もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら 作:葉隠 紅葉
それはシルクのような金色の髪、美しく白い肌をした愛らしい美少女であった。光の加減によって輝くその髪、その姿に目を奪われた者はしばし言葉を失ってしまう。
きっと彼女は外国人なのであろう。彫りの深いその端正な顔立ち、澄んだ蒼い瞳をした彼女『レベッカ・ホプキンス』は、じっとカードコーナーの一角でカードを見つめていた。
「むむ…むむむ~…っ」
彼女の愛らしい顔には微かに汗がにじみ出ており、その繊細な眉は少しだけ寄せられている。もうあの姿勢のまま1時間は経つであろう。昨今のカード愛好者とはみなあぁいう物なのだろうか。
店長は古本の手入れを行いながら、ちらちらと横目で彼女の様子を観察する。普段は見かけないような客に興味を持ちながらも、仕事の手を休めることはない。
しかし、本当に可愛らしい女性だ。ほんの少しそばかすをしたその肌すらもがチャーミングな、控えめに言ってもかなりの美少女である。彼女が店内にいるだけで、さび付いた商店街の一角にあるこの古ぼけた古本屋の雰囲気も様変わりするというものだ。
漫画を買いに来た常連客の男子高校生の視線をちらとも気にしない彼女は、ただ一心にカードを見つめているのであった。
レベッカ・ホプキンスは本場アメリカのプロデュエリストである。彼女は休日を利用して、こうしてひっそりと例の古本屋を訪れているのであった。
そう、例の古本屋である。恐ろしく品ぞろえの良いカードショップがある、だなんて噂を聞いたのは何時の事であったろうか。なんでもそこには見たこともないようなレアカードばかりが置いてあるとの事ではないか。
彼女の好奇心はその話を聞いた瞬間に刺激され、居ても立っても居られなくなった。そう言われて興味を示さないのは、もはや決闘者とは言えまい。
レベッカもまた、こうして忙しい中、わざわざ飛行機を利用して日本まで飛び、
場所は…正直言って非常に複雑な場所にあった。似たような路地をいくつも通り、何往復もしてようやく「古本 がらんの堂」の看板が見えたときは、大きくため息をついたものだ。
何度も地図を確認し、迷子になりながらも、どうにかたどり着いた時の心境はもはや達成感よりも徒労感の方が大きかった。これでただのカードショップだったら承知しないぞと、噂元である友人たちの顔を思い浮かべながら店に入るレベッカ。
だが中に入るとその苦労もいつの間にか吹き飛んでしまう。
なるほど、確かにこの店は穴場の店だ。雑然とした店内には、ありとあらゆる種類のカードが所狭しと並べられており、その一つ一つが彼女の目を引いた。
店の雑然とした空間に散らばる、見たこともないテーマデッキやカードの数々。そのどれもが彼女の好奇心をくすぐるものばかりだった。彼女の心は、まるで宝探しをしているかのように弾んでいた。
プロデュエリストとして名を馳せる彼女でも、ここに並べられているカード達の多くを目にしたことも無かった。この店の品揃えは、信じられないほどに豊富だ。カード一枚一枚を手に取り、その効果やデザインをじっくりと観察する。ムムムと眉をひそめながら、必死にこのカード達を活躍させる戦術を思い浮かべる。
(増殖するG…これも強力なカード、3枚確保しておかなきゃ…)
(くず鉄のかかし…墓地には送られず再セット可能!?冗談でしょ!)
(あれ、これ…この2枚だけでえげつないコンボが完成しないかしら…?)
【魔導サイエンティスト】と【カタパルト・タートル】の2枚を手に持ちながら、冷や汗をかくレベッカ。
彼女はプロデュエリストとして、瞬時にそれらのカードに秘められたポテンシャルを見抜いてしまう。なるほど、ここは決闘者にとっての楽園だ。
なにせ見るものすべてが新鮮なのだ。
恐ろしく汎用性の高い魔法カード、強力なトラップカード、カードテキストが馬鹿みたいに長い効果モンスター。そのどれもがレベッカの興味を引いてやまない。彼女の心の中で、カード同士の組み合わせや戦略が次々に浮かび上がり、それをどう活かすかで頭がいっぱいになってしまう。
特に増殖するGを手に入れられたのは個人的にも大きかった。これからの時代はテーマに頼った特殊召喚が主体となるとプロデュエリストである彼女はにらんでいる。そんな時代に対して、出すだけで相手にけん制を強いる事が出来るこのカードは、きっと大いに有効的であろう。
時計の針がもう何周もしている中、彼女は無言で立ち尽くし考える。これらは非常に強力なカード達である、それは間違いない。
だが何よりも
あぁそうだ
何よりも興味を引かれてしまうのはこの2種類のカード達であった。
「白いカードと黒いカード…一体なんなのよコレ…?」
途方に暮れたようにため息をこぼすレベッカ。彼女が見つめるそのカードは、彼女にとってまったく知らない種類のカードであった。長年の経験を持つ彼女ですら、このカード達の存在は全く以て予想外だった。彼女が手に持っていたそのカードは、見たこともないデザインをしていた。
純白のカード
漆黒のカード
おそらくモンスターカードである…と思う。いや、事実それくらいしか分からないのだ。大量のカードたちの中からちらほらと見かけたそれらは、時には同じテーマであることを匂わせたり、時には全く異質なカードが付いていたりするのだ。
シンクロ
チューナー
エクシーズ
X素材
書いてあることの名称から、これらがキーワードであると思われる。だがそれだけだ、彼女は手にした《No.64 古狸三太夫》をレジ籠に入れながら夢中で考える。
彼女の知識と経験を駆使しても、これらのカードの全貌を完全に理解することは難しかった。
予想するに、この黒いカード名には共通してNo.(ナンバーズ)という名称がついているのだろう。つまりエクシーズ=ナンバーズであり、それらを補佐するサポートカードの存在。X素材なるものを補充する専用の魔法、罠カードがある…ということなのだろうか?
儀式魔法のように、召喚の為の専用カードが必要なのだろうか。そしてその後書かれたレベルのモンスター達を生贄に捧げる…?召喚条件が厳しい代わりに、強力な効果を持つ未知のカード達…
ゾクリと、思わず背筋が震えてしまう。幾らカードプールが果てしなく広大であるとはいえ何もかもが異なっているのだ。
色も、テキストもすべてが異質。
まるで未知の…それこそ触れてはならない禁忌の文明に触れてしまったかのようなこの感覚、信じていた常識が崩れてしまうような恐怖は筆舌に尽くしがたい。
彼女の中ではまだ謎が多かった。出来る事なら何日でも泊まり込みたい所だが、生憎と知人との約束の時間が差し迫っていた。この謎を絶対に解明してやる、彼女はそれらのカードを全て籠へしまいながら決意を胸にする。
少々後ろ髪をひかれる思いを抱きながらも、満足げな顔で彼女はレジへと向かうのであった。
「これ下さいな」
夢中になって考えながら、レベッカはカウンターに向かう。とにかくこれだけではとても足りない。時間が許す限り2回、3回とこの店に通って購入しなければならない。
いや、あまりに貴重なカードたちだ。まずは用事を済ませ、ホテルに戻ったならば厳重な鍵が付いたカード用のアタッシュケースも購入するべきだろう。
頭の中で今後の予定について考えていると、目の前の店主が申し訳なさそうに言葉を紡いだ。
「あの…ごめんなさいお客さん」
「どうしたのかしら?」
「うちは一度の購入で20枚までなんですよ。購入枚数が多すぎるので向こうで減らして来てくださいね」
「What!?」
レベッカが悲鳴をあげる。そんな彼女に対して店主は申し訳なさげに後ろの張り紙を指さした。なるほど、確かにそこには【お一人様1回の購入で20枚まで】と書かれていた。
彼女の中にある未知への期待感が一気に消え、思わず笑みが引きつってしまう。プロデュエリストとしての冷静さを保とうとするが、その額には大粒の汗が浮かんでいた。
「最近お客さんみたいな人が増えてましてねぇ。この度、購入制限させて頂くことになりまして…」
「~~~っ!!わ、分かったわ。ちょっと考え直すから待ってて…っ!」
目の前が暗くなる。彼女の中にあったはじけるような期待感が一気に萎んでいくのを感じた。
カードの山が目の前にあるのに、それを手にすることができないだなんて!その事実が彼女の心にどうしようも無く重くのしかかっていた。
「あぁ、どうしよう…」
レベッカは頭を抱えながら、いっぱいに詰め込まれたカードの山が詰まったレジ籠を床に置く。そりゃそうだ、これだけ強すぎるカードを無限に購入できるはずもない。
ここでごねても良いことは一つもない。最悪カードショップを出禁にでもなったらと思うと、あまりに恐ろしすぎる。決闘者とはカードショップの店員には逆らえない生き物なのだ。
彼女は苦しい表情を浮かべながら、そのままカード選別の作業に取り掛かるのであった。