もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第4話

あの関連カードだけは絶対に購入したい

 

 レベッカが手にもつレジ籠の中には未だに多くのカードが残されていた。だがしかし、彼女が選べるのはその中からたった20枚だけ。なんてもどかしいのだろうか。

 

 何十枚と抱えていた研究用の白いカードと黒いカードはひとまず放置し、例の関連カードを最優先で確保する事を決意する彼女。

 

あのテーマ

あれだけは別だ

 

 恐ろしく汎用性が高く、あらゆるシチュエーションに適応できるポテンシャル。カード除去能力に長けたあのテーマカードだけは絶対に購入しなければならない。それはもう決定事項だ。

 

 たとえ対戦相手がどのようなカテゴリのデッキを使おうが、問答無用で吹き飛ばせるだけの潜在能力を持つあのカード達は今後のプロデュエリストとしての日々には絶対に必要になる。彼女の中の第六感はそう告げていた。

 

「これを…このシナジーにはこっちを…」

 

 何度も何度もシミュレートをする。脳内でカード達を何枚も組み合わせ、仮想敵に対して戦術を組み立てる。

 

 うん、これも絶対に必要だ。無限泡影を無言でレジ籠に入れる彼女はなおも、選別を只ひたすらに行う。

 

 最終的に、彼女は何度も吟味した結果、最も重要だと思われるカードを20枚選び出す。レベッカは深呼吸をし、ざわついた気持ちを落ち着かせながら店主が待つレジ台へと向かった。

 

 そんな彼女に対して、店主は読んでいた本をレジ台に置きながら問いかけた。

 

「お客さんってカードに詳しいんですか?」

 

「え?」

 

「あぁいや…手帳をずっと眺めたり、腰に付けたカードとずっと見比べていた様子だったので…」

 

「あぁそういう事」

 

 店主の言葉に納得をするレベッカ。確かに自身のカバンに収めた手帳にはこれまでの対戦相手のデッキや戦術、その理論に対するメモが収められている。

 

 自身が全米チャンプとなったあの日から密かに書き続けているレベッカの大切な財産である。

 

 腰につけたホルダーも当然、愛用品である。デッキは自身の魂にも等しいのだから、大切に扱い常に持ち歩いているのだ。彼女はほんの少しだけ自慢げに、彼に対してこう答えた。

 

「まぁね。一応プロではあるわ」

 

「プロ!それは凄いですね!」

 

 素直に驚く店主。つけていたラジオの電源をそっと消すと、そのまま店主はレジ先から身を乗り出すようにして、彼女に対し質問を投げかけた。

 

「それじゃひとつ聞いても良いですか?僕も最近姪から色々解説されるんですがてんで分からなくって…」

 

「えぇなんでもどうぞ」

 

「DMっていうのはゴキブリが戦場に飛び交うゲームだって聞いたんですけど…これって本当ですか?」

 

「は?」

 

「ゴキブリと幽霊少女が必須でみんな持っているとか…」

 

「??」

 

 一体何を言っているんだ。

 

 店主の言葉に宇宙猫のような表情を浮かべてしまうレベッカ。なんでも姪から聞いた話では現代ではまずゴキブリと幽霊を出しあって、互いにけん制しあうのが定石だとか。

 

 というかこの2枚を持たないと話にならないレベルで、これらのカードが環境に広まっているらしい。一体どんなカードゲームだ?レベッカはその話の意味不明さに困惑する。

 

 ゴキブリと幽霊少女…なぜその二つが同列に出てくるのだろうか。

 

 いやまて、自身が購入したあのカードの効果も相手をけん制する為の物。まさか増殖するGの【G】とは…

 

 ここまで考えてかぶりをふるレベッカ。これ以上考えてはいけない事かもしれない。デュエルディスクのソリッド・ビジョンで再現するのがあまりに恐ろしくなってしまう。

 

 購入した【G】と名の付くあのカードをストレージボックスにたたき返したくなる衝動を必死で抑えている彼女に対して、店主はなおも言葉をつづけた。

 

「あと墓穴を指名されまくるゲームだとかなんとか…」

 

「ちょっと何を言っているのか分からないわ」

 

「ですよねぇ、僕も姪が何を言っているのかさっぱりで…」

 

「多分だけどそれ、DMじゃないと思うわよ?何か他のカードゲームでしょ」

 

「そうなのかなぁ…でもプロが仰るならそうなんでしょうね」

 

あっお会計済ませちゃいますね

 

 店主は苦笑しながら、彼女が持ってきたカードの枚数を確認する。どうやら、カードを数えている間の軽い雑談程度に話題をふったのだろう。

 

 少し話題の内容が意味不明すぎて気にかかったが…なにはともあれ目の前のカード達である。一つのカテゴリにしてはやたら属性が豊富なそのカテゴリ。勿論そのカテゴリを支える為のフィールド魔法も欠かさず購入済みである。

 

 会計を済ませた彼女は、無事に目当てのカードを手に入れたことに安堵しつつ、店を後にする。選ばなかったカードたちへの未練を残しつつも、彼女は満足げな笑みを浮かべた。

 

 あぁなんて清々しい気分なのだろう。まるで一つの重大な仕事を成し遂げたかのような満足感だ。

 

澄み渡る青空

 

遠くに響く電車の音

 

周囲でDM(デュエル・モンスターズ)に興じる子供たちの声

 

 全てが今の高揚した彼女の気分を彩ってくれる。あぁこの気持ちのまま愛しのダーリンに会いに行きたい気分だ。

 

 店に備え付けられた簡易テーブルにて、楽し気に決闘(デュエル)を行う小学生男子たちを横目に彼女はホクホクとした気分で童実野(ドミノ)町への帰路へとつくのであった。

 

 どうやらその小学生達はテーブルに腰かけて決闘(デュエル)を行っているようだ。今時デュエルディスクも用いないで決闘(デュエル)をしているのは珍しい。

 

 ふつうはソリッド・ビジョン有りの大迫力の決闘(デュエル)を楽しむ物だが…

 

 いや子供達のお小遣いではデュエルディスクを購入する事も出来ないのだろう。そう考えるとあながち変な光景でもないか。

 

 彼女はちらとテーブルの上を眺めながら、そのまま彼らの横を通り過ぎていき…

 

「俺のターン!レスキューラビット召喚!効果で大くしゃみのカバザウルスを2体特殊召喚!」

 

「?」

 

「2体でオーバーレイネットワークを構築!」

 

「!?!?」

 

「エクシーズモンスター【エヴォルカイザー・ラギア】を召喚!浩太にダイレクトアタックだ!!」

 

「ちょっと待って」

 

 (きびす)を、返す。レベッカは目の前で決闘(デュエル)を行う彼らのもとへ慌てて駆け寄った。駄菓子である裂きイカを咥えながら遊戯王カードを持っていた彼ら。

 

 そんな彼らは突如詰め寄ってきた金髪外国人のお姉さんの問いかけに対して、ドギマギしながら受け答えをする。降り注ぐ日差しが照らす、昼下がりの午後の出来事であった。

 

彼女が

世界が

 

 エクシーズという概念を知るまであと少し…

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