死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
私の名前は伊集院茂夫。
警察官と一対一で戦闘を繰り広げる拷問ソムリエだ。
互いの正義を賭けた死闘において、私は死神警官・死刃と戦いをすることになった。
司馬の実力は相当なものであり、この私とも渡り合うほどだった。裏社会に名を轟かせる人物として不足はないようだな。
「司馬喬皇平…………面白い男だ…………」
とはいえ、この伊集院は実際の能力の半分も出しておらん。対してあちらは全身全霊。
貴様が消耗したところを確実に叩き伏せるのみだ。
「伊集院。貴様、その余裕の表情、さては俺が消耗するのを待とうとしているか?だとしたらそれは間違いだ。俺相手に、手を抜いて勝てると思うな。新規で見ることになる引き出しなど、お前の切り札の倍以上はある。さっさと勝負を決めにかかったほうが良い」
「ほう…………吠える暇があったら見せてみろ。その引き出しとやらを、」
私の手招きに応じるように司馬が再び軍刀を手に突っ込んできた。
「いいだろう…………好きなだけ見せてくれる、お前が耐えられなくなっても数の限り、な!」
(袈裟斬り…………!)
奴の両手から繰り出される袈裟斬りは急に刃の長さが変わる。
たしかにかわしたはずが斬られている…………拳一つ分の長さがどこかで必ず変化している。
集中して見ろ…………奴が何をしたのか見極めるのだ。
「死ねェェェェェェェい!!!!!」
司馬の袈裟斬りが振り下ろされる。
私は司馬の刃を注視する。
だが、一向に奴の刃が伸びる様子が見られない。
この私の動体視力をもってしても見切れぬだと?
そんなはずはない、この伊集院の動体視力は銃弾の軌道をも見通すほどだ。
何が起きるかわからん。私はバックステップの幅を拳一つ分増やした。
動きは大きくなるが、先ほどのようには行くまい。
(バカめ…………学習能力のない男だ。同じ事を二度もするわけがなかろう、)
(否…………これは、フェイント!!!)
私は引きの幅を足しながら右脚を振りかぶる。
「引きの幅を足したぶん、隙が大きくなったな」
予想通り司馬の袈裟斬りは途中で止まり、代わりに司馬は左手で拳銃を構えた。
だが、この伊集院にはすべてがお見通しだ!
「フゥゥゥン!!!」
「ぐぁっ…!?」
私は後退しながら全力で右脚を爆発させ、司馬の左手を蹴り抜く!!
左手が飛ばされたことにより、私の額を貫く予定の銃弾は代わりに私の頬をかすめ、
「ぐっ…………」
司馬の左手は私の渾身の蹴りによって形を歪められた。
「フェイントに差し返しで蹴りを入れると思い込めば、よりによって鉄板入りの靴か…………どこまでも陰湿な立ち回りをする男だ…………」
「好きに笑うがいい。私にとって戦闘とは単に相手を破壊する行為。私の戦闘はなんでもアリだ」
「やかましい、左手一本でいい気になるな!」
そう言って司馬は、ひしゃげた左手の骨を強引に戻した。
「クソッタレ、こんな事したら悪化するだろうが………」
「ほう…………根性も備えているか、」
「だが、次はそうは行かん」
不意打ちの横薙ぎ!
「シュ!!!」
無論それは視野に入れている。
「お返しだ、」
それと同時に私はナイフを突き上げる。
ナイフの刃は司馬の左肩を浅く突き刺す。
「シバさんッ!!!!」
司馬の助手がそれを見て冷や汗を流しながら叫ぶ。
だが─────────
「警察を舐めるなよ…………犯罪者風情が!!!!」
司馬は刺されながら左腕で私の腕を絡め取る。
「逃さん!!!」
さらに右脚で私の靴を踏みつけて固定する。
「ぬぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その場で司馬は刀を振り下ろす。
私は司馬の間合いの外へ出られない。
だが、私はすでに、自分の靴を握っている!!!
「ふん!!!!」
私の靴は鉄板入りだ。
刀の一撃など容易に止める。
とはいえ、靴裏に刃が食い込んだか…………鉄をも斬るとは恐るべき剣圧だ。
だが、私が感じた剣圧の衝撃はわずか一瞬のものだった。
「見えてないとでも思ったか…………貴様の脚を踏んだ時点で、左足の靴がない事には気付いていたぞ!」
「む………っ!」
司馬はなんと、私の靴に刃が食い込んだ瞬間に刀から手を離していたのだ。
「砕ッッッ!!!!!」
「ムォォォォォォッ!!!!!」
司馬の拳が私の顔面を一直線に貫いた。
この一撃、八極拳の箭疾歩か………!!!
私は司馬から遠く弾き飛ばされる!
「この打突の威力…………相当洗練された技だ」
私は鼻から激しく出血した。
そこへ司馬の追撃が迫る。
「俺との戦闘は必然的に、一方的なものになる」
すでに刀を拾い上げた司馬が、居合の体勢で一瞬にして私の懐を占拠した。
「一度距離を取るとしよう、」
私は司馬に対してバックステップを踏む。
(この抜刀、ナイフで受けることはできん)
私は今度こそ謎のカラクリで伸びる刃が当たらぬように、余裕をもって後退した。
しかし、次の瞬間────!
私の身体はバックステップを踏むと同時に、空中で何かに引っ張られたかのように静止した!
「む……………!」
(これは…………手錠!!!)
私は自身の左手に手錠の片輪が巻きつけられていることに気づいた。
もう片方は街灯に巻き付けられていた。
このレベルの戦闘だ。
一瞬のミスも許されん。
「悪鬼廃滅!!!二つに別れろ!!!」
「ふぅぅぅぅん!!!!!」
司馬の落雷のような抜刀が私の胴を斬り裂いた。
「まさかこの一瞬で手錠を引きちぎるとはな…………」
私は自身の腕力で手錠の鎖を引きちぎる。
鎖で一瞬止められたことにより浅く腹を裂かれたが深傷ではない。脱出できていなければ私の胴体は今頃二つに切断されていただろう。
一瞬の油断もできない強敵だ。
「ふむ、素晴らしい間合いの感覚だ」
「逃がすか!」
そして再び斬撃の応酬へとなだれ込む。
「素晴らしい、貴様は私の能力をさらに引き出してくれる…………」
「この状況下で嗤うか…………依頼や自身の使命を忘れ戦いに興じる貴様のような半端者なぞに、この俺が負けるか!」
しかし、やはり出血するのは司馬の方だった。
「ぐぅっ…………」
(戦況は俺のほうが有利だが、依然としてこの圧倒的な実力差を埋めるには至らんか………正面からはやってられん………!)
斬撃の嵐に私はさらに拳を紛れさせる。
「覇ッ!!!」
しかし、司馬はそれを見切る!
「そこだ!!その左手、貰ったぞ!!!」
やはり天賦の動体視力。
だが、
「フンッ!」
私は打突を途中で止め、代わりに裏拳に切り替える。
私の左手を狙った司馬の斬撃は、私の左手に巻きついていた手錠の輪に当たって防がれる!
「ぐぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!」
そのまま私の裏拳が振り抜かれる。
司馬は刀を立てて防ぐが、私の剛拳を受け切るには至らない。勢いを殺しきれず大きく弾き飛ばされる。
「貴様がくれた腕輪のおかげで防げたよ、ありがとう」
「戦闘において全てを利用するその能力…………大したものだ」
「そういう貴様も、上手い手を使うものだ。まさか、両手で握っていた刀の握りをずらし、上の手だけで握ることにより、刀が伸びたような錯覚を与えるとは…………」
あの伸びる刃の正体、それは司馬が刀を握る位置だった。
司馬は両手で刀を取るが、通常時は両手で握り、攻撃の際に上の手だけで握り下の手は握るフリをする。
そうすることで、手品のように刀身を伸ばしていたわけだ。
(チッ…………辻斬りオロチの技能の、その下位互換だが、こんな一瞬で見切るとはな)
「まぁいい。貴様とはここで確実にケリをつけてやる」
「まだ手品を見せてくれるのか。ならば、これで最後にしよう」
私は司馬を前に屈み込み、臨戦体勢を整える。
「躱せたらの話だがな!!!」
司馬は突然、地面に落ちていたビール瓶を3個同時に蹴り上げる。
そのままこの私ですら目を見張るほどの拳銃の速射。
銃弾は瓶を砕き、無数の破片が私の顔へと振り注ぐ。
「なんだそれは、本命の一発を見せてみろ」
私は腕でそれらを防ぐ。
「お望み通り、見せてくれる!」
直後、司馬が目にも留まらぬ速度の居合でこちらまで迫ってきた。
(再び居合の体勢。だとするとならば、次に放たれるのはこれまでに使用して来なかった択…………)
司馬と私の距離はすでに5メートルを切っている。
この一瞬で司馬は私の懐を占拠し、強烈な抜刀で私を切り裂くつもりだろう。
(だが、これほどの戦闘者がこの期に及んで正面から馬鹿正直に私に斬りかかるか?)
否、そんなはずはない。
無論、相手もこの後にもすべきことがあるというならば自身の命を顧みぬ捨て身の相打ちをするつもりなわけがない。
だとすると、私の反撃を意識外にできるような仕掛けがあるはずだ。
刀の間合いは把握した。握りを拳一つ分ズラされたとしても今の私ならば対応できる。
それは向こうも理解しているはずだ。
ならば……………
(フェイントか!!!)
「ハァァァァァァッ!!!!」
私は私の勘に絶対的信用を置き、真横に跳んで回避を図った。
直後、私の跳躍する前に立っていた場所、その後ろに日本刀が回転しながら落下してきた。
刀は地面を激しく串刺しにした。
瓶の破片で私の視線を逸らした隙に、空中に刀を投げたか。
私に後方への回避を誘うべく、丸腰でありながら振り被った体勢で手元を隠し、私に居合を警戒させたか。
私が後ろに跳んで居れば間違いなく振ってきた刀に両断されていただろう。
「躱されたか……………!!」
司馬は居合を振り被った体勢のままだ。
「なかなか興味深い奥の手だったぞ、」
私は司馬に向かってナイフの先端を突き出す。
それと同時、
「─────────ハッ!!!!!」
司馬は刀を握らない手をそのまま居合の体勢から振り抜いた。
竜巻を巻き起こすかのような抜刀、から繰り出されるカラの一撃。
しかし、
「ムッ……………!!!!」
その手に握られていたのは空気ではなく、警棒!!!
警棒の長さ私の身体に当たるほどではなかったが、振り抜くと同時に司馬は警棒から手を離していた。
投げられた警棒は矢のように私の腹部へと肉薄する。
「ぐ……………!」
「ムッ…………!」
私の刃は司馬の額に深い切傷となって赤を刻み、司馬の警棒は私が差し出した左手で止められた。
私は先ほどと同じように手錠の輪で止めようとしたが、警棒は手錠を壊し、そのまま私の左手へと直撃した。
私の左手の甲は、司馬の警棒によって形を変形させるほどに破壊された──────
「ハイ!!!おわり!!!もうおわり!!!これ以上やったらケガしますよケガ!!!」
「いやもうお二人とも重傷ですよ………」
キクリが戦闘中の俺と伊集院の間に叫び声を挟んだ。
「たわ言を。この程度のダメージは戦闘になんの支障も来たさん。邪魔をするな、」
「…………………調子に乗るなよ、七三…………【俺】とテメェの弟子も巻き込んで4人で乱闘するか?」
キクリから一瞬にして騏一郎の自我が切り替わるように現れた。
「うぉ…………」
(なんだこの人…………さっきまで僕と同じくらいの歳のお巡りさんだったのに、急に先生みたいな濃いオーラが…………)
「よせ騏一郎、」
「先生、勝手ながら僕から園長先生から連絡をしてみた所………園長先生のほうから、警察の方のお話に協力したい、とおっしゃっています………」
流川と名乗った青年が言うにはそういうことらしい。ならば、伊集院とこれ以上戦闘する必要はないな。
「これで決まったな。さすがは園長先生だ、捜査に【協力的な市民】というだけあって人が出来ている。依頼はすでに終わったくせに、自己中にも他人の問題に首を突っ込んだ挙げ句、警官に対して不遜な態度を取るどこの誰とは違ってな、」
「……………………………………………」
「さぁ、名は流川といったか?案内してもらおうか、園長先生の待つ場所へと」
「は、はい………先生はそれでよろしいですか?」
「愚問だ。私が依頼者の意思に背くことはない。市民の意思を確認せずに強制捜査を行い、挙げ句人民に対して発砲し刃を向ける誰かとは違う」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
(うわ………先生と警察の方、バチバチだ………)
「行くぞ流川」
「は、はい!先生!」
そうして伊集院と流川は先へ進んでいった。
「………………なんなんだアイツら。つくづくいけ好かない…………あんなバカは新城とかいうクソザコ紫で終わりだと思っていました。後で首へし折ってやりますよ」
「落ち着け騏一郎。我々の目的は伊集院の撃破ではない。目的以外のことに体力を使う暇はない。それに…………」
「それに?」
「我々の戦力ではおそらくこの男には勝てん」
「なんですって?司馬さんが優勢だったじゃないですか」
「それは俺が初見殺しを連発したからだ。戦闘能力ならば伊集院のほうが2枚も3枚も上手だろう。騏一郎、お前にとっても最悪の相性だ。運動能力に関してもお前より優れている」
普通なら一発で死んでるようなトリックをこの男はすべて軽いケガで済ませてきやがった。しかも一度使った手は通じない…………あのまま戦闘が長期化すれば、100回中100回すべて俺が殺されていただろう…………
騏一郎は俺にも勝るとも劣らない実力者だが、圧倒的フィジカルで相手を叩き伏せるタイプだ。
騏一郎よりも運動能力の高い相手に対しては一方的に不利になる。むしろ俺より騏一郎のほうが相性が悪い。
「チッ…………小林や新城と違ってちゃんと実力があるタイプか…………」
あの小林と新城が同じ強さに見えるか………いや、小林を瞬殺しかけた結果が示しているとはいえ、やはり恐ろしい男だ…………
「まぁ、司馬さんが倒さなくていいと言うのなら………俺は何も…………」
「分かってくれてありがとう、騏一郎」
「─────ご、ごめんなさい。騏一郎くんが怒っちゃったみたいで…………」
騏一郎が後退したことでキクリが戻ってきた。
「誰彼構わず気に入らないとくればすぐ噛み付こうとするのは騏一郎の悪い癖だな………そのうち直させなければ…………」
「でも、僕だってシバさんのこと好き勝手言われてムカつきましたよ。どうせ僕より頭悪いくせに偉そうに…………自分より頭悪い人にバカにされたらムカつくに決まってるじゃないですか」
「そうでもないんじゃないか?立ち振る舞いからしてあれは名家の出身だ。学歴ではお前のほうが上かもしれんが、受けた教育の質はおそらくあちらのほうが上手かもな」
「どーでしょうね。受けた教育の質じゃ頭の良さは語れないですよ。バカはどんな教育を受けたって身につかないですって」
少なくとも伊集院よりお前のほうが百倍バカではあるだろ。
「先生…………大丈夫ですか?深く切られた場所が複数ありますが」
「問題ない。まぁ、左手は破壊されたが」
「あの司馬さんという方…………恐ろしい執念でしたね…………」
「この私の圧力に耐える男は稀にいるが、まさか押し返してくる男がいるとは………あの迫力は、私と同じように、狂気から来る執念だろう。道は違うが、私にも勝るとも劣らない力を秘めている。あの戦闘能力、相当な鍛錬を積んできたのだろう…………面白い男だったが、できれば二度と会いたくないものだ…………次に戦いになればお互い無事でいられる気がせん」
「先生がそこまで言うなんて…………」
「しかし、この国の警察にあのような者がまだいたとは…………」
かくして伊集院との接触から一悶着あったが、調査は予定通り進展することとなった。
「情報を聞き出したかっただけなのにこんなことに…………」
「拷問ソムリエ…………この借りは、忘れんぞ」
そしてこの事件の調査は、ようやく山場へと向かっていくことになるのだった………………