もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第5話

 放課後の静かな夕方、日はすでに随分と西に傾き、商店街からは走り込みをする運動部の学生達の声が響いている。当たり前のようにあるその橙色の光景に、つい本田ヒロトは目を奪われる。

 

 そんな場所を本田は歩いていた。童実野町をぶらりと探索していた彼は、いつからか自身が見たこともない店の前に居る事に、ほんの少しだけ違和感を覚えた。

 

はて、新しくできた店なのだろうか

その割には随分と年季が入っているが…

 

 肉屋で購入したコロッケを片手に、彼はふとした気まぐれからか目にした古本屋の看板をじっと眺める。

 

 『カード売ってい〼』と書かれた看板にほんの少しだけ興味をひかれた彼はコロッケを食べ終えると、そのままゆっくりと扉を押して中に入った。

 

 カランコロンと小気味良い音を奏でながら開かれる扉、古本特有の独特の香りが中から漂った。

 

 がらんの堂の内部は、外観以上に年代を感じさせるものであった。木の床は古びて軋み、壁には年代物のポスターや古書が所狭しと並んでいる。

 

 奥を見てみるとこの古本屋の店長であろうか。ラジオを付けながらうとうとと居眠りをしている彼をちらりと眺めながら、書棚の間を通り抜ける本田。

 

 すると店の奥の一角にカードコーナーがあるのが見えた。何度も何度も目にしてきたそれは、本田にとっても実になじみのある存在であった。

 

「おっDMじゃねーか」

 

 本田は笑みを浮かべながら、なんの気なしにストレージボックスへ手を伸ばす。カード自体に特に強い興味があった訳ではない。

 

 彼にはカードの価値はよく分からなかった。かつては親友でもある城之内にDM(デュエルモンスターズ)を教えていたこともあったが、あっという間に追い抜かれてしまったものだ。

 

 ちなみにすっかり有名になった城之内を指さしながら「あいつのDMの師匠は俺なんだぜ」と密かに自慢しているのは内緒の話である。過去の思い出を振り返りながらカードを手に取り、気まぐれにカード名を読んでみる本田。

 

「てつじゅうせんせん…?すいしょうきこう…?」

 

 なにやら小難しい漢字が並ぶカードに対して首をかしげる。そのまま彼は『鉄獣戦線(トライブリゲード)』『水晶機巧(クリストロン)』と書かれたカードをストレージボックスに戻していった。

 

 最近のカードはなにやら読み方も難しいな…

 

 そんな事をつらつらと思いながら気まぐれで手にしたカード達を眺めていく彼。

 

 こうしてみるとやっぱり彼にはDM(デュエルモンスターズ)の魅力が今一つ分からなかった。熱中する友人たちの事を思い、それを眺めて応援するのは実に楽しいのだが…自身がカードを手にして決闘をしたいかと言われれば悩んでしまう。

 

 やけに長く細かなテキストがびっしりと埋まった効果モンスターのテキスト欄を眺めながら、やはりそう思ってしまう彼。

 

「なんだこれ、ブルーアイズのパチモンか?」

 

 手にしたカードを手に持ちながらひょいと首をひねる。亜…と書かれているからきっとブルーアイズではないのだろう。

 

 そもそも【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)】というモンスターはあの海馬 瀬人が持つカード以外は存在しない、最上級のレアカードである。

 

 ならばやはりこれは偽物であろう。【()()()()()()】とかかれたモンスターカードをストレージボックスに戻しながらため息をつく本田。おいおいパチモンを置いているとかこの店大丈夫か?と思いながら店主を見る。

 

 店主はすっかり居眠りをしているようだった。ラジオから流れる歌謡曲をBGMに、すっかり夢の中である。よだれを垂らしながらレジ台につっぷす彼に背を向けながら本田はカード漁りを再開する。

 

「エフェクト・ヴェーラー…レベルは1で攻撃力も守備力も0ぉ?ずいぶん弱いカードだなぁ」

 

 美少女…いや美少年?なんとも中性的な姿をしたモンスターカードを手に持ちながらその存在意義に疑問を持ったり。

 

「何枚も墓地に送ったらその分デッキからひける可能性が低くなるよな?じゃあ逆効果なんじゃねーのか…?」

 

 隣の芝刈りと書かれたカードの効果に疑問を抱いたり。

 

「ユベル ダスアベスチェ…読めねーよ!しかもこいつも攻守0かよ!!」

 

 【ユベル-Das Abscheulich Ritter(ユベル-ダス・アプシェリッヒ・リッター)】と書かれたカードに至っては読むことすら出来ない。一体何語なのだろうか。しかもレベルがやたら高いわりに攻撃力も守備力も共に0である。

 

 スーパーエキスパートルールでは最上位のモンスターは召喚するのに2体か3体のモンスターが必要になるはずだ。ならばそれだけのモンスターを犠牲にし、やっとこさ召喚したモンスターが攻撃力0では一体どうやって戦えというのだろうか。

 

 素人の本田でもわかる。このカードは強くない。やたら長くて細かすぎるテキスト欄を読まなくたってその位の事は彼にもわかる。彼はこのカードも迷わずストレージボックスに戻しながら次のカードへと手を伸ばし…。

 

「っ!?」

 

ぎょっとしてしまう

見つけて、しまった

 

 何かの見間違いかと思い、何度も目をこする。いや、間違いない。このカードは本物だ。彼は手にしたカードの価値に思わず背筋が震えてしまった。【()()()()()()】と書かれたカードを手にジトリと本田は冷や汗をかく。

 

「攻撃力が…3500だと!?」

 

 その強さに、ごくりと生唾を呑む。信じられない強さである。あのブルーアイズをも真正面から倒せる可能性を持つこのカード。

 

 間違いない、これは伝説のレアカードという奴だろう。本田は恐怖から背後を振り返る。こんな貴重なレアカード、今この瞬間にも誰かに取られたりしかねない。本田は生唾を呑みこみながら、そっとつぶやいた。

 

「な、なるほどな…レアカードを持つ真の決闘者(デュエリスト)っていうのはこういう気持ちなんだな」

 

 決闘者(デュエリスト)にとってデッキとは自身の誇りであるらしい。そりゃぁこんなにも貴重で強いレアカードを持つのならば、誰かに見せびらかしたくなるだろう。こんな強いカードを扱い決闘に勝利すれば、一体どれだけ誇らしい気持ちになるだろうか。

 

 当然そんな強いカード達は狙われる可能性も高くなるというものだ。今この瞬間、アンティルールで勝負を挑まれたら本田は負けてしまい、このカードは奪われてしまう事だろう。(そもそもデッキを持っていないが…)

 

 そうならない為にも決闘者(デュエリスト)とは日々自身のデッキを強化しているのに違いない。

 

 ほんの少しだけ真の決闘者(デュエリスト)である遊戯達の心境に近づけた気がする。本田は迷わずこのカードをレジ籠に入れる。20枚しか買えないという貴重な購入権を行使するのも惜しくない程の希少なレアカードである。

 

 だが自分が持っていてもやはり猫に小判だろう。ここはDM(デュエルモンスターズ)の元師匠である自身が城之内の為に買ってあげる事にしよう。

 

 なるほど、こうして時たま外れカードの中に当たりカードという奴が混じっているのか。

 

 こうしてみるとカード漁りというのも中々楽しいものだ。一枚一枚捲っていくたびに、まるで宝探しでもしているかのような新鮮な驚きが味わえる。楽しさを見出した本田は、うきうきとした気分で宝探しを再開するのであった。

 




【絶対服従魔人】

効果モンスター

星10/炎属性/悪魔族/攻3500/守3000

 自分フィールド上にこのカードだけしかなく、手札が0枚でなければこのカードは攻撃できない。このカードが破壊した効果モンスターの効果は無効化される。
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