死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
─────俺の名前は、久我虎徹。
「おーい久我くーん、生きてるかー?生きているなら返事をしろぉ」
「ぐぐぐぁぁぁ守若の兄貴…………せっかく生きてるのに………このまんまだと死にます…………」
闇医者で寝ていた所を組の兄貴に無理矢理起こされて立たされた武闘派の極道だ。
俺と六車の兄貴は昨日、廃工場で半グレ組織と激突していた。
「闘いは圧倒的なものだ、先に動いたほうが動かなかったほうを蹂躙する………そういうものだ」
「ぐォっ…………!」
そんな中、俺は暗闇の中に現れた謎の剣士、恩郎智に全身を斬り刻まれて闇医者に担ぎ込まれた。
「久我、調子はどうだ?」
「六車の兄貴…………」
歩くこともままならない俺の見舞いに来てくれたのは京極組の兄貴である守若の兄貴と六車の兄貴だ。
「不甲斐ねぇっす…………俺が弱かったばっかりに、六車の兄貴に迷惑かけて…………あの子どもたちも、一人も守れなかった…………」
俺は自分の負った傷の痛みよりも、あの場にいた子どもたちをオロチの凶刃から守れなかった事をずっと悔やんでいた。
「過ぎちまったことは仕方がねぇ。五十嵐の親父も今、京極組の力を懸けて事に当たろうって事にしてるが…………生憎とウチも立て込んでいる」
現在俺たち京極組は巨大マフィア戒炎と交戦中だ。
「大きな組織には大勢の仲間に向けるだけの、大きな懐と愛が必要なんだ。俺が真実の愛を教えてあげよう、」
まだトップの我妻を討ち取るには至っていない、依然として俺たちの警戒態勢はほどけないし、人員を割く事も厳しい。
ホントは、俺みたいな兄貴に及ばない奴らだろうが、病院で寝てる場合じゃない。
「久我くぅーん、手が滑ってポテチの袋が開けれないよ。これ開けて」
「は、はい…………」
守若の兄貴がベタベタの手でポテチの袋を渡してきた。
あんた、両手の様相からしてこれ2袋目だろ。
「まぁ、激闘に続く激闘で向こうもだんだん鳴りを潜めて来ているみたいだからな。たまにはこういう休憩もアリだろう。なぁ?牛丼の差し入れだ、力がつくぞ」
六車の兄貴がアツアツの牛丼を買ってきてくれた。
「うぉぉぉぉぉぉッ!!!秒速で平らげて、回復速度も秒速にしてやらァァァァァ!!!」
「おいおいよく味わって食いな、急に食えば身体に毒だぞ。しかも折角いいやつ買ってきてやったんだから」
「あーずるいぞー久我くん。肉だけぜんぶ俺に寄越せぇ」
食べてる途中に、俺は安心したのか、六車の兄貴に全く関係ない質問を投げかけた。
「そういや六車の兄貴、なんで兄貴と司馬巡査部長は知り合いなんですか?」
「司馬のことか?アイツとは学生時代からの仲だ」
「そーなんですか、」
「あぁ、おもしれぇ奴だった。暇だったら聞かせてやろうか?」
司馬は俺が学生だった時の生徒会長だった。
アイツはあん時から正義感が強くてな。
曲がったことや校則を守らない奴が大嫌いだった。
「オイ、よりにもよって廊下で喫煙するな。学校の外では止めはせんが、善良な生徒に副流煙を撒き散らすな馬鹿者」
「まーたお硬くうるせぇ会長サマが来やがったぜ」
「アンタの圧政にゃうんざりなんだよ。何しようが俺らの勝手だろ、あぁ?」
廊下で煙草吹かしてるやつとか、授業サボってるやつの情報をどっかから聞きつけたら司馬はいっつもやってきて止めさせる。
神出鬼没すぎて司馬がいるだけである一定の非行は消滅した。
とはいえ、司馬に逆らわないほうがいいこともわからんバカもまだ一定数いた。
「ルールなんてクソ食らえだぜ、もう俺らは縛られねぇんだよ。テメェの独裁なんてくだらねぇ、自由に生き─────ぶひゃぁぁぁ!?」
「こいつバケツの水ぶっかけやがった………!」
「て、テメェ!!仲間に何しやがる………!」
「今朝も悪びる様子もなければ遅刻証明も発行せずに堂々と遅刻してきて困ったって担任から聞いている。これで寝坊頭の眼も覚めたろ。ついでに葉っぱの火も消せて一石二鳥だ」
「おいおい…………やりすぎだろ司馬…………」
「六車。俺だってできることなら言葉で諭してやりたいが、それでも無理な相手には実力行使するしかない。馬を訓練しようとしても、言葉で言った所で意思は伝わらんだろ、同じだ。鞭で叩かれたら走る、と教え込ませるのと同じで、煙草ふかしたら水ぶっかけられると認識させたほうがいいに決まってる。学校の治安を守るためだ」
「こ、こんの野郎…………ブン殴─ごぁぁぁぁっ!!!」
「おっと、司馬に対して力比べは一番勝算がないやつだぞ」
「お前が言うな六車」
「こ、こんなの許されっかよ………!校長に訴えてやるからな………!」
「その校長に言われてやってる仕事だ。あとお前ら勘違いしているが俺は別に校則を増やしたりしていないぞ。元からある校則に違反している奴を取り締まっているだけだ。俺は何もおかしなことはしていない。校長に訴えたければ訴えればいいさ。お前が廊下で喫煙していたことから俺が一緒に説明してあげようか」
「ぐぅっ………………」
「あん時から肝の座ってたやつだとは思っていたが…………堅物なのは相変わらずだな」
いやいや、司馬巡査部長、やってること強すぎないか…………
「小さな学校の校則なんぞでこの有様だ。社会という、違反すれば実刑判決の下る規模の箱庭に放たれたとなればそりゃあ、あぁもなるだろう」
恐ろし…………死神警官・死刃ってのは伊達じゃねぇ…………
「…………ん?六車の兄貴、守若の兄貴は?」
すると、気がついた時には守若の兄貴がいなくなっていた。
「ん?そういえばいつの間にか…………しまった、昔話に夢中で目を離してしまったか。便所にでも行ったんじゃないか」
風来坊のような人だ。そういうことも珍しくはないしありえなくない。
「そうだとは思いますが────」
その時、窓の外から轟音が響き渡った。
「な、なんだ!?」
「ガラスが割れた音が聞こえました!入り口ぶっ壊されたんじゃないですか!?」
病室から六車の兄貴と俺は、外から闇医者の入り口を破壊する巨大な音を聞いた。
少し前、守若の兄貴は闇医者の入り口に来ていた。
「司馬とかいう人が誰かもわかんねぇのに聞いてられるかぁ。どっかでまたポテチ買おーっと」
守若の兄貴が出入り口に近づいた時、
兄貴の全身の肌が逆立った。
「んー?なんだなんだ?エグい殺気がするぞぉ」
守若の兄貴は扉を抜ける。
──────その先に、奇妙な男が一人いた。
「おいおい、ホンマに言うてる?京極組の久我と六車がここにいるって聞いとったんやけど、出てきたのは全然違うやつやないか。お前、誰や?」
その男は、守若の兄貴と同じぐらいの体格をしていた。決して背が高くも、肥えてもいないが、スリムな体形の割に手足が太い男。
「誰だだとぉ?お前が先に名乗れやボケェ」
「あぁ!せやな。こちとら客人やけんなぁ。たしかに俺から名乗るのが礼儀っちゅうもんか」
男は一歩踏み出し、守若の兄貴に向かって開いた片手を差し出した。
「
「はじめて聞く名前だぁ。何やって過ごしてんだ?人間観察かぁ?」
守若の兄貴とは、普通の人間じゃ会話にすらならない。
次の瞬間、茨木という男の声色が変わる。
「何を言うとるんやあんたは…………」
直後、茨木がいきなり怒髪天を衝いた。
「─────テメェは小坊のガキかこんのダボがァ!!!」
その迫力は、まるで猛獣のようだった。
「…………っと、悪ぃ悪ぃ。昔ッからボケられるとキレてまうねんよぉ。ほんま申し訳ないわぁ、これは性格っちゅうことで堪忍やで」
茨木は急に機嫌を取り戻した。
「おー。せやせや、なんで俺がこないなところに来とるんかっちゅうことやろ?それがなぁ、あんたには関係ないんよなぁ。俺は久我と六車ってやつに用があるんやけどこにおるか知らんか?」
「んー?何しに来たんだ?」
「何も聞いとらんようやな。ほうかほうか。でな、お宅の六車さんと久我さんがな、ウチの末端を潰しよってん。その事についてちょいと話聞こう思うて今ここに来てん」
「あぁー。聞いてるぞぉ、ガキに強盗させて回ってるヤツらだよなぁ。テメェが糸引いてやがったのかー?おいコノヤロォ」
「いやいや。糸もなにも、腕っぷしもないあんなやつらが残ってくれるとも思うとらんかったわ。大阪極道っちゅうんはカタギの皆さんに手ぇ出したりせんのよ。大引っ越しの手伝いに来て色々片付けよう思うたらなんかお子様さらって余計なことしてたってオチや」
「ふーん。そんなクズども潰されたオトシマエってわけかぁ。そんなことさせるかぁ俺のいじめがいあるかわいい後輩いじめるのは許さねぇぞぉ」
守若の兄貴は包丁を抜いた。
この人は刺身包丁の守若と恐れられている、京極組最強の武闘派だ。
「お前もカッパ寿司になれー」
「シンカンセン!!!」
組織譲りのその圧倒的戦闘力は、まさに無敗とまで知られているほどだ。
「大阪に帰れ田舎者ぉ。ここは京極組の土地だぞ、コラァ」
「ふーん。得物は刺身包丁かいな。俺を膾に下ろすっちゅうんけ?ハハ………ブッハハハハハハ!!!」
茨木は腹と頭を抱えて大笑いした。
ひとしきり大爆笑したあと、茨木は反らしていた身体を戻す。
次の瞬間、茨木が再び鬼の形相へと変わる。
「思い上がっとるんちゃうぞボケがァ!!!」
茨木の左手に紅い装飾の忍者刀が握られる。
「俺の
「うるせーぞこの大阪ヤロー。俺を敵にしといて、生きて帰れると思うなよぉ。この東京がお前の墓場だあ」
「ええやろ!来いや!その舐めたTシャツと短パンごと、テメェを真っ二つにしたるわ!」
茨木の挑発を合図に、
守若の兄貴が一気に懐へと踏み込む!!!
「大阪外道のタタキ、一丁あがりい!」
「ええがな!!!大したパワーやないか!!!」
守若の兄貴のパワーは最大の強みだ。
しかし、茨木は忍者刀で守若の兄貴の兜を割るような一撃を受け流した!
「ただのデカいガキか思うたけども、スピードも結構あるやないか、フィジカルでは俺より1枚上みたいやな」
茨木…………この男、守若の兄貴に瞬殺されないだけでもかなりのやり手だ…………
「まだ始まったばかりでしょうがあ!」
「せやな!せやなぁ!そうやろうなぁ!」
刺身包丁と忍者刀が正面から激しく乱舞する!
「おもろいおもろい!おもろいでぇ!」
「何が面白えんだぁ、このゲラ野郎がよお」
なんと、斬り合いであの守若の兄貴とほぼ互角!
どちらからも、一滴の血すらも噴き出ない!
「なら、これはどうだ?」
守若の兄貴は、切り合いの中に打突を混ぜ込む。
「おぉ!なんや………そんなんあるんかいな!」
守若の兄貴の素手の攻撃が茨木の額をかすめる。
「うおっ!?なんやなんや、素手のくせにリーチ長いのぉ!螳螂拳かいな?」
守若の兄貴は螳螂拳の達人だ。
爪が茨木の額を斬りつけた。
「指の爪で刃物みたいな傷つけてくれおって。なんやねん指そのパワーは、カンフーは不思議ばっかりやで、ほんま、」
「おーい、しゃべってる暇なんてねぇぞ」
守若の兄貴のペースはむしろ加速する。
「うぅ…………なんやねんお前は…………!早すぎやろ…………」
茨木は一方的に押し込まれる展開になる!
「大したことなかったぞお。もうおしまいんザミラー!」
「ホワァァァァッ!?」
茨木の左肩口に守若の兄貴の螳螂拳が突き刺さる!
「ここで引き裂く、」
「か、あっかーん!!!」
茨木はあっさりと左肩の肉を削がれた。
「─────さ、流石にキツイわぁ…………」
「なんだったんだよお前?なーんの苦労もしなかったぞお?」
「くそったれぇ…………」
茨木はその場で忍者刀を落とし、膝をついた。
「じゃあ、お前もカッパになれー!」
守若は、膝をつく茨木に対して容赦なく包丁を振りかざす。
「あかんわぁ、強すぎて俺では敵わへんわ…………せやからこれもしゃあないな……………」
茨木は守若の兄貴の前でうなだれる。
奴の頭まで包丁の刃が迫る。
「せやから、本気出すわな…………」
しかし、茨木の底はまだ見えていなかった。
「んん?」
(なんかが変わったか。出ているオーラが違う)
守若の兄貴の迅速な判断!!!
勝ちが確定していたこの状況からの判断とは思えない素早さだった!
だが、それじゃ全然遅かった!
「いったん仕切り直そか!ま、あんたが俺と同じくらいダメージ負ってから再スタートっちゅうことになってまうがな!」
「グゥゥゥ!!!」
なんと、茨木は突然立ち上がり、守若の兄貴の胴体に拳をねじ込んできた!
「ぐぅぅぅぁ………!!!」
守若の兄貴は飛行機のように空を翔んだ。
「がぁぁ………!!!」
そして数十メートルも離れた、病院の入り口のドアに激突し、扉を破壊しながら病院の中へと投げ出された。
俺が聞いた音は、守若の兄貴が扉に叩きつけられ、ドアガラスを割りながら扉を突き破った時の音だったんだ!
「いてぇぞコノヤロー…………目とかにガラス片刺さったらどーすんだあ」
守若の兄貴は衝撃と飛散したガラスによって身体中が血まみれだ。
(あの右腕にブン殴られた途端ふっ飛ばされたな)
「どうや、俺のこの、黄金の右は!!」
そう────茨木綱也という男の真価は、ここからだった。
「…………両腕解禁やで。バチボコにしたるから覚悟せぇや…………」
「うるせぇーっ。こちとら戦争中だぞお。おかげで血塗れじゃねーかどーしてくれるんだボケェ」
そして、茨木と守若の最強極道対決はここからが始まりだったんだ…………
そしてその頃、俺たちが追い続けている悪の親玉が、動き出すことになった。
「大貫の野郎のミスっつーのはたった一つ。そいつはな、自分がリーダーになろうとしてやがったことだ」
「そうなんスか?佐志原さん」
「あぁ。アイツは並々ならぬ支配欲求を持っていた。アイツは強盗してゼニ稼ぐことよりも、ガキをいたぶってるときのほうが最高にハイだった、つーわけだ。ンなもん、足ついて当然だろよ。ガキの前で油断して覆面外してるのがバレて似顔絵描かれて顔バレたぁマヌケだぜ。ま、足がついちまうほど似顔絵が上手いガキってのがめちゃくちゃレアケースだったのもあるがよ」
新しく下離羅のトップに君臨したのは、この佐志原という男。
「俺がやんのは半グレとしての仕事だけだ。だが、施設上がりのガキを使うってのは………なかなか上手い手だと思わねぇか?そこに関しちゃあ、大貫は天才的な発想があったぜ。ひらめきはあるがそれを使いこなす脳みそが足りなかったって事、」
佐志原が窓の外を眺めて部下に語っていると、扉が開いた。
「佐志原のおじさーん!おしごとおわったよー!」
「チョコほしい!チョコー!」
扉の向こうからやってきたのは、なんと笑顔の子どもたち。
「お!みんなおかえり。がんばり屋さんにはごほうびをやろう」
「わーい!」
「佐志原のおじさん優しいからだいすき!」
佐志原はスーパーで買ってきたお菓子の袋を子どもたちに渡す。
「わぁ、おやつだ!」
「お前たちには助けられてるよ。おじさん、お前たちのおかげで助かってるよ。次もよろしくね、」
「うん!」
「じゃあボク、遊んでくる!」
「暗くなる前に帰れよー?」
子どもたちはわちゃわちゃとはしゃぎながら出ていく。
「…………佐志原さん、いいんすか?」
「大貫が潰れた理由は鞭しか振るわなかったからだよ。俺は逆だ、飴しかやらねぇ。ガキの一番の原動力ってのは大好きなママパパのためだよ。こうやって親代わりになってやれれば、みんな勝手にここがホームだと思う、俺の頼みなら喜んで買って出る」
「さ、さすがっす…………」
「ヘッ、俺はガキには優しいんだよ」
佐志原は部下にも気づかれないような暗さで顔を歪めやがる。
「特に…………どこぞの誰かに施設を焼かれて、職員も皆殺しにされて生き場を失った、かわいそうな、かわいそうなお子様には特に甘いのさ、」
佐志原の口が邪悪にニヤけヅラを浮かべた。
次回『守若の兄貴の本気………茨木綱也の真の力』