死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
俺の名前は司馬喬皇平。
「着いたぞキクリ、そこだ!」
「みーつっけた!あそこのお店ですね!」
宝石商強盗出現の通報を受けて現場へ急行した、特殊犯罪対策課の警官だ。
俺たちは任務の帰りに、この黒焉街にある回転寿司で夕食を摂っていたところ、この通報が入った。
最近こういうのが増えつつある。これもこの国の秩序が傾いている弊害だ。
一刻も早く止めなくては。
俺とキクリは店の前に飛び出した。
店の窓ガラスは破壊されていた。
(この割れ方………バールか何かで殴りつけたか)
「シバさん、ガラスの破片が、すべて店の中に散乱しています。裏口から出たとかじゃない限り、実行犯はまだ中にいますよ」
そうだな。窓から侵入したのならば店の中から外に撤収する時に、砕けた窓ガラスの破片が内から外にも散らばり、歩道にガラス片が飛んでいるはずだがそれがないということは、内から外にこの窓を通った形跡がないということだ。
それに気づける観察眼を手に入れたか。キクリもなんだかんだで成長している。
「行くぞ、」
「はい!」
俺とキクリは現場に突入する。
店のショーケースはほとんどが荒らされていた。
肩周りを象った黒いマネキンが落ちている。ネックレス等の高級アクセサリーも根こそぎ持ち出したか。
「ジュエリーショップのアクセサリーって一つ一つは小さいものですけど積み重なると重いんですよね。なら犯人はそんなに早く撤収できてないはずです」
「まだこの付近にいる可能性がある。探せ、」
「じゃあ僕、お店の奥探してきますね。裏の在庫まで手を出している人いるかもしれませんし」
「………………キクリ、この場はお前に任せていいか」
「はい?」
「俺は外に用事がある。店の付近に犯人がいたらお前が捕まえろ」
「えー」
「俺はもっと大事なモノを見つけ出すために場を離れる。気をつけろ、凶器を持ってる可能性があるからな」
俺はキクリにそう言い残して店の外に出る。
何かおかしい。ただの宝石商強盗がこれほどの速度で店の商品をすべて回収できるとは思えない。間違いなく複数犯。
そのわりには潜入は堂々とバールで窓の破壊、店の備品は乱雑にこじ開けた形跡。犯行の後始末や動きがあまりにおざなりすぎる。
ならば…………居るはずだ。
(この犯行、指示役がいるな…………?)
俺は店の周囲を見渡す。
────────大量のアクセサリーを抱えての撤退には時間がかかる。間違いなく退却用の車が来るはずだ。だが店の前の歩道にはそれがない………車を待機させていては防犯カメラに引っかかる。
犯人が撤退するタイミングを見計らう必要がある…………どこだ、必ずいるはずだ。
実行犯が窓を破壊する瞬間を見ることができ、的確に指示を出せる範囲。
犯行の時間を都合し、内部の様子を把握できる位置─────!!!
「そこか!!!」
向かい側のビル、空中廊下!!!
俺の視線が向くと同時に、そこから慌てて逃げ去る影を見つけた。
俺の目は闇夜だろうが何も見逃さねぇ。その挙動、慌てた動き、何も知らないはずがない。そもそもこんな時間帯にそこで何をしている。
「…………逃がすわけがないだろう、」
俺は逃げた影を追いかけ始めた。
一方キクリは店の奥の調査に赴いていた。
「おりゃぁっ!はぁ………はぁ………はぁ………」
店の裏口のドアを体当たりでこじ開けてなんとかキクリは裏口から出た。
「店の奥には何もなかった、だとしたらもう裏口から逃げちゃってるはずなんだけど…………」
キクリはひとりで裏口から広がる、用水路の付近を歩き回る。
「…………………………………………」
沈黙の中を歩き回る。
キクリはライトで足元を照らす。
「ガラス片…………靴裏に刺さっていた奴が落ちたのかな。この先に逃げたのか…………こんなところに車は来れない。間違いなく徒歩で逃げたんだろうね…………よし、行こう」
キクリは小走りに先を急ぐ。
───────そしてキクリは、破れたフェンスの奥に狭い空間を見つけた。
汚水の中に浮かぶ小さなコンクリートの足場の上に、何人かの人影たちが座っていた。
「ここで………良いんだよね、」
「うん、ここで待ってろって言ってたもん」
目出し帽を被ったその人影は、青やオレンジの目立ちやすいTシャツを着ていた。
犯罪を行う人間に適していなさすぎる色合いをしたその服装をキクリは訝しげに思いながら近づいた。
こいつはとにかく怖い物知らずだ。俺の圧を日頃から受けてとうとう体制までついたのだから並の恐怖には怯えない精神力が身についている。偶然の賜物だが一般的な警官であるコイツにとっては才能であり武器にもなっていた。
「おーい。そこで何してるの?」
キクリは手を振りながら声をかけた。
「うわぁぁぁっ!!!」
「ひぃぃぃっ!なに、こわいよ!おばけ!?」
キクリの声に威圧感も、音量もなかった。
それに怯える情けなさすぎる犯人たち。
「僕?強いて言うなら妖怪泥棒喰らい。キミたち、こんな夜遅くに何してるの?ここ、立ち入り禁止だよ?それに、その大きな荷物何?泥棒さんがかぶるような目出し帽なんて着けて」
「え………えっと…………ぼく…………」
「どどど………どうしよう!!!つかまっちゃう………!!!」
キクリは警察としてはあまりにも子供。警察が舐められてもおかしくないような態度だが、それでも怯える犯人たち。そしてやけに高い声としどろもどろな口調。とてもじゃないが犯行ができるような知能ではなかった。
「………………キミたち何歳なの?」
「じっ…………じゅうさん…………」
「13!?中学生ぐらい?」
「うぅ…………ぼく…………がっこうじゃない………」
(施設かぁ…………小学校高学年から中学生とは思えない知的な遅れ………特別支援施設育ちの子どもたちっぽいね)
「どうしよう………ぼくたち、」
(なら、宝石商を狙って犯罪する知能もないはず。となると、誰かに脅されたか騙されたか。この子たちから悪意は感じられないや)
キクリの見解と俺の推測は一致していた。曲がりなりにも俺のもとで警察やってきたし、こいつの脳は人よりはるかに優れている。これくらいの観察眼は自然と身につく。
「とりあえずキミたち。事情を聞かせてもらうよ。袋の中身絶対お店のものだし、君たちみたいな責任能力のない子が夜中にこんな人気ないところを彷徨いているのは職質対象だ。その袋を持ってついてきなさい。いろいろと話を聞くから」
大学でのキクリの専門は臨床心理学。子どもを怯えさせないよう、寄り添うように話しかけようと試みた。
「どうしよう………ここを離れたら………こわいおにいさんにおこられちゃうよ………」
「でも………おまわりさんは、ここから出て、って言ってるよ………」
「うーん…………でも、つかまったらピストルをうて………って言われてるよ…………」
5人の男児たちは口々に相談し始める。
そのすべてが、自分たちの上に指示役がいることが察せる内容だった。
さらに、なんと子供たちは実弾の詰められた銃を携帯していたのだ。
(この子たち………やっぱり誰かに脅されてるね?)
「ここは暗くて危ない。いったん外に出ようか。おいしいパフェでも食べながら話を聞かせてよ」
「パフェ!?」
「夜におやつ食べてもいいの!」
上手いことキクリは子どもたちを誘い込めた。
しかし、その時─────────
「よぉガキども………今日のは上手く言ったよなァ?成果の回収の時間だぜ」
「あっ、やっべ………!」
用水路の入り口から、金髪で焼けた肌の男が歩いてきたのだ。
「あ…………おにいさん…………」
その人物は明らかに普通ではなかった。
「チッ…………使えねぇガキどもだ。チンタラとタタいてるトコ見られて通報されて、サツなんて呼び込みやがって。しかもまんまと踊らされてよ。危うく外に漏らされるとこだったぜ………やっぱ障害持ちのガキは何もできねぇ無能だな。身体デケェわりに脳ミソちっこいから簡単に扱えると思ったんだがアホすぎて俺らの言うことすら聞けねぇ。ブタ未満だな」
「兄貴、どうするっスか?」
男の後ろから、もうひとり、青いジャケットの男がやってきた。
「アホかテメェは。全員ここで死ぬんだよ」
金髪のほうは後からやってきた男の頭を叩く。
男の方は顔をしかめた。
「よぅ、おまわりさんよぉ。上手いことこの場所見つけてくれたようだな。突然の犯行だ、わざわざ現場へ急行してくれたトコわりぃんだが………上が怒るんでない、バレるわけにもいかねぇんだわ。わりぃが死んでくれよ、な?」
「もちろん逃げようとしたテメェらも同罪だぜ?クソガキども」
すると男は容赦なくチャカを抜き、銃口をキクリに向けてきた。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
子どもたちは一目散に逃げ出そうとする。
「ちょちょ………ちょっと!」
キクリが必死に静止するが彼らはパニック状態。
この空間から出るために男の方へと駆け寄っていった。
「ほら………やっぱ害児は頭わりぃんだよ!」
男たちがひとりずつ逃げる子供を捕まえた。
2人の男の後ろから3人目もやってきて、残りも捕まってしまった。
「さて、役立たずどもはあとでケジメつけてから処分するとして、テメェはここで死ね」
「良かったな、すぐそこに用水路あるぜ?地べたにほったらかしEndにならずに済むじゃねぇか。俺たちも死体処理が楽で助かるぜヒャーッハァ!」
十分すぎるほど死に値する連中だが、キクリは手を出そうとしない。
「うーん…………知的障害、ねぇ…………」
「ぁん?」
「確かにアイツら、僕らにある一定の害を及ばすのは半分同意するよ。僕もじっさい………そういう子に将来を潰されたからさ」
キクリはうつむき半分に警棒を取り出した。
「けど………いくらなんでも限度があるよ。罪のない子供を勝手に害悪呼ばわりして、道具のように犯罪に利用して、物騒なもの持たせて、人質とって、挙げ句に僕を殺そうとして…………いちおう僕、警察だから今回ばかりはさすがに許せないかもしれないな、ビジネス的に」
キクリの顔から珍しく笑顔が消える。
わずかに怒ったような表情で敵を睨みつける。
「あと君らね…………なんでさっきから僕に勝てる前提なの。僕昔から、自分より頭悪いやつに馬鹿にされるの、嫌なんだよね…………」
キクリから、わずかに重圧のような物が溢れる。
(おまわりさん…………おこってる…………)
(ぼくたちのために………おこってるんだ………)
(わるいおにいさん………やっつけてくれる、のかな………)
それは、無邪気な子供にすら覇気を感じ取らせるような圧力…………というより、溢れ出るオーラだった。
「ねぇ君たち、最終学歴中卒だから無理なんだろうけど………泥棒して金品強奪するより、普通に働いたほうがお金になるよ?」
キクリは満面の笑顔で純粋無垢な一言を放った。
もちろんコイツは何の悪意もなく今のセリフを言い放った。
──────しかし、半グレどもを逆上させるに、これ以上の火種はない。
「なんだァ………コイツ舐めやがって………俺ぁ最終学歴高卒だっつーの………」
「もういいっすよ兄貴、さっさと殺しちゃいましょうや」
「るせぇ!わかってんだよ、」
次の瞬間、男たちは一斉に銃を放つ。
「オラ死ねよ!!!」
炸裂音と共に銃口が火を噴く!
もちろん、中に入っているのは実弾だ。当たってしまえば大怪我では済まされない。
しかもこの男たちの射撃は正確、的確に彼の急所を狙っていた!
「うっ…………!!!」
キクリは慌てて警棒を振りかざす。
2方向から飛んできた銃弾がすべて弾き落とされる。
警棒で弾かれた銃弾は用水路の水面を切り裂き、汚水のしぶきが跳ねた。
「な、なんだァ!?弾き返しやがったっスよ!?」
「うるせぇ!ただのマグレだろーが!オラまだ終わってねぇぞコラァ!」
続けざまに放たれる二発目。
2人同時に構えた銃を放つ連携性は、見事なものだった。
「うわぁぁぁ危なっ!!!」
キクリは警棒を振り回してなんとか二発目の銃弾を叩き落とした。
「ひぃ…………こっわ!射線読んだから弾けたけど、今の当たったら心臓届いてたよ!?どーするつもりなの!」
「コイツ…………」
「めんどくせぇマネしやがって…………」
男たちは歯を食いしばっている。
(で…………どうしよう…………この状況じゃ【アレ】は絶対に使えないし…………)
「兄貴!こちらをどうぞ!」
緑色の服の取り巻きが金髪の男に何かを手渡した。
「おっせぇんだよノロマが!」
金髪の男は取り巻きからそれを奪い取ると用済みと言わんばかりに蹴っ飛ばした。
「ぼわぁぁぁぁぁ!!!」
そいつは用水路に落ちた。
「チャカの弾落とせるテメェ、バケモンだな。なら、コイツならどうよ?」
男は新しい形の銃を構えた。
「……………………えすえむじー?」
「死ねェェェェハッハァァァァァ!!」
次の瞬間、男はキクリに向かってサブマシンガンを連射してきたのだ!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
そしてこいつは──────たぶんこの後死ぬだろう。
次回『キクリ、命の危機・黒焉街のスピードスター』