死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
─────俺の名前は久我虎徹………!
「オメェをぶっ飛ばして、俺は俺の目的を果たすんだよォォォッ!!!」
「うるせェッ!!!これ以上、テメェらの顔なんて見たかねぇんだよ!!!」
半グレ組織・下離羅をついに追い詰めた武闘派の極道だ………!
俺の前に現れたのは事件の黒幕・佐志原が誇る最高の用心棒、斑鳩亥億。
コイツは裏社会では『ジェスター』って名前で通っている。
コイツ自体は何でもないただの半グレ。
だが、こいつのイカれてるのは生き方。コイツは、誰の味方でも誰の敵でもない。
ただ、自分がイカしていると思ったことをして、イカしていると思っているヤツのもとにつく。
「オメェらみてぇなイケてねぇヤツの子孫なんて要らねぇな!妊娠22週になって取り返しがつかなくなっちまう前に潰しておくぜ!!!」
「ぱぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
イケてないと見なしたやつは誰だろうが全員そいつの餌食になるらしい。
「久我ァッ、テメェは顔も中身もイケてんだ。だったらわかんだろ…………今俺らをぶっ潰したところで、何も解決しねぇってことぐらいはよぉ!!」
「テメェは黙ってな…………テメェら全員ぶっ殺して、子供たちを取り返す。それで全部解決なんだよ………分かったら今すぐ出ていけ!分かんねぇならここで死にやがれ!この俺と勝負になった今、テメェに選べるのは逃げか死かのふたつしかねぇんだよ!!!」
俺はナイフ片手に自慢のスピードで正面から斑鳩に斬りかかる!!!
そしてそのまま、斬撃の嵐を味あわせてやるんだ!
「ウォォォラァァァァァッ!!!!」
「テメェはダメだ。イカしてると思ったが、俺の勘違いだったみてぇだぜ………!!!」
斑鳩も俺の圧倒的スピードに対して真正面から食らいつこうとする。
「テメェみてぇなイケてねぇやつ、もう殺すしかなくなっちまったよ!」
「血しぶき上げてんのはテメェだろ。ダセェのはテメェのほうだろうが、」
俺はスピードじゃ誰にも負けねぇんだよ。
いや…………あのメイドは…………別だ。
だが、ほとんどのやつは俺より遅い。
少なくとも斑鳩は俺より圧倒的に遅い。
こいつが貰ってるダメージも、スピード重視のものとはいえ決して浅くはねぇ。
このまま俺が、手数で押し切るだけだ!
「ぐぁぁ!!!だりぃぜ………!!!すばしっこい敵は苦手だ!!!」
「スピード地獄じゃ!!!テメェはこのままこの久我虎徹がぶっ潰す!!!」
「思い上がんじゃあ…………ねぇぜ!!!」
「ぐぉっ!?」
コイツ…………!!!
なんだ今の弾き!!!俺の体勢が一気に反れちまったぞ!?
「ぶち飛べェェェェェッ!!!!」
斑鳩が俺のナイフを勢いよく弾き返した後、強烈に鉄パイプを振りかぶる。
ダメだ、これは絶対に回避できねぇ!!!
「ゴルァァァァァァァァッ!!!!!」
「ぐふぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺はギリギリでナイフを立ててこいつのフルスイングを受け止めた!!!
「ぐぉぉぉぉっ………!!!」
だが、パワーでそのまま振り抜かれて、俺は壁に激突する!!
「イケてねぇ!!イケてねぇ!!イケてねぇぇぇぇっ!!!」
斑鳩がテーブルを蹴り飛ばしてきた。
テーブルは倒れずに平行移動し、壁に打ち付けられた俺に向かって走ってくる。
「な、なんだ!?」
俺は間一髪でジャンプし、テーブルの上に飛び乗る。
「バカが、そんぐらい読んでんだよ!!!」
斑鳩はそれを読んでやがったのか、テーブルの上に飛び乗った俺に向かって鉄パイプを勢いよく突きだしてきた。
「オォぉぉぉらッ!!!」
「遅ぇ!!!」
だが、俺のスピードと反射神経の前じゃまだまだ遅い。
俺は机の上でさらに跳躍して、壁に突き刺さるほどの威力の鉄パイプを躱した。
「今度は俺の番だ、コラ」
視野を広げて戦え。コイツはわざわざこの狭いラウンジを選びやがった。
なら、環境は間違いなくコイツの有利だ。なら、俺がこの部屋を生かして戦わなきゃ実力で勝ってたとしても勝負には勝てねぇ。
「壁を蹴って、スピードMAXじゃあ!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺は飛んだ瞬間に壁を蹴り、その反動のまま、斑鳩の頭に飛び蹴りを食らわしてやったんだ!
「ごぉぁっ!!!」
手応えアリだぜ。
斑鳩は受け身も取れずに、無様に床に転がされる。
「って………なんだオメェ、今のイカした技はよぉ………三角飛びとか、忍者かよコラ、カッケェなァオイ………!!」
「さ、来な。テメェの有利な条件下で闘ってやる。いいハンデじゃねぇか」
斑鳩は鉄パイプを握りしめ、再び俺と向かい合う。
奴の後頭部が割れて血が流れる。これは結構なダメージのはずだ。
だが、斑鳩の顔にはむしろ恍惚の表情が浮かんでいる。
目が赤く血走り、口元の口角が上がる。
「イカれた野郎だ、久我虎徹………オメェをぶっ飛ばせりゃ、俺ぁまた一つ上の男になれるってモンだぜ………!」
そう、この男は戦闘狂だった。
闘争そのものを快楽としているというよりは、コイツの言う「イカした男」たちと相対することがヤツにとっての愉しみなんだ。
「だがな久我虎徹。オメェはイカしてるが、イカれてねぇのが減点だぜ。男を一つ上のステージに持ち上げるために必要なのは、今このひと時をエンジョイする事だぜ。今のオメェみてぇに、せっかくのイベントをキレながらぶつかってくるのはカッコ悪いことだぜ」
斑鳩は真横にあった椅子を引き出すと、こっちに向かって蹴り飛ばしてきやがった!!!
「何がカッコ悪いだコラ…………」
うるせぇ………喧嘩を楽しむだ………?
今、俺がやってんのはそんな話じゃねんだよ………
「マジにカッコ悪いのは、てめぇより弱いモンを利用して欲を満たす、お前らだろうが!!!」
俺は飛んできた真っ向から蹴り返す!!!
爆殺された菊理巡査の思い、利用された子供たち、その親!
すべての人々の怒りが、今の俺を突き動かしてやがんだよ!!!
「久我虎徹!オメェはやっぱり、イカしてるぜ!」
斑鳩は鉄パイプで椅子を打ち返す!
だが俺はもうスタートを切っている!
「この位置から────駆け込む!!!」
打ち返された椅子は野球のボール並み。
だがこんなモンでビビってられっかよ!!
「オォォラ!!!」
「うぉぉぉぉ!?」
俺はスライディングで椅子を潜り抜ける!!!
奴は鉄パイプを大振りした直後だ。
これは防げねぇ!!!
次の瞬間、俺が繰り出した強烈な一撃!!
「搦め手ばっかで俺に勝てると思ってんじゃねぇ………!」
「ぐぅぉぉぉぉぉっ!!!」
俺はスライディングで寝た体勢からヘッドスプリングで跳ね起き、その余力を利用して、下から矢のように斑鳩の顎を蹴り抜いた!!!
「ぐぉぉぁぉっ!!!」
斑鳩は窓際までぶっ飛ばされる!!
壁まで追い詰めたら、そこからは俺の時間だコラァ!!!
「マッハより速ぇ、光のナイフじゃあ!!!」
「何ぃぃぃぃっ!?」
俺は窓際まで追い込まれた斑鳩に向かって最高速度でナイフの嵐を叩きつける!!!
「チィィッ──!!!」
(なんだコラこのスピードはよ………!1人に見えてホントは4人いたりでもすんのかコラ!!!)
斑鳩はこのスピードに全くついていけてねぇ。
三発につき一発は確実にもらってる。
だが、この男も伊達に修羅場くぐってきてはない。
「スピード地獄もイカしてるがな、けっきょくパワーが勝つんだよコラァ!!!」
斑鳩はずっと、俺の斬撃を食らいつつチャンスをうかがっていた。
(オメェのスピードは大層だがな、振り抜く時に腕が伸び切ってるんだよ…………こんなの、殴ってくれって言わんばかりだぜ!攻撃に怯まず、一瞬の隙をぶん殴れ!!!)
「ごぉぉぉぉらぁぁぁぁここじゃぁ!!!!」
「ぐぅぅぅおっ!?」
なんと斑鳩は俺の圧倒的連撃の隙を突いて鉄パイプを振り抜き、俺の腕を勢いよく殴りつけやがった!!!
俺の右腕から聞きたくねぇような音がした。
「ぐぅぉっ………!!」
(やっべぇ…………!!!)
俺の右腕の第二関節が破壊され、糸の切れた人形のように力が抜けやがった。
「チィッ………!!!」
今のは相当キツかったぞ。
いまさら痛みなんて感じねぇが、単純に俺の右腕の強度が持たねぇ!!
クソ、自分の脆さが不甲斐ねぇ………!
だがな───────
「男なら…………殴られた時には殴り返すもんなんだよクソが────!!!」
俺は変な形に曲がった腕を逆に利用して斑鳩の鉄パイプを巻き取った!!!
瞬間、俺は右手に握っていたナイフを手放す。
そして代わりに、右手で斑鳩の鉄パイプを全力で掴む!!!
そして次の刹那─────!!!
「落ちやがれェェェェェッ!!!!!」
「ブモォォァァァァァッ!!!」
俺が繰り出したのは跳躍しながらの、全力の後ろ蹴り!!!
俺の協力な飛び蹴りに顔面を撃ち抜かれた斑鳩は、ラウンジの窓ガラスを突き破って外へと投げ出される!!!
「ぐぅぅぅ…………ぉぉぉ!!!!!」
この部屋は3階!!!
蹴り飛ばされた体勢で落下すりゃあ、タダじゃ済まねぇ!!!
俺の、勝ちだ…………!!!
「─────オメェも一緒に来いや、久我!!」
だが…………!!!
「うぉぉぉぉぉぉっ!?」
斑鳩の鉄パイプの先端が、カーブしていたせいだ!
俺の首が鉄パイプのカーブの内に巻き取られ、斑鳩の落下スピードに引っ張られて俺も窓の外に引きずり出された!!!
「やっちまった…………!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
だが俺は空中でチャカを抜き放つ!!!
「ぐぅぅ!!!」
弾丸は斑鳩の右肩を貫通!!!
「づらぁ!!!」
斑鳩は鉄パイプを俺に向かって投げ捨てた!!!
「がぁ、っ…………!」
鉄パイプが当たり、俺の額が激しく割れる。
「男前が台無しだぜ…………」
俺は空中で斑鳩を押さえつける。
「くぅぅぅぅぅがァァァァァァァァッ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉっ!!!斑鳩ァァァッ!!!」
結果、俺と斑鳩は、真下にあった2階の部屋の天井ガラスを落下しながら突き破り、2階の部屋に打ち付けられた。
「ぐおおおおぉぉぉっ!!!」
「チィィィィィィィッ!!!」
俺も斑鳩もとっくに致命傷だ。
どっちが先に落ちてもおかしくねぇ。
だが、有利なのは俺のほうだ。
「ケリをつけようぜ…………斑鳩、」
「─────────ケッ、」
俺は相棒のナイフを持っているし、チャカもある。
対して、斑鳩は丸腰だ。
この勝負、貰った。俺の、粘り勝ちだ。
「イカれてやがるぜ……………オメェよ……………」
「ゲホッ………この調子じゃあ…………まだまだ楽しめそうじゃねぇか…………」
「何がだ………ゴフッ………」
そう言って、斑鳩が俺に見せてきたのは、底抜けの笑みだった。
「勝ったと思ってるオメェのその顔が、今から焦りへと変わっていく姿が、見ものだってことだぜ………!!」
斑鳩の精神力は、奴の肉体を完全に凌駕していやがったんだ。
「ファーザーのところには行かせねぇぜ、オメェは一生ここで俺と戦ってんだよ!!!久我虎徹!!!」
そう言って斑鳩はスライディングで高速移動すると、足払いで近くにあった椅子や机を次々こっちに蹴り飛ばしてきた!!!
だがな、アドレナリン出まくってるのは俺もなんだよ…………
窮地にこそ、活路を見出せ。
コイツはまだ折れてない。だが、確実にコイツは消耗してはいる。
ここで俺が折れずに、戦い続ければ必ず限界は来る。
それまでダメージを与え続けるんだ。
(見えるぜ……………家具の嵐、飛び交う家具と家具の隙間の、小さな道がな…………!!!)
これほどの傷なら小さなダメージを重ねるだけでも相当な痛手になる!!
俺のMAXスピードで相手を防戦一方に押し込めて完封、それで俺の勝利だ!!!
「読めてんだよそりゃあ!!!!!」
俺は目の前に迫る家具の軌道を見極める!!
極限集中してい時の俺の動体視力は、どんな動物より高いぜ!!!
「逃がすか斑鳩ぁぁぁぁっ!!!」
俺は家具に向かって突っ込む!!!
「オラァァァァッ!!!」
人ひとりが這った体制でやっとギリギリ通れるかの小さな隙間に俺は飛び込む!!!
「見切ったぜ、コラァ!!!」
「何ぃぃぃぃぃっ!?」
これは奴も想定外!!!
このカウンターを避けきれる筈がねぇ!!!
「テメェの小細工も見飽きたぜ、死ね…………」
「ぐぉぉぉぉぉぉっ…………!!!」
俺のナイフが奴の身体を袈裟に斬る!!!
これは深い!!!
「がはあッ…………!!」
斑鳩は激しく吐血した!!!
「トドメだ、オラァァッ!!」
そして最後に、俺の強烈なスピード地獄の炸裂だ!!!
「北斗百裂拳じゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「がぁぁぁぁばばばばばばばばばーっ!!!」
俺のナイフの連続刺突!!!
ヤツには防ぐことも避けることもできねぇ!!!
一方的に蜂の巣になりやがれ!!!
(ダメだダメだ…………!このまんまじゃ押し切られて殺されちまう!!!どうにかしてこのナイフを止めなくちゃならねぇ…………!!!)
斑鳩は今になって考えを巡らせるが、もう何やっても無駄だ!!!
「トドメの一発、貰ってけ、」
俺は奴の急所に狙いを定める。
次の一発で即死だ。必ず決める!!!
(コイツ…………次で俺を殺すつもりだ…………!!!次は必ず急所を狙ってきやがる…………!!!)
そして俺の全力の突きが斑鳩を貫いた!!!
「オォォォラッ!!!貰ったぁぁぁッ!!!」
「グゥッブ……!!!」
しかし、俺のナイフは、一撃で斑鳩を仕留めるに至らなかったんだ…………!
「なん…………だと……………?」
「へへへ……………どうだ、久我。ビックリしただろ…………」
なんと斑鳩は、
自分の頭を刺させてナイフを止めやがったんだ!!!
「どうだィ……………イカれてるだろ…………俺の、最後の抵抗はよ!!!」
俺のナイフは、斑鳩の頭頂から後頭部にかけて斜めにぶっ刺さった。
だが、それでは斑鳩を止められなかった………!
「クソが…………せっかくイカす髪型にしてたってのに、ナイフのちょんまげとか、ぜんぜんイカしてねぇぜ…………」
「コイツ…………!!!」
俺はナイフを引き抜こうとしたが、斑鳩のほうが早かった。
「舐めんなよなぁぁぁぁっ!!!」
「ぐぉぉあぁっ…………!!!」
俺は顎を硬いもので殴り上げられ、斑鳩から遠く弾き飛ばされた。
「いってぇ……………マジ痛ぇ。死ねるわ、普通に、」
斑鳩の右手に握られていたのは鉄製のステッキだった。
すぐそこにある杖立ての中に入っていたのを、今取り出したんだ。
「
「まだ笑ってやがる…………どーいうタフネスしてんだこいつ…………ゴフッ…………」
今の一発なんだ…………見えなかったし、一撃で俺の顎が割れやがった…………
斑鳩の力はまだ底があったんだ。
コイツどこで覚えやがったのか、杖術の使い手なんじゃねぇか。
さっきの鉄パイプの使い方も、素人の使い方じゃねぇからな…………
「これぞ英国紳士の嗜み、バリツだぜ!」
バリツは、近世イギリスにおいて生み出された、キックボクシングや杖術、それから護身術などを総合させた格闘術だ。
「これがイカした男の戦い方よ!!!」
「ごぇぇぇぇっ!!!」
「バリッ!!!」
その起源はステッキを持ち歩くことを嗜みとする英国紳士のための護身術に由来しており、あのシャーロック・ホームズが実際に作中で使用しているほどの歴史ある武術だ。
「ッ…………」
俺は冷静に状況を観察する。
敵は頭を裂かれてるし、身体には深い切り傷が何箇所もある。
体力的には限界に近いだろう。
一方で俺も夥しい量の出血に加え、右腕をやられている…………
俺のパフォーマンスはかなり落ちているが、斑鳩の消耗具合からすりゃあ、最低でも5分って所か…………
周囲に奴が使えそうな物は……………
(あの椅子……………アレは必ずどっかで飛んでくる)
俺の目に入ったのは、斑鳩の真横にあるキャスター付きの椅子だ。
部屋の中では使うにはうってつけだ。
あの椅子は必ずあとで使ってきやがる。
(だが、問題はいつ使ってきやがるかだ………)
俺が警戒していたまさにその瞬間、
「さて…………始めんぞ…………ラストダンスだコラァ!!!」
さっそく斑鳩が椅子の背もたれを掴み、勢いよくこっちにキャスターを転がしてきやがった!!!
「チッ────!!!」
(どうする、この椅子にどう対応する!!次は何をしてくる気だ………!!)
俺が色々と思案している間に、斑鳩は先にスタートを切っていた。
「分からねぇか?鉄パイプの時は仮の姿だ。俺は
斑鳩は猛スピードで迫る椅子の横に躍り出て、すぐ横の壁を蹴って走りやがった!!!
(椅子と一緒に来ていやがる!!)
そうか、椅子でこっちの正面への退路を塞ぎ、横から杖でぶん殴ろうって魂胆かよ!!!
「そぉぉぉぉら!!!」
「そんなん当たるかコラァ!!!」
俺は先立って防御のナイフを置いておく!!
「バカが、俺がいまさらバカ正直にオメェと正面からやりあうなんて、イカしてねぇことするわけねぇだろ?」
斑鳩のステッキは、殴りつけるのではなく、優しく添えられるように俺の肩口に引っかかった!
さっき鉄パイプを首に引っ掛けられたように、杖のグリップを俺の右腕に引っ掛けたんだ!!
「ステッキ術ってのはテコの原理だ。掴めれば合気とそんなに変わらねぇ!手を汚さずに相手を無力化する、イカしてるよなァ!」
「しまった…………ぐぉぉっ!!!」
壁から三角飛びで飛びかかってきたことにより、斑鳩には助走と体重による勢いがついている!
俺は肩口に引っかかったステッキとそれを握る斑鳩の運動で体勢を崩し、床に転がされた!
それと同時、斑鳩のステッキが奴の右手で唸りを上げながら鮮やかに回転する!
「遠心力を追加ぁっ…………」
そして繰り出されたのは、倒れた俺への容赦ない全力の水月突き!!!
「さらに重力と俺の体重を乗せた必殺の一撃ィィィィッ!!!!」
「ぐうううぅぅぅおおおぁぁっ…………!!!!」
ありとあらゆる力エネルギーを利用した攻撃は、一発で俺の肋骨を砕いた。
「ガハッ……………!!!」
俺は激しく吐血する!
(う、上手く呼吸ができねぇ…………)
「勝負アリじゃあ!!!勝ったのは、俺の、ピンチをチャンスに変える、主人公みてぇなイカした逆転勝利だぜ!!!」
悶絶する俺めがけて容赦なく、斑鳩は追撃のステッキを振り上げる。
ただの突きでコレだ。
こんな悪い体勢でぶん殴られりゃ、マジで助からねぇ…………!!!
だが、肋骨を砕かれた今の俺には、呼吸することもできねぇ、
今から立ち上がって反撃、防御に動く時間の余裕もねぇ、
転がって回避できるような体勢でも、肋骨の状態でもねぇ、
何ができんだ……………?
今の俺は、まさに打つ手なしの、詰みだった。
俺はずっと勘違いしていた────
さっきまで俺がたまたま勝ってただけで…………
コイツは…………ずっと仮面被って、俺に手加減してたんだ…………
ホントは、コイツは…………俺なんかよりずっと格上だったんだ…………
だって、戦い方がぜんぜん違ぇ。
俺があんだけ頑張って、何発も何発も貰って、やっとここまで追い込んだのに、向こうのたった一発で俺は逆転されたんだ……………
俺に足りてなかったのは技量じゃねぇ。
コイツのように…………ピンチをチャンスにひっくり返す、勝負力だったんだ…………
(へへへ……………どうだ、久我。ビックリしただろ………イカれてるだろ………俺の、最後の抵抗はよ!!!)
アイツが最後、頭蓋骨で俺のナイフを受けたその一瞬で、戦況は真逆になっちまったんだ。
俺にはそんな真似、できねぇ…………
自分の頭を犠牲に、死ぬかもしれねぇのに、それで攻撃をやり過ごそうだなんてイカれた真似…………
絶対に逃げられないというこの状況、
絶対に勝たなきゃならねぇのに負けたこと、
そして、街を守ろうとしたのにこんなザマに終わった自分への情けなさ…………
それが俺に、ある感情を呼び覚まさせた……………
「ぐう………う……………すい、ません…………兄貴たち…………街の皆…………親父……………」
それは、涙だった。
申し訳なさと、不甲斐なさと、悔しさと、今から死ぬという恐怖で…………色々な感情がごちゃ混ぜになって俺は、どうしたらいいか分からなくなって涙を流すしかなかった。
「泣いたってムダだぜ。最後の最後に泣くたぁ、つくづくイカしてねぇヤツだ。やっぱ俺の見込み違いだったか……………」
コンマ後に振り下ろされる、死の決定への恐怖が、俺の時間を締め付ける。
どうしようもない。今、六車の兄貴が助けてくれるかもしれない…………だが、この状況を把握してないのに、俺がいないのにどこから助けに来てくれるんだ…………
他の兄貴が来ているわけもない…………
他に……………誰が助けてくれるか……………いや、そんなわけがない……………
俺がこのまま顔面潰されて死ぬ、その事実だけが淡白に残るだけなんだ。
この場に助けが来ないという事実は、どうやっても変えることができねぇんだ。
この後に、俺以外の誰かが斑鳩を倒してくれたとしても…………俺が死ぬ、それだけで久我虎徹の人生は終わりなんだ。
その後に残るものは何もない…………
その虚無が、俺の胸に孔を穿つ。
───────────。
──────────徹。
─────────虎徹。
気がついたら、俺はベッドの上に横たわっていた。
傍には六車の兄貴がいた。
「虎徹、お前、どうして泣いているんだ。お前が泣くなんて珍しい」
「ぐうう……………六車の兄貴…………俺は、負けました…………アイツに……………あの男に……………精神力で……………」
なんだか、この光景…………前にもあったように感じる。
「俺が…………不甲斐ねぇばっかりに…………負けた事、それが兄貴達に申し訳なくって、自分が情けなくって…………」
「まぁ…………捨て身など、まっとうな精神なら普通はなれん。今回ばかりは、敵が手強かったということだ、仕方あるまい、」
「ぐっ…………ううぅ……………すんません、兄貴…………すんません…………」
「だがな虎徹。下を向いて涙を流すところで、物事は変わらん。辛く苦しい時は、涙を流してもいい。だが、必ず前を向け虎徹」
その時の六車の兄貴は、まるで子供を嗜める親のような厳しい顔をしていた。
「前を向けねぇ極道には、守れるものも、成長する機会もねぇ。泣いたぶんだけ強くなれ虎徹。お前は今、情けねぇ自分というものを見たんだ。それは、俺たちだって歩んだ道だ、」
「兄貴も……………?」
「あぁ。誰にだって、情けない自分…………なかったことにしてしまいたい自分ってのはある。弱みのない人間なんてのはいねぇ。だが、弱い自分を破って強くなることならできる。負けってのはな、何もなくはねぇぞ虎徹。負けたって、そこからしか得られない成長ってのがあんだよ虎徹………だから、前を向け。立ち止まってんじゃ、天下の京極組の…………誇り高き俺たちの組の舎弟は、務まらねぇぞ!!!!」
「──────────────」
なんか、スッキリしたぜ。
あぁ、そうだったな。
「かかって来いや!!!若造がああああ!!!」
そうだ─────この夢は…………アイツに、負けた後だ。
「もらったぁぁぁぁ!!!死んどけ、久我ぁぁぁぁ!!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺より圧倒的に格下の、ちっぽけなおっさんに、捨て身の攻撃にやられたんだ。
恥ずかしい事言うと、正直あん時の俺はけっこう調子乗ってた。
俺は学生時代、喧嘩で負け知らずだったからな。
だがこの世界は、経歴なんて関係ねぇし、どこで番張ってたかなんて関係ねぇ。
俺より強ぇやつなんて、無限にいる。その全体の中で見りゃ、俺なんて取るに足らない程度のモンだろう。
それどころか…………実力の差を心の強さでひっくり返してくるやつまで現れた…………
だが、確実に……………それは俺を強くしていた。
数々の猛者との戦いが、数え切れないほどの屈辱が、繰り返された悔しさが、流しまくった涙の数々が、俺を…………強くしていた!!!
あの敗北が、俺を大きく変えたんだ。
負けたっていい、泣いたっていい。
だが、前を向くことを諦めちゃいけねぇ!!!
「オオオオオオォォォォォォォォッ!!!!」
俺は最後の気合いで、首に力を入れる!!!
「もらったぁ!!!死んどけ久我ぁぁぁ!!!」
斑鳩がステッキを振り下ろす!!!
だが、俺の頭はもう冴え渡ってる…………!!!
俺に足りなかったのは、心の強さ…………
だが、今の俺なら─────!!!!!
「ゴオオオオラァァァァッ!!!」
覚悟はもう、とっくに決まってんだよ!!!!!
俺が、窮地の窮地、ギリギリで繰り出した最後の抵抗……………
「なっ…………オメェ…………っ!!!」
「痛く…………ねぇぜ……………ちっとも、な…………ゴフ、」
究極の捨て身…………自分の顔面を自分からステッキに押し付ける事だ!!!
鼻骨は砕けたし、たぶん顔のレントゲン取ったら悲惨なことになってるだろうよ。
でもな、今ならこの一撃をもう3発は貰っても死なねぇ自信があるぜ………!!
「捕まえたぜ……………斑鳩ぁぁぁッ!!!!」
俺は斑鳩のステッキを持つ手を、壊れた右腕で掴む!!!
「死ぬのはテメェだぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺は斑鳩の腕をナイフで刺し返し、そのまま強引に引き裂いたんだ!!!
「ぬ…………ぬぁぁにぃぃぃっ!?」
斑鳩の腕の肉はナイフで丸ごと抉り取られた!!!
もう奴の肘から先は、僅かな肉と皮で繋がってるだけだ、もういつ落ちてもおかしくない、実質的に切断したぜ!!!
これで奴も、右腕でステッキは使えねぇ!!!
俺はすぐさま跳ね起きて体勢を立て直す。
「はぁ………はぁ…………ごぶっ………!!」
とはいえ、俺も限界だ。
さっきから喉の奥から血が逆流してしょうがねぇ。
「────んぐっ…………はぁ、はぁ、」
だが俺は血反吐を飲み込んでもう一度ナイフを構える。
「ケリ付けようぜ…………イカした男なら、真正面から行くよな…………」
「………………………………」
斑鳩はもう一度ケッ、と吐き捨てるように笑った。
「あたりめぇだろ!!!どうした、今の一瞬でずいぶんと男前になったな久我虎徹!!!わざわざ急所である顔で受けに行く…………振り下ろし始めのまだ威力が低い時にぶつかりに行くなんて、イカれた野郎だぜ!!!だが、イカれてるって、最高にイカしてやがんぜ!!!」
斑鳩はステッキを左手に持ち替える。
睨み合う俺たちは同時にスタートを切った!!
そして互いの全てをかけた最後のぶつかり合いが始まる!!!
「死ね、久我─────ッ!!!!」
「俺は負けねぇぞ、斑鳩ぁぁぁぁッ!!!」
俺は人生に出したことのない圧倒的な速さで斑鳩と真正面からぶつかった!!!
「ぐぅぁっ!!」
(なんだなんだなんだ!?急にギアが上がりやがった!?もう今は完全にこいつの方が格上じゃねぇか!!!)
俺もたまに2発、3発、ステッキの殴打を貰うが、それでも血飛沫を挙げているのは斑鳩の方だ!
「おぉぉぉぁッ!!!!」
(押し切る…………このまま、スピードで、押し切ってやる!!!)
(マトモに相手してらんねぇ…………!!)
「うぅぅぐ………!!!」
また斑鳩がキャスター椅子に頼ろうとする!
今にも落ちそうな右腕で椅子を握ろうとする!
「それはもう飽きたんだよ。何回同じの見せる気だ、」
「ぐぉぉっ!?」
だが先に俺のチャカが奴の右手を弾き飛ばした!!!
弾丸は斑鳩の手の甲を貫通。
斑鳩の右腕は、ステッキを振るどころか、もうモノを持つことすらできねぇ!!
「畜生………!!!イカれてやがる…………!!!」
「ゴラァッ!!!」
俺は容赦なく飛び蹴りを浴びせる。
斑鳩は紙一重で飛び退いて回避した。
俺の飛び蹴りは壁を蹴った。
だが俺は着地と同時に椅子の背もたれを掴んでいる!
「今度は俺が使う番だ!!」
今度は俺が椅子を思いっきり転がす!
「んで、多重攻撃だ!!!」
さらに椅子に続いて俺も突進!!
これで椅子を乗り越えても後続する俺の攻撃が入るぜ…………
「ぬぅっ……………ぐっ!!!」
斑鳩は飛び上がり、椅子を回避する。
「オラァッ!!!」
「甘いぜ久我!!!」
斑鳩の野郎は、壁から伸びていたランプの突起にステッキを引っ掛けて浮きやがった!
俺は斑鳩の真下をすり抜ける!!!
だがな────それはもう読んでるんだよ!!!
「ハアアアアアァァァ!!!」
俺は斑鳩の股下を通り抜けた後、すぐさま切り返して背後に向かって全力の上段回し蹴りを繰り出した!!!
「どぉぉぁぁぁぁっ!!!」
ランプに引っかかっていた斑鳩は俺の蹴りで撃ち落とされた!!
「ぐっ………!!!」
「オラァッ!!!」
さらに俺は全力で椅子を投げ飛ばす!!!
「ドラァッ!!!」
斑鳩のステッキが飛来する椅子を叩きつけ、真上に打ち上げる!!!
宙を舞う椅子を、俺たちは互いに見逃さなかった。
「っらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「っしゃぁぁぁぁぁ!!!!」
ステッキを高跳び棒のようにして斑鳩は飛び上がる。
そして俺は壁を高速で蹴って登り、高く跳躍!!!
「せぇぇぇあっ!!!」
「おらぁぁぁっ!!!」
椅子を巡る攻防の末、2人は同時に着地!!
だが、椅子を持っていたのは──────
「こいつで…………終わりだぁぁぁぁッ!!!」
この俺だ─────!!!!!
「ごはぁぁぁぁぁっ!!!!」
椅子を掴み損ね、完全無防備の状態になった斑鳩は俺の振り下ろした椅子に殴られ、激しく地面に叩きつけられた。
「俺の、逆・逆転勝利だコラぁぁぁぁ!!」
「ぶああああぁぁぁぁっ!!!」
さらに俺の蹴りが斑鳩をぶっ飛ばす!!!
斑鳩は床を転がった後、ステッキを杖に体勢を立て直した。
もう互いに限界だ。
次一発もらったら、もう再起不能だ。
それは、互いに理解している。
「──────はぁ、はぁ、」
「フゥ………フゥ………ごふ…」
「ケリ付けようぜ、久我……………」
斑鳩はステッキを突きの体勢で構える。
「上等だ斑鳩…………行くぜ……………」
俺はチャカを投げ捨ててナイフを握りしめ、前傾姿勢で構える。
俺たち二人の間に、時が止まったような一瞬が入り、風が吹き抜ける。
互いの踏み込み足が、同時に地面を踏みしめた。
同時にスタートを切った!!!
「ドォォォァァァァッ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
速さは互角!!!
勝負は一発!!!
「ウオオオオォォォァァァァァァッ!!!!!」
先に出たのは斑鳩!!!
目にも留まらない神速の突き!!!
ぶっちゃけ、俺には見えていなかった、
「うぅぅぅぅぅ、ん!!!」
だが、神様ってのはちゃんと見てるんだぜ。
俺がなんとなくで来ると思っていた場所を回避するように頭を逸らしたら、ステッキは俺の頬を勢いよく切り裂いていった。
だが、かすっただけで俺はいまさら止まらない。
むしろ俺は加速する!!!!!
「うおおおぉぉぉぁらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その結果、
「──────────────」
「──────────────」
「─────────が………プッ…………」
俺の希望が、斑鳩の土手っ腹に届いた。
「──が…………、ぐば…………ぁ、っ、」
ステッキを落とし、斑鳩は力なく床に倒れ伏した。
最後に立っていたのは、この俺だ。
「っ…………………しゃあああああっ!!!!!」
俺は勝利に、自身の成長に歓喜の雄叫びを挙げた。
「俺…………やったっすよ、兄貴!!!勝った…………!!!」
その様子を起き上がる体力もない斑鳩は黙って見ていた。
(イカれすぎんだろ久我虎徹…………あーあ………俺なんかとは比べ物にならねぇくらい……………イカしたヤツだったぜ…………)
「斑鳩…………テメェ、マジで強かったぜ…………ブフッ…………だがな、」
俺の怒りはけっきょく、そこにある。
「テメェらみてぇに、子供に爆弾仕掛けて街の人々をぶっ飛ばすようなゲス野郎共は、俺ら京極組が、全員始末すんだよ…………命を懸けてもな…………」
「………………………爆、弾………何の話か、サッパリだな…………オイ…………」
「……………は?」
斑鳩の口から放たれたのは衝撃の一言だった。
知らない、という。
「ガハッ、がっ…………まさか…………ファーザーの野郎…………やりやがったのか…………!?何のことか説明しやがれ…………!!」
「だからテメェを雇ってる佐志原ってやつが、女の子に爆弾仕掛けて、街の警官をぶっ飛ばしたんだろうが。俺はさっきからそれが許せねぇから佐志原を出せつってんだ」
「…………………………ファーザー…………あの野郎…………悪魔に魂売りやがったな…………俺を、裏切りやがったのか………!!!!!」
そして、斑鳩はなんと気合で起き上がってみせたんだ。
「オイ、大人しくし…………」
「言ってる場合か!!!俺ぁずっと、子供を守ってくれてるファーザーがイカしてると思ってついて行ってたんだ!!!たとえ犯罪の道具に使おうとも、あいつらが稼ぎを終えて帰ってきたときは、全員分メシとか食わせてやがったんだ!!!だってのに…………それもコレも全部、都合よく使い捨てる為だってのか…………!?」
まさか、コイツ、佐志原に騙されて…………
「こんなにイカれてる奴は初めてだ………なのになんでだ?イカれてるのに…………ちっともイカしてると思えねぇ…………むしろイラついてくるぜ…………!!!」
「佐志原はどこだ、今からぶっ殺してくる」
「……………………言ったろ………野郎は、塔の上にいるってな…………そっから監視カメラであちこちモニタリングしてる」
「……………………そうかよ、」
佐志原…………テメェはどうやら真正のクズだったようだな。
でも、おかげでこっちも良心が痛まなくて助かるな。
待ってろ佐志原…………子供の命と他人の信頼、全部を利用して踏みにじったテメェを…………俺は絶対に許さねぇ…………!!!
次回『辻斬りオロチの過去…………恋人も義妹もみんな死んだ。』