もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第14話

 夜もすっかり更けた深夜の時刻、海馬コーポレーションが所有する自社ビルがそこにはあった。その上層階のとある一室に、彼専用の執務室が存在する。その部屋の中で海馬モクバは椅子の上で大きくため息をついた。

 

 部屋の中の照明は薄暗く、パソコンモニターの特徴的な灯りが室内を照らしていた。モクバは両手で目元を覆い、ぼんやりと天井を見上げている。どうやら最近の労働の疲れがたたっているらしい。彼は再び大きくため息をついた。

 

 デスクに置かれたカップの中身はとっくに冷え切っている。そのすぐそばに置かれたモニターには【エクシーズ召喚候補リスト】なるファイルが開かれていた。そう、エクシーズである。

 

 彼が忙しくなった理由。それはこの【エクシーズ】なる新たな召喚方法のせいであった。レベッカ・ホプキンスが海馬コーポレーションに持ち込んだその召喚方法はモクバ達の度肝を抜く革命的な発想であった。

 

 モンスターのレベルを合わせる事で召喚可能となるその召喚方法。初心者でも理解しやすいほどに単純で、なおかつあらゆる戦術に生かせそうなその応用力。あらゆる場面にマッチさせられる汎用性を持った、まさに新時代の召喚方法であると言えた。

 

 だがそこからが大変だった。そのエクシーズ召喚に対応する為には、大量のエクシーズモンスターが必要となる。デザイナーにカードイラストを発注し、効果のバランスが良くなるようにカード調整をする日々。モクバ達はこうして連日残業続きをしているのであった。

 

 それでも彼が弱音も吐かずに頑張れるのは敬愛する自身の兄の為でもあった。彼は思い出す。自身の兄の様子が劇的に変わったあの一週間前の出来事を。その日モクバと共に街中でリムジンに乗っていた瀬人。彼は、運転手に命じて車を止めさせるのであった。

 

『どうかしたの、兄サマ?』

 

『……』

 

『…兄サマ?』

 

 不審に思い、そう兄に問いかけるものの瀬人は答えない。彼もまた釈然としないのか、少しだけ押し黙るとぽつりとつぶやいたのだ。

 

誰か自分を呼ぶ声がした、と

 

 そう言った兄は車から降りると、そのまま裏路地方面へと歩いていく。随分と薄汚れ、車も入れないような曲がりくねった道である。薄汚れた通路、淀んだ空気。いかにも不良がたまり場としそうな雰囲気である。

 

 自分だけなら絶対に通らないだろうな、だなんて事を考えながら無言で兄の後ろをついていくモクバ。すると彼らの目の前に一つの店が現れた。

 

『これは…カードショップ?』

 

 思わず首をかしげるモクバ。それは店というには随分とさびれた場所であった。古ぼけた外観の店の軒先にはうっそうと生い茂るツタが絡まっている。ぼろぼろの扉のドアを無言で開ける瀬人の後ろを、モクバは慌てて追いかけた。

 

 それは古ぼけたカードショップであった。店内にずっしりと並んだDMのカード達があったがそのどれもがパッとしない。

 

 小さなガラスケースに飾られたカードはカビが生えていそうな程に古く、弱い。モクバの目から見ても、あまり優良店とは言えないような随分とさびれた様子であった。

 

 ()()()()()()()はテレビを見ながらぼんやりと新聞を読んでいるのであった。瀬人は、無言で店にずらりと並んだ幾つものカード棚の中から、目当ての場所まで移動する。

 

 そのまま彼はカードが大量に詰め込まれた雑多なストレージボックスへ手を伸ばし…やがて一枚のカードを手に取った。まるで吸い寄せられるように、彼の手に収まったその一枚のカード。そのカードを手に取った瀬人は目を大きく見開いた。

 

 

【青き眼の乙女】

 

 

 カード名にそう記されていたそのカード。他とは身に纏う空気が違っていた。まるで何か底知れぬ何かが宿っているような…けれど同時に穏やかで暖かな気配すらも感じる。

 

 ただのノーマルカードであるはずのそのカードを見つめ続ける瀬人。彼がこのカードをどこで手に入れたのかと聞くと店主が新聞から顔をあげながら答えた

 

『前の持ち主が他の店で購入したらしくてのぅ。チューナーだなんだと書いていて物珍しいから買ったそうじゃ』

 

『へー』

 

『じゃが買ったは良いものの…攻撃力も効果も使えないってんでな。その客がワシの所に売りに来たんじゃよ』

 

 そういって再び新聞を読み始める店主。どうやらその持ち主とやらは随分と見る目が無かったらしい。確かに一見するとレベルは1で攻撃力も守備力も0のモンスターだが、その能力は非常に強力である。あのブルーアイズをこうまで簡単に呼び出せるとは。

 

 だがこの世に存在するブルーアイズは自身の兄が持つ、たった3枚のカードのみである。つまり実質兄の為にだけあるとすら言えるような特別なカードなのだ。その持ち主が結局このカードを売り払ったのも、ブルーアイズを持たぬ以上は猫に小判であるからだろう。

 

 まさか世の中にこんな相性の良いカードがあるとは。モクバは兄に対して笑顔で声をかけた。

 

『へーこんなカードがあるんだね!得したね兄サマ!』

 

『……』

 

『兄サマ?』

 

 その瞬間の兄の表情を、モクバはきっと生涯忘れないだろう。

 

優しく微笑んだ

 

弟であるモクバが見たことも無い程に、穏やかに笑みを浮かべたのであった

 

 

 まるで生き別れた大切な誰かに再会出来たかのような、そんな救われたような__とても優しい笑みだった。

 

 それ以来瀬人は変わった。いつだってクールで、けれどどこか張り詰めたような雰囲気を纏っていた瀬人。孤高のプライドを持っていた彼は、時折昔のように優しい笑みをうかべるようになったのだ。あの公園の砂場で夢を語ってくれた、あの時のような優しい彼。そんな彼に戻る瞬間が、ほんの僅かにだが増えたのだ。

 

 

 もう時刻はすっかり深夜となっていた。窓から夜景を眺めながら、モクバはカップの中身を勢いよく飲み干した。そのまま彼はパソコンモニターの前で頭を抱えた。

 

 兄が変わったこと自体は良い。とても素晴らしい事だ。だがそれ以上に悩みの種も増えてしまった。あの店でほかにも見つけた何種類もの未知のカード達である。そのカード達は海馬コーポレーションの方での販売実績がない、正真正銘のイレギュラーカードだったのだ。

 

 時を同じくしてレベッカから持ち掛けられた漆黒のカード達の謎といい、ここ最近のDM界隈は明らかに異常な流れがあった。そしてその源流を辿るとある一人の決闘者に行き着くのである。

 

 その決闘者は恐るべきDMの知識と、そして大量の未知にして謎のカード群を所有しているのだ。しかもその人物は自身の利益も殆ど顧みず、カードをばら撒いているとしか思えない謎の行動をとっているのだ。モクバは今度こそ、大きなため息をついた。

 

 

()()って一体誰なんだよ…」

 

 

 そう、メイである。その老人の元へカードを売った決闘者も。レベッカが漆黒のカードを購入した店の店主も、全員がその決闘者の話をしていたのである。

 

 

『店のカードは全部、()()が集め、管理している』

 

 

 その店の店主はそう語っていたらしい。少なくともレベッカはそう話していた。モクバもまたメイという名前の決闘者が居ないか探してみたが、これが痕跡一つ見つからなかったのだ。

 

 デュエルディスクには決闘者の情報やカード情報が保持される。ネットワークの回線を通して、その決闘者がいつ、どこで、どのようなカードを使用したかまで把握する事が可能なのである。だがデータベースに検索を行っても一向にメイなる決闘者が居なかったのである。

 

 正確にはメイという決闘者はいたがその誰もが対象外だったのだ。主に童実野町を拠点とし、エクシーズをはじめとしたあらゆる未知のカードを管理する謎の女性決闘者、だなんて情報はどこにも存在しなかったのだ。

 

 ましてやそのメイという女性がよく出入りするというカードショップも探してみたのだが、一向にそちらの存在も見つからない。

 

 彼女が懇意にしている販売店も見つからないのである。決闘者ごとに、たどり着くための道筋の証言が違うのだ。一緒に同行してどれだけ探しても一向に見つからないし、もう意味が分からない。

 

 そもそも一個人がなぜ海馬コーポレーションも把握していないような未知のカードを製造・販売できているのか。そもそも販売店にすらなぜたどり着けないのか。

 

 モクバはこれらの謎に頭を抱えた。メイなる謎の危険人物を野放しに等とても出来なかった。瀬人もまた、メイという決闘者を総力を挙げて探せと社員に命令しているが、一向に成果は出ていない。モクバは拳を握り締めながら小さく呟いた。

 

「絶対に見つけてやるからな…待ってろよメイ」

 

 モクバは決意を胸にする。そのままコーヒーディスペンサーへと向かい、その日何杯目かも分からないコーヒーの補充を行うと、パソコンの操作を再開するのであった。

 

 




*この店は古本「がらんの堂」とは一切関係がありません。
童実野町に存在するただの寂れたカードショップです。
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