死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
俺の名前は司馬喬皇平。
「どうした!さっさと仕掛けてこんかい!」
「ちぃっ…………!」
敵組織の本部で見たことのない極道と刃を交えている特殊犯罪対策課の警官だ。
俺たちが極左組織日滅軍を壊滅させようと本部へ乗り込んだとき、雑魚の大半は見知らぬ男が片付けていた。
しかし、奥へ進んだとき、その男が俺たちに不意打ちを仕掛けてきたのだ。
その男の名は烏丸熊之城。
和歌山にあった元武闘派の極道だそうだ。
(呵ーッ!呵ーッ!カラスは雑食!目に映る獲物はぜんぶ食らい尽くしてやらぁ!ドスなんか構えたって俺の3本目の脚には敵わんだろ?)
(ごえぇぇぇっ!!!)
(ほんで、銃も通さない!)
(ぎゃぺぇぇぇっ!!!)
天体望遠鏡用の三脚を鈍器として振り回し敵をなぎ倒すその姿は三本の脚を持つヤタガラスになぞらえて裏社会では「ヤタガラス様」という異名で伝わっていたという。
刀を握る俺とドスを取る小峠の2人を相手に、烏丸は見事としか言えない立ち回りを見せる。
俺の振るう刀をすべて正面から弾き返し、
「オォぉぉ────!!!」
「それも遅ぇ!!」
そして隙を突いて死角から襲う小峠の攻撃を躱していく。
まるで三脚の攻撃とは思えない。おそらくこの男は鈍器を持たせればあらゆる道具を武器として扱いこなすことが出来るだろう。
「ふんッ!すせぇッ!」
「うぐぅ…………!」
だが、それも何回も見れば自然と慣れてくる。
趣味嗜好なのかは知らんが、少なくとも三脚は武器に適した道具とは言えない。これほどの使い手だとしても必ず動きにクセが出る。
「貴様の脚、もう読めた!」
「ぬん!?」
俺はステップで身体を回転させ、振り下ろされた三脚を回避する。
「いや、甘ぇのはそっちだな!そっちに逃げると思うてたぜ!」
しかし、烏丸は俺の躱す方向を読んでいた。
フェイントの振り下ろしから華麗に横薙ぎへと繋げてきた。
一連の軌道を描くかのように違和感のない変換。
この男、パワーだけではない………この読み合い、間違いなく数度の修羅場を潜り抜けてきているに違いない。
「必殺・三重足刀、なんつってな!!!」
烏丸は両手で三脚を握りしめ、俺の胴にめがけてその一撃を叩きつけようとした。
しかし、烏丸が相手にしているのは俺だけではない。
「おどれの相手はこっちじゃぁぁぁぁ!!!」
「ぐぅぅぉぁぁぁぁっ!?」
小峠の飛び蹴りが烏丸の背中を直撃する。
俺によほど夢中だったのか、予想外の一撃に対応する余裕がなかったために一撃で大きく体勢を崩した。
もちろん俺はこの好機を逃すつもりはない。
「沙羅ァァァァ…………!!!」
右脚で地面を踏みしめ、身体を捻って大きく太刀を振りかぶる。
「轟剣・火雷!!!!!」
「ぐぅぅおぁぁぁ!!!」
そして先に牙を剥いたのは俺の渾身の袈裟斬り。
三脚も見事な動きだが、これなら普通に金属バットを振り回したほうがよほど強敵だ。
アイデンティティ欲しさに固執して、変なモン振り回すからだボケ。
「ぐぅぅぅぅぅぅ…………」
烏丸は直前で三脚を入れて防いだが、肩に刀傷が入った。
俺の太刀は素早さに欠けるが一発一発は文字通り一刀両断の破壊力。防ぎきることは絶対にできない。
「なるほどなぁ、さすがは死神警官………雷みてぇな太刀筋だ………肩が雷に撃たれたかのように痛ぇ………」
「これで満足したか?俺たちは用がある、テメェの遊びに付き合っている暇はないんだよ」
「それがわかったら帰れ。これ以上の戦闘は公務執行妨害だ。俺は極道のことは何とも思わんが罪人に対しては容赦しない」
なるほどなぁ、と烏丸は腕組みする。
「はいわかりました、って引き下がんのが礼儀なんだろが…………一回本気出したあんたと戦いてぇって気持ちもあんなぁ…………」
そう言うと烏丸は突然戦闘態勢を解き、三脚を肩に担ぎ直して一歩退いた。
だが次の瞬間、
「でも、本気出したあんたを一回見とうてしゃあないわ、もう少しだけやらせてもらう!」
「俺は言ったからな」
お前は俺の邪魔をする犯罪者と認めよう。
俺が日滅軍から国民を守るのを邪魔する者は国民の敵。俺にとって立派な討伐対象だ。
「フン、フン、ハァッ!!!」
「マジですげぇよ、あんた。わえと同レベルで戦えるんだぜ………!」
俺の日本刀と烏丸の三脚が激しくぶつかり合う。
(凄ぇ………なんだありゃ、人間の戦いとは思えないぞ………)
その様子を見ていた武闘派小峠も息を呑む。
その時だった、
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「……………む!」
廊下の奥から、若い男の叫び声が聞こえてきた。
「司馬刑事、あれは菊理刑事の声です!」
隠れてばかりでなかなか戦おうとしないヤツが叫ぶなど、パールと木ノ葉がいてなぜそんな状況になる…………
「わえ、最初に言うたがな。この奥には殺し屋がいるってな」
クソが、手間ばっかりかけさせやがって………ここぞという時ばかり弱い男だ。
「すまない小峠、先に様子を見に行ってくれ。俺は一人でこいつを撃破する」
「は、はい!!!」
俺は小峠を先に行かせて烏丸と二人で対峙することにした。
そしてその一方、キクリ、木ノ葉、そしてパールの3人は先に奥へと向かっていた。
廊下は一方通行で、奥にはただ巨大な扉だけがあった。
「ドアを蹴破るのは僕がやりたいな〜!」
「菊理くんいつもそれで爪先怪我してるんだからさせないわよ」
「きょ、今日こそはできるって…………!今日はなんかこう、行ける気がするんだ!」
「嘘でももうちょっと説得力あること言いなさい」
キクリたちはこんな意味のわからない事で時間を潰していた。
そんな二人のやりとりをみていたパールがふと口を開く。
「ねぇ、ふたりとも。わたし、先に一人で入ってもいいかしら?」
「えっ?大丈夫………?奥にいるのはヘンな大人ばっかりだよ?捕まったら何されるかわかんないよ?」
「あらまぁ。心配してくれているの〜?でも心配ご無用よ。わたしはとーっても強いから、ね?」
「そ、そんなに言うんだったら良いけど…………なんかあったらすぐに通報してよ?」
「菊理くんあなたが警察でしょ」
「あっ。そうだ〜せっかくなら、木ノ葉ちゃんもご一緒にどう?」
パールは突然に不思議なことを提案し出した。
「わ、私ですか?」
「えぇ。可愛い女の子ふたりで、こわーい男の子たちをたぶらかして、そこを一網打尽にしちゃうの」
「かわい………私に可愛いが務まるかは定かではありませんが………パール様のご希望でございましたら、喜んで」
「大丈夫?僕だけ残るの?な、なんかあったらすぐに僕行くからね!そうなっても文句言わないでね?」
キクリの少し心配そうな声をよそに、パールと木ノ葉は少しだけ小声で打ち合わせをする。
そして頷いた後、二人でゆっくりと扉を開けた。
「あのぉ………すみません、」
「私達、入信希望で参りました」
奥の大広間に、当然として現れた絶世の美女二人組。
「だ、だれだ?」
「おぉ~っ、すんげぇカワイイなぁ〜」
まさか見張りが壊滅しただろう事を全く察知も予測もできていなかった連中は呑気に鼻の下を伸ばす。
「おいおい、美女とメイドさんだぜ…………」
「おいでおいで、まず一緒に話そうぜ〜」
あっという間にパールと木ノ葉の周囲を男たちが取り囲む。
取り囲むといっても侵入者排除の陣形ではない。目の前に現れた雌を捕まえようとする、単なる雄の生態行動だ。
「皆様、お国のために日夜素晴らしい活動に勤しんでおられるとお聞きしました。しがないメイドでありますが、ご主人様がたに何か私へのご命令がございましたらなんなりとお申し付けください」
「ご、ご主人様…………」
「ほ、ほんとにメイド…………?」
「あら。木ノ葉ちゃんったら人気あるのね。わたしよりも食いつきがいいじゃない。やっぱり今どきの若い男はわたしみたいな夜のお店の子よりも、メイド喫茶とかなのね〜」
「おいおい、オレを忘れられちゃあ困るぜお嬢さん、あんたはオレが相手してやるからさぁ」
「あら嬉しい〜。わたしのことパールって呼んで」
「パールちゃん〜、今夜は俺が歓迎してやるからなぁ〜」
やれやれ、見るに堪えない茶番劇だ。
「こ、木ノ葉ちゃんって言うの………?」
「はい。何かございましたか」
「か、髪の毛………いい匂いするなぁ…………!」
そう言って男のうちの一人が木ノ葉の髪を優しく掴んで匂いを嗅ぎ、さらに顔を舌で顎から額にかけてゆっくりと丹念に舐めあげた。
吐き気を催しそうなものだが、木ノ葉は表情一つと変えない。
「ねね、続きはこっちでやろうぜ。こっち、寝る所あるからなぁ!」
「あら、ご親切なのね。ありがとう〜」
「木ノ葉ちゃんもおいでよ〜………楽しいパーティーの準備だ」
「はい。かしこまりました」
そしてパールと木ノ葉に先行して進もうと男たちが背を向けた次の瞬間、
「フッ……………男ってホント、バカ、」
なんと、パールが脚から物凄い速度で一丁の拳銃を抜いた!!!
「んじゃその前にキモいお前らから先にお寝んねさせてやるよ!!!」
「ドゲェェブゥゥッ!?」
「コ…エェェェッ!!!」
そして抜くと同時に銃が放たれた。
2人を撃ち抜く拳銃だったがその速射は一発ぶんの射撃音にしか聞こえない。
「えっ、」
パールのと腕を組んでいた男は突然の出来事に驚きを隠せない。
その顎に拳銃が突きつけられた。
「お前、キモすぎ。女の扱い方で男の格ってのはだいたい分かんだよ」
「ギュゥゥゥゥゥン!!!」
顎から頭頂めがけて天を貫く銃声で男は即死した。
さらにパールの射撃を合図に、木ノ葉も2本のマシェットを構える。
「私にはこの程度の汚れは気になりませんが、初対面の女性の顔をお舐めになるのは、やめたほうがよろしいかと」
「ジンセイマデヤメテルゥゥゥゥ!!!」
「ドセイロンッ!!!」
パールの速射にも劣らない木ノ葉の斬撃で彼女らを取り囲んだ男たちは一瞬にして全滅してしまった。
──────この殺し屋、パール。
実はこの女のパールという名前も、殺し屋の肩書も、全てが嘘だ。
この女の本名は
武闘派天羽組の誇る一流の女装ヒットマンであり、つまり女ですらなかったのだ。
男性の身で女性として変装してこの場所に潜入していたのだ。
今思えば小峠に同伴していた時点でその可能性は考えられたのだが、彼のみならず天羽組そのものをよく知る俺や木ノ葉ですらも惑わせたのだ。
彼は速射の達人。その美麗な変装に一瞬でも隙を見せれば、一度鉛玉の餌食になる。
その射撃の正確性と速さは瞬く間に相手を即死させるものであり、撃たれた側は撃たれたことに気が付くことすらなく死に至る、なんていう噂まであるほどだ。
(うわぁ………香月さんの速射マジでヤバいなぁ………僕もあんなふうに拳銃も使いこなせるようになりたいなぁ)
だが、なぜか扉を透かしてその状況を見ていたキクリには分かっていたらしい。
そういえば……………
(シバさんを引き込むなんて凄いですね………シバさん、なんでもできるけど女事になると途端に不器用になるからそれを魅了できるなんて【大した出来ですよ】………ほんと美人だなぁ)
なるほど…………あの発言、そもそも分かってたんだな。
ヤツは遊び人をこじらせたような勤務態度の警官だ。アレほどの美女を見かけたら即座に手を出すだろうが、それでも冷静にしていたのは初めから女性ではないと分かっていたからというわけか、合点がいった。
あの男は…………なんなんだ、なんだってヤツはこう、変なところだけできるんだ。
(というか、僕の出る幕ないじゃんこれ!?)
結果は火を見るより明らかだった。
この建物にいた日滅軍の護衛となっていたゴロツキは全滅した。
「オヤオヤ、ナンだか騒がしいネ」
その時、部屋の奥から足音が聞こえてきた。
「ッ!?誰だてめぇは」
「ワタシの名前は
現れたのは中国では有名な一流の殺し屋、上。
(ワタシの言語野はムゲン大ネ!バカ名オマエたちはしネ!)
(ギョバァァァァァッ!!!)
(ゴォォェェェッ!!!)
彼は生まれながらに言語学の勉強が大好きなただの学生という少し変わった出自であり、話したり聞いたり書いたりする事で使用することのできる言語は既に900を超え、現在勉強しているものを含めれば学んだ言語の数は実に1400にまでのぼるという。
(このセカイには、7000を超える言語であふれているネ!公用語から部族でしか使われないものまで………ワタシ、セカイを深く知りたいネ!)
彼が学生時代に世界の言語を知るために世界各地に留学しているうちに世界の人々の半分以上が飢餓や紛争によって生存の危機に立たされているということを知り、それをきっかけひ殺し屋として誕生したそうだ。
しかし、ターゲットだけでなく自身の命をも危険にさらす職業というのはやはり賞金単価が凄まじいものになる。
そんな中で生まれ持った才能のせいか、広い言語野を通して土地や建物や気候や人々などの情報を知ることで世界中のターゲットを相手にしてきた。
その中で大金を得てしまった事により、奴の中に眠っていた富を欲する欲望が暴走した。
その結果、現在は紛争犯罪者を始末する本業の傍ら、世界各国の卑しい民間人の依頼にもその圧倒的な暴力を貸している。
「トツゼンですが、アナタたちの言語野はイクツかネ?ワタシはアナタたちよりもカシコい。だから、ワタシはアナタたちをコロします」
上は意味のわからない言葉を立て並べて香月と木ノ葉に語りかける。
「日本語っぽい発音が上手いが、何言ってるか分かんねぇよ。やるのか?やらないのか?どっちなんだ?」
「ヤる?ヤラない?…………もちろんヤります!アナタたちはワタシがセカイをよりよく理解するためにシんでくださいネ!」
そう叫ぶと上はいきなり左手から銃を放ってきた。
「うおわぁぁっ!?」
香月と木ノ葉は間一髪でそれを躱した。
(なんだ今の目にも留まらねぇ速射は………!カンで飛び退かなかったら当たってたぞ!)
「おやァ?よく避けましたネ!でもザンネン、その位置からは2発目はゼッタイに躱せないんだよネ!」
そう言うと上は右手に2丁目のチャカを取り出し、一発目を避けた香月に向かって発砲した。
香月が飛んで着地するよりも前に放たれている。なんという素早い動き。
「ぐぅっ!!!」
香月はギリギリで身体を空中で捻って直撃を避けた。
肩口を弾丸が切り裂く。
(大丈夫、掠っただけだ………だが、この速度でこの正確性………こいつは間違いなく射撃慣れしている!)
「パールさま、お怪我は!?」
「無駄口叩くヒマなんてないネ!!!」
上は連射で左で木ノ葉、右で香月を正確に狙う。
左右別の腕で動き回る別のターゲットを狙う。
その動きの精度は間違いなく、そのへんのゴロツキとは一線を画す戦闘能力であった。
「うるっせぇ!黙って死んでろ───!!」
香月も負けじと銃を放つ。
上の射撃も目を見張るものがあるが、香月も香月で射撃の名手。
「おおゥ!!これは良いショットだネ!」
しかし、距離が離れすぎているのと、彼自身が動き回る必要性もあるためその照準は立っているだけ野上と比べると圧倒的に不安定だ。
上は身体の角度を変え、ギリギリで一射を外した。
今のはマグレではない。あえて最低限の運動で弾を躱そうとした結果だ。
多くの敵を殺めてきた香月にもそれはすぐに分かった。
「なんなんだこいつ………!一回弾ハズしたら大人しく撃たれとくのが礼儀ってもんだろ………!」
「ワタシはあらゆる言語に精通しているからネ………ボディランゲージもマスターしているネ!!」
上は顔を邪悪に歪めて木ノ葉に向けていたぶんの拳銃も全て香月に向ける。
「うるせぇ!ぜんぜん上手くねぇんだよ!」
乱射される2丁の拳銃を香月は躱して、その合間に射撃を挟んでいく。
「おっと!?ワタシの弾切れかネェ!?」
そのとき、弾を連射しすぎたせいで上の銃の弾が底をついた。
「今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
千載一遇の好機を香月は見逃さなかった。
その脳天めがけて正確な射撃を放つ。
「ザンネンでしたネ!!!」
しかし、上は慌ててリロードするより先に、香月の隙を突いた一撃を躱す方を優先した。
「うっ、さすがにそう上手くはいかないか!」
場数は踏んでいる。上の対応も非常に冷静だった。
その時、
「きゃっ!!!」
なんと香月の発砲が木ノ葉に飛んでいったのだ。
「あらぁ、上手くいかなかったですネェ。あるいは2枚ヌキも出来たんですがネ…………」
そう、上は自分への発砲を逆流して香月の攻撃で木ノ葉を始末しようとしたのだ。
木ノ葉はギリギリで鉈を差し込んで弾丸を弾いたが、その一瞬のせいで上に駆け寄ろうとした木ノ葉の脚が止まってしまった。
「でもまず一人ィィィィ!!!!!」
そして隙を逃さないのは、なにも香月だけではない。
上は今度は香月ではなく木ノ葉の方向に向かって2丁の拳銃を乱射し始めた。
とっくのとうに弾丸装填は終わっている。
「かぁ、っ…………!」
木ノ葉は両手の鉈を振り回して寸分違わず急所を狙った射撃をすべて切り伏せた。
だがしかし、
「うっ……………」
木ノ葉の左脚を一発の弾丸が射った。
脳や心臓を狙った致命の一発を弾くことはできても、唐突に下半身を狙った射撃には対応できなかった。
「うぐ………………」
「木ノ葉!!しまった………この野郎………!!」
香月は突然の出来事に叫びながら上を撃つ。
「あらザンネーン、お仲間が一人やられてしまいましたネ?」
しかしそんな虚を突くつもりもない咀嚼では一流の殺し屋には全く通用しなかった。
冷静なバックステップでかわされた。
「ワタシが読めるのは文献だけではない、ココロまで読めちゃうんだネ!!!」
そして反撃の一射。
「うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
香月は正面から降り注ぐ弾丸の雨を潜るように駆ける。
弾と弾の間の幅は薄く、完全に避けきることはできない。
頬と左肩を再度撃たれるがそれでも止まらず、駆け寄りながら発砲する。
(木ノ葉が立てない………!これじゃ一瞬でも隙を与えたらやられる、だったら彼女がやられる前に俺が………アイツをやらねぇと………!)
香月はそれでもなんとか喰らいつこうとして弾を放つ。
時間稼ぎにしかならないがそれでも時間を稼がなければ動けない木ノ葉が一発で殺される。
「焦りが見えてるネ!!!そんなんじゃ弾も当たらないネ!!!」
苦し紛れの射撃ですらも香月の一撃は必中クラス。だが上は身軽にそれらを躱していく。
気がつけば、木ノ葉と香月は被弾しているにも関わらず上は未だに傷一つ付いていなかった。
(クソ………どうすりゃ良いんだ、こいつ強すぎだろ………!)
「そろそろ弾がなくなる頃だネ?」
上のイラつくニヤケ顔と同時に、香月の銃から弾が出なくなった。
「ぐっ…………まだだぁぁぁ!!!」
香月は今度はスカートの中からナイフを抜き、全力で上に走り寄る。
香月が捨て身で急いで距離を詰めた甲斐あって、あと数歩走ればナイフが届く。
「黙って死んどけバカヤロぉぉぉ!!!」
香月が最後の数歩を走ることなく、その位置から飛び込みながら勢いよくナイフを突き出す。
凄まじい踏み込みだ。これほどの勢いで来られれば受けるしかない。
「………………これだから、コトバの通じないバカは生き残れないんだネ」
誰もが、そう思っていた。
「勉強の出来ないバカは死んだらイイネ!!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
なんと、上は右手の銃をアーミーナイフに瞬時に持ち変え、飛びかかってくる香月を切りつけたのだ。
「ぐぅ、ぁっ………………!!!」
(なんだ…………今の…………すべてが速すぎて、まったく見えなかったぞ…………)
香月は武闘派で人並み以上には鍛え上げられているものの、暗殺なしの真っ向からの接近戦においてはせいぜい一般人に毛が生えた程度。
上は射撃の名手であったが、接近戦も修めていたのだった。
白兵戦の心得がないという可能性に賭けた一撃だったが、香月の賭けもむなしくその一刀は香月の上半身を直撃した。
「パールさま!!!!!!」
木ノ葉が叫ぶがもう遅い。
「次はアナタだネ!!!」
「あっ…………!!!」
容赦なく上はナイフを木ノ葉に向かって突き出してきた。
「うぅふっ!」
木ノ葉は後転でなんとかそれを躱す。
しかし、その後隙はあまりにも長すぎた。
「スキありネ!!!」
「しまっ……………」
もちろんこんな大チャンスを逃すようなやつでは無かった。
「死ネー!!!!!!!!」
そして上の渾身の一射が木ノ葉に向かって発砲された。
そして次の瞬間、木ノ葉の視界の前に人影が飛び込んできた。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
それは、石につまづいて転んだような体勢で木ノ葉の目の前…………上の射線に飛び込んできたキクリだった。
「な、なんだネ!?」
キクリが盾になったおかげで木ノ葉に怪我はない。
キクリはそのまま身体から血を流しながら床に打ち付けられた。
「き、菊理くん…………!!!」
「な、なんなんだネこの男!?」
「この野郎、ふざけやがって───!!!!」
香月はボロボロの身体でもナイフを横に振るう。
だがしかし、上は冷静に飛び退いてそれを外す。
「ぐっ………くそっ…………」
今の一撃で香月も限界。
斬られた胸を抑え、手にしていた銃を落として倒れてしまった。
「パールさま、菊理くん…………そんな…………!」
二人の状態を確認しつつ呼びかける木ノ葉の背中はどう見ても隙だらけ。
「……………………なっ、今のはなんだネ………!?」
しかし、上は震えてばかりでその木ノ葉を撃つことができなかった。
(今の男………飛び込んできた時にまったく気配なかったネ………まさかワタシが見えてなかった………?気配を感じ取れなかった………?いや、そんなワケナイ………ありえないネ………じゃあナゼ、ワタシは、気づけなかったネ………?)
そう、香月と木ノ葉のタッグに対しても圧倒的な力を見せつけた、上ほどの一流の殺し屋。
香月の射撃を見切り、二対一での大立ち回り。
しかしそれでも、ただ一つ…………キクリの飛び込みだけは見えていなかったのだ。
そもそもヤツはキクリの存在すらも把握していなかったのだ。
そう、キクリは二人が戦っている間はずっと扉の前で立ち尽くしていただけだったのだから。
ただの一秒も戦闘に参加していない。
その状況から、いきなり戦渦へと飛び込んだかと思えば、一流の殺し屋にすら気づかれずにその射線の間に飛びこんだ。
さらに、射線に割り込んだのはヤツが引き金を引いた瞬間より後。そして木ノ葉に弾が直撃するより前。
この0.00何秒の間に見知らぬ一人の男が気配もなく目の前に現れたことに対して上は動揺を隠せなかったのだ。
誰から見てもこの戦いは超人的なものであるが、実際は──────
「うっ…………香月さん…………」
「おい…………お前…………何して…………」
「まだ…………助かり、ます…………」
最も超人的だったのは、そこで心臓から血を流しつつ香月をおぶって場からの逃走を図ろうとする菊理弥二郎だったのだ。
そういえば、たしかに小峠やパールにはまだ説明していなかったようだが…………
俺たち3人の中で、最も人間離れてしているのはコイツだ。
コイツは裏社会でもまったく知られていない無名だが、俺はコイツに二つ名を付けるなら『最弱最強』だと思っている。
「よし…………あとは僕に任かせて…………」
菊理は柱の陰に香月を逃がすと、そのまま丸腰で柱から出てきた。
香月が落とした銃を拾いに一歩一歩進んでいく。
「いや、ダメかぁ…………ごめん、木ノ葉ちゃん、あとはシバさんに…………頼む、」
しかし、ついに銃を握りしめて弾を詰めようと弾倉を開いたが最後、キクリは突然倒れてしまった。
胸を撃ち抜かれたら当然の結果だった。
「─────────────」
「菊理刑事!!!大丈夫で、」
その時、タイミング悪く小峠が扉を開いて大広間に入ってきた。
「すか………………」
そして小峠の目には、柱にもたれかかってぐったりとした香月と、胸から大量に血を流して倒れるキクリの姿と、脚を負傷した木ノ葉の姿が映った。
「…………………………………………」
「こ、今度はなんだネ………!?」
次の瞬間、小峠の顔面に般若が宿る。
「テメェ、ウチの兄貴とご近所さんに何してくれとんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
絶叫する小峠はまるで咆哮する熊のようだった。
「な、ナァァァァァァァァッ!?」
「テメェは絶対に許さねぇ…………そこで待ってろ、今すぐにブチ殺す」
そして、修羅と化した小峠が、この直後大暴れすることになるのだった。
次回『百舌暗殺者・上亭田』
小峠 華太
Kotouge Kabuto
空龍街を拠点とする一大極道組織「天羽組」で中堅に位置するアラサーの武闘派極道。
かつては名もなき構成員であったが戦果を挙げていくにつれて徐々に組でも力をつけて、今では天羽組を代表する武闘派たちと並べても遜色ない立派な極道となった。
見た目はシャープな体型に合う白いスーツに眼鏡というインテリヤクザスタイルだが、その容姿に反してその異名は「特攻隊長」。
狂人揃いの天羽組の中では比較的一般人的な人間感を持つが、時には冷徹で暴力的な鬼人の如し一面も見せる。
香月紫苑
Kazuki Shion
天羽組の女装ヒットマン。小峠から見ると兄貴にあたる。
普段から中性的な美形であり、素で男の状態でも、化粧や衣装で変装して女になった時でも男女全員から大人気。
その精密で完成された完璧な女装を見破ることは限りなく不可能に近い。
おもに潜入で活躍し、色仕掛けで敵を油断させた所を銃で仕留める暗殺者としての役割も持つ。
暗殺のみならず正面からの射撃能力も人並み外れており、その目に留まらぬ速射は撃たれたことにすら気が付かずに死に至るほど。