かべる。すると3人がそれぞれ左右に分かれる様に、立ち位置をずらす――まるで、二人に見せつけるかのように。
そんな二人の視界に入ったのは――――
その姿に虚を突かれ、思考を停止させられたウタハとコトリにお構いなしに、カービィはほおばったモノを勢いよく吐き出す。
小粋な音と共に吐き出されたのはエンジニア部も知っての通り――流れ星の如く迫りくる”星型弾”!
ポップ感溢れる星が高速で迫りくることに若干の恐怖を覚えながらも、気を持ち直したコトリは”雷ちゃん”の後ろで身構える。彼女にはある確信を、持っていた。
――確かに、あの星型弾もかなりの威力を持っているが、”光の剣”には劣る。少なくとも”今の状態の”雷ちゃん”なら”耐えられる。その後のアリスの一撃を踏まえても、ギリギリ装甲は持つ。
――形成は厳しくなったが、それでも向こうの不利は変わらない。いつまでもあの方法では迫撃砲を防ぎきれないはず。ならば、この一撃を耐え凌げば――!
そう熟慮するコトリ。事実、彼女の見立ては、間違っていなかった。
一撃だけを耐え凌げれば、だが。
思考している間に、飛来してきた星型弾が”雷ちゃん”に命中。
派手な衝突音を響かせたものの、玉座はなんとかその場で耐え凌ぐことに成功。コトリへの被弾はおろか、装甲に傷すら付かせない防御力はもはや異常とも云える。
その背後でコトリが喜色を含んだ表情を浮かべ――そして次に目に映る光景を疑った。
なぜなら衝突した星型弾が――ヒビキの迫撃砲によって撃ちだされた
コトリが言葉にならない悲鳴じみた声を上げると共に、砲弾が爆発。今度はウタハ達が爆煙に覆われる形となる。
放たれる熱と衝撃に苦い顔を浮かべながらも、ウタハが呟く。
「今のは……迫撃砲の砲弾……!」
『そっか……あの時、”一つだけ”吸い込んでたんだ……!』
先程までヒビキが口にしていた”違和感”。
その理由は至極単純。爆発するはずの砲弾の数が”減っていたから”――正確には、”一つだけ爆発していなかった”から。
あの時アリスが砲身を構える直前に、砲弾を吸い込んだカービィ。カレとしては頭上に迫る5つの砲弾すべてを吸い込める自信はあったが彼女の指示に従い一つだけ吸い込み、そのまま待機。
そして、”雷ちゃん”を目掛けて攻撃する――というのが今回の作戦だった。一つだけ吸い込ませたのも全弾直撃したと思い込ませて、ウタハ達の油断を誘う為。
アリスは知っていた。カービィが吐き出した星型弾は、しばらくして元の姿に戻ることを。
それはこの一戦の間、ずっとカレの動向を気に掛けていたからだろう。
一方でこんな回りくどい方法を行わずとも、先程のウタハ達の予想通り光の剣の砲撃を打ち出した方が不意を突ける上に、余計な手間を掛けなくて済んだだろう。
故に、必要があったのだ。その手間をする必要が。
その理由を裏付ける様に――コトリの焦り声がまだ晴れない煙の中から木霊する。
「――し、”シールド”が破られましたッ!」
これこそが、”雷ちゃん”の異常なまでの防御性能の正体。
その言葉を受け、ウタハは苦々しい表情を浮かべ「やはりか」と、合点がいったように呟く。
「……お見通しだったわけだね、”先生”」
”うん、ちょっと気になったからね”
それに対して、なんでもないかのように落ちついた様子で言葉を返す”先生”。
味方の状態を、そして相手の状態を解析、把握する才能。
これこそが”先生”唯一人のみが持つ、唯一の能力であり――武器である。
いくらウタハご自慢の発明品とはいえ、宇宙戦艦の砲台として組み込もうとしていた代物に無傷で耐えられる装甲は有していない。
それを補うため、コトリが扱う”ガジェット”により”雷ちゃん”へシールドを展開させ、一時的に防御性能を高める。これにより攻撃役と防御役を両立させようとしたのだ。
とはいえ、シールドは万能ではない。あくまでもダメージを肩代わりしているに過ぎない上、シールドの性能は対象の耐久性に依るところがある。故に攻撃を受け続ければいつかは破られる。
だからこそ、印象付ける必要があった。
――そして、それが破られたからこそ、次の相手の手も察せる。
カレの一撃がシールドを破った以上、
「……今こそ、我は此処に勇者の資格を示さん」
煙で姿こそ見えないが、木霊してくるその仰々しい口上から”誰が”何をしようとしているのかが推定できた。
問題は”ソレ”を防ぐ手が今のウタハ達には無い、ということだが。
「”光の剣”よ、我が覇道の路を照らしたまえ!」
一瞬、煙の中から向こうの様子が垣間見え――予想通り、”光の剣”を持つに相応しい少女が銃口を向けていた。
その姿を視認したウタハは、口元に弧を描きながら落ち着き払った様子で肩を竦めた。
「――――ここまで、か」
「――――光よ!!」
放たれた極光は爆煙をも消し払い――
この一幕に終止符を打ったのだった。
【 つ づ く 】
●タメになる☆TIPS集
【雷の玉座】
→デコイ役に持って来いなのよなーえペロロ様? あはは……
【やったか!?】
→もはやネタ用語
【迫撃砲】
→範囲攻撃はいつの時代も優秀じゃけえ……
【つづける】
→がんばる
【星型弾】
→原作だと元の姿に戻らんかったような気がするけどブルアカ仕様ということにしておいてくらふぁい。じゃないと万が一生徒吸って吐いてリアルお星さまになってしまったとか笑えんぜお前は
【シールド】
→セミナーの会計が優秀すぎる要素の一つ