死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察   作:書庫・ラ・オランジュ

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逸般人VS切断王………菊理、裏の人格

 

 

俺の名前は司馬喬皇平。

 

 

「お前みたいなイキり素人が、なに司馬さんに噛みついてんだよ………」

 

「はぁ〜?素人はそっちの方だろって話ぃ、」

 

(参ったな………今ここで起きるとは………)

 

 

地元の殺し屋と睨み合う部下を心配そうに見守る特殊犯罪対策課の警官だ。

 

 

 

 

 

 

事の発端は、俺が傷を負ったキクリを背負って、京極組の久我と六車の元へ戻っていた時の事だった。

 

 

 

キクリはこの直前、辻斬りオロチの投擲によって左脚を負傷してしまった。

 

 

(阿呆が、)

 

(ぐぅあっ………!!)

 

 

結局そのまま辻斬りオロチの身柄は逃してしまった。

 

 

 

 

 

その後キクリは俺に肩を預けてなんとか引きずられていた。

 

 

「キクリ、もう少しで工場まで戻れる。痛むところはないか?」

 

「────────────」

 

 

キクリはこてーんと眠っている。

すぐに止血したとはいえ左脚から大量に出血し、そもそも今日が忙しい上に寝不足も重なり眠ったのだろう。

 

 

「はぁ、」

 

 

まぁいい。今日はいちおう、こいつの活躍が大きくあったからな。

 

 

 

そんなとき、俺の横に奇妙なものが映った。

 

 

「子供にヤクをばらまくクズ野郎がよぉ、死ねよぉ!!!」

 

「ごぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

路地裏の方から叫び声がした。

 

 

(殺戮か!?)

 

 

その音と会話の内容からして、明らかに殺人事件が起きている事が察せられた。

 

俺はキクリを連れたまま、大急ぎで路地裏へと突入する。

 

 

そこに広がっていたのは─────

 

 

見るも無残な光景だった。

 

 

「生きる価値のねぇゲスに、手足なんていらねぇって話ぃいいい!!!」

 

「ごぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」

 

 

なんと、路地裏の先では、7人ほどの男を相手に、一人の男が殺戮を繰り広げていたのだ。

 

紫色の髪の謎の男からはあまりにも濃厚な死の気配。相当な人間を殺してきているに違いない。

 

さらに、奴の手に握られていたのはなんと電動カッターだった。

 

 

「下離羅………つったっけ?お前らみてぇなカス、俺は許さねぇぞ………こんなゲスな事してるのは誰だ?今すぐ言え、」

 

「ひっ、言う!言うから………!!!」

 

(何っ…………下離羅だと………?)

 

 

奴は今たしかに、この屍の山となった男たちが下離羅と口にした。

 

 

「残念時間切れでーす!!!お前は真っ二つになれよ!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

電動ノコギリが半グレを上から下へ真っ二つに切り捨てる。

これであと一人だ。

 

 

(まずい、一人は生け捕りにして情報を吐かせなければ………!)

 

 

俺は怪しい男に向かって迷うことなくまっすぐ走り出す。

 

 

「あと一人になっちまったなぁ。んで?どうするつもり?」

 

「ひぃ………ゆ、許してください…………」

 

「だめだね。子供にヤクばらまいといて、自分だけ助かると思ってんじゃねぇぞ」

 

 

男が電動ノコギリを振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

だが次の瞬間、

 

 

「待て!!!」

 

「あん?」

 

 

俺は電動ノコギリを振り下ろそうとする男の腕を掴んだ。

 

 

「……………なにお前、なに邪魔してくれちゃってんの………?」

 

 

男は狂気にまみれた瞳で俺を激しく睨んできた。

 

 

「申し訳ないが、その男の身柄を譲ってくれんか。この男から聞き出したい事がある」

 

 

ただならぬ狂気を醸し出す男に対して、俺はなるべく刺激しないように丁寧に声を掛ける。

 

しかし……………

 

 

「オラァっ!!!」

 

「ぬっ…………!」

 

 

奴は俺を蹴り飛ばし、腕を振りほどきながら俺に向かってカッターを振り下ろしたのだ。

 

 

「ま、待て!俺は警察だ!事件を追っているだけだ、その男は重要参考人として捕縛する!」

 

「ぐちぐちぐちぐちうるせぇよ……………こいつは俺が捕まえたんだよ。こいつら何してるか知ってんのか?施設の子供を襲って、ヤクばらまいたりしてんだよ…………そんなゲスども、今すぐこの地球から消したほうが良いって話ぃい!!」

 

 

男は俺に向かって怒りと恐怖に包まれた鋭い視線を向けてくる。

 

その顔を見て俺は一つ心当たりを思い浮かべた。

 

 

「まさか貴様、切断王・新城か!」

 

「よく知ってんじゃん。じゃあ王様の邪魔しないでくれよ、なぁ?」

 

 

 

 

 

 

この男は竜桜町を中心に活動するフリーの粛清屋、新城杏太郎(しんじょうきょうたろう)だ。

 

 

「カッターっていいよなぁ!!ナイフみてぇに温かみがねぇんだからよぉ!!」

 

「ごぎやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

街の治安を乱す外道を電動カッターで切り捨てるその狂人ぶりからついた異名は『切断王』。

紛れもない狂人であり、武闘派だ。

 

 

 

 

 

 

「貴様の拠点は竜桜町だろう。なぜ黒焉街まで来ている」

 

「いちおう町は近いからなぁ。それに、ヤクの売人の話となりゃあ俺はどこまででも行ってやるさ、」

 

 

この男の有名なエピソードとしては、どうやら違法薬物とその売人を激しく憎んでいるという話のようだ。

下離羅が違法薬物に手を出しているという話は初耳だ。いや、半グレなら触りはするだろうがまさか子供たちに薬物を強制的に使用させるとは。

なるほど、薬物の脳に与える効果で洗脳しようとしていたわけか。

 

 

(畜生、こいつぜんぜん吐かねぇな)

 

(シバさん、知ってますか?弾薬って洗脳に使えるんですよ!自白剤にしてやりましょう!)

 

(どうした急にそんなこと言い出して薬やってるのか?)

 

(やってませんしひどくないですか!?)

 

(そうかお前は平常運転で頭がおかしいのか)

 

(今でも紛争地帯では攫われた子供を兵士にするって文化があるんですけど、その手口知ってますか?まず目隠しするでしょ?そのままよくわからん子供に引き金を引かせるでしょ?それで目の前の子供を殺させるんですよ。そして、ショック受けてる子供の手のひらにナイフで傷を入れてそこに弾薬をすり込むんです。そうやって子供兵の洗脳が行われるんですよ!)

 

 

そういや、キクリがそんなことを言っていたな。

なるほど、子供を利用して犯罪を行う奴らならば、それぐらいの悪行は働いてもおかしくないか。

 

 

「新城、お前の気持ちはよくわかる。だが、一旦落ち着け。この組織を一気に袋叩きにするには情報を吐かせるしか………」

 

 

俺は新城をなだめようとした。

だが、かえってそれは裏目に出てしまった。

 

 

「何いってんだよ………テメェに俺の気持ちが分かるかよ!!!」

 

 

新城は完全に火がついてしまった。電動カッターを手に俺に飛びかかってきた。

下離羅の構成員のことはもはや眼中にない。今のターゲットは完全に俺だ。

 

 

「ま、待て………!!!」

 

 

次の瞬間、新城が俺の懐に突入し、素早く電動カッターを振り回したのだ。

 

 

「ヤクをばらまくやつをかばうやつは死んだほうがいいって話ぃい!!!!」

 

「落ち着け!!お前と戦うつもりはない!!」 

 

 

電動カッターと俺の刀が激しく交差する。

だが俺は右半身でキクリを支えている。

人一人を抱えつつ、左の腰に差している刀を左手で抜いて戦うのは困難だ。

 

 

「なかなかな剣圧とスピードだ………」

 

 

圧倒的に不利な体勢とはいえ、俺が防戦一方に押し込まれる。

あの回転力のカッターで切れれればただでは済まない。チェーンソーと何ら変わりない。

いや、それより俺よりもキクリだ。

ただでさえ怪我をしているのに、ここでカッターに巻き込まれようものなら、命すら危うい。

 

 

「キクリ、すまん!」

 

 

俺はキクリを優しく背後に投げ飛ばした。

眠ったままのキクリは、何の受け身も取れずに地面に打ち付けられた。

だがいちおう内臓や頭部にダメージのない、最小の威力にした。大丈夫なはずだ。

 

 

「悪いが、さすがに無力化せざるを得ない!」

 

「ふぅぅぅぅん!!!」

 

 

両手が空いた俺は、右手で一度新城のカッターを止め、左脚で蹴り飛ばして距離を離した。

 

 

「ガァァァァァ!!!」

 

 

その時、新城のカッターが俺のマントを切り裂いた。

なんという威力だ。このマントは防刃加工、それも通常とはレベルの違う特殊加工だと言うのに。

 

 

「許さねぇぞ…………ヤクをばらまくゲスは………一人もなぁ………!!!」

 

 

完全に我を忘れている。

薬物で何か酷い目に遭わされたことは伝わるが、完全に俺からしたらとばっちりだ。

俺は薬物とは何の関係もないというのに………!

なぜこんなことに………!

 

だがこの怒りを収めることは不可能に等しい。

不本意だが、死なない程度に無力化させるしかないか………

 

 

 

そう思ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………黙って寝ていりゃぁ、さっきから騒がしいな………」

 

 

俺の背後から、小さく声がした。

 

 

「ま………まさか………!!」

 

 

俺は最悪の可能性を想像して後ろを振り向いた。

その瞬間、

 

 

「何戦ってる最中に背中向けてんのって話ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

新城が俺の背中めがけて飛びかかってきた!

 

 

「………………しまった!余所見を、」

 

 

しかしその刃が俺に届くことはなかった。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!!!」

 

 

銃声とともに、新城の左肩が激しく爆ぜた。

衝撃で新城は2、3歩後退する。

 

 

「おいクソ紫、テメェ人の話聞け。その人は薬物関係ねぇつってんだろ」

 

 

俺の背後からやってきた人物は、俺の真横を通り抜け、新城の前に、俺を守るように立ち塞がった。

 

 

「これだから頭悪いやつは…………」

 

 

なんとキクリは、新城に対して一切の恐れも見せずに、強く睨みつけていた。

 

 

「はぁ……?何いってんの……頭悪いのはテメェだろ……?」

 

 

キクリに腹を立てた新城が電動カッターを握りしめる。

 

 

「悪いやつを庇うやつも悪いやつだから死ぬべきって話ぃい!」

 

 

新城は豹変したキクリに強烈な圧をぶつける。

電動カッターが凄まじい勢いで回転していく。

 

 

「お前うるせぇな………人の話聞けない奴が話とか言うなって話、」

 

 

そして豹変したキクリは、新城に向かって圧力で返してきた。

何も知らない者であれば、普段のキクリからは想像もつかないだろう。

 

 

「空気で分かる。お前、低学歴な上に力もないだろ」

 

「はぁ?なぁに言ってんのよ、」

 

 

キクリには特別な能力がある。

それは、キクリが気絶や睡眠によって意識がない状態の間、裏の人格が出るというもの…………

 

 

「【俺たち】、自分より頭悪いやつに舐められるの嫌いなんだよ、雑魚が…………」

 

 

キクリが拳を握りしめ、右手で新城に向かって手招きをした。

それは完全に新城と戦闘をするという合図だ。

 

 

「待て【騏一郎(きいちろう)】!お前が出る必要はない!」

 

 

まずいぞ、ここで出てこられたら、取り返しのつかない事になる………!

俺はなんとか彼を制止しようとしたが、間に合わなかった。

 

 

「お前、自分が薬物ばらまく奴よりクズだって事自覚しているのか?」

 

 

騏一郎は薄ら笑いすら浮かべることなく、まっすぐに怒ったように新城を挑発する。

 

 

「……………テメェ、今俺に向かってなんつった、」

 

 

その時、新城から表情が消えた。

新城にとってこれ以上とない地雷を踏んだ。昔からキクリも騏一郎も、挑発だけ無駄に強い。

 

 

「やっぱお前許さねぇわ。シンプルにぶち殺すわ」

 

 

新城がキクリに向かって勢いよくスタートを切った。この容赦のない詰め、間違いなく本気だ。

新城の全力の踏み込みは、裏社会に名を轟かせる始末屋として不足ないものだった。

 

 

「騏一郎──────!!!!」

 

 

菊理弥二郎は、弥二郎の意識がない間は…………

 

兄…………菊理騏一郎と人格が交代する。

 

 

まずい、取り返しのつかない事になった………!

 

 

 

 

 

「シィッ…………」

 

 

主に……………新城の方がな。

 

 

騏一郎の左脚にはナイフが刺さった傷がある。

左脚はほとんど動かせない。

このスピードに、片足で追いつくのは不可能だと思われた。

 

 

しかし、騏一郎は、残った右足を前に出す。

 

 

「あぁっ…………!?」

 

 

騏一郎の身体は右側に出て、それによって新城の刃は示し合わされた演技のように外れていった。

騏一郎の身体も髪も衣服も、一切かすめもしなかった。

 

 

「裏社会を知らねぇ青ガキが…………」

 

 

騏一郎は地面を割れんばかりに強く踏みしめる。

 

 

「警察に噛みついてんじゃねぇぞ!!!!!」

 

 

次の瞬間──────

 

 

「─────────フッ!!!」

 

「グゥゥゥゥォォォバァァァァッ!!!!!」

 

 

新城の刃と真っ向から交差するように、騏一郎の強烈な一打が炸裂した。

繰り出されたのは単純な心臓打ち。

 

 

「ゲ………バァッ………ガ!!!」

(クソ………ッタ………レ…………肺と心臓が…………)

 

 

しかし、そのたった一撃によって、新城の身体機能が大きなダメージを受けた。

心臓と肺が、騏一郎の一撃で激しく圧迫された。

肺の中に溜められていた空気が逆流し、新城は呼吸困難に陥る。

 

 

「大振りの一撃には、必ず筋肉や関節の動作に伴って肉体に弛緩が生まれる。そこを攻撃すれば、俺みたいな細身だろうがテメェみてぇな素人の身体ぐらい、一発で破壊できんだよ」

 

 

そのまま騏一郎の右足が振り上げられる。

爪先が新城の右脇腹にめり込む。

 

 

「アガァ、ッ…………!!」

(ヤッベ………内臓、全部潰されんぞコレ………!)

 

 

新城は胃液と逆流した血の混じったものを口から大量に吐き出した。

 

 

「何の切断王だ?ネトゲの回線か?」

「ガァァァァァァァァ………………!!!」

 

 

騏一郎は左手で新城の髪を掴み、軽々と新城の肉体を吊り上げる。

 

 

「テメェみてぇな礼儀も作法もねぇ素人のクソガキが、イキって粛清屋とか名乗ってんじゃねぇ!!!」

 

 

そのまま騏一郎は路地裏の奥に向かって新城もろとも凄まじい勢いで突入していく。

その踏み込みの速度、加速度は新城の踏み込みをも圧倒的に上回る。

 

 

次の瞬間!!!

 

 

「一旦、頭蓋骨潰しときな!!!」

 

「グボォォォァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

騏一郎は新城の後頭部を路地裏の壁に勢いよく叩きつけたのだ!!!

 

路地裏の壁に巨大な亀裂が入り、コンクリートの壁が一部はがれ落ちた。

割れた後頭部から赤い鮮血をまき散らしながら、新城はなんの受け身も取れずに破壊される。

 

 

「が………ボォ………ァ…………」

(何が…………起きたんだよ…………今…………)

 

 

そのすべての動作が最速。

新城が心臓打ちのダメージを感じ取った頃には、すでに内腹斜筋と頭骨と後頭部が破壊されていたのだ。

何が起きているのかは、騏一郎本人と、外野から見ている俺ぐらいにしかわからない。

 

新城は成すすべなく、手も足も出ることなく騏一郎の前に、無様にも敗れ去った。

まるで本職に因縁を吹っかけて分からされるチンピラのようだ。

 

 

「終わりだ、」

 

 

さらに騏一郎は最速かつ最大威力で目突きを繰り出す。

これが当たれば、眼球は永久に治らないまでに破裂する。

 

 

 

 

とはいえ──────ここまでだ。

 

 

「そこまでだ騏一郎!!!」

 

「むっ……………!!!」

 

 

騏一郎は慌てて指を閉じる。

 

 

「ガァ、お………!」

 

 

騏一郎の繰り出した目突きは、騏一郎の調整によりギリギリで目を避けて、眉間に突き刺さった。

突き刺さった指を騏一郎は強引に抜き取る。

 

よし、なんとか止まってくれた。

 

 

「お前、俺より頭悪い上に弱いとか、取り柄ゼロかよ。生きる価値なし、」

 

 

そして室外機に向かって新城を乱雑に投げ飛ばし、地面に落ちた電動カッターを粉々に踏み壊した。

 

室外機は一発で破壊された。

……………止まってくれたと思ったのに、そのあとがだいぶオーバーキルだ。

 

 

「…………それで?なぜやめるんですか。コイツは司馬さんに噛みついたんですよ」

 

「やっと俺の言う事聞く気になったか。久しぶりだな騏一郎」

 

「えぇ。何日ぶりかは忘れましたが、」

 

 

では改めて説明しよう。

 

 

 

 

 

この青年の名は菊理騏一郎(きくりきいちろう)

菊理弥二郎の兄であり、キクリのもう一つの人格だ。

 

 

キクリは後天性の『解離性同一性障害』という障害を持っている。

解離性同一性障害とは、一つの肉体の中に複数名の人格を持っている人間の症状に与えられるれっきとした障害の名だ。

俗に言われる「多重人格」というものだ。

 

解離性同一性障害が発生する要因は様々だが、キクリの場合は後天性のショックにより無意識下で人格を複製、生成することによって自己を逃避させて心身を保護するという運動によって発生したものだ。

 

つまるところ、本来の人格は騏一郎であり、後から騏一郎が自分の心を守るために生み出した人格が弥二郎だ。

ちなみにこの後天的なストレスやショックから自身を守るために人格を増やすという反応は実際に複数のケースが存在しており、解離性同一性障害者の中でも特に多い症状と原因の一つになっている。

 

 

(ひぃぃぃ………っ!!僕じゃ無理無理無理無理!!シバさん助けてくださーい!!)

 

 

弥二郎は明るく優しく、弱く頼りない。

 

 

(テメェ………俺の尊敬する司馬さんに噛み付いてんじゃねぇよ………消されてぇのか………?)

 

 

騏一郎は陰気で攻撃的で、あまりにも自我が強い。

 

 

いい感じに正反対な性格をしている。

騏一郎は人と話すのが苦手な性格のため、ふだんは弥二郎が表にいる。

キクリは無意識下でのみ戦闘が可能であり、無意識に覚えた技を使用したり、眠っている間に記憶を整理する、眠っている間に起きたこともある程度把握している、膨大な記憶力があるなど、無意識下で様々な事を可能としているが、これは片方が無意識下の間にもう片方が動く事が出来るという彼の体質を応用した物だ。

 

キクリはほぼ一般人に等しい戦闘能力でありながら、銃弾を軽々とかわしたりするのは、本能的にすり込まれた騏一郎の戦闘技能から来るものだと俺は推察している。

 

 

 

 

 

「わかったわかった。お前はムカついたんだろう。だが俺は気にしていない。危害を加えられたのは事実だが、殺害する必要もあるまい」

 

「なるほど。じゃあ二度と立ち上がれないように両足だけは潰しておきます」

 

「もういいからやめておけ、流石に可哀想だ」

 

 

こいつに任せたら本気で新城の身体は使い物にならなくなる。

切断王としてのキャリアどころか、そもそも生きることすら困難な肉体になりかねない。

 

 

「情とかそういうのは不要です。新城を生かす事、ないしは五体満足に返すことは貴方に危害を与えさせないという事への合理性にかなっていない」

 

「騏一郎。いつも言っているだろう。俺たちのすべきことはいつも住民を守ること以外にはない。コイツを殺した所で住民への危機がなくなったわけではない。それに、どうやら勘違いから俺を襲っただけで、コイツ自身は悪人というわけではなさそうだ。薬物をばらまく外道を切り捨てるならば、勝手にやってもらった方が合理的だ」

 

「なるほど、一理ある。…………了解、」

 

 

騏一郎は引き下がった。

 

 

「司馬さんへの邪魔はなくなった。もう弥二郎と交代していいですか」

 

「そう気を遣うな。帰って木ノ葉にも挨拶しておけ」

 

「結構です。自分が表に出ることはほとんどないので」

 

 

騏一郎は頼りにはなるが、意外と警察としては微妙なところだ。それに、キクリと比べてあまりにも気難しすぎて俺ですら制御不能なのだ。

俺以外の人間の言うことは一切聞かないし、俺以外には頭を下げない。俺の言うことですら、彼自身が気乗りしなければ普通に拒否する。

やれやれ、使えなくても素直に指示は聞いてくれるキクリとどっちがいいのやら。

 

だが…………意外にも弥二郎の事は気にかけているようで、弥二郎の願いならわりと聞くという風に弥二郎から聞いている。

 

 

「冷たい奴だ………警官になりたいと言い出したのは騏一郎のほうだろう。警官ならば周囲と関わりを持たなくては」

 

「くっ…………女は苦手だ…………しかも弥二郎の女と仲良くつるむなんて…………」

 

 

騏一郎は地味に顔が整っているせいで、学生時代はよく女子に囲まれていたそうだ。

一人で勉強するのが好きだった騏一郎かすると迷惑極まりなかったのか、どうやら女性は苦手ならしい。

やれやれ、キクリなら大喜びだろうに。

 

 

「木ノ葉は結婚願望がないから誰の女でもないって前々から言っているぞ」

 

「…………仕方ない………」

 

「久我は今から病院行きだろうから合流は難しいだろう。今日は帰るぞ、六車と久我には後で連絡しておく」

 

 

今日は色々とあった。

下離羅の構成員との戦闘。

正体不明の剣豪、辻斬りオロチの乱入。

粛清屋、新城との遭遇。

 

 

「司馬さん、帰る前にメンタル補強がてら何かジュースおごってください。弥二郎のぶんも」

 

「はぁ…………がめつい所だけは交代しても変わらんなお前ら…………」

 

 

だが俺にとって一番の収穫だったのは、部下の成長だった。

 

 

(だいたい………警察は犯罪者を捕まえる人のことじゃない!警察とは、国の治安を守り、そこに住まう人々の笑顔を守るものだ!お前みたいな、ただ他人に八つ当たりしてるだけのようなクズが、僕たちの夢を足蹴にするんじゃねぇ!)

 

 

あの時のキクリには確かに炎が宿っていた。

 

 

「フッ……………二流が、」

 

「何笑ってるんですか司馬さん。そんなに極めて嬉しいことが」

 

「なに、極めてってほどではないさ」

 

 

こいつもいつかは俺の元を離れて一人でやっていかなくちゃならない。

それまでに、コイツが一人でもやっていけるように俺が見守ってやらなくてはならない。

その時がいつ来るかはわからないが、徐々に成長はしているのだから今は長い目で見ていくとしよう。

 

 

「俺も弥二郎も、貴方に助けられてこの世界にやってきました。弥二郎は俺に巻きこまれただけなのに、本気で警官をやりたいと言ってましたよ。そりゃ警察学校は俺が表だったので弥二郎には才能も素養もないかもしれない。けれども、弥二郎なりに頑張りもある。俺のために付き合って踏ん張ってるんです。失敗ばかりだけど、もうちょっとだけあいつの面倒見てやってください」

 

 

騏一郎は俺の考えていることを読んだかのようにつぶやいた。

 

 

「良いんだよ。別に何もしてないわけじゃないし伸びしろがないわけでもない。成長するのなら、それが上司の一番の喜びってもんだろう」

 

 

もし俺が住民を守ること以外に生きがいを見出すとするのならば、キクリ兄弟が成長する過程を見守る事だろうか。

 

 

ま、俺は住民の保護をするために死神に魂を売った。いまさらこんな役立たずに賭ける魂なんてないが、せめてコイツの顛末見届けて、行き詰まったら何か野垂れ死なない程度のサポートはするつもりだ。

 

 

「そうだろう………摩須田(ますだ)…………」

 

 

俺は夜空を見上げ、かつての仲間を想う。

 

 

 

だが、これで事件は終わりではない。

下離羅を再建させようとしているをリーダーを捕らえ、これを壊滅させる。

それまで俺たちの戦いは終わらない。

 

この事件の行方は、また明日へと持ち越されることになるのだった………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………まさか俺が素手で瞬殺されるなんてな…………こりゃあ、面白ぇことになってきたなって話」

 

 

 




菊理騏一郎
Kikuri Kichiro

菊理弥二郎の兄、そしてもう一つの人格。
弥二郎は騏一郎が解離性同一性障害という、いわゆる多重人格と呼ばれる障害によって後天的に生み出した人格。
そのため本来、表の人格は騏一郎であり、弥二郎は裏の人格。だが騏一郎が無口で滅多に表に出ようとしないので、肉体の主導権は基本的に弥二郎に譲られている。
穏やかで明るい弥二郎とは対照的に、非常に気が短く暴力的な言動を取る。
弥二郎とは比べ物にならないほどの高い戦闘能力を有しており、司馬も「事務所で一番の怪物」と称している。裏社会に名が通る強敵相手に素手で立ち向かい、それを軽くあしらうように叩き潰してしまう。
発達障害の人間によって将来を破壊された過去から、弥二郎と同じく知的障害者と学のない人間を忌み嫌っている。
弥二郎に意識がない間、または弥二郎と騏一郎の両方の意志が合った場合に交代する事がある。
暴走しがちな問題児だが弥二郎と同じく司馬の事を尊敬しており、暴走している間でも唯一司馬の言うことだけは素直に聞く。
弥二郎に比べたら頼りになるが、自我が強すぎて制御不能なのため司馬からは「言うことは聞いてくれるキクリのほうがマシなのか?」とけっきょく手を焼かれている。
名前の元ネタは平沼騏一郎と品川弥二郎。
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