死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察   作:書庫・ラ・オランジュ

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久我VS木ノ葉・最悪の邂逅

 

 

─────俺の名前は久我虎徹。

 

 

「子供を攫って犯罪の道具にしようなんざ………許せるわけがねぇ、絶対に見つけてやる」

 

 

燃える意志で深夜の巡回を行う、京極組の武闘派極道だ。

 

この黒焉街では近頃、強盗事件が相次いでいる。

その根源となっているのは半グレ組織、下離羅による犯行だった。

奴らは犯行に施設育ちの子供を使い、脚がつかないようにしているようだ。

たぶん、子供たちには自分たちの正体を吐かせないように脅迫してるんだろう。

つくづく救いようのないクソだ。

 

 

あの後、六車の兄貴が5人の子供たちを預かってくれているはずだ。

そのうちに俺は他の半グレがいないか巡回している。

 

 

緩やかな坂道を降りた頃だった。

 

 

(…………なんだ、)

 

 

突然、俺は背中に悪寒を感じた。

同時に、俺の周囲が闇に包まれていく。

 

 

静寂と暗闇の中に、俺の靴音が反響する。

 

 

(なんだ………これ、)

 

 

過去の経験から、俺は猛烈に嫌な予感を察知した。

 

その時、隣を赤い車が走っていった。

俺の隣を通り抜け、先へと進んでいくスポーツカー。

この空間の中に俺が唯一見た「見えるもの」。

俺はそいつの行く先を勝手に目で追っていた。

 

 

その時、車の扉が開き、人影が飛び降りてきた。

それはなんと、レンガ色のメイド服を着た女だったんだ。

 

しかも、彼女は子供を2人抱えていた。

それだけじゃない。あの子供は、六車の兄貴が預かっていた子供たちだったんだ!

 

あの車、もしかして子供たちを施設に送るための車だったんじゃないか………?

 

 

 

次の瞬間─────────

 

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

向こうに消えていった車が真っ二つになり、同時に爆発を起こした!!!

 

マジか、車に爆弾を仕掛けた………!?いや、車が真っ二つになっていた。車体が切り裂かれて、漏れたガソリンが引火して爆発したんだ。

 

 

「クソ、ふざけやがって…………!」

 

 

俺は車から飛び降りた女に向かって走り寄る。

メイドは爆発した車を見て、逃げるように走り去ろうとした。

 

 

「ちょっと止まれよアンタ、」

 

 

そうする前に俺が女の肩を掴んだ次の瞬間、

 

 

「フッ!!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 

女は俺の腕をはねのけ、強烈な後ろ蹴りを放ってきやがった!

 

 

「逃げなさい、ここはお姉さんに任せて」

 

「ぐっ…………!」

 

 

俺はギリギリで腕を入れて防いだが、蹴られた腕が焼けるような痛みを発する。

この威力は素人のものじゃない。

 

 

「どなたでしょう。私は主から任務を仰せつかっております。邪魔をしないでください」

 

「その子らに手出しはさせねぇよ。テメェは俺がとめる。相手が女だろうがな………」

 

 

この女を見た瞬間に俺の身体の筋肉が引き締まり、皮膚がこわばった。

つまり、俺の極道人生において、今までに見てきた強敵たちと同じレベルの死の気配がするってことだ。

めちゃくちゃ美人だが、動きに淀みがなく、瞳に光を感じない。

そもそも、走るスポーツカーから子供2人を抱えて飛び降りるなんて、普通の人間は転倒して大怪我するはずが、こいつは普通に着地した。その身のこなし、ただ者じゃないぞこれ。

 

 

(かなりの数の人間殺してるな、コイツ)

 

 

なんだコイツ、極道にも半グレにも見えない。

まさか…………女アサシンか!?

 

 

「悪いがその子らは渡さねぇんだよ…………返してもらうぜ」

 

 

俺はナイフを抜いた。

それを見たメイドは、貴族のような装飾の美しいマチェットナイフを取り出してきた。

 

 

「施設育ちの子供を取り戻そうとするということは、下離羅の構成員ですね。ただいま車が爆発したのも貴方が対車両地雷とかセットしたからですね?たぶん」

 

 

メイドは意味不明なことを並べ立て始めた。

 

 

「お前は下離羅じゃないんだな、じゃあ何者だ?」

 

「私の洋服お買い物妨害はともかく、業務妨害は主への攻撃そのものです。僭越ながらお相手いたします」

 

 

提げていた鞄を置くと、謎のメイドは髪をかきあげる。

その動作に深い意味はないが、メイドから闘気が満ち溢れるのを感じた。

この冷徹な視線、唐突な切り替え。これは間違いない、戦闘者の貫禄だ。

しかも…………並のやつじゃない。

プロの殺し屋とか、それぐらいのレベルだ………!

 

 

「テメェの目的は知らねぇが…………その子らは返してもらう!」

 

 

俺はそう言うと女に向かっても容赦なく、スタートを切る。

メイドとの距離が近づくにつれて俺は暗闇の中にその女の姿を鮮明に見た。

 

そいつはまだ成人しているかも怪しい、いや成人していたとしてもまだ二十歳になって間もない若さだった。

どうしてこんな少女がこんなコトしてやがる。どうなってんだ…………!

 

 

「オラよ、」

 

 

俺はメイドに向かってナイフを一閃、

 

 

「ムッ!」

 

 

凄まじい撃鉄音を立ててナイフとナイフがぶつかり合った。

まぁ…………流石に今のは受け止めれるよな。

 

これが当たると思ってるほど俺もバカじゃねぇ。

 

 

「手首…………空いているわよ、」

 

 

 

相手はわずかな一瞬の隙を突いて、ナイフを握る俺の手首を掴んできたんだ。

戦う女だ。そりゃただモンなはずがない。だが…………

 

 

「なっ………!!!」

 

 

なんでコイツ………俺と同じくらい速いんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

「その顔…………『なぜ自分の動きに追いついたのか』という顔ね。なぜならこのくらいのスピード…………わりとよく見るからよ」

 

「ウソだろ…………」

 

「こっちどれだけ場数を踏んだと思っているの」

 

 

手首を取られると同時に、メイドの一閃。

 

 

「シュッ!!!」

 

 

こんなもん、当たらねぇよ。

俺は掴まれた手首を振りほどき、カウンターの一撃を狙う!

 

 

「返すぜ、」

 

 

俺は女の胸に向かってナイフを走らせる。

その豊かな膨らみが逆に仇になる。

 

 

「どこ狙ってるんですか、期待してもムダです」

 

 

しかし、身体を上下反転し、脚を振りかざしてガッツリ対策された。

 

 

「その長ぇスカートでどうやってそんな動きしてるんだよ…………!!!」

 

 

 

 

 

そしてカウンターを繰り出すように、

 

メイドの方から壮絶な斬り合いをけしかけてきた。

 

 

 

「手数の多さ比べよ、無駄無駄無駄無駄ぁ!!」

 

「負ける訳がねぇな、オラオラオラオラァ!!」

 

 

 

コイツもかなり速いが、それでもわずかに俺のほうが速い。

俺は、スピードだけは誰にも負けねぇんだよ。

斬り合いになった途端、俺に有利の天秤が傾いた。

 

 

「ウオォォォォォォッ!!!」

 

 

俺はギアを上げる!!!

威力は求めてない、圧倒的手数で相手を押し切れ…………!!!

 

 

「うっ…………くっ…………」

 

 

俺のナイフの勢いが徐々に上がる。

流れに乗ったら後は早い。メイドの身体に一発、二発と、ナイフが当たる。

 

 

(やれる、押し切れるぞ…………)

 

 

パワーや技術は向こうが上回っている。

だが、その速度で切り合えば、相手はパワーを捨てて手数を求めるだろう。

そうしたら今度は俺の土俵だ。圧倒的な連撃数で押し切る!

 

 

その時、

 

 

「ぺっ!!!」

 

 

女が突然、唾を飛ばしてきやがった!

 

 

「ぐぉはっ!?」

 

 

なんとそれは弾丸のように、寸分違わず俺の左目を直撃した!

 

 

「ぐっ…………!」

 

 

眼球は潰れなかった。

だが突然の衝撃で怯んだせいで、俺のナイフの攻撃が一瞬遅れた。

しかも、強い衝撃に加えて濁った唾液のせいで左目が霞む。

 

いや、女ってこんな戦い方するかフツー……!!!

 

 

「召しませ、メイド殺法ーッ!!!!!!」

 

「ぐぉぉぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

わずかな隙を狙った上段蹴りが俺を捉える。

俺は間一髪、左腕を入れて攻撃を防いだが、その圧倒的な威力を殺しきれず、地面を転がる。

 

なんだ今のキック、自転車にぶつかられたような衝撃だ。

 

 

(やべぇ、今の雄叫びなかったら完全に食らってた)

 

 

俺の視界は半分潰れている。この状況下で的確に爪先を繰り出して見えない左側から攻撃を仕込んでくるこの機転の良さ…………コイツは、本物だ。

 

 

「度重なる意識の分散…………呼吸が乱れているわよ」

 

 

さらにメイドは革靴で勢いよく俺の靴を踏みつけてきた。

 

 

これはまずい──────

 

 

(後ろに退けねぇ……ッ!!!)

 

 

 

俺の意識が目や身体の左側、脚に分散されていった結果──────

 

 

 

「ふぅぅぅッ!!!!!」

 

「ぐぉぁぁっ!?」

 

 

 

メイドの強烈な頭突きが俺の顔面にめり込んだ。

 

 

「がぁはっ……!!!」

 

(なんだ今の石頭………脳が揺れやがったぞ………)

 

 

俺は顔面から派手に流血し、さらに一瞬意識が飛ぶ。

 

 

だが、タダではやらせねぇよ…………

 

 

「貰ったぜ………コラ…………」

 

「うっ…………………」

 

 

頭突きで弾け飛ぶ俺がすんでのところで振ったナイフはメイドの腹を浅く裂いた。

 

鼻に受けたダメージは数字にできないレベル。

意識外から受ける頭突きの威力は人体から繰り出される攻撃の中でも飛び抜けた威力を持っているからな。

 

俺は頭突きを受けるた後、体勢を立て直すために後退する。

 

 

「だったら…………鉛玉入れとけよ、」

 

 

俺は左手でチャカを握り、速射を食らわせようとする。

 

 

「ふっ!!!」

 

 

だが……………メイドは未来予知したかのように短いナイフを投げていた。

ナイフはチャカのボディを直撃し、俺の手から弾き落としたたんだ。

 

さらに彼女の攻撃はこれで終わらない………!

 

 

「さぁ、次はどう受けるものかしらを楽しみにさせてもらうわ。貴方は私を楽しませてくれるかしら?」

 

 

マズイ、敵が調子に乗り始めた。

俺は今、敵に遊ばれているってのか………?

 

 

メイドは身体を回転させながら跳躍し、縦回転しながらナイフを無数に投げてきやがった…………!

 

 

 

「メイドはナイフを投げるものだって…………そんなことも言ってたわね菊理くん」

 

 

スカートが長いせいで手先が隠れる。

どっからナイフが飛んでくるのか見えない…………

 

 

「ぐぅっ…………!!!」

 

 

いや、これはチャンスだ。降り際を攻撃すればかわせねぇ。

こういうときこそ相手の動きを見ろ。

 

ナイフの挙動は俺の場所への一直線。

俺が避けた先を狙うような牽制の投げナイフじゃない。

なら…………急所を狙うナイフだけ弾き返せば良いってことだ!

 

 

「悪ぃな。こっちはお前ほど殺しに慣れてねぇかもしれねぇが、命賭けた数は多いんだわ」

 

 

たしかに殺し屋は極道よりも殺しに関しちゃプロかもしれねぇ、だが思い切りでは極道に敵わねぇだろ。

お前らは飛んでくる攻撃を全部避けようとする。だから、被弾前提で戦いの先を見るような俺たちのやり方には驚かされるはずだ。

 

 

「オォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

さっきの斬り合いと同じくらいのスピードで俺はナイフを振り回す。

 

 

「避けない…………」

 

 

ほらな。それは予想外だった時の反応だろ。

 

 

「テメェが遊び始めるのを………待ってたんだよ俺は!!!」

 

 

メイドが地面に降り立ったところに俺は勢いよく飛びかかる。

この一発は絶対に外せねぇ…………!!!!!

 

最速で、かつ最大火力を叩き込む…………!!!!

 

 

 

「オォォぉぉぉら!!!!!」

 

 

俺の全力の一撃は確実にメイドの肩口を捉えた!!!

 

 

肩から頬までバッサリいかれた敵は顔をしかめる。

メイド服にナイフが走り、裂け目から血が滲む。

今のはかなり深いはずだ。

 

 

 

 

「───────メイドがメイド服を着る理由を知っていますか」

 

 

すると敵は、突然こんな事をつぶやき始めたんだ。

 

 

「メイド服とは本来、主の華やかさを目立たせるために質素でなければならない。ですが………そんなものは建前に過ぎないのです。昔お嬢様が仰いました。『私のお世話をしてくれる大切な従者たち、それは家族のようなものであり、それは自分の身体の一部のようなもの。だからこそ、むしろ自分よりも、メイドこそ華やかでかわいくあるべきだ』…………と」

 

 

すると宙返りしながら俺と距離を取り直す。

 

 

「だからメイド服はひらひらとしていて色味が美しく、なによりかわいいのです。そうです、メイドはかわいくなければならないのです。だって主の顔ですからね。その私の命より大事なメイド服に刃を入れる事は、主への冒涜に他なりません。身体が汚れても、服だけは汚してはならない、それがメイドの心得なんです」

 

「何いってんだお前……………」

 

 

何やら斬られたことよりも服を切られたことに憤りを感じているらしい。

 

 

「なので、本気で行かせていただきます。主を侮辱されて黙っているわけにはいきません。今から殺します」

 

 

するとなんと、メイドの腰から二本目のマチェットナイフが出てきた!

両手に鉈を握るメイドから未だかつてない気迫が溢れ出る。

 

 

「うぉ………………」

 

(マジか…………まだ底がねぇのかコイツ…………)

 

「もう木ノ葉はぷんすかです。泣いて謝っても許しません。許してほしかったら、私のお小遣いでは手が届かないブランドのお洋服ください」

 

 

すると、木ノ葉というメイドはとてつもない速度でスタートを切る。

 

 

そしてそのまま先程のように斬り合いへとなだれ込む。

 

 

「さっきの倍速×マチェット2本です。絶対に受けきれるはずがないです」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

 

 

ついに俺のナイフが全く追いつかなくなった。

 

速度がさっきよりも格段に上昇している。

 

最悪だ…………チクショウ、スピードたけは勝ってたと思ってたのによ…………

 

 

「ぐぁッ…………!!!」

 

 

ダメだ、まともに斬り合ってると全部俺に命中しやがる…………

 

 

しかも、武器が2本に増えている…………!

 

 

「ぐぅぉっ!!!!」

 

 

左手で手数を稼ぎ、隙間から右手のマチェットで強烈な一撃を与えてくる。

 

怪物かコイツは…………スピードだけじゃねぇ…………技術もパワーも、全部俺を上回ってやがる…………

 

 

「ぺっ!!!」

 

 

しかも目潰しの唾攻撃までセットだ………!!!

 

 

「チィッ…………!!!」

 

 

今度は右目を狙ってきやがった。

 

横に動き、今度は確実にそれを外す。

 

 

「盲目になったらどうすんだよ!」

 

 

俺には心眼なんてねぇぞ!

 

 

「ハァッ、」

 

 

そして合間を縫って左側頭部を上段蹴りが襲ってくる……………!!!

 

 

「ぐぅぅぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

あの威力をもう1回受けれるか?

いや、俺にそんな余力は残ってない。

だとしたらどうする…………

 

 

(振り上げられた脚に、ナイフを通す………!)

 

 

今の俺にできる事はこれしかない。

 

 

「ウォォォォッ!!!」

 

 

俺はナイフで脚を狙おうと、上を凪いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────しかし、

 

 

「同じ手を何度も使うわけがありません」

 

「ぐぉぁぁぁっ!!!」

 

 

上段蹴りだと思っていたその攻撃は、脚を振り上げると同時に、突然その高度を下げ、カーフキックに派生し、俺の脛を襲った!

茶色の革靴の爪先がクリーンヒット。

下に意識をやれていなかった。これは全く防ぐこともできなかった。

 

 

「ぐっ………………!!!」

 

(フェイント…………!今のはキツイぞ…………!)

 

 

まずい、脚が潰される……………!!!

 

 

「──────────詰みですね」

 

 

 

その隙をついて、メイドが走り出す。

 

俺の首めがけて飛びかかってきた!!!

 

 

 

「ぐっ………………」

 

(マジかよ…………死ぬのか?ここで…………?)

 

 

正体もわからねぇ女に、こんなにボコボコにされて死ぬってのか……………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────その時だった、

 

 

 

 

「もうやめてお姉さん!!!!!」

 

「その人は、僕たちを助けてくれたんだ!!!」

 

 

暗闇から2人の子供が出てきた。

 

 

だが、走り出したモンは止まらない。

子供たちが言い終わる前に、敵は俺の目の前にいた。

 

 

 

「うぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

「はぁッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイドは俺の首元ではなく、肩を押さえつけ、跳び箱のように飛び越えると、俺の背後に向かって強烈な跳び蹴りを放った。

 

 

 

俺の背後で重たい金属音が響く。

 

メイドは俺の背後に着地した。

 

 

 

「────────何者ですか。子供の恩人の背中を襲おうとした者は」

 

 

メイドは、俺の背後に広がる暗闇に問いかける。

しかし返事はなかった。

 

 

 

「アンタ………………」

 

 

メイドは俺の方に向き直ると、マチェットナイフを地面に投げ捨て、スカートと髪を正し、跪いた。

 

 

「─────貴方が久我虎徹さまですね。先程の散々のご無礼を致したこと、それから私の判断の誤りによりこのような事態になりました事、心よりお詫び致します」

 

 

なんと、数秒前まで戦っていた敵の前で戦意を放棄し、謝罪を述べてきたのだ。

 

 

「私、司馬喬皇平の侍女を務めております石長木ノ葉と申します。主人と六車謙信さまのお約束により、私どもで今夜保護された子供のうち二人をお預かりする事になりましたので、その迎えに参りました」

 

「なっ…………司馬巡査の……………」

 

 

勘違いしてたのは俺の方だ。

この人は誘拐犯でもなければ、むしろ子供たちを守ろうとしていたんだ。

 

それを俺は勝手な勘違いで…………

 

 

「俺も悪かった。まさか、司馬巡査の代行とは思っていなくて…………」

 

「いえ、お詫びを申し上げるのはこちらの方です。勝手な思い違いから、久我さまに怪我を負わせることになりました。謹んでお詫び致します」

 

 

確かに俺はボロボロだがな。

 

 

「この程度まったく問題ねぇ。あと、様付けじゃなくていい。久我でいい」

 

「…………かしこまりました、久我さま」

 

「……………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木ノ葉が言うには……………………

 

 

「すみません、そこのお方」

 

 

木ノ葉は和服の男を見かけたそうで、そこから一刻も早く離れるために近くに停めてあった赤い車の窓を叩いた。

 

 

「おいコラなに人の車のドア叩いとるんじゃ………傷がつくだろうが!慰謝料払えや、っ…………?」

 

 

車の窓を開けて怒鳴ったガラの悪い男は木ノ葉を見て言葉を失った。

そりゃこんだけの可愛い子が話しかけて来たら驚く。

 

 

「な、なんだ?道迷ってるのか?」

 

「私、2人の弟を連れてこの街へ来たのだけど、道がわからなくなってしまったの…………送ってくださるかしら………」

 

「は?え、いや………ダメだ。俺ぁ今仕事中なんだよ。仲間が戻って来るの待ってるんだ。勝手に迷子になっとけ」

 

 

男は窓を閉める。

 

 

「待って!お願い!二人の弟は幼いし、お父さんもお母さんも事故で死んでしまったの…………私、ずっと一人でこの子たちの面倒をみてきて…………なのに私…………大切な家族を道に迷わせて…………家に帰れなくなって…………このまま餓死させてしまったりでもしたら…………うぅ、くふっん…………ぐすん、」

 

「ちょ、ちょっ………泣くなってオイ………!うるせぇよ、住民に強盗バレたらどうす………あぁいや、その………近所迷惑になったらどうすんだよ!」

 

「お願い!助けて!助けてくれたら私、何でもするわ!どんな言う事でも聞くから!お願い!」

 

 

木ノ葉はいじらしく胸元のボタンに手をかける。

 

 

「うぅ…………むぅ…………わかったわかった!と、途中までしか送んねぇからな!?早く乗れ!俺も忙しいんだよ!」

 

「本当に!?嬉しいわ、ありがとう!優しい方なのね………!」

 

 

確かにこれくらいの安い男なら、こんなもんで簡単に釣れるだろうな。

 

 

 

 

 

 

「ここをもう少し過ぎたところで降ろしてほしいの」

 

「おう。わかったぜ」

 

(ヒヒッ…………降ろすわけねーだろ。ガキどもだけ降ろさせたら、あとはテキトーな理由つけて女だけ持ち帰ってやる。何でもするつったのはコイツだからなぁ………?ハハハハハハハッ!神様からのプレゼントだぜ、下離羅入ってから徳なんて積んでねぇばかりかワルに染まってるはずなのによぉ!生きててよかったぜ!)

 

 

しかし、この時に事態が一変した。

 

 

「…………………………二人とも、じっとしてて」

 

「あ?どうしたよ嬢ちゃん、」

 

 

木ノ葉は見逃さなかった。

 

 

「ごめんなさい、さようなら」

 

 

 

 

 

────────男がニヤニヤしながら運転している間に、フロントガラスに映る……………

 

 

 

 

 

…………………………和服の男に。

 

 

 

「えっ?何やってんだ、」

 

 

「さようなら。美少女を拾った時点で貴方の運は尽きていたわ」

 

 

木ノ葉はドアを蹴破って二人の子供を抱えて車を飛び出す。

 

 

 

「えっ、ちょっ…………ってなんだぁぁぁぁ!?前から男が……………刀持ってるぅぅぅぅぅ!?ひっ、ひぃ………!やめ、来るなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………そいつ、誰だ?」

 

「さぁ。誰でしょうか。ですがあの闘気、相当な手練です。貴方も気をつけてください。できれば京極組の皆さまにもお伝えいただければ、」

 

「そんな事を俺が許すと思うか?」

 

「ッ!?」

「ッ!?」

 

 

俺たちは突然の声に驚き、武器を構える。

 

しかし、俺たちと子供たち以外には誰もいない。

 

 

 

 

「────────────」

 

 

「────────────」

 

 

 

 

 

沈黙が続く…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「──────、避けなさい平太ッ!!!!」

 

 

木ノ葉は子供のうちの一人の足元に、当たらないようにナイフを投げた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

次の瞬間、

 

ナイフに驚いて転んだ少年の真上を、銀色に輝くなにかが通り抜けた。

 

 

「やめなさい!この子に手を出すのなら先に私からやりなさい卑怯者!」

 

 

木ノ葉は2人の子供を守るように抱きしめる。

 

 

 

 

しばらく沈黙が流れたあと。

 

 

 

 

「──────興が削がれた。命拾いしたな、女」

 

 

 

殺気が遠ざかるのを感じる。

それと同時に、周囲に光が取り戻されていく。

 

そこは…………俺たちがよく知っている道だった。

いつもの巡回の道…………いつの間にこんなところに来てしまっていたのか。

 

 

「今のは……………」

 

 

俺には何が起きているのか分からなかった。

 

 

「───────────────」

 

 

木ノ葉が何か思い詰めたような表情をしてその場を去った。

 

 

「この場所は危険です、私は子どもたちを連れて帰ります。貴方も帰り道はお気をつけください」

 

「あぁ…………………」

 

 

 

とてつもない激闘のあとに訪れた謎の殺気…………あれは一体なんだったのだろうか。

 

それだけを疑問に俺は巡回をやめて事務所へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

「この街の夜、どうなっちまったんだ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ…………助け…………金なら幾らでも出すから………ぐぎゃぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

少し後、黒焉街の住宅地で血しぶきが舞っていた。

 

 

「──────富なぞ………俺にはいらん」

 

「こ、子供!俺らが使ってる子供の場所を教えてやる!お前の役にも…………立つかも、しれねぇだろぅ?これはそう…………取引だ!」

 

「言え」

 

「俺たちのアジトだ。街の南に鉄鋼生産所の跡地がある…………そこに攫ったガキどもを残しているから、」

 

「そうか、参考になった。では死ね」

 

 

和服の男が刀を振り上げる。

 

 

「なっ!?約束が違……………」

 

「喋ってる間だけ生かしてやっただろう」

 

「お、俺を殺したら…………ガキどもに言うことを聞かせらんねぇぞ!?俺の言うことを聞くようにしているんだからな…………!」

 

 

焦る男と、それを哀れに見下ろす男。

 

 

「必要ない。善悪の判別もつかず言われるがままに罪を成すような犯罪者など誰が使うか」

 

 

刀が半グレの顔面を貫いた。

 

 

「安心するがいい。お前らの帰りを待っている男も、車ごと切り捨てたからな」

 

 

 

 

 

謎の剣士は刀を納刀すると、男たちの亡骸からキーケースを奪い取ると、闇の中へと消えていった……………

 

 

 

男が去った後、周囲に光が取り戻される。

 

 

 

暗夜を駆る剣士は闇より出でて闇へと消える。

 

藪から現れてはまた藪の中へ帰る蛇のような男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてコイツがこの後、この街で最悪の大惨事を巻き起こすことになるんだ……………

 

 

 

 

 

 

次回『早くも決戦か・新生下離羅アジト襲撃』

 

 




石長木ノ葉
Iwanaga Konoha

事情があって司馬の部署に居候している二十代になって間もない少女。
普段は司馬に仕えるメイドとして振る舞っている。
お茶汲みや掃除などの雑用が主な役目だが、情報収集や潜入などで司馬をサポートする事もある。
元々は財閥めいた企業グループの令嬢を護衛していたため、その戦闘能力は並の極道や半グレを軽くあしらうほど。
銀髪碧眼の美しい姿と、戦闘中の鬼のような姿との二面性から、一部層からは『血濡れの天使』と呼ばれる。
茅乃と瀬織という二人の姉がいるらしい。
主の命令を絶対とする忠誠度と敵への冷徹な態度からまるで機械のような女だと思われるが、実は自我は強くプライベートでは洋服収集が趣味。
穢れた欲を纏う外道に顔を舐められたり、敵の返り血を浴びたりしても眉一つ動かさないため、人に比べて『汚れる』という感覚に疎いらしい………
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