死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察   作:書庫・ラ・オランジュ

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共闘・最強最悪のコンビ伊集院&司馬

 

 

─────私の名前は石長木ノ葉。

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

買い出しを終えて帰宅した一介のメイドです。

 

 

私、石長木ノ葉は警視庁特殊犯罪対策課の巡査部長、司馬喬皇平さまに住み込みでお仕えしているメイドです。

現在、司馬さまとその部下の菊理くんは黒焉街をまたぐ事件について調査のため外出中です。

 

現場指揮の風悟さまもすでに事務所を後にしているので、今この事務所は私一人と、司馬さまが保護されている養護施設のお子様たちだけ。

 

 

その間に、私は自室に戻ると、買って帰ってきたお菓子を手に抱えて部屋の隅に向かう。

 

 

「茅乃お姉様、瀬織お姉様、お嬢様、ただいま戻りました」

 

 

そこにあったのは、いくらか前にお坊様に用意していただいた小さなお仏壇が4つ。

私には二人の姉妹がいた。

長女の茅乃お姉様と次女の瀬織お姉様。

そして中央にあるのが、私たちがお仕えしていた輝夜お嬢様の。

 

『あの惨劇』で私は二人のお姉様を目の前で失った。

時を同じくしてお嬢様であった椎名田輝夜も行方不明となり、警察からは亡くなられたとの報告を受けた。

父母の顔を知らずに生きてきた私にとってお嬢様は家族同然だった。

あの出来事で、私は愛する家族を全て失ってしまった。

 

 

「3人とも………もし恩郎智さまが生きてらっしゃったって聞いたら信じるでしょうか」

 

 

私は仏壇に話しかけるが応答など来るはずがない。

 

 

「信じないか…………信じられないですよね。私も信じられない気分です。嬉しいとかよりも、驚きが勝るというか…………」

 

 

私は4つのうち最後の1つに目をやる。

それは恩郎智さまのものだった。

あの方は、私たち姉妹にとってもお嬢様にとっても大切な人だった。

 

 

 

 

 

 

私たち姉妹はお嬢様の従者の傍ら護衛でもあった。

つまりはお嬢様の護衛だけでなく、お世話や屋敷の家事を行うこともしていた。

 

対して朔月恩郎智は本物の剣士。

お嬢様のお守りを生業としていた。

 

私は当時まだまだ未熟で、姉妹のなかでも飛び抜けて一人だけ弱かった。

 

 

「木ノ葉ちゃん!大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫です…………足をくじいて、転んだだけです…………」

 

「待ってなさい木ノ葉、今手当てするから」

 

「せ、瀬織ちゃん!?敵の目の前よ!?」

 

「止めないでよ姉さん!ここで妹を守らない姉なんて………!」

 

 

ある日、お嬢様が小さな街へ視察へ向かった際、街に潜んでいた金品当ての盗賊が現れてお嬢様に襲いかかった。

それと戦ってる最中に足首を挫いて負傷した時、私たち3人の連携がばらばらになった事があった。

 

 

「よそ見してんじゃねぇーぞ!!!」

 

「先にテメェらから身ぐるみはいでやらァ!」

 

 

 

 

「ぐふぇっ!」

 

「かパァッ!!」

 

 

 

 

「お、恩郎智さん…………!」

 

「無事か、茅乃?」

 

「は、はい………!」

 

 

こういう時にはいつも恩郎智さまが助けてくれていた。

 

 

「な、なんだよ………鬼みてぇにつよいぞコイツ………!」

 

「嘘だろ………極道やってて負け知らずだった俺たちが、二人でかかったってのに………

 

「刀すら抜かねぇで…………」

 

 

 

「瀬織ちゃん!倒すわよ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 

茅乃お姉様が大鎌を振り上げ、瀬織お姉様がハンマーを振り上げる。

 

 

「そこまでです!」

 

 

勝負がついたときは、いつも輝夜お嬢様が戦いを止めるようご指示なさっていた。

 

 

「すでに彼らは無力化しました。無駄に血を流すことはありません」

 

「お、お嬢さん…………あんた…………」

 

 

お嬢様はなんやかんや、私たちの誰よりもお強い方だった。

争いを嫌い、たとえ自身に襲いかかった相手でも平等に手を差し伸べてくださっていた。

 

 

「あなたたちはどうして私から金品を強奪しようと………?」

 

「っ、そりゃあお前、金持ってそうだったからよ…………」

 

「お仕事はないのですか?」

 

「んなこと、できっかよ。俺たちはもともと組から破門にされた極道なんだ…………反社の人間が、いまさら足洗ったところで雇ってくれるところなんてどこにも…………だから俺たちは奪うしかねんだよ」

 

「オレらにあるのは腕っぷしだけだからな………」

 

 

お嬢様は気がついたら武器を構える私たちよりも前に出て彼らと正面で対話していた。

その不思議な魔力のようなオーラ、令嬢としての貫禄は、相手から戦意を奪っていった。

 

 

「…………事情はわかりました。もしあなたたちがよければ、当家のグループであなたたちを雇用しようと思うのですが、いかがですか?」

 

「は?」

「は?」

 

「もちろん、労働環境は良好で収入も安定しています。安定した収入を得られるまで当分の間は当家の負担で生活も保障いたします。ですから、罪のない方々から強奪するなど………そのようなことはこれっきりやめてください。それを約束していただければ、今よりもはるかに快適な生活を約束します」

 

「………………変わってるな、アンタ。お前らの企業グループ、デカいだろ。そんな一流の場所に俺たちみたいなクズを置いて、評判悪くなるとか考えねぇのかよ?」

 

「その心配はありません。誰でもお誘いするわけではありませんから。政財界の人間である以上敵は多いです。残念ながら、無力化し警察に身柄を引き渡さざるを得なかった方もいます。ですが私は、あなたたちの内にはまだ良心があると信じています」

 

「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

 

 

お嬢様は本当に聖人のようなお方だった。

光のような、太陽のような。

すべての人々に手を差し伸べ………誰でも人を信じていた。

 

 

 

 

 

「けっきょく、あの二人は警察に自首したそうね………『しっかり自分の罪と向き合って、心を入れ替えてからその時にあんたらの世話になりたい』って…………」

 

「やはり、あの二人には善の心がおありだったようです。自らの罪に向き合えるなど、そう強い人はめったにいるものではありません」

 

 

 

「立てるか、木ノ葉。ほら、濡れたタオルを巻いて冷やせ」

 

「は、はい………ありがとうございます」

 

「いちおうお礼は言っといてあげるわ、恩郎智さん。もうあんたがお嬢様の護衛をしたほうがいいわよ」

 

 

当時の彼は誇り高い騎士のような方だった。

 

 

「まったくだ。危ないところだったぞ、もっと周りを見ろ………おまえたちは姉妹の心配などせず、ただお嬢様を守ることだけを頭に入れておけ」

 

「わかりましたわ」

 

「かしこまりました」

 

「…………一人返事してないな。特にお前に言ってたんだぞ瀬織。不服か?」

 

「そうね。大いに不服だわ。私はお嬢様の下僕だけど、それ以前に私は木ノ葉の姉なのよ?見捨てるなんて真似できっこないじゃない」

 

「こらこら瀬織ちゃん。恩郎智さまに失礼じゃない。助けていただいたのに………」

 

「────おまえたちはお嬢様だけを守れ。おまえたち3人のことはおれが守る。SPとはお嬢様のお身体の一部という意味だ。お嬢様を取り巻くすべては花のように気高く、美しく、清潔に、可憐にあるべきだ。ならばおれのような男よりも、おまえたちの方が適任だ」

 

「…………………////」

「…………………////」

「…………………////」

 

 

私たちにとって、恩郎智さまは憧れの騎士だった。

 

なのに─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「恩郎智さまは、いまや辻斬りになられたそうですよ、お嬢様、お姉様…………」

 

 

私は恩郎智さまの位牌を優しく寝かせた。

司馬さまのお話が正しければ、あの方はまだ生きている。

たしかに、あの日の出来事においても、恩郎智さまが行方不明になったとしても、死体を見ていないし、お亡くなりになったという話も聞いていなかった。

いったいどうして彼は生き残れたのか。まさかお嬢様を見捨てて逃げるような人ではない。

となると…………

 

 

「間に合わなかった…………のね、」

 

 

お嬢様の騎士として、彼女を守ることだけが彼の生きる目的だった筈。

それを、間に合わずに失った彼はどう思っていたのか。

 

それに………その時、恩郎智さまはすでに、茅乃お姉様とご結婚されるその準備も──────

 

 

「──────一番の被害者は誰なのでしょうね、」

 

 

主を失い、義妹を失い、婚約者まで奪われた恩郎智さま…………私にとって守るべきものはお嬢様だけだった。

この人は、お嬢様と私と瀬織お姉様、そして何よりも茅乃お姉様を守っていた。

守るべきものを3つ、一瞬で失った。

私はあの場で実際に被害を受けた当事者ではあるが、恩郎智さまはその場に居合わせることもできず、慌てて駆けつけたときにはすべてが手遅れだったその無力感……………

 

その重さを今もなお背負い続けている。

私はもう過去を忘れ、名もなきただのメイドとして人生をやり直すと決めた。

けれどあの形は…………まだ時が止まったまま。

いやあるいは、現在(イマ)という一瞬が進んでいるとしても、先に進めぬまま業を背負い続けている。

挙句の果てに、それを晴らすために今では闇の中で辻斬りとなっている。

 

これほどにまで哀れな男がいるのだろうか。

 

彼を呪うのは私怨ではなく、主への忠義と、愛する人への誓い。

だがそんな騎士のように美しい綺麗事も辻斬りとなれば泥と塗られる。

その剣は守るべきものを守るための剣ではなく、人を殺すための刃へと成り下がった。

 

その呪縛を断ち切るにはどうしてやるべきか。

彼は本当に、すべての因果を絶つまで終わらないつもりだろう。

 

 

「私が…………止めなければならないのね、」

 

 

あの惨劇のただ一人の生存者…………

私しか、彼を理解し、止めてやれる者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────僕の名前は菊理弥二郎。

 

 

「では私の番だ。問題です。慶安の変の首謀者…」

 

「由比正雪」

 

「ですが、その従者として江戸城下への放火を企てた未遂犯の浪人の名をなんというか?」

 

「────────────」

 

 

上司と拷問ソムリエの学力勝負を見せられている特殊犯罪対策課の見習い巡査です…………

 

 

「………………………………」

 

「いやいや………丸橋忠弥ですよ、シバさん………」

 

「黙らんか!!!今考えていた所だろうが!!!」

 

「ひぃぃぃ………!そんな怒らないでくださいよ!ぜったいあの表情わからない時の顔だったでしょ!」

 

「大学時代の記憶を呼び覚ましていただけだ!」

 

「警察官の道大学で歴史やります!?高校の教科書に乗ってますから!理系で日本史そんな細かいとこまで習ってない僕でも知ってますよ!?」

 

 

この人は司馬喬皇平さんです。

巡査部長で僕の憧れの上司なんですが…………

 

 

「司馬よ。さっきから隣の助手に答えさせてばかりで自分は何も言わないな?貴様から出された問題は、すべて私が自身の知識を以てしてすべて正答を述べたが…………」

 

 

この伊集院茂夫さんという拷問ソムリエに出会って、めちゃくちゃ負けん気が覚醒しちゃってるんですよね…………

 

かくいう伊集院さんも、冷静そうな顔してめちゃくちゃシバさんとバチバチしてるし。

 

 

「伊集院さんもさっきギロチンの発明者のことシャルル・アンリ・サンソンとか言ってましたよね」

 

「そうだ。ジョゼフ・ギョタンも知らんのか」

 

「それは発明者じゃなくて発案者だろう」

 

「ふん。拷問ソムリエのくせに拷問器具の発明者も知らんとはな」

 

「ギロチンは拷問器具とはむしろ正反対な罪人の人権に配慮された処刑器具ですよ」

 

「黙らんかお前は一旦!!!」

「黙らんかお前は一旦!!!」

 

 

 

 

「ところで、なんでこんなことになったんでしたっけ………?」

 

 

そこにいるのは流川くん。

伊集院さんの弟子らしいです。

シバさんと伊集院さんの相性は犬と猿より酷いですが、僕たちだけは波長が合うみたいです。

 

 

僕は本来の任務を果たすため、まだ喧嘩してる2人を放っておいてその人に対応しています。

 

 

「それで………園長先生、その施設に放火したのが………下離羅という半グレ組織ということですか、」

 

「はい…………あの日に、私は自分の持つすべてを失いました」

 

 

今僕たちはちょっとしたお店に来ています。

そこにいるのは、伊集院さんの元依頼者。

下離羅のことを知っている人です。実際に、彼らから被害を受けたのです。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は大空ポプラ園の園長先生。

 

 

「慶也くん、もうすぐお昼ご飯よ。お部屋に戻ってらっしゃい」

 

「うんわかった、いまいく!」

 

 

この大空ポプラ園は、いわゆる特別支援施設。

発達障がいなどを抱えたりしている子どもたちが、親の意思で預けられてそこで暮らしています。

 

 

「見て見て園長!木にとまっていた小鳥を描いていたの!」

 

「あらあら!これはウグイスかしら?とっても上手よ慶也くん」

 

 

17歳で最年長の丸山慶也くんは絵がとても上手かったらしいです。それは絵が好きだから描いてるうちに身についた力というより、生まれ持った才能のようですね。

視界に映った映像を鮮明に情報としてではなく形として物体を立体的にとらえることのできる。右脳左脳の連携が発達しているんでしょうね。

初めて見る画数の多い漢字を鏡写しかつ上下反転させて彼に見せたとしても、漢字を読むことができないとしても全く同じようにそれを素早く書き写すことはできると思いますね。

 

とにかく。

彼の他にもたくさんの子供達が施設にはいて、優しい園長先生は彼らに慕われていた。そして彼女も彼らをとても愛していた。我が子のように………

 

園長先生をはじめ子どもたち含めた施設の人々はのどかにそして平穏に暮らしていました。

 

───────えぇ。

ご存知の通り…………あの惨劇さえ起こらねば、ね…………

 

 

 

「強盗に失敗したクズは皆殺しだぁあああ!!!」

 

「ぐぇぇえええ!!!」

 

「ぎあぁぁぁ!!!」

 

 

 

その日々はある夜に突如、終わりを迎えることになりました。

 

 

「あぁぁぁ……!!!私の子どもたちが……ぁあ゙あ゙あ゙………!!!」

 

 

突如、男たちが施設に押しかけてきたんです。

 

園長先生は目と胸を裂かれながらも一命を取り留め、今もここにいらっしゃいますが、彼女が我が子のように大切にしていた子どもたちは全員命を落としてしまいました。

 

 

背景としては慶也くんたちは半グレ組織に脅されて強盗をやらされていたようです。

 

「俺の言うことが聞けねぇのか、あぁ!?奴隷は黙って言う事聞いて、さっさと言ってこいグズ共が!!」

 

「痛い、いだあ゙ぁい………!!」

 

「おいクズ………念のためもう一回言っとくぞ………もし見つかっても、俺のことは喋んじゃねぇぞ」

 

「う………うん………」

 

 

けれども慶也くんは「喋るなと言われたが似顔絵を描くなとは言われてない」と判断したようで、施設に帰ったあとに似顔絵を描いていました。

園長先生が施設の壁にそれ貼ったのを、指示役の男に見られたのが引き金になったらしいです。

 

 

そしてそのリーダーこそが、伊集院さんによってシバかれた男、大貫。

 

 

「俺が直接やるよりも、考えの浅ぇ障害持ちのガキにやらせたほうがリスクもねぇし換えが聞くし従順だ………圧倒的にスマートだろぉ?」

 

 

伊集院さんに真空パックにつめられ、そのまま熱湯釜で煮殺されたらしいです。

 

 

「じっくり時間をかけて煮込んでやるから安心するんだな」

 

「あぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」

 

 

───────いや、どーゆーコト?

冷凍のささみフライかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………というのが、ここまでの伊集院伝説のあらすじですね〜」

 

 

僕はとりあえずメモだけしておきました。

 

 

「お待たせいたしました、こちら塩キャラメルほうじ茶ラテでございます」

 

「あはっ。ありがとうございま〜す。…………おぉっ、おいし~」

 

「キクリ。誰に払わせるつもりで頼んだんだそれ、」

 

「園長先生」

 

「よりによって1番の論外を選ぶな」

 

「それでしたら今日は僕たちがお支払いします。先生もそれでいいですか?」

 

「あぁ。構わんよ。今日は私の奢りだ」

 

 

うほっ。流川くん、伊集院さん、神ですか。

 

 

「ならば俺も遠慮なく頼むとしよう。ここで一番高いのは…………っと、」

 

「し、シバさん……………」

 

 

 

 

 

 

「ところで園長先生。余計な質問ですが、あなたの事情はおおかた普通の出来事ではない。事件のことを語るのはショックも大きかったでしょう。なぜ我々に事情を話す気になったのか教えていただけますか」

 

 

シバさんが珍しいことに人の心に問いかけるような質問をしました。

 

それに対して園長先生の答えはこれでした。

 

 

「あはは………どうしてでしょう………実は、自分でもよく分からないんです」

 

「…………………………」

 

「私は伊集院さんに助けていただいたのに………なぜでしょう………まだ、その………胸がざわつくというか………未練は断ち切れましたけれども、やはりあの子たちは戻ってこないんだな、って………」

 

 

死んだ人間は、戻ってはこない。

僕は自分からすべてを奪ったあの男たちを追っているものの、未だに足跡すら見つからない。

でも…………仮に奴らを見つけ出して、両足引きちぎって眼球抉り出して、鼻削ぎ落として耳引きちぎって内臓掻き出して、全身の肉を切り刻んで盛大にブチ殺したところで─────

 

僕の失ったものは、この胸の空白が埋まることなんてない。

 

 

あぁ……………イラつくイラつくイラつく。

 

 

なんで 僕は

    俺は ずっと奴らを追ってるってのに。

 

 

なんでこの女は救われたのに、俺は未だに未練の一つすら断ち切らせて貰えないんだ。

俺がここに来るまでどんだけ苦労して来たことか。

警察学校の暮らしだって弥二郎にとっては耐えられないくらいの厳しいものだったし俺ですら辛かった。

こんだけの苦労してやっと警官になって、数々の事件で司馬さんについて行って何度も危ない目に遭わされて、

俺がこんだけ苦労している間に、俺の大切なものを奪った奴らはなんでまだのうのうと生きてるんだ。つくづく納得いかねぇ…………

 

 

 

「──────けれどそれだけではありません。もし、彼らの残党がまだ凶行を繰り返しているのなら…………あの子たち以外の子どもたちも、きっと危ない目に遭わされる…………」

 

「──────園長先生、」

 

 

まさかこの女

   この人………… 関係ない子のために………

 

 

「ある日、子どもたちにアザができていたのを見たんです。殺されただけじゃない。その前から、彼らは脅されて、痛めつけられていたんです………怖かったでしょう………痛かったでしょう………ただでさえ………普通の子と比べて生きづらい思いをしてきたのに………それでも、私の前では笑ってくれていたんですよ………」

 

(園長先生……………貴女は私に依頼をしていた貴女とは、まるで別人のようです)

 

(自身の事だけでも精一杯だというのに、まだ見ぬ、見知らぬ犠牲者の事を考えているのか………)

 

 

この人…………とても強い人なんだ。

 

 

「私にできることならなんだってやります。もう一度黒い背中を背負うことになってもいい。ですから、子どもたちを悪党の手から守ってあげてください………!!」

 

 

そう言うと園長先生は深々とお辞儀をしました。

 

 

「今の私には…………何も残っていないから何も払えないけれど…………私には何もできないけれど…………」

 

 

園長先生の涙を流すその顔には一条の深い痣がありました。

刃で斬られたような深い傷。

もう完治しているはずのそこから、血が流れてきました。まるで、彼女の時が巻き戻ったかのように。

 

その涙に含まれていたのは、やはり帰ってこない子どもたちを偲び、その痛々しい光景を思い出した時の涙。

 

 

 

「─────いいえ、園長先生。貴女は何も支払う必要はない」

 

 

それを聞いたシバさんが椅子から立ち上がります。

 

 

「公務員とは税金で動かすもの。すなわち、対価なくすべての国民に平等にある。払える払えない平等に手を差し伸べ、すべての国民を守る民意の正義────それが我々、警察だ。園長先生、貴女の覚悟は間違いなく聞き届けた」

 

「シバさん、今回の事件、必ず解決しましょう!」

 

「あぁ。無論だ」

 

 

 

「では、その任務にはこの拷問ソムリエが手を貸そう」

 

 

すると、伊集院さんが意外な台詞を口にしました。

 

 

「不要だ。貴様の手助けなどいらん。大勢の国民を守るのは警察の仕事だ」

 

「ほう。ずいぶん冷たいことを言う。だが、今は意地を張っている場合ではないのではないか?」

 

「なに…………?」

 

 

その時、喫茶店のドアを蹴破ってなかに大勢の男が流れ込んでたのです!

 

 

 

「俺らのこと嗅ぎ回っとる奴は誰じゃい!!!」

 

「店のなかの者共、全員動くなや!」

 

 

なんと、刃物や銃を持った男たちが押しかけてきたんです!!!

 

 

「お、お客様…………困ります──ぐぇえ!!」

 

「うっさいわボケ!!殺すぞ!!」

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「逃げんじゃねぇクソアマ!黙って中でじっとしとけや!!」

 

 

 

 

「─────こいつらは?」

 

「さてな。だがどうにも、無差別に殺したいわけではないようだぞ」

 

 

男たちはテーブルを蹴り倒しながら僕たちを取り囲もうとしてきます。

 

 

「─────ハァ…………」

 

 

そこからのシバさんの判断は超早かった。

 

 

「キクリ!!客と園長先生を連れてカウンターの奥に隠れろ!何かあってもお前から犠牲になれ!」

 

「はいッ!」

 

 

鬼みたいなな指示してきた………!!

 

 

「流川君、君も奥を頼んだ!!!」

 

「はい!皆さんをお守りします!」

 

 

 

「皆さん落ち着いて聞いて!出入り口に近づかないで!店の奥のカウンターへ!はやく!」

 

「怖くありませんよ、さぁ、早くこちらへ」

 

 

そして住民の退避には成功しました。

この最中に発砲しなかったってことは、やっぱり僕たちに用事が……………

 

 

 

店の中央に残ったのはシバさんと伊集院さんの2人。

 

 

「さて…………まずなんの罪でしょっぴかれたい?暴行か?脅迫か?強盗か?銃刀法か?」

 

「もし万が一捕まるとしたらそうやな………テメェらを殺して殺人で捕まるわ」

 

 

「どうやら俺たちに用があるようだな。何の話だ。嗅ぎ回る?まさかお前ら、下離羅の差し金か」

 

「ま、そーいうこったな。ちょっとだけ、ちゃうねんけどな、まぁええわ死んだら教えたるわ」

 

 

 

「この数…………一介の半グレ組織とは思えんな」

 

「私が以前に退治したときとは、組織の規模が大きくなっている。トップが消えてもなお、形を保つばかりか組織を巨大化させるとはどういう事だ………」

 

 

 

シバさんと伊集院さんはあっという間に取り囲みれてしまいました。

 

 

「お前らええか!こいつら仕留めんと先に進めへんで!」

 

「ったり前やろがい!」

 

「この七三と坊主をブッ殺すんや!!」

 

 

 

 

「やれやれ…………」

 

「どうする?私の助けはいらないんだろう?」

 

「あぁ。いらんな」

 

 

 

「ごちゃごちゃ言っとらんと、前見んかいボケが!!!」

 

 

ナイフを持った男がシバさんに突撃する!

 

 

「前すら見えない貴様に言われたくはないな」

 

「ぐげぁぁぁぁぁぁ!!!!」 

 

 

そのまんまシバさんは刀の峰で男を真正面から殴り倒しました!

 

 

「ほう。あれだけの戦いのあとにも動けるか」

 

「黙れ、【お前】に負わされた傷のせいで満足には動けん。お前の面倒までは見切れんぞ」 

 

「ほう。杞憂とはいえ、この伊集院の心配をしてくれているというのか司馬」

 

「勘違いするな。こんな取るに足らない相手を相手に取らなければならなくなったのは、ここの客を守るためだろうが」

 

「そうか。では、私は私自身の身を守ることに専念するとしよう」

 

 

伊集院さんの後ろから迫るもう一人。

 

 

「ふん!!!!」

 

「ぱぎゃぁああああ!!!」

 

 

伊集院さんの裏拳でもう一人は壁に埋め込まれるほどにふっ飛ばされました!!!

 

 

「────────────」

 

「────────────」

 

 

シバさんと伊集院さんが互いに背中を合わせる。

 

 

「正面から来てるぞ?」

 

「ほう、貴様もそうだが?」

 

 

 

 

シバさんと伊集院さんは同時に背中を翻し、自分の背後に向かって刀と拳を振りかざす。

 

 

「はぁッ!!!」

 

「むぅん!!!」

 

 

交差する2人の身体は互いの横をすり抜け左右が入れ替わり、、互いの正面から迫ってきた男たちを一撃で殴り倒してしまったんです!!!

 

 

 

「………………ふん、」

 

「………………フッ、」

 

 

な、なんか……………息ぴったり……………

 

わっかんないなぁ……………

 

 

「テメェらもコソコソしてねぇで出てこいや!!!」

 

 

カウンターに男が3人迫ってきた…………!!

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ見つかったぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな危ないもの、お店のなかで振り回さないでください!!」

 

「うぎぇぇぁぁぁぁ!腕がぁぁ!!!」

 

 

その時、流川くんの鋭いキックが一人の男の腕を折り曲げた!!!

 

 

「膝を逆に折り曲げてしまいましょう!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

そして流れるようにもう一人に向かって関節技!!!

な……………なんだ、今の!?

ぜんっぜん見えなかったよ!?

 

 

「貴様ァァァァァァ!!!!!」

 

 

寝技を決めた流川くんに銃を構える最後の一人………!!!

 

流川くんが危ない!!!

 

 

 

 

────────弥二郎!!!

 

その皿だ、頭を狙え!!!

 

 

 

 

「ぅっ…………く、くらえ─────っ!!!」

 

「ぶぉぉっ!!!」

 

 

僕はとっさに、カウンターから身を乗り出し、置いてあった食器の角で思いっきり背後からぶん殴る!!!

 

お皿は粉々に割れたけど…………

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁァ!!!うわぁぁぁぁぁッ!!!くるなーっ!!!」

 

「あべし!うわらば!たわば!ちにゃ!」 

 

 

コーヒーメーカースタンドの角とからガラスの花瓶とか、ガラスのお冷入れとか、ガラスの灰皿とか、片っ端から痛そうなの掴んでは後頭部に叩きつける!!!

 

 

「あっち…………いけーっ!!!」

 

 

最後に下から思いっきりレジ下の消火器で殴り飛ばす!!!

 

 

「ひでぶぅぅぅ!!!」

 

 

気がついたら3人とも倒れていた。

 

 

「や、やっつけちゃった!?」

 

「すごいです菊理さん!…………ちょっとやりすぎだとは思いますが」

 

「て、敵が目の前にいると…………ついパニックになっちゃって…………」

 

 

かわいそうなこと、しちゃったかな…………

まぁ…………いいか!

 

 

 

 

 

「な、なんやこいつら…………バケモノか…………!」

 

「その通りだ。私はすべての外道に煉獄の裁きを与える鬼だ」

 

「そして俺は国民の安全を脅かすすべてを噛み砕く獣…………」

 

 

余った三人は武器を持ったまま震えています。

 

 

「伊集院、勢い余って殺すことは許さんぞ。コイツらからは聞き出さねばならんからな」

 

「無論だ。私を誰だと思っている」

 

 

次の瞬間、シバさんと伊集院さんの攻撃が一斉に炸裂する。

 

 

「顔面を軽く小突くぞ。頭を守れよ」

 

「ごべぇぇぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

「1人だけ聞き出せればいいからな。貴様は死ぬかもしれんがそこは運による」

 

「カミサマッ!!」

 

 

やはりこの二人に関しては異次元です……………

あっという間に全員片付いてしまいました。

 

 

「昼食代も含めて貸しが二つに増えたぞ、死神警官」

 

「どちらもお前が勝手にやっただけだろ。だが、そのうち礼の準備は取っておくぞ拷問ソムリエ」

 

 

 

 

 

僕は再び思い知った──────

 

裏社会の厄災と裏社会の凶星。

 

たしかに誰がどう見ても、この二人は最悪のコンビだったということに──────

 

 

 

次回『闇医者襲撃………『鬼童会』の茨木と下離羅の佐志原』

 

 




烏丸熊之城
Karasuma Kumanojo

灯火教団の幹部。
和歌山の任侠集団『鈴鹿組』に属していた元武闘派の極道。赤を基調とした服装に、マントのように黒いジャケットを羽織っている。
猛烈な脚技と手にした天体観測用の三脚を武器にし、まさに3本の脚で敵を狩るその圧倒的戦闘力から三本脚の神の遣いを示す『ヤタガラス様』という名前で呼ばれている。
重度の戦闘狂であり、戦いを以って相手とコミュニケーションを取ろうとする実に愉快な男でもある。その一方で、次々と組員が抜けて崩れていった鈴鹿組でただ一人最後まで任侠を貫いた男として記録されているなど、極道として骨の入った一面も持ち合わせている。
裏社会でも指折りのアニメ好きとしても知られており、一推しはマクロスF。
そのナリでチョイスが堅実すぎる。





反町恩朗智
Sorimachi Orochi

灯火教団の幹部。
正体不明の剣豪、『辻斬りオロチ』。
青い和服に身を包む剣術使い。
かつては誠実な騎士だったが、仇敵『御前』の謀略によってあてもなく夜を彷徨う辻斬りへと貶められる事になっている。今は堕ちたがそれでもなお衰えを知らぬその剣筋は、裏社会に敵無しと言われるほど。
全ての犯罪者を憎んでおり、たとえ脅迫されていたとしても罪を犯したならば女子供も見境なく切り捨てるくらいには容赦と見境がない。その一方で罪のない人間には絶対に危害を加えない所や、危険にさらされた一般人を率先して助けるなど、山ほど人を殺している割には外道とも言い切れない不可思議さもある。
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