死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
おれの名は
巷では『辻斬りオロチ』と呼ばれる人斬りだ。
朔月とは社会的に抹消された名前だ。
表の社会ではおれはすでに死んでいる存在として扱われている。
仙台まで行けばおれの墓もある。
おれが大切にしていたものと共に、霊魂の籠もっていない墓石が今も眠っている。
だがそれは表の話だ。
おれは名を朔月から反町に変え、この裏社会の闇を彷徨っていた。
強情にしぶとく生きるつもりなんてない。
あの日からおれの時は停止している。これ以上の未来はないし、この世に遺したものもない。
ただ…………死ぬ前にやるべき事が残されている。
「御前………………」
「楯突く者は全て消し去る……安寧を築く指導者に求められるのは、反旗の芽を摘み取る冷徹さなのだ、」
して、それは存在そのものが悪の限りを尽くした、奸佞邪知の腐れ外道だ。
数多の名家や政敵を、その恐るべき欲望と権力との力で滅ぼしてきた。
そして、おれもその例に漏れなかった。あの男にすべてを奪われ、おれの人生は破壊し尽くされた。万物には死期があり、その一つ一つは天命である。
だが実際は天命などではなかった。すべては悪鬼の欲で引き起こされるものだ。
事実人間は人間の都合で多くの生態系を破壊しことごとくを絶滅に追い込んだ。
悪欲を抱える人間の理不尽によって、おれたちは破滅を迎えた。
ならば天命などではなく、この怒り、この憎悪だけが真実だ。
これを晴らさぬ限りおれは死ねぬ。
おれと同じく奴にすべてを奪われた者は数多いるであろうし、その心中も察するに余りある。
だが……………奴の首を取るのはこのおれだ。
仙台に眠る、我が愛しき仲間たちの墓前にその
人はおれを辻斬りと呼ぶ。
辻斬りとは通り魔。金品や快楽、嫉妬のために罪なき人々を斬る殺人鬼。
だが、本当のおれはそうではない。
おれが辻斬りオロチとなったのはあの日からか…………
「御前は居ないか…………どこにいる…………」
おれは残された命の全ては御前を討つ事に賭けている。
おれは御前の関係者のいる裏社会の施設を襲撃し、そこにいる霊長を全て斬り捨てていた。
腐ってもこの国の裏権力の頂点を極めた男だ。
内務にとどまることなく、特に護衛が尋常ではない。
一帝国の軍隊を築き上げることもできるだろうほどの護衛が奴についている。
御前の拠点を襲うと必ずと言っていいほど数百の剣客が一斉に斬り掛かってくるのだ。
「───────────くだらん、」
だがしかし、結局どの剣客もおれに傷をつけることもなく死に絶えた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
敵が繰り出したのは強烈な唐竹割り。
この速度、おれが以前斬り殺した御前の護衛隊の幹部も轟くほどのものだ。
もしやこの男も幹部格か?
だが、核ミサイルでも使わない限りおれが死ぬことはない。
「まったく、穢れ多い太刀筋だ、」
「何っ!?」
気がついた時にはすでに背後にいるのだ。
闇に溶け込んだおれに勝てる存在はいない。
「貴様は、何を求めて剣を振るう?多くの人間を斬ったその先に、血と屍以外に何を見る?」
「ぬっ…………!?」
「時間切れだ……………」
「ゲバァ、ァッ…………!!」
これで8人目だぞ。
いったい何人幹部いるんだこの剣客部隊は。
次々と殺されては臨時でコロコロ兵隊長を変えるような三流の剣客部隊ごときに、おれが取れるはずもない。
来世があるならば、煉獄より出直すんだな。
「貴様らがその剣を振るう理由なぞ、たかが銭だと知れている。金欲しさに命の取り合いをする貴様の振るう剣は、闇に溶けない。おれは金も権力もない。おれが命を賭ける理由、それは命以外に賭けるものがないだけのことだ」
おれは人生そのもののために戦っている。
人生とは金銭がなくても成り立つ。
人生の一部たる小銭しか求めぬ未熟者に、人生のすべてをこの黒刃に託したおれに敵う道理はない。
「純白だった太刀を黒刀に染めるほどの憎しみが、貴様らにはない」
憎悪こそが、人を強くする。
憎しみだけが、おれの味方だ。
──────そんなある日のことだった。
「お母さん!!!お母さん!!!」
おれはある夜、子連れの親子を襲い、母親を斬り殺した。
幼い少女が必死に骸を揺さぶるが返事はない。完全に死亡を確認している。何をしようが無駄なことだ。
「許さない…………許さない…………!!!」
少女は泣き叫ぶかと思ったが、涙を浮かべながらおれを真っ直ぐに睨んできた。
「ほう、親を目の前で殺されておいて、おれを睨める度胸があるのか。たいした薄情者だ、」
少女は怒りの顔をしている。
「恨むなよ。その女はおれの追っている悪人と通じていた。紛れもない…………この世に生きる価値のない屑だった、」
「屑ってなに…………なんなの…………この人は…………わたしのお母さんなんだよ!!!なんで…………」
「恨むなら、母親の対談相手か、この世の中のどちらかにするんだな。外道に女子供母親の区別はない。砂も埃も死骸も木屑も、すべて掃き捨てるのが掃除だ」
おれは少女に背を向けて立ち去る。
「許さない……ころす………ころしてやる………!」
だいぶ離れた所で、少女が後ろから憎悪の声を漏らしながら一歩一歩と歩いてくる。
どうやらおれを殺したいようだな。当然か、家族を奪われればそうもなるか。
「───────────────」
だが、その覚悟は、偽りの覚悟だな。
「ひぐぅぅぅッ!!!」
おれは10メートル離れた遠距離から少女を斬り捨てた。
「即死なだけありがたいと思え。おれが求めるのは死という確実な事実だけ。余分な攻撃は求めない」
ただの恨める少女なら見逃していたが、
「貴方が、朔月恩郎智さんですね?」
そしてその時に、おれはあの男と出会った。
「女子供も悪党とあらば切り捨てるその残虐性、気に入りました」
「……………………………………………………ふん、」
目の前からやってきた男の真横をおれは横切って去っていった。
「ここで会ったのも何かの縁です。2つ質問をしてもよろしいですか?」
「───────間に合っている」
淀みのない、若い美男子だった。
「…………………貴方は、悪意を恨んでいますか?」
その青年はおれにそう問うてきた。
おれは足を止めた。
「…………私と貴方は、仲間なのかもしれません」
「────────貴様は何者だ、」
「なぜ娘を殺したのですか?貴方が見たのは、母親の悪事だったはずでしょう」
「娘から淀みを組み取った。母親が殺された時のあの反応からして二人は偽りの母娘であること、銃器を隠し持っていること、それを確信しただけのことだ。本物の親子であれば絶望するか、もっと本物に近しい怒りの眼を浮かべるはずだ」
「ほう。大した慧眼をお持ちのようですね」
青年は少女の亡骸の着ていた服の袖口に手を入れる。
そこから引っ張り出されたのは拳銃だった。
「──────この二人は政界の裏と通じていました。御堂グループの一派として政界を探ろうとして作られた潜入役です。ですが元々は、身寄りのない孤児と女性だったそうですよ。少女のほうは両親に育児放棄されて捨てられ、女性は火事により一家の財産と家族全員を失ったらしいです」
「そんな身の上など関係ない。悪は悪だ」
「ほほう。娘さん御堂グループであることは読めていたのですか?」
「………………何が言いたい、貴様」
「貴方の心には…………まだ【灯火】が眠っている、ということですよ」
青年は笑いながら告げてきた。
この状況で笑っている時点でまともな人間ではない。
「灯火、だと?」
「えぇ。あなたは命のすべてを御堂グループの討伐に費やしている模様ですが…………今回のこと、娘すらも御堂グループの一員だったことを知らない貴方はどうして娘さんを殺したのですか?」
「………………………………………………」
「えぇそうです。この娘にも悪人の淀みを感じたから、ですよね?であるのならば、本来の貴方自身は御堂グループに向いているわけではないのです」
「知ったような口を利くな。貴様も斬り殺されたいか」
「まぁまぁ、それより聞いてください。貴方が恨んでいるのは御堂グループだけではない。貴方は本質的に、悪を憎んでいる…………違いますか?」
「────────────」
「それこそが貴方の中に眠る灯火なのです。自分の仇を討つためだけに燃え盛る怒りの業火の中に、貴方は僅かながらも聖なる炎を宿しているのです。悪そのものを憎む心、それは善を好く心でもある。その清き心は、他者への施しの精神。貴方は狩るべきものを狩る鬼ではない。聖人の心があるのです。そして我々は、人間の悪を滅する事を望む聖者の集まりです。貴方ほどの熾烈な灯火…………貴方のためだけに使い果たされるのは勿体ない。では2つ目の質問ですが…………どうです?ここは悪を恨む者同士、手を組んでみませんか?」
「饒舌な男だな。口調と会話の内容からして神父か?」
「ふふっ。まぁそれに近いものだと思ってください。我々は神様や仏様を崇拝してはいません。我々が崇拝しているのは、貴方のような強い決意と意志を持った人の心に眠る灯火です」
「ふん。そいつが聖火とでも言いたいのか?」
「おっしゃる通り。聖心の灯火には人を変える力がある。そしてその力には、社会的に死に絶えた人間を、アンデッドのように動かすエネルギーがある。そして貴方の灯火の輝きは、世界から聖者以外を抹消する私たちの目的に高い利用価値があるのです」
おれの剣は漆黒の黒刀だ。他人に預けるための剣ではないし、おれは死ぬまで主人は一人と決めている。もう今はこの世にいないとしても我が主は一人だけ。
────────だが、
「包み隠さずにおれを【利用価値】と呼んだな。その素直さといい、【お前】のまるで読めない人間性に苛立ちを通り越して興味が湧いた。全ての人間の心を清らかにするなど愚かにもほどがある夢物語だが…………お前なら、何か大きな事をするかもしれない。どうせ行く末のない、最後はおれとともに土の中に消える剣だが…………これでも名刀紫蘭の光國が打った宝刀だ。せめて世の中の末ぐらいは見せてやるべきか。あの世で仲間の土産話にもなるしな、」
これほどにも読めない男は初めてだ。
明らかに善人ではないしマトモな事をしないだろう。だが、完全な悪意がない。おれが人生で見たことのない、新しい悪意だ。
悪意というより、狂った野望のほうが適切か。
まさかおれに生きる目的を与えるとは大した男だ。かなり気に入った。
「お前の夢が叶うか折れるか、その結末には興味が湧いた。こんな大それた事を言うのだ、何か確信たる根拠があると見た。見守るくらいはしてやろう、」
「では、提案を飲んでくださる………ということで?」
「好きに捉えろ」
「ふふっ。では都合よく利用させてもらいますよ、」
自分の悪意をさらけ出すとは新しいタイプだ。
そこが興味深いし、好みが持てる。
間違いなくおれは魅了され、踊らされて利用されているだけなのだが、それもまた一興ではある。
それに、このまま御前を探しても埒が明かないだろう。世界を掴もうとするこの男ならいずれ御前とも相まみえよう。その未来に投資する価値がある。
「ようこそ、
おれはこの時から、悪を斬る辻斬りオロチとして、生まれ変わった。
バカめ、貴様らの魂胆は読めている。興が乗っただけだ。何と言われようとおれの目的は御前だけだ。おれが晴らすべきはおれ自身の無念よりも…………『彼女』の無念なのだから。
「名を……………
「おれは……………オロチだ……………」
─────俺の名前は司馬喬皇平。
住民を危険にさらす外道どもを狩る特殊犯罪対策課の警官だ。
俺が電車の上で対峙していた辻斬りオロチ。
「喰らえ!!!!」
「ぐぅぅぅぉぁぁぁぁぁ!!!!!」
奴は、高架橋の側面に激しく叩きつけられて電車から転落した。
俺とキクリはオロチのいる場所に近寄る。
「ぐぉッ………!!」
さすがの衝撃でオロチは全身血まみれだ。
なかなか腕が立つ。極道では太刀打ちできないな。一流の殺し屋ですら奴に敵うものは果たして両手を埋めきれるかどうか…………
だがいかんせん細身ゆえに身体が脆すぎたな。
この程度の衝撃で倒れるようではまだまだだ。
「辻斬りオロチ。貴様は何をしにこの街へ来た」
俺は刀をオロチに向けながら尋問を開始する。
キクリは背後でじっとしているがちゃんと録音をしている。
「おれは通り名こそ辻斬りだが、おれは罪なき人間は斬らん、そのような悪趣味はない」
「それはそうだな、」
奴は一度電車の車両に乗り込んでいる。
電車に乗っている乗客を人質に取れば俺に有利をつけたし、逃げることも容易だった。
だが奴はそれをしなかった。子供を斬り殺したことは万死に値するが、それとは別でこの男のやる事には信念や一貫性のようなものを感じた。
俺が国民を守ろうとするのと同じような、強い意志を感じる。
「断っておくが、おれは明確な悪人以外は斬らん。障害だかなんだが知らんが、外道に女も子供も障害者の区別もない。おれは盗みを働き、更生することもなく、まして自身で善悪と進むべき道を定められぬ弱き醜き罪人を斬ったにすぎん。貴様は気が付かないのか?おれと貴様が似ていることに、」
「なんだと?」
オロチは嘲る様子は微塵もなく、むしろ怒りを剥くようにそう言ったのだ。
「貴様の正義とはなんだ。自分の気に食わない者を罪人を捕らえることか?そのためであれば、死神になると口にしてか?」
「貴様は何を言っている」
「おれたちも貴様も、目指すところは同じだ。犯罪者の出ない、犯罪の起きない………平和な国だ、」
オロチは刀を仕舞い、立ち上がる。
ヤツは帯から太刀と鞘を抜き、足元に置いた。
「貴様のやり方ではごく一部の人間しか救えん。だが、救世は違う。【お前】たちよりもはるかに広い範囲の住民を救済し、被害者すら生み出さない。通報を受けて初めて動き出すお前たちよりも遥かに効率的ではないか?」
「くっ………………………………」
「お前もどこかで分かっているのだろう。人間いる限り、人間が欲を持つ限り犯罪は消えない。この国だけでも一億人以上の人間がいる。悪人の割合などたかが一握りだ。だが、これだけの数いれば、当然悪人の数も増える。司馬と言ったな………お前も分かるだろう、もうこの国の警官の機能は廃れているわけだ」
「…………………………………………」
「この国はもう限界だ。右を見ても左を見ても極道………はまだしも、任侠を忘れた暴力のみを成すヤクザ、半グレ、そして政界には悪欲にまみれた外道の山。頼みの綱である警官も、金に目をくらませて真実を闇へと葬る…………この国の警察機関はもう終わりなんだよ司馬。これは対犯罪機関の刷新と効率化だ。お前たち警察に出来なかったことはおれたちが成し遂げる。お前ほどの熱意がある警官はおれは見たことがない。手を貸せ、司馬。過程はともかく、お前が求めるのはおれたちと同じものだ。おれたちが欲しいのは富でも権力でも名声でもない。おれたちが失ったものへの追悼と、二度と犯罪の起きない国の誕生のみだ。国家転覆どを目論んでいるわけでもない」
「……………………………………………………」
「拷問士といいお前たちといい、どいつもこいつも視野が狭い。無限と増えてゆく被害者だけを救おうなぞ愚の骨頂。毎秒3つ行われる犯罪を、1つだけ解決しても世界の犯罪は増えるばかりではないか…………お前たちの後釜にはおれらが座る。お前たちはそれなりに頑張った。だが、もうお前たちも時代に置いていかれた。お前たちは悪泉に染まりすぎた。たとえお前ほどの強い信念と正義感があっても、無意味な警察機関の元では腐り果てるだけだろう。それはおれにとっても勿体なく感じる。だからこそ、お前はおれたちの元で輝くべきだ」
たしかに、俺のやり方では通報を受けた目の前の住民しか救えない。
であれば通報もできない被害者たちはどうする?俺の手の届かない場所にいる被害者はどうなる?
俺は…………………間違っていたのか?
「ふ、ふ…………………」
その時、彼の顔に鬼が宿る。
「ふざけるな!!!警察が無意味だって……!?なんでそんな事言えるんだよ!!!」
それはなんと、俺の後ろで黙って話を聞いていたキクリだった。
「お前は知らないだろう………!!シバさんがどんなに頑張っているかを………!!シバさんがどんな気持ちでいつも戦っているのかを………!!」
「…………………」
「たしかにお前は救われなかったのかもしれない………でもシバさんは僕たちを助けてくれた………!!僕だって木ノ葉ちゃんだって、シバさんに守られたから今を生きてれている………!!僕
は、僕たちを助けてくれたシバさんに憧れて警官になったんだ!警察はな………僕らを救ってくれた、憧れの………自慢の場所なんだよ………!!!」
激昂するキクリの目には涙が浮かんでいた。
オロチはそれに対して無言を貫いていた。
「だいたい………警察は犯罪者を捕まえる人のことじゃない!警察とは、国の治安を守り、そこに住まう人々の笑顔を守るものだ!シバさんは、悪いやつを倒すだけじゃない。僕たちのように、悪人に人生を壊された被害者に手を差し伸べ、道を示し、希望を与える…………だから全然違う。誰かに勇気矢希望を分けるなんて…………お前らにはそんな事、逆立ちしてもできるもんか!」
「キクリ……………」
「お前みたいな、ただ他人に八つ当たりしてるだけのようなクズが、僕たちの夢を足蹴にするんじゃねぇ!」
キクリは腹の底から叫びきった。
その瞳の奥には俺と同じような、強い意志と信念の光が見えた。
「………………………………………」
オロチはキクリを強く睨む。
こんな奴、この男にとっては取るに足らない存在だが、今たしかに俺は、オロチがキクリに敵意を向けたのを感じた。
キクリの意志の強さは、もうこれほどの強敵にも敵うほどになっていた。
「ひっ…………!」
とはいえ、まだまだこの圧に対して恐れは忘れられないか。
まぁ、無理もない。相手は裏社会でも指折りの剣豪だ。
「よく言ったな、キクリ。成長したじゃないか。オロチ、俺たちの目的は犯罪者を捕らえることではない。この国の警察機関が腐りきってることなど、お前なんぞより警官である俺のほうが深く理解している。お前の考えていることが大方正しいこともわかる」
「…………………………………………」
「だが、それでも俺たちは目の前にいる住民を守る。大事なのは罪があるかではない。俺は住民を守るためならば、正義の敵にもなる。俺は正義などどうでもいい、俺が信じるのはこの国の秩序と俺の自身の信念だけだ。騙され利用された無辜の民の命を無慈悲に奪うお前のどこに秩序がある!お前たちの目指す先に、俺たちの求める国はない。ゆえに、お前と俺は全く違う、むしろ正反対だ。ここは大きく否定させてもらうぞ」
「そうか…………やはり相容れぬか、」
オロチは血まみれの身体で立ち上がる。
「無駄だ。お前が今から抵抗してもその身体では即死するぞ」
「あぁそうだろうな。だが、おれの目的はお前たちではない。対峙してわかった。お前たちは罪人ではないし、無能警官とは違うようだな。だからおれはお前たちにもう用はない。おれの姿も、ここで見納めだ」
その時、オロチは床に置いた刀を勢いよく蹴り飛ばしてきた!!!
蹴り飛ばした鞘から刀が抜ける。
「ハッ!!!」
俺は飛来する刃を叩き落とす。
しかし、その瞬間を突いてオロチの周囲が再び闇に飲まれる。
「おのれ…………!」
(しまった、完全に出遅れてしまった………!)
オロチは闇の中で勢いよく後方にバックステップ。
瞬く間に闇に溶けてゆく。
「ま、待て!!!!」
キクリがオロチに向かって一直線に駆け出す。
「阿呆が、」
その時、オロチが後退しながらナイフを投げつけてきた。
「ぐぅぁっ!!!」
そしてなんと、そのナイフの刃がキクリの左脚を貫いてしまった!
「キクリ!!!」
「いや…………僕は大丈夫ですから、早く………!」
「くっ…………すまないキクリ!」
俺は闇をかき分けてオロチを追いかけようとした。
「無駄な事だ…………所詮お前では闇の中にいる俺を捕らえられん。だが、お前たちの事は障害と見なそう。次におれの邪魔をするのならば………本気で斬らせてもらおう」
「剣士なら勿体ぶるな。今ここで本気を出してみろ」
「あいにく、愛刀を置いてきたのでな。それに、お前と斬り合えば五体満足では帰れまい。それてわは非合理的だ。おれはすべき事をするまでだ。今、昔も…………」
くっ…………………どこにいるか、まるでわからん。
声が闇に反響するせいで座標を感じ取れん。
気配も音も影もない。まるで霞に紛れる忍びのようだ。
「さらばだ、かの有名な死神警官。出来ればお前とは二度と会わない事を」
オロチの声は遠のき、やがて消えていった。
「おのれ………………」
辻斬りオロチ、貴様は次こそ必ず捕らえる………
オロチを取り逃した後、俺はキクリの元へ戻った。
「し、シバさん………その様子だと、辻斬りオロチは逃がしちゃいましたか………」
「キクリ、大丈夫か?」
キクリの脚にはオロチが投げたナイフが深々と突き刺さっていた。
見事に血管と脛の骨を一気に貫いている。あんな咄嗟に、暗闇の中でこんな正確な投擲…………恐るべき精度だ。
俺はキクリに応急処置を施しながら脚に刺さったナイフを見つめる。
「…………………見てみろキクリ。このナイフを、」
先ほどから気になっていた。
オロチは和服に日本刀といういかにも古典的な侍の姿をしていた。
だが、奴が投げるナイフ。
「……………………あっ!」
キクリもそのナイフを見て声を上げる。
「このナイフ…………木ノ葉ちゃんの………!!」
なんとキクリの脚に突き刺さったナイフは、俺のメイドである木ノ葉のものと同じ装飾の投げナイフだった。
まるでイタリアかフランスの古い貴族の骨董品かと思うほどのこの美しい装飾。見間違うはずもない。
「なんであいつが………!!」
「わからん。だが……………」
俺はキクリに肩を貸して立ち上がらせる。いつまでも線路の上で座り込んでいては危ないし、交通妨害になる。
ひとまず周囲に敵はいないので撤退を図る。
「一つ言えるのは…………オロチは、ただの剣士ではないという事だ、」
オロチは一つの謎を残したまま俺たちの前から消えた。
手がかりは一本残された木ノ葉のナイフ。
俺は疑問を抱えながらも、脚の動かないキクリを支えてその場を立ち去った。
そしてこの後、俺の前でもう一悶着巻き起こることになる。
「悪いやつを庇うやつも悪いやつだから死ぬべきって話ぃい!」
「お前うるせぇな………人の話聞けない奴が話とか言うなって話、」
俺たちの前に一人の狂人が立ち塞がる。
そいつは手に電動ノコギリを持ち、今にもこちらに襲いかかろうとしている。
「空気で分かる。お前、低学歴な上に力もないだろ」
「はぁ?なぁに言ってんのよ、」
そしてその男と睨み合う奴がいる。
その男こそ───────
「俺たち、自分より頭悪いやつに舐められるの嫌いなんだよ、雑魚が…………」
目の前の男を見下すような冷たい表情を浮かべたキクリだった。
次回『逸般人VS切断王………菊理、裏の人格』