もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第17話

「ーーその出会いが、骨塚さんがアジアチャンピオンになったきっかけなんですね」

 

「そ、そうなんだぞ!じゃなくって…そうです…」

 

 テレビスタジオのセットの中に、ソファに腰かけた骨塚と女性インタビュアーがその場に居た。笑顔で問いかける彼女に対して骨塚は照れながらも同意する。

 

 どうやら大会優勝記念にインタビューされているようだ。大会優勝、それもアジアチャンピオンである。これまでの戦績から言っても考えられない位の飛躍であった。

 

 撮影セットの背景には、様々な花束が飾られている。多くのテレビカメラや番組局のスタッフ達に囲まれながら、骨塚はこれまでの日々を振り返る。

 

 これまで身に着けていたよれた衣服とは異なり、慣れないスーツ姿をした彼。骨塚は居心地悪そうに身じろぎをした。拵えられた巨大なボードには、骨塚のこれまでの戦歴が記されているのであった。

 

「特にこのエルドリッチというカード!こんなにも強力なカードがDMに存在していたなんて知りませんでしたわ」

 

「あはは…俺も知らなくって…」

 

「どうやって手に入れたかお聞きしても?」

 

「えっと…偶々ある人とご縁があって…」

 

 女性インタビュアーからの言葉に冷や汗交じりの彼。ボロを出さないかとヒヤヒヤな骨塚は、慣れない敬語で応える。

 

 ちなみにデッキ自体は姪が考案した【初心者用おすすめデッキセット】である。

 

 『小学生低学年でもその場で買って、直ぐに遊べるように』とのコンセプトから姪が一からデッキを組んだものだ。

 

 最近地元の小学生の弟や妹達がお店に遊びに来ることが増えた為、彼らが楽しく遊べるようにと姪が最近考案したものでもある。

 

 格好良いスターダストドラゴンや女の子が好みそうなドレミコードデッキの中にあった、そのうちのセットデッキの一つを骨塚が購入したという訳である。ちなみにデッキ購入後は姪と一緒にストレージボックスから強力なカードをカスタムしてもらったらしい。

 

 閑話休題。改めて骨塚は眼前のインタビューに集中するのであった。そのまま2、3度やり取りを繰り返し、女性からの言葉に苦笑いで彼は応えていく。

 

 やがて事前に想定した企画が終わると女性インタビュアーはカメラに向けて締めの言葉を言うのであった。

 

「ありがとうございました。次回お会いする時は世界チャンピオンかもしれませんね」

 

「が、頑張ります!」

 

「それでは次回は究極伝導恐獣(アルティメットコンダクターティラノ)をエースモンスターに起用し始めた、あの話題沸騰のダイナソー竜崎さんにお話をお伺いしたいと思います。次回もぜひお楽しみください」

 

 笑顔で手を振る彼女に釣られ、骨塚もまた慣れない笑顔で手を振る。録画はここでフェードアウトし、やがて番組の公開収録は終わるのであった。

 

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「カンパーイッ!!」

 

 乾いた音がホテルの一室で響いた。

 

 夕暮れのテレビ放送から数時間後、骨塚は二人の友人達と共にいた。自身に充てられたホテルの部屋の中で、骨塚は友人たちと祝杯をあげ始める。勢いよく中身を飲み干した彼らは、口元に泡を携えながらガハハと下品な笑い声をあげた。

 

 佐竹と高井戸。

 

 決闘王国の頃からのツレである。最早腐れ縁と言っても良い程の仲である彼らは、アジアチャンピオンになった骨塚の付き人という立ち位置で一躍有名人になっていた。

 

 体躯が大きく筋肉質な佐竹が高級ソファの上で踏ん反り返る。つまみとしてコンビニで購入した燻製チーズをつまみながら彼はつぶやいた。

 

「でもよぉエルドリッチって、すげーよな」

 

「あぁ毎ターン馬鹿みたいに蘇生しやがる。何回倒そうが関係なく墓地から復活だもんな」

 

「アンデット族ってあんなにも強かったんだな」

 

「というかエルドリッチがおかしいだけなんじゃねーのか」

 

「違いねーな」

 

 祝杯を上げ心地よくなった彼らはガハハと高笑いをした。そんな彼らの目の前で骨塚は何かを考え込むように黙ったまま炭酸ジュースが入ったコップを傾けている。そんな骨塚の様子を知ってか知らずか、彼らの会話はなおも盛り上がっていた。

 

「それにしてもそんな貴重なぶっ壊れカードを骨塚に渡すとはよぉ。一体その女はどういうつもりなんだろーな」

 

 眼鏡をかけた高井戸がいぶかしげに呟く。ソファの上で片膝を立てながら、一缶を飲み干した彼は、そのまま二本目の缶を開けるのであった。

 

「自分で戦えばあっという間にデュエルチャンピオンだろーに。その女は馬鹿だよなぁ」

 

「あるいは決闘(デュエル)が弱くて俺たちに託したとかな」

 

「ぎゃはは!どんな理屈だよ。まぁ精々美味しい汁を吸わせてもらおうじゃねーか…ありがてーありがてー」

 

「そんな言い方やめるんだゾ!」

 

 もう我慢ならないとばかりに立ち上がった骨塚。突如立ち上がった骨塚の様子に、二人の友人は驚いて目を見開いた。

 

「あの子は善意でカードを託してくれたんだ!その想いを馬鹿にするような言葉はやめるんだ!」

 

「お、おい…ただの冗談だって。あまり本気にするなよ」

 

 立ち上がった彼に対してなだめるように声をかける佐竹。祝賀会とはいえさすがに悪質だった。罰が悪そうに目線をそらす高井戸の隣で、佐竹は肩をすくめながら骨塚に話しかけた。

 

「でもよぉ高井戸の言う事も尤もだぜ。なんだってその女はお前にカードを渡したんだろうな」

 

「それは…過去になにかあったんだと思う」

 

「過去?」

 

「…あの子、悲しそうな顔してたんだ」

 

 再びソファに座りながら、ぽつりとつぶやく骨塚。彼はあの日の出来事を思い出す。共にデッキを構築し、エルドリッチの戦略を一から指導してくれたあまりに親切な彼女の姿。

 

 彼女はエルドリッチを手渡した際に非常に複雑な表情をしていた。こんな強そうなカードを貰っていいのかと問いかけてきた骨塚に対して、彼女は苦しそうに顔を歪めながらこう答えたのだ。

 

『いいんです…そのカードは私にとって、あまりに辛い思い出ばかりだから』

 

 そう言って彼女は悲しそうな、けれど少しだけ晴れやかな顔をしながら骨塚にこのカードを渡したのであった。

 

 正直言って未だに彼女の胸中、その想いは骨塚にもよく分かっていない。けれどこのカードに対して並々ならぬ思いを抱いている事はよく分かった。

 

 骨塚は力強くカードに触れる。彼女の託したこの熱き想いに応える為に。

 

 ちなみに姪が悲しそうな顔をしていたのは単にMDの過去があったからである。このぶっ壊れモンスターに煮え湯をリッター単位で飲まされまくった彼女にとっては【あまりに辛い思い出ばかり】のカードであったというだけだ。

 

 『カードに罪はないけれど自分では使いたくないなぁ…』な彼女にとって、使ってくれるならカードも嬉しいだろうな程度の気持ちで手渡しただけである。そんな事は露知らず、骨塚は言葉を続けた。

 

「あの子が言ってんだ。ブルーアイズとはうんざりするほど戦ったって」

 

「なんだって!?」

 

 骨塚の言葉に驚愕する高井戸。ブルーアイズを持っているのは海馬瀬人だけである、つまり彼女はあの海馬瀬人と何度も戦ったことがある程の高レベルの決闘者(デュエリスト)であるという事を意味する。

 

 予想以上に大物の名前が出たことで動揺した高井戸と佐竹。一体なぜ、そんな強い決闘者(デュエリスト)である彼女がこのエルドリッチなるカードを手放したのか。一体彼女と海馬瀬人の間で何が起きたのか。

 

何も分からない彼らは唯々困惑する。

 

 ちなみにこれも只の勘違いである。姪からすればMDで数え切れぬ程ブルーアイズと戦ったというだけであった。あのインチキじみた展開力やまっとうに強すぎる効果、あまりに豊富すぎるサポートカードに額の血管が切れそうになってつい愚痴ったというだけなのだが…

 

 もはや骨塚の脳内では、エルドリッチという強力なエースモンスターを手にして海馬級の決闘者(デュエリスト)と互角に戦っていた彼女。そんな彼女は何かしらの事情故にエルドリッチを手放さざるを得なくなった悲劇の決闘者(デュエリスト)であるというかなり拗れた図式が成り立っていた。

 

 あまりにずれた勘違いである。だが骨塚からすれば大まじめだ。だって理由が無ければこんな強すぎるカードを、見ず知らずの自分に対して託すこと等有り得ないのだから。

 

 骨塚は、自身のデッキを大切に握りしめながら、ぽつりとつぶやいた。

 

「なにか理由があるんだと思う」

 

「…」

 

「だからいつか…あの子に恩を返すんだ」

 

 その時持っていたお金を手渡し、何度も何度も感謝の言葉を述べた骨塚。いつか強い決闘者(デュエリスト)になってまた会いましょうねと言ってきた彼女に対して、胸を張ってまた会えるように。

 

 あれから骨塚は心を入れ替えて決闘(デュエル)に対して向き合うようになったのだ。エルドリッチの事を一から学び、弱い自分なりにどうすれば活かしてあげられるだろうかと必死に頭を悩ませ続けた。

 

 エルドリッチに頼り切りになるだけではだめだ。いつの日か、自分のフェイバリットカードでもある【マーダーサーカス】や【パンプキング】なども使ってあげたい。何よりも、いつの日か彼女にエルドリッチを返してもなお、強い自分で居られるようにと。

 

 そんな青臭い感情をごまかすように、ごくごくと喉を鳴らしながらコップの中身を体内へ流し込む骨塚。そんな彼に対して、高井戸が笑いながらからかった。

 

「さてはお前、その娘に惚れたな?」

 

「なっ!」

 

「なんだそうか。で、見た目はどんな子だ?」

 

「か、関係ないだろ!」

 

「アイドルみてーに可愛い子だったんだよな?」

 

「佐竹!?」

 

 からかう高井戸。思わずごまかした骨塚の隣で、佐竹は無情にも彼女の情報をばらしてしまう。

 

 いや、確かに可愛かった。背はすらりと高かったし、目鼻立ちの整ったあの容姿は、どこぞのアイドルのように愛らしかったのは確かだ。けれど自分が彼女を好きになったのはあの性格の良さである。

 

 決闘(デュエル)が大好きでこんな自分にも優しく接してくれたあの快活な性格に、ドキッとしたのは本音である。年下の女性にそんな思いを抱いてしまった骨塚は、思わず顔を赤くしてしまう。

 

 そんな彼に対して、高井戸は酔った勢いのまま骨塚の首に腕を回すのであった。

 

「可愛い子ちゃんに最強カードを貰ってチャンピオンになりましただぁ!てめー三文小説じゃねーんだぞ!」

 

「く、くるしぃ…」

 

「よーし!じゃあ次あったら告白してこいよ、アジアチャンプ様!後ろで見ててやらぁ!」

 

「た、助けてくれ佐竹…」

 

「ま、もし協力できる事があったら言ってくれよ。俺らも協力するぜ」

 

 からかってくる高井戸。背中をたたいて笑いながら応援してくる佐竹。そんな彼らに対して、骨塚はなんとも言えない表情をした。

 

 実はあれから彼女に何度もお礼を言おうと思ってあの古本屋を訪ねたのだが結局会えなかったのだ。

 

 というか店の位置、その存在そのものがあの時とは異なっていた。一体あの日の出来事は本当に現実だったのだろうか。まるで夢のような一夜の出来事。手にしたカードデッキのぬくもりだけが、あの日の出来事を担保する物であった。

 

いつか、いつの日か。

彼女にもう一度会いたい。

 

 そう願う骨塚。もう一生彼女と出会う事はないのだとも知らずに。彼らはこの日夜明けが来るまで散々飲み食いをし、祝い合うのであった。

 

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「でもよぉその子を疑う訳じゃねーけど…本当に決闘(デュエル)に強いのか?」

 

「いきなりどうした?」

 

 じゃんけんで負けた骨塚が追加で追加の買い出しに出かけている時に、高井戸が問いかけた。

 

「だってよ、結局その子に貰ったっていうこのカード…全く使えないじゃねーか」

 

「あー…」

 

「使い道のないカードを渡すってどういう意味なんだろうな」

 

 新しい缶あけながら、疑問の声をあげる高井戸。彼の手には二枚の黒いカードが握られていた。

 

 

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「いや、使い道は教えてもらったらしい。骨塚が言うにはわりと簡単らしいが」

 

「でもよぉデュエルディスクには一切反応なかったじゃねーか。そもそも黒いカードの存在なんて見たことも聞いたこともねーぞ?」

 

「俺が知るかよ。その子が渡したんだし何か意味があるんだろ」

 

「書いてある事はつえーんだけどな、使えないんじゃ意味ねーよな」

 

 そういってするめを咥えながら冷蔵庫へと向かう高井戸。テーブルの上に置かれたこの二枚含め、彼女がお勧めしてきたエクストラデッキのカード達が一体どれほどに強力なものなのか。

 

 彼らがそれを知るのは5日後。海馬コーポレーションが正式にエクシーズ召喚をお披露目するその時の事である。その効果のあまりの凶悪さに、高井戸は腰を抜かしてしまうのだが…それはまた後日の話である。

 




姪「やっぱりエルドリッチにはグスタフとリーベはマストだよね!あー良い事したなぁ」

決闘(デュエル)の神様『加減しろ馬鹿』
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