もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第1話

 古本屋の店主であるその男は、大きなあくびをした。相変わらずこの古本屋では閑古鳥が鳴き続けており、静かな時間が流れている。

 

 もとより祖父から受け継いだこの店だ。半ば趣味のような形で営業しているここは、時折訪れる常連客や本好きの顧客で成り立っていた。

 

 店内の棚には、祖父が大切にしていた古書や、珍しい書物が並び、独特の古本の香りが漂っている。

 

 商売の傍ら訪れるのは、意外にも子供たちである。古本の隣に置かれた駄菓子やおもちゃ、そして何よりも遊戯王カードを目当てに、子供たちが店にやってくるのだ。今ではすっかりとそのスペースも大きくなった。

 

 彼らは学校帰りに立ち寄り、駄菓子を片手に遊戯王カードが詰まったストレージボックスを漁り始める。

 

 あーだこうだと友達と言い合いながら、ひそかに持ち寄った自分たちのデッキで決闘【デュエル】を行うのだ。その光景は、まるで昭和の懐かしい風景を見ているかのように微笑ましい。

 

 だが、そんな店主にとって遊戯王カードとは、ただのおもちゃに過ぎなかった。そのカードを置いているのは、子供たちからの需要と、何より遊戯王カードが好きな高校生である姪からの要望が大きかった故であり、ただそれだけの事であった。彼は姪の笑顔を思い浮かべながら、カードの補充を黙々と行う。

 

 店の規模もまた小さかった。埼玉県川越市にあるその店は、駅から遠くもないが近くもない、微妙な距離に位置している。

 

 いかにも寂れた装いのその店先には、店名である「古本 がらんの堂」と書かれた古びた看板が掲げられている。

 

古本を読み

 

値札を張り

 

管理をする

 

 そして時折訪れる常連客と会話を交わしながら、遊戯王カードで遊ぶ子供たちを眺める。そんな毎日を店主は過ごしていた。

 

 どこにでもある普通の古本屋、普遍的な光景がそこにはあった。

 

 そんな日常的な光景のその店に、一人の男が訪れる。その男は随分と背丈が低かった。もこもこの帽子をかぶった彼。どこかで見たことあるような姿をしたその男は、店に入るなりそっと息を呑んだ。

 

「なんやこの店…こんな店、童実野町にあったんか?」

 

 そうつぶやく男。彼、()()()()()()()は、興味深そうに店内を見回しながらそっとつぶやいた。

 

「長いこと童実野町におるけど知らんかったなぁ」

 

 そういって興味深そうに店内を見回す彼。そんな彼に対して、店長は読んでいた本から視線を上げるとそっと声をかけた。

 

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

 

「いやぁ、道に迷って入っただけで、本は別に…」

 

 そういって申し訳なさそうに謝罪をする彼。まぁよくある話だ。大切な事は古本という物に対して興味を持ってもらう事なのだから。彼はビジネススマイルを顔に浮かべながら、竜崎に対して優しく声をかけた。

 

「まぁそう言わずに。うちは立ち読みも歓迎ですよ。自由に店内を見回ってくださいな」

 

「まぁそういう事なら…ってあれ!DMやないか!」

 

「デュエルモンスターズ…?あぁ遊戯王カードの事かい?」

 

「ゆ、遊戯王?」

 

「姪が好きでいろいろ集めててねぇ。こうして本業である古本屋の傍らですが、カードも売っているんですよ」

 

「ふーん…なぁ、見てもええかな?」

 

「どうぞご自由に」

 

 そういって再び読んでいた本に視線を落とす店長。どうやら彼は本よりもカードにご執心のようだ。少々思う所がないでもないが、まぁそんな事もあるさとため息をつく店長。昨今ではカードゲームをやる大人なんてそう珍しくもないだろう。

 

 そんな彼とは対照的に、竜崎の心は躍ってしまう。やはり彼もまた決闘者、カードの山を見ると好奇心がわいてしまうものだ。店内の一角に設置されたストレージボックス、その箱の中に大量に詰め込まれた遊戯王カードの山へと、竜崎は手を伸ばした。

 

 その店内には人間の身長並みに大きな黒い棚があり、その棚にはカードがぎっしりと詰まったストレージボックスが大量に入っているのである。古いものから新しいものまで、テーマや種族を問わず大量に詰め込まれたそのカードボックス。

 

まさに決闘者にとっては宝の山であろう

 

 彼は手慣れた手つきでストレージボックスからカードを取り出す。そのままカードのテキストを注意深く読み込んでいった。よどみないその手つきは、彼がいかに普段からカードに対して接しているかを如実に物語っていた。

 

「なんや見たことないカードばっかりやな」

 

 言葉とは裏腹に随分とウキウキとした様子でカードを読み込んでいく竜崎。そのカードイラストも、テキストも、見なれた物から見た事ない物まで実に様々であった。

 

「貪欲な壺・強欲で謙虚な壺・強欲で貪欲な壺…全部強欲な壺で良くないんかこれ?」

 

 中には存在意義がよく分からないカードも多い。やたら多い壺シリーズなどまるで意味が分からない。

 

 全部強欲な壺で良くないの?と言いたくなるような効果ばかりだ。中でも飛び切り分からないのがこのカードである。竜崎は手に取ったカードテキスト、その効果を注意深く読み込んだ。

 

【原始生命態ニビル】

 

 このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。①:相手が5体以上のモンスターを召喚・特殊召喚したターンのメインフェイズに発動できる。自分・相手フィールドの表側表示モンスターを可能な限りリリースし、このカードを手札から特殊召喚する。

 

 その後、相手フィールドに「原始生命態トークン」1体を特殊召喚する。

 

「なんやエラク召喚条件厳しすぎひんか、これ…しかも相手フィールドにトークン召喚って…」

 

 何やら複雑なカードである。このカードが公式戦で使われる事なんて絶対にないんだろうな、なんて事を考えながら、カードテキストの山へと手を伸ばす。

 

 このように、時折カードの効果に首を傾げながらも、それでも楽しそうにカードを調べていく竜崎。彼にしてみれば触るカードのどれもが見たこともないような新規カードばかりなのだから無理もないだろう。

 

 まるで子供のように純粋にカードを楽しんでいるその様子に、思わず店長が声をかけた。

 

「えらく楽しそうだね、そんなに面白いんですか?」

 

「そらもう!見たことないカードばっかりや!」

 

「姪も同じような顔してたなぁ。貴方もカードが本当にお好きなんですねぇ」

 

 嬉しそうに声を弾ませる竜崎。気が付くと籠の中身には購入しようとしたカードがたくさん放り込まれていた。ほくほくとした笑みを浮かべる。これで自身のデッキをさらに強化していこう、そう思いながらさらにカードを漁っていく。

 

 気分は宝探しだ。そんなウキウキとした気分で探しながら、彼はとある一枚のカードを手にしてしまう。

 

「おっレッドアイズやないか。これなんかもう信じられへん位稀少で……ハァアアア!?」

 

「な、なんです!?」

 

「レ、レレ…真紅眼の黒竜【レッドアイズ・ブラックドラゴン】!?」

 

 思わず手にしていたカードを落としかけてしまう。その衝撃は筆舌に尽くしがたい。今の彼に取って、それはあまりに衝撃的なカードであった。

 

(な、なんでこんなレアカードがこんな所にあるんや!!)

 

 思わず手が震える。真紅眼の黒竜【レッドアイズ・ブラックドラゴン】かつて自身が財産はたいて購入した、幻のレアカードである。手に入れるには札束の山が必要になるような、まさにドラゴン族の伝説のカードである。

 

 かつて自身が所有していたカード。そして何よりあの城ノ内に奪われた非常に強力なレアカードであった。

 

 ダイナソー竜崎らが存在する世界においては個人売買で数千万円もしかねない価値のあるカード。だがこの世界においては二足三文で取引されるノーマルカードなのであった。

 

 真紅眼の黒竜【レッドアイズ・ブラックドラゴン】であろうとも、例外ではない。かつてその人気の高さゆえに大量に印刷され、大量に頒布されたこのカード。大量のサポートカードも存在し、人気自体も衰える事のないこのカードを、竜崎は震える手で握りしめた。

 

恐ろしい

 

 童実野町で購入しようとすれば一体どれほどの高値がつくだろうか。手に持ったカードの価値を考えるだけで身震いしてしまう。何よりも恐ろしいのがこのカードの価値を理解していないこの店主である。

 

 間違ってもストレージボックスに雑に収納されて良いカードではない。断じてレベル5で攻撃力が1550しかないモリンフェンとかいうモンスターカードのすぐ隣に置いていいものなどではない。少なくとも竜崎の認識ではそうであった。

 

ほ、欲しい

 

 思わず喉がごくりとなる。彼はいたって冷静さを装いながら、震える声色で店主に問いかけた。

 

「お、おっちゃん!これ売ってくれへんか?」

 

「いいですよ」

 

「売れないのは分かってる!でもこれはどうしても欲しいんや!!…へ?」

 

「ですから、別に良いですよ」

 

「…分かったで!さては値段をぼったくる気やな!!」

 

「10円で良いよ」

 

「なんやてっ!?!?」

 

 思わず腰を抜かす彼。頭どうかしてるんか!?と竜崎は声を荒げそうになってしまう。

 

 一方で店主からしてみれば彼の態度こそ理解出来なかった。たしかに格好良いカードだとは思うが、効果とやらも書いて無く、一見するとどこにでもあるような普通のカードだと思ったからだ。

 

 ストレージボックスにある以上は全てのカードは一律で10円である。故に10円を要求しただけなのだが…いかんせん、竜崎にとってはショックがでかすぎたようだ。腰を抜かして今にも床に倒れこみかねない彼は、声を荒げて問いかけた。

 

「う、嘘やないやろな!!ワイはほんまに10円しか払わんからな!?」

 

「えぇはい…別にそれで構いませんが…?」

 

 めまいがする、一体この店はなんなのだろうか。かつて自身が大枚をはたいて購入した幻にして魂のレアカードを、10円で再購入した彼は非常に複雑な心境を抱きながら再びカード漁りを再開した。

 

 図らずもこの店の最初の購入者となった竜崎は語る、あの日この店との出会いが自身のプロ決闘者としての再起の始まりであったと。

 

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