死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
一人で燃える大学の敷地内に飛び込んでいった菊理弥二郎。
「燃えているのは………ここよりもう少し先だ………」
キクリはお守り程度に拳銃を手にし、時々様子をうかがいながらも先を急ぐ。
奴は俺たちに住民の保護を任せ、自分は住宅街に放火している犯人を捕まえに行った。
大学の門は開いていた。
キクリは門から一直線に大学の敷地内へと足を踏み入れる。
草で彩られた広場に出てきたが、燃えているのは講堂。講堂はこれよりもさらに先。
もう少しキクリは走らなければならない。
「ん………?あれは…………」
キクリはその広場で、突然止まった。
キクリの目に映ったのは、キクリに背中を向けて立っている、まるでそこにいる実感のないような男の後ろ姿だった。
黒いダウンジャケットに身を包むその男は、立ち姿からして明らかに大学生の風貌ではなかった。
さらに、左手には拳銃を握りしめていた。
「そこの君!何をしているんだい!」
キクリは迷わず男に声をかけた。
男はキクリの声に気づき振り返る。
次の刹那───────
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!殺されるぅぅぅぅっ!!!!助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
男は突然、腰を抜かして悲鳴を上げたのだ。
あまりの絶叫にキクリは一歩後ずさる。
「ちょ、ちょっと待って!僕はただの警官で………」
キクリは錯乱状態に陥った男をなだめようとした。
その次の瞬間──────!!!
「ぐぅぅぅぅっ…………!?」
一発の銃声音とともに、いきなりキクリの左足が爆ぜた!!!
「ぐぁっ………!?」
(撃たれた………ッ!?でも、どこから………!?)
キクリは思わず膝をついて倒れる。
「ふふふ…………ハハハハハハーッ!!!」
そして、さっきまで錯乱していたはずの男が急に大笑いし始めた。
「ハッハッハー…………助かったよ、みんな。君たちはおじさんの恩人だぁ…………」
大笑いする男がそう呟くと、広場のあちこちにある草の中から、隠れていた複数の人影が現れた。
「なん……………だっ………て……………?」
隠れていたものの正体…………自身を狙撃してきた相手の姿を目に映し、キクリは思わず絶句した。
「佐志原おじさーん!死んじゃ嫌だぁ!」
「僕たちが助けるから逃げて!」
「おじさんに近づかないで!おじさんは、私たちの大切な人なの!」
「嘘……………でしょ……………何を……………」
なんと…………男…………下離羅トップ・佐志原を守るように取り囲んでいたのは、拳銃を持たされた中学生ぐらいの子供だったのだ!!!
(嘘だろ…………こいつ…………子供を…………!!!)
鈍くて明るいキクリもさすがに絶望の表情を隠せなかった。
子供たちの目には明るい光が宿っていた。
子供らしい、無邪気な輝きが。
子供たちは洗脳も脅迫もされていない。
【彼らの意志で】、佐志原を守っているのだ。
「おじさんは大丈夫だよ。それより、みんなのほうこそ気をつけるんだ。おじさんは見ていたよ………この男の人は拳銃を持っている…………!おじさんじゃなくて、君たちが危ない!みんなは下がっていてくれ!おじさんが、死んでも君たちを守るから!」
「嫌だ!僕たちも戦う!」
「おじさん、ケガしてる!一人で残せないよ!」
この男…………佐志原は子供たちの信頼を築いていたのだ。
子供たちは佐志原を、自分が体を張ってでも守るべき存在だと認識しているのだ。
「君たち………!騙されたらダメだ………!その人は、君たちを騙しているんだ………!」
キクリは必死に子供たちを説得しようとしたがまったく無意味だ。
「騙しているだと?どの口が言うか、この邪悪な偽警官め───ぐふぁっ!?」
次の瞬間の、佐志原は、なんと子供たちに見えない角度から、自分の脇腹に向かって銃を撃ったのだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!痛い………痛い………!やられた…………!!!」
佐志原は地面でのたうち回る。
「おじさぁぁん!!!」
「血だ!おじさんがあの人に撃たれた!」
さらに最悪なことに、子供たちはキクリが佐志原を撃ったと勘違いした!
「ま…………待って…………!!!」
「ゴフッ………みんな…………おじさんのことはいいから………」
「おじさん!逃げて!早く!」
「わたしたちがあいつをやっつけるから!」
「逃げて!!おじさん!!」
発達障害を抱えて生まれてきた子供たちが全員そうであるとは限らないが、彼らは施設で育てられたことにより、自分たちを保護してくれる全てが彼らにとっての味方なのだ。
安全地帯ヲ守らなければならないというのは生物として当然の反応である。
佐志原は家族を、大切な人を守りたいという子供の純粋な心…………自立し、自分のことを自分で決めて戦いたいという彼らの自立心を利用したのだ。
(コイツ…………ッ!!!なんて、悪いやつだ…………!!!)
「おじさんは、君たちを信じてるよ…………ッ!バタリ、」
そう言って佐志原は倒れた。
「ファーザーッ!大丈夫か!?撃たれたのかテオメェ!?肩貸せ、俺が運んでやっから………!!」
すると、示し合わせたかのように、横から桃色の髪の男が現れ、佐志原を背負って奥の講堂に向かって駆け出した。
「ま、まてっ………!!!」
キクリは慌てて拳銃を撃つが、あっさりとかわされた。
「くっ…………もう一度…………!!!」
キクリは改めて佐志原を背負う半グレの足に照準を合わせる。
「待て!!!おじさんを撃たせるもんか!!!」
「当たれぇっ!!!」
しかし、横から子供たちの射撃に遭い、キクリは場を離れるしかなかった。
「うわぁっ!?」
キクリは撃たれた脚を引きずってなんとか茂みの裏に飛び込んだ。
「へっ…………オレ、案外、俳優の才能があったりしてなぁ…………」
「あぁ。今の演技、最高にイカしていたぜファーザー。だが、いくらなんでも自分を撃つこともねぇだろ」
「なに…………一番薄い所を撃ったんだ。急所は外してあるさ。こんなんで死ぬほどバカじゃねーよってんだ」
「まぁなぁ。革命に自分の血を使うたぁイカす奴だぜ」
「ガキにはトラウマを植え付けてやる程度が丁度いいんだよ。厨二病ゼンカイのガキの闘争欲を煽りたきゃ、守るべきものが傷つくことが大事だ。脇腹の傷ぐらい、未来を担う子供たちへの投資って考えたら安いもんだろ?な?」
「……………………………………………」
「それで?腐興のヤツは何してんだ?」
「サァな。んなことより、いいのか?ガキに門番任せて。いちおう、奥に来りゃ仲間がいるがよ」
「ハン…………あんなヘタレ警官一匹、ガキだけで十分だ、どうせ撃てねぇよ。この国の警察は撃てねぇんだよ」
「そうか?オメェみたいなイカす野郎、撃たれる気がするがな」
「オレのことはいいんだよ。アイツらの事は無理なんだってよ。お前カードゲームってやるか?子供っていうモンスターはな、特殊効果で大人属性のモンスターからダメージ受けねぇんだよ。大人は子供を殴れねぇ。オレの母親と違って………まっとうな神経してんならな」
その頃、大学の敷地内でキクリは未だに子供たちの集中砲火に遭っていた。
「出てこい!悪者!」
「おじさんを撃ったんだ!絶対に捕まえてやる!」
「草の裏に隠れてるわ!回り込んで倒さなくちゃ!」
(ぐぅ…………普通の施設で育った子供にいったいどんな教育したらこんな事になるんだ…………!)
子供たちの銃の精度は大したことはない。
だが、あまりに数が多すぎてかわしきれない。
それに、子供相手にキクリはどうしても戦うことにためらいを見せている。
「シバさんだったら…………どうするのかな…………相手が子供だろうが、国民を守るなら殺せって言うのかな…………」
キクリは自分の手に握りしめた一丁の拳銃を見つめる。
「……………いや、そんな事ない…………!僕があいつを許せないのは、街を燃やしたからじゃない………人を殺したからじゃない………あの子たちの心を利用しているからだ………!」
キクリは呼吸を整えながら、撃たれた脚を布で縛る。
「あの子たちは被害者なんだ………殺すなんて、たとえシバさんに命令されてでもできるもんか………!銃弾の雨をかいくぐりながら、全員を傷つけない程度に意識を奪えば………」
(意識を奪うなら………首に打撃を与えるしかないか………首に衝撃を与えて、頸動脈洞の反射を引き起こせば失神させられる………!)
キクリは冷静に状況を判断し、子供たちを制圧するための計画を練っていた。
その時だった。
「クソーっ!出てこないよぉ………!」
「どうしたらいいんだよ………!」
「わたしにまかせて!…………えいっ!!!」
「うおわぁぁぁぁぁっ!?」
なんと、キクリの目の前に炸裂弾が投げ込まれたのだ!!!
炸裂弾は起爆寸前で投げ込まれた。
キクリは大急ぎで茂みから飛び出した。
「ぐぅぅぅぅ!!!」
(ダメだ………止まってたらやられる………!)
キクリは背中を負傷しながらも、傷ついた身体にムチを打って飛び出した。
しかし、茂みから出れば彼の姿を隠すものは何もない。
「出てきたよ!」
「撃て撃てー!」
「おじさんの所には行かせない!」
「う…………ッ!!」
しかし、キクリもただの大人ではない。
「ハァァァッ!!」
全力で横に飛び退き、子供たちの射撃を回避する。
これが武闘派の戦闘者なら無理だっただろう。
だが、相手は戦闘の心得をほとんど持たない子供だ。実戦で銃を扱うのも今夜が初めてだろう。
これくらいの相手なら数が多くてもキクリならまだ食らいつける。
「うてうて!」
「みんなで撃ってたらそのうち当たる!」
「ううっ………!」
しかし、数が多すぎる。
「ぐぅぅぅっ……!!」
キクリの左腕と右頬を銃弾がかすめた。
(焦るな、数が多いだけで決して強い相手じゃない………!)
キクリは別の茂みにまた隠れようとした。
「もう隠れられないよ」
「なっ…………!?」
しかし、一人が先に茂みに入っていた!!
「これは避けられない、」
「ぐぅぁっ………!?」
キクリの頭が至近距離からの射撃で激しく爆ぜた。
「うぅぐ………ッ!!」
今のは大きかった。
弾丸がかすめた頭部から激しく出血してくる。
「くっ…………!!」
「止まったよ!」
「今だ!みんなで撃てーッ!」
激しく出血しながら膝をついたキクリに、子どもたちが一斉に総攻撃を仕掛ける。
無数の拳銃と、複数個の炸裂弾の交差する全力の攻撃。
炸裂弾が3個投擲される。
「やっつけてやる!!!」
「おじさんのために、やられろーッ!」
無数の拳銃がキクリを取り囲む。
撃たれればもはやどうしょうもない。
この距離からの射撃では、キクリの現在の状態からして回避は不可能。
「─────────ったな…………」
だが、その絶望的な状況下でもキクリの闘志は尽きていなかった!!!
「今、僕の前で止まったな!!!」
次の瞬間、キクリは信じられない行動に出る!!
(誰を攻撃するべきかは選ばなければならない………だけど、シバさんの言う通り、迷いなんてものは時間の無駄だ、何も生みやしない………!僕がやられるぐらいなら………!)
この男はヘタレの極地にいるが……………
それでも、死神警官・司馬喬皇平のもとで3年間生き残った男なのだ──────!!!
「隙ありだよ───拳銃は僕のほうがずっと使い慣れてるんだ!!!」
なんとキクリは迷う事なく、銃を構える子どもに向かって逆に発砲したのだ!!!
「うっ──ぐわぁぁっ!?」
キクリの銃から発砲された弾は、子供が手にした拳銃に命中し、子供の手を離れた。
突然の反撃に驚き、その子供は尻もちをついて転倒した。
もちろん、子供に外傷は一切ない。
「撃ってきた!?」
「大丈夫か!?」
「うぅ………オマエーッ!!」
仲間がやられた事で、彼らは必死に攻撃を仕掛けようとする。
「素人がそんなもの簡単に使っちゃ駄目なんだ。それを覚えたら…………命の価値が軽くなる、」
キクリは身体を引きながら銃を撃つ。
それはもはや神業とも言えるほどの速射だった。
「うわぁぁぁっ!!!!」
また1人、拳銃を撃たれ、武器を落として倒れた。
キクリの戦闘能力は一般人程度だ。
この国の超人めいた極道たちの舎弟にすら劣るほどの、なんの力もないただの人だ。
才能なんてない。
この裏社会は、理不尽にも才能のほうが求められる。
─────それでもこの男は、一般人の中では努力をしてきた部類だ。
あんまりにもヘタレなもんで、誰もが忘れているが…………いちおうこの男は、警察学校ではトップの成績だ。
(コイツらは数は多いし大変だ…………だけど、銃を構えてから撃つまでが遅い。それに、立ち止まってモタモタと僕に照準を合わせてくるんだ………)
炸裂弾がキクリの真横で爆発する。
「ぐぅぅぅ!!!」
タイルの破片が右足に突き刺さる。
「ううっ………!!」
(つまりコイツらは撃つ時には絶対に動かない。止まってる僕に当てることすら難しいのに、動いたらなおさら当たらないからだ。でも僕なら………動かない的に向かって撃つ経験なら、すでに積んでいるんだ!)
警察学校での彼の成績はほとんどの場面において優秀だった。
知識面は言わずもがな、それは射撃訓練でも才覚を発揮していた。
(────────)
(あの優秀な少年…………むっ。やれやれ、また菊理騏一郎か、)
(頭だけかと思っていたが、山間マラソンでもいつも最初に完走してくるし、ずいぶんと腕っぷしも確かなようだ。すでに拳銃を握ったことでもあるのか?)
(いや。あの少年は元々なんの特徴もない大学生だ。ただ単に、ここに来てからの頑張りがめざましいだけだ)
戦闘とは基本的に自分も相手も動いている。
ゆえに普段はその才能は意味がないが………止まっている的を撃つ精度に関しては、キクリだって負け知らずだ。
「動くなよ…………ホントの意味で、動いたら怪我するよ、」
「わぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
キクリは次々と子供たちの手に握られる拳銃を撃ち落とす。
「うわ………わぁぁぁぁっ!!!! ごぇっ!」
「ごめんね。少しおやすみなさい」
そして攻撃ができなくなった子供から優しく意識を奪っていく。
「ど…………どうしよう…………勝てないよ…………」
こうして4、5人も制圧すれば、相手は本能的に分かってくる。
目の前にいる相手は、自分たちでは敵わない相手なのだと。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「もう無理だぁぁぁぁっ!!!」
「怖いよぉぉぉぉ!!!おじさぁぁぁん!!!」
こうなれば連係は一気に乱れる。
子供たちは武器を投げ捨て、散り散りになって逃げていく。
「ま、待ってくれ!!!」
(まずい………!!そんなバラバラに逃げられちゃ、一人一人保護しきれないよ………!)
キクリはあくまで制圧して保護するのが目的だ。
見失ってしまえば元も子もない。
だが、次の瞬間─────!!!!
「ウォォォォォッ!!!限界MAX………フルスロットルぅぅぅぅ!!!!!」
けたたましい音と共に、何か大きな影が広場に飛び込んできたのだ。
「あっ────あれは!!!」
キクリの顔が明るくなる。
その顔は、勝利を確信したときの顔だ!
「シュゥゥゥッ!カッコよく、ドリフトで駆けつける!」
「虎徹、逃げた子供たちを捕まえろ!危ない目に遭わされる前にな!」
そう、現れたのは緑色の派手なバイク。
そしてそこに乗っていたのは京極組の久我虎徹と、六車謙信。
「すまねぇな、子供に手を出したくはねぇんだが、今ばかりはな、」
「こえっ………!」
「大丈夫だ、何もしない。今はひとまず眠れ」
「きゃっ………!」
久我と六車も、優しく彼らの意識を奪った。
────こうして、逃げ惑う子供たちを全員止めることに成功した。
キクリの頑張りは報われた。
時間との勝負に打ち勝った、ということだ。
「久我くん!六車さん!」
「大丈夫か菊理!傷を診てやるから待ってろ!」
「この子供たち縛ったら、次はアンタを助けるっすから!」
まったく………吐き気がするほど頼りになる漢たちだ。
─────その様子を監視カメラで、遠隔から見ていたのはファーザー・佐志原と、付き添いの傭兵・斑鳩だった。
「オイ、ファーザー!オメェ………門番の子どもたちがやられちまったぜ!大丈夫かなぁ………あいつらケガしてねぇかなぁ………!」
「んなこた分かってるよ、」
「オイオイ!なんでそんな涼しい顔してられんだオイ!」
「……………斑鳩、そろそろ連中がここに来る。下に降りて人を集めてこい」
「あの子どもたちはどうすんだ!?」
「それはオレがなんとかする。オマエなんかより、オレのほうが信頼されているんだから錯乱状態のガキどもを落ち着かせるにはそれがいい」
「………………………………いや、だって…………」
斑鳩は何かを言いたそうにしていたが、佐志原を信用して口を閉じた。
「……………わーったよ、行ってくら………」
斑鳩は何か思うことがあるような顔をしつつも、部屋を出た。
扉が閉じ、部屋には佐志原だけになる。
「───────フン。終わったと思うんじゃあねぇぞ…………あのヘタレ警官…………ぜってぇぶっ殺してやるからよ…………いや。誰でもいい。とりあえず、あの三人のうち一人は、絶対に葬り去ってやるぜ……………フフッ、ハーッハッハッハ!」
高笑いすると、佐志原はポケットから筒状の装置を取り出した。
黒い筒のような形をしたその頭に赤いボタンが取り付けられたそれを握りしめ、奴は画面の先を注視し始めた。
「うぅ…………………ッ、」
子供のうちの一人がまだ残っていた。
髪を結って、橙色の服を着ていた。
(あのおじさんをたすけたら………みんなはわたしとあそんでくれるんだよね………おじさんがだいすきな人じゃないと………なかまはずれにされる…………)
少女はすでに拳銃を撃ち落とされていた。
代わりに、小さなフルーツナイフを握りしめていた。
(あのままじゃ………あいつら、こっちに来ちゃう………!おじさんが………いや、わたしもやられる………!あの人たちは、みんなにピストルを撃ってきた………)
少女は震えている。
チョーカーを巻いた細く白い首が、唾を飲み込む、
(わたしもやられちゃう………やっつけないと………あの人たちのチョップ一発でやられちゃう………!)
次の瞬間───────
少女は草の中から飛び出し、六車と久我に向かって突進していった!!!
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
「なんだ………!?」
「女の子が走って来たぁ!?」
六車と久我は予想外の出来事に、一瞬気を取られた。
その間に少女は一気に距離を詰めてくる!!!
『後少し……………!!!』
画面を見つめる佐志原の口元が邪悪に歪む。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
少女はもうあと10メートルもすれば久我と六車に接触する!!!
『あとちょっとだ………行け!!!』
佐志原の指が、赤いボタンに添えられる!!!
「だ、ダメだ!離れるんだ!」
少女の走る動線を、キクリが遮る!!!
『ダブルプレーに…………ん、』
佐志原が見ていた画面の先に、少女の前に躍り出たキクリの姿が映る。
『あのヘタレ警官…………ッ!邪魔すんじゃねぇよ…………!!! いや…………もういいか、一人ぶっ飛ばせりゃそれでいい!!!それに、こいつが一番賢そうで、それでいて警察なんていい仕事してそうで、ムカつくからなぁぁぁぁッ!!!』
佐志原は装置のスイッチを押した。
次の刹那、少女の首元のチョーカーが赤い光を放つ。
ランプが点灯したのだ。
「えっ────────???」
少女は状況を飲み込めていない。
「──────────────」
一瞬、世界は、時が停止したような錯覚に包まれた。
(─────ッ!!!何かまずい…………!!!)
その異変に誰よりも早くに気がついたのは六車でも久我でもなく、キクリだった!!
(なんだ………身体が勝手に………見えないはずの、いないはずの騏一郎くんに、首根っこ引っ張られるようなこの感覚は────っ!?)
キクリは生物本能的に後ろに飛び退こうとした。
だが、その時点ですでに遅かった。
──────赤い光が灯ったと同時。
「ぐがあああああああああああああっ!!!!」
少女の首元を起点に、無慈悲すぎる大爆発が起きた。
「か───────、え、───、っ ?」
少女の姿はチョーカーとすり替えられていた爆弾の爆発によって、血の一滴すら見せずに跡形もなく霧散した。
真正面から爆発に巻き込まれたキクリは大きく吹き飛ばされた。
「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!!」
その爆発の大きさは、離れていた久我と六車の身体すらも吹き飛ばしたのだ。
爆発の煙が止んだあと、地面に倒れ伏す2つの姿があった。
「ぐおっ…………痛っつ…………」
頭を強打し、頭部から激しく血を流す久我。
「グボッ………おのれ………」
既のところで受け身を取ったものの、左半身を焼かれ、血を流す六車。
彼らは離れていたため、爆風で吹き飛ばされ地面に転ばされただけで済んだ。
だが──────
「な────嘘だろ…………ッ!?」
あたりを見渡した久我の目に映ったのは、恐ろしいものだった。
「菊理巡査───────ッ!!!!!!」
「ぅぐ……………ぁ、…………っ、ぇ……………、」
それは正面からの爆発をもろに受けて全身の肉を吹き飛ばされ、爆風に運ばれた先で、剣のような形をした西洋柵に突き刺さり、磔になった菊理弥二郎の姿だった。
「ぅ…………………っ、……………」
キクリの姿は、むしろ生きている方が不思議な状態だった。
「菊理巡査!!!菊理巡査!!!聞こえてますか!?今すぐに降ろすっすから!!!───うっ………ちくしょう!!!」
「貸せ、虎徹!!!」
六車は気合でフェンスをへし折って、磔になっていたキクリの体を降ろした。
だが、キクリの身体は全身を焼かれ、激しく損傷しているうえに、爆弾の破片だけでなく、フェンスが腹の中心を貫いていたのだ。
先程までの戦闘によるダメージなど、この損傷の前ではもはやなんの差でもない。
先程までの怪我が嘘だったかのように、何倍ものダメージとなって彼の身に襲いかかった。
「急いで救急を………!!!」
「だ………………ッ………………」
キクリは久我の携帯電話を弱々しく叩き落とした。
「菊理巡査……………?」
「─────っ…………ぅ…………、」
キクリは、久我と六車に視線を送る。
もはや、話せる状態ですらなかった。
「─────火事に巻き込まれた住宅街の住民が優先です…………司馬の野郎の助手なら言いそうなことだ」
「聞こえたんすか?六車の兄貴…………」
「いや。だが、視線がそう言っている。司馬の事をよく分かってる俺の直感だ。狂いはねぇ、」
「菊理巡査……………」
「う…、ん……………佐…………志、原………倒………さ、い…………」
六車はキクリをもたれるように寝かせた後、立ち上がって久我のバイクを立ててエンジンを入れた。
「─────行くぞ虎徹。菊理の事は放っておいて、俺たちは俺たちのすべき事をする。たとえ仲間が死んだとしても、残された仲間はその意志を受け継ぎ住んでる街の人々を守る………それが俺たち極道の絶対の掟だ」
「分かってるっすよ………分かってるんすよ………んな事…………!!!」
久我は六車の方を向いて、涙ながらに叫んだ。
「でも………!!!何も知らねぇ罪のねぇ女の子に爆弾仕掛けて、俺たちの大切な人をこんなんにしてブッ飛ばすなんて………!!!人の心ねぇにしても、限度ってモンがあるでしょうが!!!」
絶叫する久我の事を六車は相変わらずの冷たい顔で受け流した。
だがそれは無視ではない。心の底から、その叫びを真摯に受け止めていた。
「─────すんません、兄貴。ちょっと、マジ許せなくって………情けなく叫んじまいました」
久我はバイクにまたがる。
その表情は見えなかった。
「良いんだ虎徹…………良いんだよ……………そんぐらい……………」
動かなくなったキクリを置いて、バイクは一直線に、燃え上がる講堂に向かって走り出した。
「…………菊理巡査、最後に佐志原つってたっすよね………アイツだけは、死んでも許さねぇっすわ…………」
「あの腐れ外道共…………全員まとめて、地獄の底まで送ってくれるわ…………こんなにもハラワタ煮えくり返ったのは久しぶりだ…………」
菊理弥二郎が命をかけて繋いだ2人の命と、佐志原の名前を頼りに、京極組の武闘派たちが敵の本拠に乗り込む。
「テメェだけは許さねぇ…………佐志原ァァァァッ!!!!」
そして、久我と六車の二人がいよいよ事件について決着をつけにかかるのだった────!!!
次回『久我 VS 斑鳩…………六車の前には、辻斬り恩郎智』
久我 虎徹
Kuga Kotetsu
黒焉街の任侠集団・京極組の武闘派極道。
茶髪でスピード自慢なイケてる若者だが、その腕っぷしは本物。
カタギの人々や身内への心優しさと、外道や悪党に対する容赦のなさを兼ね備えた危なっかしい男。
曲がったことが大嫌いで、他者への敬意や威風堂々たる姿がなければたとえ目上の相手であろうと容赦しない信念の強さもある。
極道として完璧なはずなのにどこか極道らしさに欠けている所がある。任侠の魂というより、正義あふれるガッツな若者として組の兄貴たちから可愛がられている。
仲間を傷つけられることが大嫌い、だが身内であっても悪辣を働けば仲間として見なさず容赦なくボコボコにする。信念の強さはなんとなくわかるのだがどうにも扱いきれない。
六車 謙信
Muguruma Kenshin
京極組の武闘派極道。阿修羅の刺青を背負う、白兵戦最強の鬼であり『二刀流の六車』として知られている。
二の太刀を同時に振り回すほどの、京極組で最強クラスの腕力と握力を持っている。
期待の天才新人感の抜けない久我と異なり、古くから任侠の世界に生きてきたことが見て取れる、誰よりも仁義を重んじるこれぞ極道といった性格。
司馬とは学生時代からの友人であり、彼の性格の一部には、なによりも正義と秩序を重んじる司馬の属性も含まれている。
かつての恋人に振り回された挙句関係を絶たれたことに未練を残しているなどといった意外な一面もある。
ちなみに現在は京極組の若頭であるが、現時点では時系列的にまだ若頭を襲名していないため、久我からは「カシラ」ではなく「兄貴」と呼ばれている。