死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
俺の名前は司馬喬皇平。
「久我、説明しろ。何があった、」
この世に蔓延る悪を滅する特殊犯罪対策課の警官だ。
京極組の武闘派、久我虎徹が重傷で発見された。
「大丈夫っすよ俺は………それより、暗闇から和服の剣士が出てきて…………囚われていた子供たちを全員………斬り殺しました、」
久我の口から放たれたのは衝撃の一言だった。
あれだけの数の子供を一人で全員殺したのか?
罪なき幼子の命をこんな一瞬で殺めるのか。
「そいつはそこの窓から………消えやがりました」
工事の2階に窓があるが、不自然に開かれている。
「何者だったんだ」
「奴は類稀な剣才を持っている…………恩郎智と名乗っていた、」
「オロチ…………」
その名は、伍代が言っていたあの…………
「もうこの街では有名だ。辻斬りオロチ………ってな。昼夜問わず急に現れては、気に入らない人間を斬り殺すらしい。虎徹や俺が体験したように、奴に近づくと闇が湧き上がる。そして、何も見えねぇ闇の中で、ターゲットはオロチの顔を拝むことすらできず殺され、人知れず死んでいるそうだ」
「ワァ………まさしく辻斬りですよ辻斬り」
キクリがノロノロと戻ってきた。
その様子じゃあ無意識から生還したか。
「だが不思議なことに、放ったらかしにされた死体を確認すると、どいつもこいつも狙われたのは半グレやチンピラばかりだそうだ。たまに半グレでもチンピラでも極道でもない人間が混じっているが、そいつらも武器を所持している事から殺し屋だと推測できる」
「ほう……………興味深い。どうやら一般人を襲うことはないようだな」
オロチは依頼されて下衆を斬り刻んでいるのか、あるいは堅気を斬らないのが奴のポリシーなのか。
「でもそうしたらここの子供たちが殺されちゃったのは何か理由があるんですか?」
キクリの訝しげな問いに答えたのは久我だった。
「奴は言ってました………「自らの意思を持たず、物事の善悪もつかない、ただひたすら悪党共に言われるがままに悪を成す子供もまた死ぬべきだ」…………と」
「ひどい…………子どもたちは彼らに利用されていただけなのに…………」
「罪を犯せば女だろうと子供だろうと見境ないようだな」
「ま、まずいですよ!逃げちゃったオロチは、きっと次のターゲットを…………!」
「───────俺とキクリが追う、」
「なんで僕も!?」
「テメェも警察だからに決まってんだろ!!!」
俺の蹴りがキクリの鳩尾を貫く。
「どはぁぁぁっ!!!」
「どのみち野放しにしてはならない存在だ。攫われた被害者の幼子をこれだけの数殺した。万死に値する、」
「死神警官…………地の果てまで追ってくるとは言うが、それほどの執念とはな」
「キクリ、この街から出る逃走経路と言ったら何がある」
「えー。黒焉街のことあんま知らないですよ僕。でもそうですね…………以前、貴金属店に行ったときは駅から足で走って2分ぐらいでしたね」
奴が電車で逃亡したのかは定かではないが、とりあえず追ってみるしかない。
「追うなら気をつけてください。奴は暗闇に紛れて、黒塗りの日本刀をぶん回してきます」
なるほど、黒刀か……………
黒刀とは、名の通り、刃を黒塗りにした太刀のことだ。
「御前の剣客隊のくせに空気を裂く剣圧すら読み取れんのか」
「ぎょぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「見えぬ刃…………卑怯な…………!!!」
黒塗りの太刀の刃は闇に溶け込み、回避や防御が困難となる。
同時に距離感のつかめない剣気や風圧や剣を振る音などにより間合いや方向感覚が狂わされ、戦闘における立ち回りすらも弱体化させる強力な武器だ。
「それと、もう一つ気をつけてください。アイツ、絶対に刀が届かねぇ距離から相手を切り裂いてきやがります」
「…………………ほう?」
刀の間合いの外から斬撃を加える、か。
要するに、オロチの戦法は暗闇で相手を翻弄し、見えない中で多彩なリーチの攻撃で牽制してくるということか。
まるで首を伸ばして噛みついてくる蛇のようだ。
さすが『
「キクリ、追うぞ。絶対に駅に近づけるな」
駅にオロチを近づければ住民が危ない。
一般人を襲わないとはいえ、オロチと遭遇次第、戦闘になる可能性が高い。戦火に巻き込まない点においてもオロチを駅から離すのは絶対だ。
逆に言うとオロチは駅に現れる。それまでに駅に先回りしておけば、自動的に駅から離すことができるだろう。
「行くぞキクリ、」
「はい、行きまーす!!!」
「虎徹は俺に任せろ。必ず生き残ってこいよ、司馬」
「菊理も………生きて帰ってこいよ、」
久我と六車に見送られながら俺たちは駅を目指す。
キクリの言った通り、駅まではそう遠くなかった。車両はキクリが運転し、俺は駅の近くで降りた。
「では僕、その辺一周してから戻って来ますね」
キクリはそう言ってロータリーを周り始めた。
「おい馬鹿野郎!!!一方通行だぞ!!!」
「あっ」
だがもう遅い。後続車が来てしまった。
「あー…………シバさんごめんなさーい!」
「クソボケがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
キクリは一方通行の道を走行し、向こうへ消えていった。
夜中だから比較的人は少ない。だが仕事帰りの電車がまだ走行している頃だ。
安心もしていられない。
「さて、オロチ…………いつ来るか」
俺は向こうから駅に向かってくる人混みに目を向ける。
きっとあの群衆の中に紛れているはずだ。
久我は和服の剣士と言っていた。太刀を隠しながら洋服を着る一般人の中に紛れるのは至難の業だろう。
明らかに不自然に大きなコートでも着るしかない。
それを狙え。
(───────────来ない、)
しかし正面からやってくるのはスーツ姿の男女のみ。
これはもう少し潜伏しなければならないかと思っていたその時、
「─────貴様、何を嗅ぎ回っている?」
俺は突然背後から肩を掴まれた。
瞬間、周囲のすべてが暗転して何も見えなくなった。
「お前が辻斬りオロチか」
そう言うと俺は肩を掴む手をはたき落とし、後ろを強く蹴り飛ばした。
だが、しかし当たった感覚がしない。
「お前、おれを知っているか…………その様子だと、おれを殺そうという話だな」
「…………………………………………」
(暗闇から声が反響している。この暗闇…………煙か)
「貴様その背広と帽子は警察だろう。そうか…………御前は警察までも駒にしているか。この国もいよいよ末か、」
(噴煙器によるものか。この濃度と音の遮断性、リンと油脂を主とした煙幕による作用だな)
俺は奴が無駄口叩いている間に思考を凝らす。
久我の言っていた暗闇の正体は黒い煙幕だったか。
「御前に加担するとならば話は変わる。奴の一派は残さず根絶やしにすると約束しているのでな」
そう言うと奴は暗闇の中で刀を抜いた。
「ちなみにお前の読みは違う。俺は普通の警官だ。お前を追う理由はただ一つ、お前が先ほど工場で罪なき子供たちを虐殺したからだ」
「罪なき、だと?貴様は見なかったのか。あの者らは貴金属店や宝石店から強盗を行う悪党の衆。見た目は幼い子供だが、その実何度も盗みに手を染めている…………」
「………………………………………………………」
「先ほどの黒スーツの青年は唆されただけと言っていたが、そんなことは承知だ。だがどのような理由があろうとも、脅迫されようとも犯罪に手を染めたその時点で社会においては害悪以外の何物でもない。悪以外の犯罪は存在しない。外道には女も子供も関係ない。『救われし世』には、いかなる犯罪者も必要ない」
(…………………救われし世、だと?)
その時、俺の脳裏にはある言葉がよぎる。
(近いうちにまた会おうや死神警官……………【救世】が終わったその後にのぉ…………)
烏丸熊之城…………奴は去り際に救世という言葉を言い残していた。
奴の救われし世という言葉は…………烏丸の言葉とマッチしているのか?
「施設育ちの、障害を持った子供の心を洗脳しもて遊び、犯罪の道具にする外道ならばまだしも、被害者の命を奪う。仁義に反する外道はお前の方だったか」
「警察の口から仁義という言葉が聞けるとは思わなんだ。そうだ俺にはもう剣士としてのかつての誇りなどない。俺はただ【救世】のためにすべての罪人を断ずるただの刀、そして我が仇敵を討つためだけに生きる復讐者だ」
「貴様……………」
「貴様ら警察は、いつでも正義だの仁義だのくだらない価値観にとらわれ、物事の本質を見失う。御前という誰の目にも明らかな奸佞邪知の巨悪が存在するにも関わらず、お前たちはそれを看過してきた。お前たち国家の犬が奴らを野放しにした結果、どうなったと思う?多くの影響力ある国民や政財界の要人が御前の送った刺客によって滅ぼされた!かつてのおれも、誇り高き名家の騎士だった。だが…………あの男のせいで…………」
「……………………………………………………」
「おれはやらなばならない。主の無念を晴らすためにと………そして『彼女』の怨念を雪ぐために………御前を殺し、『救世』を成す。もう全てを失ったおれには、他にすべき事が無い!邪魔をするな………無能が!」
オロチは怒りを顕にしている。
「オロチ、」
「なんだ………」
「俺はお前の思う警官ではない。俺も、お前と同じようにこの国の警察機関の世紀末っぷりを嘆いている。取り締まるべきを取り締まらず、権力者どもに安々と買収されて正義を見失う無能どもをな。だが俺は違うぞオロチ。この暗闇の中で俺の目を見ろ。俺はどんな時だって正義だけを見ている」
俺にとっての正義、それは住民を守ること。あいにく俺には買収も誘惑も通用しない。そのために死神となった。俺はこの国では5人といない、公的機関に属する正義の執行官だ。
「…………貴様が追う御前も、俺が必ず捕まえてみせる。この俺を信じろ。だからこそ、限度を超えているお前を止めなければならない」
悪を罰するためにお前まで悪に堕ちる必要は無い。俺が正しい手順を踏んで、真っ当に悪を罰する。それが俺たち警官の役目なのだから。
「……………………………………」
黙って聞いていたオロチだが、すぐに顔を上げた。
「言いたいことはそれだけか。大層なことだ、だがいずれ分かる。貴様らではどうあがいても、究極の解決策にはたどり着かないとな」
「オロチ、貴様……………」
「貴様の信念は確かに見届けた。お前が他と違うことも分かった、その瞳の奥に炎のようなものを見た。だが、今さら貴様らの手助けなどいらない。おれはおれの手で、おれの成すべきことを成す。この怨嗟を貴様に預けることはできん。これはおれの今生きる証であり、おれが一生を以て晴らすべき暗闇だ。救世など大層な目標、おれにはどうでもいいがそれでもおれにはすべき事がある。そして、救世に加担する事が御前へと近づく最短の道ならば、おれは第一に救世を成すべきなのだ。全ては過程…………復讐というおれの大願のための道の一つ。おれの大切な人々の無念を晴らすための犠牲など、いくらでも捧げてやる。おれがいくら罪を背負おうともな…………!」
そうか、それがお前の本性か。
「つまるところ貴様も自身の目的のために他者を踏みつけにする、お前の憎む悪と全く同じというわけだな」
「なんとでも言え、おれ自身が悪に染まってることなぞ百も承知だ。おれが求めるのは正義ではなく復讐だ。貴様とおれでは本質が違う!!!」
長話を通して闇に目が慣れた。これでオロチの姿を掴むことができる。
オロチは再び刀を向けてきた。奴の心を表すような漆黒の刃が闇に溶け込む。昔から色の見分けが得意な俺だからなんとか刃の輪郭を見ることが出来ているが、それでも見にくい。普通の人間には見えないだろう。
「覚悟しろ、死神警官。お前のように分別がつく男は、おれの復讐の道にとって、都合が悪い」
「貴様も外道の一角と見なす。お望み通り、貴様を粛清させてもらう」
そして、この戦いは過去最大の激闘へとつながるのであった。
次回『刀が伸びる………最強の剣士オロチ』