もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第10話

 土曜日昼時のがらんの堂は、実に騒がしい空気に包まれていた。古びた柱時計の針が、コチコチと音を立て時間を刻んでいる。外では太陽がサンサンと輝き、店内には強い日差しが差し込んでいる。

 

 その一角。木製のテーブルを挟んで、二人の決闘者(デュエリスト)が対峙していた。どうやら今まさに決闘(デュエル)をしている最中らしい。テーブルの上にはシャッフル済みの互いのデッキが並んでいる。

 

 一人は成人した男性、そしてもう一人は地元の小学生男子であった。成人の方の名は前田。プロデュエリストである彼の異名は【クラブタートルの前田】である。その名の通り彼のエースモンスターはクラブ・タートルであった。

 

 東日本選手権8位入賞という立派な戦績を残したこともある彼。これでも地元ではそこそこ名の知れたB級リーグのプロデュエリストでもあるのだ。地元では有数の、中堅実力者であると言えた。

 

 そんな彼は対戦相手である地元の小学生に対して、優しく注意を行った。

 

「おっと君、カードのドローを忘れているよ」

 

「え?…()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

()()()()()()()。さぁ早くドローしなさい」

 

 キョトンとした表情を浮かべる小学生。どうやら相手はよほどの初心者らしい。自身の先行だというのにカードをドローもしないでいきなり始めようとする小学生に対して、プロである彼は微笑ましげに笑みをうかべた。

 

 やれやれ本気で戦ったらこの子は泣いてしまうだろうな。なにせ自身のエースモンスターであるクラブ・タートルは非常に強力な儀式モンスターである。

 

 たとえ50ポイントとはいえ、あの武藤遊戯のエースモンスター【ブラックマジシャン】よりも高い攻撃力を持つモンスターである。そんなモンスターを出しては、この子はトラウマを植え付けられて泣いてしまうかもしれない。

 

 ならば先達として、プロとして優しく教導してあげようではないか。微笑ましい表情を浮かべながら目の前の小学生を見守る前田。その笑みは1分後には無表情に変わり、3分後には絶望した表情へと変わった。

 

 3分後、すっかりカードの盤面が出そろったその局面。眼前の少年の墓地はすっかり準備が整えられた後らしい。彼は一枚のモンスターカードを召喚すると、そのまま前田に対して攻撃を繰り出した。

 

「ワイトキングを召喚。攻撃力は9000です」

 

「は?」

 

「ワイトキングでアタック…何か出すカードはありますか?」

 

 その瞬間前田の思考が凍りついた。この少年は一体何を言っているんだと、否定したい気持ちでいっぱいであった。

 

攻撃力9000…?

 

あのブルーアイズ・ホワイトドラゴン3体分……?

 

 聞き間違いかと思った。むしろそうであってくれと願った。脳が理解を拒絶する。

 

 あの最弱と名高いワイトやらその関連カードを墓地へどんどんカードを送っていた時点でおかしな気はしていた。だがそれを、小学生であるが故のただのプレイミスであると判断しニコニコとそれを見守っていただけだった。

 

 意味が分からない。まだデュエルが始まって数ターンだというのに攻撃力9000という化け物を生み出せる彼という存在が、前田には理解できなかったのだ。膝が震える。彼は混乱しきった脳で、切り札であるカードを発動した。

 

「っ墓地のネクロガードナーの効果発動!その攻撃を無効化する!!」

 

「あっ、それダブル・アップ・チャンスを発動します。攻撃力は倍の18000になります」

 

「いちまんはっせん…??」

 

「あの…おじさんどうかしましたか」

 

 今度こそ恐怖する。あの最弱モンスター【ワイト】がブルーアイズ6体分の攻撃力を持っている??誰か冗談だと言ってくれ。その恐怖からか思わず手札のカードを取りこぼす前田。

 

 こんなのクラブ・タートルが7体いてもかなわないではないか。こんな底なしの攻撃力を持つ化け物など自身の生涯で見たこともなかった。心なしか『これもうダメっすわ』とばかりに肩をすくめるクラブ・タートルの幻影すらも見えてきてしまった前田。

 

 こんな化け物を生み出しておきながら、無邪気に問いかけてくる目の前の存在が恐ろしかった。なにか得体のしれない人外を相手しているような、そんな理解不能な恐怖がそこにはあった。

 

「う、うわぁあぁああああ!!!」

 

 前田はがたがたと立ち上がると、そのまま逃げるように「がらんの堂」を後にした。

 

 帰ろう、現実の世界へ。ここは魔境だ、妖怪か何かの巣窟なのだ。目の前に居る小学生は悪魔の手先なのだ。こんな化け物じみた小学生が無名である筈がない。きっと自分はタチの悪い夢を見ているのだ。

 

 地元へ帰れば愛すべき妻と、自分を慕う決闘者(デュエリスト)の卵たちがいるのだ。クラブ・タートルを場に出すだけで歓声をあげてくれる地元の観客達が居る、そんなあたたかな現実の世界へ帰ろう。

 

 奇声をあげながら店から走り去っていく前田の背中を常連である子供の視線がじっと見送っていた。

 

「あのおじさん初心者だろ?手加減してやれよ」

 

「先行なのにドロー引いても良いよだなんて…最近始めた人だったのかなぁ」

 

 首をかしげるユウタ。そんなユウタに対して同じく決闘者(デュエリスト)決闘(デュエル)をしていたコウキが声をかけた。どうやらそちらもあっという間に試合が片付いたらしい。先ほどまでコウキと決闘(デュエル)をしていたその対戦相手は呆然と店の天井を見あげているのであった。

 

「ところでそっちは?」

 

「ホープレイでボッコボコにしたらあのお兄さん白目むいちゃった。あの人も初心者だったのかな」

 

「あー隣で見てたけど、なんかエクシーズ召喚見て驚いてたね」

 

 視線を向けると白目をむいたまま天井を見上げるそのお兄さんがいた。それは随分と独特な服と髪色をした男だった。薄い緑色の頭髪をしたその男性は、自身のフィールドに召喚したサイコショッカーもデッキにしまえぬまま、呆然としていた。

 

 『ありえない…そんなはずは…』等とブツブツつぶやきながら焦点の合わぬ虚ろな目でたたずむその姿は非常にいたたまれなかった。

 

 ユウタは可哀そうなものを見るような視線で彼を見つめる。そんなユウタに対してコウキがそういえばと問いかけた。

 

「ところでさ、サイコショッカーとスキルドレインってどっちの効果が優先されるんだっけ?」

 

「そりゃ先に場に居た方が……いや、後から出した方だっけ?あれ?」

 

 コウキからの疑問に首をひねって考えてしまう。どちらも効果を無効化する効果だけれど罠とモンスター効果で違いがあって…いやあるのか?そんなややこしい場面に遭遇したら自分では複雑すぎてその後の処理を考えられない。

 

 うーんと考え込むユウタに対してコウキが陽気に声をかけた。

 

「…ま、どっちでもいっか! そろそろサッカーやろうぜ!」

 

「おっけー、ボール持ってくるね!」

 

 少年たちはあっという間にカードの事など忘れてしまう。次の瞬間、まるで何事もなかったかのように店外へと元気に駆け出していくのであった。穏やかな午後の日差しが、彼らの背中をそっと照らし続ける。

 

 サッカーをしようと野原へ駆けていく少年たちの背後で、エスパー絽場が白目をむきながらゆっくりと気絶した。




【ダブル・アップ・チャンス】
速攻魔法
(1):モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスター1体を対象として発動できる。
このバトルフェイズ中、そのモンスターはもう1度攻撃できる。
この効果でそのモンスターが攻撃するダメージステップの間、そのモンスターの攻撃力は倍になる。

~~~~~

【クラブ・タートル】
初期バニラ儀式モンスター
攻撃力2550で効果は何も持たない
検索したら一発で「あいつかぁ…」と分かります
なぜだか当時の子供達の印象に残っているモンスター
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