死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
俺の名は司馬喬皇平。
「やっぱあんたは最高だぁ、さっさとここで始末したるわ」
「2回死んだら、叶うかもしれんな」
極左組織のアジトでまったく関係のない変な襲撃者と対峙する特殊犯罪対策課の警官だ。
俺を襲ってきたのは裏社会で「ヤタガラス様」という通り名で知られる元武闘派の極道、烏丸熊之城。
(わえは三本脚やけん……普通の奴じゃ手も足も出ぇへんさ)
奴は和歌山の武闘派組織が出自のようだ。
奴の名を単独で聞いたことはあるが、俺は組の名前までは知らない。
(流星にまたがってー貴方に急降呵ーッ!!!)
(ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!)
その男は赤と黒の服を身に纏い、
なんと天体観測用の三脚を鈍器として振り回すのだ。
(あんた、恋人おるんならそろそろデートに連れて行ってやらなきゃなんねぇだろうがよぉ?)
(はぁ!?何いってんだ、死ねよクソが!)
(デート………そう、合い挽き(逢引)ってねぇ!ハンバァァァァァァグ!!!)
(ジュゥゥゥゥゥゥゥッ!?)
ヘンテコな武器を振り回すわりにはその戦闘能力は鬼神のごとし。
三脚による強烈な殴打と、剣術のように振り回される脚技が獲物を狙う烏に見えるそうだ。
俺たちは長時間の切り合いを見せる、互いに致命に至るような一撃はまだだ。
その時、突然烏丸がスタートを切る。
「そろそろ死んどれーい!」
それは先ほどまでの奴の動きとは違う速度だった。
野郎、ギアを一段上げたか。
(コイツとの正面の打ち合いは非合理的だ………勢いと手数で圧される)
となると、状況に合わせて戦い方を変えるしかあるまい。
「おらぁぁぁぁぁッ!!!」
奴が三脚を振り上げる動作を確認して俺は引き気味に身体を立てる。
奴の武器は太く、リーチも長い。適当に振っても命中する。
奴は自分の得物の特性を利用して、圧倒的な手数で畳み掛ける戦闘スタイルを得意とするようだ。
防御にも当然、体力は消費する。奴はほぼ必中の攻撃を相手に連続でぶつけ、防戦一方に強引に押し込むことで相手の体力を削ぎ、タイミングを見計らって押し潰す事を得意としているようだ。
だがな──────
裏を返せば「お前の攻撃は一発が見え透いている」んだよ。
「フッッン!!!」
俺は奴の身体の芯ではなく、振り抜かれた三脚に向かって強烈な横薙ぎをぶつける。
「ぐぉほっ………!?」
自転車と自転車が衝突するような音を立てて、すでに振り切った烏丸の三脚が衝撃でさらに遠くへ振らされる。
防御も間に合わない、意味がない攻撃なんだったら何回もぶん回す理由なんてない。
こいつは相手に防御行動を強制させるためにあえて大振りの攻撃を振り回す。
当然素人に見切れるような攻撃ではないが、俺のような戦闘者からすればこの程度当たるほうが難しい。
だからお前の雑な攻撃に合わせてこっちはただの一発でお前の攻撃を弾き返すだけで事足りるんだよバカが。
「やべっ…………!!」
三脚を弾かれたことで烏丸の右腕は奴の身体の後ろまで振り向き、肩が外れかける。
その拍子に奴は体勢を大きく崩し、右腕の制御を失った。
(マジかや………!腕が変な方向に振られてもうた!)
これならお前のお得意の三脚も重すぎてそう簡単には振り回せまい。
「警察舐めやがって、」
俺はそれと同時に左手に拳銃を持ち、引き金に指をかけていた。
俺の戦闘スタイルは日本刀と拳銃の同時持ち。
刀にばっかり気を取られていたら突然の遠距離射撃で脳天がぶっ飛ぶぞ。
しかし、相手も元がつくとはいえ武闘派。
「そこだ!!!」
「うぉ、おぉっ!!!」
首筋を狙った俺の速射3連発を皮一枚で外しやがった。
こんだけ体勢崩していても銃弾躱すぐらいの能力は残しているとは大したヤツだな。
だが、いまので烏丸は大きく体勢を崩して転ぶ。
「うぉぉっ………!!!」
奴は情けなく床を転がって転倒する。
その時───────
「おらぁぁぁぁっ!フェザーアローだよ!」
奴は身体を上下反転させながら三脚の脚を俺に向ける。
次の瞬間、三脚の脚が開き、細い針のような刃が飛んできた!
「フン、」
俺は足元を狙って飛来する下段のナイフを斬り落とす。
「せぇっァ!」
油断した時に変な引き出し持ち出しやがって、烏のように狡賢いな!
烏丸は頭頂で逆立ちするように着地し、すぐに身体を起こして来やがった。
この俺が当然そんな隙を逃すわけがない。
死んでもそんな隙を許すか。
「風穴開けて死ぬがいい」
「呵ッ、呵ッ、呵ッ!残念、当たらんな!」
奴は身軽に銃弾を回避する。
「その烏の鳴き真似やめろ!」
「にゃーんワンワン!」
逃げた先を狙った弾丸も三脚で見事に弾き返しやがった。
なんだコイツは、バカか。
「さて、わえのお楽しみ回はこの辺にしたろうか」
「だから。逃がすか、つってんだろう」
俺は容赦なく拳銃をぶっ放す。
「いや、もう遅いぜ」
烏丸はとてつもない跳躍を見せたかと思えば、自分の足で建物の二階のメザニンに飛び移った。
なんだコイツ、なんつぅ跳躍力だ。
もしかしなくても人間やめてるだろ。
「逃げるな、戦え!!!」
「嫌や!わえは生きる方が優先だっちゃ。それに、あんたの下調べは済んだことじゃし、わえはさっさとおさらばするけ」
そのまま奴は三脚からまたナイフを発射してきた。
「それはもう見た!」
搦手は2回も使うもんじゃない。
─────だが、ヤツはそのさらに上の手を用意してきた。
「喰らえーッ!!!烏やけどセミ爆弾じゃ!」
ヤツはピンを引き抜いた後の手榴弾を投下してきた。
クソが、いつ抜いたかわからんせいで迂闊に近寄れん。
俺は冷静に爆発圏から飛び退く。
しかし、そんな無駄な動きをすれば、
「烏ってのはどこからともなく現れりゃカッコよく消えるようなもんや」
烏丸は2階の窓ガラスを三脚で叩き割る時間を与えてしまうのは必然だった。
そのまま烏丸は割れた窓をくぐって逃走する。
その直前、ヤツは言い残した。
「近いうちにまた会おうや死神警官……………【救世】が終わったその後にのぉ…………」
ヤツはたしかにそう言ったんだ。
そして烏丸は2階のギャラリーの窓から飛び降りて姿をくらました。
一階のガラスから抜けれそうかとも思ったが窓越しに烏丸の影はなかった。
あのカラスもどきのことだ、2階の窓から建物の屋根に飛び移って消えたのだろう。
忍者か、ヤツは。
烏丸熊之城……………名前と顔、覚えたぞ。
そして建物の屋根の上に飛び乗った烏丸は携帯電話を取り出して誰かと通話していた。
「呵ッ、誰かと思えやかや」
『烏丸君…………何をされてるのです?突然連絡が取れなくなったと、
突然、電話の向こうから穏やかな声が流れてきた。
「あいつが呵ァ?わえは、スマホは常にマナーモードにするタイプなんじゃ」
『ふむ………それはそれで困りますね。連絡ができないことは組織の運営に関わることですので………』
「ふん。そないなもんわえの勝手じゃろて。反町はんは何ちゅうとった?」
『遊んでないで早く帰ってこいって言っているんだ
受話器から流れてきたのは、重低音な暗い声。
「おいおい、わえらは極道から脚洗ったんやぞ?旧名で呼ぶのはやめい言うたやないか、オロチ。わーった、わーった。ほな今からそっち行ったるわ。黙って待っとれい、わえはおもろいもん見つけてきたからじゃれてきただけじゃ」
『面白い物………?何を
『まぁまぁ…………聞いてあげましょうよ。それで、何を見られたのです?』
「聞いて驚くんとちゃうぞ?……………あの死神警官じゃ、」
『ほう……………死神警官、ですか……………』
受話器の奥の穏やかな声が何やら楽しそうにつぶやいた。
『死神警官…………死刃か。そういえばそんなのもあったか。おれがまだ東京で現役やってた頃は【鬼を見て、左直れば、
「あんたは何を言うとるっちゃ」
『要は、裏社会には【凶星】と【厄災】の二つがあるということですよ。烏丸君。そして、死神警官死刃はそのうちの【凶星】にあたる存在なのです』
「ほーん。何を言うとるか分からんかったわい」
『やれやれ。───────しかし、彼はまだ警官を続けていたというわけですか…………』
結局、俺に投げられた手榴弾は偽物だった。
烏丸には果たして俺を手榴弾で殺してはならない理由があったのか。
考察も一瞬してみたが、奴のことだ。どうせ俺を小馬鹿にしようとしただけに違いない。
(呵ッ呵ッ呵ッ呵ーッ!!!ひっかかーったー!やーいバー呵バー呵!!!)
……………………こう言ってるのが想像に難くない。
「さて……………あいつらは上手くやっているだろうか」
日滅軍が特殊な力を持つ巨大組織というふうには聞いていない。
そりゃあ極左組織なのだから武装兵力はあるのだろうが、腕の立つ殺し屋が雇われているとも想定していない。
『
とはいえ、事態の早期解決は警官として当然の姿勢だ。俺は戦闘とも言えないようなじゃれあいを終えた後、ノンストップで建物の奥へと駆け出した。
──────俺の名前は小峠華太。
「ニホンジン…………頭が悪いならはやく死ネ」
「そうかよ………これでもインテリヤクザっぽく見られる事が多いんだがな………!」
日滅軍の殺し屋、
この上ってクソッタレはムカつくことに、やり手なんだ。
俺と一緒にここへきた警察たちは、シマを荒らす外道を粛清したあとの始末などを行ってくれたり、俺たちのメが届かねぇ所の隠れた外道どもを取っちめたりしてくれる。俺たちも散々世話になってんだ。
特に、司馬巡査部長はウチとも関わり深い。
あの親っさんが敬語使ってまで話すような相手だ。
その司馬さんところの部下の菊理巡査と石長さんがやられちまったんだ。
石長さんは脚を撃たれて行動不能、菊理巡査は心臓を撃たれて重傷。
さらに、俺と一緒にここまできた殺し屋パール………女装した香月の兄貴も傷を負っちまった。
俺は司馬さんと烏丸ってやつの相手をしてから遅れてこの大広間にやってきたが、着いたときにはもう遅かった。
「クソッタレぇ…………てめぇはもう、死ぬしかねぇ。兄貴に手ぇ出して、俺らのお隣さんをやったんだ。てめぇはもう………天羽組全部の敵じゃコラ………」
「ククク…………ヤッパリ、頭が悪いネェ。ロシアという国にはこんなことわざがあるのネ。『自分に扱えぬ、他人のソリには乗るな』…………できもしないことをしようとして、他人と同じ土俵に立つなって事ネ」
こいつは世界にあるほぼすべての言語を把握しているとかいう天才だ。
「うるせぇよ………もういい、お前は楽には殺さねぇ………!」
俺は最後の言葉を投げかけて、勢いよくスタートを切る。
テメェが無駄話してる間にコースは決まってんだよ………!
目視で約20メートルの一方通行…………今の俺にならすぐに詰めれる…………!
「行くぞこの野郎ォォォ!!!」
「オォ!いい突進だネ!」
歓喜するように上はチャカを構える。
「でも残念。無策じゃどうしようもないんだよネ!」
容赦ねぇ速射。ふざけた野郎だが、その狙いは大したもんだ。
「チィッ………!!」
だが俺は止まらない。ここで撃ちぬかれようが関係ねぇ。最短距離で突っ込むだけだ。そのために最初にルート決めたんだろうが………!
俺だって修羅場は潜ってる。
「当たったら死ぬような弾丸、何発見てきたと思ってんじゃボケがぁ!」
俺は自ら弾丸に突っ込んでいく。
まさか俺がバカだとは思ってなかったのか、ヤツはあえて射線をずらしてやがった。
「オォっ!勇敢なもんだネ!」
ありがとよ…………おかげで撃たれたのは足元だけだったぜ…………!
俺は上の目の前まで走り抜いた。こっからは根性戦じゃ…………!!!
そして次の瞬間、俺とヤツの刃が花火大会みてぇに火花を散らして交差し合う。
「地獄に行きなクソッタレが!」
「イイヤ、それにはまだハヤイネ!」
野郎…………ナイフの扱いも一流ってか…………真面目な強さしてんのが一番ムカつくなおい。
「チィッ…………!」
ダメだ、無策でこいつと馬鹿正直に真正面からやっても勝てねぇ…………!
「遅いネ。素人はこんなもんかネ?」
「ぐぅッ…………!!!」
奴のナイフが俺の腕を刈り取る。
クソッタレ…………腕刺されて力が入らねぇ…………
これじゃあもうドスは握れねぇな…………
俺は床に落ちていた香月の兄貴のチャカを拾う。
「香月の兄貴…………すんません、お借りします!」
香月の兄貴は殺し屋パールとして変装時、一丁だけ銃を持っていた。
頼みの綱をここに偶然置いていったのは不幸中の幸いだったな。
俺は自分のチャカと兄貴の物、合わせて2丁の銃を構えて応戦する。
さぁ…………どうする?
「2丁一気に避けるのはキツいぜ?」
「ウゥゥン!残念!無念!再来年!」
バケモンが…………2丁一気に撃ってるってのになんで全部外しやがる…………
「アナタのその舌を刈り取り、私の言語野をさらに増やすのネ!」
「うっ…………!!!」
しかもこいつ、鉛玉を避けながら気がつけば俺の目の前だ。
奴のナイフが強烈な逆袈裟を跳ね上げる。
「しネーーーーー!!!!!」
「ぐぅぅぉぉぉぉぉうっ!?」
間一髪─────俺は身体を反らしてナイフの直撃をかわした。
だがナイフが狙ったのは首ではなく胸!
外すには至らず、俺の胸が出血が迸り、衝撃で俺は床に膝をつく。
「チッ……………」
クソ痛ぇが…………それがどうした…………!
「さて…………どーされます?降参なさいますかネ?」
ヤツは勝ち誇ったように俺を見下ろしてきやがる。
「……………………ざけんじゃねぇぞ…………俺が、降参なんて…………するわけねぇだろクソッタレ…………」
「フーム。ならば死ぬがいいネ!」
奴は容赦なく俺にナイフを振り下ろしてきた。
「ううぅぅぅっ!?」
俺は一か八か、チャカで攻撃を受けた!!
幸いにも、チャカのでナイフが止まった!
左手の指をザックリと切られちまったが、落ちてねぇ限り問題はねぇ。
「アナタ、案外タフネスネ。次はどう料理してやろうかネぇ…………」
まだこいつは捕食者のつもりで居るみてぇだな。
「お前…………殺しのパターン少ねぇんだよ、」
「なんですっネ?」
俺は口から血を垂れ流しながらも薄ら笑いを相手にぶつける。
あぁそうさ。極道ってのは折れた方の負けだ。窮地の時こそ余裕を見せつけてやるんだ。
そうすりゃ相手はキレて動きが単純になるだろうさ!
「お前のナイフも銃も、殺し屋のくせにパターンが少なすぎて見飽きたなァ…………もっと面白いことできねぇのか…………あるのは言語野だけか?」
俺はとにかくコイツを不愉快にさせる一心で油断だ笑いを見せつけてやる。
当然、殺し屋としてある程度上り詰めた矜持のある上はキレて俺にかかってくるだろう。
「うるさいネ!!!」
瞬間、奴は素早く銃をぶっ放してきやがった。
ブチギレててもなおそのスピードの速射。
その射撃は大したもんだが予備動作が見え見えなんだよ。
「見え透いてんだよ…………こんな浅い手に乗ってるんじゃねぇぞ、」
「ヌッ!?」
んじゃ…………カウンターの一発いっとくか?
「お前も一発貰っとけや!!!」
「おおっと当たらないネ!!!それぐらい想定内ネ!!!」
しかし、敵も俺の弾を皮一枚で躱す。
この野郎、まだ一発も貰ってねぇぞ…………!
「ハハッハッハッハッハァァ!!!ニホンジン…………バカなやつしかおらんネ!!!」
嬉々として奴は突っ込んでくる。
「ぐ───────っ!!!!」
銃弾避けるのはまだ慣れてねぇ…………一発二発避けたら精一杯だ。
こうなっちまえば体勢がすぐに崩れる。
「死ネ────────!!!!!!」
奴が勢いよく突っ込んでくる。
「華太──────!!!!!!」
兄貴の叫びの中を駆け抜ける上の突進。
奴のナイフは俺の身体の芯を狙う!
「────────────────」
「小峠さま!!!」
俺は上の突進を避けなかった。
こんなやつと真正面からやり合っても、俺に勝ち目はねぇ。
こんなこと言ったらあの人たちに殺されるかもしれねぇが…………俺の兄貴たちと同じくらいコイツはバケモンだ。
だが、俺も曲がりなりにも武闘派───得意技の一つぐらい持ってんだよ…………
俺はわざと上の突進を受けた!!!
極限まで寄せ付けた時に身体の軸をずらし、急所を外しつつ上のナイフを受けた。
「貰ったネ!!!アンタの死ぬタイムネ!!!」
いいぜ……………俺ぁずっと、その瞬間を待ってたんだ。
「………………………何勘違いしてんじゃボケが………」
さぁ…………気合い入れて、いつものヤツ…………
やってくぞコラァ…………!!!!!
「捕まえたぜ…………もうテメェは逃げらんねぇよ…………」
俺は笑いながら、ナイフを握る右手を掴む。
「ヌェッ!?」
その一瞬の予想外が奴に一瞬の隙を作る。
その1秒が命取りだ。
「顔面、潰れとけやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ムグォァァァァァァァァッ!!!」
俺が放ったのは至近距離からの壮絶な頭突き。
予想外の方角から放たれた一撃は奴の顔面を捉える!!!
「ぐぁっ…………いったいネ…………!!!」
手応えがイマイチだ。
──────クソが、ギリギリで左手を差し込みやがったか。
だが、俺は今たしかに奴の顔から出血したのを見逃さなかった。
「もう許さないネ…………!!!」
上はナイフを手放して手を振りほどき、一時的に後退する。
なんちゅう冷静さだ。おかげで俺のターンは終わっちまったよ。
また激しい銃撃戦が始まろうとしていた。
「逃がすかよ─────!!!!」
だが俺はあえて接近戦を選んだ!相手はナイフを離したせいで俺たちの武器は互いに銃器だけ。
なら、俺の得意な間合いに持ち込んだほうが早ぇ!
「来るなぁ!臭いネ!あっち行くネ!」
奴は連続でバックステップを踏んで俺から距離を取ろうとする。
そうかそうか、そんなにも俺に近寄られたくないのか?
そりゃそうだよな。あんな予想外の攻撃食らっちゃ、誰だって離れて戦いたくなるだろ。
(こんどコイツに近寄られたら、また何されるか分からないネ…………バカなニホンジンの中でも一番バカなんじゃないかネ!?自分の身体を刺させて相手を捕まえるなんて…………!!!)
死なば諸共、大和魂ってか?
そういう根性文化、日本男児じゃないお前には練り込まれてない文化だろ?
人間は未知のものってのを本能的に避けたがるもんだ。
近寄りたくない、一刻も早く離れたい。
それをなんて言うか知ってるか?
「【ビビってんじゃねぇ】、クソ外道が───!!!」
「ううっ…………!!!!」
後退しながら上は銃を連続で放つ。
それは窮地の困りきっただけの咀嚼にすぎない。
だが、その一発一発に俺の命を刈り取るほどの精密な攻撃がある。
それでも俺は弾丸の嵐の中を潜り抜ける。
鉛玉が俺の脚や肩を撃ち抜いていくが関係ない。
どうでもいい。死に至らしめる程度の弾がなんだ。俺は何発撃たれようが、こいつをやるまで、止まらねぇんだよ。
「おぉぉらっ!!!そろそろバックステップ踏むのやめろ!!!」
俺は自分のチャカを床に勢いよく投げ捨てる。
ホッケーのパックのように大理石の床を滑るチャカは上の方へと滑り──────
「が────ぁぁぁぁぁっ!?」
運良く、バックステップから着地した上の右足に踏ませることに成功した。
風呂場で石鹸でも踏んだかのように、上はギャグみてぇな滑り方をする。
「貰った─────!!!!」
これほどのチャンスはねぇ!!!
俺は香月の兄貴のチャカを上に向ける。
「俺の勝ちじゃ、死んどけこのクソボケが!!!」
しかし──────────
「な…………………………………………」
香月の兄貴のチャカから、銃弾が放たれなかった。
「ぐぉっはぁ!!!」
上は床に転倒する。
「馬鹿な────!!!!!」
こんな時に弾切れか……………!?
香月の兄貴が先に弾を何発か撃ってたのか………!
さらに俺が無駄に乱射していたせいで…………
あれが一発でも抑えれていりゃあ、こうはならなかったのに…………!!!
千載一遇のチャンスを逃した俺に対して、上のほうは九死に一生を得た。
「あ…………アブナイアブナイ……………」
だが、やつは転倒状態。
俺がこっから襲いかかれば、やれる…………!!!
俺の勝ちには変わりねぇ。
「──────────白いアナタ、ナマエは?」
「テメェに名乗る名前なんざねぇよ…………」
「そうカ────白いオトコよ、ワタシの話を聞くネ」
「───────────────」
「やっぱりニホンジンってバカなんだネ─────!!!!」
上は身体を横に転がし、チャカを向ける。
しかし、なんとその銃口は俺とは見当違いの方向を向いていた。
「なっ─────────」
俺が完全に警戒を解いてしまっていたその方向にいたのは──────!!!!
「うっ……………!!!」
脚を撃たれて動けない………石長木ノ葉さん!!!
「やっぱり先にお前からシネ────!!!!」
「石長さん!!!!!」
俺は慌てて彼女の前に飛び出し、盾になろうとした。
だが次の瞬間──────────
「さらに拍車を増して…………ニホンジンってのは中国人よりも頭が悪いんだネ!!!!!」
無防備に木ノ葉さんへと駆け寄る俺の方へと銃口が切り替わった!!!
「チッ──────!!!」
野郎───────俺の特性を逆手に取りやがった………!!!
「白いスーツ真っ赤に染めてシネー!!!!」
──────乾いた銃声が一発。
──────飛び散る血しぶき。
──────響き渡る苦悶の声。
「──────────え…………?」
それは、俺じゃない。
「ガァァァァァァァァ!!!!バカな…………なんでこうなるのネ────!!!!」
なんと、銃を持つ左手を撃ち抜かれたのは、上のほうだった。
俺が背後に視線をやる。
「──────調子乗んなよ。華太はやらせねぇよ…………誰にもな、」
そこにはなんと、柱から出てきて銃を構えていた香月の兄貴だったのだ!!!
「香月の兄貴!?なんで…………」
兄貴の銃は俺の手元にある。
なら、一丁しか銃を持ち込まなかった兄貴が、銃を撃てるわけが……………
「ふっ、ふふふふふ!あはははははっ!」
柱の中からひときわ明るい笑い声が響き渡った。
そしてその人の影は柱の中から飛び出るように現れた。
「ピンチの時こそ駆けつける地獄からの使者、菊理弥二郎!てってってーててて!」
柱の影からでてきたのは、なんと菊理巡査だった。
菊理巡査は胸を紅に染め上げながら顔色ひとつ変えることなく普段通り何事もないように振る舞っている。
「シャンシャンさんだっけ?もしかして、なにか大事なこと忘れてなぁい?…………ニホンの警官ってのはね、ちゃんと【拳銃】持ってるんだよ?」
香月の兄貴が持っていたのは、兄貴が握る銃にしては珍しくリボルバーだった。あの銃は警察の仕様。
「ウソだ…………信じられないネ……………!なぜなら………ワタシが………心臓を…………!」
「悪いね、ワケあって心臓だけは硬くしているんだよ」
そう言うと菊理巡査は服の内側から輸血パックを取り出した。既に中身は空っぽになっており、巡査が床に投げ捨てた時に、それは鮮血に寸分違わぬ赤い液体を撒き散らして床に落ちた。
そうか…………防弾チョッキで射撃を防ぎつつ、偽の血で死を装い、柱の影に隠れてから兄貴に銃を持たせて予想外の攻撃を仕掛けるって狙いだったわけか…………
「ゴフ…………菊理巡査…………遅すぎます、」
とはいえ、この人がもっとはやく行動してくれたら俺は腹を抉られる始末にならなくて済んだんだが。俺のライブだってタダじゃねぇんだぞ…………
「菊理くん!」
石長さんが菊理巡査に向かって叫ぶ。
「おー!木ノ葉ちゃん!すっごく僕のこと心配してたね?うれしいな〜!」
「………………………………………」
石長さんの強烈なナイフ投げが炸裂した。
「ほあーっ!!!」
菊理巡査はギリギリの回避を見せつける。
「さて…………どうする?追い詰められたよ中国の人?」
「散々俺たちをコケにしやがって、さらには華太に怪我負わせて、司馬巡査部長の仲間たちにもケガを負わせた。お前、ロクな死に方できねぇってのは、わかるよな?」
香月の兄貴が冷徹な視線で上を睨みつける。
「ひ…………ま、待て!待つのネ!話をしようじゃないか!ワタシ………ニホンゴ、分かるヨ?」
この期に及んで命乞いとは情けないやつだ。
ま、極道と殺し屋は別だからな。
「ふーんそっか。じゃあどうしようかなー、じゃあますまそこで服を全部脱いで裸になって」
「え………え?」
「そして、その状態で何か面白いボケしてよ。それで僕が笑ったら銃下げてあげる」
「───────えっと、菊理巡査?」
「どうするの?やるの?やらないの?まぁ、やらなかったら死んじゃうけど」
「やる!やるから!やるから!やるネ!」
そう言うと、上は着ているものを全て脱ぎ、産まれたままの姿になる。
バカだな。この危機的状況で、あたかも本当に見逃してしまいそうな菊理巡査がポンコツっぽく見えるからついつい乗ってしまうんだろうが…………
要はそれ、隠し持ってる暗器とか全て捨てさせられたって意味だからな。
「さっきお前、世界中の言語に精通しているとか言ってたな?だったら、世界一面白い言葉ぐらい知ってるだろ。なんか言ってみろよ。菊理巡査を笑わせたら銃を下げるって話だろ?生き残りたいんだったら渾身のボケ、お前の選ぶ世界一面白い言葉言ってみな」
香月の兄貴が凄まじい剣幕でハードルを上げる。
上は青ざめた顔で人間が出さないような変な汗を流しながら渾身のボケを考える。
思考すること40秒、奴が出した答えは。
「う……………う……………ウンコ…………!!!!!」
40秒ものあいだ何を巡り巡らせてそこへ帰結したのか分からないような答えだった。
───────だが、次の瞬間、
「ぷ─────ぶはははははははは!!!!」
菊理巡査葉お腹を抱えて大笑いしてしまった。
この人、約束とかないのだろうか。
そもそもこの人、頭ん内ガキか何かか。
「あー。笑った笑った。ごめん、その単語自体は面白くないんだけどこの危機的状況でそんだけの間置いてそれかよ、ってので笑っちゃったよ〜」
「菊理巡査」
「菊理巡査」
「菊理くん」
「さて、約束通り…………銃、下げてあげるよ、」
菊理巡査がそう言った。
だが、香月の兄貴は言われる前から銃は降ろしていた。
「んじゃ……………約束通り、銃さげてやるよ!」
次の瞬間、突如として香月の兄貴が、全裸の上の睾丸めがけて発砲したのだ。
「おげぇぇぴはぁぁぁぁぁぁっぱっ!?!?」
鉛玉は奴の金的を直撃。
当たり前だが、破裂とかの次元じゃない。
ヤツは激痛でのたうち回る。
「あーあ。世界中の言語をマスターしたなんて嘘じゃん。広島弁も知らないなんて、まだまだだねぇ〜。知ってる?広島弁で「下げる」って「上げる」って意味なんだよ?」
「ゴモモモモモォォォォォォ」
「ま…………正確には【持ち上げる】って意味なんだけど。ま、知らない君が悪いね?もっと日本語の勉強がんばれ!」
「ま、とりあえずお前は両方とも破裂させて女になっとけ」
香月の兄貴はもう片方も容赦なく撃ち抜いた。
兄貴、こんなところで射撃の正確性を披露しないでください。
そして、ショックで上は泡を吹いて気絶した。
まだ息の根はあるようだが、ここで殺すわけには行かない。こいつは後で天羽組に持ち帰って徹底的に粛清する。
「さて。小峠さん、香月さん!ありがとうございます!本当に助かりました!」
菊理巡査はぺこりとお辞儀をしてきた。
「いえいえ…………俺の方こそ、兄貴たちに頼ってばかりで…………」
「何言ってんだ華太。今日のMVPはお前で決まりだよ」
香月の兄貴は俺の肩をポンと叩いてくれた。
「あ………兄貴に言われると感激です………ありがとうございます兄貴」
「私からもお礼申し上げます。小峠さん、パールさん。この度はご協力感謝いたします。…………不躾ながら、パールさんにはこの後、パールさんのような素敵な女性になれるようなご指南をいただきたk」
「あんまり収穫ないと思うよ木ノ葉ちゃん…………君はもともとが女の子だからね。香月さんみたいに女装はちょっと…………」
それを聞いた瞬間に、石長さんの身体が固まる。
そのまま一つ風が吹いたかと思えば、彼女は笑顔のまま、色が抜け白一色になって粉々に砕け散った。
「石長さん────!!!」
「うぉっ!?大丈夫か木ノ葉ーッ!!!」
「木ノ葉ちゃん!?どうしちゃったの!?返事して!?」
ショックで気絶してしまったようだ。
「さすがは香月の兄貴の完璧な変装…………女性を相手にしてもここまで通用するなんて…………」
「いやいや………そういうことじゃないだろ………」
理想の女性像を一瞬にして否定されて立ち直れなくなった石長木ノ葉さんを説得するところから俺たちの撤収劇が始まることになるのだった。
次回『事件解決・空襲街へ帰還』