もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第16話

 場所は童実野(ドミノ)町。日もすっかりと沈みかけている夕方の公園に、ゴースト骨塚は居た。ブランコに孤独に腰かけオレンジ色に沈み行く夕陽を眺めながら、彼は悔し気な表情を浮かべていた。

 

「うぅ…」

 

 悔しさで手が震える。手に持っているのは自身の誇りでもあるデッキ。いや、最早誇りであったというべきだろうか。敗北続きの今となっては、とても自身のそれに誇りを抱くことなど出来なかった。

 

「……また、負けた」

 

 消え入りそうな程に小さな声でつぶやく。

 

 彼は今日も公式戦の予選大会で惨敗したのだ。1回戦に出場する事すら出来ぬまま、新人だという決闘者に無残に敗北した。

 

 これで一体何度目だろうか。負けて、敗北けて、その度に努力と呼べるような行為をしてきたつもりだ。それでも一向にトップとの差は縮まらなかった。最早足掻く程に自身の弱さを見せつけられる毎日だ。

 

 一体いつからこうなってしまったのだろうか。気が付けば多くの決闘者達から見向きもされなくなった。昔は格下だと見下していた城之内ですら、いまや決闘者の上位層である。

 

 かつて決闘王国で戦っていた過去は遠い昔。今はもうインフレに追いついていけないただの時代遅れであった。手に持った【マーダーサーカス】のカードに、彼の涙がぽつりと落ちた。

 

「こんなもの…こんなものぉ!!」

 

 勢いよくデッキを空中へとばらまく。そのまま彼は地面に倒れ泣き崩れるのであった。もはや男としてのプライドも無かった。ゴースト骨塚は地面に両膝をついてワンワンと泣き崩れた。

 

 あぁもう何もかもいやだ。決闘者でいる事すらも嫌になる。そんなことを考えてしまう自分が何よりも嫌いだ。

 

 自暴自棄になった彼はそのままぼろぼろと泣き崩れている。そんな彼に対して、一人の女子高生が手を差し伸べた。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

「これ、あなたのカードですよね。一緒に拾ってあげますね」

 

 そういって【マーダーサーカス】を手渡してくる女性。どうやら学校帰りの女学生らしい。ブレザーの制服に身を包んだ彼女は、そのまま骨塚に自身のハンカチを手渡した。

 

「あっ…」

 

「大事なカードですし、汚れたら大変ですよ」

 

 そう言ってほほ笑む女子学生。彼女は自身のカバンを公園のベンチに置くと、そのまま骨塚がばら撒いたDMのカードを一枚一枚拾っていくのであった。骨塚は慌てて彼女のそばへ行き、礼を言った。

 

「あの…ありがとう…」

 

「いいんですよ。お好きなんですか?デュエルモンスターズ」

 

 カードを拾いながら問いかけてくる彼女。そんな彼女の言葉に再びうるりときてしまった骨塚。目に涙を浮かべる成人男性を見て、彼女は驚きの声をあげた。

 

「うっ…うっ」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「俺…決闘が弱くて…いつまでたっても強くなれなくて…」

 

 そういって骨塚は涙交じりに自身の事を話し出す。公式戦で負け続け、大会では初戦突破すら出来ない。一向に決闘に勝てていない自分の弱さを、その心中を吐露し続ける。

 

 ベンチに腰かけたままみっともなく涙を流し続ける骨塚。もうかなりの時間話し続けていた事だろう。周囲はすっかり夜更けとなっていた。はっとした骨塚は謝罪をした。こんな決闘に勝てなくて泣いている、情けない男の話など聞きたくもないだろう。

 

 罰が悪そうに立ち上がりかけた彼の両手が、彼女の手によって取られた。え、と動揺する彼の眼前で彼女の両肩が震えている。彼女は熱のこもった声で骨塚に返事した。

 

「分かります!!」

 

「え?」

 

「私も同じ気持ちです!私も決闘で全然勝てなくて…」

 

「わ、分かってくれるの…?」

 

「マスターデュエルでやられるとうわー!ってなります。最近のDMはインフレが激しいんですよね」

 

「そ、そうなんだぞ!インフレが激しいんだ」

 

 うんうんと頷く。マスターデュエルとやらはよく分からなかったが同じ決闘者であるという事はよくわかった。骨塚はほんの少しだけ嬉しい気持ちになった。互いに負けが続く同士、交流を深めようではないか。

 

 決闘の内容が天と地ほど違うのだが、お互いその事も気が付かぬまま、ベンチの上で話し合う。たった一枚から驚異的なまでに展開してくる、もはや親の顔程見たデモンスミスのコンボの凶悪さについて熱の入った言葉で語ってくる彼女。

 

 そんな彼女の言っている内容はよく分からなかったが骨塚もまた理解したかのように頷く。今の環境やお互いのデッキの内容について語り合うと、彼女はおずおずと申し出た。

 

「あの…良ければお兄さんデッキ、見せてくれませんか?」

 

「え…」

 

「お困りの様子だったので。同じ決闘者として、何かアドバイス出来る事もあるかもしれませんから」

 

「う、うん…分かったぞ」

 

 そういってデッキを彼女に手渡す骨塚。正直言って気恥ずかしい。このデッキを見せて幻滅されやしないだろうかと恐る恐る手渡した骨塚。

 

 一方の彼女はデッキを大切に受け取ると、そのまま丁寧にめくっていった。一枚一枚、丁寧にめくっていく。少しづつ顔が曇っていく彼女の表情に、骨塚はごくりと生唾をのんだ。

 

 彼女からすればなぁにこれ?と思わず例の言葉が出てしまいそうになる。が、勿論その言葉をぐっとこらえる。

 

 人さまのデッキを見てそんな言葉を吐くのは失礼がすぎる、そんな事は初期表遊戯しか許されないだろう。

 

 一枚一枚、丁寧にカードを見ていく。それは現代遊戯王とはあまりにかけ離れたデッキであった。バニラ・バニラのオンパレード。時たま魔法や罠カードがあってもそれらは随分と古い。初期カード故のテキストの短さと効果の弱さであった。

 

 というかこれは弱いというか、あまりにも…。彼女は大量のバニラと初期効果モンスターで構成されたそのデッキを眺める。夜の公園の遊具から野良猫がのそのそと出ていく隣で、彼女は小さくつぶやいた。

 

「うーんあの人そっくりなデッキ…いや、というかそのもの?」

 

「ううぅ…」

 

 彼女の脳内ではもうゴースト使いで名高いかの決闘者のそれにしか思えなかった。いや、夜更けで暗いから彼の顔もあまりよく見えないのだが…よく見ると彼にそっくりな気も…。首をかしげて考えこむ彼女に対して彼は声を発した。

 

「正直に言ってくれていいんだぞ」

 

「まぁ…あまり強くは…その…」

 

「うぐ」

 

 彼女のあまりにも正直な言葉に胸を押さえる骨塚。思わずベンチの上で背を丸める彼に対して彼女は笑顔で応えた。

 

「じゃあ、私が手伝ってあげますね」

 

「……えっ?」

 

「私もDMが大好きなので、良ければ一緒に1からデッキを作ってみませんか?」

 

「…いいのか?」

 

「この道の先に私の叔父さんが経営している古本屋があるんです。そこならカードも置かせて貰っているので、一緒にデッキ構築を考えてあげますよ」

 

 笑顔でそう言ってくれる彼女の言葉に、骨塚は涙交じりに応えた。捨てる神あれば拾う神有りだ。こんな自分にここまで優しくしてくれる人が居たとは。骨塚は何度も頭を下げながら彼女に感謝を示した。

 

 周囲はすっかり暗くなっている。点きだした街灯の灯りを頼りに、彼女たちは叔父が経営しているという古本屋へ向かうのであった。

 

ーーーーーーーー

 

「それにしてもうちの近くにこんな公園あったかなぁ」

 

「え…なんの話?」

 

「あぁいやこっちの話です。大丈夫、お店自体はすぐそこですよ」

 

「う、うん…」

 

 きょろきょろと周囲を見渡す彼女。彼女は不思議そうに首をかしげる。骨塚からしてみればこの公園は童実野(ドミノ)町に古くから存在する有名な公園なのだが…。

 

 公園を背に、少しづつ歩んでいく彼ら。建物と建物の隙間、その小路を何個か通り過ぎると、そこには彼女の言う通り一軒の店があるのであった。

 

「あっありましたよ」

 

「うん…こんな所に古本屋なんてあったんだな」

 

「え?結構前からずっと営業してるらしいですけど…」

 

 互いに首をかしげ合う二人。まぁ何はともあれ目的地にはたどり着いた。振り向いた彼女はそういえば、と言わんばかりに声をあげた。

 

「お兄さんって好きなカテゴリとかテーマってありますか?」

 

「テーマ?」

 

「このデッキから察するとアンデット族ですかね?」

 

「う、うん…アンデット族が一番好きなんだぞ」

 

「うーん…だとすると…じゃあやっぱり…」

 

 ふむふむと考え込む彼女。街灯の下、少しばかり悩んだ彼女は、やっぱりこれだなとばかりに力強く頷いた。そのまま彼女は古本屋の扉に手をかけながら、骨塚に対して問いかけた。

 

「――エルドリッチって、興味あります?」

 

 

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