もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら 作:葉隠 紅葉
それはローカルテレビ局で放送された番組の録画であった。映像の中には『世界不可思議ミステリー~幽霊に呪われた母娘~』なるテロップが流れている。
映像の中でカメラは静かに室内を映し出していた。真っ黒な背景に一つだけある椅子に座ったその女性。顔にはプライバシーが配慮されモザイクが掛けられている。
映像の中で彼女はインタビュアーからの問いに、ハンカチ片手に涙混じりに答えていた。
『では異変はその時から?』
『えぇ…娘がカードショップの前で突然変な事を言ったんです【誰か自分を呼ぶ声がする】だなんて…』
『そしてその店に入ったと?』
『はい。そこは古本とカードを売っているお店らしくて…遊戯王?というのでしょうか。そういったカードが沢山ありました』
『娘さんに言われてそれを購入したんですか?』
『えぇ、娘が一枚のカードを持ってきたんです』
そういって彼女が取り出しのは一枚のカードであった。それはモンスターカードという種類のカードであるらしい。四角い枠の中には、そのモンスターにまつわるイラストや効果などが描かれている。
【
カード名にそう記されたそのカード。どうやらカエルをモチーフとしたモンスターらしい。鬼という名称や毒々しい色づきから、確かに子供受けしにくそうなモンスターのように見受けられる。
遊戯王OCGとは長い歴史を持つ大人気カードゲームである。アニメ化・映画化までされており、子供から大人まで夢中になれる。そんな日本が生んだ大人気コンテンツなのである。
そんなカードゲームで一体何が起きたのだろうか。パイプ椅子に腰かけた彼女は語りを続けるのであった。
『もっとカッコ良いのや可愛い絵が描かれたカードにしたら?って聞いたら【この子が欲しい!僕を買ってと言ってるの】だなんて言い出して…」
『まるで生きているかのように言ってきたんですね』
『えぇ、それからなんです。あの子の様子が変わってしまったのが…』
嗚咽混じりに語り始める母親。それまでの娘は社交的で外で元気に遊ぶ子であったとの事。しかしこの出会いをきっかけに母娘の日常は変わってしまったらしい。
ずーっとカードを手にしているようになったのだ。そして虚空に向かって何事かを話しかけるようになったのだとか。いつしか彼女は外で遊ぶよりも、その虚空の誰かと話し続ける事を好むようになったとの事。
そこで映像は切り替わる。そこは小さな一室であった。椅子とテーブルが置かれただけの簡素な空間にその娘は居た。
Mという名の7歳児である彼女。椅子に腰かけて楽し気に足をぶらぶらと揺らす彼女は、インタビュアーからのお願いに無邪気に応えるのであった。
『それじゃあMちゃん、カードを引いてもらえるかな』
『うん、分かったー!』
彼女の前に置かれた遊戯王カード、40枚からなるというそのデッキ。デッキの山を拙い手つきでシャッフルしていく彼女。ゆっくりとカードを混ぜ終えると、彼女はそのまま出来上がった山札から5枚のカードを引いていく。
『いーち、にぃーい♪』
カードを一枚一枚、丁寧に引いていく彼女。やがて五枚のカードを取り終えると彼女はそのままインタビュアーに手札を見せるのであった。
その中には【
黄泉ガエル
魔知ガエル
貫ガエル
多くの種類のカエル達が含まれているそのカエルをテーマにしたデッキ。その中のカードを確認した番組スタッフは、彼女に向って軽く頷いた。
『ひけたよー』
『…ありがとう。それじゃあもう一回カードを引き直してもらえるかな」
『わかりましたー!』
そういってインタビュアーの指示でもう一度シャッフルを行う。1枚、2枚…再び5枚のカードを引く彼女。そのカードを確認すると…なんとそこには先ほど引いたカードと同じ【鬼ガエル】なる名称のカードがあるのであった。
もう一回、今度はインタビュアー自身がカードをシャッフルする。そして彼女に再びカードを引かせると…そこには再び【鬼ガエル】が存在した。
たとえ何枚混ぜても
何度切ろうとも
なぜか毎回そのカードが彼女の手札に来てしまうのだ
今度はADがカードをシャッフルする物の当然のように同じカードを引き当てる彼女。結局10人からなる別々の人間が10回カードをシャッフルしたが、彼女は必ず鬼ガエルのカードを引いた。
鬼ガエルのカードはこのデッキの中で1枚しか存在しない。幾ら5枚引くとはいえ、40枚のデッキからたった1枚のカードを引く確率。
しかもそれを10回連続で行うというのは 0.000000000931%である。約10億分の1の確率であった。その不可思議な現象に、我々スタッフは頭を抱えた。
『こういう事も出来るよ!』
『こういう事?』
『カエルさーん!今度は最初に来ないで!』
彼女は両手を合わせてカードに対してお願いをする。そういって再びADがシャッフルをしたデッキからカードを引くと…今度は鬼ガエルのカードが出てこなかった。
まるで彼女の呼び声に応えるかのように、自由自在に引くカードの調節が出来るらしい。ニコニコと楽しそうに引いた鬼ガエルのカードを見つめる彼女に対して問いかけた。
『どうして同じカードが毎回引けるの?』
インタビュアーがそう聞く。その言葉を聞いた彼女は心底不思議そうに首を傾けた。
『カエルさんがそこに居るのー!カエルさんにお願いすれば良いだけだよ』
そういって彼女は微笑んだ。まさか彼女には本当にカエルの幽霊が見えているのだろうか。再び場面は母親が居る一室へと戻る。母親は涙を流しながらその後の事を語った。
『私、気味が悪くなってカードを捨てたんです』
『例のカードを1枚捨てたんですか?』
『えぇ。ゴミ袋に包んで、家の前のごみ捨て場に捨てたんです。あの娘には悪いけどたかがカード一枚だしいいかなって…』
『なるほど』
『どうせすぐに忘れて、また元の社交的なあの子に戻ってくれるって…そう思っていたんです」
『Mちゃんはカードが無くなって大丈夫でしたか?』
『えぇ最初は泣いていました。【カエルさんがいなくなっちゃった】ってワンワン泣いて…けれどどうせ数日もしたら忘れるだろうし、これで良かったんだって思って…』
『……』
『そうしたらその日の夜…』
彼女の部屋からぶつぶつと会話をする声がするのだ。まさかと思いノックをする物の反応を示さない彼女。母親はゆっくりと扉を開けるとそこには…
あの子が
思わずゾッとした母親。背筋が恐怖で震え始める母親に対して、娘は振り向きながら笑顔で答えた。
『もー間違って捨てちゃだめだよママ』
『どう…して…』
『カエルさんが教えてくれたの。だから私が拾っておいたよ』
『…もういい加減にして!!』
『え…』
『カエルさんだなんていないの!ママをからかうのはもうやめてっ!!』
『…カエルさんなら居るよ?』
『どこにも居ないわ!変な事を言うのはもうやめて』
『今、
その言葉に絶叫のような悲鳴をあげた母親。彼女は両手で顔を覆い、嗚咽交じりに泣き崩れた。
この出来事以来、母親も幻聴が聞こえるようになったらしい。なんとありとあらゆる種類のカエルたちの声が、耳元で場所を選ばずするようになったとか。まるで幽霊に狙われたように、ゲコゲコと楽しそうに合唱を続ける呪いの声が…。
カエルさんがいっぱいで嬉しいね。そういって虚空に向けて一人再び会話をし始める娘を、母親は呆然と見つめるしかなかった。そこで映像は止まる。ナレータからの語りで番組は終わりを迎えるのであった。
「遊戯王というアニメには精霊という概念があります。もしかしたら彼女は本当に精霊に愛されているのかもしれませんね」
ナレーションはそう語り、呟くように番組は締めくくられた。そこまで見終えた姪は、リモコンを操作しHDDに録画されたその過去の番組映像をストップさせる。
不思議なこともあるものだなぁと思いながら、朝食のパンを食べ終えた彼女は一人考える。そういえば最近うちの店によく来るようになった
ならば【餅カエル】等もいいかもしれない。なにせあのカードはイラストが可愛い。禁止カードではあるが「こういうカエルさんも居るよ」程度にお勧めしてみるのも良いかもしれない。
珈琲が入ったカップを傾けながら、ぽつりぽつりと考え事をしていた彼女は、時計を見てあっと声をあげた。
「…もうこんな時間!学校行かなきゃ!」
そういって彼女は食べ終えた食器を台所で軽く洗うと、そのまま玄関へ急いで掛けていく。今日は学校終わりにおじさんの店に寄って行こうかな、だなんて事を考えながら勢いよく玄関のドアを開けるのであった。
やらせとまでは思わないが世の中には不思議な事もあるものだなぁと考えている。
M=美羽ちゃんとは欠片も思っていない。
最後に母親が聞こえた幻聴の元である複数のカエル達は、ガエルデッキに居る他のガエル達です。
ガエルデッキを組んでもらっていたので、鬼ガエルさんが「みんなーこっちこっちー!」と精霊界から呼んだのでしょう。
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【餅カエル】
世界一にも輝いた事のある最強のデッキ。その可愛らしいイラストとは裏腹に、効果がえげつない程強い。当時は環境を蹂躙したらしい。
精霊とのつながりが増えれば、このMちゃんもきっとディステニードローもわりと自在に出来るようになる事でしょう。(カエルデッキ限定で)