死神警官〜バグ大の極道たちに振り回される警察 作:書庫・ラ・オランジュ
俺の名前は小峠華太。
「うぉぉぉぉぉぁらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「……………ふっ!」
「ぐぉぁぁぁぁぁぁ」
相手に意気揚々と突っ込んで行ったらあえなく返り討ちにされた天羽組の武闘派だ。
「石長さん。俺、ボッコボコです」
「ご安心ください。峰打ちであります」
いや…………ハルバードに峰打ちもクソもないぞ。
「至近距離での戦闘においては言うことは小峠さまの身体能力と比較して妥当かそれ以上。現在の自身の性能を可能な範疇で最大限発揮できているようです。課題があるとしたら…………後退の速度ですか。私の武器の間合いに入り込んだ時点で間合いの外へ退がる意識は確認できていますが反応速度に対して速度そのものがやや遅れております。地を蹴るというより、身体を後ろに倒し、反射反応の余力で滑走後退するのがよろしいかと。カンフーにおける歩法のイメージで」
「な…………なるほど……………」
俺は今絶賛、カタギの女の子から戦闘の心得を説かれている。
司馬巡査部長の部下、というより居候の身である石長さんの戦闘能力は兄貴たちに匹敵する。
「二十歳になって間もない女の子と戦うアラサー極道の図………!しかも、僕の木ノ葉ちゃんと………!」
部屋の隅では菊理巡査が何やら凄まじい目線で俺を睨んできている。
「菊理くん。私はともかく、小峠さまの気が散るからちょっかいをかけるなら出ていってもらえるかしら」
「おーエグいよ、誰がその斧買ってあげたと思ってるの」
「私のお小遣いよ」
「うんそうだね」
石長さんは二本のマチェットナイフで戦うという風に聞いていたのだが、まさかこんな巨大な武器を振り回すとは思っていなかった。そういえば俺は、大型武器を振り回すような敵と戦ったことがほとんどなかった事を思い出した。だいたいはチャカとドス、間合いが広くても日本刀が関の山。
だから、槍のような極限の長さを持つ武器への対策を学ぼうとして、そこで石長さんに鍛錬を頼み込んだわけだ。
ここ天羽組は鍛錬施設に充実している。
兄貴たちの身長すらも上回る巨大なハルバードをめいっぱい振り回しても問題ない広さの空間はちゃんと用意されている。
「マチェットナイフや投げナイフのほうが持ち歩きは簡単だけど、木ノ葉ちゃんは大型武器マニアだもんね」
「お嬢様の護衛役をしていた頃を思い出すわ。お姉様たちが、お嬢様を付け狙う屈強な男たちを相手に大剣などを抱えて圧倒していたのが素敵だったわ」
「お姉様…………
菊理巡査はいつの間に買ったのか、ペットボトルの水を渡してくれた。
「あっ、ありがとうございます菊理巡査」
「ありがとう菊理くん……………えぇ。お姉様たちはお二人とも素敵なお方だったわ。あのお二人よりも私が尊敬するメイドはいないわ」
それと同時に、修練場の扉が開いた。
「おっ。早速やってるな。あの怪我で鍛錬とは相変わらずの生命力だな小峠」
「報告お疲れ様です。司馬さま」
「シバさーん!木ノ葉ちゃんと小峠さんにお水買ったので金額分ください」
「合計260円程度だろ。我慢しろ」
「えーっ!コンビニのティラミス1個分にはなりますよ!ちょっとシバさんそれはなi」
「それで。毒ガスにやられたお前の兄貴は全員無事だ。あの連中のことだから死なんとは思ってたがな」
司馬巡査部長は菊理巡査の顎を掴んで兄貴たちの生存報告を告げてきた。
…………それはいいんだが、司馬巡査部長の横に…………
「華太ォ!なぁにカタギの女に負けとんじゃぁ!甘い!弱い!アップルパイ!」
「おげげげげ野田のカシラ見てましたかすんません!!!」
野田のカシラが声を荒げて突入し、俺の肩を掴んでグラグラ揺らしてきた。
…………たぶん俺が重傷を負ってから現在は訓練中と聞いて飛んできたのだろう。
「そのぐらいにしてやれ
「司馬ァ!天羽組をコケにするような発言は許さんぞ!」
野田のカシラ…………俺たちのためを思って怒ってくれてるんだろうが…………たぶんホントに石長さんは無理です。
「してない。勝手なことを言うな。そんなに言うならやってみたらどうだ。若頭が部下の前で女と侮って蹴散らされる、それこそ組の恥さらしだと思うがな」
「なんじゃその物言いは!やったろうやないかい!司馬ァ、お前構えェェイッ!!!」
野田のカシラがブチギレた…………!!!
そうだ………前から司馬さんとカシラは相性が悪い………なんでなんだ………厳格なところとか気が合いそうなのに………いや、逆に同じだからこそか………?
そうこう言っている間に石長さんがハルバードを振り上げ、司馬さんとカシラの間に刃を振り下ろした。
「いい加減にしなさい、野田一。これ以上司馬さまに害を及ぼすのであれば僭越ながら、ここで速やかに斬首させていただきます」
「木ノ葉ちゃん!床!床!斧刺さってる!」
石長さんのハルバードが深々と突き刺さっていやがる。これ誰が直すと思ってんだ。
「なんじゃあ女ぁ!邪魔をすな!滅多刺しにされたいんかぁ!」
「ほう。カタギの木ノ葉に逆上して手を出すとは天羽組の若頭も堕ちたもんだな」
「司馬ァァァァァ!!!」
カシラがアイスピックを抜いて司馬さんが刀を抜刀する。
さらには石長さんもハルバードを構えちまった………!
菊理(まずいですよ!)
小峠(野田のカシラと、司馬巡査部長………空龍街の大御所2人が激突している………!)
菊理(しかも珍しく木ノ葉ちゃんまで怒ってる………!こりゃ激突不可避だ!)
こんな所で暴れられちまえば、ガチで誰か死ぬまで終わらねぇ…………
「ちょ、ちょっと良いですか!?やめましょうよこんなとこで喧嘩なんて!」
二人の間に菊理巡査が割って入って喧嘩を何とか仲裁しようとした。
いやいや………頑固者の二人なんだ。そんな簡単にやめるはずがない………
「ふむ。それもそうか、腐っても天羽組の若頭だ。殺してしまえば治安維持に悪影響だな。これでは住民の安全確保とは結びつかん、悪いな、よく言ってくれたキクリ」
司馬さんは案外すんなりと納得して刀を納めた。
「……………………野田。アイスピックを片付けろ。そうじゃないとこの女は武器納めんからな」
「1ミクロンでも司馬さまへの害を及ぼしかねない動作が見られる以上こちらも警戒体勢を解くことは出来かねます」
「ね?ね?だからほら、野田のカシラも落ち着いてくださいよ〜小峠さんの前でみっともない所見せちゃ顔が立ちませんから………!」
「…………こんど調子乗った所見せようもんなら、顔面ハニカム構造じゃ」
カシラはアイスピックをしまった。
それで石長さんもハルバードを手放して床に突き刺した。
…………だから、誰がその床直すと思ってんだ。
俺の名前は司馬喬皇平。
「シバさーん、任務達成したからなんか奢ってくださいよー」
「そう言うと思ったからさっきハンバーガー買ってやったんだろうがよ…………」
天羽組事務所の前で時間をつぶしている特殊犯罪対策課の警官だ。
極左組織日滅軍による爆破事件が発生してから数日、俺たちは日滅軍本部を襲撃し、中にいた殺し屋である上亭田と対峙。
小峠と香月、それから木ノ葉の健闘により、上をついに撃破。
俺たちは無事に事件を解け─────
「ちょっと待ったーッ!!!!!」
「なんだキクリ」
「僕の活躍は!?僕MVPですよ!?僕が香月さんに銃渡してなかったら負けてたんですよ僕ら!?」
「誰がそんな事言った。どのみち俺が来ただけで瞬殺される程度の相手だろう」
「いや、そうかもしんないですけども!僕の働きがまるでカウントされてないのはちょっとそりゃ話が違いますよ!」
まぁ………たしかにキクリの活躍もあったがな。
───────あの後、上は天羽組に連行されたのだが、たぶんロクでもない殺され方をしたのだろう。
そういえばネットの会話で木ノ葉に接近し、おびき寄せるように仕向けたのはあの上だったらしい。なんでも、他の構成員のアカウントを使っていたそうで。
最初のヤサが潰されてから不審に思った以降、メッセージだけは上が送信していたという。
「今回は世話になりましたな、司馬巡査部長」
事務所から天羽組長が出てきた。
「天羽さんだー。それに小峠さんも、お疲れ様でーす」
「小峠、お前はそこそこ痛い怪我だったはずだが?」
「いえ。これまでのものに比べればこの程度。それに、司馬さんがお帰りになられるとの事だったのでお見送りに参りました」
やれやれ…………この男は行儀が過ぎるな。
いや、それは極道だからか。
「っとぉぉぉ!?華太!帰るってんなら先に呼んでくれよ!」
「司馬さま、もうお帰りになるのですか」
ついでに木ノ葉と香月も組事務所から出てきた。
「木ノ葉、どこへ行っていた」
「あっ、すみません司馬巡査部長。すこし、木ノ葉さんに化粧の心得をと、話していた所です」
「そうか。夜遅くならないのなら、もう少し寄っていったらどうだ木ノ葉」
お前は俺の保護下とはいえ一応カタギの娘だ。お洒落の一つぐらい覚えて帰ったほうがいい。
ただでさえお前は、普通の人間に増して「汚れる」という感覚に疎いのだから、せめて見てくれだけでもな。
「良いのですか!」
「あぁ、構わん」
「よかったな、木ノ葉さん」
「香月さまにお化粧をご教授いただけるとは、木ノ葉は感激です………!」
その時、俺がただならぬ殺気を覚えたので、刀に手をかけて横を向いた。
(野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す野郎殺す)
何やらすさまじい殺気を出しながらキクリが拳を握りしめていた。
顔だけは満面の笑顔なだけに狂気が倍増している。まぁいい、キクリの横に置くよりははるかに安全だし彼女にとって負担が少ないだろう。
「おぉ、そうだった………【救世】についての話でしたな、司馬巡査部長」
「そういえばそうだった。何か分かったことがあったでしょうか」
「いいや………こちらではまだそういった物は見ていない。日滅軍は左翼としての国家思想に囚われていたもの。【救世】という宗教色の強い目的を掲げて活動するような団体は、空龍街では確認できておりません」
「そうか…………」
烏丸熊之城の言っていた「救世」という言葉。
アレには必ず何か意味がある。そして、宗教色を感じない烏丸があのようなことを口走るのであれば何かバックに巨大なモノが存在しているに違いない。
…………依然として、謎は残ったままだ。
「であれば、情報屋の「伍代」をあたってみてはいかがでしょう。彼は情報収集のエキスパート。まだ社会に流れない裏の情報のほぼすべてを握っている………何かの力になるかもしれません」
情報屋・伍代…………そういえば久しく会っていないな…………俺たちは基本的に表の事態に対処することが多いが、この際あたってみるのも手か
「参考になった。それでは俺たちは帰還して今回の事の処理と、救世についての軽い調査を行う。救世が何なのかは知らんが、もし住民を闇に巻き込むような儀式であるのならば早急に阻止する必要があるからな」
「はい。万が一の時には、ぜひお気軽に、我々天羽組の力をお頼りください」
「天羽組長、感謝します」
俺は一礼して天羽組長に背を向ける。
「小峠。お前もずいぶんと成長しているな、お前の頑張りは知っている。頑張れとは言わん、これからも死なないように、街の人々に尽くすがいい」
「はい!司馬さんも菊理巡査も、石長さんもこの度は本当に、お世話になりました。また厄介になることもありますが、今後とも何卒!」
小峠の最敬礼を見ることもなく俺はそのまま事務所への帰路につくのだった。
「あっ!シバさんの頬が一瞬緩みましたよ?笑ってます?」
「…………いいや?自分を慕う人間が成長していく様にいい気持ちがしないはずがない。とりわけ俺は、部下が成長するという当たり前の事象が存在しないからな」
「あれ?それ僕のこと言ってます?」
「自覚があるなら早く何とかしろ」
「やっ………やめてください!」
「なんだよーちょっと一緒に行くだけじゃねぇか。実際いってみりゃ、あんがい楽しいかもだぜ?」
法ある世の中には犯罪というものがあるが、大きく分けて2種類。
一つは、おもに俺たちが取り締まるようなこの国の存亡と秩序がかかるほどの一大事件。
そしてもう一つは、欲をかいて暴走したバカどもの引き起こす笑えないイタズラ。
要は軽犯罪と呼ばれるものだ。
そしてどういう理屈なのか………欲をかく男というものはケダモノばかりであり、どうも女性を襲うことが多い。
女性からすれば種としての課題であろう。
「おい、来いっつってんだろ!さっさと乗れや女!早くやらせろっての!」
「イヤッ!離して!!イヤァァァァッ!!」
夜道を帰る一人の女を襲い、車に押し込もうとする暴漢が一人。
──────その前から男が一歩ずつ歩いてきた。
(なんだぁ?あいつ………こんな時代に着物とか着やがって気色わりぃやつだぜ)
前からやってくる男はスニーカーを履いていたが、それ以外はまったく時代錯誤な服装をしていたという。
青の着物を着て、灰白色の袴を履いていた。
顔色は暗くてよく見えないが、ほのかに青い髪。
その男は目の前で襲われる女に見向きもせず、ただ歩き続けている。
「おい…………なに近づいてんだよ離れろやコラ」
「…………………………………………………」
暴漢は歩いてくる男を威嚇するがまったく反応を示さない。
「チッ、前見えてんのかクソが。まぁいい、お前はさっさと来いや!」
「た……たす………!!!」
「おーっと、人を呼んじゃダメだぜ?オレとお前はこのあと二人っきりでお楽しみだ………オレがお前を独り占めしてやるんだからな、他のやつなんか呼ばねーよバカが」
「んー!んー!!!」
男に口を押さえられて声を上げれない女。
そんなものにもお構い無しで歩き続ける男。
ついに暴漢の真横を通り過ぎてしまった。
「へっへっへ…………んじゃ、今夜は楽しもうぜお嬢さ…………うづッッッ!?」
途端に、暴漢の身体が止まった。
口を押さえ、体を抱きしめるように拘束していた腕がだらりと落ちる。
「え……………?」
「────────────────」
なんと、暴漢は立ったまま事切れていた。
そして、次の瞬間─────!!!
「イヤァァァァァァァァァァ!!!!!」
なんと暴漢の胴体は、腰から上が切り取られたかのようになくなってしまったのだ。
襲われていた女性に傷はない。
誰に………いや。誰にも斬られたはずがない。
女は刃物を携帯していなかったし、そもそも刃物でこれほどにまで人間の胴体を完膚なきまでに両断することは普通はできない。
「─────────────」
暴漢の横を通り過ぎてしばらくした後、和服の男は顔を上げた。
そこには、和服を着た四人の男たちが立っていた。
その四人は、男を見るなりすぐさま腰から吊るした日本刀を抜いた。
もちろん模造刀でもおもちゃでもない、真剣だ。
「……………………
男は、四人の男たちと同じように腰に吊るしていた日本刀の柄に手を掛けるが、抜こうとしない。
「あのお方の言うことは絶対だ。貴様が何と言おうと見逃す理由などない………あのお方にとって貴様は都合が悪い。ここで、死んでもらう」
「はぁ………………全てを失い、ついに剣士の肩書もなくなったおれが、なんとか【救世】のために一役買って、やっと日本国民として復帰できたと思ったらすぐこれだ…………」
「あのお方はまさに神。この世には、あのお方に見えぬもの、聞こえぬものなどない。お前が見える場所へ現れたこと、それがお前の命の終わりなのだ…………あのお方の道を阻む悪党よ、何もなし得ぬまま死ぬがいい!!!」
剣を抜いた四人の剣士は一斉に男へと突っかかっていった。
この四人の剣士は、自分たちの属する剣客隊の中でも上位格のエリートたちだ。
剣術においては、この世に敵などいない。
「────────御前の雇う最強格の剣客隊のエリートが四人…………」
「我らに目をつけられたこと、それが終わりだと知れ!」
「散るがいい!
四方から飛びかかる必殺の剣術。
しかし、刀を振り上げられても男は顔色一つ変えなければ、体勢を変えることもない。
ただ、靴の爪先で地面を軽く叩くだけ。
四方より振り下ろされる刃が男の身体を同時に切り裂いた!
(死んだか…………いや、手応えがない………!?)
次の瞬間、男の身体が霞のように消えてなくなる。
「おれには…………一つだけ約束がある」
その時、同時に街頭が一斉にしてガラスの割れる音と共に消灯した。
キリン、キリンと軽い金属音が響き渡る。
(六角を投げて街頭を破壊したか…………)
(だが、それに何の意味がある。周囲が見えないのは貴様も同じだ…………)
「おれは…………おれの中のアイツに…………御前の剣客が来たら…………一人残らず殺すように言われてるんだよ」
暗闇に声が反響する。
(どこにいる………声が、あちこちから聞こえてくる………)
(足音も気配も感じ取れん………なにより、この暗がりのせいで見えん………)
「かつて、何もなかったおれに唯一あった取り柄…………それは人との約束を守る正直さだった。だからおれは…………あいつとの約束を果たす、」
「いっ…………!?ひやぁぁぁぁぁぁっ!?」
突然、見学の一人が暗闇の中へと吸い込まれていった。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次の瞬間、大きな悲鳴とともに、鈍い音が響き渡る。
「なっ!?いつの間に!?」
剣客たちは悲鳴の方角を向く。
そして暗がりの中から、剣客のうちの一人の生首が無造作に投げ捨てられた。
「馬鹿な…………一人やられたのか!?」
「いや、落ち着け!我ら三人で背中を守り合えば良い!」
残り三人の剣客たちは背中を合わせあい、背後を取られないように構える。
「棒立ちしてる剣士など………鉄の板持って立ってる子供と…………何も変わらん」
声が………………近い。
(来る…………!)
(どこからだ………!)
(次に現れた瞬間を、討つ!)
三人は構える。
だが、
「御前も馬鹿なもんだ…………こんな奴ら四人雇うよりも、おれ一人雇ったほうが使えるのにな。ま………もっとも、おれがあんなクズに手を貸すことはないだろうがな」
「ぐげぇぇぇぇっ!!!」
また一人、苦悶の声が溢れる。
「ほらよ…………どんなに構えようが、正面からやってくるおれの姿が見えていない」
なんと、男は前方に集中している剣客に対して、期待通り正面から襲いかかったのだ。
しかしそれでも対応できず、なすすべなく倒れる一人。
「どうなっている…………何が…………どうなって…………!」
「クッ…………あのお方の手から一度は逃げ延びただけのことはあるか…………」
「いいや…………おれは強くなんかない…………おれは、この手に刃を持ちながら…………守るべきものを守ってやれなかった…………この世で一番、恥ずべき剣士だ…………だが、そんなおれでも、仇を討つっていう当たり前の事は忘れてねぇよ」
さらにもう一人が悲鳴も苦悶もあげることすらできずに、首を落とされる。
「ひっ…………俺だけか…………!」
「お前たちに恨みはない。だが、御前さえいなきゃ………おれの剣は食いつなぐ為の道具に成り下がらなかった………!悪いが、奴にはとことん嫌がらせさせてもらう。お前は自分を、奴の手足だと思い込んでるみたいだが………だったらおれは奴の手足を何本であれもぎ取ってみせる。そして、【救世】を終えた暁には、お前たちの全てを否定してやる………」
暴漢への態度とは一転、やけに口数が増え、憎しみ燃えるような声がこぼれる。
「そしておれは…………もう一度、お嬢様の誇る騎士に戻る…………!邪魔を、するな、全員殺すぞ…………お前たちの方こそ、何の役にも立たないまま無意味にここで死ね…………!」
男の刃が剣客の両腕を斬り飛ばした。
「う、腕がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「暗闇の果てに消えるがいい…………そして…………全てを手放せ、おれの様に…………!」
そして男は刀で最後の一人を滅多裂きにする。
胴体を消去され、肉塊すら残さず血の煙へと変わる。
そして残った頭はまるでスイカを切り分けるかのように引き裂かれ、均等な大きさに細切れにされてしまった。
現場に血の雨が降り注ぐ。
暗闇の下には無限の死屍累々。
「怨讐のみを胸に、剣に数多の屍を積み上げて幾星霜………おれの旅はまだ終わらん………おれは今度こそ、この剣で己の成すべきを成す。一度は果たせなかった己の生きる意味を、第二の生にて果たす………救世という名の生きる道でな………その後で、お前の首を刎ねるぞ………どこにいる御前、貴様の首を落とすのは………このおれだ………」
次回『新任務・黒焉街の【救済】が始まる』