死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
俺の名前は司馬喬皇平。
「久しいな伍代、また捜査のアテにさせてくれないか」
この黒焉街で情報屋、
「まさかあの死神警官から当たって貰えるなんて久しぶりだよ。といっても、裏社会の情報屋を頼る警察なんてせいぜいあんたぐらいだけどね」
そこの白髪の男、伍代は裏社会でも飛び抜けた情報屋だ。
この男に見えないものはないし、知らないことはない。この男を一つ頼れば真実への道が容易に切り開かれる。
それほどにまで信頼に足る男なのだが、警察とはどうにも情報屋を使いたがらない。
探偵業と警察は根本的には相容れぬというわけか。
「それで、連絡だけは貰っていたけど【救世】の話だったよね」
救世………………
俺たちがここへ来る以前に対峙した、烏丸熊之城という男が突如として発したセリフだ。
(近いうちにまた会おうや死神警官……………【救世】が終わったその後にのぉ…………)
烏丸は戦闘中にも口数が多かった。それで奴の人となりはだいたい理解できたのだが、【救世】という、いかにも宗教じみた発言をしたのはあれが初めてだった。
俺の目ではあの男は無宗派に見えたのだが。
というより…………熱心に宗教を信仰する頭と人格は持ち合わせていないだろう。
「救世をうたう宗教団体はいくらでもある。その救世という単語だけからは特定が難しいが、烏丸熊之城については調べられる。きっとそれが手がかりになるだろう、」
「烏丸の方か。教えてくれ、」
すると開始早々、伍代はとんでもない事を言い始めた。
「まず第一に、「烏丸熊之城」という極道は元から存在しない」
「……………なんだと………?」
「彼の本名は『
「鈴鹿組…………」
「今では鈴鹿組は解散してしまっている。組長の不祥事のせいで内部分裂を繰り返し、分裂した団体も空中分解した。組員たちは足を洗ったか、いくつもの小さな半グレ集団となって土着しているかの二通りに分かれた。仲間たちが任侠から反社へと成り下がる中で、唯一任侠人として和歌山に残り続けたのが矢田だった…………」
ほう…………意外と正義感の強い男だったわけか。
「惜しいね。彼ほどの腕っぷしと器ならば、組長として組を立て直す事ぐらいは出来たのかもしれない。だが、彼は若すぎたんだ。新しい受け皿を作ることもができずに彼はそのまま行方をくらませた………というか、もう誰も彼のことは覚えていなかった」
「まさか、宗教をかじり始めたとはな………」
「矢田家そのものは元々お寺の一門らしいよ。矢田は信仰を持たなかっただろうけど、きっと分家筋がまだお寺の住職にでもなっているはずだ。
「しかし、不思議なものですねー」
「何がだ、伍だ…………ってキクリ!?」
この薄暗い路地をどうやって見つけた!?
「はい。なんか、外に見知らぬおじさんがいたと思ったら僕が逮捕した人が走り寄っていったので」
は…………?
何言ってるかわかんねぇが後にしよう。
「それで、なにが不思議なんだ」
「宗教のあり方の話ですよ。宗教にはキリスト教や仏教だけでなく、仏教の中でも色々ありますが………生きている間の幸福を追求する現世利益にしろ、死して極楽浄土へ昇天することに重きを置く来世利益にしろ、宗教の本質は「人を救済すること」にあるんですよ。その中で【救世】なんて。まさか人を救うわけではなく世直しを行うなんて…………特殊な宗派ですよね。もっとも、世界中の人を幸福にすることを追求し、それを救世と称する宗派もあるんですが…………」
「言葉をもって人に教えを説くだけでよい宗教に武闘派極道………しかもおそらく要人格に。たしかにそれはかなり限定的な特徴かもしれない。やるね、菊理巡査」
「えへへ〜」
よもや、あの伍代を唸らせるとは…………
なるほど、要はこの救世をうたう宗派は人の救済というより世直しを行う集団か。しかも武闘派極道とコネを持つ。
…………なにやら、血なまぐさい臭いがしてくるな。
「しかし、僕の驚きは、あんたの動きが僕の予想と違った事だ。てっきりあんたは、最近この街を騒がせている連続強盗事件を追っているのかと思っていた」
すると伍代が不思議なことをいい出した。
「連続強盗事件だと?詳しく聞かせてくれないか」
「もちろん。追加オプションになっちゃうけどね…………最近、この街では強盗事件が連続して発生しているんだ。狙いは宝石商や貴金属店。さっきも通報があったと聞いているんだけど、」
「あぁ………確かに先ほどそれを捕まえた所だ。ま、偶然近くの回転寿司に居合わせたに過ぎんがな」
「流石は死神警官。あんたが行った場所に限って事件が起こる。しかも、ただの強盗じゃないよ。犯人は複数犯、しかも子供を使っているんだ」
「先ほどの強盗とまったく一致しますね」
キクリがつぶやいた。
「なんだと!?」
「おぉ。こりゃ面白いことになってきたね」
キクリの話では、先ほど宝石商を強盗した子供たちを保護しており、今は路地の入り口で待機させているそうだ。
しかも、使われていた子供たちは全員、身寄りのない子供であり、かつ発達障害を持っていた子供たちだそうだ。
「凄いな、
「伊集院だと?あの拷問士がか?」
伊集院…………裏社会の厄災とまで言われる程の人物だ。何かの組織の味方に属すわけでも、敵対するわけでもない。
ただ、法では裁けないような悪を裁くためだけに存在している機械のような男と聞いている。
まったく、聞いて呆れる。
どこの馬の骨かもわからん人間の私刑で人々を救済とは、奇妙な事をうたうものだ。
罪人を捕らえ、秩序を執行するのは我々警察の仕事だ。正直、迷惑極まりない。
最近、我々が追っていた悪党たちがある日忽然と姿を消す現象が多発している。
拷問ソムリエだが何だか知らんが、悪人の顛末の報告をするのが誰の仕事だと思っているのか。
ま…………人民の安全を守る為というのならそれで良いのだが。
「その伊集院の旦那がね、一月ほど前に綾波町で、
「ゲリラ……………聞かんな」
「えー知らないの。シバさん視野せまーい」
「誰に向かってクチ利いてんだクソガキがオラ…………」
「ごげげげ………喉!ノド潰れるぅ………っ!!!」
キクリは特定の場合を除いて戦闘はしないし、特に戦闘で役立たずを発揮するが、これでもうちの部署のブレインだ。知識量が豊富だし、情報通。
「思い出しましたよ。下離羅っていう強盗で食べてる半グレグループがあるって話。綾波町って言ったら、この前、特別支援施設が火災で全焼してましたよ。けっこうデカいニュースで、普通にテレビ映ってるぐらい」
「おや。菊理巡査はよく勉強してるみたいだね」
「くっ…………続けろ、伍代」
「司馬巡査部長。その火災の件、実は証拠隠滅の放火だって知ったらどうする?」
「なんだと…………?」
伍代は建物の外壁に背中を預けながら口を開いた。
「その晩、児童施設で児童の殺害事件があったんだ。3人の子どもが命を落とし、施設の管理者だった女性が重傷を負った」
「それほどの惨劇が…………」
「その実行犯だった大貫という下離羅のリーダーは旦那の手で無事に拷問死。事件は解決したようなものだったんだけど………」
伍代が言葉を濁す。
「…………下離羅の連中、しぶとくてね。リーダーを失ってから空中分解するものかと思っていたら、新しいリーダーを立てて再び勢いを取り戻しているらしい」
「まぁ…………極秘で拷問するような人にやられたなら、死因はわかりませんからね。なんか、しくじって死んだぐらいにしか思われないでしょう」
これに明確な死因があって、誰に殺されたのか分かっていたら、勢いを取り戻すことはなかっただろう。
「それでここからが本題なんだけど…………大貫は強盗の際、施設の子供たちを使っていたんだ。発達障害持ちの子供は、言うことを聞きやすいから………って」
「なるほど。外道だな、」
「まったくだね。子供を使うなんて、ロクなやつがいない。だけど考えてご覧、その大貫と手口が同じじゃないかい?あんたたちが捕まえたという強盗、」
確かに…………俺が影を追って追いついた時には、なぜか子供が居合わせていたな。
そしてキクリの話でも、子供が強盗を実行しておりその裏に半グレがついていたという。
「そんなわけで、今のこの街は危険だ。いつ襲われるかも分からない。だから、とにかく子供を外に出さないように、という緊急宣言が出されているくらいだ。この街の極道たちが夜の巡回を強化しているのも、そのためだよ」
「なるほど………だから俺は先ほどあいつに出会ったのか」
さて、これ以上めぼしい情報はない。
「世話になったな伍代。失礼する、また時が来れば頼らせてもらうぞ」
俺はお代を手渡してその場を立ち去ろうとした。
「おや、司馬巡査部長。もしかして、その犯人やっちゃうのかい?」
今になってから伍代はこんな愚問を投げかけてきた。
「当然だ。俺が守るべき国民とは、この日本の全国民の事なのだからな、」
つまり、下離羅の残党が、発達障害の子供をさらって強盗の道具に使っているということだろう。分かりやすい外道で助かる。これならば、俺も迷わずに粛清の対象にできる。
「行くぞキクリ、」
「は、はい!」
俺たちは今度こそ路地裏を去る。
「応援しているよ。ただ…………気をつけて」
最後に伍代がこんな事を言ってきた。
「最近夜になると、この街に和服の剣豪が現れるそうだよ。しかもめちゃくちゃ強いらしい。【オロチ】という名前だそうだから、夜の捜査には細心の注意を払ってほしい。それじゃ、健闘を祈るよ。死神警官…………死刃巡査部長、」
そして俺たちは路地裏から出る。
そこに居たのは、
「
「そうだ。彼こそが、死神警官・司馬喬皇平その人だ」
青い服に白いジャケットの男と、緑のシャツに黒いスーツの青年が並んでいた。
なぜか青年の方は手に手錠をかけられていた。
「キクリが逮捕した犯人を連れてきたと聞いてな、誰かと思えば
「いえ………俺もよくわかってないんですよ」
俺は青年から事情を聞いた。
「やっぱテメェの勝手な行動じゃねぇか!」
「おあーっ!!!」
俺はキクリの胴体を激しく蹴り飛ばした。
まさかこんなやつとキクリが遭遇していたとは。
そして、隣にいる男のほうだが。
「遅くなったが、久しいな六車。元気にしていたか?」
「あぁ、今だ我が両腕は劣らず。お前がいない間もこの街のために働いているとも」
その男は
「二刀流の剣豪」で知られる京極組の武闘派極道だ。
「お二人とも、仲が良いんですか?」
「あぁ。六車と俺は幼馴染だからな」
「えっ…………幼馴染ですって…………!?」
久我が目を大きく見開く。
「ガキの頃から一緒だったな。中学が同期で同じ学級だったのが出会いだ」
「あぁ。ついでに言うと高校までも被っていたな」
「どうりでさっき路地裏に来た時、一目でシバさんのオーラを感じたわけだ…………なんか、根本的な気質が似てそうなんだよね。頑固っぽそうとか、信念がありそうとか、肝っ玉太そうとか」
「おおかた合ってるんだよな…………」
俺はむしろお前たちが少し似ているように見えるんだが。
こんなボケナスと同ランクにしてしまって久我には大変申し訳ないが。
「おにいさん………このおじさんたち、だれ………?」
すると、キクリに懐いている5人の子どもたちかま口々に不安を口にし始めた。
「あはは。ごめんごめん。強面のおじさんが2人並んでたら気分悪いよね、」
「誰が気味悪いじゃ…………!!!」
「ぶっ殺されてぇのかお前!!!」
俺と六車の拳が同時にキクリの顔面を左右から捉える。
「イワァァァァァァァァァク!!!!!」
キクリは派手に吹っ飛んで、そこにあった黒塗りの高級車のボンネットを貫き、エンジンに突き刺さった。
(やっぱこの2人…………似てるな……………)
それを悟ったような表情で眺める久我であった。
次回『外道の衆、新生