死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察   作:書庫・ラ・オランジュ

18 / 33
刀が伸びる……最強の剣士オロチ

 

 

俺の名前は司馬喬皇平。

 

 

「さぁ、始めるぞ」

 

 

和装の剣豪と相まみえる特殊犯罪対策課の警官だ。

 

敵はこの黒焉街に巣食う、辻斬りオロチ。

 

 

「誰にも見つかることのない暗闇で息絶えろ、」

 

 

暗闇に紛れる日本刀の使い手だ。

奴の周囲は黒い煙幕によって擬似的な闇が生み出される。

その中から自由自在に攻撃してくるのが奴の戦法。いかにも侍のような男だが、その中身は小細工祭りだ。

 

ならばこちらも一つ、楽しみを見せてやらなくてはな。

 

 

「うおーっ!シバさーん!!!」

 

 

闇の中で轟音と共に現れたのは車両を運転するキクリだった。

 

アイツ、ロータリーで迷子になったんじゃないのか。

 

 

「何ッ!?」

 

 

流石に予想外だったらしい。

オロチの意識が横からやってくる車両に向く。

 

 

「そんな分かりやすい隙を晒すな、」

 

 

逃すわけがないだろう。

俺は瞬時に拳銃をオロチに向かって発砲する。

この暗闇だろうが関係ない。お前がさっき長話してくれたおかげで闇に目が慣れた。

お前の戦法は相手の目が闇に慣れるまでに仕留めなければ成立しない。

素人なら辺りが暗いだけでも十分だが俺はそこら辺の武闘派極道などとは違う。

 

 

「チッ…………!!!」

 

 

オロチは轟音と共に、車両で跳ね飛ばされた。

だが、あの音は命に届く事故の音ではないな………

 

 

(まさか銃弾を剣で弾き、車両のフロントガラスを蹴って飛び退いたのか)

 

 

大した判断力だ。受け身が取れていればおそらく無傷。だが、かなりの距離を飛ばされたな。

 

 

「シバさん!」

 

「さすがだキクリ、戻ってくるのが早いな」

 

「はい!道路を逆走して歩道を横切るように走行しましたから!」

 

 

道交法違反で逮捕だ!!!

 

 

「シバさん、あっちは線路です!まもなく電車がやってきます!」

 

 

オロチは線路に飛ばされている。電車に轢かれていそうな気もするが、裏社会に名を轟かせる剣豪が轢死は考えにくい。ここは諦めずに追う。

 

 

「キクリ、住民の保護と応援要請!」

 

「了解です!」

 

 

俺はキクリの車両の屋根に飛び乗り、そこから線路に向かって全力の跳躍を見せた。

 

 

「ふぅぅぅぅん!!!」

 

 

俺は電車の上に着地した。

キクリの指示とピッタリだ。

あいつはミスは多いがこういうことに関しては信頼している。ただでさえ頭が良い上に、最近は鉄道が好きなキクリが電車のダイヤや通過する時間を間違えることはない。

無能だが人に言われるよりは優秀な俺の自慢の部下だ。

 

 

 

 

 

 

 

一方で、線路に吹っ飛ばされたオロチは体勢を立て直した。

奴の正面からは電車が走ってくる。

 

 

 

「──────なっ!?人だ!!!!!」

 

 

運転手は全力の急ブレーキをかけようとしたが間に合わない。

運転手がブレーキハンドルに手をかける前にオロチと接触してしまう。

 

 

「─────そこにいるか、死神警官!!!」

 

 

なんとオロチは電車を避ける準備もせず、突きの体勢を取る。

 

 

「かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

そのままオロチは電車のフロントガラスめがけて刀を突き出し、突入していった。

 

 

「はうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「ぜぇぇぇぇいっ!!!」

 

 

刀はフロントガラスを粉砕し、オロチは運転席へと無傷で侵入した。

さらに運転席の扉を斬撃で破壊し、客席のある車両に乗り込んだ。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

この時間はもちろん帰宅中の一般住民たちがいる。

運転席から当然と現れた日本刀を持った男に全員が悲鳴を挙げた。

 

その時、騒ぎに巻き込まれたのか、赤子を乗せたベビーカーが横転してしまった。

 

 

「しゅっ、」

 

 

オロチは滑り込むようにその真横に躍り出ると、ベビーカーから投げ出された赤子を優しくキャッチし、母親に返した。

 

 

「あ、ありがとう………」

 

「4号車真上。見つけたぞ……………!!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

オロチは真横の窓を突き破って電車の外に飛び出し、外車体を伝い、電車の真上に登ってきた。

わずか2秒程度の動作だが、明らかに人間離れしていた。

 

 

 

 

 

こうしてオロチは一瞬で俺の前に現れた。

 

 

「恐るべき身体能力だな、」

 

「半端な策など俺には通じん」

 

 

まさに蛇のように神出鬼没。

どの藪にも潜み、突如として現れる。

 

 

「ふっ。だがどうだか、ここなら貴様の得意な煙も出せんぞ」

 

 

そうだ、この電車の上まで来たのには意味がある。常に高速で移動し続ける電車の上ならば、煙を撒かれてもすぐに煙の範囲を抜ける。

なるほど、オロチを電車まで跳ね飛ばしたのにはそういう意味があったのかキクリ。

奴は煙を見ていないはずだが、久我の会話だけで全て理解したようだ。さすがの頭脳だ。

 

 

「煙がないからどうした。元より引き出しなど不要だ」

 

 

オロチの闘気が一瞬にして膨れ上がる。

奴は完全に臨戦態勢だ。

ならばとこちらも刀を抜き、拳銃を握る。

もはや戦闘しか道はない。

俺も剣術は修めている。

 

 

「では、お手並み拝見と行くか。ここ街に名を轟かせるほどの剣豪の実力、見せてもらおう」

 

 

 

 

次の瞬間、オロチの方から俺にスタートを切ってきた。

 

 

「笑止!貴様の首を絶ち、この線路の上にばら撒いてくれる!」

 

(踏み込みの勢いは神速の域、目で追うのは不可能だ)

 

 

ならば、踏み込みからのタイミングに合わせて防御に徹する!

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「むぅぅぅぅ!!!」

 

 

その速度と精度は流石だ、だがその威力は大したことがない。

細身の身体は機動力には長けているだろうが小柄で細腕な体型で繰り出せる威力などたかが知れている。

機動力を捨てて全体重を乗せでもしない限り、俺の鉄壁の守りを崩すことは不可能だ。

 

俺は剣撃を受け流し、すぐさまカウンターの斬り上げに繋げる。

 

 

その時だった、

 

 

「遅い!!!」

 

「ムッ!」

 

 

俺の反撃よりもオロチの攻撃のほうが早かった。

 

オロチの手には小太刀が握られていた。

右手の太刀による威力の高い攻撃と、素早い動きによる高い防御力が特徴の小太刀を駆使した隙のない立ち回り。まるで本物の侍のようだ。

 

 

「せぇぇぇりゃぁぁぁ!!!」

 

「カァァァァッ!!!」

 

 

オロチの脇差から横薙が炸裂する。

俺はギリギリを狙ってバックステップで後退する。

 

 

「なに…………!?」

 

 

しかし、脇差は俺の身体を斬っていた。

バカな、たしかに躱したはずだ。この俺が敵との間合いを測り間違えるはずがない。

何か種があるはずだが…………ひとまずは最初に俺が一撃をもらう形になった。

 

 

「下がるな、立ち向かえ!」

 

 

正面から直線に投げられた六角が飛来する。

その全てが弾丸にも等しい速度だが、一発一発のすべてが落命に繋がるほどの一撃だった。

 

 

「ぬぐっ…………!!」

 

 

目に見えるものだけは身体を傾けて回避し、避けられないものは刀で弾いた。

 

しかしその時、

 

 

(何かおかしい。この散らすような、殺意のない軌道の投擲……………伏線か!)

 

 

俺は瞬時に真上を見上げる。

 

なんと、真上から洋風のナイフが降り注いできた。

 

 

「むっ、」

(この男に似つかわしくない洋風のナイフ………)

 

 

俺はこの光景に見覚えを感じ、上から降るナイフへの意識を遮断し、正面に向き直る。

 

 

「行くぞ─────!!!」

 

 

そこには、蛇のように地面を這い、こちらに凄まじい勢いで迫るオロチの姿があった。

 

 

(……………直線投擲の異常な速度、山なりに飛来するナイフ、そして投擲に合わせた突進……………)

 

 

この技──────俺は知っているぞ。

 

 

そしてオロチは俺の目の前までやってきた。

 

 

「フン!!!」

 

 

俺はマントでナイフを全て弾き落とした。

俺がマントのように羽織っているコートは三層構造の防弾防刃加工。外から飛来するナイフ程度は簡単に防いでのける。

 

そしてオロチは再び刀を手に俺の懐へと飛び込んできた。

そして、龍の顎のような強烈な一撃が飛び込んできた。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「せぇぇぇぇぇぇい!!!!」

 

 

俺は今度こそ脇差を回避した。

 

 

よく観察すれば分かった。

よく見ると、光の加減で奴の脇差はわずかに曲がって見えている。

さらに、柄と唾に黒と白の幾何学模様が記されている。

これは目の錯覚を利用した間合い感覚の撹乱だ。

 

なるほど、闇の外に出てもまだ引き出しがあるか!

 

 

「よくかわしたな、だが本命はこちらだ!!!」

 

 

今度こそ脇差ギリギリのラインへ飛び退いた俺に太刀が牙を剥く。

 

 

(こんな奴の遊びに付き合ってやれるか。間違いなくまだ何か隠し持っている!)

 

 

俺は回避することを取りやめ、刀で防ぐ方に意識を持っていった。

 

 

「喰らえぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

その時、俺が見たもの。

 

 

「ほう。やはりまだ引き出しがあったか、」

 

「チッ、全て見切るとは大した男だ」

 

 

それは、柄のギリギリの位置で刀を握っていたオロチだった。

握りをズラす事で拳一つ分のリーチを伸ばしていたのだ。

回避に回っていればまた一撃貰っていたかもしれない。

 

 

「やるな…………だが!!!!!!!!!!」

 

「くっ……………!!!!」

 

 

オロチの一太刀の威力が倍増している。

俺は防いだにも関わらず長い距離を弾き飛ばされた。

細身でありながらずいぶんと力強い一撃を振るう男だ。

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!御前んんんんんん!!!!!」

 

 

その時、オロチは俺に向かって全く関係ない人物への怨念を吐き出す。

しつこい男だ。一体何をされたらここまで怒れるものなのか。

しかし、この怒りが奴を強くしているのは明らかだ。そして、小細工だらけではあるがこの剣術そのものは間違いなく本来の実力だ。

引き出しがなくとも良いという彼の言葉はハッタリではなかった。

そうだな…………間違いなく極道でこいつに届く剣士は居ない、あるいは居ても一人二人、ほんの一握りのみだ。

 

そしてこの投擲技術────先ほどからの高貴そうな立ち振る舞いからして、まさかとは思うがこの男─────

 

 

(いや、判断するには早いか。それに、この男が誰かなのかなどどうでもいい。俺がすべきことは住民を守ることただそれだけ、ほかの物は要らない…………)

 

 

俺は銃を一直線に放つ。

 

 

「ひとまず、足元を散らすとしよう」

 

「シュゥ…」

 

 

オロチの足元を狙った銃弾は鮮やかなサイドステップで躱された。

あんだけキレていたわりには冷静な動作だ。

 

 

「なに?」

 

 

その時、俺が見たのは、

 

 

 

正面から飛来してきたナイフだった。

 

 

「ふん!」

 

 

俺は難なくそれを弾き返した。

 

 

(姿が消えた…………)

 

 

ナイフに意識を持っていっているうちに、なんとオロチの姿が消えていた。

 

 

(ここは電車の上だ。足場は非常に狭く、身を隠す場所もない。一体どこへ行った…………)

 

 

だが次の瞬間、

 

 

「遅い、」

 

「むぅぅぅぅ!!!」

 

 

俺の背後からオロチが刀を振りかぶり飛びかかってきたのだ。

 

そこから繰り出されたのは縦に一回転する強烈な回転斬り。

 

 

「オォォォォォッ!!!」

 

「どっから出てきた………!!!!」

 

 

俺はすんでの所で防いだ。

 

 

「チッ……………」

 

 

だが遠心力で威力が高まった不意打ちを防ぎ切る事は出来ず、手袋を裂いた刃が手首に傷をつけた。

 

 

「おれが見えてないのか?」

 

「なに………!」

 

 

さらに今度は、背後の背後から地面を這って襲いかかってきた。

 

 

「フン!!」

 

 

俺はそれを飛び上がって回避した。

 

 

「おれは八つ首の大蛇(オロチ)。どのような足場でも自由自在に動く、」

 

 

その時俺は確かに見た。オロチが車両の側面を伝って俺の背後に移動する様子を。

なんという縦横無尽な動きだ。壁を伝う蛇か。

それにしても隠密度が凄まじい。闇がなくてもこの気配の薄さ。

そして身を隠す暗闇がなくても、真正面からこれほどの戦闘力を発揮するか。

視界が奪われた状態でこのレベルの戦闘をするのはどう考えても得策ではないしこちら側が圧倒的に不利だ。

 

 

「そしてここで緩急をつける、」

 

 

さらに急角度から伸びる刃が迫る!

 

 

 

 

 

────────だが。

 

 

 

電車が高速道路が走る高架橋下を、交差するように通過しようとしたその時だった!

 

 

 

 

 

「───────あっ、来た。撃つっかなぁ………でもシバさんに当てちゃいそうだしなぁ…………」

 

 

高速道路の上から人影がのぞいていた。

 

 

「当たるかな?当たるかな?んー、行け!お願いシバさんに当たらないで!」

 

 

そして突然、高速道路の真上から銃声が鳴り響いた。

 

 

(銃声……………!!!)

 

 

類まれな力を持って生まれたオロチはその殺気と音で判断した。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

まさかの予想外の襲撃。

だがそれはオロチを射止めるに至らなかった。

奴は銃撃を剣で弾き飛ばした。

 

 

(今のは弾かなければ心の臓を穿たれた………電車で高速通過するおれに寸分違わず小さな弾丸を当てられたというのか…………?)

 

 

オロチは、あまりの異常事態を察して顔が強張った。

しかし、ここまでだな。

流石に予想外の一撃だったようで、オロチの体勢が崩れた。

 

 

「隙ありだ!!!」

 

 

そこに俺の強烈な斬り上げが炸裂する。

 

 

「オオォォォォォ!!!」

 

 

相手は裏社会で敵無しとも言えるだろう一流の剣士。

俺も剣術を修めた身ではあるが、この程度で倒れてくれるほど甘くなかった。

オロチは俺の逆袈裟を受け止めてみせた。

 

だが……………俺は防がれる前提で繰り出している。

防いだとて、袈裟斬りを得意とする俺の一閃を受けて、無事で居られるものか。

 

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

 

俺は止められようともお構い無しに、力で軍刀を振り抜いた。

オロチは剣士としては優秀だがその肉体は剣士にしては軽すぎる。

大柄でもなければ、六車ほどの発達した前腕を持っているわけでもない。

素早さにおいては他の追随を許さないが、パワーならば俺のほうが一枚上手だ。

 

オロチは防御の耐性のまま、衝撃で空中に浮く。

 

 

そして次の瞬間、俺の強烈な上段蹴りがオロチの鳩尾に突き刺さる!

 

 

「喰らえ!!!!」

 

「むぅぅぅぅぅぅん!!!」

 

 

身体をねじって芯を外したか。

空中で咄嗟に、大した動作だ。

 

しかしオロチの身体は高く打ち上がる。

 

そして─────俺の狙いはそれだった。

 

 

空中に打ち上げられたオロチは、高架橋の側面に激しく叩きつけられる。

 

 

「ぐぅぅぅぉぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

これは慣性の法則を利用した一撃だ。

 

─────電車に乗っている人間は、当然、電車と同じ速度で移動している。

なぜなら車内に存在する空気と接触している間は電車に対して等速直線運動を続けるからだ。

空気も電車に連れられて横に移動している以上、たとえ車内でジャンプしても空気抵抗による減速を受けない。

そして俺達は先程まで電車の真上で車両に接触し、運動を続けていた。

オロチが打ち上げられた瞬間も、その慣性が残っていたのだ。

 

電車の走行速度は時速50km前後。

それだけの速度で全身を高架橋にたたきつけられたのだ。等速直線運動の慣性であれば単純計算、発生した衝撃は電車に跳ねられるのと同じだ。

 

高架橋を通過する瞬間にオロチを高架橋の高さまで打ち上げれば、不可避の攻撃が炸裂するわけだ。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!!!」

 

 

事実上の交通事故だ。本来なら原型を留めていなくてもおかしくはないのだが、奴はただ情けなく吹っ飛び線路に打ち付けられただけで済んだ。

 

 

俺は高架橋を過ぎた所で電車から飛び降り、オロチのいる場所へ駆け出した。

 

 

その時、

 

 

「シバさーん!!!」

 

 

高速道路から聞き慣れた声が飛び降りてきた。

 

 

「キクリか。なぜお前がここに」

 

 

降りてきたのはキクリだった。

 

 

「車両で先回りしてきました〜」

 

「そうか。車両はどうした」

 

「高速道路の隅っこに置いてきました」

 

 

 

「何やってんだテメェェェェ!!!」

 

「あばばばばばばばばば!!!!!」

 

 

警察車両を誰にも見張りさせずに高速道路に放置とか何考えてんだこいつ。

 

 

「ふ………フーゴさんを呼びます…………」

 

 

 

メルセデス風悟(ふうご)

この国の警察機関の署の中でも随一の仕事の速さを誇る現場指揮官である。

 

 

「どうやら菊理君がまたしくじったようだね」

 

『電話したら無条件で僕がやらかしたことになるんですか』

 

「君による今月の司馬の番号からの緊急召喚は8回目だ。嫌でも君の事だと思うさ。だが、もう安心だ。私はこうなる事を見越して、黒焉駅に車両を寄越した時に待機部隊を派遣していた。そいつらに回収と交通整理をさせるよう指示しておく、」

 

 

この男の強みは、全て先を見通す慧眼だ。

状況を聞かされれば念には念を入れて完璧に仕事をこなす。あらゆる可能性を想定して動く姿勢はキクリとは対照的だ。

 

 

『すみませんフーゴさん、いつもいつも、』

 

「ハッハッハッハ。なに、可愛い部下のためだ。どうせ司馬にしごかれた後だろう?せめて俺だけは甘く見てやる。司馬には後で言っておいてくれ。『もう少し甘くしろ、って私が言っていた』とな」

 

 

だが欠点があるとすれば、こいつはあらゆる失敗に対して適切に対処できすぎるせいで、失敗を重く受け止めないのだ。そもそも彼が失敗することはありえないし、キクリのしでかし程度、この男にとっては全て想定内だ。だからキクリが何をやらかしても必ず対処できるし、それゆえにキクリに限らず、あらゆる不祥事やミスに対してかなり寛容なのだ。

 

 

「さて、楽しみにしていたエクレアでも食べるかねぇ」

 

 

真に余裕のある人間は怒らないとはよく言うが、この男は余裕がありすぎるせいで誰でも甘やかしてしまうのだ。

しつけがなってなくて暴走した部下も所詮は奴の掌の上だからどうでも良い。

恐ろしいったらありゃしない。キクリを遥かに上回る、底の見えない危険人物なのだ。

 

 

「さて、辻斬りオロチと司馬の戦いはどうなったのかな………っと、」

 

 

すべては奴の掌の上。

奴に見えないものはないし、奴にできないことはない。

時には、知るはずのないことまでも知る。

まさしく裏社会の時空を掌握する者である。

 

 

「『救世』………ねぇ。こりゃ、素晴らしく面白い事になったじゃあないか」

 

 

そして、俺たちの戦いはこの後も続く。

来たる『救世』の時に向かって、裏社会の動向は大きく揺らいでいくことになるのだった…………

 

 

 

 

 

次回『辻斬りオロチ誕生……蛇の生まれた日』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。