死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察   作:書庫・ラ・オランジュ

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心が生み出した悪魔、菊理兄弟

 

 

俺の名前は司馬喬皇平。

 

 

「今戻ったぞ、」

 

 

事件の調査がひと段落つき、事務所に戻ってきた特殊犯罪対策課の警官だ。

 

 

「お帰りなさいませ司馬さま」

 

 

俺が事務所の扉を開けた瞬間、今から外出しようとでもしていたのかってぐらいにすぐ扉の向こうに木ノ葉がいた。

 

 

「菊理くんは、」

 

「あぁ……………ええっと……………」

 

 

俺は扉のほうを見る。

 

 

 

 

 

「………………………………………」

(まずい木ノ葉がいる。話したくない、入れん)

 

 

扉の後ろには情けなくこっそり顔をのぞかせている菊理騏一郎がいた。

 

 

 

 

 

先程、切断王の異名で呼ばれる粛清屋の新城とキクリの兄人格である騏一郎が壮絶な戦いを繰り広げた。

 

 

「素人のクソガキが、イキって粛清屋とか名乗ってんじゃねぇ!!!」

 

「グボォォォァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

まぁ、戦いはあまりにも一方的だったが。

新城が弱すぎるのか、騏一郎が強すぎるのかはわからんが、騏一郎は新城に無傷で勝利した。しかも、戦闘時間は10秒もあったかどうか。

 

 

 

 

 

菊理弥二郎………本名・菊理騏一郎は後天性の解離性同一性障害を持っている。

あとから生み出された弟人格の弥二郎が主人格となっているが、騏一郎は表に出ることはほとんどなく、弥二郎の意識が撤退した場合に臨時で現れることが多い。

 

騏一郎はキクリよりもはるかに生真面目であり、戦闘能力も非常に高いから頼りになる。しかし彼はキクリと比べて他人とのコミュニケーションにかなり難がある。

キクリなら過剰なまでに接している木ノ葉が相手もこの有様だ。

 

 

 

 

 

「解離性同一性障害の部下?」

 

 

かつてキクリが俺の事務所に来たばかりの頃、俺は指揮官のメルセデス風悟に相談したことがあった。

 

 

「あぁ。騏一郎が警察学校に行く前から彼のことを知ってはいた。だから以前と全く違うあの変わりように初めはふざけているのかと思っていたが、あの感じは何か普通じゃない」

 

 

俺が初めてキクリと出会ったときは、出会ったのは騏一郎だった。

だが、俺が知らぬ間に…………キクリが警察学校にいる間に、彼の身に何か変化が起きた。

 

 

「…………なるほどな。聞いてる限り、そいつは本物の解離性同一性障害のようだ。しかも後天性だな、」

 

「全くわからん。俺はいたって健康な肉体に生まれているからそういうものがイマイチよくわからん。教えてくれないか風悟」

 

「その弥二郎という子。どうやらその子が今の表の人格らしいね。きっとそいつが、騏一郎が生み出した裏の人格だろう」

 

「常に表面にあるのに裏なのか?」

 

「そりゃそうさ。なんせ弥二郎はもともと存在しない人格だったんだから。騏一郎の身体に生まれた新規の人格。裏かどうかは怪しいけど、身体がもともと騏一郎のものである以上、表とは言わないだろ?」

 

「…………………………………………」

 

「だが司馬の言う通り弥二郎は今のキクリの表面にあるようだ。騏一郎は肉体の主導権を弥二郎に明け渡しているようだね。脳内会話と言ってな、多重人格者は脳内で複数の人格を交えて会話することができるんだ。ちなみに、肉声で会話することもできるようだぞ」

 

「騏一郎は臨時で現れるんだ。キクリがピンチになったときにな」

 

 

その時、俺は弥二郎と騏一郎が初めて入れ替わった瞬間を思い出した。

 

 

(さて、小峠たちは上手くやっているだろうか………ま、あの小林幸真がいるのだから大丈夫だろうが………)

 

 

俺は任務で天羽組と協力してちょっとした悪人を始末してきたところだった。

俺は自分のやることを終わらせて小峠たちと合流しようとしたのだが…………

 

 

(小林の兄貴!!!菊理巡査!!!こんなの全く意味ないですって!!!やめましょう、マジでやめましゃう!!!マジで!!!)

 

(ひと)を殴るって事は、お前もぶん殴られる覚悟があるって事だろうがよ………クソ紫野郎が!!!)

 

(警官だかなんだか知らねぇがよぉ………怒ってる時の俺は止めらんねぇぞ…………)

 

(どうなってんだ小峠─────!!!!!)

 

 

そこにはなんと、あの弱々しいキクリと小林が真っ向から戦ってる様子とそれを止めようとしている小峠だった。

 

 

(ゴラァァァッ!!!)

 

(当たんねぇよ………クロスカウンターだ、雑魚が!!!!)

 

(ウオォォォォォッ!!!!)

 

(小林の兄貴!!!大丈夫ですか!!!)

 

(痛ぇな、この野郎…………なんかテメェまじムカつくから、最上級のグリンぶちかますわ………!テメェにはもったいねぇけどよぉ………!!)

 

 

小林がドスを抜く。

 

 

(そうは問屋が卸さねぇよ、)

 

 

そのドスに向かって騏一郎が拳銃の速射を見せる。

 

 

(浅はかなんだよ、いっつも素人のやることは)

 

(チッ……………マジか、)

 

 

速射でドスが小林の手の中で緩んだと同時に矢のような飛び蹴りでそれを蹴り飛ばした。

そのまま小林の首に絡みついたキクリが髪をつかみ、絶対に逃げられない体勢で後頭部に拳銃を突きつけた。

 

 

(そこまでだお前ら!!!)

 

 

どうやら、行きつけの店を荒らされた怒りのせいで、犯人を捕まえて事情聴取をしなければならないこちらの義務を忘れてしまった小林が敵の全てを惨殺しようとしたようで、それを止めたキクリがキレた小林に全力パンチを受けて失神したそうだ。

 

そのまま騏一郎が交代し、弟を殴られたことにキレた騏一郎がそのまま小林と大喧嘩になったそうだ。

 

 

「オイオイ………まさかあの小林幸真とサシでマトモにやりあうとかどんな怪物だよ………小林は組織出身だぞ………!?」

 

「極道に身をやつしたただの元殺し屋なんぞ、俺らからしたら恐るるに足らん。騏一郎の運動能力はおおよそ人間の運動能力を超越している。たとえ人間最強格の小林など、そもそも騏一郎と同じ土俵にすら立てん」

 

「騏一郎を相当信頼しているようだな。ま、裏社会の凶星が言うならその通りなんだろう。一流国大のエリートの真の才能がまさか徒手空拳だったとはな………にわかには信じられん、」

 

 

信じられないのは俺のほうだ。

その瞬間まで何の役にも立たないと思っていた奴が、俺が見てきた過去の強者をも凌駕するほどの戦闘能力を発揮していたのだ。

 

 

「人は追い込まれると逃避行動に走る。果敢に立ち向かうこともできなくはないが、やはり獣から派生した生命体である以上、生物として最後にとる生存作戦は逃走行為だ。その場から物理的に逃走するというケースのほかに、悪い思い出を忘却したり、現実逃避をすることもある。その一部として、人格を分割することで心への負担を減らすという運動が発生することがある。それが、後天性の解離性同一性障害のはじまりだ。人格は複数あっても身体は一つ。たった一つしかない自分自身を守るために、人格を複製して壊れるのを防ぐ。追い込まれた人間にはよくある事らしい。多重人格者が軒並みコミュニケーションに障害があったり、差別や迫害、いじめを受けた経験があるのはそういう事だ」

 

「……………………………………………………」

 

「騏一郎も、何かショックな出来事があってそれの記憶から自分を守るために弥二郎を生み出したのかもな。あれだけ明るくコミュニケーション能力の高い、騏一郎とは対照的な性格だ。騏一郎が生きづらいと思った事象に対応できるような人格を生み出した結果ああなったのかもな」

 

「そうか…………参考になった、」

 

 

 

 

 

 

 

キクリ…………騏一郎は元々ただの学生だった。

 

この国で名の知らぬ者はいない、我が国を代表する超一流の国立大学に入学し、晴れやかな未来が見込めるはずだった。

だが…………………

 

 

「どうするのお兄?こいつ殺す?」

 

「うん、殺そう。しょうがない」

 

「お金がほしいからしょうがないよね」

 

 

彼はある日、ある二人組に将来を奪われた。

その二人組は大人だったが口調はやけに幼かった。おそらく発達障害を抱えていたのだろう。

 

 

(……………クソ障害者共が…………お前らのような社会の害悪共は………俺が必ず殺す…………!!)

 

 

騏一郎が発達障害者、そして知性に優れない人間を忌み嫌うのにはそういう背景がある。

こうなった原因や、彼が何を奪われたのかとか、どうやって警察になったのかとか…………他にも色々な事があって今に至るが…………その話はまた今度にするとしよう。

 

 

 

 

 

「さて?騏一郎、もういいだろう。久しぶりに木ノ葉に会えたんだ、挨拶ぐらいしろ。仲間だろう」

 

「……………………こ、こんにちは……わ、悪い………失礼しました、」

 

 

騏一郎は逃げるように走って消えていった。

 

 

「あっ、ちょっおま…………」

 

(……………侠気(おとこぎ)あるのに私の前では恥ずかしがり屋な騏一郎くん可愛い………好き、)

 

 

やれやれ…………これは重症だな…………

 

キクリに曰く、警察学校では騏一郎メインだったものの、運動訓練以外はほとんどキクリが表だったせいで、騏一郎の人と関わる力は育たなかったどころかむしろ退化したらしいのだ。

 

他者と関わる力をどう養成すればいいのか…………

たまごっちでも買ってやったほうがいいか?

 

 

「いったたたたたっ!!!脚いった………!木ノ葉ちゃん、治して………っ!」

 

 

すぐに騏一郎と交代したキクリが戻ってきた。

 

 

「おかえりなさい菊理くん。応急処置施されてるんだから良いでしょ我慢しなさいめんどくさい」

 

「ううっ………いつも塩対応だけど、なんやかんや騏一郎くんの分と僕の分を別口でおかえり言ってくれる木ノ葉ちゃん大好き………」

 

 

オロチの投げたナイフで脚を負傷したのが痛むのだろう。菊理とは思えないぐらいしおれた顔をして元気がない。

 

 

「キクリ、負傷しながらで悪いが、預かってる子供の様子を見てきてくれないか。お前に余裕があるなら遊んできてやってほしいが、」

 

「あ!任せてくださいよ!遊ぶのは得意ですから!走ったりはしたくないですが、自分の机に隠し持っていたテレビゲームでもやって遊んできます!」

 

「オイその話後で聞かせろ」

 

「おー都合悪い退散退散、逃げるんだよーっ!」

 

 

キクリは大急ぎで部屋を出た。

…………アイツそんな痛んでないだろあの走り。

 

 

 

 

 

「そうだ木ノ葉、お前には一つ話がある」

 

「はい?なんでしょうか」

 

 

俺は部屋の扉を閉め、木ノ葉の前にナイフを放り投げる。

 

 

木ノ葉は床に落ちているナイフを見つめていた。

 

 

「これは先ほどキクリの脚に突き刺さった投げナイフだ」

 

「………………………………」

 

「これを投げてきたのは最近になって黒焉街に出没するようになった辻斬りのオロチ。奴の投げナイフは、投げるナイフも、その投法も軌道もクセもお前と全く同じだった。そのナイフはお前の仕えていた家のもののはずだ。この共通点を俺は無関係とは到底思えん。心当たりのあることをお前に話してもらう」

 

「…………………………………………」

 

 

木ノ葉はナイフを拾い上げ、見つめたまま黙っている。

俺は机を軽く手で叩く。

 

 

「木ノ葉。これは尋問だ。答える義務がある。お前の事に触れて掘り起こすつもりはないが、お前の潔白のためでもある。答えろ」

 

 

俺が問い詰めると木ノ葉は口を開いた。

 

 

「…………………………オロチ、ですか」

 

「何か知っているのか」

 

「…………恩郎智(オロチ)さまはお嬢様に仕えていた優秀な護衛の剣士です。すでに亡くなっていたと聞いていたのですが…………まさかあの方が生きていらっしゃったとは…………木ノ葉はびっくりです」

 

椎名田(しいなだ)家の元護衛と来たか…………」

 

 

椎名田は木ノ葉が仕えていた名家だ。

財閥めいた企業グループ、椎名田グループの総代。その凄まじい財力と影響力はとどまることを知らず、その名はいっとき政財界にまで轟くほどだった。

 

とくに、当主の輝夜(かぐや)は貧しい民にも手を差し伸べ、企業グループで得た莫大な利益の一部を貧国や支援団体へ寄付するなど、その人格の高さは国民からも慕われていた。

輝夜の歳は木ノ葉ともほとんど変わらない。年端もいかない娘がここまでやるかと、世間をざわつかせたものだ。

 

その通り名は、「月の姫」。

日の本に舞い降りた女神のように親しまれていた。

純粋で、謙虚で、清純で、そして礼儀正しく学もあるというまさに無敵のスーパーお嬢様であった。

当時は俺ですら知っており、そのアイドル的な完成されすぎた人格とお約束のように美しい容姿から「かぐやフィーバー」というものも発生していたほど。

かぐやフィーバーが発生した年が違ければ、国民栄誉賞もありえたろう。

 

まさしく、人間国宝である。

 

 

「椎名田の護衛。どうりであれほどの剣豪のくせに名が知れ渡らないわけだ。ということは、奴の名乗った反町という名は偽名だな」

 

「反町………?恩郎智さまの名は朔月(さかつき)恩郎智。代々、椎名田家に仕えた剣舞の名門、その出身です」

 

「なるほどな。朔月家と来たか…………」

 

 

朔月は数多くの剣豪を輩出した、剣術の名門。

あの見事な太刀筋、間違いない。

あれはちょっとやそっとの積み重ねでは発現しない技能だ。一生涯の中で、幼い頃から剣の修業を日課に生きてきた人間のものだ。

 

 

「しかし、仙台の名家である椎名田の誇り高い騎士がなぜ、関東のこんな小さな街の辻斬りに堕ちたんだ」

 

「………………………それは、」

 

「……………まぁ、いい。動機など関係ない。一度国民を不安に陥れた以上、オロチはいずれ捕らえなければならないことに変わりはないからな」

 

 

それから、最初は貴金属店強盗と来て、次にその大元である下離羅の掃討。

その件とオロチの一件は別の問題だ。

順序を立てて仕留めていく。オロチを追うかどうか、それはこのあとに決める。

 

次こそは下離羅を解体してみせる…………

施設の子どもを攫い脅迫して道具にするなど到底許されるものではないからな…………

 

さて、新城から奪い取った下離羅の構成員の男を尋問してくるとしよう。

 

 

 

 

 

「あっりゃあ………まーた負けちゃったよ、」

 

「へへへっ!キクリの兄ちゃん弱ぇな!」

 

「もう一回やろうよ!」

 

「うーん………もう夜遅いし、このぐらいにしないかい?」

 

 

そのころキクリは子供たちの相手をしていた。

 

 

「えー、やだよーまだ始まったばかりじゃないか、」

 

「うーむ、よしわかった。じゃあ次で最後にしよう。大丈夫。また明日やればいいさ、」

 

「いいの!?」

 

「うん。だが、そのかわり2回目の最後はないよ。次僕が優勝しても、文句はナシだよ〜?」

 

「ははは!キクリ兄ちゃんが勝てるわけねーじゃん!」

 

「あっ、言ったな?次は絶対に負けないぞ〜!」

 

 

ま、キクリはこと人との関わりにおいてはこの中で最強だからな。

俺や木ノ葉よりも子供の遊び相手には適任だろう。

 

 

『……………弥二郎。俺はゲームの事はよくわからんが、お前はこのゲーム、司馬さんが留守の時に隠れていつもやってたんじゃなかったのか。子供に負けることなんてないはずだろ』

 

 

騏一郎が弥二郎に脳内会話で話しかけてきた。

 

 

『そりゃあね。僕はゲーマーだから』

 

『だったらどうして、』

 

『僕はいま子供たちの接待で遊んでいるんだから。それに、こんな子供相手に勝っても大人げないし勝った気しないでしょ?』

 

『あえて自分の力を抑えることで子どもたちの機嫌を取る…………か。参考になるな、』

 

『……………騏一郎くん。僕たち、いつか夢見たように………学校の先生になれるのかな…………』

 

『……………………………………………………』

 

 

キクリの悲しげな声に騏一郎は一瞬言葉を詰まらせる。

 

 

『……………無理に決まってるだろう。司馬さんや木ノ葉がそうであるように、俺たちも闇に堕ちすぎた。司馬さんが最初に言ったろ。「この先は、後戻りのできない修羅の道だ」とな。前科持ちの犯罪者と同じだ。一度でも闇に染まった人間は………二度と日向には戻れない、』

 

『それでも………僕たちは、この道を選んだ………』

 

『教師になる、なんて………そんな太陽のような夢なんていつまでも見るな弥二郎。俺らの夢は、あの気狂い共に地獄を見せる事だけだ………俺らのような裏社会の住人に、真っ当な将来を送る資格なんてないんだよ』

 

『ある意味じゃ………僕らもう死んでいるのかもね』

 

 

寂しそうにキクリは言った。

 

 

『俺らに明日は訪れても、将来はもう訪れない。だから取り返すんだよ、俺たちの将来を…………』

 

 

 

その時、騏一郎に鬼が宿る。

 

 

『それがたとえ、誰かの明日を奪うことになってもな………』

 

 

強い怒りと絆で結ばれた菊理兄弟。

 

 

どのようにして菊理騏一郎は菊理兄弟になったのか。いったいなぜ、弥二郎は生まれたのか。

この二人のことについては、また今度語ることにするとしよう……………

 

 

 

 

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