もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第13話

 ジャベリンビートル笹塚といえば、地元では名の知れたプロデュエリストであった。そんな彼がこの古本屋を訪れたのは同胞のかたき討ちの為であった。

 

 あの【クラブタートル前田】を倒した猛者がいると聞き、急ぎ駆けつけてきたのだ。なんでも彼を倒した決闘者はあの最弱と名高いワイト使いの子供というではないか。

 

 かつて儀式モンスター四天王と言われた自分たちは、そこそこ腕が立つ中堅集団である事を自負している。そんな岡田が子供に倒されたという謎を笹塚は突き止めたくこの古本屋へ来たのである。

 

 土曜日昼時の「がらんの堂」は、実に騒がしい空気に包まれていた。古びた本がぎっしりと詰まった棚が幾つも並び、古本特有の独特の香りを漂わせている。外では太陽が強く輝き、店内には眩い日差しが差し込んでいる。

 

 店内の隅で木製のテーブルを挟みつつ、二人の決闘者(デュエリスト)が対峙していた。どうやら今まさに決闘(デュエル)をしている最中らしい。テーブルの上にはシャッフル済みの互いのデッキが並んでいる。

 

 一人は成人した男性、そしてもう一人は地元の小学生男子であった。成人男性の方の名は笹塚。プロデュエリストである彼の異名は【ジャベリンビートル笹塚】である。その名の通り彼のエースモンスターはジャベリンビートルであった。

 

 西日本選手権6位入賞という立派な戦績を残したこともある彼。これでも地元ではそこそこ名の知れたプロデュエリストでもあるのだ。地元では有数の、中堅実力者であると言えた。

 

 自身のエースモンスターはジャベリンビートルである。あの武藤遊戯が持ち、悪魔系モンスターカードの中でもベスト5に名を連ねるレアカードでもある【デーモンの召喚】そんな伝説モンスターに匹敵するような強力な儀式モンスターである。(50ポイントだけ僅かに劣るが)

 

 だがどうやら外れだったらしい。目の前の少年は一向にワイトを出す様子がなかった。早く次なる本命に出会いたいものだ。

 

 どうやら対戦相手はかなりの初心者らしい。王立魔法図書館というマイナーなモンスターを使用しているようだった。そこから更に【折れ竹光】という装備魔法カードを発動した小学生。そんな彼は対戦相手である地元の小学生に対して、優しく指導をした。

 

「おっと君、その魔法カードは意味がないよ」

 

「え?」

 

「その魔法カードは攻撃力を0ポイントアップさせると書いているだろう?だからモンスターに装備させても何も意味はないんだよ」

 

「え…そんな事分かってますけど…」

 

「?」

 

「?」

 

何を言ってるんだこの人は

   という表情を浮かべる小学生

 

何を言ってるんだこの子供は

   という表情を浮かべる笹塚

 

【折れ竹光】

①:装備モンスターの攻撃力は0アップする。

 

 いや…意味ないだろう。0ポイントアップという事はつまり0ポイントアップという事なのだ。

 

 毒にも薬にもならないこのカードは、もはやその存在意義すら危うい。というか何のために存在しているのか、プロである笹塚すらも分からなかった。

 

 まぁ意味不明なカードなんて山ほどあるのがDMである。互いに行動に首をかしげながらも決闘は更に進んでいくのであった。少年が出した次なる魔法カードに、彼は首をかしげた。

 

「成金ゴブリンだなんて魔法カードを使っているんだね」

 

「強いカードですよね」

 

「いや、弱い部類のカードだろう」

 

「??」

 

「??」

 

何を言ってるんだこの人は

   という表情を浮かべる小学生

 

何を言ってるんだこの子供は

   という表情を浮かべる笹塚

 

 成金ゴブリン。それは相手を1000ライフポイント回復させることでデッキからカードを1枚引くことが出来るカードだ。ライフポイントとは文字通り決闘者における生命線である。そんな命とも呼べる相手のライフポイントを1000も回復させた上に、出来る事はカードを1枚引く事だけとはなんたる事だ。笹塚の目から見ても弱いと言えるカードだ。

 

 というか強欲な壺でいいだろう。天使の施しや天よりの宝札でもいいだろ。なぜこれらのカードを使わないのだろうかと笹塚は怪訝な顔をした。そんな笹塚の疑問をよそに、少年は眼鏡を押し上げながら、笹塚に対して告げた。

 

「王立魔法図書館に魔力カウンターが2個載っています。効果発動まであと1個です」

 

「3個そろったらどうなるんだい?」

 

「デッキからカードを1枚引けます」

 

「いや…それって強欲な壺で良くないか?」

 

「???」

 

「???」

 

どうかしているのかこいつは

   という表情をうかべる小学生

 

何を言っているんだこの餓鬼は

   という表情を浮かべる笹塚

 

 いや、魔法カードを三枚も消費しておきながら出来る事はデッキからカードを1枚引けるだけ?強欲な壺ならその時点で2枚引けるだろ。天よりの宝札なら一度にもっと多い枚数引けるぞ。一体なぜそんな回りくどい事をしているのか、笹塚にはとても理解ができなかった。

 

 どうしてだろうか、先ほどから絶望的なまでに話が通じていない。そもそも人が親切に教えてやっているというのにどうしてそんな小生意気な態度を取るのだろうか。

 

 笹塚が何かを言うたびにどんどん小学生の顔が曇っていく。具体的には残念な奴を見る顔になっていくのだ。

 

 笹塚の目の前で小学生は我関せずとばかりに自身のカードをどんどん発動させていく。

 

 この子供どうにも素人臭いとしか思えない。先ほどから魔法カードを発動させるばかりで一向にモンスターを召喚する気配がないのだ。DMとはモンスターを召喚し、相手のライフポイントを削ることで勝利するゲームである。ならばモンスターを召喚しなければゲームが始まらないだろうに。

 

 いや、待て相手は子供なのだ。ここは大人でありプロでもある自分が寛容な心で接するべきだろう。自身の手札にはジャベリンビートルとその儀式魔法、そして生贄用のモンスターカードがある。更に手札にはその攻撃力を更に1000ポイントも増強する事が出来る強力な装備魔法【デーモンの斧】があるのだ。

 

 たった1ターンにして攻撃力3450ものモンスターを生み出せてしまうとは。やれやれ、自身のドロー(りょく)とデュエルタクティクスが我ながら恐ろしいものだ。目の前の小生意気なガキなどこれで一捻り出来るが、ここは大人として手加減でもしてやろうか。

 

 自身の手札にそろった最強の手駒を眺めながら自信たっぷりの笑みをうかべる笹塚。そんな笹塚をよそに、目の前の少年はただ黙々とカードを発動していくのであった。

 

「……」

 

「【二重召喚】を発動。2枚目の王立魔法図書館を出します」

 

「……」

 

「【黄金色の竹光】を発動。場に折れ竹光があるのでデッキからカードを2枚引きます」

 

「……」

 

「魔法カードを発動したことにより魔力カウンターが各王立魔法図書館に1個ずつ乗ります。カウンターが溜まったのでまたカードを1枚引きます」

 

「……」

 

というかやけに長くね?

 

 君ソリティアでもやってるの?と聞きたくなる位に1ターンが長い。待ってる間にトイレに行けそうな位に片方のターンが長い。それとやたら発動枚数が多すぎやしないか。どうして初期手札よりもはるかに場に発動されたカードの方が多いのだろうか。しかも一向にモンスターを出す気配がないし。

 

 もはやこちらをおちょくっているとしか思えない。イライラとした笹塚は内心で舌打ちをする。

 

 いかんいかん、相手は子供だ。きっとルールがよく分かっていないのだろう。笹塚はカードを手に、かぶりをふった。プロデュエリストたる自身が、彼のような初心者を優しく手ほどきしていくべきなのだ。今からでも遅くはない。このゲームはモンスターを召喚しなければ勝てないのだと彼に教えるべきだろう。

 

 子供を相手にする時特有の、大人としてのビジネススマイルを浮かべた笹塚。そんな彼の目の前で少年は無慈悲に宣言をした。

 

「あっ揃ったので僕の勝ちです」

 

「?」

 

「エクゾディアが揃ったので勝ちです。1ターンキルですね」

 

「??」

 

 お前は一体何を言っているんだ。そうして彼の手札を覗いた笹塚は…声をふるわせ絶叫した。

 

「はぁぁぁぁ!?え、ええエクゾディア!!?!?」

 

 椅子から転げ落ちる。腰を抜かすほど驚いた彼は口をわなわなと振るわせた。馬鹿な、ありえない!なぜあの伝説の【決闘王】武藤遊戯が持つあの伝説のレアカードをこんな餓鬼が持っているのだ。

 

 笹塚の心中ではエクゾードフレイムを放つ鬼神のようなエクゾディアが脳内ソリッドビジョンで事細かに再現されていた。

 

 いや待て、それ以上に驚くべき事がある。1ターンキル…?こちらに出番が回る前に決着がついただと…。そんな場面プロになった自身すらも経験したことがない未知の異常事態ではないか。笹塚は恐怖した。もし1ターンキルなどという物があるのならばそれはもう…誰も勝てないという事ではないか。

 

 あの海馬瀬人も、武藤遊戯すらも。誰であろうと何をすることも出来ないまま無慈悲に負けるしかないという事ではないか。こんな物が本当にDMであると言えるのか…

 

 ぶるぶると震えた手からカードが崩れ落ちた。地面に尻餅をついた笹塚を、少年が見下しながら穏やかに問いかけた。

 

どうします

もう一回やりますか

 

 きょとんと首をかしげて聞いてくる小学生。エクゾディアだなんて化け物を1ターンで生み出しておきながら、無邪気に問いかけてくる目の前の存在が恐ろしかった。なにか得体のしれない人外を相手しているような、そんな理解不能な恐怖がそこにはあった。

 

「う、うわぁあぁああああ!!!」

 

 笹塚はがたがたと立ち上がると、顔を伏せたまま逃げるように「がらんの堂」を後にした。

 

 帰ろう、現実の世界へ。地元へ帰れば愛すべき家族が待っている。モンスターに魔法カード【巨大化】を装備させるだけで無双できた、そんなあたたかな現実の世界へ帰ろう。

 

 奇声をあげながら店から走り去っていく笹塚の背中を常連である子供の視線がじっと見送っていた。

 

「お前…図書館エクゾは友達無くすからやめろって姉ちゃんに言われてたろ…」

 

「だって姉ちゃんがワクワクを思い出せって…」

 

「お前どこにワクワクを感じてんだよ」

 

 眼鏡をかけた少年の隣で、野球帽子をかぶった少年が声をかける。どうやら彼の方もあっという間に勝負は終わったようだ。白目をむいた大人の決闘者の眼前で、自身のデッキを手早くまとめている彼は眼鏡をかけた少年に問いかけた。

 

「そう言えば【一時休戦】と【ホーリーライフバリア】ってどう違うんだっけ」

 

「どっちも同じ効果でしょ。受けるダメージを0にするだし」

 

「どっちも一緒かぁ…まぁ良いや!そろそろあっちでドロケイやろうぜ!」

 

「僕が昔住んでた地域だとケイドロだったなぁ」

 

 少年たちはあっという間にカードの事など忘れてしまう。次の瞬間、まるで何事もなかったかのように店外へと駆け出していくのであった。穏やかな午後の日差しが、彼らの背中をそっと照らし続ける。

 

 ドロケイをしようと野原へ駆けていく少年たちの背後で、エスパー絽場が【人造人間-サイコ・レイヤー】とその関連カードを興奮しながら購入しようとしていた。




 図書館エクゾディア。王立魔法図書館という魔法カードを発動させる度にデッキからカードを引ける効果を主軸にしてとにかく魔法カードを大量に発動させ、1ターンでエクゾディアを揃える極悪デッキ。これもうソリティアだろ!と怒りたくなる位にはターンが長いです。

王立魔法図書館(レベル4のモンスター)

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。

(2):このカードの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

【子供が覚えた違和感について】

【折れ竹光】はテキスト的には何も意味がないが、魔法自体を発動させる事が目的だから問題ない。成金ゴブリンは1000LPなんて現代遊戯王の前ではあまり意味が無いレベル。そんな事より1枚でも多くカードを引く事が勝敗を分けるレベルでアドバンテージが高いです。

 強欲な壺や天使の施しもとっくの昔に禁止カード。公式戦なら使った時点で敗北(そもそもデッキに入れてはいけない)そんなカードを使えとかこのおじさんどうかしてるのか?というのが子供の抱いた感想。

 天よりの宝札は原作ではデッキからカードを6枚になるまで引くことが出来るチートカード。だがOCGではエラッタされ、【自分の手札・フィールドのカードを全て除外して漸く2枚になるようドローする事が出来るカード】に成り下がりました。

 
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