もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第12話

 デュエルアカデミアは知る人ぞ知る名門校である。そこは日夜多くの学生たちが日々DMの勉学に励む絶海の孤島。そこに常設されたオシリスレッドの寮、その一室に三沢達三人は集まっていた。

 

 小さな電球が男所帯の一室を照らしている。部屋の中央にちんまりと作られたちゃぶ台の傍で、丸藤翔は感激の悲鳴を上げるのであった。

 

「うわーっ、ありがとう!感激だー!!」

 

 目を輝かせながら跳ねるように喜ぶ翔。手にはあの【ブラックマジシャンガール】と書かれたカードが握られていた。

 

 あのブラックマジシャンガールである。伝説のデュエリスト武藤遊戯が好んで使うとされているあの伝説のアイドルカード、しかもそのイラスト違いというのだからその価値は計り知れないだろう。

 

 その見た目から熱心なファンが世界中に居るとされる、紛れもなく最高峰のアイドルカード。このカードをこの世界で入手するには冗談抜きで札束の山が幾つも必要になるであろう。翔は涙を浮かべながら三沢に対して問いかけた。

 

「こ、こんなレアカード本当にいいの!?」

 

「あぁ良いよ…安かったしね」

 

「一生恩に着るよぉ!僕にできる事があったら何でも言ってよね!」

 

「あはは…」

 

 愛おしげにカードを見つめる翔。彼は感極まってカードにキスをし始める始末だった。もう死んでも構わない、そう思える位には幸せ真っ只中の様子のようだ。

 

 本当はそのカードは500円で買ったのだが…まぁそんな事は彼に言う必要もないだろう。翔の様子をよそに三沢はきょろきょろと周囲を見回すのであった。

 

「所で十代はどこに…?」

 

「兄貴なら今医務室だよ」

 

「医務室?」

 

「万丈目君とかつ丼大食いバトルをやって、食べ過ぎで医務室に運ばれてったんだな」

 

「そ、そうか」

 

 カードに頬ずりをしている翔、そんな彼の隣に腰かけていた前田隼人が答える。大食いバトルとか子供じゃないんだから…彼からの馬鹿げた返答に三沢はひきつった笑みをうかべた。

 

 出来ればこのカードについて十代の意見も聞きたかった所であるのだが、事情が事情だけに仕方ない。三沢はカードの束からとある一枚のカードを取り出して、その場にいる二人に見せるのであった。

 

「実は二人に聞きたいことがある」

 

「聞きたい事?」

 

「率直に聞く。このカードの使い方について知らないか」

 

 そういって一枚のカードを同室に居た翔と隼人に見せる三沢。

 

 それはモンスターカードらしきものであった。攻撃力が書かれており、効果らしきものが書かれたそれ。おそらくはきっとそうに違いない。

 

 『おそらく』という枕言葉がつくのは、それが既存のカードと決定的に異なる部分があったからだ。その鮮青色のカードを手にした翔は戸惑い交じりにつぶやいた。

 

「これって儀式カードじゃないの?」

 

「いや、ちょっと待って欲しいんだな。儀式カードにしては、枠の色が違う気がするんだな…」

 

「あっ本当だ。でも見たことない青色だなぁ」

 

 首をひねって悩む彼ら。確かにその通りなのだ。それは通常の儀式カードよりも青が濃く、独特の光沢があった。背景には独特の模様がありカードイラストには幾つもの矢印が向いているのだ。そしてなにより、カードテキストに書かれた単語が彼らの思考をさらに悩ませる。

 

「リンク…リンクってなんだろ?」

 

 その場にいる全員が抱いていた悩みを、翔が代表して言葉に放つ。三名の男子たちは顔を見合わせながら首をかしげた。「リンク」聞き慣れないその単語は、彼らがここデュエルアカデミアで学んできたどれにも該当しなかった。

 

 考えられるのは種族であろうか。リンク族といえば聞こえはいいし、存在するのかもしれない。いや或いはリンクという名前のテーマやカテゴリだろうか?カードデザイナーを志望している隼人は、一風変わった視点から指摘をした。

 

「このモンスターレベルもない…本当に意味が分からないんだな」

 

「あっ本当だ!でもじゃあどうやって召喚するんだろ…」

 

「やっぱり儀式…いやでもこの矢印の意味が分からないんだな」

 

「でもかわいいカードだね~」

 

 でへへ~とカードを見つめながら緩やかな笑みをこぼす翔。確かにそのカードに書かれたカードは可愛らしかった。

 

 そのモンスターは緑色の頭髪をした彼女は愛らしく髪を二つに結んでいる。草原の中で笑みをうかべる彼女の姿は絵画モデルにしたい位に美しい。地属性にして植物族である彼女は、あらゆる生命を魅惑する魔性の生物である。そんな彼女の名は…

 

「可愛いよねぇこの【()()()()()()】ってカード」

 

「確かに可愛いんだな」

 

「攻撃力は800で弱いけど…この可愛さの前ならもうどうでもいいやぁ」

 

 デレデレと笑みをうかべる丸藤翔。いや、本当に可愛らしい。ブラックマジシャンガールの次位には可愛いかもしれないなぁ。そんな事を思いながらにやにやとカードを見つめる彼に対して、三沢は苦笑を浮かべつつも真剣な面持ちで言った。

 

「最近、俺が蟲惑魔(こわくま)を使い始めたのを知ってるだろう?」

 

「決闘もバリバリ勝ってるよね。この間はオベリスクブルーの生徒にも圧勝してたし」

 

「だがまだ全開ではない。俺が思うにこの青いカード…は恐らくは蟲惑魔(こわくま)テーマの中核だと思うんだ」

 

「キーカードって事?」

 

「これら青いカードが使いこなせなければ彼女達【蟲惑魔】の真価は発揮できないと俺は睨んでいる」

 

「えーでも攻撃力800であんまり強くなさそうだけど…」

 

「だが効果は強力だ。ほら、モンスターと罠カードを一枚でサーチできると書いてあるだろう」

 

「うーんでも【()()()()】ってあの【()()()()】でしょう?正直それだけじゃあんまり強そうには…」

 

 翔が脳内で思いつくのはあの有名なカードである。落とし穴は召喚/反転召喚した攻撃力1000以上のモンスターを破壊する事ができる汎用罠カードである。

 

 弱くはもちろんないのだが、それ1枚をサーチできるだけではあまり強そうに思えないというのが正直な所だった。強さに疑問を抱く翔に対して隼人がいや待ったと声をかけた。

 

「落とし穴は落とし穴だけじゃないんだな」

 

「どういう事?」

 

「奈落の落とし穴もあるんだな。あれも一応は【()()()()】なんだな」

 

「あっそうか…じゃあその2枚をサーチできるって事?」

 

「もしかしたら俺たちが知らないだけでもっと落とし穴系列のカードがあるのかも」

 

「うーん…なるほど…?」

 

 頭の中で疑問符を浮かべる翔。それでもやっぱりあまり強そうな効果には思えないが…。うーんうーんとうなりをあげて悩み続ける翔の隣で、隼人がカードテキストを眺めがら疑問を浮かべた。

 

「やっぱり儀式魔法みたいに専用カードがあるのかも」

 

「それかX(エックス)召喚って奴かもしれないんだな」

 

「「X(エックス)召喚?」」

 

 隼人の言葉に思わず聞き返す翔と三沢。そんな彼らに対し、隼人は自身の机からとある物を取り出した。それは一冊の週刊誌であった。その表紙には【X(エックス)召喚の謎に迫る!】と書かれていた。

 

 レベッカ・ホプキンスが提唱した新たなる革命的な召喚法がある事を取材班が突き止めたとの事。それはカードの柄が通常の色とは異なりこれまでとは一線を画す召喚技法であるらしい。

 

 取材班はこれを便宜上X(エックス)召喚と呼称した。レベッカ・ホプキンスが海馬コーポレーションに頻繁に出入りしている様子を捉えたときの写真が雑誌には同時に掲載されていた。

 

 雑誌をふむふむと読んでいた翔はうげーとばかりに苦い顔をした。

 

「…ってこれ週刊誌のゴシップ記事じゃない!デマ情報なんじゃないかなぁ」

 

「でもあながち馬鹿には出来なさそうだ。カードの色が違う、従来とは一線を画す召喚方法…この情報だけなら該当する部分も多い」

 

「じゃあこの青いカードはそのX(エックス)召喚っていうのが関係しているって事?」

 

「もし噂が本当なら、近々公式から発表もあるかもしれないんだな」

 

 隼人は一人頷きながら雑誌を蒼いカードを見比べる。三沢は沈黙したまま考え込んだ。なんとかしてこの青いカードである未知の蟲惑魔(こわくま)たちをいかしてやりたい。だがデュエルディスクにセットしても一切反応がないのだ。

 

 「蟲惑魔」モンスター1体をリリースしても勿論、うんともすんとも言わなかったのだ。考え得る限りあらゆる方法を試したのだが、結局使い方が分からなかった。三沢はちゃぶ台の下で足を組み替えながら、翔に対してずいと迫った。

 

「さっきのブラックマジシャンガールの代わりと言ってはなんだが…君のお兄さんの伝手を頼らせてくれないか」

 

「伝手って…」

 

「人脈だ。きっとカードの知識が豊富な知り合いも多いだろう?」

 

「うーん聞くだけなら…でもあの人が知ってるかまでは知らないよ?」

 

「それでもいい。サイバー流の伝手は俺にはないからな」

 

「自分もネットのデザイナー友達に聞いてみるんだな。このカード、写真を取っても大丈夫かな?」

 

「ありがとう、お願いするよ」

 

 そういってお願いをする三沢。学生である自身はこうして、少しでも人づてに情報を集めるしかないだろう。インターネットを探してもそれらしき情報が一切出てこないのだ。どうすれば、どうすれば彼女たちを活かしてあげられるのか。

 

 最近になって決闘に安定して勝てるようになってきたのだ。彼女たちの効果は強く、落とし穴を安定してサーチできる事から、相手の強力なモンスターを無力化する事ができるようになったのだ。

 

 「今はこのカードが欲しい」「次にこのカードを引きたい」そんな無意識下での願望が叶う頻度が明らかに増えたのだ。デッキとの相性も良いらしい。こういった事象をデッキに愛されると、この学園の生徒たちは表現した。

 

 これまで自身の人生でそのようなドロー力に恵まれた事など少なかった三沢。デッキの不思議なパワーだなんてオカルトに頼るつもりはないが…それでもこのカード達が生きているような不思議な感覚を覚えるようになったのだ。

 

 なんとかしてそんなデッキの想いに応えたい。三沢は今日も、徹夜してカードの秘密へ迫るのであった。

 

 そんな彼らの背後では、その見えない存在――精霊たちがざわめいていた。【()()()()()()()】と呼ばれる一人の精霊が指を鳴らして惜しんだ。

 

『あーん、おしい!絶妙にかみ合ってないこの会話がもどかしいなぁ』

 

 頭をかきむしる。あの店に居たときは一瞬だけ、こちらの声が聞こえたような仕草をしていたのに!こちらの世界に渡ってからうんともすんとも言わないのだ。

 

 もどかしい思いを感じるランカに対して、同じく蟲惑魔たる【ティオの蟲惑魔】が肩をすくめながら答えるのであった。

 

『リンク召喚が使えないと私たちの戦力が激減だもんねぇ~』

 

『うーん、歯がゆい!』

 

『てかエクシーズもリンクも使えない私達って…ぶっちゃけ存在価値あるのかな』

 

 肩を落としてため息をつくティオ。そう蟲惑魔の大部分はリンクとエクシーズにある。というかそれらがないとデッキパワーがあまりに不足しているのだ。セラの蟲惑魔によってデッキ全体を回し、フレシアの蟲惑魔によって強力な罠カードを汎用的に駆使する。

 

 そもそもアティプスの蟲惑魔が居ない自分たちでは攻撃力の打点そのものが低すぎるのだ。パワー至上主義のこのデュエルアカデミアには脳筋決闘者が多いからまだいいが、こんな戦い方ではいずれ無理が出てしまう。

 

 ティオはいまだにあーだこうだと答えの出ない議論を続けるご主人様の背中。そんな彼の背に自身の背中を押し付けながら、体育座りをして大きくため息をついた。

 

『エクシーズもリンクも使えない私達なんて、カレーライスからカレーを抜いたようなもんじゃん』

 

『大丈夫!向こうもカレー(エクシーズとリンク)使えないから!』

 

『何も慰めになっていない…』

 

『この学校の人たちって攻守ステータスしか見ないよね…伏せカード警戒とか全然しないから楽でいいし』

 

『でもそんなのいつまでも続かないよ…この人と意思疎通とか出来ないの?』

 

 ティオがランカにそう聞くと、彼女は無言で首を横に振った。どうやら声が聞こえたのはあの古本屋でのほんのひと時の間の事だったらしい。

 

 思えばあの古本屋は恐ろしい異常地帯だった。世界の壁…時空が歪にねじ曲がり、もはや特異点と化していたのだ。ランカを始め、何体かの精霊たちも精霊界に出現したこの異常に気が付いた。

 

 世界の壁に空いたほんの小さなほころび、興味本位で近づいた先が例の古ぼけた古本屋であったのだ。どうやらその古本屋の世界はあまりにも神秘が薄いらしい。

 

 結局古本屋以外には中々行けなかったがそれでも分かることは多かった。居心地が良いその空間。数こそ少ないが、幾つかの精霊たちもあの古本屋のカードに取りつき始めた様子であった。

 

 ランカの蟲惑魔もそうした精霊の一人であった。声が届くくらいには相性が良い決闘者を見つけた彼女は、そのまま三沢のカードに入り込む。そのまま主人との魂のつながりを深め、同胞である他の蟲惑魔達をこのデュエルアカデミアがある世界へと呼び込んだのだ。

 

 とまぁここまでは良かったのだが…そこから先が中々上手くいかないのであった。魂のつながりが薄いのか、声も届いていないのが現状であった。あの古本屋では一瞬だけ声が届いた気がしたのだが何か条件でもあるのだろうか。

 

 自分を、自分たちを選んでくれた大事な主人だ。出来ればその想いに報いたいのだが…。会話の一つも出来れば楽しいだろうにな、だなんて事をぽつぽつと考える。ランカもまた男子寮の天井を見あげながらぽつりとつぶやいた。

 

『あの店やばい精霊も居たけど大丈夫かなぁ…まぁ平気か』 

 

『え…それ大丈夫なの?』

 

『まぁこっちには実害ないし良いでしょ。向こうの世界じゃ知らないけど』

 

 精霊二人が会話する。答えは背中、すぐそばに在るというのに一向に三沢は気が付く様子がない。まさか自身の背後で2人もの精霊が宿っている等と露にも思わない彼とその友人達はそのまま的外れな議論を続けるのであった。

 

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