もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら   作:葉隠 紅葉

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第7話

 そこはアメリカのとある都市。都心から少し離れた場所に設置されたその巨大なドーム型のスタジアムには数万人という観客達が詰めかけていた。

 

 会場は熱気に包まれる中、観客の視線はステージ中央のデュエル・フィールドに注がれている。どうやらデュエルは白熱しているらしい。

 

 そこに立つのは公式戦ランキングを最近急上昇させているデュエリスト、昆虫族のエキスパートであるインセクター羽蛾であった。

 

 そして彼の対戦相手は同じく最近話題沸騰のプロデュエリスト、天才少女「レベッカ・ホプキンス」であった。観客たちは熱狂し、白熱していく彼らの戦いを熱く観戦している。

 

 注目度MAXのエキシビションマッチ。テレビ中継もされているこの試合も、いよいよ佳境。フィールドの中央には異様な存在感を放つ昆虫族の女王様【究極変異態・インセクト女王】が居た。

 

 女王アリを彷彿とさせるその外見。ソリッドビジョンで再現されたその巨体は、見るからに強力な【モンスター】であった。

 

 見る者すべてに威圧感を与える禍々しさである。独特の甲殻とテラテラと不気味に輝く有機的な光沢からはなんとも不気味な迫力が漂っていた。

 

「【究極変異態・インセクト女王】でダイレクトアタック!」

 

 羽蛾が自身のモンスターに攻撃を命じる。レベッカのフィールドにモンスターは存在しない。咆哮を放ちながら突進をしてくるインセクト女王の姿に、観客である少女が悲鳴をあげる。レベッカは即座に伏せカードをオープンし、反撃を試みた。

 

「リバースカードオープン!罠カード【くず鉄のかかし】を発動!」

 

 事前に伏せていた罠カードを発動させる。インセクト女王とレベッカの間に、くず鉄で作られた不格好なかかしが現れた。

 

 突如現れたかかしに特攻してしまうインセクト女王はたまらず跳ね飛ばされてしまった。ダイレクトアタックが通らなかった羽蛾は苦し気な顔を浮かべる。

 

「っ!攻撃を無効化…いやそれだけじゃない!?」

 

「その通りよ。このカードは効果発動後、墓地には行かず再セットが可能になる!」

 

なんだって!?

 

 試合を観戦していた某プロデュエリストが悲鳴のような叫び声をあげる。彼女の言う通り一度発動したそのくず鉄のかかしは、墓地へは行かずにそのまま彼女のフィールドへと再セットされるのであった。

 

 彼女が言っていることが事実ならばあのカードは一度だけとはいえ、毎ターン相手からの攻撃を防ぐことが出来るという事ではないか!

 

 その強力な効果にプロデュエリストは慄き、観客たちは黄色い歓声をあげた。だがインセクター羽蛾は動じることない。彼は更なる一手を仕掛けるのであった。

 

「それがどうしたぁ!!女王様の特殊効果発動ッ!」

 

「特殊効果…!」

 

「自分フィールドのモンスターを生け贄にする事で、このターン二回攻撃が可能になる!」

 

「っ!!」

 

「女王様!再攻撃だぁッ!」

 

 インセクト女王は共振虫(レゾナンス・インセクト)へとかぶりつく。もしゃもしゃとその口を動かして悲鳴も上げずに静かにわななく共振虫をその胃袋に食い収めると、羽蛾の指示で再度二度目の攻撃を繰り出すのであった。

 

 稲妻のように走り出し、レベッカに対して突進を繰り出すインセクト女王。

 

「ぁぁっ!?」

 

 彼女の巨体による攻撃がソリッドビジョンによって再現される。衝撃音とともにレベッカのライフポイントが大きく削られるのであった。苦悶の表情を浮かべるレベッカに対して、羽蛾はにんまりとほほ笑んだ。

 

「さらに生け贄となった共振虫(レゾナンス・インセクト)の効果発動! このカードがフィールドから墓地に送られた際にデッキからレベル5以上の昆虫族モンスターを一体手札に加える事が出来るのさ」

 

 ほくそ笑むインセクター羽蛾。なんというスキのないデュエルであろうか。本来はデメリット効果である筈の、自身のモンスターの破壊効果すらも活かし次への布石とするとは。

 

 大いに沸きあがる観客達の様子に、実況席からも大きな声が飛ぶ。

 

「な、なんとインセクター羽蛾選手!インセクト女王の効果を利用しながら、さらに手札補充まで行うとは!なんというデュエル・タクティクスでしょうか!」

 

(もっとだ)

 

「えー情報によるとこの【()()()()()()()()()()()()()】…なんとカードショップで先日購入されたとの事です!専門家による予想価格は5000万円以上はしたのではないかとの見解もあり……」

 

(もっとこの俺を称えろ!)

 

 その予想金額の高さに、しきりに頷く観客のプロデュエリスト。あれだけ強力な効果を持つレアカード。それ位の値段はしても全くおかしくはないだろう。懸命に中継ビデオを通じて食い入らんばかりに見ているであろうデュエリスト達の存在を肌で感じながら、羽蛾はもうおかしくってしょうがなかった。

 

 実際に払った金額はたったの100万円である。今思い返してもあまりの安さに笑いが止まらない。本当に良い買い物をしたものだ。

 

 きっとあの愚かな店主は今頃後悔しているに違いない。たった百万円ぽっちでこんなレアカードを手放したのだから。

 

 まぁこのカードは価値のわかる人間だけが扱えば良いのだ。昆虫のエキスパートたる自身が有効活用してやろうではないか。

 

 勢いづく羽蛾。彼は観客達をさらに盛り上げんばかりに、ポーズを取りながら追加で効果を発動した。

 

「俺のターンエンド。そして女王様のさらなる効果発動ッ!」

 

 ねばついた音が響く。 【インセクト女王(クイーン)】の腹部が膨らみ、産卵管がうねりをあげる。

 

 その産卵管からずるりと一個の卵が産み落とされた。卵の口からはうにょうにょと蠢く芋虫の先端が顔を覗かせる。昆虫属性のトークンがうごめきながら姿を現すのであった。

 

 インセクトクイーンの第三の能力。自分・相手のエンドフェイズに発動でき、自分フィールドに【インセクトモンスタートークン】1体を特殊召喚する事ができるのだ。

 

 毎ターン召喚可能なトークン。このモンスターを生贄に捧げる事で先ほど共振虫(レゾナンス・インセクト)で入手した更なる強力な昆虫カードを召喚する事まで可能なのである。

 

 どこまでも練られたその戦術。プロデュエリストすらも唸る程の、スキのない布陣がそこにはあった。

 

「このフィールドを、可愛いベビーチャンでいっぱいにしてやるぜぇ!」

 

「絶体絶命の状況です!レベッカ選手、一体どう巻き返すのでしょうか!?」

 

「ハッ!全米チャンプ様も大した事ないなぁ」

 

「……」

 

「おっと、()チャンプ様だったか。こいつは失敬失敬」

 

 うひょひょひょと高らかに笑い声をあげる羽蛾。もう自身の勝利を確信した表情である。なんとも生意気な表情を浮かべながら勝利後のインタビューの言葉を考え始める羽蛾。

 

 一方のレベッカの表情は静かであった。彼女はドローカードを行い、そっと笑みを浮かべる。既に手札は整っている。彼女は手札に収めていた2枚の魔法カードを手に持ち、高らかに宣言をした。

 

「私のターン……私はフィールド魔法を発動するわ」

 

「ハッ! 無駄無駄ッ!女王様はフィールドに昆虫族がいる限り効果の対象にはならず破壊もされない!つまりぃ今からお前が何をしようが全部無駄って事なんだよ!」

 

「更にこの魔法カードを発動…チェーンするなら今のうちよ?」

 

「たった2枚の魔法カードでどうやって突破するっていうのか、逆に見せて貰いたいもんだねぇ」

 

「ふふっ…ならお望み通り見せてあげるわ」

 

 高らかに、生意気に笑い声をあげる羽蛾。明らかに調子に乗っている様子だ。

 

 確かにインセクト女王は強力なカードである、それは事実だ。だがそんな物レベッカが持つこのカードならばいくらでもひっくり返すことは可能なのだ。

 

 どんな強力な盤面をひっくり返す、そんな驚異のポテンシャルを持つこのカード達ならば…。レベッカは自身を見下しながら高笑いを続ける彼に対して無言で立ち向かう。

 

「うひょひょひょ!」

 

ドゴォォォォン

 

 突如、凄まじい爆音が鳴り響いた。視界が白く染まり、爆発による熱風が観客席にも吹き荒れる。

 

「……ひょ?」

 

 驚いた羽蛾が振り返る。なんと…彼のフィールドはがら空きとなっていた。【究極変異態・インセクト女王】そして彼女が産み落としたトークン。そのすべてが、無残な姿で破壊されていた。

 

「はぁぁああああ!?!?」

 

「このカードの効果により、まずはフィールド上のすべてのモンスターを破壊するわ」

 

 冷静に告げるレベッカ。一方の羽蛾は慌てふためいて動揺してしまう。確かに魔法カードの発動を無効化できるカードこそ持っていなかったのは事実だが…まさかただの魔法カードでこんな効果があるだなんて…

 

まさか、ブラックホールか!?

 

 この土壇場でブラックホールを引き当てたのだろうか。震える手でデュエルディスクの機能を利用し、対戦内で用いられた例のカードの履歴を確認する。そこには…彼が見たこともないカード名が記されていた。

 

「な、なんだよこれ…」

 

「更にこのカードの追加効果を発動!貴方のフィールドにとあるモンスターを特殊召喚するわ」

 

 にやりと笑みを浮かべながら、羽蛾に対して告げるレベッカ。彼女の言葉と共にそのスタジアム、デュエルフィールドの雰囲気ががらりと変化した。

 

ズシン

 

ズシィィン

 

 どこからか鳴り響く地響きの音。地鳴りと共に、その巨大なスタジアムを揺らし始める。まるで地震でも起きたかのような凄まじい衝撃であった。

 

 一体何が起きているのだろうか、思わずひざをつきそうになる羽蛾の背後で、そのモンスターは姿を徐々に現していく。

 

お、おい!

 

何なのよあれ…

 

 観客の誰かが悲鳴を上げる。いつのまにか、彼らがいた風景すらもが切り替わっていた。

 

 そこはとある近代都市であった。見上げる程高い巨大ビル群、マンション地帯。大きな海に面したそこはまさに臨海都市であった。

 

 そして何よりも目を引くのは…中央にそびえたつタワーである。天を突かんばかりに巨大なそのタワーを中心に、この近代都市は存在するのだ。そしてそれらが…とあるモンスターの出現によって脅かされる。

 

それは動く災厄であった。

 

「な、な……!?」

 

 どんどんと大きくなっていく地響き。腰を抜かし立っていられなくなった羽蛾は、やがてその存在を目撃した。

 

 その都市の谷間―ビルとビルの狭間から、途轍もない程の巨大なソレが顔を出した。

 

それは全身が漆黒の体色をしていた

 

それは全身から迸る闇のオーラをまとっていた

 

そしてそれは…あまりにも巨大であった

 

 人など飲み込んでしまいそうに馬鹿でかいサイズをしたソレは人間の根源的な恐怖をこれでもかと刺激する。駄目だ、あれに近づいてはならない。馬鹿みたいに早くなる心臓を片手で抑える。

 

 尻もちをついた羽蛾を見下ろすように、その()()は巨大な口で咆哮をあげた。子供が泣いて悲鳴をあげるような悍ましい咆哮。それは一体の()()がこの世界に初めて舞い降りた瞬間でもあった。

 

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