Fate/ZERO for   作:仮定X=ジル×ジャン

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ACT2

 

 

 

かくがくとふぶられ肥大化した悪意よりタチの悪い……

そう顔を顰め、龍之介(青髭)は見ていた。

青髭の手の下にいたのは怯える齢10にも届かぬ少年。

しかと頭を撫で付けるように、自身の傍へ釘で打ち付けるように。

 

そんな手は意識とは切り離されていたと言っていい。

 

男は見たのだ。輝きを。確かな神の、だが人の心の輝きを。彼女は何にも替え難い光で辺りを照らし、神の遣いとして駆け抜けんとした。

 

許せぬは凡俗。あれ程の光を知って……目を潰すような、いっそうあれば胎から這い出た瞬間からの自身を恥入る程の聖を知って。

今尚己を使い潰す、他への献身あらぬ、崇高あらぬ、只管に今を生きんだけの凡俗は酷く許し難いと唾棄する。

 

そして、男は見たのだ。世界で最も尊く、また罪深い業火の()()()()だけを。神々しさは何処へか?受けていたはずの使命も消えて、寵愛なぞ霞も。

 

そして……男は、見たのだ。

それでも尚腐った国家へ群がる俗衆、その上でほくそ笑む禍り切った悪魔よりも醜悪な俗物の姿を、その全ての外側で見ていたのだ。

 

怒りをくべた。

消えないように。あの日、ついぞ目に入れることすら叶わなかった汚濁の焔を心にしまって、だが燃え尽きぬように。涜神を、悪を罰さぬ神へ最大限の侮辱を、生み出した芸術品へあらぬ限りの冒涜を重ねて……

 

自身の屋敷、体を表すと良いながら保たれていた秩序は乱れ、汚れ散らかったその部屋の片隅。

 

信じる神を信じれぬと嘆き、神の不出来を糾弾する己の、背後、部屋の片隅に。

 

自慰にも等しい身勝手な自己満足へ悦に浸るいつぞやに見た悪魔の姿が映る、誇りを被った鏡があったことにいつ気付ようか?

 

自身の姿を知らぬミイラ取りの様相は、またこれも神の?

 

 

扉が叩かれた。

気が遠くなるほどの神への冒涜を続ける男は、初めてその扉を見た。表面の輝いたチケット。会場で行われるイベントの景品は願いの叶う器。

 

男は迷わずチケットを握り締めた。

 

 

 

-150:39:43

 

 

 

覚醒した意識を認識した瞬間、龍之介は自身の手を見た。

それは赤く染まる手の甲、手のひら。未だ溢れる染料を受け止めているかのように鮮やかなそれはいつかの

 

 

考えることを中断した。なにか胸騒ぎがする。なにかが起きて……そういえば、

 

「青髭さん、青髭さん?」

 

光の一つも無い暗闇の中に、声を求め呼びかけようと、返事は無い。

気配も無いので今頃どこかへ出かけているのだろうか、こんな時間に?

 

夜のしじまを引き裂く荒々しい猛獣の叫びを聞いたような気もする。否、ここへそんな。

キャスターが外出しており、今は夜。もう一度眠るか……だが龍之介の目は最悪な寝覚めと、心証によって眠気を把持していなかった。

 

 

 

暗くなってから子供が出歩く、というのが龍之介には信じられなかった。月は既に空で淡く光って夜である、と静かだがこれ以上無いほど主張する。

こんな時間帯にもなれば家へ自主的に帰り、なおかつ外出しようとすれば諌められるものでは無いのか?

 

高校生、中学生ともなれば理解は可能だが。小学生がこの時間帯に歩いているのはどのような了見なのか……と考える龍之介の思考に極度の間違いは無いだろう。。

 

先日も見かけた。夜中は子供の歩く時間になったのか。最低限の警戒すら消えるほど、この地域は平和で仕方ないのか?だが先日からの失踪が続き死の匂いすら蔓延するこの街では不用心という他ないだろう。

 

だが、その日は特に変だった。

 

「……君たち。こんな時間に何してるの?」

 

寝静まった街中、集団として集まっていたのだ。

子供たちが見るからに、寝巻きで。

何故ここに居るのか聞いても要領を得ない。

 

家の場所を聞き、"親の言う事に従って、かつ夜間の外出を控えること"を子供達へ説きながら連れ戻す。鳴らした呼び鈴と共に駆け出てくる親御さんに事情を説明する。訝しむ……というより、もはや誘拐犯を見るような視線は辛かったが、事情を話せばそれとなくその警戒も解けた。

 

滞在しているのはこの数日間程のみ。だと言うのに、これまで居たどの地域でも居なかったタイプの子供が既に十人ほど。言いたいことを飲み込みつつ、さっきの女の子、顔可愛かったなぁ……なんて考えながら龍之介は()()()へと足を向けた。

 

住宅街の街灯に所々と照らされているものの、やはり暗い夜道。一歩、一歩と人通りの少なくなったその道を歩いて、龍之介が向かう拠点は少しずつ近づいていく。

 

一際大きな"それ"の中、深く続く洞のような文明の道を辿った先へと進む。

 

暗く、湿気がジメジメと我が物顔で君臨する下水道。

その最奥に取られたスペース、それがキャスターの用意した工房……活動を行う拠点だった。

 

というのも他が歴戦のマスター、名だたる英霊の組み合わせの中、キャスターという不利なクラスにペーペー魔術師の組み合わせとくれば勝ち目は蜘蛛の糸よりも不確かなものである。

 

自身のサーヴァントの懇切丁寧な解説へ思いを馳せながらカツカツと歩いていけば、ふと違和感。

 

僅かに気配を感じる。じっとりとした、だが隠そうとはしていないような……「おや、リュウノスケ」

 

驚く用意に身構えた龍之介は拍子抜けする様に声を漏らした。

 

「なんだ青髭さんか。どこ行ってたの?」

 

暗闇の中に立ち尽くしていた巨体はこちらを確認しぐるりと頭を回す。

曰く、聖処女とやらを見に行ってたのだと。

龍之介はいまいち要領を得なかったが、ルームシェアは同居人の外出にいちいちケチをつけると破滅する。気にしない事は重要スキルなのだ。

 

そう、気にしないことにしたのだ。

 

明らかにこびり付いた掌の汁や、服に着いたシミのようなものなどは。

机の上に散らかされた物が何なのかも。

リュウノスケは知らないのだと。

 

 

 

 

-144:09:25

 

 

 

 

暁の空に背を向けるように部屋を暗で覆い、魔道通信機を起動、深山町の遠坂邸へ呼びをかけた。

部屋には僧衣姿の男が二人。

聖堂教会より、言峰綺礼、言峰璃正神父である。

 

『そうか、ついにキャスターを補足したか。』

 

いかがわしい物品、その真鍮から奏でられる声。綺礼がこの聖杯戦争に際して弟子としての期間を持った遠坂時臣である。

 

言峰綺礼はアサシン、遠坂時臣はアーチャーのサーヴァントを使役する敵同士、ましてや綺礼のアサシンは先日時臣のサーヴァントに狩られたばかりである。

 

タネ明かしをしよう。時臣はこの聖杯戦争の監督役、言峰璃正へと協力を持ちかけたのだ。

その息子綺礼を参加させ、二人がかりとなり遠坂へ勝利を連ねよう、と。

そして綺礼の使役するアサシンは複数体でひとつと成すサーヴァントであった。それを踏まえ、アーチャーでアサシンの一体を殺し、アーチャーの強さを他マスターへ知らせつつアサシンへの警戒を解く、という作戦だったのだ。

 

これにより、ただ一陣営を除きアサシンへの注意は外れ、自由の身のまま他マスターの位置を特定、遠坂の陣営は情報戦において周囲に比べ優位に経つことが出来る。

 

「聞き取ったところ、キャスターを"青髭"、マスターを"龍之介"と。流石に魔術師の英霊だけあり、アサシンでも気取られず工房へ近づくのは困難でした。ですが大凡の位置の特定は完了、現在は周囲一帯を包囲し監視下に置き、工房外の行動を特定しています。」

 

『キャスターは籠城ではなく、工房の外での活発な行動を行っている、と?』

 

時臣が訝し無用に確認する。同じサーヴァントという格の中で争う時、魔術師であるキャスターのサーヴァントには不利な面が多い。

また魔術師の工房は、その魔術師にとって要塞である。セキュリティ等を考慮しても、みだりに歩き回るキャスターというのを時臣は想像できなかった。

 

「まぁキャスターも、そのマスターも、です。キャスターが秘匿性など知らぬというように深山町から付近に住む子供の誘拐を繰り返し、町内へ放置。マスターが子供たちを家へ送り返すという不可解な行動を行っています。」

 

『...』

 

時臣は言葉を失った。魔術師として守るべき魔術の秘匿という観点の抜け落ちた行動の浅はかさに耳を疑った。

遠坂邸にて真鍮の通信機へ訂正の言葉を待つように数秒の沈黙を保ったが、望んだ言葉はなく、自身の考えた最悪の想定が大凡正解であろうことを窺えた。

 

『...つまり、つまり。キャスター陣営の真意としては推察する他ないが...マスターは』

 

「...はい。魔術的素養は無いものかと。調べさせた所、家系は数代も前に堕ちた魔術師へ連なる物とも見れます。その才と、何かの偶然が重なり...」

 

マッチポンプ、周囲からの人気を得るために?いや、周囲の人間にバレないよう留意しなくてはならない聖杯戦争に置いて、それはなんの意味もない。

では勝利を勝ち取るためにキャスターが提案したそれを飲んで?否、否、否...

意図の読めない行動に時臣は薄ら寒いものを背へ仕込まれたような感覚をおぼえた。

 

言峰綺礼としてもそれは同じく。

 

冬木市へ到着した時期が判明していないので、以前より多発する失踪事件の主犯を同一視することも可能だが、そうなると行動の一貫性の無さが目立つのだ。かと言って心境の変化とするには想像出来るパターンに現実味が無さすぎる。推察の後行き着く先は自己の中に想像もつかない矛盾を抱えた求道者のような。まるで聖杯戦争をその矛盾の中で挑む苛烈な闘争として...

 

「綺礼?」

 

父、言峰璃正の声によって綺礼は、自身の口角が上がっていることに気づいた。

だが考えれど考えれど、人物への考察を深めれば行き着く先はそこへ行く。まるでるつぼのように、その胎の内を探れば己の映る鏡のようである。

 

「いえ、なんでも。ですが放置という訳にも行かないでしょう。」

 

「だが排除という訳にも...」

 

『では、一度だけキャスターへ通告を致しましょう。ですがそれは監督役側から行っていただくことになりますが...』

 

「分かりました。ではそのように。」

 

 

 

 

 

「"...故に、以降上記のような行動が見られれば、監督役の権限を持って"...うん、もうウダウダして良く分かんないけど。目立つ行動は控えろだって。」

 

「私の容姿が目立つ為、みだりに出歩くことを咎められた...といったところでしょうか」

 

何処ぞで行われた作戦会議とは裏腹に間の抜けた空気の流れる工房に二人は居た。

 

どこからともなく、と外へ置かれていた手紙の宛名には間違いなく"キャスター"という文字が含まれていて。一度手を止めて見てみれば、聖杯戦争を主導する機関からのようだ。

 

龍之介からしてみれば寝耳に水で。

自身のサーヴァントとして共に戦うと語ってくれた彼が外出していく姿を確認したことはあるが、近隣を散策している間に視認したことは、そも一度もなかった。

奇抜と言うが正しいか、衆目を集める姿であることは疑いようもない。故に街を出歩いていたならそれは目立つ筈だが...そんな噂話を聞かないというのもおかしな話だろう。

 

「青髭さんって毎回どこに出歩いてるの?」

 

「...?」

 

なんでよく分かんなそうに首を傾げるのさ、と言いかけた言葉を飲み込む。そういうことだからと話を区切った。

 

話に不穏な匂いがしなかったかと聞かれれば否とは答えられないが、今はそのような事へ拘う程に暇では無いのだ。

 

「あれ?虫ゴムこの当たり置いてなかったかな...青髭さーん!そっちあるぅー?」

 

「リュウノスケ、こちらにも...いえ、ありました。足元、足元にありますよ」

 

「あホントだ」

 

そして作業に使った道具へ足をかけ転ぶ。踏み鳴らした金属音に鳥肌が立つ。

今日彼らの拠点で行われるこの作業は、龍之介が付き合いを持つ子供たちから、自転車の故障について相談を受けた事へ端を発する。

魔術師の工房で行うには些か柄でない子の作業は、しかしキャスターの興味を引いていた。否、作業と言うよりはそれに関連する、自身のマスターに関してだが。

 

近所づきあいは大事である。これはいつの世も、人間が周りと団結して生きる社会生物である以上覆せない事実だ。

それが龍之介においては顕著である。

それが同居してしばらく、キャスターが出した結論だった。

 

人へ施す事に喜びを覚えるように立ち回る彼の姿は思い起こす物があり、歓迎するものだがその頻度が多さと言えば心配すら表に出るほどである。

酷い時は自身を差し置いて他へ施す姿には危うさも感じようというもの。だがその御霊の美しい事に置いて納得させられてしまう。

 

生まれ変わり等は知識としてこそあれど、彼自身の経典には無いものだが。或いは?

そんな益体もないことを考えるキャスターを他所に龍之介は作業を済ませていた。

 

何とも意外...という程でも無いが、龍之介はこの手の作業に熟練していた。自転車の故障についての相談を受け、修理の名目で担ぎこんでいるのは伊達や酔狂では無く、勝算あってのものだ。

なぜかと問えば、これまでの彼の遍歴によるところだろうか。彼がその職に務めていたという事は無かったが、数多の土地を転々としている間、その地域でお悩み相談を引き受けていたからこそ身についたスキルである。

 

後は効果的な汚れの落とし方や、害虫の楽な撃退法なんかも身になったものだろうか。そんなことは知らず、だがそれとなく想像をつけているキャスターは驚きこそすれ、あらぬ考えを広めるには至らなかった。

 

 

 

-138:15:37

 

 

 

さて、残ると言うキャスターを拠点へ後に、龍之介は公園へ出向いて自転車を返却しようとしていた。

作業の終わったものを長々と持っている意味は無い。

早めに返せるならそれに越したことはないのだ。

 

「自転車は鉄でてきている!」

 

「正解、正解。じゃあシロウ君怪我しないようにねー」

 

子供の良く意図の掴めない発言をそれとなく流しながら送り出し、龍之介はこの後について考えていた。

 

特にお願いされていることや、やらなければならないことは無いので拠点へ戻っても構いはしない。そんな達成感とないまぜになった気だるさとまで行かない感覚が体に蔓延するのを感じた。

 

その時、ふと後ろから声をかけられる。

 

「そこな雑多。」

 

人へ話しかけるにしては、それも初対面と思われる相手のファーストコミュニケーションとしては破綻もいい所である。

なんだなんだと振り返ってみれば、そこに居たのは自身に満ち溢れ、容姿の整った青年だった。

金髪という日本に土着していない髪色は浮世離れした雰囲気を醸しているが、その足元に置かれた自転車がそれを掻き消していた。ご丁寧に髪色、パーソナルカラーに合わせた金塗りである。

 

「この自転車とやら...所詮二輪と()()を括っていたが...これが。」

 

 

「なかなかどうして!面白い。無聊を慰めるには些か貧相な骨が目につくが...我が乗機。それも趣というものよ。」

 

溜めて続けた後の句まで自信をなみなみと注がれていた。ゆったりと、口角に余裕を感じつつ。

 

「はぁ、それで。」

 

「我のマシン、そのメンテナンスをさせてやる。」

 

はるか上空に座する視点から言い切った、髪色鮮やかな彼の名前は()()()()()()()

想像にかたくない外国人で、イカした名前のイケメンだ。




綺礼「どこいくん」

英雄王「チャリこいでくる」

綺礼「は?」

時臣「は?」



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