死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察   作:書庫・ラ・オランジュ

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伊集院 VS 司馬……厄災と凶星の激闘の行方は

 

俺の名前は司馬喬皇平。

 

 

「罪なき自由の一般人を闇に引き入れるなど、この伊集院が許さん」

 

「邪魔をするな………拷問師、」

 

 

 

 

路地裏にて奇妙な男と対峙する組織犯罪対策部の警官だ。

 

黒焉街の子供を攫い、薬物や暴力によって洗脳するなどして犯罪の道具として使う半グレ集団、下離羅。

 

「ガキは無知でバカだ。鞭で打っときゃ逆らわねぇんでいい道具になるぜぇ」

 

彼らのリーダーである大貫はすでに死亡しているが、その残党がまだ残り、幹部格が力をつけ直し、少数ながらも黒焉街で息を吹き返そうとしていた。

 

「下離羅の大貫が引き起こした事件の被害者が、この日ある予定があって指定の場所に現れる。何か彼らの足跡を追う手がかりになるかもしれない」

 

現場指揮のメルセデス風悟の情報をもとに、俺とキクリはその『被害者』の現れる場所を目指す。

下離羅を今度こそ壊滅させ、黒焉街の子供を利用して悪虐を成そうとする外道を消し去るために…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか…………」

 

 

こうして俺たちはある墓地にたどり着いた。

 

 

「風悟さんが提供してくださった座標はここですシバさん、」

 

「このような場所に何の用だ…………?」

 

「アレじゃないですか?被害者だって言うのなら、被害者遺族かなんかのお墓参りとか………」

 

 

キクリは缶コーヒーのピンに手をかけようとしていたので開けられる前に叩き落とした。

キクリは転がる缶を追いかけようとしたが俺が首元を掴んだので残念そうに止まった。

墓地で何やってんだ罰当たりが。

 

 

「ん、アレは…………」

 

 

その時、俺は眼に異様な気配を見た。

墓地の奥で、2人の人影がいた。

 

1人は女性。墓前で屈み、手を合わせていた。

それはいい。

 

だが────────

 

 

「ひっ………し、シバさん…………あの人…………」

 

 

鈍いキクリが俺の背後に隠れるのも無理はない。

あの男、一般人にはわからないだろうが、俺にとっては恐ろしすぎるほどに邪悪なオーラを放っていたのだ。

な、なんなんだ………これは……………!?

 

 

(なんだあの男………!これほどの闘気と死の気配………!過去に一度も類を見ない………!)

 

(なにアレぜったいヤバいって………!今はなんか………殺気を出してないみたいだけど、ここのお墓ぜんぶ掘り起こしてもこの死の気配には届かないよぜったい………!)

 

 

女性の横にいた男は、まるで闇と死そのものを体現したような気配の男だった。

飾り気のないスーツに、黒髪の七三。

ただの一般人のようだが…………いや、絶対に違う。筋肉のつき方と肩幅が明らかにおかしい。

 

 

「シバさん………帰りましょうって………!」

 

「怯えている場合かキクリ。間違いなく風悟が言っていたのはあの女性だ。彼女から聞き出さなければ捜査は難航する。その間にも、子供たちの犠牲は増え続けるのだぞ…………!」

 

「いや、そんなこと言ったって…………!?」

 

 

「あの、ちょっといいですか」

 

 

「むきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

キクリは大声で叫びながら飛び跳ねた。

 

 

「オイ、バカ!何やってんだ!」

 

 

 

キクリの肩に手を置いて呼びかけたのはキクリとそこまで年の変わらなそうな好青年だった。

 

 

「これ、落とされましたよ。気をつけてくださいね」

 

 

金髪の青年はキクリに缶コーヒーを手渡した。

底抜けに明るい笑顔を見てキクリは反射的に微笑みを返した。

 

 

「あ、ありがとうございま…………」

 

「下がれキクリ!!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 

キクリが青年に手を伸ばした瞬間、

俺はキクリの襟を掴み持ち上げると、キクリを掴んだ状態で青年に対してバックステップを踏んだ。

 

 

「し、シバさん!そんなに僕にコーヒー飲ませたくないんですか!?」

 

「頭を使えキクリ。こんなに正確に気配を遮断して接近してくる男など、どう考えてもただ者なわけがあるか」

 

「た、たしかに!…………お、お前は何者だー!」

 

 

だが青年は笑顔で対応してきた。

 

 

「僕はお墓参りに行かれる先生の付き添いでこの場に来ています。今、先生はあちらにおられますよ」

 

「へ?…………せん、せい?」

 

「……………………………………………」

 

 

あの男がか?

だが、あの男と女性は……………

 

どういう関係なのだ…………?

 

 

 

 

 

そうしている間に、男と女が墓参りを終え、俺たちのもとまで来た。

 

 

「先生、このお二人が何かご用事があるそうです。警察の方です」

 

 

青年は先生という男にそう伝えた。

明らかに大柄な猛獣のような男だった。

 

 

「────────────」

 

「────────────」

 

 

俺と先生は互いに視線を交差させた。

瞬間、先生という男の付近の空気が変わった。

なるほどな、俺が纏う死の気配を察知したか。

やはりこの男、只者ではなかったか。

 

しかし、男は一瞬で闘気の変化を戻した。

 

 

「園長さん。私は少しお話があるので、先に行っていただけますでしょうか、」

 

 

なんと男は柔和な顔で女性を送り出そうとしたのだ。

 

 

「私は後で向かいますから。先にお店に着いていてください」

 

「あ、はい。わかりました。伊集院(いじゅういん)さん」

 

 

そしてそのまま園長と呼ばれた女性は墓地を出ようとした。

 

 

(まずい……………この女性に逃げられれば、)

 

(お話を聞き出せない…………!)

 

 

「園長さん。我々は警察です。ここへは、あなたに用事があってきました」

 

「け、警察………ですか?」

 

 

警察という単語を聞いて女性は一瞬怯えたような顔をした。

 

 

(この女……………何か隠し事をしているな?それも、表の社会には決して口外できないような重大な隠し事をな…………)

 

 

追求してやりところだが、キクリがなんとか彼女の恐怖心をセーブしてくれた。

 

 

「僕たちはあなたに容疑をかけるわけではありません。ただ、事件の調査のために、ご協力を願いたく。お話を伺ってもよろしいでし…………」

 

 

しかしその時、

 

 

「あぁ、構いませんよ。事件のことについては私からお話いたします」

 

 

男がキクリの前に立ちふさがり、園長を逃がすようにしてきたのだ。

 

 

「あ………えーっと…………その…………」

 

 

そして、キクリが男に何か声をかけようとした時だった。

 

 

 

 

 

「この女性に罪などない。この私がそう言うのだ、間違いは絶対にない。二度と近づくな…………いいな」

 

 

キクリの眼前にて、強烈な圧をかけてきたのだ。

 

 

「───────ッ…………!!!」

 

 

キクリはその圧力に気圧されている。

俺はすかさず止めに入ろうとしたが、警官としての俺ではなく、司馬喬皇平としての意地悪な好奇心が働いた。

このまま放置したら、キクリはどうなるのかと。

 

 

 

だが、キクリは見事に俺の期待に応えてみせた。

 

 

 

「そんなの…………認められない…………!」

 

 

なんと、キクリは男を突き飛ばしたのだ。

まぁ……………男はびくともせず、押し出されたのはキクリの方だったが。

 

 

「せ、先生………!」

 

「…………………………………………」

 

「僕には見えるよ………そのドス黒い死の気配が………あんた、伊集院って呼ばれてたね………まさかあんたが、噂の拷問ソムリエ、伊集院茂夫(しげお)なのか………?」

 

 

キクリからその名前を聞いて俺の耳も立った。

 

 

その名を知らぬ者はいないだろう。

 

拷問ソムリエ・伊集院茂夫。

裏社会の厄災と呼ばれ恐れられる男だ。

 

奸佞邪智の外道を私刑の拷問によって裁き、地獄すらも生ぬるい絶望と苦しみに叩き落とし死に至らしめる、閻魔よりも鬼よりも恐ろしい裏社会の巨頭。

鉄のような冷徹と残忍さだけでなく、日本の裏社会に敵なしとまで言われたその圧倒的な戦闘能力はまさに厄災という二つ名に相応しいと言われている。

 

 

拷問ソムリエ………まさか、この場所で初めて出会うことになるとは…………

 

 

「…………伊集院。俺は、組織犯罪対策課の警官の司馬だ。この街で台頭する半グレ組織、下離羅について現在捜査を進めている。それにあたって、あなたと園長さんよ。お話を伺いたい。どうか、捜査へご協力願えないだろうか」

 

 

俺は頼み込む側として極力下の立場として伊集院に接した。

こちらとて警察の捜査なのだ。

任意の協力とはいえ、同じく外道を屠る者として見過ごせるはずがない。

 

だが、

 

 

「断る」

 

「な、に…………?」

 

 

伊集院からの返答はなんとNOだった。

 

 

「そ、そんな!?どうして…………!」

 

「貴様たちは今、「園長先生のお力添えを願う」と言ったな。園長先生は私の依頼者だ。彼女は特別児童養護施設の園長。そこを襲撃・放火し、子供たちの命を奪った外道を消し去ってほしいと私に依頼をした」

 

 

特別児童養護施設………!

ならばそれは、キクリがこの前言っていた、事件で全焼したという………

 

そういえば伍代のやつ……………

 

 

(リーダーの大貫は無事旦那の手によって拷問死──────)

 

 

そうか…………この男が大貫を殺ったのか…………

 

 

伊集院は俺の前に出てきて、額を擦り付けて圧をかけてきた。

 

 

「依頼はすでに果たされた。貴様たち警官の手を借りることも、貸すこともせん。依頼者は己を縛る怨嗟の鎖を断ち切り、今新たな人生をやり直し始めた時だ。そこに貴様らが介入し、再び闇へ引き戻すなどあってはならん。そのようなことは、この伊集院が決して許さん」

 

 

その糸目がわずかに見開かれた時、槍のような視線が俺を貫くのを感じた。

なるほど、それが貴様のポリシーというわけか。

 

だがな…………………

 

「その言い分は到底、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも承諾できんな」

 

「なに……………?」

 

「我々が追うのは貴様が私刑で殺したくせに何の発見報告も寄越さなかった大貫の身柄ではない。我々が追うのは、今現在も黒焉街に巣食い、街の秩序を乱し今もなお悪虐を働き続ける下離羅の残党すべてだ。貴様一人のくだらんルールなど知るか。我々の義務は住民の安全を保護することだ。依頼者一人の為にしか動かぬ貴様とは、背負う物の大きさが違う」

 

 

俺は伊集院の額を押し返す。

なんと首の太い男だ。全力で押さねばまったく動かん。

 

 

「貴様…………それはこの伊集院に向けて言っているのか」

 

「なぜ貴様が不貞腐れている?それほどの死の気配、いったい何人殺してきた?貴様が殺してきた外道の数々、それを追う我々がいつまでたっても死体の確認もできずどこにいるかと思えば、貴様らが勝手に情報も証拠も、丸ごと焼き尽くしている。それで何件の調査が長引き難航したと思う?その間に何人の住民が余分な被害を受けたと思う?」

 

「………………………………」

 

「外道殺し遊び?拷問ソムリエ?大いに結構だ。だが貴様が正義面でその行いをしている裏で、一体どれほどの見えない被害者が苦しまされているか貴様にはわからんのだろう。もしそれが分かるというのであれば、己が今何を言っているのか考え直せ、」

 

「………………………………」

 

 

伊集院は黙って拳を握りしめていた。

 

 

「言いたいことはそれだけか」

 

「それだけだ。そういう貴様は、まだ他にも分からぬことがあるのか?」

 

「貴様は、自分と私では背負うものの大きさが違うと言ったな」

 

「…………………………………………」

 

 

伊集院の死の気配が臨界を突破した。

 

 

 

 

 

 

「外道に人生のすべてを踏みにじられ、蹂躙され、心も身体も砕け散らんとした依頼者の、残された生命力のすべてを掛けた叫びを掬い上げ、兆倍にして外道に叩き返す。この世に生を受けたことを心の底から後悔させ、煉獄の苦痛のなかで苦しませ、終わらない無限の苦しみを与える…………それが私たち拷問ソムリエだ。だが貴様は私たちをそれだけのものと勘違いしている」

 

「なんだと…………?」

 

「私の本質は外道を裁くことではない…………依頼者の未練や憎しみ、苦しみ、怒り、悲しみ、そのすべてを仇敵の死によって解放し。依頼者が再び前を向き、再起し、新たなる人生を歩み始めるための救いの手を差し伸べる。それが私の存在理由だ。貴様なぞの物差しで測るな。物事の本質を履き違えるな。貴様らのような被害者の痛みも掬い上げることのできない警官がいるからこそ、この国にはいまだに外道が溢れているんだろうが」

 

 

 

 

 

「や、ヤバい……………!シバさんパチ切れてるよ…………!」

 

「なんてことだ………あんなに怒ってる先生…………久しぶりに見た……………!」

 

 

俺たちをよそに、キクリと青年は棒立ちしていた。

 

 

「あっ。僕は流川(るかわ)隆雄(たかお)と言います」

 

「僕、菊理弥二郎。お互い、上司に困らされている者どうし、仲良くしようよ。よろしくね〜」

 

「はい!ですが、先生は僕にとっての命の恩人ですし、今は怖いですけど本当はとても優しい人なんです!」

 

「わかる〜!シバさんも僕の人生を救ってくれた恩人でね、普段は表に出さないんだけど僕のことすごく愛してくれているんだよ〜!部下愛バカって感じのさ〜!」

 

「わかります!厳しいけれど時に優しい。これぞ、愛から来る鞭、です!僕にとって伊集院茂夫とは尊敬すべき先生なんです!」

 

「流川くんとは親友になれそうだな〜、ちなみに僕にとってのシバさんは目指すべき目標なんだ〜!いつかシバさんみたいな優しくて強い人になるんだ!」

 

 

 

 

 

 

さて、こちらとあちらで温度差が激しいが…………

 

 

「まぁいい。貴様の存在はどうやら俺の存在を否定するもので、あまりにも都合が悪いようだ」

 

「まさか貴様と同じ時に同じ思考をすることになるとは思わなかった」

 

 

俺は外套をはためかせた。

腰のベルトに差した軍刀が伊集院を睨む。

 

 

「……………後悔するぞ、一刻も早く私の視界から消えるんだ。さもなくば、」

 

「いや消えるのは貴様だ。これ以上は公務執行妨害………いや、国民の安全を脅かす、貴様がこれまで裁いてきた外道たちと同じものとして「処理」させてもらう」

 

「……………………………………………………………」

 

「……………………………………………………………」

 

 

 

 

 

「あの、お二人とも……………盛り上がってる所申し訳ないんですが…………」

 

「墓地でケンカするのはやめませんか?眠ってる方々に申し訳立ちませんし。それに、そんなことしたらたぶんどんな拷問よりも厳しいバチ当たりますって…………」

 

 

「──────場所を変えるぞ」

 

「………………………いいだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

伊集院と俺は、一通りのない道で相対した。

 

園長はこの後伊集院とお別れの前に一杯お茶をする予定だったそうだ。先に店に向かってもらっているようだ。

とりあえず、逃がすことにはならなくて済みそうだ。

そこは一つ安心できる点として…………問題は…………

 

 

 

「来るならば、早く来るがいい。私はナイフ一本で相手をしてやるから、その太刀を抜くなり拳銃の装填をするなり準備ができたらかかってこい。……………流川、」

 

 

伊集院は流川という青年に向かって空の右手を突きだした。

 

 

「はい…………伊集院先生、ナイフでございます…………」

 

 

流川もこの先の展開が全く読めなくて困惑するなかで伊集院にナイフ一本を手放す。

 

待て待て。俺の武器は太刀だぞ。

ナイフ使いの伊集院なんて聞いたことがない。

本当にただナイフで相手するというのか?

随分と舐められたものだ……………

 

いや、慢心はしていない。

相手は裏社会で厄災と呼ばれる男だ。

もちろん武器の性能差で埋まる程度の実力なはずがない。

とはいえ、これほどの自分の実力に対する圧倒的な自信。

俺を見た時点でそれくらいの余裕があるとでも思ったのか。

その点においても到底いけ好かない男だ……………

 

 

「し、シバさん………缶コーヒー…………」

 

「いらん」

 

 

せめて武器を出せ。

 

 

「言うまでもないが加勢する必要はないからな」

 

「もちろんです!漢と漢の一騎打ちですからね!シバさんが死にそうになった時だけレフェリーストップで駆けつけますから!」

 

「その必要もない」

 

「あ?え?まさかのデスマッチ?」

 

「そうじゃない。いや、それもあるが…………俺が、この男に敗北を喫するハズがあるか」

 

「うーわ、フラグびんびん」

 

「お前、帰ったら覚えておけキクリ」

 

「ま、僕を半殺しにできるくらい元気な身体で帰れたら、の話ですが………………」

 

「くっ………………」

 

 

こいつ腕っぷしは成長しない割に小さい口だけよく回るようになりやがって。

 

 

 

 

「どうした?捜査のために私と戦うのではなかったか?」

 

 

向こうも随分と余裕ぶっこいている。

俺は刀を抜き、両手で柄を握りしめる。

 

 

「無論、慌てずとも今から行くぞ。いい機会だ、ついでに貴様をしょっぴいて、拷問ソムリエの武勇伝を終わらせてくれる─────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────私の名前は伊集院茂夫。

 

依頼者が未練を断ち切る瞬間を見届けた拷問ソムリエだ。

 

私たちは半グレ組織下離羅のリーダー、大貫を拷問にかけた。

大貫は特別児童養護施設・大空ポプラ園の子供たちを殺害し、園長に重傷を負わせその他数多の余罪があった。

命からがら逃げのびた園長の依頼を受けた私と流川は、大貫を捕らえ、真空パックに詰めて拷問にかけ、最後は熱湯釜で煮殺した。

 

その後依頼者と共に子供たちの墓へと挨拶に向かった後、私と流川は依頼者と最後の話をするために近くの店で昼食を摂る予定だった。

 

 

 

しかし、その帰りに予想外の邪魔が入ることになった。

 

それが司馬喬皇平だ。

裏社会の凶星と呼ばれており、死神警官・死刃と恐れられている。

 

「住民を守るために、いかなる悪行も俺は逃がさん…………」

 

表向きは組織犯罪対策課の巡査部長だが、その部署そのものが警察のなかでも極秘の機関とされており、それどころか彼自身も真っ当な警官ではない。

街に住む住民を守る、そのためならどんなことでもやってのけるほどの狂気にも近しい執念があるという。

 

 

 

彼は捜査の一環として、私の依頼者である園長先生に聴取を行うという事だった。

しかし、あまりに凄惨な事件。依頼者は折角痛ましい出来事の呪縛から逃れられたというのに事件を回想させ、再び闇に陥れるなどあってはならない。

依頼者が闇に堕ちることは私のポリシーに反する。

 

よって、私は司馬を無力化し、強制的に足止めすることにした。

 

 

「来るがいい、死神警官。貴様を真っ向から否定してやろう」

 

「小さい口でボソボソと………この国の警察を舐めるな、拷問ソムリエ!!」

 

 

そう言うと司馬は日本刀を抜き、一直線に私に向かって飛びかかってきた。

 

私の武器は流川から受け取った小ぶりのナイフ。

 

日本刀を正面から受けるのは非合理的だが、私は今の剣幕に関心を覚えた。

 

 

「素晴らしい気迫だ、これは久しぶりの強敵となりそうだ」

 

 

戦闘狂としての私が、この一撃を受けてみたいと叫んでいる。

 

 

その思い通りに、私はナイフ一本で日本刀の前に躍り出た。

 

「せぇいッ!!!!!」

 

「ふぅぅぅぅぅぅん!!!!!」

 

直後落雷のような袈裟斬りが私に落ちる。

刀の刃はナイフの刃に阻まれ、私への直撃を外した。

 

 

司馬の一撃は、私のガードを一瞬押し出し、わずかに私の顔を斬りかけた。

 

 

(剣圧、剣速共に一級品だ。裏社会でも類を見ないほどの実力…………)

 

(俺の袈裟斬りをナイフ一本、しかも片手で止めたのか?怪物め…………)

 

 

では、まず正面からの斬撃の応酬と行こうか。

 

 

「ナイフ1本と侮ったか?私ほどの腕力にもなれば、むしろ手数と素早さに優れたナイフのほうが、高い防御性能を発揮できるのだ」

 

「能書きはいらん。武器の種類で力量を見測るほど俺は甘くなどない!」

 

 

ほう…………この私と正面から渡り合うとは、大した男だ。

 

 

「チッ…………」

 

 

刀の回転率は確かに異常だが、それでもナイフの機動性には適うまい。

斬り合いのなかで、一発二発と、徐々に司馬の身体にナイフの切れ込みが入る。

 

どうせそのマントは防刃加工なのだろう。

ならば、剣を振る際に伸びる腕を斬るだけのことだ。

 

 

「どうした?攻めに必死なせいで守りが疎かになっているじゃないか。貴様の戦闘スタイルは防戦を得意としていそうな雰囲気だが」

 

「言わせておけば…………!」

 

 

ここで私は一気に勝負を決めにかかる。

 

 

「少しスピードを上げるとしよう」

 

「ぬぅぅぅぅぅ………!!!!」

 

 

私は斬り合いの中に打突を混ぜる。

圧倒的手数による視線の分散。奴の防御にだんだんと空洞が開き始める。

 

 

「おのれ………」

 

 

必然的にナイフをもらう回数も増えてしまう。

 

 

「思ったより大した事がないな、」

 

 

ここで私は下から蹴り上げを入れる!!!

 

正面から飛んでくる刺突と打突にばかり気を配られていた時に繰り出されるこれを、読み切ることなどできん。

 

 

 

 

 

「ふんっ…………!!!」

 

 

しかし、司馬は身体を翻し、難なくその蹴りを回避してしまった。

 

身体をねじ切り、一回転してから再び司馬の袈裟斬りが落ちる。

 

 

「カウンターだ、避けられるはずがない!」

 

「ほう。避けられないのか」

 

 

 

 

私は奴の誇りを砕くために、あえて回避を選択した。

 

 

「なんだそれは。はね返るサンドバッグでも斬っていたか?」

 

 

私はバックステップを放ち皮一枚でそれを躱す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

「────────フッ。バカが、」

 

 

司馬の口が一瞬、確かに歪んだ。

 

 

「なに………………まさか…………!!!」

 

 

次の瞬間、

 

 

「むぅっ……………!!!」

 

 

私の身体に強烈な衝撃と共に、袈裟に紅が刻まれた。

今のは随分と深かった。

 

 

(臓腑には届かなかったが…………わずかに肉を削られたか…………!)

 

「伊集院。貴様と俺は似ている。戦いにおいては相手の誇りを砕くなどして、相手の心理を揺さぶりながら戦うだろう?俺が回避不能攻撃、などとハッタリをかませば逆に回避したがると、貴様の性質を読んだ攻撃だ」

 

 

 

 

「先生が…………あんな深い一撃を」

 

「最初ヒヤヒヤしたけど、やっぱフーゴさん譲りの戦闘スタイルって凄いよ。相手の性格や心理状態を利用して試合を作れるんだからね」

 

 

 

 

「俺を甘く見すぎていたようだな。普通に考えてみろ。一度対処された袈裟斬りを二度も放つか。貴様ほどの強敵…………俺のことをもう少し高く評価していれば、「これほどの相手ならば二度も同じ事をしないだろう」と読めたんだろうが、俺を過小評価していたようだな。闘気で敵の闘級も図れない二流め、」

 

「……………………………………」

 

 

私は冷静に奴を観察する。

 

今、何をした…………?

確かに私は刀の間合いの外へと離れたはずだ。

だが、刃は拳一つぶん、私の身体へと肉薄した。

 

何か特別な事をしたに違いない。

……………なんだ?

 

 

「さぁ、どうした?依頼者を闇に落とさないために、俺を無力化するのではなかったのか?それとも、途中で諦めるか?その方が賢明な判断だと思うがな」

 

 

司馬は嘲るように、されど真剣な眼光で私を睨みながら言った。

 

 

(うーん…………シバさんも、結構煽りカスだよね…………)

 

 

 

「……………諦める…………だと?」

 

 

その時、私の怒りが、理性を凌駕した。

 

 

 

 

 

「この伊集院が、依頼者の依頼を諦めるなど…………断じてない……………発言には気をつけろ、」

 

 

 

 

「ふん…………ならば、依頼失敗にさせるのみだ、」

 

 

司馬が再び私に向かって踏み込む。

 

 

「不可能だ、そんなこと」

 

 

だが私はそれに対して真っ向から受けて立つ。

 

ナイフばかりが私の技術ではない。

私の技術は武芸百般。あらゆるものを生かして戦闘をする。

 

 

「まずは私の頭突きを受けてもらうぞ」

 

 

私は前傾姿勢で司馬の懐に突入し、登頂を顔面に押し付ける!!!

 

 

(こちらも額で受けるか………いや、受けても良いことは無い、)

 

 

「フゥゥゥゥン!!!!」

 

「だが、受けて立つ!!!!」

 

 

なんと司馬の方も頭を叩きつけてきた。

 

 

「なんだ今の頭突きは…………野牛か貴様は、」

 

 

司馬は額から流血して弾き飛ぶ。

とはいえ、私の頭突きを食らっておいて姿勢を変えずに立つとは恐ろしい耐久力だ…………

この男、私ほどではないが、首が強い。

 

 

「実に面白い…………これならば私も本気の出し甲斐があるというものだ」

 

「化け物め………既にこちらは全霊だと言うのに………」

 

 

 

 

 

「ま、まずい………先生は相手が強いと、逆に燃えてブレーキが効かなくなってしまいます………!早く止めないと………」

 

「いや………よしとこう流川くん、」

 

「え?」

 

「これも二人なりのコミュニケーションってやつなんじゃないの。たぶんこの二人、この世で一番相性悪い組み合わせだから………もう話せるような同士じゃないよ多分」

 

 

 

 

 

正義のぶつかり合いから始まった熾烈な激闘。

 

 

「貴様のくだらん私刑による裁きなどいらん、この国の正義と秩序は、警察官が守るものだ」

 

「黙れ。貴様らの力では救えない被害者に救いを与えるのが拷問ソムリエの使命、ここは警察の管轄ではない」

 

 

この戦いは、さらなる熾烈さを極めていくことになる─────

 

 

 

 

次回『壮絶な決着……拷問ソムリエ VS 死神警官』

 

 

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