【完結】獅子座α星が、ふたつ   作:初弦

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7年生は卒業式に出たい

「レグルス! シリウスと連絡を取る手段はある!?」

「……それせめて大広間ではないところで——」

「できれば今すぐに」

「人の話は最後まで聞け」

 大広間で捕まえられたので死ぬほど目立ったものの、あいにくと、アンブリッジは本日も魔法省に呼び出しを食らっていた。ここまで頻繁に呼び出されているとなるとじきに高等尋問官の権限は剥奪されるんじゃあないかなと思うが。どうだろう?

 視界の端では教員テーブルのスネイプ教授の眉間のしわがそろそろ限界を迎えそうになっている。まったく大変ですね。ハハハ。

 

 ……現実逃避はこのあたりにしておくか。

 

   ➤

 

 一報を受けて、レギュラスは迅速にブラック邸に戻った。兄の所在確認のためである。さすがに捕獲されていたら洒落にならない、破れぬ誓いをしただけあって握っている情報がそれなりに多い——結論から言えば、シリウスは当然ながらばっちり在宅していた。

 現在騎士団本部が設置されているブラック邸、一応誰かひとりは必ず残っていないと、それはそれで連絡および連携に支障が出る。直系長子自動相続により、現在、ブラック邸の継承権はシリウス・ブラックにあった——であればこの人がいるべきですよね僕忙しいので、がレギュラスの言い分だった。兄に対してあまりに雑。小回りが利くのは大型犬よりは翼持つミミズクであり、ブラック邸の屋敷妖精(House elf)も次男に傾倒しているため積極的に助力が見込めて、ついでにいろいろと()()を並行していたので、まァどちらを常駐させるかといえば確かにシリウスの方だった。がそれにしても雑。シリウス・ブラック、十二年間をアズカバンで暮らしたかと思えば、解放一年目はペベレルの指輪探しをさせられ、二年目はハリーの護衛でほぼ一年通して動物変化(Animagus)形態、三年目は自宅に軟禁である。シンプルにかわいそう。

 しかしその雑さが今回は功を奏したといえる。

 騎士団員にはしめやかに情報共有が行われ、結論はすぐに出た。釣られたふりで罠を張る。ヴォルデモート本人が出てこないとしても——少なくない数の死喰い人(Death eater)残党が釣れるはずだ。

「——私とて両面鏡は渡していたのに」

「正確な用途を教えずに渡した道具が適切に使われると思う方が間違いですよ」

 ぼやいたシリウスにレギュラスはつめたく返した。杖から光がこぼれる。

「というか、あれ、一応ブラック家門外不出の魔道具なんですが」

「おい自分は従甥に渡しておいてそれか」

「シシーの息子なので実質ブラック家です」

「それを言うならハリーだってジェームズの伯母さんがブラックの出だ」

「二代前か……」

 閃光が二度走る。

 シリウスの盾の呪文がいずれも弾いてその隙間からレギュラスが失神呪文を放つ。打ち合わせはない。する必要もない。

「……しかも確か傍流では?」

「傍流はナルシッサもだろ」

「本家は僕らで最後ですからそうなりますね」

 レギュラスは眉を上げつつ頭を傾けた。白く稲光がこめかみの脇を抜ける。シリウスが跳弾させた爆破呪文が逆転時計(Time-Turner)の棚に当たって、大破した。

「しかし、うちの家系の構成とか覚えていらっしゃったんですか。意外だ」

「嫌味だな」

「誰かさんのせいでね」

「口も減らないと来た」

 みどり白あお。縦横入り乱れた呪文の軌跡は兄弟を捕らえて——消えた。幻影を囮に背後から撃った呪文はルックウッドの背中を捕らえた。したたかに打ち付けて悶え苦しむ男。レギュラスが容赦なく足蹴にした上で【縛れ(Incarcerous)】により全身が縛り上げる。

「第一、ブラックに関して門外不出なぞ、今更重要か? 守っているうちに誰も使い道すら知らなくなるのが関の山だろ」

「他人事のように仰いますがね」

「——なにで揉めてるんだか知らんが現状の戦闘より重要だとでも!? 馬鹿どもが!」

 激怒するムーディが義足とは思えぬ俊敏さで駆け抜けていった。空を。大破した棚の破片を浮かせて足を乗せた姿はさながら空のサーファー。気迫と無言呪文の連射によりまったくそうは見えないが。「喋ってる暇で一人でも多く倒してみろ!」兄弟は肩をすくめて、お互いに背を向けた。赤く閃光が駆け抜ける。青白くひかりほとばしる。

「五年生の夏季休暇のときだって信じられませんでしたからね」

「おいまだ続けるのか」

 ブラック兄弟はレギュラスの方が根に持つ。ねちっこいのはスリザリン寮の特徴だ。「あれはそもそも親父が——」咄嗟に飛び退いたシリウス、一瞬前まで頭があった箇所を寸分たがわず呪いが抜けた。大破した水晶玉、閉じ込められた予言たちが一斉に喋りだし、がなりたて、一時的にまったくなにも聞きとれなくなった。

 一方——床ではじけ、跳ねて、四方八方に散らばりかけた水晶玉の破片は、空中でぴたりと停止した。

「血を裏切る者に、裏切者」

 怜悧な女性の声であった。

 しかしどこか空々しく、寒々しく、得体のしれない恐ろしさをはらんでいた。

「直系の最も血濃きブラックは——いずれも堕ちて腐りきってしまった」

 次の瞬間、破片が四方から襲いくる。

「【ゆるめよ(Molliare)】!」

 盾の呪文の効能は物理攻撃には効果がない。クッション呪文と状態変化。「トンクス!」「だいじょ——ヤッッッべ」助けの手のタイミング自体は絶妙だったが、彼女はうっかり詠唱してしまった——居場所が割れたトンクスが頭を引っ込める。無詠唱による緑の閃光。軌道が神秘部の壁を焼いて黒く焼き付いた。石壁が溶けたのか、かすかに溶剤のにおいが漂っている。

「ああ、それに、穢れた血(Mud Blood)の混ざりもの。ブラックの血筋でありながらスリザリンさえも門扉を開かなかった、劣等品の出来損ない、挙句の果てには政府の犬。最悪、最悪、なんてざまだ、まったく、吐き気がするね……」

 ベラトリックス・レストレンジ。彼女の敗北の可能性は、彼女自身の慢心と油断によって作られている。あるべきだった道筋の過程、感情的な子どもと侮った少年に隙を見せ、磔の呪文をかけられた。あるはずだった道筋の末路、血を裏切る者、貧相な家庭に入った敗北者と侮った女によって殺された。驕り高ぶったがゆえに人々を軽んじて、見下した。

 逆に、言うなれば——考えてもみるべきだ。レストレンジ夫妻およびクラウチ゠ジュニアが捕らえられたタイミングは、ヴォルデモートの敗北のあとになる。闇祓い(Aurur)二人を捕獲して気が済むまで拷問したそのあとになる。彼らはそれまで捕まらなかった。収穫もない拷問に飽きたころにようやく闇祓い(Aurur)たちは彼らに追いついた。

 それは決して闇祓い(Aurur)の職務怠慢には由来しない。

「栄えあるブラックに汚点はない。映えある純血に曇りはない。有り得ない、絶対に——ああ、ヴァルブルガ伯母様、あなたはなんてお優しかったの。家系図を焼く程度、汚物に温情を与えるだなんて……あなたの甘さが(ごみ)共を無用に生き長らえさせてしまったよ」

 残党の死喰い人(Death Eater)を一掃すべしと乗り出した闇祓い(Aurur)たちの捜査をかわし、騎士団員らの追跡をかわし、むしろ手練れを悠々と捕らえて一方的に嬲り切った事実は——彼らのどうしようもない残虐性とともに、確かな実力を示している。

「しかし伯母様、私はあなたを謗れない。きっと私も同じことだ。私は、そう、心底後悔しているよ。——私はこの手で妹たちを縊り殺すべきだったんだ」

 

 ベラトリックス・レストレンジ。ヴォルデモートの忠実な部下としてまず真っ先に挙がる名前。

 過激にして残虐な純血主義者。

 ヴォルデモートが名指しして褒め称えた忠誠心と実力。

 

 肩書は相応の意味を有する。

 

   ➤

 

「アンブリッジ先生」

 ドラコの言葉に女が振り返る。「あらミスター・マルフォイ」猫撫で声じみた甲高い物言いはホグワーツ生たちがすっかりと聞き慣れたものだった。

「試験は終わったの?」

「もちろん、万全ですとも」

 ドラコは短く頷いた。胸元には監督生バッジとともに、尋問官親衛隊の【I】バッジが光っている。摘発の件で協力したことでドラコは親衛隊のひとりに任命されていた。どこぞの兄がやりたい放題やっていたがゆえに、相対的に、聞き分けの良い弟として認識されたことも含むだろう。

「ポッターどもがダンブルドア軍団関連の証拠をなにか残しているとお思いですか? もしよろしければお手伝いしますよ」

「あなたは本当に出来た子ね。そう——それなら、手伝っていただこうかしら」

 女は頷いた。既に廊下を三回往復し、必要の部屋の扉は出現していた。

 そこにあったのはあまりに広大な部屋だった。入口からでは部屋の端さえも見通せなかった——端さえないのかもしれないと思えるほどに広大だった。部屋の中には、多くのガラクタと粗大ごみじみたものが転がっている。広大な部屋だというのにほとんど足の踏み場もない。

「古いアクセサリを探しているの。どうもダンブルドア軍団が隠蔽に用いていたみたいで、回収しておかなければ」

「アクセサリですか。指輪だとか、ブレスレットのような?」

「いいえ、髪飾りよ。ティアラに近しいかも」

 言いながらも杖を振る。

「呼び寄せは効かないようね」

 ずんぐりとした女とドラコは二人とも部屋の中へと踏み入った。見上げるほどに高いがらくたの山峰をドラコは見つめて目を細める。ホグワーツの城内に収めるには広すぎるスペースだ。検知不可能拡大呪文でさえもこのような現象は起こせないだろう。レグルスが愛用する鞄でさえ——マルフォイの権力で特注されただけあってそこらの一軒家より大きいのだが、それでも——卒業間近の今、わりと容量ギリギリを攻めていることをドラコは知っている。この間レグルスは鞄を斜めに叩いていた。あの角度で一発入れると意外と整頓されるらしい。書誌狂いの蛮族怖いね。

 閑話休題。

「なにか困っていることはない?」

「滅相もない。特に先生には、日ごろから良くしていただいています」

「謙虚だこと」

 足の踏み場もなく——というか本当に、床さえも数多の品々で埋まっているので——踏みしめるたび、がちゃん、がさっ、となにかしら音が立つ。比較的ましな位置を踏み分けながらも彼らは部屋の中へと進んだ。

 外界から隔絶された部屋。奇妙なほどに無音の世界である。おおよそだいたいの探し物呪文が効かないので、ショートカットはできない。棚の脇にしゃがみ込みながら今の姿はマグルのようかもしれないなとドラコは思った。

「髪飾りとは、これですか。アンブリッジ先生——」

 振り返った女の目に、黒ずんだ、古ぼけたティアラが映る。「そう、それを——」太く短い指が指し示すのでドラコは笑った。

 

「——それともミズ・レストレンジとでも呼んだ方がいいのかな……レストレンジではなかったのか。では、オーグリー様?」

 アンブリッジを模した顔から笑みが抜け落ちた。

 

「アンブリッジは今魔法省に呼ばれていて——だからこそか? 確かに、同じ人間が二人いるよりはごまかしが効きそうだ」

 

   ➤

 

 神秘部、予言の間、魔法省が研究し続けた数々の記録が壊れて消えていく。過去にしかない幻影がすべて破壊しつくされる。逆転時計(Time-Turner)を保管していた棚は全壊の瞬間を繰り返し続けていた。オウムがフレーズを繰り返すさまにどこか似ている。ときたま奇妙に()()()ところまで含めて。

「ちょこまかと溝鼠が這い回る。見苦しい」

 大砲の如く音が響いた。無数の死の呪文が八方へ撒き散らされる——囮の幻影がまた二つほど消し飛ばされた。「同士討ちしてほしいんだけど……」トンクスの懇願がどこかから響いた。あいにくと死喰い人(Death eater)への直撃を避ける理性は残されているらしい。厄介きわまりない。

「——なんであんなに本気なんだ。我らが従姉殿」

「策がバレていたから?」

「真面目に」

 攻防戦は続いている。ブラック兄弟がメインで囮を張り、高い変身術の技量を駆使してトンクスが攻撃を放つ。いずれもベラトリックスは当然のようにいなす。暴力に慣れ親しんで躊躇いがない。その使い方を熟知している。

 物陰に転がり込んだ隙の小声の相談、シリウスのそれは軽口ではなく検討としての疑問だった。レギュラスは眉を上げて、ついで嘆息した。

「確かに、妙ではあります。ベラは相手をなめ腐ることはあっても本気で対峙することはそうはない」

「認識は同じだな。ましてこっちの面子はそれこそあいつ曰くの〝血を裏切る者〟〝裏切者〟〝マグル混じり〟だ」

「それこそなめ腐って然る相手ですね」

 歳近い従姉の気質を彼らはよく知っている。ブラック家謹製の純血主義者——ブラック家は王族を自称するだけあって、子女への教育は苛烈だった。子どものしつけに磔の呪文が出る家庭を彼らは実家以外に知らない。ベラトリックス・レストレンジ゠ブラックは同世代間でも抜きん出た実力者だ。高いプライドを持つが、プライドに見合うだけの高い実力をも有する。ゆえにこそ他者を見下し、侮る悪癖がある。これは大なり小なりブラック家全体に共通する特徴でもある。

「きっかけもない」

「アズカバン生活のせい?」

「だとしたら私もキレたナイフであるべきだな?」

 もともとそうだったがためにさして変わらなかったのでは?

 と混ぜっ返さない程度の理性はレギュラスとてあった。

「〝オーグリー〟がなにか吹き込んだ——」

「吹き込んだとして、なにを? 怒りを買うとすれば〝宝探し〟ぐらいですが、既に破壊された物品がなんであるかを知っているのは——」

「——破れぬ誓いを結ばされたメンバーとダンブルドアとクリーチャー」

 様々な諸事情により実はわりと多い。

「ダンブルドアは——」

「——さすがにない」

「同意見」

 元騎士団員としても、元死喰い人(Death eater)としても、ダンブルドアがよりによってヴォルデモートに味方することは有り得ないとして見解が一致している。

「破れぬ誓いは破ると死にますからね。現状死人もいません」

「クィレルは?」

「つい一時間前に打ち合わせをしました。つまり神秘部到着五分前という意味ですが」

「そこから暴露して死ぬのはさすがに逆転時計(Time-Turnur)でもなければ不可能だな。……あるのか?」

「悪魔の証明に至りますがさすがに持ち合わせていないはず……今から確認しますか?」

「その余裕が——」

 隠れ場所に正確に緑の閃光が飛んできた。

 密談中断迎撃態勢。

「——余裕がないとして」

 呪文を組みつつシリウスが口を開く。無言呪文と会話の並行は騎士団員としても死喰い人(Death eater)としても必須の技能だが、ここまで平然と行うあたりはやはり元々の能力がものを言う。

「言い出しておいてなんだが、そもそも過去に遡って破れぬ誓いを破ったとして、同一存在たる自分も死ぬんじゃないか?」

「前例がないものの一理ありますね」

「検証できるような例でも場合でもない」

「その通り。……ペティグリューも死んでいませんよね?」

「そのへんのネズミが突然人間の死体に変化した、なんて話は聞いていないな」

「僕も報告には上がっておりませんね」

 確実だがしかし最悪の確認方法だ。

 残りのメンバーは——兄弟どちらも現在進行形で生きて喋っている時点で、お互いから漏れたはずがないとして。

「ではクリーチャーに罪でも着せるおつもりですか?」

「それこそないだろ、屋敷妖精(House elf)が裏切るって?」

「……その認識もそれはそれでどうかと思いますが。まァクリーチャーは裏切りませんよ、絶対に」

 こいつやっぱなんか微妙に変だな……。横からの雄弁な眼差しをレギュラスは無視した。

 兄が大のイレギュラーだったので、相対的にしばしば過小評価されがちだが、ヴォルデモートを裏切る前から屋敷妖精(House elf)の能力を信じ、その人格を信じ、なんなら家族扱いしていた純血貴族、普通にまあまあ変である。使えなくなった屋敷妖精(House elf)の首をはねる家出身のはずである。

「なら他の案件か?」

「なにがあります?」

「クラウチ゠ジュニア捕獲?」

「ベラは昔から復讐に燃える柄ではないので、可能性としては薄いものかと。口実に何人か撃ち殺すお祭りはやりがちだとしても……それこそ帝王以外には無関心ですので」

「おまえよくもまあ死喰い人(Death eater)に入っていたな……」

「家への反抗と寮差別を取り違えるわ若気の至りで友に手を汚させかけるわ土壇場で信じる人間を間違えるわせめて弁明すればよかったものを現場で高笑いしたものだから誰にも信じられずに十二年監獄に放り込まれるわだいぶかなり散々な人間がなにか仰っておりますね」

「一を言ったら百返すのやめてくれないか」

 シリウスとてたまには普通に傷つく。半分くらいは自分でも正直反省している部分なので尚更傷つく。残り半分は置いておく。

「あるいは……マルフォイの裏切り」

「まァありえますが。やはり侮りを取り払った理由が——」

 レギュラスがふと口をつぐむ。

「——帝王の指示……いや……」

 様子が変化した弟にシリウスは一瞥をやった。レギュラスは口元に手を当ててなにかを考え込んでいる。

「レギュラス・ブラックは死ぬはずで、シリウス・ブラックは凶悪犯罪者として指名手配されていた……レグルス・マルフォイは生まれるはずがなかった……」

 それは〝オーグリー〟ないしデルフィーニが話していた内容である。ドラコ・マルフォイは一人っ子、そのはずだった——

「たとえあの墓場でセドリック・ディゴリーが死んだとして、ルシウスの裏切りは起きない」

「……あいつの息子でもないからな」

 ルシウス・マルフォイは身内への情が深い一方で、他人にはおそろしく冷たい。息子の友人が一人二人死んだところで、たとえ良くても〝残念だったな〟の一言で済ませるだろう。

「しかしその場合も予言は手に入れようとする。予言が詠まれたのは、セブルスがホグワーツの面接を受けるころ、まだレグルスもデルフィーニも生まれて少ししたくらいの年頃になります。せいぜいが二歳、三歳……最後まで聞けなかったことにはおそらく影響がない」

 失神光線が何本か飛んでくる。死の呪文はそれ相応に力を消費する。いくらなんでもそう何十発も連射できるものではない。

「僕がペティグリューを捕獲しなければ、兄上は犯罪者のままアズカバン——いや……指名手配ということは、逮捕はされなかったのか? なにかあって脱獄しているのか? どちらにせよ、親しい人を用いてポッターを誘き寄せたのかもしれない、兄上でなくとも、たとえばウィーズリー夫妻……そしてペティグリューが下僕として舞い戻っている——〝オーグリー〟がいないなら、復活に用いられた下僕の肉はペティグリューになる? あるいは、クラウチ゠ジュニアの役目になっただろうか? とにかく、おそらくこの場合も復活も滞りなく行われている」

 クラウチ゠ジュニアは、当然、ヴォルデモートのためならば腕をも切り落としただろう。ピーター・ペティグリューには、腕を切り落とす忠誠があっただろうか——レギュラスは思案する。あるいは、恐怖は忠誠心の代替となりえたのかもしれない。友を売るほどの恐怖は相応のはたらきを齎したのかもしれない。

「であれば——まず、予言奪取の指揮はルシウスが執ったはずです。シンプルに、死喰い人(Death eater)の中でも魔法省の様々な部署に権力が効くから、なにかあっても隠蔽しやすい」

「それはまあそうだろう」

「魔法省の動きもあまり変わりがない。予言を聞いたからポッター家は襲撃された。ベラもロドルファスもラバスタンもクラウチも帝王を探そうとするでしょう。息子の逮捕が滞りなく起きたならば、クラウチ執行部部長が追い落とされるのも規定通り。いずれファッジが魔法大臣になります。彼の小心が多少のイレギュラーで変化するとは思えない。魔法省は帝王の復活を信じない。ドローレス・アンブリッジはホグワーツに派遣される……」

 ありえたはずの世界のシミュレーション。マルフォイの裏切りが起きなかったら。セドリック・ディゴリーが死んでいたら。クラウチ゠シニアが死んでいたら。シリウス・ブラックの冤罪疑惑が提起されていなかったら。クィリナス・クィレルが死んでいたら。レギュラス・ブラックが死んでいたら。レグルスが生まれていなかったら。

 もしもデルフィーニが二十年近くも早く生まれていなかったら。

「レグルスがいないということは、ポッターには両面鏡を使う選択肢がないことを意味する。梟便は速さが足りない上に今も検閲が行われている。暖炉ネットワーク(Floo Network)は魔法省管轄なので検閲が敷かれるに足る……。そもそもレグルスがいなければアンブリッジの介入はより強力になっていたはず——兄上が指名手配犯だったら、連絡を取るだけでも、魔法省には付け入る隙が増える——この場合、ポッターは無事を確認するすべがない。確認できなかったら——」

「——……本当に助けに来る」

 シリウスは苦々しげに引き取った。ハリーに懐かれていることが、すなわちハリーの弱みに繋がることは、彼は本日よくよく身をもって思い知らされた。

「けれどそうはなっていない——」

「——そう、そうはなっていない」

 なんの因果によるものか、ベラトリックスはデルフィーニを二十年近く早く身ごもった。生まれるはずがなかったレグルス・マルフォイが生まれた。レギュラスは偶然の積み重ねの果てに生き延びた。クィレルは命の水で生き延びた。シリウスは脱獄することなく監獄から解放された。セドリックは代表選手には選ばれなかった。クラウチ゠シニアは死ぬことはなかった。マルフォイ家は裏切った。

 だから彼らは敵の策を逆手にとれた——

 

 ——()()()

 

「そしてあちらには〝オーグリー〟がいる——彼女が予見者なのか別の何者かは置いておいて、少なくとも、あるべきだった世界をより詳細に知っているはず——そうかそうなるとポッターを用いた予言回収は前提プランでありながら予備プランだ。()()()()()()()()

「……は?」

 レギュラスの発言は、一年と数ヶ月前の従甥の発言と奇しくも一致した。

「ベラトリックスが何故本気を出したのか、です。あの人は帝王にしか興味がない——」

 あるべきだった世界。あるはずだった世界。ヴォルデモートはついぞ予言を聞くことはなかった。神秘部に保管されていた予言は砕けて割れた。ダンブルドアの記憶にしかない予言。ハリーは大きな犠牲と引き換えにわずかなアドバンテージを得た。

 

 疑問:失敗する見込みが高い策に全賭けをするに足る理由とは?

 

 たとえば、そもそも全賭けではないとか。

 本命の策が控えているとか。

 

「——()()()()()()()()()()()。絶対に無様を晒せない——あのひとたち、もともと、子どものお使いで済ませる気がなかった——」

 

 シリウスはレギュラスの首元を強く引いた。同時に杖を振っていた。思索にふけると周りへの注意が疎かになる特徴は幼少より変わりなく——割れた水晶の破片が眼前を横切り、次の瞬間、分厚い土壁へと変化する。

 その土壁の真ん中が即座に撃ち抜かれた。緑の閃光が吹き飛ばす。咄嗟に伏せた兄弟の頭の上をかすめて髪先が焼かれた。ちりぢりと悪臭が鼻先に吹き荒れた。

 焦げたにおい。それ以上の奇妙で不確かで嫌なかおり。

 

 死のにおい。

 

「——つくづく、勘のいい」

 

 ロード・ヴォルデモートが君臨する。

 

   ➤

 

「似たような雰囲気のものを……僕は、見たことがある。三年前に」

 ドラコの記憶では、少なくともあれは形だけは何の変哲もない日記帳のようだった、一方で——ドラコは指でティアラの感触を確かめた。長年風雨にさらされたのか、表面がざらついている。とはいえ錆びた様子もない。相応の素材で作られた一級品だ。

「探していたんだろう。どうぞ」

 歩み寄り、手渡した。

「なにが目的?」

 七変化の特性、形状が変化する。体格が縦に細く伸びて、銀髪が長く広がった。デルフィーニが煩わしそうに頭を振って、ドラコを冷たく見下ろした。長髪は見る間にまとまった。

 ドラコはゆっくりと深呼吸した。心の臓が肋の内側で存在をつよく主張している。

「闇の帝王は……マルフォイを、僕の家族を許す気がない」

「ええそうね」

 〝オーグリー〟は口端だけで笑った。

「よりにもよって、いの一番に裏切った愚か者ですから」

「けれど——純血は年々数を減らしている。たいていの純血一家の子どもはひとりかふたりだ。ロングボトムでまともに純血の次世代は出来損ない一人しかいない。レストレンジの血筋はロドルファスとラバスタンだけ、王族を誇ったブラックの姓を持つ人間はたった二人になり、マルフォイだって、僕ら兄弟で最後だ。父上も母上もこれ以上子どもを増やすつもりはないらしい。……絶滅危惧種だ。貴重だとは、思わないか?」

 まったく見知らぬ顔をドラコはまっすぐに見据えた。デルフィーニの顔立ちは、ベラトリックスと、秘密の部屋で目撃した〝トム・リドル〟の面影こそうかがえる。しかし、レグルスにまるで付き従うようにそばにいた、黒髪の青年とは、まるで似ても似つかない。

「どんな死喰い人(Death Eater)でもその子女でも、闇の帝王に命乞いをしたところで通るとは思えない。しかしあなたは、闇の帝王の御息女だ」

「……おまえはもはや父の側につかないと思っていたのだけれど……」

 デルフィーニは小首をかしげ、ドラコを見下ろした。

「必ず殺されるとわかっていて軍門に下る人間はいない」

「確かに、そうね? ……レグルスはこのことを知っているの?」

「兄上は——……」

 ドラコは眉を寄せた。

「……父も母も、僕が危険な行いに挑むなど、望まない。兄上は特にそうだ」

「ええ、本当にそうね? おまえだけは確実に逃がせる配置、逃がそうとする配置よ。いつだって」

 デルフィーニの知識では、ドラコ・マルフォイは、少なくとも三つに分岐した世界のいずれにおいても——アルバス・セブルス・ポッターがスリザリンに組み分けされた世界、ローズ・ウィーズリー゠グレンジャーが生まれなかった世界、ヴォルデモートが勝利した世界——マルフォイ家の当主としてアストリア・グリーングラスとの間にスコーピウスをもうけている。ルシウスやナルシッサの行方は多少変動があったかもしれないが——スコーピウスはいずれの世界においても、彼らの存在を観測しなかった——少なくとも、一人息子は確実に守りきっていた。本来存在しなかった少年が増えたところで、マルフォイ夫妻の息子への愛情には、本質的に変化はない。わりとよく死にかける誰かさんが原因で、微妙に変遷はあっても——レグルスの立場にドラコがいたとしても、彼らは同じように行動したはずだ。レグルス当人は(いろいろなにかだいぶおかしい特徴は散見されるとして)例に及ばず、家族への情が深い。弟が危険な目に遭うことを許容しない。

「だから——いざというときは、皆が、僕の命を優先する。僕があなたにつけば——」

「——彼らも私に、父に従う?」

 デルフィーニはせせら笑った。

「まるで自分から人質になるような振る舞いね」

 まるで、どころではなかった。

「でもおまえの父親は私の父に死の呪文を放ったわ」

「兄上が死んだと思っていたからだ」

 ドラコは切り返した。「そうでなければ裏切るはずがなかった」墓場の出来事はドラコにとって伝聞でしかなかったが、しかし、確信していた。

「闇の帝王を敵に回す方が本来はリスクだ。あなたもそう思うだろう?」

 デルフィーニは髪を弄びながら微笑んでいる。

「なんなら、あのときいたのがレグルス・マルフォイだと()()()わかっていたら、殺そうとしなかったんじゃないか?」

「純血だから?」

「だけじゃなく。そもそも、帝王の復活の際、死喰い人(Death eater)を最初から呼び集めるつもりだったなら、そのとき、下僕の息子の死体をわざわざ端に転がしておく必要もない。見せしめにしてはせっかちで、なにより()()()()()じゃないか」

 レグルスの死は、ルシウスへの制裁ではなく、単なる偶然だった。脅迫であるならば既に殺していたら意味がない。長く苦しめて最期をちらつかせるべきである。もしくは死体をこれ見よがしに掲げるべきである。

「死体なんて、できるだけ出ない方が都合がよかったはずだ。最終課題で代表選手のポッターひとりが行方不明。兄上には辻褄合わせに適当な証言をさせる。むしろ何事もなかったという体でただ一人の優勝者にする。その方が帝王だってもっと裏で動きやすかった」

 デルフィーニは思考を巡らせる。セドリック・ディゴリーを助ける副産物としてレグルス・マルフォイは生贄になった。マルフォイの裏切りが起きたのは、彼らの身内に手を出されたからである。デルフィーニはさすがにあのときは——ちょっとだけ——失敗したかも、とは思った。

 父は予想外の裏切りに苛立っていたが、デルフィーニを咎めることはなかった。下手人こそデルフィーニだったが、そもそもおまけでついてきた人間を殺すように指示したのはヴォルデモート本人である。デルフィーニは血縁であり、それでいて優れた魔女であり——父を迎えに行った際、手土産にした()を高く評価したこともあるだろう。

「父はお怒りだったわ。非常にね」

「だろうね」

「おまえ、自分を殺そうとした人間が命乞いしてきて受け入れられるの? ルシウス・マルフォイはたったいっときの愚行で、挙げ句にポッターも逃がしたの」

「わかっている」

「ひとりできて——殺されるとは思わなかった?」

 不意にドラコを覗き込んだ瞳は、このときだけは奇妙に赤く、まるで心の奥底まで見透かすようであった。ドラコは真っ直ぐに見つめ返していた。冷や汗と鳥肌が止まらなかった。心臓はばくばくと脈打っている。握りしめたてのひら、緊張により冷え切って、指先の感覚はほとんどない。

「スリザリン寮で、兄上に苦言を呈するのはあなたしかいなかった。ウィーズリーとつるんでマグル生まれを評価したところであの人に物申せるほどの実力も血統も誰もなかった。あなた以外は。——けれどあなたは、たとえばロングボトムだとかに同じことはしなかった」

 デルフィーニの表情にちらりと奇妙な色が過った。

「手懐けられそうな純血は他にもいた。ちゃんとそれらしく弁えた純血も他にもいた。あなたはそれでも()()()変わることを望んでいた」

 ドラコはもはやヴォルデモートには期待していない。命乞いが叶えられるとも思わない。闇の帝王は優秀にして最強だが、同時に、気まぐれにして残虐だ。自分こそが最も一番だ。自らの母から継がれた血統を誇り、純血主義を標榜するものの、それでいてその他すべてが塵芥だ。——血統を誇るならば、では、唯一の肉親は? 自らの遺伝子と血統を継いだ者に対しては?

 闇の帝王の娘。彼女は父親に似ているようで異なる。母親に似ているようで異なる。ヴォルデモートに捧げられた忠誠心は親への慕心に似ていた。そして——ドラコは疑問に思う。

 いびつな関係は、本当に、隠蔽のためだけのものだったのか?

「もしかしたら、今も、望んでいますか?」

 賭けるなら()()だ。

 

   ➤

 

「レギュラス・ブラック。まったく、惜しい男だ」

 声は奇妙に甲高く、澄んでいた。土壁からわざわざ覗かずとも、水晶の破片が周囲の光景を照らし出す。紅い瞳の瞳孔は蛇のごとく縦に裂けている。十五年近く前の死喰い人(Death eater)の記憶よりは少しばかり異形に近づき、しかし、確かにヴォルデモートその人であった。

「確かに優れていた。兄の陰に隠れながらしかし有能な男であった。貴様の能力を見込んで、私は未だ若きころの貴様に()を渡した——何故消息を絶った? 何故戻ってこなかった? 何故、私を裏切った?」

「聞いてどうします?」

 レギュラスはかすかに笑った。頬は引き攣っている。ヴォルデモートの脅威を誰が最もよく知っているのか——それは当然、死喰い人(Death eater)だ。彼らはゆえにこそ、彼を王と仰ぎ、崇拝し、恭順した。我が主、神のごとき力を持つ御方——ロード・ヴォルデモート。

 恐怖は強い憧憬にすり替わり、陶酔を誤認させる。ねじ曲がった純血主義思想と絡めて純血貴族の支持を勝ち取る。強大な指導者はそうして誕生した。

「さて」

 破片の中の無数の影が同時にかくんと首を傾げる。

「次に活かすか」

「〝活かせなかったおまえはここで殺す〟とでも言いたげですね」

「物わかりのいい。つくづく惜しいな」

 雑談のついでの如く緑のひかりがほとばしる。シリウスとレギュラスは二手に分かれて避けた。

 ベラトリックスがヴォルデモートの傍らに寄った。

「我が君。やはりポッターは訪れませんでした」

「構わん」

 ヴォルデモートは鷹揚に頷いた。

「おかげで、少なくとも、騎士団の()()()はこちらに来たようだ——おおよそ、八割」

 杖が振るわれる。

「手足を叩けば()()もいくらか弱ろうというもの」

 予言の間を支える石柱が()()()一斉に倒壊した。

 魔法使いはマグルのような要因では怪我をしない、石礫程度で怪我をするはずもない——それが魔法によるものでなければ。広範囲に散らばった団員たちが各々防御する一方で、死喰い人(Death eater)には傷のひとつも与えなかった。

「……命乞いは良いのか?」

 まこと不思議そうにヴォルデモートは問うた。

「ロードは寛大だ。多少の悪戯は赦してやろう……」

「あーらふっしぎー! だったらレグルスくんには一言でも許したの?」

 一閃。

 女性の顔が石化する。人型の彫像がついで粉々に吹き飛ばされた。

「ザンネンはずれ」

 彫像の足元を転がったトンクスは宙に溶けるように消えた。生まれ持っての七変化、変身術特化の本領発揮。

「無茶をする——!」

 ベラトリックスの追撃を閃光が弾いて差し止めた。シリウスだ。

「どいつもこいつもうちの甥姪は!」

 足縛りの呪いを放ちレギュラスは悪態をついた。

「若者の無茶をフォローする歳になったのかもな!」

「中身さして変わってない男が偉そうな口を叩きますね!」

「本当におまえは俺に厳しい!」

 兄弟喧嘩を数多の呪文が裂いた。ブラックの姓を持つ最後の二人はどちらもお互いの視界から消えた。「ムーディどこ行った?」倒壊した柱の陰でぼやいたシリウスの横「呼んだか?」いつの間にやら小柄な老人が身を潜めていた。

「引退した老人を働かせおって」

「御老体、現役時代に仕留めきれなかった死に損ないがそこにいるぞ」

「おう今宵こそ——とも言ってられんのだよな」

 ムーディが舌打ちした。

「彼我の実力差は理解してこそプロよ。わし一人では無理だな」

「一人でもないが」

「小童らを守りきって殺せと? 無茶を言う」

「二十歳そこそこはさておき、三十だの四十過ぎだの捕まえて小童かよ」

 苦笑いをこぼしたシリウスが水晶の破片越しに呪いを何本か放った。「半世紀にも差し掛からぬ者共、小童に違いあるまい」ムーディが鼻を鳴らした。

 死喰い人(Death eater)は十何人か倒したが確保にも行けない。ヴォルデモートが悠々と呪文を唱えている——ついで合間に呪文を放っている。無言呪文複数と詠唱の併用。純然たる化け物だ。

「脳みそも何個かあるのか?」

「ありうる!」

 白い光が弾ける。

 一瞬目がくらみ——怖気を覚えてシリウスは反射的に盾を展開した。爆発音。神秘部をひかりが埋め尽くす。

 

   ➤

 

「……そうね、もう一日遅かったら断ったのだけれど」

 デルフィーニは小首をかしげた。

「おまえは本当に幸運ね」

 ほっそりとした指がティアラを何度か撫でた。

「つまり——」

「おまえの命乞いを聞いてあげる」

 

   ➤

 

 ——ひかりが収まったとき、驚くべきことに、誰も怪我をしていなかった。

「些か悪さが過ぎたようじゃな、トム。じきに闇祓い(Aurur)も訪れる」

 ダンブルドアの静かな物言いに、ヴォルデモートは、うっすらと微笑みを浮かべた。蛇の顔立ちがまるで旧友を迎えるように柔らかく笑った。今の場面にあまりに似つかわしくない。

「哀れなものだな、ダンブルドア。かわいい部下どものために、魔法省の守りを越えて、わざわざ姿を現すなど——ずいぶんと弱った貴様が」

「少し前の君ほどでもあるまい」

「そうだろうとも! 貴様は死の呪文を受けたわけでもない。あの程度の些細な悪戯に引っかかる者がいるなど……耄碌したか?」

「わしも歳を取った。君が歳を取るように」

「くだらん」

 間にも幾度も呪いの撃ち合いが行われている。炎の蛇が老体に迫り、水の竜が蛇を飲み下す。瞬時に水は蒸発し、炎のにおい漂う毒霧を撒いた。ダンブルドアは杖の一振りで気体を消し去った。

「ああ、無論、来ると思っていた。貴様は実に愚かだからだ」

 ヴォルデモートは呪文をいなしながらも笑みを浮かべている。

「貴様はぐずどもを見殺しにできぬのだ。私を殺す機会は何度もあった。マグルごときを庇って手傷を負うことがあったな。部下すべてを逃がすために一人残ったこともあった。服従の呪文に操られた子どもを無視できなかった! ああ——愚かなアルバス・ダンブルドア。あのときの塵どもを無視していれば貴様は他のすべてを救えたぞ」

「わしと君には見解の相違が多々あった。たとえば今の話をわしは全く愚かと思わぬ。むしろ誇りにすら思っておる」

 ダンブルドアはあくまでも冷静だった。

「そう思うか? 本当に?」

 甲高く声が伸びる。「つくづくと偽善者よ」ヴォルデモートは嘲笑った。

「貴様がもっと残酷になっていれば、現れぬ犠牲はいくらでもあったろう。十一の私を刈り取っていれば、可哀想なマートル・ワレンは死ななかったろう。穢れた血(Mud blood)の少女は貴様の過ちによって失われた。哀れなポッター家は貴様のミスによって取りこぼされた。レグルス・マルフォイは貴様の判断の甘さにより一度は死を迎えた」

 キキキンと金属音じみた音が鳴る。呪文が放たれ、そして、弾かれた音である。あっさりとヴォルデモートはいなした。所詮は児戯とばかりである。

「下手人がよくもまあほざく!」

 キレたシリウスの首根っこはムーディが抑え込んでいた。「血の気の多いところばかりは似ている」元闇祓い(Aurur)は悪態をついた。今の攻撃はどこに隠れたかもわからぬレギュラスの仕業だ。

「いいや、私はもちろん、ポッター夫妻にも命乞いを許したとも。息子の命を譲れば救ってやらんこともない——やつらは、断った。であれば、やむを得まい?」

 ヴォルデモートは首をひねった。

「ルシウスの息子に関しては……確かに、私も焦っていた。認めてやろう。弱れば弱るだけ、間違えることもある……ロード・ヴォルデモートは己の間違いを認める……しかし、数少ない純なる血(Pure-blood)の生き残りだ。どうして、わざわざ殺したいと思う?」

 今度の閃光はあざやかな緑だった。

 ヴォルデモートは水銀を盾に弾き返した。棚がまた粉砕される。

「ふむ。こうもかわいがっているとなると——やはり、あの若造に命の水を与えたのは貴様か、レギュラス。ご主人様に献上することなど考えもせず……」

 その命の水がなければレグルスは本当に命を落としていた。レギュラスが従甥に与えたのは保険のためだが、まさか本当に使う機会があるとも思っていなかった。それも当人が。あってほしくないと思っていた。

 レギュラス・ブラックが家族と思うひとを、ヴォルデモートはまたも殺しかけた。はじめはクリーチャー。レギュラスが謀反を決意したこと。そして昨年。ルシウスの裏切りをも呼び寄せたこと。

「他者を下僕と、道具としか見なさぬのは、昔からの君の悪癖じゃ。トムよ」

「そうだろうか? 一方で貴様は、人を人としか思わぬから失敗する。愛を信じるがゆえに……情を捨てきれぬ」

 ダンブルドアの説法に、ヴォルデモートは酷薄に笑った。

()()()()()()()()()()

 ダンブルドアが青い目をかすかに見開いた。杖を振るために腕がわずかに動く。黒くしなびた腕だ。ペベレルの指輪にかけられた呪いはダンブルドアをすっかりと蝕んだ。

 ゆえにその動きは少しばかり遅い。

 

「【武器よ去れ(Expelliarmus)】」

 差異はときに致命的となりうる。

 

 手元から杖が弾き飛ぶ。

 蛇の顔に笑みが広がった。帝王がまさか、隙を逃すはずもない——緑の閃光は今度こそ真っ直ぐに老体を貫いた。

 

「——よくぞ戻った、バーティよ」

 

 ダンブルドアの杖を取り、バーテミウス・クラウチは頭を垂れた。「予言は、ここに」水晶球が差し出される。

 ヴォルデモートは小さな水晶球を手にした。手のひらの中で転がし、それからぱちんと指を鳴らした。水晶球は神秘部から消え去った。内包された予言とともに。ヴォルデモートの手中に。

「さて、用は済んだ——置土産だ」

 ヴォルデモートは杖を振る。

 

   ➤

 

「おまえが言うとおり、もともと有望な純血は確保したいというのがお父様の考えよ。レグルスって、性格は最悪だけど実力はあるものね。性格は最悪だけど」

 二度繰り返したなこのひととドラコが思う間もなく「この髪飾り、なんだか知ってる?」とデルフィーニは尋ねた。言葉こそ問いかけの形式だったが、実のところ、デルフィーニは答えを聞くつもりもなかった。

「父曰く、レイブンクローのものだと言うの。被れば叡智を手に入れられる冠——もっとも、父が試してみたけれど、そのような能力はないらしいわ。噂に尾ひれがついただけ」

 古びたティアラの汚れを丁寧に拭って、デルフィーニは、アンブリッジを模したひらひらのピンクの服の内ポケットにしまった。服は彼女の変化に合わせて器用に伸び縮みしていた。

「ハッフルパフのカップも、スリザリンのロケットも、不思議な力はない。誰も彼も噂が好きなのね。けれど、グリフィンドールの剣だけは違った——不思議な能力に頼らないと勝てなかったのかしら」

 小首をかしげたデルフィーニが杖を振った。がらくたたちが勝手に動いて、さながらモーゼのごとく、出口までの道が拓かれた。

「真のグリフィンドール生のところに現れる。勇猛果敢なグリフィンドール——スリザリンとグリフィンドールは真の友だった。だからかしら、二つの寮には案外と似ている人が多いのね。一瞬組み分け帽子が躊躇っていたら、スリザリン寮生はグリフィンドールだったかもしれないし、その逆もあった。かもしれない。だからね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 デルフィーニは杖を振った。彼女の手元にぼろぼろの帽子が現れた。帽子の中に手を突っ込んで——帽子の容量を超えるほど突っ込んで——デルフィーニは思い切り腕を引いた。

 しろがねの剣が現れる。柄には大粒のルビーがはまっている。

「ほらね」

 デルフィーニはニコッとドラコに微笑みかけた。まるで無邪気に見えた。みてみて、と友達に自慢するようだった。

「ゴブリンが鍛えた剣って素敵ね。自らを強化するものだけを吸収する。バジリスクの毒も吸収して、自らのものにしてしまうの。とびっきりだわ——()()()()()()()()()()。いつでも父と一緒にいられる、素敵でしょ?」

 彼女の言葉が真に意図するものはドラコにはわからなかった。しかし、なにか、致命的なことが起きているのだけは理解できた。

 ドラコはつばをのんだ。それから、かすれた声で「そうですね」と囁いた。

 

   ➤

 

 魔法省、神秘部壊滅。魔法省に保管されていた逆転時計(Time-Turner)全滅。コーネリウス・ファッジ魔法大臣はおそらく服従の呪文支配下。

 不死鳥の騎士団員、半数行方不明。把握している何人かは重傷。筆頭はブラックの末裔たち。ムーディもそう。あの狂人、もはや無事な部位とかあるのか?

 最大の問題——アルバス・ダンブルドア死亡。

「……」

 予言者新聞を軽く畳んで、マッチをこすり、火をつけて燃やす。証拠隠滅。マグル式って面倒だけど、たまには便利だ。魔法を使ったらば感知されかねない時だとか。……ほとんど焚火同然なのだが、今は炎を見てもあまりいい感情は湧いてこない。天を仰ぐ。

 あの御老体、本当に最悪だ。なにもかも後始末を投げていった。アクロマンチュラのコロニーは相変わらず禁じられた森の中に蔓延っているし巨人は味方に取り付けられず魔法省の介入は締め出せぬままなんならアズカバンは解放された。闇の帝王は元気に生きている。最近は狼人間どもを味方にしたらしい。ふざけるなよ。さすがにそろそろ一回ぐらい殺したいところだったが、あいにくと既に死んでいた。

 N.E.W.T.が終わって一息ついた瞬間に訃報が飛んでくるこちらの心情を少しぐらいは考えてほしい。考えてなおそれだというならつくづくセンスが終わっている。校長のジョークセンスをどう思う? 私はゴミだと思っているよ。なにが思いっきりかっこめだ。

 ……つらつらと考えていたら、昔の苛立ちまでまとめて出てきてしまったな。

 嘆息しつつも私はポケットに指を突っ込み、()()()()()()()の感触を確かめた。ぎざぎざにひび割れた部分はうっかり不用意に触れると指が切れることを知っている。一回やらかしたので。……見つけた瞬間()()()()()()のは良い判断だったと思うが、しかし、叡智を授ける効能もまとめて消えてしまっただろうか。それとも元々なかったのだろうか。確かめてみたかったのだが。

「あの子は上手くやっているかな……」

「弟の心配は構わないが君こそ言っている場合でもないと理解しているだろうな?」

 ぼやくと、途端、険を含んだ声が背後から飛んできた。

「少しぐらい休ませていただけませんかね、教授。禁じられた森突っ切って未成年三人同伴で見知らぬ場所への付き添い姿くらまし、充分に働いたでしょうとも」

 振り返って言い返し、それから私は少し考えた。

「……ホグワーツを離れた以上は()になりますか?」

 スネイプ教授は心底煩わしげに「どうでもよろしい」と吐き捨てた。左様でいらっしゃる。

「なんなら病み上がりなのにな。どう思うディゴリー」

「ふてぶてしい態度ちょっと直したらきっとスネイプ教授も労ってくれるよ。スリザリン寮生だろ?」

「スリザリン寮生って卒業してからも有効なの?」

「ラヴグッド、つまりそこには検討の余地があると考えられる……」

「ない。スリザリン十点減点」

「一瞬で矛盾している」

 愕然とした私に「レグルスってやっぱだいぶ変だよな」「ウン……」ポッターどもがひそひそとささやきあった。姦しい者共である。

 

   ➤

 

 前提として、私はあのとぼけた好々爺をあまり好ましく思っていない。

 訂正、かなり好ましく思っていない。

 自己犠牲精神などという人類のアポトーシスを一身に背負った馬鹿を好くやつがどこにいる?

 

 死人に過去形を使うべき、といった言説を私はいかがなるものかと考えている。ゆえに私が定義する彼はすべてが未だに現在にあるように誤認させるかもしれない。これからも。つまりアルバス・ダンブルドアとはまったく馬鹿な人である。

 優れた能力を持ち合わせていたくせに、情によって手を伸ばし、良心によって足を止め、いつだって冷徹な最善を下せない者。助けを求める悲鳴を無視できない者。自らを過剰に縋り、誹り、信仰する群衆を否定できない者。最善を選べなかったことへの非難を甘んじて受け入れ続ける者。

 魔法界に明確な宗教はない。しかしそれは彼らが信仰心を持たないことと同義ではない。大衆はしばしば、強大な人間を祀り上げ、崇拝し、その責務を押しつけている。たとえばその一部をロード・ヴォルデモートが取り込んでいる。彼は自らに向けられる期待を正確に理解し、巧みに利用し続ける。かつてはグリンデルワルトであった。得てしてそういう人々は人間の感情の利用方法をよくよく理解していて、都合よく誘導し、力を得る者たちこそがのちに歴史に名を刻む。当然ながら利用するからして多くは悪である。そも、個人が群衆の荷を代行するなど、不健康で不適切だ。多少賢ければ突き放す。何故有象無象の期待に馬鹿正直に応える必要がある?

 今世紀、歴史に名を刻む幾人かの極悪人ども以上に——アルバス・ダンブルドアはその信望を担い続けた。あの老人の馬鹿なところは、それらを私利私欲に用いることはできず、しかし突き放すこともできなかった点にある。魔法大臣にでもなればよかったのにな! ハハハ。……独裁が齎す結末のサンプルなどいくらでもある。魔法界の最たる例がかのロードやグリンデルワルトであるように、マグルの事例であればたとえばヨシフ・スターリンにアドルフ・ヒトラー、彼らはグリンデルワルトよりもよほど人を殺した。魔法なくして惨劇を実現する方法。人の恐怖心と虚栄心を煽り立てることはあまりにも簡単で、であるからして、方法を知る者は自らがその例外でないとは言い切れない。

 過去に学び、現在を見通す賢人が、ゆえにこそ最も恐れるものなどたったひとつでしかない。かつての轍を踏む未来の己である。あるいは、誘惑に負け、欲に溺れ、愚者に成り下がった己と呼ぶべきか。賢ければ賢いほどにありとあらゆる者共の有効的な活用方法はいくらでも思いつく。道を踏み外す方法だって数多にも思いつく。そういう点ではダンブルドアは自らの危険性をよく理解していて、ゆえに自らをこそ最も信用していない。

 

 ——ダンブルドア校長と最後に顔を合わせたのは、ダンブルドア軍団が摘発される直前、焚火を挟んでのことであった。

 ごくまれに、ディゴリーもデイビーズもウィーズリーどももいない日でもあった。

 

 あの御老輩は、しばしば、なにもかも理解しているかのように振る舞う。阿呆らしい。人々のルーチンワークと空きコマを踏まえるならばいつ頃が無人であるかは容易に推測できる。しかし世界は広く、ホグワーツ外の現在の情勢まで見通すだけでも困難で、果ては世界と不確定な明日以降が広がっている。予言者ですらも真実には未来を見通せない世界で、人間が全能を冠するなどありえない。

「若人に期待されることこそが老人の喜びよ」

「本気で仰っていることこそが最も手に負えませんね」

 気のない相槌を打つと「君は生きづらかろう。ひとをよく気遣う」ダンブルドア校長はしみじみと言った。つくづくと他者の殺意を煽るのがお上手である。誰が気遣いしいだ。そも、この程度で気遣いとは片腹痛いな。

「まさかあなた様からそのような御忠言を賜るとは」

「自らの失敗をもとにした忠告は、後世に対し、老いぼれが唯一できる貢献だとも」

 的確に自虐されたのでしばらく大人しくマシュマロを食べる役目に徹した。ダンブルドア校長は食事中の人間の口を無理やり開かせる人でもないようだ。焚火のあたたかさに目を細めている。

「……ラジオは止めませんよ」

「うむ。学生の試みは無論応援されるべきだの」

「最近アンブリッジには噛み付いておりません」

「先学期のクラウチとの方がよほど険悪であったなあ」

 ムーディ=クラウチとの揉め事もしっかり把握されていた。

「父母はどちらも、既に帝王に与しようとは思いもしないようです」

「無論、ドラコもすっかりとトムへの憧れはのうなったようじゃな」

 そろそろ心当たりが尽きてきたな。他にはなにかあったか。

「騎士団への勧誘ですか」

「入るまいよ、君は」

 さすがにないだろ、と思いつつも引き合いに出したが、案の定ダンブルドア校長はさっぱりと断言した。

「よく御存知で」

 死に急ぎは私の好みとは程遠い。少なくとも、自らの命の使い所は個人の自由意志を以て選択されるべきであり、組織に頭を垂れて恭順するなど私の好みではない。

「……老人の最後の戯言じゃ。君には渡しておくべきものがある」

「まるで遺言のように——」

 ふと口をつぐむ。ダンブルドア校長は微笑んでいる。どこか疲労もうかがえた。

「——……ああ、そう」

 私は些か冷淡な気持ちで口を開いた。

「それは、ホッグズ・ヘッド・パブの店主にお伝えしなくてもよろしいのですか? 私ではなく」

「おお、君は本当によく知っておる」

「あなたの苗字は特徴的で、私は、世話になった店主の名前ぐらいは覚えていますよ。三本の箒は混み合いすぎて読書にはあまり適切ではありませんからね」

 ダンブルドア校長は苦笑したようである。ホグワーツ一、二を争う勤勉な活字フリークを校長として誇ってくださいよ。

「彼には、伝えるべきことは既に伝えておる」

 左様で。

「私はあなたの味方ではありませんし、ましてポッターの味方ではありません」

「無論、君は、君が思う、君のすべきことをするじゃろう。……冠を被ってはならんよ」

「あなたでもあるまい」

「これは耳が痛い」

 魔法省が睨みを利かせている間、騎士団員はなかなか入り込める機会がなかった。私は様々な事情によってアンブリッジの目を盗みやすかったこともある。レイブンクローの髪飾りは悪霊の炎で焼いた。知識とはすなわち無形の劇薬だ。使いようによっては毒にも薬にもなり、毒をもって毒を制すこともある。たとえばこのように。

「それで、渡すものとは? 無駄話は省いて用件は手短に済ませるべきかと」

「無駄話でもないのだが……」

 差し出された物品を見て、私は半眼になった。

 嘘つきめ。なにが〝私に渡すもの〟だ。

「……正確には私宛ではありませんよね?」

「ほほ」

「というか、それこそあなたが渡すべきでは?」

「手紙を送ろうにも居所がわからぬのじゃ」

 ダンブルドア校長は飄々と言った。本当に、つくづくと馬鹿な人である。

 

   ➤

 

 非常に美しく、しかし、どこか物悲しい鳴き声が響いていた。

「——ダンブルドアが死んだ」

 首席に用があると呼び出されて開口一番。スネイプ教授はいつものように仏頂面である。

 今日かよ。試験とて終わったばかりなのだが。

「それと魔法省九階が崩落した」

「九階? 神秘部では」

「その通り。騎士団の七割が生死不明。逃げきれているならまだましだ。ルシウスが団員どもを回収して匿うのが先か死喰い人(Death eater)にとどめを刺されるのが先か魔法省に拘束されるのが先か」

 魔法省九階崩落が闇の帝王の手によるものであれば、後者二択は実質の一択である。魔法省は既に闇の帝王およびその勢力によって掌握された。父上が間に合うかどうかはほぼ賭けだ。

「……まずいですね」

「きわめてまずい」

 アンブリッジの校長就任は魔法省指示のため正式なものではないとして——ホグワーツの校長就任は、魔法契約の性質上、前校長の指名によって行われる——ダンブルドア校長が指名せずに死んだならば、暫定として副校長たるマクゴナガル教授に権力が移る。

 はずなのだが、彼女は失神呪文を四本もぶち当てた愚者共により現在聖マンゴにて治療中。タイミングがいろいろと致命的だ。

「私の死喰い人(Death eater)へのスパイ行為が割れているかどうかは……未だ不明だが、割れていることを前提に動くべきだろう」

「……ああ、へえ、スネイプ教授の本命は騎士団の方で」

「知らなかったとは思えないのだが」

「いえ本当に知る由もなく」

 レギュラスが知っていたのかは不明だが、レギュラスからも共有は行われていない。彼は巻き込みたくないのか、子供扱いなのか、単に言葉足らずなのか、こちらが突っ込まない限りは基本的に必要以上の開示をしない。どちらなのか確信は持てないものの少なくともマルフォイを悪いようにはしないだろう、という認識だった。スネイプ教授は己の好悪を子や孫の代まで引きずる。良く言えば義理堅く、悪く言えば根に持つ。ポッターを敵視するように——半分はパフォーマンスだとしても半分は私情、ポッターの外見は父親に瓜二つとの噂、おおよそそういうことだろう——父上に世話になったことは事実のようで(私への態度こそいろいろと雑で遠慮がないとしても)見捨てようとはしない。とか。その程度。過剰評価されても困る。

「まァ良い。君がドラコとなにを企んでいるのだかは知らないが——」

 スネイプ教授は言いながらも眉間を揉んだ。いかにも頭が痛いとばかりだ。私は肩をすくめるに留めた。すみませんね、いろいろと。これでも多少は申し訳ないとは感じておりますよ。多少は。

「——つまり、私は動けない。帝王が復活した今、闇の印には相応の力がある。ほとぼりが冷めるまで居場所は監視されていると考えるべきだ」

 多少は申し訳ないと感じているがそれにしてもこの人本当に大概遠慮とかないな……。

「他の教授陣にお頼みすればよいのでは?」

「騎士団員ではない者を巻き込めん」

 私も団員ではない。

「加えて現状、いざというときにクィレルを動かせるのが君しかいない」

 ……ということは、レギュラスも生死不明枠のうちひとりか。

「そして」

「まだなにか」

「そも、命の水を飲用し、死から蘇った唯一の症例。闇の帝王は賢者の石を求めていたことを忘れてもいないだろう」

「忘れてはおりませんが表向き公表はされなかったのでは?」

 聖マンゴにはさすがに伝達されていたようだが、新聞でも私の生存理由への言及はなかった。レギュラスが賢者の石の件に関わったことは法廷でも証言していたものの、命の水をしらっと奪取していたことまでは公にはされていない。さすがに闇の帝王にも割れているだろうとしても。

「十数年もレギュラスを庇っておいてなにが表向きだ?」

 それもそう。スネイプ教授に見抜かれている事実に今更とやかく述べることはない。

 私がひとまず納得したのを察したらしく、指示が一通り説明され、羊皮紙と小さな布袋が渡された。羊皮紙に表記された住所に目を通す。暗記したので目を上げると「連れて行く人間には見せるように」と念を押された。これ忠誠の術なのか。記された筆跡は見覚えがないものだ。一礼して、踵を返す。

「餞別として」

 スネイプ教授は言った。

「十二イモリ(N.E.W.T.)での卒業おめでとう。すべて(O)だ」

 採点は既に行われていたらしい。優先されたのか、今回は急いだのか。

「落ち着いたらば卒業式もお願い致しますね」

「私が生き残っていたら考慮しよう」

 振り返ってちょっと眉を上げると、スネイプ教授はにこりともしなかった。ジョークにしてはろくでもない——ジョークですらないらしい。あいにくと。

 焚火の者共で残っているのはディゴリーとデイビースだ。ウィーズリーどもは勝手に出ていっただけ良かったのか悪かったのか。まァ今回外部の伝手が既にあることはありがたい。

 ダンブルドア軍団には狡猾が著しく不足していたが、とはいえ、彼らが考案した連絡手段は非常に有用だった。デイビースにラヴグッドの呼び出しを頼み、ディゴリーにポッター他複数名の呼び出しを指定。貴重品と杖だけは持ち物として指定した。

「説明を要求するよ」

 これはディゴリーの言葉。

 集合時間ぴったりに全員連れてきてから要求したあたり半端に冷静だな。

「喫緊なのだが」

「喫緊だからこそだろう。大広間の騒ぎからたった数時間で必要の部屋に集合。しかも消灯後だ。なにかあると思うに決まっている」

 こちらはデイビース。

 遠慮なく詰問してくる七年生二名の後ろ、ポッターが若干申し訳なさそうなのはなに? 大広間外にしろよとは私とて本気で思ったが、過ぎたことをいつまでもなじるのはそれはそれで愚者の振る舞いである。

「ラインナップもラインナップだよ。ハリー、ロン、ハーマイオニー——」

 生き残った男の子。血を裏切る者かつポッターに近しい少年。マグル生まれかつポッターに近しい少女。

 まァこの時点でよほど勘が悪くてもなにかあると思うだろうな。

「——ジニー、ルーナ。……闇の陣営に特に狙われる可能性の高い五人だ」

 帝王の記憶に取り憑かれた経験を持つ少女。ポッターのプロパガンダ記事を掲載した雑誌刊行者の娘。

「ついでにディゴリー、おまえも」

 名指しするとディゴリーが眉をひそめた。すなわち直々に〝レストレンジ〟からスカウトされた件である。

「まだ正式には公表されていないがダンブルドアが死んだ」

「は」

「それもおそらく帝王の手によって殺された。というわけで——ひとまず喫緊で安全確保をすべき人員がこの選出、とのことだ」

()()()()? 誰の選出?」

「スネイプ教授」

 ポッターがわずかに身構えた。

「スネイプが?」

「あの人を信用するしないは自由だとして、魔法省陥落の一報が真実ならば、おまえたちは私含めて死ぬ方がマシな目に遭うかもなという様相だよ」

「魔法省陥ら——チェスターは!?」

「う、うちの父さんもよ! それに——」

「知らん」

 アーサー・ウィーズリーはマグル製品不正使用取締局勤めだとして——パーシー・ウィーズリーは魔法大臣付きか、とはいえ現状、実家と不仲なことが知れ渡っていたならば、功を奏して逆に手を出されないような気もする——デイビースの兄も、そういえば魔法省勤めだったな。「知らんじゃなくて」ディゴリーの声も震えている。エイモス・ディゴリーは、私が寝ている間に異動も特になく、相変わらず魔法生物規制管理部に勤務中という話だった。血を裏切る者:ウィーズリー以外は下手なことをしなければなにもされない、と、思うが。

「本当に知らん。現状騎士団の七割が生死不明なので確認する手段もない。レギュラスにもこちらから追加で連絡を試みたが反応はなかった」

「せいしふめい」

「最善でも連絡に容易に応答できない状況だな」

 現状そこを掘り下げるのは無意味だ。淡々と話を進める。

「目下の最優先事項、確実に生きている人間を生かすべきとのことだ——理解できたか? できたなら次の行動指針を」

「ちょ、ちょっと待っ……君の弟くんはいいのか?」

「ドラコは()()()()()()()()厄介なことになる。というわけでデイビース、隙を見てあの子に説明してあげてくれ」

「あっ畜生僕が呼ばれたの本命はこれか」

「察しがいいな?」

 ラヴグッドを回収する必要もあったとして、そもそものデイビースへの要件はドラコへの言伝である。

「まずはホグワーツ敷地外に出る。ディゴリーは姿くらましはできたはずだな? 私一人で五人も連れて付き添い姿くらましはさすがに誰かばらけかねない。ちょうどいいので一人か二人担当しろ」

「それもしかして三、四人までなら確実にばらけないって話をしてないか? 相変わらず君ってどこかおかしいよな……」

「やかましいな。……ある程度ホグワーツから距離を取ってから、移動キー(Portkey)を使う。他に優先すべき質問があれば五分以内に済むものならば受け付ける。それ以上長く説得している暇がないので、五分内に納得できなかった人間は全員置いていく」

 布袋(移動キー(Portkey)にされたハンカチが入っている)を振ってみせると、彼らは顔を見合わせた。

「荷物は?」

「今持ち出せるのは貴重品と杖程度だな。スネイプ教授が残りは保管するので部外者に手を出されることはないと考えられる」

「ヴッ」

「感想は受け付けない」

 ポッターは心底嫌そうに顔をしかめたがなにも言わなかった。

「お父さんには連絡できる?」

「伝達手段はなるべく早急に講じよう。実際にいくつか案は思いつく。が、今は具体的に論じている暇がない」

 簡便に述べると「わかった、行く」とラヴグッドは頷いた。相変わらずほぼ即決だな。

「……本当にスネイプ先生を信用できると言えるの?」

 これはグレンジャー。

「真実そうだとの保証はできないとして——ポッターを殺すにも闇の帝王に差し出すにも、このような回りくどい方法など取るかよ。食事に愛の妙薬(Amortensia)を盛れば、どんな命令でも喜んで聞き入れただろうさ」

 人を従わせる手段はなにも服従の呪文だけではない。手っ取り早いものはたとえばそれだが、他にも様々な方法が考えつく。

「……ちなみにどこに行くって?」

 最後はロナルド・ウィーズリーだった。腹はほとんど括ったようで。

「撹乱がてら姿くらましと騎士バス(Knight Bus)を併用していくつか経由するとして——デイビースはしばし目を閉じてくれ」

「おー……」

「最終的な目的地はここだ——読んだやつは同行に同意したと見做すからな」

 デイビースが後ろを向いたことを確認してから紙を示す。

 六人揃って覗き込んだ。同意ということでよろしいな?

「……誰これ?」

「ダンブルドア元校長の御友人だ。かつてのスリザリン寮監でもある。とはいえ、私も話にだけは聞いたことがある程度かな」

 紙には、ホラス・スラグホーンの名と彼の現在住居が示されていた。私も祖父が仲良くしていたとか父上の頃の魔法薬学教授だったとかその他諸々、伝聞でしか把握しておらず、本人にお会いしたことはない。

 

   ➤

 

 スラグホーン氏は、移動キー(Portkey)で現れた私たちを見て、大きなショックを受けたようである。

「セブルスから聞いてはいたが、いやはや……と、とにかく、上がってくれ」

 三階建てのこじんまりとした家である。各員ぞろぞろと上がる一方で、ディゴリーが後ろで溜まっていたので見遣ると、彼は外と、玄関口を、それぞれ一瞥してみせた。

「……この家の本当の住人はどこだと思う?」

 ……ディゴリーの言わんとすることはわかる。この家も、周囲も、魔法使いが建てた家にしては物理法則に対して真っ当過ぎる——たとえばブラック邸はかつてマグルからグリムモールド・プレイス12番地を掠め取ったが、のちに魔改造を繰り返したので、内部はもはや原型をとどめていない。我がマルフォイ邸もおおよそ同様。

 一方こちら、おそらく新築。四捨五入したとしても建造から十年には満たないと推察できる。

「……避難所にされるぐらいだ、悪いようにはしていないんじゃないか」

 私は肩をすくめてみせた。「もうちょっと……こう……いや本当君が周りから受け継いでる悪いところってそういうとこだよ、本当にそういうところだよ」「ハハハよくある話だ」「ないよ」ディゴリーはあきれたようにぐるりと目玉を回してみせた。本来の家主不在で忠誠の術をかけるのはいかがなものかとは私も思うよ。可哀想な見知らぬマグルの家主に敬礼。

 さておき。

「……ダンブルドアは、それでは、死んだのか?」

「明朝には事故死の一報が流れることでしょう」

 さらりと述べた私に、スラグホーン氏は眉をひそめた。

「……そういうことかな」

「そういうことでしょうとも」

 あのダンブルドア元校長が老衰はさておき事故死などありうるものかよ。

「例のあの人の仕業か?」

 ——と、言い切るには些か、思うことがないでもない。彼は既に約百年も生きた長寿だが、しかし、身辺整理にしてもタイミングが些か良すぎる。ある程度図ったことは間違いないだろう。自らを人身御供にした闇の帝王の脅威の警鐘? ……それにしては些かリスキーだ。騎士団の半数以上を巻き込むのはさすがにあの老体とて希望しない。リスクを冒してでも成し遂げたかったこと——

 ……情報が不足しすぎている。

「……少なくとも、現在下手人として最も可能性が高いのは彼でしょう。とはいえ騎士団の方も現在詳細は把握できていないとのことです。続報をお待ちする他なく」

「……そうか。そうか……」

 スラグホーン氏がてのひらで顔を覆った。

 失礼致しますと断って私は席を立った。

 扉を閉める。杖を振る。防音魔法。防護。衝撃吸収。目くらまし。消音魔法。その他諸々。

 スラグホーン氏に礼を失してはならない。彼は少なくとも見ず知らずの者共の避難を受け入れた。同行者六人に気付かれてはならない。彼らは私よりもよほど情報を持たない。不安要素となりうるものは少ない方がよい。私は既に先程、なくともいい言及をした。これ以上のボロを出すべきではない。

 

   ——ガンッ、

 

 と、普通なら音がしたかもしれない。壁に拳を叩きつけた音。今しがたの魔法により当然ながら無音だった。人を殴ったこともない。漆喰に衝突した己の拳は壁に傷ひとつつけずむしろ私の拳は痛かった。

 ——レギュラス・ブラック生死不明。

 系譜としては従叔父。歳の離れた兄のようなひと。常に飄々としていて優しいが私に厳しい。開心術操作の手ほどきをしてくださった意味では師にも近しく。

 生死不明。

 彼が私からの連絡に応えなかったことはほとんどない。

 ダンブルドア元校長でさえも死んだ。

 レギュラスが無事である保証はない。

 どこにもない。

「……」

 前髪をかき上げて空気に晒す。冷や汗が気化して体温を下げる。茹だった頭を冷やす必要がある。ともすれば浅くなる呼吸を努めてコントロールする。脳へ送り込まれる酸素量によっても思考は制限される傾向がある。案外と人間は身体の誤操作に騙される。

 妄想は無意味である。憶測は無用である。不確定を突き詰めて何になる。感情と思考を切り離す。激情のまま、意の赴くままに行動したところで、全くの無益でリソースの無駄だ。そうでしかない。時間は有限だ。愚者の真似事で浪費している場合もない。

 ……しかし、昼間、ポッターには悪いことをしたな。ひとまず取りなそうとあしらいかけた。出発前もそうだ。ディゴリーやデイビース、ウィーズリーについても、一度雑に流してしまった。身内が、心を許した人が、今にも死にかけている——かもしれない——確かに、そう、それはあまりに怖いことだった。

 怖いことだとよく知っていたはずだった。

 数時間前に改めて実感したことだった。

「——……」

 殴りつけた壁に、今度は側頭部を押し付ける。両のてのひらで自らの腕をさする。冷静に考えよう。脳内で自らの思考が提言した。

 冷静に考えよう。ドラコは間違いなく無事だ。私たちが進めていることを踏まえるなら、むしろある意味では最も安全だ。父上は救出側に回っているなら現状五体満足だろう。息子の私から見ても、あの人は引き際を見極めるのがきわめて上手い。最悪は訪れないはずだ。母上の動向はわからない。とはいえトーナメントの際の如く、父上と示し合わせてリスク分散をしているなら、今はマルフォイが用意できる限り最も安全な場所に留まっていると考えられる。おそらくは。

 ……私は現状でこれ以上の泰安を望むのか? それはあまりに強欲ではないか? 理性はそのように述べている。

 妥当な言葉だ。正論が言った。

 シリウス・ブラックの行方も知れない。ポッターは彼の安否を心配して私にコンタクトを取った。神秘部にはおそらくこちらのブラックも向かっただろう。アーサー・ウィーズリーの安否確認はしていない。血を裏切る者、魔法省勤め、闇の帝王の手に魔法省が落ちたならば当然心配になるはずである。パーシー・ウィーズリーも保証はできない。エイモス・ディゴリー。同様。ディゴリーは一度は死喰い人(Death eater)に勧誘されているがゆえに、今度は家族が人質に取られる可能性も当然ながら考慮できる。見せしめに取られる可能性も否定はできない。ゼノフィリウス・ラヴグッド。現状唯一魔法省派閥ではない、どころか、はっきりとポッター派といえるマスメディアだ。この数ヶ月で大衆は徐々にザ・クィブラーを再評価し始めていた。メディアの伝達力は馬鹿にはならない。闇の帝王が真っ先に叩くべき対象のひとつである。場合によっては日刊予言者新聞以上に有象無象を煽動できる。所詮学生の試みで、匿名で執り行っていたホグワーツ放送よりも、当然危険性は逼迫している。

 貴族たる私が——彼らを差し置いて——この状況で感情に走るべきか? 避難先でパニックを誘発しかねない行動をとるべきか? 理性が問う。

 もちろんまったくそうではない。正論は述べる。

 クィディッチ・ワールドカップの直後に起きた騒動、()を見て衝動的に行動しかけた私は、たとえばその最たる悪例だ。あそこで避難所を離れていれば二度手間でしかなかった。当時の私の周りにはウィーズリーどもやディゴリーやデイビースもいた。幸いにして彼らは私を止める方向で動いたが、もしも彼らの恐怖心を煽っていたらば、下手をすれば避難所に連れてきた外国人たちも巻き込んでいた可能性があった。人為的な二次災害の完成だ。

 冷静になるべきだ。思考は言った。それは私が得意なことのはずだと述べた。得意なことのはずなのだ。得意になるように努めてきたのだから。バジリスクのときも、トーナメントでも、恐怖と脅威を弁別して、要因を分析し、為すべき対処を粛々とした。スネイプ教授の前でもきれいに切り替えた。つまり先程は切り替えられた。今の今まで切り替えていたはずだ。

 おなじようにするだけだ。

 おなじように……。

「……今学期が正式に終わるまで、残り、三日はあるか……」

 もう一度深く息を吐いて、今しがたかけた魔法をすべて解いた。取り乱すのはひとまずこれで終わり。クィレル教授と連絡を取らねば。双子のウィーズリーの方に伝達して諸々回しておく必要もある。

 思考するべきだ。思考し続けるべきだ。客観的に理性的に俯瞰的に考えるべきである。歩みを止めてはならない。私に受け渡された役目を私は遂行しなければならない。喫緊の問題以外を切り離す。空の箱を用意して、その中に詰め込んで、ふたをする。そういう対処法を知っている。

 自らのやるべきことをやるように、いつものように、淡々と行うだけである。傍らでは手帳に殴り書くことが増えるだろう。それだけの話である。

 

   ➤

 

【 我ら一家は無事。俺たちも当然無事。

 坊やもお嬢ちゃんも学生諸君は社会人の心配してないでお勉強に集中しなさい。宿題忘れるなよ? 】

 

 双子へ回した連絡が返ってきたのは翌朝のことだった。わりと頻繁に見ていることだけはよくわかった。

「あッいつらちょっと前までの自分がそういうこと言われたら絶ッッッ対反発したくせに!」

「双子はそういうところよ、ホンットにそういうところ!」

 ロナルドとジネブラは元気に怒っていたが、多少なりとも安心したようだ。

 

【 スペシャルサンクス元スポンサーマルフォイ様 】

 

 店を構えたのに未だ口が減らぬとはどういうことだ?

 

【 最近の新商品をいくつか同封した。

 使用感レポちょーだい。 】

 

 依頼する気があるのかいつものような悪ふざけの延長線なのか、せめてどちらかに統一するべきだろ。

 盾の帽子はロナルドの頭に被せておいた。

「なんだよこの帽子」

「おまえたちの兄弟が開発したので責任持って引き取っておけ」

 ロナルドは渋々とした顔で受け取って、ジネブラに被せていた。途端に兄妹が揉め始めた。

 スラグホーン氏から間接的に——ピーター・ペティグリューの伝言が伝えられたのは、同日昼のことである。騎士団独自の連絡方法らしい。スラグホーン氏は、有事の避難所の件を打診された際に併せて連絡方法だけは渡されていた。

『リーマスよりラヴグッド氏の保護完了の一報。今は本部に匿っている』

 ラヴグッドがこくりと頷いた。引き結ばれていた拳、てのひらに傷跡がにじみはじめていたので、【癒えよ(Episkey)】を施してやる。

 騎士団員の八割近くが神秘部の作戦に駆り出されていた——帝王が信頼する死喰い人(Death eater)が確実に、それも複数人来る大捕物だ。数は多い方がよかっただろう——が、当然、作戦に不参加だった人間もいたわけだ。ペティグリューはいつもの宝探し、ルーピン教授は狼人間のコロニーに潜入して様子を探っており、逆に無事だった。

『ディゴリーさんはちょうど休暇に入っていた。キングズリーの方から保護を回した』

 キングズリー・シャックボルトは、神秘部での作戦では予備人員として待機していたため、こちらも数少ない確実に無事な団員の一人として名を連ねていた。

「よかっ……ちょうど、休暇?」

 ディゴリーが安堵して、それから怪訝な顔をした。

 ペティグリューはこちらも説明していた。

『ザ・クィブラーで報道された件を踏まえて、考え直すことがあったようだね。一度同僚たちから距離を置こうとしていたのだと言っていた』

 ディゴリーが額を抑えて大きく息を吐いた。親を説得しようと試みていたのは伝え聞いている。ある意味ではディゴリーの日頃の行いが幸運を呼び寄せたともいえる。

 

 翌々日。予言者新聞がダンブルドアの葬式の日取りについて伝えている。マクゴナガル教授が喪主を務めるらしい——聖マンゴから退院できたのか。存命の血縁者たるアバーフォース・ダンブルドアの名前がちらとも出てこない。本当に家族仲複雑だったのだな、彼ら。

 もうひとつの進展。

『グ、グレンジャー夫妻について、ひ、ひ、ひとまず、保護措置が終わりました。は、は、は、歯医者は臨時休業という形にしていただくことになりましたが……』

 元マグル学教授、さすがに仕事が早い上に気配りが適切だな。クィレル教授からの連絡をグレンジャーに伝達すると「ええ——あの——ありがとうございます」目元をぐいっとぬぐって、すぐに毅然と背筋を伸ばした。

「……けれど、その、騎士団の……神秘部に行った方々は——」

『わ、私の管轄ではないので、わかりかねます。情報はそもそも持たなければ漏らすリスクがない』

 その通りである。数ヶ月前に私もそのように叱られた覚えがある。

『わ、わ、私は闇の帝王に与した前科があるのでね、な、尚更』

 だいぶん反応しづらい自虐を最後にクィレル教授は通信を切った。

 同日、夜。キッチンのガスコンロで湯を沸かしているとポッターがやってきた。

「……君ってガスコンロ使えたんだ」

「どういう意図かな」

「マグル式を使えるんだ、の意味と、貴族ってキッチンに立っていいんだ、の二つの意図かな……」

「マグル式は魔法を用いないため魔法省に感知されるリスクがない、覚えていて損はない。貴族でも余暇ならばキッチンに立つこともある」

「……ウーン。なるほど」

 端的に説明すると、ポッターは曖昧に相槌を打って、ダイニングテーブルの一辺を占領した。

 無言である。特に話すべきことは私にはない。湯が沸いたので火を止めてポットに注ぐ。茶葉は元々入れておいた。蓋をしてティーコジーをかぶせる。ここから三分蒸らす。

「……僕が神秘部の夢を見続けてしまったからこうなったのか」

「であれば連絡した私も同罪だな」

「……そういう意味じゃあなくて。……いや、ごめん。これは僕の言い方が悪かった……」

 意地悪い言い方をしただけなのにやたらと真摯に反省している。

「……閉心術を学び続けるべきだったのに、そうしなかった」

「実際のところ、閉心術が夢に対して真に有効だったのかは不明だ。おまえと帝王の繋がりは前例がない。ダンブルドア元校長としてもそれは前提であっただろうとは思う……むしろ別の位置へのアプローチに見えるな」

 ポッターが怪訝に見上げるので「つまり、切り分けだ」言いながらティーコジーを剥がす。

「おまえの心はおまえのものだが——帝王の主観でものを見られるならば、それすなわち、帝王の心境を直に感じ取ることに他ならない」

 ティーカップに紅茶を注ぐ。

「一般的には、一人の心には一人の思考が宿る。解離症等ではその〝一人の心〟が分離したりするわけで、この場合は状況に応じて人格の統合等を目論むのだが……おまえと帝王は別人だ。むしろ、混ざる方がよくない」

 果実のシロップをティースプーンにのせて、紅茶の中にかき混ぜて溶かす。

「帝王はあまりにも強大で、加えて自我自体も強い魔法使いだ。混ざり合ったそのときに——たとえスプーン一杯分だとしても、帝王の自我に、思考に、強く影響される可能性がある」

「……やっぱり、僕を乗っ取る可能性が危険視されていた……?」

「やっぱり、というのがどうだかは知らないが……たとえば、ポッター家にスリザリンの血は流れていないと聞いている。おまえが蛇語(Parcel Tongue)を話せる件とて、もしかしたら帝王との繋がりが影響したのかもしれない、と、案じたとしてもふしぎはない。メリットばかりを齎すならば良いとしても、別にそのような保証もないわけだしな」

 何度でも言うが、やはり、前例はない。類似例も現状生まれていない。私は彼のような繫がりを知らない。

「閉心術は自らの心の輪郭を明確にする。その上で、見せたくないものを見せないようにし、見たいものだけに意識を散逸させる。その過程は自己把握と感情の統制にもある種有用だろう。が……そもそもおまえは向かないとは思うよ」

「……いきなり突き落としてくるな」

「おまえは……そうだな、穢れた血(Mud blood)を笑う集団で、たとえ同意できなくても同じように笑えるか?」

 ポッターの表情がこわばった。答えを聞かずともわかる。「無理だろうな」私は紅茶を一口含んで喉を湿らせた。

「閉心術はそういうことに似ている。外部の価値観の侵入から自らを切り離し、同化したふりをする。都合の悪い部分を隔離してなにも感じていないように振る舞う。そして……これらには向き不向きがある。不向きなものをいくら特訓したところで真に収穫を得られるとは限らない。むしろ元の美点を損なう可能性すらある。何故解離症を引き合いに出したか理解できるか? 閉心術はその機序により、人為的に解離症を引き起こすリスクもはらんでいる」

 結局のところダンブルドア元校長の意図は私は知らない。憶測はすべて憶測でしかなく、真の意図を把握したいなれば、本人に尋ねるしかない。本人はなにも言わなかったので、あとはスネイプ教授が教えられているかどうかだ。人が死ぬとはそういうことでもある。

「……君は()()()()()()をしているから閉心術が得意になったの」

 奇妙な物言いに、ティーカップから眼差しを外し、ポッターをまじまじと見る。緑の瞳がまっすぐに私を見つめていた——いくつかの感情が過る——自己申告通り、本当に閉心術がへたくそだな。いや、それより。

「——まさか私を案じているつもりか? おまえが?」

 思わずと鼻で笑う。

「あいにくと先にも述べた通り、私の閉心術適性は単なる遺伝だ。どうでもよい些事にすら思考を馳せるのは英雄に不可欠な素質かなにかか?」

「君ちょっと本当に毒舌が過ぎるよな……」

 紅茶のポットとともにさっさと立ち去ることにした。顔を合わせ続ける必要がない。余計なことまで口が滑りそうだ。

 

   ➤

 

 三日目。

 日刊予言者新聞がダンブルドア元校長の葬式の様相を報じていた。連ねられた参列者の氏名に目を通す。名だたるお歴々である。昨今痴呆老人扱いされていたわりには未だ慕われているようだ。写真にちらりとドラコが写っていた。生きている。そりゃあ生きているに決まっているのだが。……隣に写っている顔は見覚えがない。私がうっかりと記憶から喪失したいずれかの生徒でない限りは、レストレンジがしらっと紛れ込んでいる可能性が最も高い。上手くやっているならばそれに越したことはない。

 レイブンクローの髪飾りとやらは、焦がしたときに悲鳴をあげたきり、なにも言わない。うんともすんとも。組み分け帽子はあれだけよく喋るのに。だからどうということでもないが。どうせ私は組み分け時ですらあの帽子にろくに喋ってもらえなかったとも。

「これはこれはご無沙汰しております、ミスター・スラグホーン。卒業以来ですかな。このたびはご協力感謝いたします」

 父上が暖炉から現れたのは昼頃のことだった。魔法省が把握していない暖炉ネットワーク(Floo Network)を敷くとしたら確かに父上ぐらいのものである。早口に述べられた挨拶に「確かに、ルシウス——ああ、時が経ったな……」スラグホーン教授はしみじみと言った。

 後ろからスネイプ教授も現れた。終業式は済んだのだろうか。黒々とした目つきがじろりと部屋を一瞥した。頭を下げておく。

「して、状況は——」

 思い出話から爆速で切り替わる程度には、状況が状況だ。

「——回収できた団員は現状作戦参加者の三割程度。全員重傷者に値する。特にムーディやブラック兄弟、彼らは爆心地に近かったのかいずれも重体だ」

 きっぱりと父上は言った。作戦参加者の三割ということは、騎士団総数で評価するなら二割ほどか。そして半数は未だに行方不明。

「なにぶん神秘部は保管されていたものは予言だけにはとどまらず、ワンフロア破壊にしては莫大な損害が生まれてしまったようで。こちらでは時がねじ曲がりあちらでは死が充満している。片足踏み入れた瞬間異空に飛ばされた魔法省員もおりました。神秘部づとめの複数人が()()()で発見されたときはさすがに……ともあれ、結論として、下手な捜索は二次被害を生むとして難航しているのが現状」

 言いながらも父上は疲れたように額をハンカチでぬぐった。ごく珍しいことである。純血貴族は他者に指示し、振り分ける立場のため、自らが疲労することはそうはない。

「しかし、帝王がとどめを刺すのも至難するだろうことだけは僥倖。せめて傷の軽い者が自力で逃げていることを見込むべきか……ホグワーツの状況はセブルスの方が詳しいので」

「ドローレス・アンブリッジの前例が最悪の形で機能しています。教授の任命権も生徒への指導もほぼ魔法省に握られている——現状は、帝王が握っているに同義でしょうな。すぐに終業式に至るタイミングだったのはある意味では幸運とも——不運とも言えるでしょう」

 淡々とスネイプ教授が説明する間に、父上がローブの灰を払いつつこちらに足早に寄ってきた。なにか報告が必要だろうか。クィレル教授経由で連絡が回せるようにはしていたため、私だけが握っている情報はほぼない。ドラコとの件だろうか。あれはあれで報告できる内容が限りなく少ないので、ほぼ何も話せないのだが。

 ひとまず立ち上がると、頷いて、廊下に連れ出された。

「レグルス」

「はい」

 お叱りの声でもないように思う。あくまでも穏やかな、いつもの世間話に類似した声。ある意味では状況に場違いでもある。本当になんの、

 

「この三日で何時間寝た?」

 

 ——。

 ……なるほど……。

 

「……。睡眠時間などいちいち数えておりませんよ、そうでしょう?」

「つまり日に三時間も満たないな?」

 苦し紛れの誤魔化しが迅速に意訳されている。

「……それは今行うべき確認でしょうか」

「おまえはしばしば都合の悪いことを隠す。たとえばこのように。何故優先して指摘されたのかはむしろおまえこそが最もよく理解しているのではないか?」

 容赦とかありませんか。そこになければないですか。人目のないところに連れ出していただけたぶんがむしろなけなしの慈悲ですか。

 なにを言うべきか迷っていると、父上は小さく息を吐いた。

「レギュラスの容態は確かに予断を許さない。しかし昨年度のおまえの方がよほどひどい状況だった。少なくともあのときよりはましだ」

 ……前例のない症例と等号で語るものではないと思う。命が脅かされているならば、それ以上のトリアージを行うのは医療関係者の役目で、私たちの役目ではない。

「なにより、レギュラスは自ら立候補した」

「……連絡を受けた一人である以上、必然ではありませんか」

 とうとう反論してしまった。視線は意図的に外す。あまり目を合わせたくなかった。今の私に開心術のコントロールができるとは思えなかった。

 小さく嘆息が聞こえた。肩に腕を回して抱きしめられる。四年ぶりだろうか。バジリスクの件。あのときは父上が取り乱していた。私は……私は動揺するような余地もなかった。石化期間中のことは記憶にない。

 一年前を思い返す。死の呪文を受けた私を前に家族は動揺していたと聞いている。死にかけていたのでやはり記憶にない。起きて早々に泣かれたが、しかし、あまり実感はなかった。昏睡期間中は意識もないので特に痛いこともなかった。

「おまえのせいではない。連絡を寄越さなければ帝王が訪れることを知る由すらもなく、事態の深刻化を招いたかもしれない。信用を置けない者に伝達することもできなかった。そうだろう」

 父上はそのように言うとわかっていた。彼は私たち息子の失態を咎めない。いつも。……しかし。

「だっ、て」

 喉から言葉以外のなにかも漏れそうになった。一度、呼吸を挟む。感情を抑制する。心を制御するということ。思考を統制するということ。幼いころから学んできたこと。

「……レギュラスが死んだと思っていたとき、父上も母上も、悲しんでいた……」

 父上はしばらく黙っていた。ややあって、ゆっくりと、背中をさすられた。誤った言葉を選択した私を——こちらも、自覚的に——しかし今度は、指摘されることもなかった。おそらく逃げには気づかれていた。

 

   ➤

 

「——そもそもの話として……」

 疑問:卒業も済ませたのにスネイプ教授と二者面談を食らう事態とは。

「君に任せた理由は大前提として君も避難すべきだからであり、クィレルが君に勝手に恩を感じているからであり、君にそれらの責任を負わせようとしたわけではない。私は無用な責任を背負えとは一言も言っていない。よって君が追加でなにやら無用に思い詰める必要もない」

「父上になにか言われましたか」

「これはナルシッサの方から釘を刺された」

 私の両親が過保護であることは重々理解していたが、今一度実感してしまった。

「とはいえ私としても君には一度この手の話を述べておくべきだと考えた」

 スネイプ教授は非常にお怒りなようだ。怒られても。

 父上はご帰宅なさった。あの様子では私の顔を見るために無理を押して顔を出してくださった可能性すらある。スネイプ教授は逆に居残られた。マクゴナガル教授が復帰して学期も終わった以上、ホグワーツに残っている方がそれはそれで無用な憶測を呼ぶとか。なんとか。左様でいらっしゃる、という感じである。

「君は非常にふてぶてしく図太いが、それはそれとして身内主義と能力主義が悪魔合体してときたま大事故を起こす点を失念していたのは私の落ち度だ」

 半分ぐらい罵られてないか?

「……私に述べるよりは先にポッターにフォローを回すべきでは?」

 シリウス・ブラックの件で気に病んでいた——指摘すると、しかし、スネイプ教授は更に目を吊り上げた。

「君が既に回したのだろうが。よりにもよって自らのケアを後回しに」

 藪蛇を誘発してしまった気配がする。

「そも、能力主義者がきわまって自らへの過信とオーバーワークが日常と化している自覚はあるのか? ないなら自覚するべきだ。一年生のときから貴様については裏でなにか動いていないと死ぬのかとは考えていたがいい加減度を超えている。自分が動けないからといって自分が動かせる全員使うやつがあるか。確かにいざというときに貴様を経由にクィレルを動かす想定はしていたが今動かせとは一言も述べなかったはずだが」

 怒涛の説教。

「——根回しと内省はそれほど叱られる事柄でしょうか」

「たかだか成人したばかりの魔法使いの判断力が先の戦争経験者のそれを上回ると貴様は本気で思っているのか? 思っているならばいよいよ愚者の仲間入りだが?」

 ……それは。

 些か耳が痛い。

「立場を踏まえると私が動くよりも君がレギュラスが確認を取る方が早かった。梟便や暖炉ネットワーク(Floo Network)を用いなかった判断も正しい。そもポッターを誘い出す計画で囮にシリウス・ブラックが使われていた以上、当人が出向きたがるのはあいつの性格を考えれば読めたことで、であればレギュラスも同伴するのは同様に意外でもなんでもない。当時考えられる限り万全の対策をした。それ以上の脅威が現れることを予想していなかったのは私たちの落ち度だ。逆転時計(Time-Turnur)を使ったところで送り込めるとしてせいぜいが二、三人、帝王からすれば蟻が何匹か増えようがひとまとめに消し飛ばすだけでしかない。それで? いったいなにを内省していたと?」

「——……」

 久々に本気で叱られて凹んでいると「……君はもとより様々なことに長けていた」スネイプ教授は溜息混じりにつぶやいた。

「ゆえにこそ——自らの負の感情と向き合うのが著しく下手だな。普段の保身的な行動に反して、咄嗟の際に取る行動が妙に攻撃的で、性質として噛み合わない点は、以前から気にかかっていた。身内への心配を弄しているより走り回っている方が楽か? 表面上平気そうな振る舞いをするのはなにもプライド所以だけでもないな? 感情に飲まれる己は()()()()()()から直視したくもないか?」

 なんというか。

 寮監なだけあるのか。

 わりあい長い付き合いなだけあるのか。

「……より単純に……苦手なだけです」

 ぼそとつぶやく。

「頭が空いていると……悪い想像ばかりが浮かぶので」

「……思考の回転が速いこともこうなればある種の弊害だな。いくつか指示を出すからしばらくはそれで頭を悩ませておけ」

「補講ですか」

「卒業してから補講を追加したのは初めてだな」

 スネイプ教授を見上げると、わざとらしいほどに真面目くさった顔をしていたものだから、少しだけ笑ってしまった。




「ところでドラコとの企みはまさかルシウスにも明かしていないのか?」
「そういうこともありますよね」
「……成績と素行だけしかよろしくない問題児が……」
「ハハ。……あの子元気ですか」
「私が最後に見かけたときは今の君程度には元気そうだった」
「それはあまり元気ではなさそうだ……」
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